代わりにオリジナルをどうぞ。
シャロが帰った数時間後、僕はラビットハウスにいた。
今日は朝からラビットハウスでアルバイトだからだ。
ここでのバイトはたまに大変な時もあるけど、バイト自体は面白いし、最近は任せて貰う仕事が増えて、お店に貢献出来てるって気がして楽しいです。
今日はまだリゼとユキは来ておらず、ココアちゃんは2階の彼女の部屋でティッピーを枕代わりにして寝ているらしい。
なので珍しく僕とチノちゃんの2人で店をまわしている。
カランカラーン
お客さんのいない店内に来客を告げるベルが鳴り、仕事の手を止め振り向くと、僕より少し年上の若い女性が入って来るのが見えた。
「いらっしゃいませ。
「こんにちはトウカさん。いつものとサンドイッチお願いね。」
「はい、かしこまりました。」
今、来店して来たのは更衣さん。
ラビットハウスの常連さんで女性用の服屋で働いている女の人だ。
(更衣さんの“いつもの”はキリマンジャロ。)
カウンターに向かう途中で彼女がいつも注文するコーヒーを思い浮かべる。
最近、常連さんにも顔を覚えられ、常連さんがいつも頼むメニューも分かるようになってきた。
これも成長の証かな?
「チノちゃん、キリマンジャロを1つお願いね。」
「分かりました。」
そんな事を考えながら、カウンターに立つチノちゃんにコーヒーを頼んで、僕は裏の厨房でサンドイッチを作り始める。
「トウカさん、コーヒー出来ました。」
サンドイッチをお皿に盛り付けた頃、タイミング良くチノちゃんがコーヒーを淹れるのに使った道具をお盆に乗せて持って来た。
「了解、こっちも丁度出来たよ〜。」
「ありがとうございます。」
チノちゃんが持ってきた道具を受け取って代わりにサンドイッチが盛り付けられたお皿をお盆に乗せると、彼女は礼を言って厨房から出て行った。
更衣さんの接客をチノちゃんに任せ、その間に僕とチノちゃんが使った器具や道具を洗っておく。
少ししてホールに戻るとチノちゃんが更衣さんの相手をしているのが見えた。
「ーー」
「ーーーー!」
洗い終えたコーヒーの道具を棚に戻している間に2人、というより更衣さんの声がメインの会話が聞こえて来る。
けど2人が声を抑えて話している為か、何を言っているのかまでは聞こえない。
「「ありがとうございました」」
そうしている内にコーヒーとサンドイッチを食べ終えた更衣さんが会計を済ませ満足そうな表情でラビットハウスを後にするのでそれを2人で見送った。
「チノちゃん、更衣さんと何話してたの?」
更衣さんが帰った後、テーブルを拭きながら2人が話していた内容がちょっと気になったのでチノちゃんに聞くけど、「何でもないです」と答えを濁される。
(……個人的な事だったのかな?)
最近割とよくある事なので、特に気にする事なく僕はテーブルを拭いていく。
さっきチノちゃんと更衣さんの間でどんな会話があったかも知らずに……。
――第23話 おもいで2――
チノside
トウカさんはよく働いてくれます。
コーヒーを淹れるのはまだもう少しですが、それ以外の仕事である、お客さんの接客や、料理や清掃、買い出し等はばっちりで、特に料理の腕は私達の中で1番美味しいです。
それに前の街でコーヒーを淹れていたらしく、コーヒーの味の違いも分かっています。
そんなトウカさんですが、1つ困った事が。
それは、お客さんの殆どがトウカさんを“女性”だと思っている事です。
今、いらっしゃっている更衣さんもその1人。
トウカさんが作ったサンドイッチと私の淹れたコーヒーをトレイに載せて、更衣さんのテーブルに運ぶと、更衣さんは
「前から気になっていたんですが」
と、前置きして、
「どうしてトウカさんは女の子なのに男性用の制服しか着ないの?」
と聞いて来ました。
トウカさんは男性なので男性用の制服を着ている事は何も間違ってはいません。
しかしトウカさんが女の子みたいな顔立ちをしているせいで、彼を女性だと思っているお客さんは違和感を感じてしまい、最近こんな質問をよくされます。
そういう時、対応に困ってしまいますが、私は「彼は男性です。」と、正直に答える事にしています。
そう言うと大抵のお客さんは驚いて、半分以上が信じてくれないのですが、
「えっそうだったの!? ずっと女の子だと思ってた!」
更衣さんは信じてくれました。
「そっか、男の子だったんだ。……でも彼、女の子の服も似合いそうね。」
「!?」
少しイタズラっ子な笑みを浮かべながら更衣さんが呟いたその言葉に過剰に反応してしまった私。
……何故なら、私も同じ気持ちだからです。
それを素直に更衣さんに話すと、更衣さんは「やっぱり、そうだったのね♪」と微笑んだ後、トウカさんに似合いそうな女性服を色々挙げていきます。
その中にはよく分からないものもありましたがどれも興味深いもので、こんなに色々とアイディアが浮かんでくるのは何故かと聞くと、更衣さんは女性用の服屋で働いていて、前々から色々な服をトウカさんに着せたいと思っていたらしいです。
その気持ちはトウカさんが男性と分かった今も止まらず、寧ろ増加してしまったようで、途中から洗い物を終えたトウカさんがホールにやって来たので、私はこの話の内容が彼に聞こえてないかどうか気が気ではありませんでした。
一通りトウカさんに似合う服を挙げ終わり、食事を済ませ満足した表情をした更衣さんはお店を後にしました。
会計の時にこっそり私に一枚の名刺を渡して……。
「チノちゃん、更衣さんと何話してたの?」
テーブルを拭きながら、トウカさんが聞いて来ました。
トウカさんの声の感じからすると、どうやら会話の内容は聞こえてなかったようでちょっと安心して、私はいつも通り「何でもないです」と答えて仕事に戻りました。
制服のポケットにさっき更衣さんから貰った名刺を大事にしまって……。
トウカside
ゾクゥッ
「!?」
テーブルを拭いてる途中、突然背中に寒気を感じて周りを見渡す。
だけど、そこにあるのはいつも通りのラビットハウスの光景でどこもおかしい所なんてない。
「どうしたんですか?トウカさん。」
カウンターの向こうでコーヒーの用意をしていたチノちゃんが尋ねてくる。
チノちゃんがいる方向はさっき僕が寒気を感じた方向と一緒。
もしかして、チノちゃんが……?
そういえば心なしか彼女の瞳に光がないような……。
「……いや、まさか気のせいだよね。」
「?」
浮かんだ自分の考えをありえないと切り捨てる。
そんな僕を見て、チノちゃんは小首を傾げていた。
その後、少しした後にリゼとココアちゃんがやって来たけど、その中にユキの姿はなかった。
なのでリゼに「ユキはどうしたの?」と聞くと「あぁ、まだ寝てるよ。」と返ってきた。
相変わらずお寝坊さんの幼馴染に苦笑いした後、4人でお店をまわしていく。
特にハプニングも起こらず平穏にバイトしていたが、その平穏は突然何の前触れもなく放ったココアちゃんの一言がきっかけにより崩れ去った。
……でも今にしてみれば、それは遅いか早いかだけの問題で結局はこうなっていたのかもしれないと思う。
「次回、冬華がひどい目に遭います♪」
冬華「ちょっ!? えっ!?」
「はたしてどんな目に合うのかお楽しみに!」
2/9(木)
・通算UAが15000を突破しました♪ 読んで頂きありがとうございます。
2/11(土)
・お気に入り数が140人を突破しました。この小説にお気に入り登録して頂きありがとうございます♪