更新遅れてごめんなさい。
書き溜めが前回の“かんげい”で全て更新してしまったのと私用の為、更新遅くなりました。
今回から“小麦を愛した少女と小豆に愛された少女”編がスタートします。
まず前半にオリジナルを挟んでから、後半は“にゅうがく”というタイトル通り入学編を入れます♪
そのため、文字数が約3400文字といつもより長めですがご了承下さい。
(>人<;)
それではどうぞ♪
前から薄々と感じていたとある違和感。
それはきっと本当に些細なものから始まったんだと思う。
“彼女”は周りと比べて賢過ぎていて、どこか人間くさい、というその違和感は、ある1つの仮説を生んだけど、それは普通ではあり得ない事だったから最初は気のせいだと思って僕はその考えを切り捨てていた。
だけど“彼女”を見ていると、その仮説が日が経つごとにどんどん大きくなっていって、ある日ついにその証拠となる出来事に遭遇してしまった時、僕は“
そう、数日前から正式にバイトとして働く事になったラビットハウスで、飼っているウサギのティッピーの事を……。
「……。」
今、僕の目の前にいるチノちゃんとティッピーは共に青い顔をして、僕の視線から逃げるようにそっぽを向いていた。
同じ行動を取っているその2人(正確には1人と1匹)の雰囲気はよく似ていて、まるでイタズラが親に見つかった子供のような印象を僕に与える。
……その時点でおかしい。
ウサギのティッピーがチノちゃんと同じ行動を取ってるなんて、まるでティッピーが人の感情を持ってるみたいじゃないか。
普通のウサギなら我関せずでどこかに行けば良いのに。
そう指摘するとチノちゃんもティッピーも"ハッ”と気付いた表情をして、ティッピーはそそくさとどこかに行こうとするので、
「今更遅いよ……。」
と、少し呆れるように呟いて、ティッピーを掴んで元いたラビットハウスのカウンターの上に戻す。
ジダバタ暴れていたティッピーだが、
「どうやら言葉も通じてるみたいだね。」
と、言葉を放つとシュンと大人しくなった。
その行動からみても、そのタイミングからみても、人の言葉を理解していないと無理な芸当だからティッピーは本当に人の言葉を理解しているようだ。
「……まぁ別におかしな事ではないか。
一緒に暮らしてる動物が人の言葉を理解したり、行動を真似するのはよくある事らしいし。
実際におばあちゃんが飼ってる柴犬もそうだから。
……でも、ティッピーの場合は違うよね?」
「「!」」
最後に付け加えたその言葉でギクリと身震いする2人。
……その行動はどう見ても肯定を示していた。
「……。」
「……。」
ホールに重たい空気が流れる。
目の前にいるチノちゃんの表情は辛そうで、それを見ていると段々と申し訳ない気持ちが膨らんできた。
だから、話を区切ろうと口を開きかけた時、
「あの、ここにいる私達と、父以外の人には絶対に言わないで下さい。」
と前置きをして、チノちゃんは話始めた。
香風家だけが知っているティッピーの秘密を……。
ーーーー
チノちゃんが話してくれた内容はある意味衝撃的だった。
だって、ティッピーの中には数年前に亡くなったチノちゃんのおじいさんが憑依していて、彼が表にいるから人の言葉も理解出来るし、人の言葉も話せる。なんて話、まるで漫画の世界みたいじゃないか。
そんな事、普通なら信じないだろう。
……でも僕は、たどたどしくも真剣に話すチノちゃんの表情を見て、彼女の言葉を信じる事にした。
まぁその後、実際に喋ったティッピーを見て、これが本当の事だという事を嫌でも信じなきゃならなくなったけど……。
ーーーー
「……ごめんね、つらい思いさせちゃって。
そしてありがとう、話してくれて。」
話終えた後、辛そうな表情をして俯いているチノちゃんを見て、僕のふとした好奇心で彼女に辛い思いをさせてしまった事を実感させられ、まずはその事を謝ってから、話してくれた事に対する感謝を述べる。
「いえ、大丈夫です。それであの……、」
「うん、大丈夫。誰にも言わないよ。ユキにもリゼにも。」
心配そうに上目遣いをしてきたチノちゃんを安心させるようにその言葉を呟くと彼女の表情は少し明るくなった。
そんな彼女の表情を見て、自然と僕とティッピーの顔もほころんだ。
「さて、話してくれたお礼、何かしないといけないね。」
「いえ、悪いです、そんな。」
僕の提案に慌てて立ち上がるチノちゃん。
そんな普段あまり見れない彼女の慌てた様子に再び顔をほころばせて、
「良いよ良いよ。
僕が無理やり喋らせたようなものだし。
……と、言っても特に思いつくものないからな。
まぁ僕に出来ることがあったらなんでも言ってよ。
俺に出来ることがあったらするからさ。」
そう言って彼女の頭を撫でると、少し顔を赤くしたチノちゃんは「なんでも……。」と、小さく呟いた。
この時はまだ知らなかった。
この言葉が後にあんな事になるなんて……。
ーーにゅうがく1ーー
「「「いってきまーす」」」
ティッピーの一件から数日が経ったある日の朝、玄関に僕とリゼとユキの明るい声と、
「おう、3人とも気を付けてな。」
『いってらっしゃませ!!』
僕ら3人を見送る
――――
「いいなー、リゼちゃんは。トー君と同じ学校行けて。」
天々座家を出て少しした頃、自分の通う学校の場所を確認する為についてきたユキが、僕と同じ学校に行くリゼに向かって羨ましそうな寂しそうなそんな表情で呟き、リゼは「同じ学校とは言っても、学年は違うんだけどな。」と返す。
……ユキの言葉通り、ユキが通う学校と、僕とリゼが通う高校は別々で、僕とリゼが通う学校は今日が入学式なのに対し、ユキが通う学校は明日が入学式である。
その為、今制服を着ているのは僕とリゼだけで、ユキは私服姿なのだ。
『引っ越したとしても、僕と違う学校になるけどそれでも良いの?』
ユキが僕と一緒にこの街に行くと言った時、僕はそう忠告した。
その忠告を聞いても尚、『一緒にいたい』と言ったユキは自分の両親を説得して、僕と共にこの街に引っ越して来た。
その為最初っから僕と同じ学校に通えない事をユキは知っている。
……知っているんだけど、それで彼女が納得しているかは別の話で、最近ユキが寂しそうな顔をしているのをよく見るようになった。
だから、少しでも元気付ける為にユキとある1つの約束をした。
“今度、ユキの好きなお菓子を1つ作る”という約束を。
僕が作るお菓子は結構好評で、中学の時はよく同級生から作ってとせがまれたり、誕生日パーティをする際はお店でケーキを買わずに僕がケーキを作る事が多かった。
お菓子作りの時は大抵僕が作るのを選んでるけど、誕生日の時はその誕生日の人がリクエストしたケーキを作っていた。
だからなのか、ユキに「好きなお菓子を作る」と言った時に「私まだ誕生日来てないよ?」とキョトンとした顔で言われてしまった。
その後、「今回は特別だよ。」と微笑むと、思った以上に喜んでくれたユキを見て、少しでもユキを元気付けようと思って言った提案がこんなにも効果があった事に対する驚きと、期待されてる事への喜びを感じ、ユキが何を注文しても過去最高の出来にしようと心に決めたのはついこの間の事だった。
「それにしても、ユキ1人で大丈夫のか?」
「ん? どういう事?」
少し前を歩くユキの背中を見て、少し前の事を思い出して微笑んでいると、横にいるリゼが心配そうな顔で僕に聞いてきた。
「いや、この街ウサギいるから、追っかけて迷子にならないか心配なんだが……。」
リゼの不安はよく分かる。
この街にいるウサギはどれも可愛く、見つけたらついつい追いかけたくなる衝動に駆られるからだ。
ここ数日間、リゼにこの街を案内してもらったとは言え、僕もユキもまだまだ知らない場所の方が多い。
そんな場所にウサギを追いかけて、辿り着いたら帰るのが困難だろう。
でも、ユキなら大丈夫だ。だって、
「ユキ、ああ見えて地理に強いから大丈夫だよ。」
「そうなのか?」
リゼが少し意外そうな声を出す。
よく意外だと言われるけど、ユキは地理が強い。
知らない場所に一緒に行く時は、僕が持つより彼女に地図を持たせた方が上手く行く事が多いのだ。
この街に最初に来た時のように。
だから今回もユキ1人で高校の場所を確かめに行くのに実は特に不安や心配はしていなかった。
その事をリゼに説明するとリゼは「じゃあ、大丈夫か」と、安心した表情でそう呟く。
「おーい、トー君、リゼちゃーん! 早く早く~。」
それと同時に少し前の方から僕らを呼ぶユキの声が聞こえてきた。
「はーい、今行くよ。」
その声に返事をして、僕とリゼは待っているユキの元に歩き出す。