網在礼司、よくわかんないままグリモアに入学しました。
カオルコ=サンに案内されながら、俺はどうしてこうなっているのかを思い返すことにした。
***
始まりはそう、ほんの数日前くらいだった。
俺はいつも通り、友達と約束して、電車に乗って神奈川県から東京都へ向かっていたんだ。
なんでかって? そりゃあ夏コミに行くためだよ。
朝早くから並んでいる都民の友人に感謝をしながら、合流の為に電車を使う。
途中神奈川県で地下鉄を降りて、JRに乗り換えなくちゃいけないところがある。
使いなれている駅だから問題なんてない――そう信じていたのは、今や昔の話となった。
改札口を出て、JRに乗り換えるために地上へと出て、駅の入口へと向かおうとしていた時だ、俺はとあることに気付いてしまった。
――ここ、俺の
あれ、俺の知っている、それもつい数日前に降りたこともある駅で、
ここってなんだろ、なんか倒壊しまくってる建物とかばっかりなんだけど。
……あれ? 街でそういう撮影ってしてるわけないっしょ?
じゃあなんだこれ、どうなったらこんな風景が出来上がるんだ。
って困惑しながら駅を探した。
もしかしたら夢かもしれないって期待もあって、何が何だかわかんなくて街を歩いてた。
人が一人もいない廃墟染みた状態だったのは気になったけどなぁ……
うろうろ歩いていたらすぐに元の場所に戻ったのだから実際はあんまり長い距離を歩いていないのかもしれない。
時折聞こえる咆哮のような絶叫のような気持ち悪いナニカが気になるけど、これはひょっとしたら、俺は新時代のVR体感ゲームをやっているんじゃないか?
っていう考えに行きついた。
そもそもどんなゲームかまでは思いつかなかったのだけどさ。
――行ってみるか。
そう思い、叫び声の方向へと歩き出した俺。
今なら言える……大人しく駅の方へ引き返していれば、こんなことにならなかったんだろうにって。
そこにいたのは
もう例えるならバイオハザードだとかスーパーロボット大戦に出てくるような異形種とか、そんな現実世界には到底存在するはずがない見た目の変なナニカが街を悠々と闊歩している様子だった。
なんというか、これが特撮作品だったならかっこよく主人公が『変身!』だとかそんなコマンドを叫んで戦いに挑むシーンだと思う。
――
なんて思いながら化物の動きを観察する。
VRゲームなのだし、規則性は間違いなく存在するはずだ。
どうすればゲームクリアかまでは解らないけれど、俺に戦う力があるかないかできっと変わってくる。
具体的には戦闘をするかしないかという部分。
ホラーゲームの類ならば戦闘は必要ない。アイテムを探して脱出エリアを探すって感じだろう。
そうじゃないゲーム……例えばSAOのようなタイプだった場合、確実というレベルで戦闘は避けられない。
どちらにせよ重要なのは現在の場所がチュートリアルである可能性が高いということ。
その中でも最優先で安全地帯を捜索すること、これが今俺のやるべきことなのだろうと踏んでいた。
***
「――さん、
「む……」
「聴いていましたか? こちらから見て貴方は少し放心していらしたようですが」
いかんいかん。
回想に集中しすぎたのかカオルコ=サンの案内を全っ然途中から聞いていなかった。
目の前に在るのは図書室……そうだそうだ、なんだっけ、ここの図書室は動たらって話だったっけ。
……素直に謝っておこう。
「すまない、少し考えごとに気をやっていたようだ」
「そう……ですか。今のうちに気付けて良かったです、ここからが一番大事な内容ですので」
確かに、案内が全部終わってその上で『聴いてましたか?』なんて言われたら間違いなく死ねる自信ある。
カオルコ=サンの美人っぷりとそこからあふれ出る女王様待ったなしのオーラに圧倒されてばかりだぜオレェ……
「風紀委員について、少々忠告をさせていただきたく」
「……?」
突如真剣な顔つきになってカオルコ=サンが語りだした。
でも風紀委員って生徒会の指示で動く奴じゃないの?
まさかどこぞの並盛マフィアみたいに独自行動が許される団体なの?
「えっと、もともとこのグリモアでの生徒自治とは少々特殊なものになっています」
「……つまり生徒会に組しない組織がいくつかあるのか」
アイエエ、この学校怖いよぉ、並盛マフィアが学校を征服してるとかじゃないんだよね、別にアブノーマル揃いな何とかボックスとかじゃないんだよね!?
「察しが良い様で助かりますわ。ええ、風紀委員のほか網在さんにはもう一つ気を付けていただきたい組織があります」
「ほう」
「
……
***
あの後、二組織についての注意をしてカオルコ=サンは生徒会室へと仕事をしに行った。
後で迎えの人を寄越してくれるらしい。
――グリモアの図書館には多くの書籍が眠っています、きっとあなたのお眼鏡にかなうものもあるかと
とかいってあの人すごく意味深な顔で去っていったが、スイマセンカオルコ=サン。俺あの時ぼーっとしてただけだとおもうんです。
別に図書室にそんな興味なんて――スイマセン、あります。
いや、俺本好きなんですよ。結構本読むの好きだし、ここがどんなところかってまず知らなきゃならんし、歴史書とかおいてねぇかな?
とか考えて期待を込め、いざゆかんと図書室の扉に手をかけた時……
「ああぁぁ! こんなところにいたぁ!」
「おまえは」
ツインテールをぴょこぴょこはねさせ、こちらに走ってくる小柄な少女……
そう、俺がこのよくわからん場所に来た時に、初めて出会った二人の人間のうちの片方。
パパラッチジャリガールであるコイツの名前は――
「
「覚えてたのね! なら話は早いわ、早速取材させてもらうわよ!」
「断る」
「なんでよ! アンタの情報の一つや二つくらいいいじゃない!」
コイツは初めて会ったあの瞬間からこんな感じだった。
……そう、俺が既に絡まれたことのある報道部所属というのは
二言目には取材か真実。
だがしかし、待ってくれお前俺についての真実聞く気ねぇじゃん。
そんなわけで俺はコイツのことが苦手だ。
「俺は、調査に忙しい」
「調査……? 図書室で調べることって……」
色々あるだろがYO!
具体的にはここがどこなのかとか、キリノマモノって何なのかとか、魔法使いって何とか、俺の家はどうやったら帰れるとかSA!
「俺にしか必要のないことだ」
「じゃあその調査を手伝えばあんたの取材もできるってことね!」
頭のネジ吹っ飛んでない? 大丈夫?
いや、落ち着け俺。きっとこれはそのままの意味なんだ。
俺の事情を知れば俺の取材にもつながるというよくわからない理屈なんだ……
つまりどういうことだってばよ。
「なぜ俺の取材を望む」
「そんなの私がジャーナリストの卵だからよ!」
「ジャーナリスト?」
「ええ!」
おねがい、会話しよう?
伝説って? ああ! ソレってハネクリボー? に近いやり取りをするとは思わなんだ。
説明しろハラルド! まるで意味がわからんぞ!
そんな感じでギャースカ岸田と騒いでいると、岸田の後ろ側から誰かが来ているのがわかった。
「夏海、そこらへんにしておきなよ?」
「ぶっ部長!? どうしてここに!」
岸田の後ろから現れたのは岸田より頭数個分かは背の高い人。
その中性的で低めな声に
なぜなら本来東京で遊ぶ約束していたのもその声の持ち主だったからだ。
「なに、僕も少し彼に興味があって話をしたかっただけさ」
「部長も目的同じじゃないですか!」
「……ぇ」
「でも夏海、そこまで強引な取材交渉はジャーナリストとしてはよろしくない。だから止めさせてもらったんだ」
そいつは……彼、いや、制服のスカートから見て『
その顔も見慣れたもので、だけれども、
もしかしたら……もしかしたらだ、一番あり得ないと思っていた話だけれども……
「うちの部員がすまないね、僕は
「そんな……
「……んん?」
「アンタ……部長の知り合いだったの?」
俺の幼馴染な友達、遊佐鳴斗が
グリモワールパーソナル
・岸田夏海
パパラッチジャリガール。いつもカメラを抱えてスクープを狙っているグリモワール学園報道部ゴシップ班副班長。
取材方法は割と強引で、各方面から止められることも多いほど。
礼司的には彼女とあまり話したいとは思えないほどなのだから、強引に強引な現代マスコミに近い取材様式をしているのだと考えられる。
・遊佐鳴子
報道部部長。生徒会や風紀委員会などに報道部がマークされているのは彼女の所為。
飄々とした立ち振る舞いで嘘と真実を織り交ぜて相手をかく乱するといった巧みな話術を備えている。
・遊佐鳴斗
ナルトであって、メイトではない。
礼司の親友と言う人物で、上記遊佐鳴子のそっくりさん。