魔法使いってなんですか?   作:次郎鉄拳

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前回までの御話
礼司君はボコボコにされたようです


俺ってなんでいるんですか?

「まったくさぁ――なんで君はこうもバカなんだ!」

「……ゴメン」

「服部梓に騙されて生天目つかさと戦ったことまではまだ許す、君が悪いわけではないのは解るからね」

「……うん」

「だが、よりにもよって前のクエストで服部梓に見せたあの忍者モドキじゃなくて、別のモノを見せてしまったことだけは許しがたい!」

 

 

網在礼司、17歳。情けないことに、俺は今保健室で親友のそっくりさんからめっちゃ怒られています。

理由はついさっきまで行われていた生天目つかさというバトルジャンキーとの戦いのこと。

あっけなく負けて、気絶させられて、目覚めた時にはすでにメイコがここにいて。

ボコボコにされて、刃が立たなかったことに怒られてるわけではないけれども――

 

 

「だけど、俺の魔法はその時一番イメージできるものを再現するものだから……」

「その魔法について知られたらまずいんだ! いいかい、ただでさえ君の存在はグリモアの外にばれてしまってはいけないものなんだ、今はまだ僕の情報操作でどうにかできているけれど、これ以上君が自分の魔法についてのヒントを与えてしまってはいけないんだよ!」

 

 

俺が魔法を使うことそのものに対して大変お冠なんです。

言われてることはよくわからないけれども、なんだか俺の存在は俺が認識できている以上にイレギュラーでヤバイらしい。

転木君もなかなかに存在がまずいらしいが、それとはまったく別ベクトルに俺もヤバイらしく、メイコは事あるごとにこうして諌めてきていたのだが、今日はいつも以上に怒りの度合いが激しい。

一体何があったというのだろうか……

 

 

「何があっただって? 君が無責任に考えなしにポンポン魔法を使ってることに僕は頭が痛いんだよ!」

「……だが、魔法使いは……」

「君は魔法使いじゃない!」

 

 

メイコの言葉に俺は黙るしかなかった。

――俺は魔法使いではない、確かにそうだ。

この世界に生まれ、その直後から生存競争を強いられた学園の皆と違い、今まで魔法なんて創作以外で触れたこともなく、この世界の魔法なんてまの字すら聞いたこともない。

……じゃあ、俺はなんでここにいるんだ?

 

 

「君がここにいるのは偶然だ、僕は必ず君を元の世界に返す」

「返すっていったって……」

「返すよ、君はこの世界の人間じゃない、戦う必要だって本来はないんだ」

 

 

――戦う必要はない、か。

確かにそうだ。俺が戦う意味ってないだろう、なんで俺は戦おうとしたんだ?

 

 

「礼司君、僕は君に傷ついてほしくない。この世界は君の思う以上に――いや、もしかしたら全く知らないんだろうけれども、とても、残酷なんだ」

「それは――」

「知らないだろう? 君が視ているのは少し窮屈ながらも幸せそうな学園生活を送る生徒たちなんだから、知らないのも当然だ」

「……」

「でも僕はそれを責めるつもりはない、当然じゃないか、君は何も知らないまま、何も見る暇を与えられないままここに来たんだから」

 

 

その通りだ、俺は何も知らない。

じゃあ、俺はこの世界で何をすればいいんだ?

 

 

「待てばいい、君が元の世界に帰れる方法を僕は必ず見つけ出す」

「メイコ……」

「だから君はもう二度とクエストを受けないでくれ。対抗戦にも出なくていい、僕が上手く根回しするから」

「そうすれば、帰れるのか……?」

「約束する。僕は君に誓うよ」

 

 

――でも……俺はこのまま待つだけでいいのかな?

 

 

 

***

 

 

 

失意呆然となる礼司をそのままに、鳴子は保健室を出る。

思いつめた表情のまま懐からお気に入りのブドウ糖を一つ口の中に入れると同時、何者かの声が彼女の耳に届く。

 

 

「珍しく怒りが天元突破ッスね遊佐鳴子」

「君がそれを言うのかい――服部梓、依頼人に忠実なのは構わないが、彼には君も恩義があるだろうに、恩を仇で返すと言うのはこの事か?」

「……なんのことを言ってるのか、自分にはサッパリッスね。遊佐サン、夢でも見てるんじゃないッスか?」

「梓ッ!!」

 

 

鳴子は怒りをあらわにして、姿を見せた梓に詰め寄る。

対する梓は無表情、普段の彼女を知るものが視れば困惑するであろう程に、今の彼女は冷たく見える。

 

 

「遊佐サン、彼の何に入れ込んでるかはわからないッスけど、冷静になったほうがイイッスよ?」

「冷静だと? 僕は――」

「らしくないッス、いつもの遊佐サンならのらりくらりとしているだろうに、何故彼にだけはこうも感情が簡単に露出されるんスか」

「――ッ!」

 

 

梓の指摘に思うところでもあるのか、鳴子は押し黙る。

確かに、今の自分の姿は他人には見せられない。

少しばかり頭に熱が上り過ぎていたと、一度深呼吸をし、冷静になろうとする。

 

 

「……遊佐サン、忠告ッス」

「何を忠告するつもりかい?」

「……最近、あのセンパイに接触してから、自分に存在しないはずの記憶が混ざりこみ始めている」

「……!?」

「遊佐サン、恐らくアンタは今――混同してるッスよ」

 

 

そう言い残し、梓は姿を消す。

誰もいなくなった廊下で、鳴子はただ一人拳を強く壁にたたきつける。

 

 

「――わかってるさ……わかってるけど――だからと言って彼を危険にさらせるものか――!」

 

 

静かに崩れ落ちる彼女の頬には、涙が一筋流れていた。

 

 

 

***

 

 

 

メイコに諭されてから数週間。

グリモアで俺はおとなしくしていた。

メイコを信じるなら、きっと俺は何事もない学園生活を過ごして、時期を待っていたほうがいいんだろう。

無理に部外者の俺が戦わなくてもいい……それでいい、それがベストな選択なはずなのに――なんで、なんで……

 

 

「……何とも言えない気分なんだろうな」

「やぁ、久し振りだね礼司君」

「……転木君か」

 

 

魔力を譲渡できる体質がとんでもない故か、クエスト同行依頼が後を絶えない転木君に声をかけられた。

思えば確かに久しぶりだ、同行依頼が絶えない故にか、あまり学校にいる姿を見ない。

絢香ちゃんと別ベクトルに忙しい彼ならまぁ仕方がないんだけれども。

 

 

「最近どう?」

「……特になにもない」

「……ほんとに?」

 

 

……変に観察眼がある。

人をよく見ているのが、きっとクエストに引っ張りだこな理由の一つなのだろう。

転木君のクエスト同行依頼が多いのはリピーターが多いことからもつながっている。

体質以外ロクな人物じゃなければリピーターも来ない、つまり忙しいのは最初だけということだが、そうでないことから見てやはり転木君は人間性も優秀なのだろう。

 

 

「……ほんとだ、いつもと変わらない生活だよ」

「……そっか」

 

 

転木君はそれきり、笑みを浮かべて言葉を閉じた。

――そういえば、彼はつい最近虎千代会長とクエストに行ってたんだったか?

 

 

「……会長とのクエストはどうだった」

「ん、大変だったけど……まぁ、なんとかね」

「そうか……」

 

 

しかし、なんだか今日は学園があわただしいな。

右往左往してるというか、浮足立っているっていうか、なんというか……

 

 

「何かイベントでもあるのか?」

「えっと……まさか、噂とか知らないの?」

「噂……何のことだ?」

 

 

俺の言葉に『うそでしょ?』と言う顔を向ける転木君。

いや、最近はなんかあんまり周りの話聞いてないっていうか、上の空っていうか……

メイコに大人しくしてろって言われたからあんまりかかわってないんだよね……

 

 

「今日全校生徒が集まるように通達されているのは?」

「……わからない、何かあるのか?」

「……すぐにわかるよ」

「……んぁ、会長だ」

 

 

グリモアで最も目立つ噴水、そこに姿を見せたのは少し前まで隣にいる転木君と共にクエストに行っていた生徒会長の武田虎千代。

彼女の表情はいつもの快活なものと異なり、とても神妙なものだった。

 

 

「みな、既に今朝のニュースで知っている者もいるだろうが――」

 

「大規模侵攻が発生した、国連軍はこれを、第七次侵攻と命名した」

 

 

会長の言葉にどよめきたつ生徒たち。

そんな中、ふとデバイスが震えたので、こっそり見てみる。

差出人はメイコ、文面は――

『戦場に出るな、クエストの比ではない』

 

……大規模侵攻って、どんなんだったっけ?

 


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