始まりの聖骸布Holy Shroud of beginning
ゾワリ、と背筋が震える感覚が走った。なんとも言えないイヤな感覚だ。
その後続いて目眩が起こる。
視界から色彩が抜け落ちていき、見える範囲はモノクロで、白黒だけで構成されていてーー
ーー世界が、歪む。
ただただ、気持ち悪い。少年が感じたことを言語化するならば、その言葉が適切であった。
とりあえず昨日から〈わだつみ〉という旅館に泊まっていたからして、事件があることは半ば予想できていたのだが、こんな影響を受けるということなど考えていなかった。
というか、普通の人間で、学園都市にも通っていない、つまり能力者でもなく魔術師でもない少年からして、この出来事は、感じ取ることのできないはずのものであった。
なのに、凄まじいまでの目眩を覚えている。
原因をいくつかあげてみるが、考えはとりとめのないまま、だんだん意識が遠くなり、何も考えられなくなっていく。
真っ白で、真っ黒で、視界が塗りつぶされてゆくのだ。
そんな朦朧とする意識の中、少年は、こんな言葉が自分の口から漏れるのを聞いた気がした。
「……
◾︎◾︎
「……はっ」
どうやら少年ーー衛宮士郎という名でこの世に生を受けた少年は、いつの間にか自分が寝ていたことに気がついた。
と、言うのも揺さぶられて起きたからだ。
どうやら、旅館の待合室のソファーで眠ってしまったらしい。
「お客さん、何やってるんだ?こんなとこで寝るもんじゃねぇっての」
「あ、すみません。疲れていたみたいで……部屋に帰ります」
あ、これは旅館の人に迷惑ではないか……と考えて少年は寝ぼけている頭を無理やり持ち上げ、自らの宿泊している部屋に帰ろうとする。
そこで衛宮士郎はふと疑問に思った。
確かにこの旅館の店長は背が高くて無愛想で、一見するとちょっと怖いかもしれない。だが、その髪はあんな肩まである程の長髪で、その上真っ赤に染めていたものだったか?
ぱっと、寝ぼけていた頭が覚醒し、目が覚めて後に振り向く。
こちらが急な動きをした物音に反応したのか、立ち去ろうとしていた店主さんも振り返る。
Tシャツに半ズボン着に首からタオルを引っ掛けたその人物は、
魔術師ステイル=マグヌスさん14歳であった。
「……なっ」
一旦少年の頭の機能は混乱のあまり停止した。身長2メートル強、赤髪長髪の英国人は、炎を自在に操る魔術師とか言う別世界の人間だ。文字通り少年にとっては、別世界の。
なにかおかしい、自分がここに来たのは上条さんの知り合いになっておくためであるだけで。
つまり魔神何かがいるこの世界で生きていくためには、主人公の知り合いになってくのが1番だと思ったんだ。
そして、転生者なのに魔術師でも能力者でもないのは、魔神とか星さんに目つけられないようにするためだ。
特に学園都市に行くなんて正気の沙汰じゃない。あそこは、全部☆(アレイスターさんのことだ)の庭だからな。
滞空回線ーーアンダーラインと言われるシリコンの塊は学園都市の空気中に散布されていて、それは文字通り滞空しており、すべてを監視している。しかもそれ自体はすごく小さく、認識できないと言う、個人情報保護なんのそのというやばいものだ。
つまりあそこでは、うっかり転生とか魔術とか口にするだけで、すごくまずいことに(つまりは実験体に)なるのだ。
だから自分は、この世界に転生して学園都市の存在を知った時から、ごく自然な一般人風に過ごしてきた。
自分はフツーに過ごしている(転生者という事を除けば、だが)一般人で、魔術師ではない。
何でそんな自分が、御使堕しを自覚している⁈
衛宮士郎の頭は混迷を極めた。
ステイルと化したおっちゃんは、どうしたんだ? さっきのツンツン頭の少年も怪訝そうに俺を見てたんだけどなんかあるのか?とか聴いてきたが、それどころではなかった。急いで店主のすぐ近くの自らの部屋に戻り、備え付けの鏡を見る。
その姿はーーいつも通りの赤銅色の髪を持った自分だった。
◾︎◾︎
「どうすんだこれ」
一応少年はつぶやいてみるが、どうしようもない。何故なら、魔術師ですらない自分に解除できないし、そもそも「幻想殺し」でも解除できなかった現象だ。それに何でこれを防げたのか定かでない。
「どうしたんだ、兄ちゃん」
「いや、何でもないです」
慌てて戻った俺を不思議に思ったのか、店主はそう部屋の外から顔を出してきいてきたが、少年はそう言いつつ、思考を巡らせる。
やばいこれは犯人として殺される可能性が高い。一瞬でその結論が出た。
そもそも何でこの状況になったのかほとほと本当に疑問である。
ちょっと身だしなみをですねと、苦しい言い訳をしつつ店主を帰す。
非常にやばい状況である。他の人は体が変わっているのに、自分だけ変わっていない。本当にまずい。
何処も体に異常はないか、手を辺りに振り回したりしてみる。
すると、体の機能には異常はなかったが、腕に何かを巻きついているのに気付いた。
それは、赤い布であった。
それは、どこかで見たことがあるものだった。
「……ああ」
そこで少年はやっと気付いた。
名前からしておかしいとは思っていたんだ。
どうやら少年はーー
ーー 1人だけFate時空にいるらしい。
他の作品も頑張りたいと言っているのにこのザマです。
ベートさんも近々投稿するので、お願いいたします。
あっちはきりとさんが強くなりすぎて困るんですよ。
感想、お願いいたします。励みとなります。