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「うう、このまま箱に圧迫されて跡なんて付いた日にゃ自慢の脚線美が台無しって訳よ!」
そう叫ぶのは大小様々、色取り取りの箱の山に埋もれる金髪ウエーブの少女。
まるでギャグパートの1シーンのように顔だけその箱の山から出している。カタツムリ、という表現が正しいであろう。
そして、彼女の発言から見るに、彼女の上には丁度大きい青色包装の箱が乗っかっており、その周りの箱の配置などが作用して脱出不能になっているようだ。
それを見た衛宮士郎の言葉というと、
「その、……大丈夫か?」
そんな、月並みなセリフだった。
「そう見える訳?ねぇ、ちょっと助けてくれるつもりがあるんだったら、ここんとこの箱を持ち上げてくれないかなぁ……って」
その少女の懇願に、断る理由もなく、衛宮士郎は「よし来た」と言って、箱を1つづつ持ち上げて、近くのベンチの脇に壊さないように運んでいく。
そして彼女の上に乗っかっている大きな箱の順番まで来た時、沈黙しておとなしくしていた彼女は急に声をあげて、
「……そして現れる私の脚線美っ!!」
美少女などと言った者に慣れていないため、目をそらしていた衛宮士郎は、話題をそらすために、勤めて平坦な声で言った。
「そんなこと言ってる間に自分で抜け出したらどうだ?」
「あれっ?」
何かしらの反応が返ってくると思っていたのか、スルーされた現状に、そんな間抜けな声をあげる彼女。
うぬぬ、というかのように、暫しその金髪の彼女ーーフレンダ・セイヴェルンは沈黙した。
◾︎◾︎
「全く、貴方も男だというのなら、この私の! この私の脚線美に見惚れるべきだわ!」
ツン、と済ましたような顔で得意げに話す
ちなみに、まだ箱はベンチの周りに運び終わっていない。自分の物を自分で運ぼうとしないフレンダを見て、衛宮士郎は、
「自分でも運んだらどうなんだ?」
「あーー痛いさっき圧迫され続けたのがダメだったのかもしれない訳よ」
凄く棒読みなセリフを吐きつつ、自分の足をさするフレンダ。自慢の脚線美をスルーされたのがよっぽどショックだったのだろうか(先ほども言った通り、衛宮士郎は目をそらしていry)、又しても脚を強調するようにさすっている。
どう見ても運びたくない、働きたくない人のセリフなので、衛宮士郎はそれをバサッと切って捨てた。
「嘘だろ」
「バレたか」
てへっ、と言わんばかりに舌を少し出し、右手をコツン、と頭に当てるフレンダ。ここ数分でスルースキルが格段に上がっている衛宮士郎は、黙々と作業を行っているため、後数個の箱だけが、先ほどの場所に残っていた。
「まあいいよ、もうすぐて積み上がるし、ああ、そういえばーー」
そこで、出てくる前に作っていたシュークリームを思い出す衛宮士郎。衛宮士郎となった衛宮士郎は衛宮士郎といえば料理だよな、ということで、幼い頃から料理には励んでいたため、一定の自信はある。
もともとインデックスに取り入っておくために用意していた物だったのだが、フレンダの機嫌が悪いことを見て、ここで出してもいいかと思い、箱をベンチの脇に置いたついでにベンチに置いてあった自分の荷物からシュークリームを取り出す。
「まあ、このシュークリーム、ーー食うか?……余計に作りすぎてな」
そう言ってシュークリームをフレンダに渡す衛宮士郎。それを受け取ったフレンダはといえば。
「ふうん、どうせなら鯖缶出せって訳よ、鯖缶を!」
フレンダにシュークリームを渡して少しした後、衛宮士郎は全ての荷物をベンチの横に運び終わった。
荷物を全て運び終わったために、衛宮士郎はフレンダが座っているベンチの横に腰かけた。
先程、荷物を運んでいるうちに一通りの説明を受けた衛宮士郎は、視線を横に向けないようにしつつ、確認のため、少女から聞いた言葉をまとめる。
「つまり君は、学園都市の学生だが、友達のためにプレゼントを学園都市の外に買いにきたが、買いすぎて持てなくなった、そういうわけでいいのか?」
「……」
しかし、フレンダに返事はなく、不審に思った衛宮士郎は、そこでようやくフレンダのほうに目をやった。
「……(ぱあああ)」
フレンダは、硬直していた。衛宮士郎は、一瞬フレンダの周りに花が舞っているかのように幻視した。その表情に一瞬見惚れ、同様に固まってしまう精神は一般人な衛宮士郎。
しかしなんとか再起動し、フレンダの肩を掴み前後に少し揺する。
「おおーい?」
そこで、なんとか再起動したフレンダは、手の中にある空になったシュークリームを包装していた紙をじっと見つめ、
「……鯖缶の次くらいには認めてあげてもいいわ……」
と、のことだった。
「で、何って訳よ?」
ようやく最初の話題に戻ったことに衛宮士郎は安堵の息を漏らす。
「……はぁ、これ全部プレゼントということか?」
そう言って、衛宮士郎はベンチを囲む壁のように積み上がっている箱の軍団を見渡した。本当に多かった。
それにフレンダは得意げに答える。
「多少違うのも入ってるけど、率直に言えばそういう訳よ」
「で、なんで持てなくなるまで買った?」
これは衛宮士郎の純粋な疑問である。
そもそもとして、そのプレゼントは概算にして三十を超えている。積み上げると軽くタワーだ。
これでは持とうにもすぐに崩れ落ちてしまうだろう、ましてや女の子ならなおさらだ、と考えたところで、フレンダは近接戦闘も得意だったことを思い出す。
……それならギリギリ、運べていたことにも納得だ。
それにしても、こまめに買えばいいのに、と思った。
「ほら、私って友達多い訳よ。今回のプレゼントを保管しておく部屋まで借りたんだけど、それをいっその事埋め尽くしてやろーーって訳」
「あぁ、それはまた……ものすごいことで」
その言葉を聞いた衛宮士郎は、なんとも言えない気持ちになった。
1つは部屋を埋めるとか実際に聞くとやばいなということ。
もう1つは、……藍花悦……。
うう、これら全てが遺品になってしまうとは考えていなかったんだろうなぁ、ということ。
……この件についてはあまり考えないことにしようと、衛宮士郎は決めた。
できる限りフレンダの所属してある学園都市の暗部なんぞには関わりたくないと思っていたから。
だから、フレンダにもあまり深く関わりたくはないのだ。
先程助けたのは学園都市の外だったということも大きいし、あそこで見捨てるのもなんか悪かったからだ。
だから、少し話して、別れるつもりだった。
「うぅ、どうしよう」
少し涙目になり、目を潤ませるフレンダを見てしまう前までは。
向かいのバス停にバスが止まったのか、少しだけフレンダの髪が揺れる。
そこで、衛宮士郎はようやくはっきりと、フレンダ・セイヴェルンの顔をしっかりと見た。
暗色系のベレー帽と服によく映える大きく波のように揺れる金髪。そして水で満たされたかのような青い瞳。
そしてそれが、フレンダのことを想起させる。
『とある魔術の禁書目録』において、フレンダ・セイヴェルンは学園都市暗部組織『アイテム』のメンバーである。
そして、暗部組織の抗争の際、捕まって情報を漏らしてしまい、アイテムのリーダー、学園都市Level5第4位『
その後、彼女の死は様々なところに波紋を与えていくのだが……。
『……ああ、私に殺されるために生まれてきたんだって!』
そんなセリフが思い浮かぶ。結局、彼女は、性格はいいとは決して言えない。何せ、裏仕事の暗部組織の一員だ。普通なら関わりたくないであろう。
ただ、最後に衛宮士郎がなぜか思い出したのは、先程自分の作ったシュークリームを幸せそうに頬張った後のフレンダの顔だった。
それを思い出した時、なぜだかは分からないが、目の前で困っているフレンダを、衛宮士郎はどうしても見捨てられなかった。
当初の目的であったインデックスの誘拐は、虚言誘拐であることを知っている。
ならば、と。
衛宮士郎は、ベンチの横にある荷物の3分2ほどを抱えて、
「で、どこに行くんだ?」
感想、評価をお願いします。
ちなみに道路の反対側では、オルソラと上条さんが押し問答をしていたとさ。
次回、
「え、なんで学園都市の外だっていうのに物騒なもの持ち歩いてる集団がいる訳ーーーーーーーっ!」
とか言いつつショッピングするだけになりそう……(あれ、それってほぼデーt)
そして挿絵。……すまない、オルソラは難しすぎたんだ……。
……FGO、土方さん3枚目……新撰組だァ!