とある投影の魔術使い〈エミヤシロウ〉   作:機巧

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なんか、自分、だいたい3000書いたら投稿してるんですけど、7000余裕で超えた件について。


フレンダ・セイヴェルン2 Canned mackerel and cream puff

荷物を持って歩き出した瞬間に、涙がすぐに止まったフレンダを見て、衛宮士郎は、戦慄を覚えた。と言うのは、荷物持ちをする選択をしたのは早まってしまったかと、そう言うことだ。

 

(……まさか嘘泣きだった……だと?)

 

つまりは都合の良い荷物持ちになりそうな衛宮が目の前にいたから、フレンダは嘘泣きして衛宮を荷物持ちにしようと画策して、まんまと衛宮はそれにはまってしまったと言うことだった。

 

流石は美少女で暗部ということか、人を乗せるのに手馴れてる感が半端ない。

 

多少ぐんなりとしてタワーのように積まれた荷物の隙間から、前をズイズイと進んでいくフレンダを見て、追いかける。

 

 

そして、衛宮もよく聞くブランド店を数軒梯子した後、フレンダは汗を拭いつつ、ようやくのことこう言った。

 

 

「ふぅ、結局、私にかかればプレゼント買うのなんてこうやって、すぐ終わる訳よ」

 

 

「ここに、すごい功労者がいると思うのだが」

 

 

まるで自分だけでことを成し遂げたというような口調でいうフレンダに、両手で箱のバランスを保ちながら衛宮はツッコミを入れる。

 

既にフレンダが持つものと衛宮士郎が持つもので40を超えた箱が持ち運ばれていた。そのうちの30個ほどが衛宮士郎によって運ばれているといえば、衛宮の苦労はわかってもらえるだろう。

 

 

「はいはい、とても感謝してるわ」

 

 

「こいつ流しやがった」

 

 

「何?」

 

 

「何でもない」

 

 

ボソッと出た本音は、フレンダには聞こえなかったのか、聞き返してくるものの、衛宮はそれをごまかす。

 

それで納得したかは分からないが、少し不思議そうな顔をしたフレンダは、何かに気づいたように顔を少し上げた。

 

そして少し言いにくそうにフレンダは、

 

 

「えーっと、名前まだ聞いてなかったわね。私の名前はフレンダ・セイヴェルン。学園都市に住む女子高生だって訳よ」

 

 

そこで衛宮はまだ自己紹介をしていなかったことに気づいた。

 

最初に箱に埋もれているところから救出し、ベンチで少し話した後、そのままここまで歩いてくると言う一連の流れがスムーズに行きすぎたので、互いのことはあまり話していなかったのであった。

 

要は入学式とかで、初対面の同年代の人とゲームのことで話して盛り上がったものの、そちらを話しすぎて、互いの名前は聞かなかったと言う状況に近い。

 

 

「衛宮士郎。学園都市の外に住んでる、ちょっと変わった高校生だ」

 

 

正直に言うと、先程も言った通り、暗部組織にはあまり関わりたくはないので、衛宮は適当な偽名を名乗ろうかとも思ったのだが、すぐに見抜かれて終わりだと思ったので、やめた。

 

衛宮のイメージ的に、暗部組織の人間は、嘘を見抜く能力に長けている気がしたからだ。

 

また、共に少し過ごして考えが変わったところもあった。

 

フレンダは友達が千人以上いて、その人たちが暗部に関わってはいないのだから、別に大丈夫だろうと。

 

実際、佐天さんなどは、(攫われたりしたものの)暗部入りなどはしていない。

 

そんな思考に囚われている衛宮に、それを遮るかのようにフレンダは言った。

 

 

「じゃあ、士郎、これで最後! 郵便局に行くわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園都市の外では有名な某郵便局。

 

そこにたどり着いた二人は、すでに疲労困憊であったが、なんとか郵便局の中に大量の荷物を運び込み、フレンダは大量の宛先の紙を書き殴り、衛宮はその少し横にぐったりと座っていたのだった。

 

ちなみに、衛宮が衛宮士郎となった時から、筋トレは欠かしていなかったにもかかわらず、衛宮が疲労困憊であるのは、荷物のバランスをとりつつの移動であったためだ。

 

向かいからやってくる人に荷物が当たらないように、気をつけながら、荷物自体が崩れないようにも気を配ると言った作業は、歩いた距離や、荷物の重さ以上に衛宮を追い詰めていた。

 

例を挙げると数学の問題のようなものだろう。数式として出されれば、簡単な問題でも、文章題となり、それを『読み解く』と言う余計な一手間が加わるだけで、正答率がグッと下がる。

 

この場合、衛宮にとってのその余計な一手間が、二手間もあったのだった。具体的に言うと『周囲を警戒』しつつ『バランスを保つ』と言う手間まである。

 

そんな疲れた衛宮士郎の横で、フレンダはせっせと住所を描き殴り続けていた。

 

先程からその様子を見ていた衛宮だったが、外界から隔離された学園都市に運び込む荷物だと言うのに、さほど検査もされず運び込めることに違和感を覚えた。

 

 

「学園都市行きの荷物ってこんなに簡単に通るんだな」

 

 

その疑問にフレンダは書きなぐり続けたまま答える。

 

 

「そうね。人も物も中から外へはかなり制限されてるけど、外から中は割と楽かも、

結局、技術流失とかが一番怖いって訳よ」

 

 

「成る程なあ、……じゃあ君もここにいるってことは手続きとか大変だったのか」

 

 

「私の場合は多少のズルはしたから割と楽だったけど、普通に出ようとしたら複雑な手続きが必要らしいわ」

 

 

そのズルってなんだろうと思う衛宮だったが、突っ込むとやぶ蛇にしかならなそうなのでスルーすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレンダが十数枚にも及ぶ宛先を書き終わり、二人はほとんど手ぶらの状態で、外に出てきていた。

 

もっとも手ぶらといっても衛宮はシュークリームの入ったクーラーボックスを肩にかけているのだが。

 

辺りはというと、既に日は傾き、もう少ししたら西の空は赤く染まるだろうと言うところまできていた。

 

軽くなった肩を軽く回したあと、フレンダは凝り固まった筋肉をほぐすように背伸びをした。

 

 

「うーん。疲れたーー」

 

 

「疲れたのはこっちだ」

 

 

すかさずツッコミを入れる衛宮。この半日で先程のスルースキルに加え、ツッコミの早さも地味に上がっている実感が彼自身存在した。

 

 

「そりゃ当たり前な訳よ。こんな真夏日に長袖なんて着てるんだから」

 

 

そう。衛宮ははたから見れば、長袖の服を着ているような見える。はたから見れば。

 

というのも、聖骸布に理由がある。誰かに魔術を掛けられた時などに備え、防御手段として聖骸布は常につけておきたい。

 

しかし、赤い布を腕に巻き付けているのは、はたから見ればとても変だ。と言うか、そんなことをしていたら、学校で先生に注意されることが常態化していただろう。なので、魔術を使い、長袖を着ているように見せかせているのだ。

 

つまりは、衛宮は右腕の聖骸布を除けば、実質半袖であるのだ。

 

それを直接言うわけにもいかず、半袖に近い通気性の服であると言う説明をする。

 

 

「これは素材が薄くて換気性がいいものなんだよ。別に半袖とは変わらない。疲れたのは荷物の方だよ」

 

 

それを聞いたフレンダは自分のせいと言われていると思ってムッとしたのか、すかさず髪の毛を背中の方に払いながら、こう言う。

 

 

「でもまぁ、こんな美少女と、一緒に時間を過ごせたんだから良かったんじゃないって訳よ」

 

 

「自分で言うのな」

 

 

その髪の毛を払いつつもキメ顔をキメるフレンダは、確かに美少女といっても過言ではないが、発言はどうかと思う衛宮。

 

 

「それとも私、美少女じゃない?」

 

 

「はいはい、認めます。美少女ですよー」

 

 

不安げそうに瞳に涙を潤ませながら言うフレンダに、衛宮はこう言うしかなかった。

 

いくら衛宮士郎という名前で、衛宮士郎の外観で、衛宮士郎の能力を持っていても、精神は一般人。前世があるといっても、普通の高校生(『とある』基準の普通の高校生ではなく、世間一般でいう普通の高校生)の記憶しかない。

 

芸能人のような容姿の人とは直接あったことはないし、ましてや、そのような容姿に対する耐性など、皆無に等しかった。

 

美少女であると認めたことにより、フレンダはうんうんと頷きながら、

 

 

「それでいいって訳よ」

 

 

フレンダは満足したようにそう言った。

 

レベルアップしたスルースキルを存分に発揮し、なんとか話題をそらそうと、画策する衛宮。このままだとズルズルと浜面ポジションに入ってしまう感が否めなかった。

 

 

「で、フレンダはこれからどうすんだ。ちょっと夜にはやることあるからずっと構ってはられないぞ」

 

 

言外に、そろそろ用事あるんで、ということを忍ばせた言葉を送る衛宮。

 

それに対してフレンダは、衛宮の袖(正確には聖骸布)を掴み、

 

 

「あ、ちょっと待って、お礼と言っては何だけど、ファミレス寄らないかなーって訳よ。もちろん、私の奢りよ。尤も、スーパーに先に寄らせてもらう訳だけど」

 

 

と言った。

なんとまあ、奢りという落差。常時金欠の高校生(上条によって補填される約束ではあるが、新幹線できたことによって残りは心許ない)にとって、救いであった。今まで小悪魔だと思っていたフレンダが、一気に救いの女神に見えてしまうほどには。

 

男としては同年代の女性に奢られるのはどうなのかと思うが、そこに思い至らないのが、彼女いない歴=年齢プラスαの衛宮なのであった。

 

それにしても最後に、気になることが1つあった。

 

 

「スーパー?なんでだ?」

 

 

その衛宮の問いかけに、フレンダはニヒルな笑みとサムズアップをして、こう言った。

 

 

 

 

「結局、鯖缶買わないと私のファミレスは始まらないって訳よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鯖缶も買ったし、ファミレスにも着いたし、私のファミレス人生はここから始まるって訳よ!」

 

 

学園都市の中とも提携があるファミレスに入った二人。

 

世間一般の夕飯のタイミングより少し早かったためか、二人はすんなりと席に案内された。席の場所は窓際で、フレンダの容姿から考えて、どこぞで聞いた、『容姿のいい人が来たら店の外から見えやすい場所に案内する』という眉唾だと思っていた話は、本当なのかもしれないと思い直した。

 

そんな衛宮に再び気になる単語が。

 

 

「ファミレス人生ってなんだよ」

 

 

「そんなのその場のノリで流すのが常識って訳よ!」

 

 

「……」

 

 

 

 

理不尽な常識(幻想)ってやつを衛宮はぶち殺したくなった。

 

 

 

 

そんな衝動にかられる衛宮であったが、近くにサーバーが来たことで邪念が振り払われた。

 

 

「ご注文の品です」

 

 

そうやって目の前に出された白色の品を見て、ナイフとスプーンを両手に持ったフレンダがテンションを上げる。

 

 

「キタキタキタキターーッ!美味しそうなグラタンが来たって訳よ!結局、グラタンは鯖缶の最高の付け合わせって訳!」

 

 

「グラタンのほうが付け合わせなんだな」

 

 

少し引いた声で衛宮は率直な感想を述べる。

 

もっとも、フレンダは既に食べ物に夢中なのか、そんな衛宮の言葉を気にすることなく、スカートの中から取り出した缶詰開けでフレンダは先程スーパーで買った鯖缶を開ける準備を整えていたが。

 

そしてフレンダが金属の棒を缶詰の蓋の端に差し込んだとたん、プシュッ!!という音とともに中の液体が棒と蓋の隙間から勢いよく飛び出て来た。

 

 

「わ、わっ」

 

 

驚いて鯖缶を手から離してしまうフレンダ。重力に従い綺麗な放物線を描き続けて落ちていく鯖缶は、

 

 

「おっと」

 

 

衛宮によって床に落ちる寸前でキャッチされた。先程まで、事あるごとに些細なミスをするフレンダをフォローしていたのが生きた形だ。そして、とった鯖缶をフレンダに差し出す。

 

 

「ほら、気を付けろ。食べ物を粗末にするな」

 

 

「ぁ……ぅ……ありがと」

 

 

なんとか鯖缶は無事ですみ残りの蓋をなんとか開けるフレンダ。自らの頼んだ品が来るまで机の上を紙で拭く衛宮。

 

そんな衛宮を尻目に、今の出来事をなかったことにしたいのか、フレンダは何事もなかったように食べ始めた。

 

もっとも、先程までとは違い、調子に乗らず、無言であったが。

 

まあ、しかしそんな殊勝な態度は、鯖缶が進むまでだった。鯖缶が進むとか、何言っているのかわからないとは思うが、事実を一番よく表しているのがこの言葉だろう。

 

フレンダは、まるでお酒のように鯖缶をちびちびと食べる合間にグラタンを食べているのだから。

 

 

「ん〜〜!美味し〜〜って訳よ」

 

 

さっきの落ち込みようはどうしただとか色々言いたいことはあったものの、この笑顔を見れただけでも労働の甲斐はあったかなと、不覚にも思ってしまう衛宮だった。

 

 

 

 

そして、衛宮の、頼んだ品が届いてからも時間が経ち、もう直ぐでフレンダは食べ終わると言ったところで、思い出したようにフレンダはこう切り出した。

 

 

「そういえば士郎、あのシュークリーム買ったお店に頼んでたまにこの住所に送ってくれるよう頼んでくれない?」

 

 

「すまん、無理だ」

 

 

衛宮の即答を聞いて、少し残念そうな顔をしつつ、落ち着かなそうに髪の毛を指先でくるくると弄りながら、フレンダは続ける。

 

 

「なんでって訳よ。数量限定販売とか店頭のみとかそういうやつって訳?あの美味しさならそれもわかる気がするわ」

 

 

「――そうじゃなく」

 

 

「結局、どう言うことって訳よ」

 

 

自分の考えが否定されたのがムッとしたのか、個数限定でもないのに無理と即答されたことにムッと来たのかはわからないが、フレンダは少し不機嫌そうな顔で衛宮に尋ねた。

 

それに衛宮はすぐに答える。

 

 

「端的に言うと、俺が作った」

 

 

「……………………………………………………………………………………………………えっ」

 

 

しばしの沈黙。

 

衛宮のした回答が予想外だったため、一瞬止まり、ゆっくりとその言葉を噛み締めて理解するまでに時間がかかったのだった。

 

あまりにも止まっているために、衛宮は反応のないフレンダの目の前で手を振りながら、フレンダに問いかける。

 

 

「大丈夫か」

 

 

「…………………………………………………………………………………………………本当に?さっき食べたの普通に紙とかで包装されてたんだけど?」

 

 

ようやく再起動したフレンダは、まだ信じられないようで、そのように聞いてくる。まるで再起動した後にパスワードを聞いてくる携帯みたいだな、とそんな的外れなことを考えつつ、もちろん嘘などはついていないので、衛宮は、

 

 

「嘘をついてどうする。紙は食べにくいだろうから付けた」

 

 

「確かにここで嘘をつくメリットがないって訳よ……と言うか、あなたコック志望? あんなに美味しいシュークリーム食べたことがなかったんだけど! まあ、結局鯖缶の方が上だけど!」

 

 

「コック志望じゃない、趣味だ」

 

 

断言する衛宮に戦慄するフレンダ。

 

衛宮は衛宮士郎に憧れて料理をやっているわけであるから、「今日のご飯」のように創作料理を作れない自分のことをまだまだだと思っていたが、今回のシュークリームは、衛宮自身にもともと基礎があったのに加え、憑依経験まで使ったものであるから、勘違いするのも無理はなかった。

 

 

「(……本当に嘘を言っているようには見えないって訳よ)じゃあ、お金は払うから、作って送ってもらうことって、出来るかなーって」

 

 

「いいぞ」

 

 

「えっ」

 

 

衛宮の言葉を聞いて嘘を言っていないと確信し、駄目元でそう聞いてみるフレンダであったが、意外と簡単に許可されたことに驚いた。

 

快く許可したのに疑問をなぜか唱えられてムッとする衛宮。

 

 

「えっ、とはなんだ、えっ、とは」

 

 

「いや、失礼な事しちゃってた訳だし、断られるかなあ、って」

 

 

そう頭をコツンと叩きながらいうフレンダに、衛宮ははぁ、と息を大きく吐いた後に、言った。

 

 

「失礼な事してた、という自覚はあるのな」

 

 

「ぎくっ」

 

 

少し焦った感じで、今日び聞かない擬音をわざわざ言葉に出していうフレンダに、衛宮はこれ以上問い詰めるのも可哀想だなと思い、追求は取りやめる。

 

 

「まぁ、いいよ。なんで許可したのかって言うと、君が俺のシュークリームを美味しそうに食べてくれたからな。料理人冥理につきるってわけだ。それにまだ未熟で趣味の域だからな。材料費くれればそれでいいよ」

 

 

「やった、これも結局、私の日頃の行いって訳よ!」

 

 

先程の不機嫌顔や、フリーズは何処へやら。フレンダは、ガッツポーズを浮かべながら言ったのであった。

 

その喜びようをみて衛宮も思わず微笑んでしまう。笑いの本質はつられて笑うことであるとどこぞで聞いたが、少なくとも、この場ではそれは正しい事実であった。

 

結局、気分を良くした衛宮はさらにこう言ってしまう。

 

 

「鯖缶好きそうだから、なんとか鯖缶とシュークリーム合わせてみるけどどうする?」

 

 

その言葉に対し、残りの一口を食べようとする手を止めて、手をバンッ!!と机についたフレンダは、我慢ならないと言わんばかりに、

 

 

「ダメよ! ダメダメ! そんなの不味くなるに決まってるじゃない! 鯖缶をカレーに入れるなんていう人もいるけど、結局、邪道って訳!そのままの鯖缶がサイコーって訳よ!」

 

 

と自らの主張を展開した。その圧倒的気迫を前に、衛宮は確かにシュークリームと鯖缶はないな、と先程までの自らの変な思考を反省する。

 

もしかしたら鯖に酔っていたのかもしれない。

 

 

「了解。シュークリームはシュークリームそのままとして作るよ」

 

 

その言葉を聞き、フレンダは再びのガッツポーズ。

 

 

「よっしゃって訳よ!」

 

 

そう言って鯖缶最後の一口を一気に呑み込んだフレンダに、横にあるクーラーボックスを引き寄せながら、衛宮は一言。

 

 

「あと、このクーラーボックスにまだ入ってるんだが、食うか?」

 

 

「いただきっ!」

 

 

この後結局全額奢られて、男としてはどうなのだろうと思うが、シュークリームで相殺だろと思う、彼女いないれ以下略、衛宮士郎なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に太陽は西の空に傾き、空全体が赤から黒へと移り変わろうとする時間帯。徐々に昼の間の熱帯もかくやというほどの暑さが和らいで来た頃。

 

ほとんど誰もいない通りで、フレンダはリズムよく器用に共に並んで歩いていた衛宮の前に出ていく。

 

履いているのはかなりヒールの高い靴だというのにそのような真似ができることには衛宮も舌を巻く。

 

そして完全に衛宮と向かい合ったフレンダは、

 

 

「じゃあ士郎、今日はありがとう。とっても助かったって訳よ」

 

 

それに対して衛宮は少し言葉を考えてみるが、なかなか良い言葉が見つからない。

 

結局、衛宮の口から出たのは、ありきたりな言葉だった。

 

 

「どういたしまして」

 

 

そして、それを受けて、フレンダは、お別れの挨拶をした。

 

 

「じゃあ、またね、士郎」

 

 

正直、今日1日は大変だったが、妙に充実感がある。普通だったら今日はソコソコいい日であったと、気持ちよくこのまま寝たいくらいだ。

 

正直、この子に死んでほしくない、そういう気持ちが衛宮の中には燻っていた。

 

 

結局、衛宮士郎は嬉しかったのだ。

自分のシュークリームを美味しいと言ってくれたことが。

 

衛宮は、衛宮士郎を目指して料理の腕を磨いて来た。『目指す』ことが目的であったから、他人に振る舞うなんていうこともなかった。だが、今日、初めて自分の料理を食べて美味しいと、満面の笑顔で言ってくれる人に出会った。

 

結局、それが衛宮士郎にはたまらなく嬉しかったのだ。

 

だが、死んでしまうと伝えたからと言って、どうなるのであろうか。そんな衛宮の思考を置き去りに、別れの時間はすぐに過ぎ去っていく。

 

 

「ああ、またな、フレンダ」

 

 

そう言葉を絞り出し、後ろを向くフレンダに手を振ろうと手を挙げかけた衛宮に、フレンダが再び衛宮の方を向いて、近づき、話しかけて来た。

 

何やらいうべきことがあったらしい。

 

 

 

 

 

「あっ、そうだ……ねぇ、士郎……」

 

 

 

 

 

夕日に照らされる金髪がキラキラと揺れている。そして、顔を夕日で赤く染めたフレンダはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーそこで、焔が向かい合う二人の真横の塀から立ち上った。

 

なにやら男の声も聞こえてくる。

 

 

 

『ーー、我が手に断罪、ーーーーーー』

 

 

 

 

「えっ、何が起こってる訳?爆弾の焔の出方じゃないわよね?発火能力者(パイキロシスト)?」

 

 

「とりあえず行ってみよう!」

 

 

 

そう言って、駆け出す衛宮。それになんだかわからないフレンダも続く。

 

そして、塀の周りを一周。先程いた壁とは反対側に出た衛宮とフレンダが見たものといえば。

 

 

「え、何で学園都市の近くだってのにこんな聖職者率半端ない訳ーーッ!」

 

 

 

 

 

 

そして、相手の方のツンツン頭の高校生と白い修道服の少女も呟く。

 

 

「……衛宮?」

 

 

「……しろー?」

 

 

 




本編とは関係ない余談。

ファミレスのサーバー視点だと、一人が話しかけては気恥ずかしくなって黙るという風に見えてる。あれ、食い気の話しかしてないのに不思議だなあ。


感想、評価お願いします。変な部分等あったら教えてくださると嬉しいです。




今回は多少、文体変えてみました。少しかまちーに寄せてみた感じです。
結果、むずい。このまま続けて徐々に変えて言った方がいいのだろうか。



次の更新は今回書きすぎたので、少し遅れると思います。(さすがに2年はないと思う)

さて、ステイル視点にするか、当麻視点にするかは決めかねてます。

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