魔法使いってなんですか?   作:次郎鉄拳

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前回のあらすじ
大規模侵攻発生のようです


魔法使いってヒーローですか?

「――虎千代が宣言する! この防衛線では誰も死なせない! そして、風飛の街は一歩たりとも魔物に侵させない!」

 

 

大規模侵攻。

いまいち覚えていないので隣にいた転木君に話を聞いてみる。

彼は会長の話を聞きながらではあるが簡単に答えてくれた。

 

――いわく、魔物が大量発生するヤバい現象のこと。

いわく、学園生が唯一学生の身で前線に身を置く機会。

いわく、人類が乗り越えるべき試練。

 

 

「――すぐに駆けつける!」

「――と、まぁこんな感じだよ。分かった?」

 

 

分かった。ありがとう転木君。

でもごめん、肝心の会長の話……ほっとんど聞いてなかった。

おかげで大規模侵攻が来た、ヤバい、学園生も出動しなくちゃいけません――という事情しか分からなかった。

 

いや、でもいいのか。

どうせ俺前線に出ないし、関係ないもんな……

メイコが手回ししてるらしいし……まぁ、俺は引きこもってればいいのだろうなぁ。

 

 

「――網在礼司!」

「礼司君、呼ばれてるよ」

 

 

……はて、なんで俺は呼ばれたんだろうか……?

よくわからないけど、呼び出されたなら行かなきゃダメか……

うぇぇ、でも生徒たちが注目してる中で前に出るのは無理だよぉ……

 

 

「……なんだ」

「お前は生徒会とともに本部のほうで待機してもらう。これは決定だ」

「……はぁ」

 

 

全校生徒の目が痛い。

視線が刺さるよ助けてメイコちゃん!

俺が何をしたっていうんだよ、戦場に出なくていいなら本部にもいなくていいじゃないか!!

 

 

 

***

 

 

 

そんなこんなでよくわからないまま大規模侵攻中の本部に叩き込まれて早数日。

 

俺をカオルコ=サンと会長の待機する本部にいさせるというのは、魔法を現在使用できない状況にある俺を気遣ってのものらしい。

その魔法を使用できない状況というのがそもそもよくわかんないのだけれど、メイコからのメッセージで

 

『今君は生田目つかさとの戦闘によって心的外傷を患い、その影響で魔法を行使できないという話で通っている』

 

と送られてきたことを確認。

……やけに会長とかカオルコ=サンとかウノスケ=サンが気にしてくるなと思ったらそういうことだったのか……

 

うん、まぁさ、生田目さんにフルボッコされたことはちょっとつらいよ。

でもさ、俺は確かに、魔法使いとして全然何もしてこなかったからそりゃあ負けるさ。

情けないけど、トラウマになるほどじゃないって……

うーん、なんで、気持ちはうれしいんだけど、なんか……メイコが過保護すぎるんだよなぁ……

 

メイコが絶対何もさせないようにしてるんだよ。

大規模侵攻が始まってから、結局本部で待機してるだけでしかないから『何か手伝おうか?』とか言っても『気にするな、まずは空気に慣れろ』とかよくわからん気遣いされるし。

いる意味あるのかなぁ……こんな扱いを受けるならほんと引きこもってていいと思うんだよ……

こんなんだったら前に出ろと言われたかった――でも俺の魔法って結構厄介なんだっけ、まだどんなのが使えるって伝わってないのが救いなんだろうけど……

 

 

「不味いことになったぞ……!」

「……どうした」

「ん……網在か――それがだな……国連の軍が、防衛線を崩されたようだ」

 

 

……生徒会の会計の結城聖奈がどたどたと焦って動いているのが気になって声をかけたらとんでもないことが起こってた。

 

この世界の軍隊は魔法使い混合の対魔物プロフェッショナル。

俺の世界――憲法九条で軍隊禁止とかやってた平和な世界とは全く異なり、化け物である霧の魔物に対抗するためには武力をとことん行使しなければならない。

霧の魔物には基本知性がないといわれている、そんな奴らに憲法九条とか言ったって確かに通用しないんだろうな……それだったらやられる前にやるしかない、消耗戦だ。

いや、そもそもこの世界には憲法九条というものすら存在してなかったけれど。世界大戦が全部この世界では起こってないんだけど。

……霧の魔物が三百年前から存在していたから、人間の戦争ピーク時代が丸々魔物との戦いに差し替えられていたようだ。

 

――そんなプロフェッショナルたちが戦線を崩された。

俺はゲームくらいでしかそんな軍記物に触れたことはないけれど、崩された戦線を立て直すには下がるしかない。

だけれども後ろには――

 

 

「――その様子だと、うまくいってないようだな」

「ああ、網在の言う通り、今国連軍は崩れた前線でそのまま立て直そうとしている」

「俺たちがいるからか……」

 

 

現在国連軍はほぼ最終防衛線手前あたりで奮闘していると聞いている。

そこから先下がれば、グリモアの生徒と合流することとなる。

連携の取れない二勢力が混在してしまったらとんでもない混沌とした戦況となるに違いない。

戦況の話をしている俺たちに、会長から声がかかる、

 

 

「おそらく国連軍のプライドの問題という奴だろう。まだまだ幼いアタシたちに情けない姿を見せられないという、な」

「……プライド、か」

「しかし、軍もそうだが生徒たちの疲労もかなりのものだ、転校生がいるから魔力については心配ないが……」

「体力は別ですから、だんだんと動きの鈍る生徒たちも増えてます」

「何より、多くの生徒が初めての実戦だ。精神的な疲労がここにきて噴出している者もいる」

 

 

――そうか、いくらクエストでそれなりの魔物と戦っているとはいっても、ぶっ通しで毎日、毎日戦い続けるのは初めてなんだ。

しかも学生たちの大半は今日のような魔物の大規模侵攻を経験していないらしい。

怖くなるんだろう、クエストとちがって、いつ終わるかわからない戦いを続けさせられて、焦燥してるんだろう。

 

 

「未だに元気を保っている威勢のいい生徒もいるのが救いですね……」

「新しい転校生の円野はどうだ? 兎ノ助に聞いたところかなりヒーローに固執していたらしいが……」

「円野ですか、転校生と精鋭部隊などとの様子を見るかぎり、やはり現実と理想の違いに困惑しているようです」

 

 

ヒーローか……この世界では職業として実際にヒーローが存在する。

戦う交通安全のアレとか、カードで不死の怪物封印するウェイ王子とかと同じように、魔法使いの能力を持って軍に所属しない魔法使いの戦士。

もっとも有名なのがコズミックシューターと呼ばれるヒーロー。

世界で最強の魔法使いともいわれるそれは、魔法使いであることを強いられる者たちにとっての夢。

 

円野という生徒も、きっとそれにあこがれてるのだろう。

だからこそ、思うように戦えず、戦いについてを知らないという現実が彼か彼女を苦しめているのかもしれない。

 

 

「網在、難しそうな顔をしてどうした?」

「……ヒーロー、か」

 

 

俺がなりきってきたのも子供たちの夢、ヒーローだった。

でも俺はそんな彼らになりきってるだけで、何をなそうとしたのだろう。

惰性でやらなきゃいけないって考えたから、メイコの言葉に何も言い返せなかったんじゃないだろうか。

 

 

「おーすお前ら、戻ってきたぜ!」

「おお兎ノ助、よく戻ってきてくれた」

「早速で悪いがお前ら、西の方で結構生徒が負傷してるらしい。援護が間に合わないから行ってくれるか?」

「任せろ!」

 

 

今まで俺って力手に入れてはしゃいでただけのガキじゃないか、そんなんじゃあ負けて当然だよ。

力は力でしかないのに、使いどころ分かってないままそんなの振るってて勝てるわけがない。

じゃあ俺はどうしたらいいのか……この力をどうやって使えばいいんだ……そもそも何のために使うんだ?

 

 

「おい礼司、魔法が使えなくてイライラする気持ちはわかるが、あまりイライラしすぎると疲れちまわないか?」

「……別にそんなことはない」

 

 

ウノスケ=サン、折角気遣ってくれて申し訳ないんだが、そもそもトラウマで魔法使えないって話自体がデマなんだ、本当にすまない。

 

 

「あんまり強がるなよ。お前もまだこの学園の生徒でしかないんだから」

「強がってもいない」

「まぁ、つかさと戦った時、お前は初めて魔法の怖さを知ったんだろうな」

 

 

……それは否定しない。

怖かった。何も動けずボコボコにされた瞬間はわかんなかったのに、終わって、メイコに怒られた後すっごい、すごく怖くなった。

こんなに痛いものが魔法だったんだって、考えざるを得なかったのもある。

 

 

「その痛みは勲章だ。お前は何も知らないまま、ただ魔法使いになるためにここに来た。その中で知れた貴重な痛みなんだ」

「勲章……貴重……?」

「ああ、大事な痛みだ。魔法使いの中には覚醒した時に誰かを傷つけちまうやつもいるけど、大半はそういう痛みを知らないやつばっかりさ」

 

 

ふわふわと浮かびながら、俺の頭を短い布の手で優しく叩くウノスケ=サン。

――力に伴う痛み……殴ることって痛いっていうのは当然なのに、気づけなかったのはなんでだろう……

 

 

「でもな礼司、お前ら魔法使いはその痛みをふるい続けなきゃならないんだ」

「……なんでだ」

「そりゃあ、護るためさ」

「護る……?」

「ああ、お前たち魔法使いは、この世界で皆を、自分たちの世界を、自分たちの生活を、護るために戦わなきゃいけないからさ。戦えない人々の代わりに戦う、義務だとしてもそれはヒーローみたいでかっこいいだろう?」

 

 

――戦えない人々の代わりに、戦ってやる――

 

俺が好きで見ていたヒーローの誓い。

俺が力を借りているヒーローたちの中にある思い……その一つ。

 

 

「だから礼司、恐れるな」

 

「お前はここから魔法使いとして――ヒーローとして立ち上がる」

 

「俺は――そんなお前を応援してるぞ!」

 

 

ウノスケ=サンの言葉に、ふと涙が流れるのがわかる。

そうだ、昨今はヒーローだって数が増えすぎて飽和状態なんだ。

魔法使いがみんなヒーローなんだから、俺はそんなヒーローを助けられるようなヒーローになればいい。

ヒーローは、助け合いでしょ!

 

 

「おっ、そんな笑顔もできるじゃねぇか礼司!」

「――まずは、明日のパンツでも取ってくるか」

「……えっ?」

 

 

悪いなメイコ、俺はやっぱりじっとしてられない。

力があって、痛みを知ってて、応援されたんだから――

 

――ヒーローなら、立ち上がらなきゃいけないだろ?

 


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