王の二つの身体   作:Menschsein

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Diligit anima mea 4

 防御力が高く、攻撃力が低い。そしてヘイト値が高く、モンスターが群がって攻撃してくる。ぶくぶく茶釜。防御力に特化したステータスだけに、プレースタイルは限定される。

 しかし……。

 そこに、物理防御力が低いアンデッド。モモンガ。ソロでモンスターと戦うには、弱い。特に、魔法防御力が高い近接戦闘タイプのモンスターなど、相性最悪。

 

 そんな彼が加われば、どうなるか?

 

 その答えは、プレースタイルが、大幅に広がる。今まで手が出せなかったモンスター、ダンジョン。ユグドラシルの世界が一気に広がった。最強のツーマンセル、理想の組み合わせなのではないかとさえ思う。

 

「あっ、レアドロしたみたいです!」とモモンガが嬉しそうにデータクリスタルを拾っている。

 

「良かったですね! この調子で集められたら、もう少しで種族レベル上げられそうですね」

 

「本当にありがとうございます。ぶくぶく茶釜さん。できれば、あと何周かしたいんですが……」

 

「あっ……でも……。まぁ、いいっか! やりましょう!」と彼女はモモンガの提案に快諾する。だって、楽しいんだもん。

 

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「たっちさん、ごめんなさい。遅れてしまいました」とモモンガは申し訳なさそうに言う。

 

「ほんとですよ。一時間の遅刻ですw みんな待っていましたよ」とクランのリーダーであるたっち・みーさんが、冗談混じりに言う。

 

「申し訳ないです」

 

「私も申し訳ないです」と彼女も謝罪する。

 だけど、このまま周回プレーを何度もしたら、約束の時間を過ぎることを彼女は実は気付いていた。約束の時間に遅れることは悪いことだとは分かっていたけど、彼女はモモンガの提案を快諾した。

 

 モモンガさん。

 いつも冷静沈着な感じだけど、夢中になると時間を忘れてしまう人。

 

 モモンガさん。

 エンシエント・ワンさんや、ウィッシュさんからは、弄られキャラ。それを見てるの、割と好き。

 

 モモンガさん。

 親身に話を聞いている人。

 

 モモンガさん。

 モンスターを倒す最後の一撃は、派手なエフェクトの魔法を選ぶ、ちょっと可愛い人。

 

 モモンガさん。

 独身。周りの人たちの話では、恋人いない人。

 

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「モモンガさん……実はちょっと相談があるんですが……」

 

「え? もちろん大丈夫ですよ」とモモンガさんは不安そうに答えた。

 

 それはそうだと思う。ギルド、アインズ・ウール・ゴウン。そのリーダーとなったモモンガさん。モモンガさんがリーダーとなり、順調にギルドは発展し、ギルド順位が九位にまでなった。

 だけど、最近はメンバーのリアルが忙しくなった。急に仕事の拘束時間が増えたり、仕事の量が格段に多くなったり。社会全体のスローガンが、『ゆとりある余暇を仮想現実で』から、『人類全体で難局を乗り切ろう』へと変わってしまった。

 必然的に、ユグドラシル引退を余儀なくされたメンバーも多い。

 

 今から切り出すのは悪い話だ。

 

「実は……。仕事が順調というか、増えてきて、頻繁にログインすることができなくなるかも知れません」

 

「そうですか……。ぶくぶく茶釜さんって、声優さんでしたよね。仕事が増えるって、良いことじゃないですか」

 

 モモンガさん、寂しそうだ。

 

「なんだか、男女問わず、リアルでは疲れていて、互いにDoする余裕が無くなってしまったようで、逆に私が出演しているようなゲームの需要が高まったみたいで……仕事のオファーも多くって……」

 

「そうですか……。でも、仕事のオファーが多くなるって、ぶくぶく茶釜さんの実力が認められてきたということですよね。それは私も嬉しいですよ!」

 

 無理しなくていいですよ、モモンガさん。

 

「実力ですか……。実は、声優の間では、恋をしていると演技力が伸びるって……。そう言われているんですよね……」(チラッ

 

「ペロロンチーノさんが、恋はバッドステータスだ、って言ってました。仕事に手が付かなくなるって。だけど、声優さんでは、良い方向へと動くんですね。種族によって、属性が変わるみたいで面白いですね」

 

 ――弟、何、余計なことをモモンガさんに吹き込んでんだ? 実家に帰ったらとっちめてやる――

 

「……えっと、それで、実はモモンガさんにプレゼントがあるんです」と、彼女はモモンガにそれを差し出す。

 

「腕時計ですか! ありがとうございます。大切に使います」と嬉しそうに腕にモモンガは嵌めた。

 

「ゲームに夢中になると、時間を忘れてしまうモモンガさんにはぴったりかな、と思って。あと、隠しコマンドがいくつかあるので、是非探してみてください」

 

「ありがとうございます。タイマーまで付いている! 実は、時間停止中に魔法を掛けるのはなんとか習得できたのですが、どうも、超位魔法の冷却時間は長すぎて、数えながら戦闘することができなかったんですよ」と、モモンガは嬉しそうに時計を操作する。

 

 ――作って良かった。モモンガさんは、あの隠しコマンドを探し出してくれるだろうか――

 

『予定したお時間が経過したよーモモンガお兄ちゃん!』

 

 モモンガが操作したタイマーの音声が鳴った。

 

「音声も、ぶくぶく茶釜さんなんですね。ありがとうございます。大切にしますね。それにしても、『モモンガお兄ちゃん』は照れますね」

 

「あっ、いえ。私は弟しかいないし、モモンガさんのようなお兄さんがいたら良かったなぁなんて……まぁ、ネタです、ネタ!」

 

 ――自分、何言ってんだろう――

 

「大切に使わせていただきます」

 

「そういって戴けると嬉しいです! では、モモンガさん! 時間を見つけて、ログインしますので!」

 

「えぇ、待っています!」

 

 ……結局、ユグドラシル最終日まで、ログインすることができなかった……。

 

 


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