天風のゼダ   作:アルファるふぁ/保利滝良

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本年初投下はゼダです。今年もよろしくお願いします。



Cパート

 

上空から襲いかかる敵性金属体。巨人は左アッパーで対抗する。しかし空戦に優れた敵には、振り上げた腕などは格好のターゲットとしかならない。

ホースフライ型の口の棘が巨人の左腕を引っ掻く。思わず腕を引っ込める様子から、ダメージは通っているようだ。ならば好都合と、敵性金属体は反転して追撃の体制に移る。

が、空中で振り向いた虻の面に、光の玉が叩き付けられた。巨人の新たなる技だ。平手を遥か向こうの敵に振り抜くことで、手裏剣のように小さな光弾を放っている。一発、二発。三発目を食らったあたりでホースフライ型は全速退避する。

それを見た巨人は悔しがるように拳を握った。今使った光弾は遠距離攻撃には向くが、殴る蹴るよりダメージが低いようだ。ふわふわ飛ぶ敵に拳骨を叩き込んでやれば、一撃で地面に叩き落とせるのに。

さらに、敵性金属体は離れた場所へ飛んで行ってしまった。あの距離では光弾の狙いもずれてしまう。追いかけるべく、巨人は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

萩原は二つの巨影の戦いをテレビ中継でじっと見ていた。津市に再び敵性金属体が現れ、それと同時に再び巨人が現れる。

彼女には使命があった。金属体と戦うあの巨人が人間であるとしたならば、IGFに連れていくと言う使命が。

あの巨人が人間であるかどうかは元田副司令の推測であったが、テレビを見ているうち、萩原はその推測が確かなものであると確信していく。

あの拳の振り方、あの走り方、そして攻撃を受けた際の痛がるリアクション。これらが人間的でないなら何というのか。

巨人と金属体は戦場を変えるようだ。津市の東部。そこは先の敵性金属体ヒューマン型による被害が大きかったため、IGF・陸上自衛隊合同で徹底的かつ緊急的に避難活動を行わせた場所である。つまり、もう人はいないはずの場所だ。

もしもその場所で決着がついて、巨人が勝利し、巨人が変身を解除して人間に戻れば、すぐさまにIGFジャパン陸軍がその人間を見つけ出せる。

萩原は戦いを見つめている。巨人の戦いは、彼女の戦いに繋がっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

二体の巨影が向かった先は、津市の東部であった。幸か不幸か、そこは前回の敵性金属体の攻撃で完全な更地となってしまっている。化け物同士の取っ組み合いが起きても、瓦礫が細かく砕けるだけで済みそうだ。喜べることではないのだが。

ホースフライ型はくるりと巨人の方を向く。そして目の中心からレーザーを放った。巨人は苦もなく身をよじって避ける。

こちらを向いたなら逃げることはできない、このまま近付いて殴り付けてやろうと、巨人は走り続ける。廃墟となったビルを飛び越え、潰れた倉庫を蹴っ飛ばして走る。

しかし敵との距離は縮まらない。レーザーの第二射を避けて、巨人はようやく追いかけっこが続く理由に気づいた。敵は後ろ向きに飛行している。

虻の飛行はホバリングに似ている。絶えず羽を動かすことで視線とは逆方向に飛行することもできるのである。

走っても走っても追いつけない。敵からの一方的なレーザー攻撃を避けるうち、巨人の体力は猛烈に消耗していく。腕を振って光弾を放っても、距離が遠くて当たらない。

削られる集中力。このままジリ貧か、と考えたその時、轟の脳裏に前回の戦いがフィードバックする。確か前回に敵性金属体と戦った時、この巨人は飛べた。

巨人の大ジャンプ。巻き上げられる土煙が遠くなっていく。

頭の中でイメージする。飛べ、飛べ、飛べ。飛べた。まるで見えない翼が生えているように、空中を泳ぐように、身長八十メートルの巨人がビュンビュン飛んでいる。

眼下にはズタズタになった津市の街並み。そして、敵性金属体ホースフライ型。

高速で近づく巨人。敵性金属体はそれを避けようとした。が、虻というのはそこまで速く飛行できるわけではない。そう、飛行速度は巨人の方が速いのだ。

対空攻撃のつもりか、敵性金属体ホースフライ型は上へレーザーを撃つ。しかし巨人は避けることすらしなかった。

無意識的に腕の発光体に別の手をかざすと、手の中に細く短い棒が現れる。握り締めると、それが柄となり、細長い光の棒が伸びた。

レーザーを光の棒で防ぎ、速度そのままで敵性金属体に急速接近する巨人。一秒もしないで接近されたホースフライ型の面に、今度は光の棒が叩き込まれる。

巨人と敵性金属体は、もろともに大地へと激突した。

大きなアスファルトの塊があちらこちらへと飛び散る。周囲はたちまち土煙の中へ消えた。

しかし土煙はすぐさま切り裂かれる。二体の墜落地点より、片方が高速で打ち上げられたからだ。

土煙が晴れ、立っていたのは巨人。左腕を上に突き出している。先ほど当てることができなかった左アッパーで敵をぶっ飛ばしたのだ。

強烈な一撃を貰ったからか、はたまた昆虫特有の体の脆さも忠実に再現したからか、敵性金属体はなすすべなく空へ飛んでいく。最大高度に達し、自由落下で地に吸い込まれる時、その落下場所には巨人が光の棒を握り締め立っていた。

ホームラン。まさにその言葉が相応しいであろう。振り抜かれた一閃がホースフライ型を完璧に捉え、もう一度上空へとぶっ飛ばす。

光の棒を投げ捨てた巨人は、ベースへ走るわけもなく、不思議な構えをとった。

額の前で拳を作った両手首を交差させる。すると額の発光体に光が収束していく。視線の先にいる敵性金属体に狙いを定め、そして両腕を振り下ろした。額から放たれるのは、山吹色の一条の細い光線。前回の戦いで使ったものとはまた別の技であった。

標的の敵性金属体は、先程の攻撃の影響で羽が千切れ落ちてしまったため、吹っ飛びながらピクピクと蠢くしかなかった。その状態で回避ができようはずもなく、巨人の光線の直撃を受ける。

きっちり一秒。山吹色の照射を一秒間受けた敵性金属体ホースフライ型は、最大到達高度に達した瞬間に大爆発。大空に不恰好な花火を上げ消滅した。

破片の一つもなく、塵一つ残さず完全に消えて無くなったのである。

それを見届け、巨人はようやく肩の力を抜いた。今回も勝利をもぎ取った、その実感を胸にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IGF日本支部作戦指令室では、巨人の勝利が確かに確認された。巨人の勝利と同時に、今回出現した敵性金属体の完全消滅も確認された。

敵性金属体は本来、撤退するほどのダメージを与えたとしても原型をほとんど保ったまま地中奥深くに逃げてしまい、完全に仕留めることはできない。一度撃退しても同じ個体が現れ、その度に大きな犠牲を払って撃退することを繰り返さねばならない。こちらは消耗を続け、あちらは消耗が存在しない。そのせいで人類は延々と消耗が存在しない相手に対して消耗戦を行う羽目になっている。

しかも敵性金属体は一体だけではない。地球に来訪した時、連中は複数の群体として地球のマントル付近へ潜り込んだ。正確な数は不明だが、一体も消せていない状況なのに、複数体もいることがわかっているのだ。

だがあの巨人は、敵性金属体の一体を欠片一つなくこの世から消してしまうことができた。そのメカニズムは未だ解明できてはいない。しかし、あの巨人を人類の味方として引き込めたらどうだろう。

元田は、可能性の話を想像した。

敵性金属体の全体を消耗させることができるメカニズムが手に入れば、人類の勝利が目に見えてくるのではないだろうか。仮にその研究が失敗したとしても、あの巨人と連携して敵性金属体と戦うことができれば、人類の勝利も不可能ではない。あるいは、メカニズムの解明と巨人のスカウトの両方が叶えばどうだろう。

絶望的な状況に降って湧いた希望。画面の向こうで佇む巨人を、元田は瞬きせずに見つめる。

「勝利が見えて来たと言うことだな」

誰ともなしに囁き、手元の通信端末を操作する。数秒の待機音の後、お目当ての相手に繋がった。

「元田だ。萩原君、兵力をかき集めて戦場を包囲してくれ。今がチャンスなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘が終わった後、轟はすぐに変身を解除した。別段特別なことはしていない。ただ人間の姿に戻りたいと考えただけである。その意思が汲み取られたかは定かではないが、巨人はいなくなり、無事、人間の轟に戻ることができた。

戦闘の疲れからか轟はしばらくの休憩を欲した。すぐ近くの瓦礫に手頃な鉄骨があったので、それを背もたれに座ることにする。巨人の時は気にもしなかったが、被害が大きかったこの一帯にも、まだ原型を残す建物が点々としているようだ。

ひしゃげた鉄骨に寄りかかって、轟は深く息を吐いた。

既に巨人の姿はなく、そこには人間・祭轟がいるだけである。しかし、轟の中では未だに、敵性金属体と戦ったあの感覚が消えていない。戦闘の興奮とでもいうのだろうか。

先日まで普通の日常を普通に送っていた彼にとって、その熱は持て余すに足りるものである。

「慣れなくちゃならねぇ…よな?」

ポケットから例の懐中電灯モドキを取り出し、誰にも聞こえないような声で呟く。

すると、轟の視界に人影が写った。IGFの制服だった。

「それは、これからも敵性金属体と戦うために…と言う意味かな?」

「は?…え、どういう…アンタは一体…?えっ?」

声をかけられ、轟は凄まじく狼狽えた。非常事態に頭が追いついていない。

制服を着た女はツカツカと歩み寄り、轟に右手を差し出した。それと同時に、物々しい装備をした兵隊のような男達が二人を取り囲む。様子からして、女の部下であることは間違いない。

つまり、IGFの人員だ。

「君があの巨人であることは間違いないね?」

嘘をついたら針千本でも飲まされそうな気迫だった。

「あ、は…ハイ」

女は笑顔を作り、座っている轟に右手を押し付けてくる。握手を求めているのだろう。

断る理由もないので、轟はそーっと右手を握る。そして華奢っぽい体には全く似つかわしくない怪力で一気に引き起こされた。

「おわわわっ!?」

足に力を入れていないまま立たされ、轟がすっ転びそうになる。

「うぉっとっと…あ、どうも」

その背中を、間一髪IGFの隊員が支えた。

「突然すまないね、私はIGF日本支部陸軍隊長の萩原だ。単刀直入に言おう」

親切なIGF隊員に支えてもらいながら、轟は萩原と名乗った女の顔をキョトンと見ていた。状況を飲み込めない号に、萩原は言う。

「一緒に来て欲しい。IGFは、君の協力を必要としている」

 


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