俺の目の前に、何やら怪しい兎っぽいナマモノのような何かがふわふわと浮いている。
兎っぽいのだがどこか人間臭い雰囲気というか、そんなものを纏ったよくわからん奴は俺に対してこんなことを偉そうに説明してくれやがりました。
「学園に入学する生徒全員にこんなことを話している、俺たちの未来を脅かす【
――スイマセン、まず【
「これまで人類は、奴らに生存圏を脅かされ、余儀なく後退され続けてきた。これは仕方がないさ、どこからいつ現れるのかも、どうやってやれば駆逐できるかさえも分からないんだからな」
――それ、どこの進撃な巨人なんですか、ウォール・グリモワールですか?
「霧の魔物に立ち向かったのは【
――やっぱりって何がどうしたらやっぱり何ですか。あれですか、どの世界でも魔法使いはメインファイターなんですか。
「君は【
――だから何度も言ってるけどわかんないって言ってるでしょうがぁ!?
なんなの? なんで誰も話を聴かないの! 対話って大事だよ!?
てか魔法使いってマジで何なの! 俺はまだ17で三十歳になってないから魔法使いの資格はないはずなんだよ!
「これから君は魔法の腕を磨く。そして、霧の魔物たちに立ち向かうことになる。そう、人々を護るために」
――えっ、ほんとに拒否権ないの? いくらなんでも法治国家でそれはおかしいよね!
「霧の魔物との戦いは常に命の危険にさらされている――例えばではあるが、君はもしかしたら一年後、生きていないのかもしれない」
――えっ、そんな危険な場所に一般人の派遣とか徴兵行為とかさ、色々と憲法九条とかその他もろもろに違反してるんじゃね?
「しょうがないよな、学園は全力で守っていくつもりだが、霧の魔物のほうは俺たち人間の都合なんて無視するものなんだ、いつ誰が死んでもおかしくない」
――しょうがないわけあるかバーカ。こんな世界にいられるか! 俺は帰るぞ!
というかコイツは人間だったのか……ん? にん……げん……?
「だけど魔法使いは戦わなきゃならない。宿命とか、運命とか、そういうもんなんだ。なにせ、霧の魔物に対しての一番有効な武器は、結局魔法なんだからな」
――魔法使いって24時間年中無休の残業生活を強いられているんですか? 労災保険だとかおりないんですかね?
「だから、俺はこうアドバイスしたい。学園生活を楽しみ、そこで信頼のおける仲間を作れ。なぜならそれが、結果的に君の生存率を大きく高めることに繋がるのだから」
――あれ、俺の学校で楽しめってアドバイスなんて送られたことないぞ……思った以上にこいつ良い人……ってそもそも生存率云々とかやっぱ信用できねぇ!?
「ああ、後……これは男子にしか話していないのだがな……男の魔法使いには一つだけ得があるんだ。」
――ほう、言ってみるがいい。聞くだけ聞いて罵ってやるこのダメうさg……
「男女の比率が……2:8、圧倒的に女性の魔法使いが多いってことだ」
――マジすかっ、兎さんアンタ良いこと教えてくれるじゃねぇか!
グリモア~私立グリモワール魔法学院~≪魔法使いってどういうことですか≫
ウインクを決めた兎は一度咳ばらいをする。
俺はと言うと、内心ラノベのような状況に巻き込まれているということにワクワクが止まらない。
具体的に言うと止まらなさ過ぎて足が勝手にリズムを刻んでしまうほどさ!
「あっ……うん、とりあえず改めて、私立グリモワール魔法学園へようこそ! 俺は進路指導官の【
「ドーモ、ウノスケ=サン。【
挨拶は大事って古事記にも書いてあるからというニンジャ的サムシングな挨拶が見事に決まる。
思わず笑みを浮かべてしまうと、ウノスケ=サンは急に震えだす。
「兎ノ助さん、変なことは教えていませんか?」
「そっそんなこと教えていないぞ! なぁ礼司!」
なんだなんだと思っていると、ウノスケ=サンの後ろからポニーテールのザ・御姉様な人が現れた。
――やべぇ、どうしよう。
めっちゃ美人だから緊張するんだけど。
「ああ……そうだな、いつも通りのことを聞いた」
「いつも通り……なるほど、兎ノ助さん、後でお話聞かせていただきますね」
「待ってくれ薫子! 本当に変なことじゃないんだってどれだけ俺の信用無いのさ! なぁ礼司も俺の名誉回復に協力してくれ!」
ヤバイ、俺の口が上手く動いてくれないからかウノスケ=サンがヤバイ!
カオルコ=サンの女王様っぽいドSオーラがひしひしとこっちにも重圧をかけてきている!?
助けなきゃ、どうしよう、なんていえばいいんだ――そうだ!
「……彼は、大切さを話した」
「大切さ……ですか?」
「ああ……学園生活の素晴らしさだ」
決まったッ! 第三部完ッ!!
と思わずガッツポーズを決めたくなるようなアシストプレー。
我ながら自分のハイセンスに惚れ惚れするぜ……あ、でも女性との会話センスはゼロだから辛い。
仕方ないじゃない、中学高校今まで姉と母以外の女子と会話したことなんてないんだからっ!
「……そうなんですか、たまには良いことを話すのですね」
「信頼無さすぎでしょ俺!?」
ええ、本当に信頼無さすぎでしょウノスケ=サン。
普段アナタどんなことをやってるのですかね……?
そういえばこのカオルコ=サンがどんなお人かいまだ紹介されていないのですが、誰か解説してくれませんかね?
「――おお、そういえば紹介してなかったな! 彼女は【
「よろしくお願いしますね、網在さん」
「ああ」
もっと他に言うことあるでしょう俺ぇぇぇ!
口の中カラカラだけど! 唇がもうカッサカサしてるけどさ、何なの? やっぱり知らないとこでも女性慣れ出来ないの!?
夢も希望も減ったくれも何もあったもんじゃないよ!
「ここからは彼女が学園の案内をしてくれる。きっと薫子なら学園での必要なこととかアドバイスもくれるはずだ」
そうだね、生徒会副会長がわざわざ案内してくれるってそういうことだよね。
――俺ってもしかして超VIP? ……うぬぼれすぎですねわかります。
「それでは兎ノ助さん、ありがとうございました」
「じゃあ、行ってきな!」
「……面白い」
「「ッ!?」」
……おや、なぜここまでみなさんは強張った顔をしているのだろうか。
ああ、そうか……俺の顔がそこまで気持ち悪いってことなのね?
泣きそう。言わないでくれる優しさがあるなら表情を隠す優しさっていうのも大事だと思う。
「しっ、失礼しました……それでは、行きましょう」
「いや、やはりいい」
「はっ?」
そうだよ。そんな顔されるなら俺は一人で行くぜ!
職員室位はきっと迷わねぇ!
無理して案内させたとかカオルコ=サンの心労にたたるってもんよ!
「俺よりも優先することがあるだろう?」
「えっ、本当か薫子!?」
「いえ……確かに色々と優先すべき事案ではありますが……彼の案内の予定を破棄してまですることはないですね」
「そうか……でも生徒会っていろいろやるべきことが多いもんな。礼司もよく気遣ってくれたもんだ」
違います。そういうつもりじゃなくてですね、俺はただ無理して付き合ってくれなくていいよって言いたかったんです!
「ますます張り切って案内してくれよな薫子!」
「ええ、任せてください。心配までされては手を抜けませんわ」
カオルコ=サンの笑みが一層深くなる。
なんか俺の思ってる方向にさっきから進んでくれないけど……
まぁ、案内は進んでしてくれるっぽいから結果オーライなのだろうか?
しかしまぁ、とりあえず相変わらず確認したいことがあるんだ。
結局キリノマモノってやつってなんですか?
ここで言う魔法使いって、なんですか?
というか、そもそもここってどこなんですか?
グリモワールパーソナル
・兎ノ助
兎の姿をした、ゲームプロローグから色々とかっ飛ばしてくれる御人。
進路指導官と言う立場ながら生徒にセクハラを常習的に働いているという、真にその立場がふさわしいか今一度議論したい人物……ん、じんぶつ?
しかしながら生徒のことをよく見ているためにゲーム内のストーリーでは生徒の悩みをカッとばしてくれたり、生徒の新しい価値観を切り開く努力をしてくれる。
しかしながら当作品ではそんな出番がない、悲しいことにね。
・水瀬薫子
生徒会副会長。生徒会長絶対主義の人で、生徒会長に対して粗相を働こうものならブッKILL不可避という恐ろしい価値観を持っている。
立ち振る舞いとか口調とかは深夜の令嬢みたいな美しさを湛えているにもかかわらず、ドス効かせるようなトークを交わしたりするせいでなのか何やら恐ろしい人物として認識されている話も。