「フリー。フリーの魔術師の衛宮士郎だ」
こう言っておけば問題は無いだろうと思った。原作でもフリーの魔術師は少ないが、闇咲(夏休みの最終日に上条を襲ったやつのことだ)のようにいる事はいるのだから。
「俺も、俺も言ったほうがいい感じ? 学園都市の学生の上条当麻ですはい」
上条が空気を読んだのかそんな感じのことを言ってくる。いい加減このすっと入ってこれる人間性はすごいと思う。もっとも記憶にある限り特徴的な人にしか接していないことによる弊害かもしれないが。
上条当麻に続き他の2人も、
「イギリス清教『
「同じく土御門元春だ」
そして一通り自己紹介が済んだ後で。
衛宮士郎は、できる限り自分のことを話さなくていいよう、先程の神崎の言葉を復唱した。
「こうして自己紹介をしてしまったが、その見解ってやつを伝えてもらおう」
そして神裂が説明を始めた。上条は魔術知識がなく、術式を発動できるとは思えないこと。超能力者が魔術を使うと肉体に負荷がかかるはずだが、それが見当たらないこと。上条が術式の影響を受けないのは異能の力ならなんでも打ち消す右手、
「成る程な」
「問二。では先程の魔術行使は? 近傍で魔術行使があったから私は歪みの原点である彼を襲ったのだが」
げっ、と衛宮士郎は思った。それはきっと、自分の投影によるものであると、確信があったからだ。慎重に言葉を選び答える。
「あー多分それは俺だ……そこの、伸びてるやつを倒した時に俺が使った」
ここまで言ったところで衛宮士郎は戦慄を覚えていた。少しの介入とも言えない介入で、これだ。本格的に関わっていくと、どうなるか少し恐ろしく思ったが、もう既に自分がこの世に生きていること自体でバタフライエフェクトは起こっているはずだとそう考え、介入してもしなくても変わっていくのは一緒であると自分を納得させた。
「解二。了承した」
「すまなかったな」
その衛宮士郎の謝罪の言葉にミーシャは無言であった。
ミーシャは何かを疑問に思っているようであった。いや、事実その通りであったのだ。上条の方に向き直り、次の瞬間、こう言ったのだから。
「数価。40.9.30.7。合わせて86」
ズバン! とミーシャの背後でコンクリートの下から噴水のように水の柱が飛び出した。どうやら地下の水道管が破れたらしい。ものすごい勢いで飛び出した水は、まるで意思があるかのように空に留まり、
「照応。
続けてミーシャが口を動かすと水の柱がマジで蛇のように鎌首をもたげた。ヒュドラやヤマタノオロチのように枝分かれした何本もの水の蛇。
その水龍は、上条当麻目掛けて突進した。その直線上ではわだつみがあり、たくさんの関係ない人がいる。
そこまで思い立った時衛宮士郎の体は
そして飛び込んだ後、こう叫んだ。
「
ーー瞬間、紫の閃光がほとばしった。
水の蛇が解けた。ものすごい速さで動いていたはずの水龍が、その場に一瞬だけ留まった。その後は、魔術がかけられる前に戻ったかのように、通常の物理法則に従い、水は落下し、水飛沫を地面であげた。魔力の痕跡すら残さずして……。
「なっ」
土御門は、そんな驚きの声を上げる。神裂や上条も同様にだ。
何故なら過程は違えど、それは問わず少年の右腕と同様の効果であったかだろう。
能力は 刃で突いた対象のあらゆる魔力による契約や魔力によって生み出された生命体の魔力を前の状態にリセットすること。
簡単に言えば魔力を打ち消す事である。
故に、魔術に限って言えば、上条の持つ異能を全て打ち消す右手、
故に上条たちは驚いたのだ。幻想殺しが希少なものであり、唯一無二のものである例外であると思っていたから。
だが、その幻想殺しを知らないミーシャは全くと言っていいほど驚かない。それどころか、無表情のまま、先程の自身への妨害行為について、
「問3。何をする。あなたは私の敵か」
そう問うてきた。
衛宮士郎は勿論、敵対する気は無いので、できる限り妨害した理由を先に伝えることで、衝突の回避を試みる。
「そんなんじゃない。もしこの少年に力がなかったら、後ろの旅館はどうなる。やるなら他の場所でやれ」
「了承。あなたの言葉には、一定の根拠があったと納得した。では、場所を移そう」
衛宮士郎はホッとした。なんとか自分の意図が伝わったからだ。ここで天使の魂の入っているミーシャと戦うとか、冗談では無い。
だが、ここでの戦いは回避できたものの、危険な行為をしようとしているのに変わりはないのでどうにか止められないかと思って思考を巡らせると、胸元に重さを感じ、気付いた。
「また物騒なことをするつもりか。それだったらこっちのほうがいいんじゃないか」
そう言って衛宮士郎はさっき実験したときに投影して懐にしまっておいた、常時魔術的性質を持つとある効果のある剣を取り出す。
「魔術的要素があることを確認してくれ。それでこれが魔術的要素をもっていて、上条当麻だっけ?彼の右手で触って貰えばいい。だろ?」
「了承。正当な申し出であると判断した」
そう言ってミーシャに手渡す。するとミーシャはその剣を手に取りまじまじと見た。
「確認。この剣が魔術的要素を持っているという事が分かった」
その言葉に衛宮士郎は再びホッとした。第二関門、突破である。この世界の魔術的要素と、自分の使う魔術の要素が共通していることがわかったからである。
もっとも、そうだからと言って、とあるの魔術を使って血管が破裂しないなんて確証はないわけではあるが。
ひとまず、自分の投影に疑問を持たれても、魔術体系が、少し違うという言い訳ができるのはありがたかった。
「では、上条、この剣を触ってみてくれ」
「……おう」
目の前でいろんなことが起こりすぎてびっくりしている上条は、衛宮士郎にそう言われて、再起動した。
「ちょっと待つんだにゃあ」
「なんだ?土御門」
いきなり呼び止められて、何か怪しいと思われたのかと思い、緊張する衛宮。なにを言われるのだろうと思ったが、その疑問は上条が聞いてくれた。
「ちょっとそれこっちで確かめされてもらっていいか?」
「ああ、いいぞ」
と、とりあえず、衛宮士郎は剣を渡し、土御門はその剣を手に取る。
その横でその様子を見る神裂は。
「どうですか。土御門」
「ふーむ。やはりいわゆるアゾット剣。儀式用の補助礼装……つまりは、杖のようなものかにゃーー」
「そうですか」
「調べ終わったので、返すにゃ。エミヤん、それずいぶん高いものだと思うのだが、壊れてもいいのか? 真面目に壊れるぞ、こいつの右腕に触れると。あとさっきのあれは何だ?」
そして土御門は、再びそのアゾット剣を衛宮士郎に手渡した。
衛宮士郎は理解する。先程土御門は衛宮士郎が上条に渡そうとした剣が、高いものだとわかり、それをみすみす捨てるような真似をしたことに疑問を持ったのだろう。
また、先程の
「まぁたくさんあるからな。まぁさっきのは企業秘密だが、まぁその少年の右手の劣化版みたいなものだよ。あの剣は、魔力しか打ち消せない」
上条、触ってみてくれ、ともう一度言い、かなり遠回りしてしまったが、上条がそのアゾット剣の柄を手にとる。すると刹那もかからず剣はパリンと割れた。
跡形もなく。
砕け散った。
それを見たロシア正教所属という、彼女は。
「正当。イギリス清教の見解と今の実験結果には符合するものがある。この解を容疑撤回の証明手段として認める。少年、誤った解のために刃を向けたことをここに謝罪する」
「俺もその少年の右手を認めよう」
ここでようやく、命の危機がなくなった上条は少し息を吐く。ずっと気を張りつめていたから仕方はないであろう。しかしその安堵感を満喫できないうちに。
「問4。しかしあなたが犯人でないならば、エンゼルフォールは誰が実行したものなのか。騒動の中心は確かにここなのだが、犯人に心当たりはあるか」
「あー、……」
ここで、衛宮士郎が手をあげた。
なぜなら先ほど蹴ったのは、その1番怪しい奴なのだから。接触したという理由として、そして原作から離れないためにも、バタフライエフェクトを考えても、一応疑いはむけておいた方がいいと思い、
「俺が、さっき蹴り飛ばしたやつ、多分入れ替わってないと思うぜ」
瞬間、その場にいた誰もが息をのんだ。
うん。最初は衛宮士郎が、剣を渡して上条が剣を割るって言うだけの話だったんだよ?
いつの間にかやらこんなことに。
あと、破戒すべき全ての符の投影をして前に出たのではなく、体を張って前に出てから投影をしたことについて、なんででしょうね?
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