天風のゼダ   作:アルファるふぁ/保利滝良

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久しぶりの人はご無沙汰しております
そしていつも読んで下さっている皆様は、いつもありがとうございます
アルファるふぁです
今回やるのは正当派を目指した作品です、もし良ければ、ご贔屓にしていただけたら幸いです



第1話 運命の日
Aパート


 

太陽系第三番惑星。この惑星には、命が数多く住んでいる。

この星には、他の様々な生物を抑えて頂点に立った存在がいる。

それが人類だった

彼らは互いに争い合い、奪い合い、幾度となく自らの住む星を汚し続けた。彼らは時に増長し、時に嘆き、時に息絶えながら、未来を目指した。

そして人類はついに、自分達の星の外の宇宙の存在に気付いた。どこまでも続く未知の向こうへ、期待と希望を胸にした。

だが、その宇宙から彼らに贈られてきたのは、どうしようもなく強大な敵の存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男が一つ、深呼吸をした。

視線を巡らすと、正面に大画面のモニタ。その周りを取り囲むように、無数のデスクとコンピュータが配置されていた。コンピュータの前にはそれを真剣な表情で操作する、同一の服装の人間達がいた。

コンピュータの前で人間が作業をしているのは当たり前で、別段驚くようなことでもない。今注目すべきなのは、大モニタに写されるであろう情報だ。

ここは巨大な部屋だ。部屋の隅にあるドアの向こうには、緊急作戦指令室と書かれた看板が立っているはずであろう。

ここで扱われるのは人類の敵との戦闘のための情報で、今から行われるのはその敵との戦闘なのだ。

男の目が細まった。張り詰めた緊張が、部屋中を支配していた。

「来ました。約五分後に地上へ浮上する模様」

一人の女性が、よく通る声で報告をした。それが発端だった。

「確率90%で敵性金属体と推定されます」

「空戦軍団のホエールズ及びソニックストライカー、予測出現ポイントで旋回を開始」

「海戦軍団の各艦隊、配置既に終了」

作戦指令室に飛び交う声。情報処理官達が、モニタの前で送られたデータを確認している。

「メインモニタに現況映像、出します!」

男の視線の先にある大モニタに、真上から見た小型の島が写し出された。衛生からの映像だろう

島の周りを取り囲むように、イージス艦が並んでいる。島の周囲をなぞるように、大型の航空機と攻撃機が飛んでいる。

これから始まるのだ、戦闘が。

ついに男が声を出した。

「カウントダウン」

「了解。敵性金属体出現まで残り50、49、48、47・・・」

男は口を真一文字に引き結び、モニタを凝視した。作戦指揮官として、今から起こる光景を見逃すわけにはいかない。

思わずIGFと刺繍された赤いワッペンを握り締める。その下の元田義弘の文字に、無数のシワが寄った。

画面の向こうの戦士達は、自分が今から発する命令に従ってくれるだろうか。この作戦指令室に送られてくるのが正しい情報なのか。そもそも敵に勝てるのか。

様々な不安感が男の胸をよぎる。だが、それは今には必要ないものだ。

「5、4、3、2、1・・・」

女性オペレーターがカウントダウンを終えた。

その現象は、カウントが0になった途端に始まった。

「敵性金属体、陸奥島に浮上します!」

メインモニタに写る小島の真ん中。そこから、黒い液体がじわりと染み出した。墨汁を垂らした布を下から見たようだ、と男は思った。

その瞬間に、男は最初の命令を発する。

「全部隊全火力使用許可、戦闘を開始せよ!!」

その掛け声が終わったとき、陸奥島に現れた墨汁は一つの塊に変化した。太くて長い、円柱の形に。

イージス艦から、航空機から、数えきれない程のミサイルが円柱へ発射される。

戦いが始まった。

 

 

 

 

島の中心にそびえ立つ、黒光りする円柱。敵性金属体と呼ばれるそれは、ただ静かにそこに屹立していた。

そこへ飛んでくる十数機の飛行機。そのどれもが、物騒にも機関砲やミサイルを搭載していた。

IGF。International Guardner Forceの略称だ。国際防衛軍と訳される。

彼等の仕事はたった一つ。宇宙からやってきた人類を攻撃する存在、敵性金属体を攻撃、撃破することだ。

各国軍から独立した指揮系統を持つので、このように素早く作戦を立てることができる。

「こちら指揮室。チームレオン、攻撃開始。」

「こちらチームレオン、了解。敵性金属体へ総攻撃をかける。」

そんな防衛集団の中のトップガン、チームレオンの隊長は、通信に軽く答えた。その目線は通信機ではなく、黒い柱に注がれている。

敵性金属体タワー型に、包み込むように飛んでくる物が無数にあった。洋上のイージス艦隊からのミサイル攻撃だ。高速で飛行する弾頭が、次々と黒光りするボディに突き刺さる。

爆発が金属体の巨体を隠した。灰色の煙が爆風に煽られ、柱をすっぽり覆ってしまったのだ。

「レオン各機、警戒を怠るなよ。」

「了解。」

「了解。」

ぬか喜びはできない。隊長は隊員の注意力が途切れないよう釘を刺した。

二人の部下が返事をしたその時、IGFの攻撃機ソニックストライカーの目の前を何かが塞いだ。レオン隊が各々バラバラな軌道でそれを避ける。

現れたのは光線だ。真っ直ぐ伸びる光の棒。それの発射点は、爆煙の中だ。

敵性金属体のレーザー攻撃。厚さ数十センチの鋼鉄をも融かすという強力な飛び道具だ。

レオン隊隊長は光線の進行方向を見て驚愕した。他のチームの機体が、墜とされていた。主翼をやられたのか、きりもみしながらソニックストライカーが陸奥島の大地に飛び込んだのが見えた。

ミサイルが起こすものより小さな爆発が起こった。

「ロックオン急げ、ミサイル全弾発射だ。」

指示を飛ばしながら操縦悍を動かす。この機体は言うことを聞く。

正面に敵性金属体。位置取りは完璧、あとは簡単だ。

「発射・・・!」

ソニックストライカーの主翼下、胴体内部からいくつものミサイルが放たれた。ずんぐりとしたミサイル達は、ただ愚直に敵へ飛んでいく。

敵性金属体の表面を爆炎が舐めた。敵の表面で炎が僅かに燃えている。燻っている。

「敵性金属体タワー型、ダメージ微少!健在です!」

だがだと言ってこれだけでは勝てるはずもない。いくらミサイルやら砲弾を撃ち込んでも、コイツらには大したダメージにはならない。

よしんばダメージを与えたとしても、その姿を変えられる敵性金属体は、液体化して逃走してしまう。

こちらは敵を完全に倒す術はなく、敵はそもそも痛手を追っても安定して逃げることができる。

「こんな連中とどう戦えってんだ・・・ぐおおっ!」

人類の想いを代弁したような独白。だが直後に、彼は光に焼かれて消えた。敵性金属体の、レーザー攻撃だ。

骨も残らなかった。

 

「レオン隊全滅!イージス艦隊も三隻が大破しました!」

「ソニックストライカー、残数十。内四機がホエールズで補給を受けています。」

「空戦部隊の損害が四割を上回りました。元田副司令、撤退許可を!」

義弘は歯軋りした。

「・・・俺は部下を無駄死にさせることしかできなかったのか!」

最新鋭の音速攻撃機を二十、その輸送用の飛行母艦ホエールズを二隻、イージス艦を八隻。なかなかの大部隊だ。それが、赤子の手を捻るように蹂躙されている。

「おのれ・・・!」

副司令元田義弘に采配ミスは無かった。素早くそれでいて的確な指揮をしていた。それでも、この様だ。

敵性金属体はそれだけ強力なのだ。

「ホエールズにソニックストライカーをすべて収用、残存艦隊と共に撤退せよ。北海道の空母艦隊はまだか!」

「各部隊に通達します。北海道からの増援ま到着まで、残り三時間です!」

義弘の顔が悔しさに歪んだ。胸のワッペンを引き千切れそうなくらいに握る。

無力感が彼の心を苛んだ。

三時間だ。三時間あの化け者共を野放しだ。その時までの時間稼ぎも、今の戦力では無理だ。

「ホエールズA、レーザー直撃!」

オペレーターの焦りきった報告に、義弘が目を見開いた。

メインモニタを見る。そこに、クジラというよりジンベエザメに似た縦に薄い航空機が写っていた。巨大なサイズだ。

しかしその航空機、飛行母艦ホエールズからは、炎と黒煙が吹き出していた。

この局面でソニックストライカーの輸送手段が潰されるのは痛い。攻撃機部隊を運ぶホエールズが一つだけだと、撤退の際にそこへソニックストライカーが集中し、ホエールズの搭載重量が上がる。ホエールズの重量が上がるとスピードは自然と下がる。鈍足な飛行機など敵性金属体の餌食だ。

つまり撤退の難易度が上がるのだ。

「残存攻撃機隊にホエールズBへの集結を指示・・・いや、ホエールズAの乗員にすぐに脱出命令を出せ!」

「ホエールズAの機長から通信が。」

「何?」

「副司令のモニターに繋ぎます。」

義弘は下を向いた。指揮に熱が入りすぎて椅子から立ち上がったため、机の上のモニターを見下ろさなくてはならない。

そこには、初老と思わしき髭面の男性がいた。ホエールズAのお頭だ。

「こちらホエールズA、木村芳武機長であります。ホエールズAはダメージ限界値を突破、間も無く墜落します。」

落ち着いた様子の木村機長と対照的に、義弘は張り詰めた剣幕でマイクを引っ掴んだ。

「急いで生き残った乗員と脱出しろ!今すぐにだ!むざむざ死ぬな!」

「申し訳ありません元田副司令、それは出来ません。」

「まさか・・・まさか!」

義弘の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。

墜落寸前のホエールズ。いやに落ち着いた機長。補給用で残っている弾薬と燃料。

「パイロットを除いた乗員四十名、そこから私を抜いて三十九名、陸奥島の南西部の海に脱出させました。私はここに残り、最後の一仕事をさせていただきます。」

「止せ木村機長、貴官も脱出するんだ!」

「お心遣い感謝します、副司令。しかし撤退までの時間稼ぎは必要です。それに私は負傷し、腹をやられました。もう長くはありません。」

木村機長が口から血の塊を吐き出した。口髭が真っ赤に染まる。

そして彼は目を見開いた。そこには、寂しい決意の光があった。

「ホエールズを無駄にしてしまったことを、謝罪します。」

「ホエールズA、進路変更。敵性金属体へ特攻していきます!」

オペレーターが振り向いて叫んだ。

「機長!」

「クルー達を、お願いします!」

それっきり、木村機長の顔は消えた。義弘の机のモニターには、ノイズしか写らない。

メインモニタを見た。真っ黒なタワーに突き刺さる、巨大な航空機が見えた。

ホエールズは破裂するように爆散した。

「敵性金属体タワー型の様子が・・・」

敵性金属体のホエールズを食らった部分が大きくへこんでいる。木村芳武機長の最期の一撃の成果だった。

敵性金属体がゆったりと形を歪める。円筒の体は、溶けるように不定形へと移行していった。

「地中へ潜っていきます!」

「帰っていくのか・・・」

黒い水となった金属体は、吸い込まれるように地面に入っていった。倒したわけではない。金属反応レーダーには存在が確認されている。

倒せなかった、というのが正しい。

人類は、敵性金属体との戦闘において全て、奴等を撃滅したことはない。お帰りいただくことしかできていない。

肝心の撃退すら、できる確率は低い。

「・・・状況終了、全部隊帰還せよ。巡洋艦はぎのはホエールズAのクルーを回収せよ。」

「了解、全部隊撤収。」

「了解、巡洋艦はぎの応答せよ。こちら作戦指揮本部、巡洋艦はぎの応答せよ」

「撃墜されたソニックストライカーや撃沈された艦隊の乗員は積極的に回収しろ。北海道艦隊は引き続き来させろ、捜索隊として参加してもらう。以上だ。」

レーダーからも確認できない位置にまで敵性金属体がいなくなってから、義弘は命令した。先程までの取り乱した様子は消えていた。

そんな態度を残していては、作戦に支障が出るからだ。感情を殺さなくてはいけなかった。

だが、他の人間が再び作業に集中するのを確認して、椅子にもたれた。

「人類は、奴等に勝てないのか?」

誰にも聞こえないように呟いた。

だがその疑問は、その場の全員が等しく持っていた。

 





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