アレは嘘だ!
色々と書いていたら長くなりすぎたので一度区切りました・・・
次こそは竜王国編を書きたい・・!
11日 朝
「これで依頼完了ですね、お疲れ様でした。」
冒険者ギルドでの報告を済ませた神楽はダックの姿を探しに市場へと向かった。
朝の市場は活気豊かで賑やかな声や音がそこら中から響き渡っていた。
客寄せに店員が大きな声で宣伝をしている。
肉を音や焼く香ばしい匂いが立ち込め、食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。
「安い!美味い!ポロック揚げ!どうだい?そこ人!一つ買っていかないか?」
「美味しそうね・・・ジュルリ、一つくださ―」
「神楽様、今はそんな場合ではありません。それに朝食はしっかりお食べになりましたよね?さぁ行きますよ。」
「あぁ!私のポロック揚げがぁぁ・・」
何か買って行こうとする神楽を宵月が引き留めながら引き摺る様に目的の場所へと向かう。
エ・ランテルでも一際大きい商会、バルド商会の入り口に辿り着いた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか?」
「ダックさんがこちらでお世話になってると聞いたのですが。」
「確認してまいりますので少々お待ち下さい。」
受付にいた初老の男性と宵月が会話を進める中、いじけた様に端に座り込みのの字を書く神楽。
商会に出入りする人は何事かと驚くが、あまりの雰囲気に誰も声を掛けられない状況が続いていた。
しばらくするとさっきの受付の男性が戻ってきたようだ。
「お待たせ致しました。ダック・イエルドは7番荷捌き場で作業しているはずです。予定では本日エ・ランテルから出発の筈ですがどうもトラブルが有ったようで・・」
「トラブル?怪我をされたとか?」
「いえ、どうやら人員手配の関係とありますね。ご案内致しましょうか?」
「いえ、それには及びません。場所だけ教えて頂ければ。」
「畏まりました。入ってきた扉を出て右手に進むと荷捌き場が御座います。看板が吊り下げてあるので7番をお探し下さい。」
「ご丁寧に有難う御座います。」
受付の男性に場所を聞き終わると宵月は端でいじけている神楽に声をかける。
「そんなことしてないで行きますよ。」
「ポロック揚げ・・」
「駄々こねないで下さい。幸いまだ出発してないみたいですから、ほらほら立って。」
「ポロック揚げぇ・・」
「あぁもう!後で買ってあげますから!」
「ポロック!」
「はいはい、早く行きますよ。はぁ。」
鼻歌混じりにポロックと言っている神楽を尻目に宵月は深いため息を吐いた。
しばらく歩くと荷下ろしを手伝っているダックを見つけた。向こうもこちらを見つけた様で小走りで向かってきた。
「姐さん!お元気そうでなによりです。今日はどうしてここに?」
「ちょっとね。前に竜王国に行くって聞いたから。」
「あぁ、そうなんですよ。行く前に渡りとして知り合いのワーカー、まぁ冒険者崩れなんですがそういった奴等に傭兵紛いの盗賊なんかが居ないか確認しようと思ったんですが・・」
「何か問題があったの?」
「それがここん所、連絡がつかないんですよ。最後に連絡取れたのが2日前でして、そのあとはさっぱり。」
「そう・・それでどうするの、この後は?」
「仕方ないんで護衛を増やしてバハルス帝国経由で竜王国に向かう予定になっとりやす。」
「あら、なら丁度良かった。私達も竜王国に行こうと思ってね。」
「姐さんが一緒についてくれるなら心強いでさぁ!早速、上の者に伝えてきます!」
「ええ、宜しくね・・ってもう行っちゃった。」
「そのようですね。組合経由での依頼になるかとは思いますがしばらく此処で待ってみますか?」
「そうねぇ・・」
しばらく近くの木箱に座ってまったりしているとダックが走って戻ってきた。
「お待たせしやした。最初は銀級なんて上が渋っていたんですが、第三位階を使えると話したら商会の警護担当が話をしたいときやした。」
「話?実力でも確かめたいのかしら?」
「そこまではなんとも。姐さん、この後時間は空いてますかい?」
「まぁ別に大丈夫よ。」
「ならすぐに案内しやす!」
三人は荷捌き場の通りを奥へと進んでいくと馬舎が併設された大きめの建物がみえた。
「あれがバルト商会の警護部門の建物でさぁ。」
「ふーん。どの位の人数がいるの?」
「正確な人数までは知りませんが30人位はいるじゃないんですかね?っと着きやした。」
扉の両脇には槍を持ったいかにもな門番が二人いた。ダックが話し掛けると知っていたのか直ぐに中の応接室に案内された。
「君達がダックの言う凄腕の冒険者かね?」
「いえ、冒険者は私だけですね。宵月は私の供回りのので。」
「ふむ、なら一人で銀級まで上がったのかね?」
「ええ、剣も魔法も一通り出来ますので。」
営業スマイルを浮かべながら質問に答える神楽。
しかし警護部門の長、ドーン・クルーソンはどうも懐疑的であった。女、それもフードを被ってはいるが世に二人といない美女が第三位階魔法やゴブリン等の魔物を瞬く間に切り捨てたなど妄言としか思えなかった。
ドーンは当たり障りのない質問を切り上げ、本命をぶつける。
「私は元々白金級の冒険者だったのだ。ここの護衛を請け負った時にいた商人の娘に一目惚れをしてね。道中ひたすらに愛を語らい、魔物が襲いかかってくる度に私は――」
「あの~」
「おっと失礼。まぁ今では私の妻なんだがね。それで冒険者を引退をしてこの商会にお世話になっているのだが
、どうにも君の様な若い女性が強いと思えないのだよ
。」
「それで?何か証明をしろ、と言うことですか?」
「あぁ、私と手合わせしてもらおう。此方としても大事な商品を実力不確か者に任せるわけにはいかないのだよ。」
「構いませんよ。場所と時間はどうしましょう?」
「この後、下の訓練場でどうだろう?予定より遅くなってしまっている。それに冒険者組合に依頼を出すにも書類やら手続きが必要なのでね。」
「勿論。」
余裕たっぷりに答える神楽に対してドーンは戸惑いを感じていた。元とはいえ白銀級の冒険者、彼女が首から下げでいる銀よりも2つも上、性別や体格の差もあるのにこの余裕はどこから来るのだろうか。
(元だから、自分の方が優れていると傲っているのか?こういうのは先達としてへし折ってやらねばな。)
ドーンは心の中で訓練場にて刃を潰した剣を素振りしながら決意を固めた。
「刃は潰してあるが当たり処が悪ければ骨位簡単に折れるからな。参ったの宣言か私が合格又は危険と判断したら終了としよう。それで問題ないかな?」
「ええ。そのルールで問題ないわ。」
「さぁどこからでも来なさい。レディファーストだ。」
そういい放ちながら剣を構えるドーン。
対する神楽は剣を持った腕をだらりと下ろしどこ吹く風と言わないばかりに体を弛緩していた。
(ただのはったりか?無駄に時間を――)
そう心の中で考えていると、眼前に剣が振り下ろされていた。
「武技―回避!」
辛うじて転げるように倒れ込みながら剣を避ける。
「うーんやっぱりしっくり来ないわね。」
感触を確かめる様に、何度も剣を握り直しながら呟く神楽。ドーンは信じられないとばかりに大きく目を見開きながら何が起きたのかと考えながら土まみれになりながら立ち上がる。
(武技か?それもと幻術でも掛けらたのか?)
「ははっ!凄いな。まるで見えなかったよ。」
「まだ少し早かったかしら?なら次はもっと遅くするわね。」
「あぁ!いいとも!私も全力でいかせてもらおう!武技―視覚強化!能力向上!」
たった一歩、それだけで五メートル以上あった距離を詰められた。残像が見えるほどの剣速で振り下ろされた剣をとっさに武技、要塞を発動しながら剣をぶつける勢いで防ぐ――否、防ごうとした。
まるで生き物として格が違う―要塞の上から押し潰されていく。こんなにも細い体のどこにそんな力があるのかまるで分からない。目の前にいるのがトロールならまだ納得が出来る、そう思えるような一撃であった。
「ぐ、ぐうう!!ま、参った!」
片膝をつき、今にも折れんばかりの剣を全身で支えながら唸るように叫んだ。対する神楽は視線を外しておりまるで聞いてないかのように未だに剣を振り下ろそうとしてた。その視線は宵月が駄々を捏ねない様に買ってきたポロック揚げに釘付けにされていた。
「お、おい!終わりだっていってるだろ!あぁ!くそ!話聞けよ!いや、待って!死ぬから!お願い!誰か止めて!」
必死の懇願に宵月がやれやれと言わないばかりの態度で
神楽の口に熱々のポロック揚げを放り込みなから剣を回収する。
ドーンは地面に倒れ込みながら目には涙を浮かべ、何度もありがとう、死ぬかと思ったなど口にしていたが神楽はまるで目にはいらないかのようにもひもひとポロック揚げを齧っていた。
「合格だよ、合格っ!本当に死ぬかと思ったよ。その細身のどこにそんな力があるのやら・・」
「ふふふ♪秘密です。なら護衛の件、指名依頼でお願いしますね。」
「あぁ、任せておいてくれ。あんた一人いれば要らない世話だとは思うが、一応、私の部下も何人か護衛に付く予定だ。手続きがスムーズに行けば明日には出発だが大丈夫か?」
「いつでも大丈夫ですよ。元々旅の途中だったので荷物もないですし。」
「そうか、私はこれから番頭に会ってくる。そうそう、商会に就職する気はないかね?君ほどの腕なら――」
「遠慮させて頂きます。やりたい事が山程あるので。」
「そうか、残念だ。もし気が変わったらいつでも声を掛けてくれ。」
そう言うとドーンは商会の本館に向かっていった。
「いやぁ姐さんがいれば旅路も安心でさぁ!さぁさぁ飲んでくだせい!今日は奢りですから!」
「ありがとうねダック。なら遠慮なくさせてもらうわ。」
「いえいえ、明日から宜しくおねがいしますでさぁ。ささ、どうぞどうぞ。」
大衆酒場にて神楽と宵月、そしてダッグは護衛依頼の受諾と共に前祝に夕食と共に取っていた。
しかししばらくすると外が騒がしくなってきていた。
「あら?なにかしら?」
「ちょっと見てきやす。お二人はここでお待ちを。」
席を立ち、店の外を見に行くダック。宵月は
「神楽様、如何なさいますか?玉藻に申し付けて原因を調べさせますか?」
「別にいいわ。今は宝物殿を開錠する関係で社周辺を重点的に監視させてるし、それにそろそろ戻ってきそうよ。」
どたどたと大きな足音を立ててダックが玉汗を浮かべながら戻ってきた。
「あ、あ、姐さん!大変です。墓地から大量のアンデットが湧き出てきてやす!」
「あら、それは大変ね。それじゃあちょっといってこようかしら。」
「お供します、神楽様。」
「いや!あぶねえですぜ!すげえ量のアンデットなんですよ!?衛兵達がすっとんでいってましたが・・」
「なら冒険者にも声が掛かるでしょ?宵月いくわよ」
「畏まりました。ダックさん明日は宜しくお願いしますね。」
「いや・・あぶないって・・いっちまったか・・」
墓地の方から住人が逃げる姿を横目に夜の街を歩く神楽と宵月。
外縁部には既に何組か冒険者が集まっていたが苦戦しているように見えなかった。城壁の上で冒険者が戦闘しているが城壁の内側にも何組か冒険者が準備をしていた。
神楽は不思議に思い準備をしていた近くにいた鉄等級の冒険者に声を掛けた。
「墓地からアンデットが大量に涌き出したと聞いてきたのですが何かあったのですか?」
「んっ?あぁ銀級の人か。どうもこうも俺達も組合から同じ話を聞いて来たんだが、来てみたらまぁ普段よりは多いがほぼほぼ城壁近くは片付いたんだ。ただ、衛兵達の話だと銅級の冒険者が墓地に突入したって言っててな。救出と今回の大量発生の原因を調べる為にも今、ミスリル級か白銀級の冒険者を待っているんだか・・」
「まだ来てない・・と。」
「あぁ。もう少ししたら到着するらしいが・・」
「そう、ありがとう。宵月、行くわよ。」
「どちらへ?」
「もう解決したみたいだし、我が家に帰るわよ。時間もそろそろでしょう?」
「畏まりました。直ぐに手配致します。」
踵を返し、来た道を戻る神楽達。途中人気がない路地裏に入ると転移門を開く。
転移門を抜けると八重の社へと繋がる石段の入り口に槍を脇に起き片膝を着いたままピクリとも動かない天目が待っていた。
「天目、出迎えご苦労様。何か問題はあったかしら?」
「万事問題無く。」
「そう、なら良いわ。引き続き宜しくね。」
「是非も無く。」
巻物を取り出すとぐるりと神楽と宵月を囲う様に広がり包み込むと社の境内まで転移した。
しゅるりという音と共に巻物が独りでに巻き直されていくと、玉藻と鴉丸が社殿から姿を表す。
「「お帰りなさいませ、神楽様。無事のお帰り心よりお喜び申し上げます。」」
「ただいま、鴉丸、玉藻。あれから何かあったかしら?」
「いえ、何も。周囲の監視も引き続きしておりますが大きな変化は有りません。ただ少し森に変化が有ったようです。」
「変化?」
「どうも縄張り争いなのか森の魔物達が住処を変えているようです。」
「そう、此方への影響は有りそうなの?」
「まず無いかと。森の魔物は大半が雑魚と呼んで良いレベルなので防衛以前に辿り着く事さえ無いかと思われます。」
「ならいいわ。引き続き宜しくね、二人共。私は宝物殿にこのまま向かうから。」
「「仰せのままに!」」
そのまま社殿の中を抜け、最奥の宝物殿へと向かう。
四方を無数に連なる襖の回廊を右へ左へ、時には戻りを繰り返すと宝物殿の入り口に辿り着く。正しい手順で襖を潜らないと入り口に戻されるトラップである。
無数の札や注連縄が括り付けられた扉の五つ空いた窪みに掘り込まれた模様の違う五寸釘をそれぞれ打ち込む。
鈍い音と共に扉が開いていく。
中は明かりがなく無音の闇が続いている。神楽鈴を取り出し、しゃん、と透き通る様な音が響き渡ると扉の直ぐ近くに明かりが灯る。鈴の音が鳴る度に灯りが奥へと延びていく。十三度、鈴をならし終えると神楽は奥へと進んでいく。
脇には昔と比べるとかなり寂しくなった金貨の山や使わなくなった装備やドロップアイテムや素材が積み重ねられている。
しばらく歩くと行き止まりへと辿り着く。神楽は勾玉を取り出すと壁にそっと当てる。すると地下へと続く階段が音をたてながら姿を表す。
ひんやりとした空気の中、階段を降りていくと咲夜と時雨が大きな扉の両脇に手を窪みに入れながら軽く会釈をしてくる。
「ようこそ神楽様。」「宝物殿最奥に。」
「二人共、ありがとうね。疲れてない?」
「神楽様の為なら」「何も苦になりません。」
「解錠は上手くいきそうかしら?」
「もう」「まもなく。」
「なら此処で待たせて貰うわ。」
近くにあった宝箱に腰掛けぷらぷらと足を揺らす神楽。10分ばかりするとがちゃりと大きな音響き渡る。
「「神楽様」」「解錠」「終わりました。」
「ありがとうね。宵月、貴女も此処で待ってて。」
「神楽、護衛も付けずにお一人で?理由を御聞きしても?宝物殿最奥、それも開かずの扉の中に危険は無いと思いますが・・」
「開かずの扉・・ね。確かに貴女達を創ってから開けたことは無かったわね。危険は無い筈よ、多分。ただこの先は私一人で行かないと駄目なのよ。他の誰でもなく私が・・ね。」
「それは理由になっており「宵月、お願い」っ!」
いつになく、宵月に取っては初めてとも言える程、真剣声色に驚き言葉を詰まらせる。駄々を捏ねる子供をあやすような、それでいて今にも泣きそうな顔をする神楽を前に宵月は諦めたように言葉を紡ぐ。
「はぁ、なるべく早くお戻りになってください。一刻経つか異常を感じたら鴉丸を連れて迎えに行きますから。」
「ごめんね、宵月。それじゃあ行ってくるわ。」
「お気を付けて・・神楽様。」
手を寂しそうに振る宵月を背に神楽は青白い灯りを灯した灯籠が立ち並ぶ開かずの間に入っていく。
中は伽藍堂の様に広く灯籠意外な何もなかった。奥まで進むと棺とその両脇に二振りの剣があった。
幾重にも札や注連縄で縛られ宙吊りにされた三尺はあろうかという大太刀。
もう一振りは表面がひび割れが蜘蛛の巣状に走り継ぎ接ぎの様にも見える大剣が石の台座に刺さっていた。
中央に据えられた棺の蓋に手を掛け、止める。
きっと開けてしまえば逃げていた事に後悔するだろう。開けなければ良かったと苦悩に苛まれる日々が続くかもしれない。それでもあの子達を、そして此処を守るためにも私はっ!
意を決して棺の蓋をずらし中身を顕にする。
中には透き通るような白い肌。青色のボディスに白いエプロンドレス、広がる長い髪は光を反射して輝く金色。頭ウサギの耳の様な形をした大きなリボンを着けていた。
まるで不思議の国のアリスの絵本から抜け出した様な少女が横たわる棺の中には時計を持った白兎やトランプの兵隊、赤いドレスを着た女王等の人形が敷き詰められていた。
神楽は優しく少女を抱き上げる。裾から見える腕には丸い球体間接が見えた。人形であった。
耳元で囁く様に詠う様に語り掛ける。
「さぁ起きてアリス。早くしないと遅れちゃうわ。」
閉じられていた瞳が開かれると碧い瞳が神楽を捉える。
パチパチと何度も瞬きすると、大きく見開かれた瞳から涙が零れ落ちていった。
「アリス?やっぱり私が許せない?」
そう問いかけると子供の様にしがみつき、神楽の服に擦り付けるように首を横に振るアリス。服の下から嗚咽の様な声が聞こえてくる。
ごめんなさい、許して、捨てないで。
泣きじゃくりながら何度も何度も訴えるアリス。その様子に神楽は子供をあやすように背中を何度も優しく叩きながら、もう大丈夫だよと声を掛け続ける。
しばらくすると泣き止んだアリスを棺の上に座らせる。
頬を伝う涙の跡を袂で拭ういながら優しく話し掛ける。
「ねぇ、アリス。貴女は私を恨んでないの?」
「ひっぐ、そんなことありえないわ・・お母様。」
「(お母様?)そう、ならなんでそんなに泣いているの?」
「だって捨てられたって思っていたから・・またお母様に会えると思ったら、涙が止まらないの。」
(そうね・・生まれてからてずっとここにいたものね・・)
拠点は最低レベルの場所でも700レベル分が付与される―アリスは一番最初に創った、いや創られたNPCであった。裏切り、謝る前にもう会えなくなってしまった彼女と瓜二つ―死者を模した人形。
宝物殿最奥が完成した時に二振りの剣と一緒に安置され見る度に、思い出す度にあの日の後悔を思い出すから今まで日の目を見る事も他のNPCも存在すら知らない。
設定はたった一行。メメントモリ。ただこれだけなのだ。
恨まれても仕方がない、それだけの事をした。そして怖かったのだ。NPCがそれぞれ動き出した時に彼女の顔で、声で、仕草で糾弾された時、私はきっと――
もう一度彼女を殺すことになる――
「お母様、捨てないで・・いい子にするからお願い・・」
黙り込んだ神楽に不安を感じすがり付きながら懇願するアリス。その様子を見るとただの幼い子供にしかみえない。こんな健気な子を疑った事に罪悪感に苛まれた。
「ごめんね、アリス。貴方が悪い訳ではないのよ、全部私が弱いからいけなかったの・・」
「お母様ぁぁ!」
感極まり突進の如く神楽に抱き付くアリス。もう離したくないと言わないばかりにしがみつくアリスを神楽は頭を撫でながら何度も謝り続けた。
最奥に入ってから30分程たった頃、開かずの間の入り口に神楽はアリスを抱き抱えて現れた。入り口で待機していた宵月達は抱えらたアリスに驚き戸惑いながらも神楽の帰りを喜んだ。
「お帰りなさいませ。そちらの子供は?」
「この子はアリスよ。最奥にずっと眠っていたのよ。ほらアリス?」
「誰?私はお母様さえいれば良いのだけど。」
「なっ!?神楽様のお子なのですか?」
「あー・・うん、まぁ貴方達と同じ存在だからそういう意味で子供と言えば子供かな?」
「成る程、そういう事でしたか。私は宵月、此方の二人は咲夜と時乃。これから宜し――」
「ねぇねぇお母様?今夜は一緒に寝てもいいかしら?」
挨拶の途中に丸で興味がないばかりか無視をして神楽に話掛けるアリス。それに対して宵月達、三人は殺気だった空気を漂わせ始めた。
「随分教育がなってないお子様ですね。これは骨が折れそうです。」
「流石に」「不愉快」
「なぁに?貴方達?お母様との会話の邪魔をしないで?邪魔をするなら・・」
ガチャリと大きな音を立てながらアリスの手には砲芯が3つ付いた大きな銃――ガドリングガンが握られていた。
一瞬即発の状態に神楽はため息を吐きながらアリスにデコピンをするとバチンと鈍い音とがする。
「アリス?話はちゃんと聞きなさい。あの子達は私の家族、つまり貴方の家族でもあるの。あといきなり武器を出さない。どっちも引けなくなるでしょ。それに貴方達が殺し合いになったり傷付いたら私は悲しいわ?」
「はいっ、お母様・・」
プルプルと震え涙目になりながら赤くなった額を押さえるアリス。
「宵月達、ごめんね。ちょっと変わった子だけど仲良くしてあげて頂戴。今まで誰とも接した事も外に出た事もないから多目に見てあげて。」
「「「仰せの通りに」」」
「ほら、アリス。ご挨拶は?」
「私はアリス・・宜しく――お願いします。」
神楽から降りて挨拶するアリス。内心嫌々なのが見てとれるがこれから次第だろうと神楽は心の中で呟きながら嬉しそうに目を細めていった。
その頃、ナザリック一行は・・・
「それを咎めるのは我侭というものだろう」
「私は我侭なのだよ(ドヤっ)」
アインズ節が炸裂していた。
次回こそは・・!次回こそは竜王国編予定(未定)
お盆の頃に出せたらいいなー