『ごめんなさい。音声通信で話している分には楽しいんだけど、付き合うってなるとね……。声と外見のギャップありすぎ? みたいな?』
じゃあ、デブで、声もデブ声だったら、ギャップ解消できますが……?
『声は可愛いよね~』と友達からも言われる。だけど、『声は』の『は』に棘を感じる。
一世一代の大告白。あえなく撃沈。傷心旅行に出かけます。旅先は、ユグドラシル。半分は、自暴自棄でこれでもかっていうアバタ―を作った。そして、残りの半分は、下半身でしか考えてないくせに、その下半身が醜いんだよ、っていう嫌味のつもりだ。
ステータスも、防御力に全振りして、攻撃力をトコトン抑えた。自分も攻撃力が低いけど、相手からのダメージも少ない。徹底的に、モンスターと殴り合って、体力を削り合うという、お互いがサンドバッグになるという誰も得をしないプレースタイル。ヘイト値高め、バッチ来いや~!!
だけど、やってみたら意外と面白かったユグドラシル。
今日は、シシリック・アイランドで、冥府王アイドーネウス狩りをし、レアドロを狙う予定だ。
冥府王アイドーネウス。別名、ハーデス。種族、アンデッド。
冥府王アイドーネウスは、ギリシャ神話が元ネタで、
ネットに転がっていた情報だと、その冥府王アイドーネウスの出現条件は、その神話にちなんで、女性キャラが、“ペルセホネの
よくこんなマニアックな出現条件を発見したのだと彼女は感心する。
自分の人生に、春いらね(ペッ。もうずっと冬でいいからさ。今日、冥府王アイドーネウスを狩りに行こうと思ったのも、なんとなくネットで流れていた設定がムカついたからだ。とことん、冥府王アイドーネウスと殴り合ってやろうじゃないか。バッチ来いや~!!
だが、冥府王アイドーネウスは待てども出現しない。
ネットの情報がガセネタであったのか。それとも、“人間種”の女性キャラという条件なのであろうか? もしかして、外装が“美しい”とか、そういう条件か? おい、くそ運営! どういう基準だ!
場所を変えて
他のプレイヤーが先に倒してしまって、再出現の冷却期間中なのかな?
とりあえず、彼女は待ってみることにした。しかし、待つのは良いが、やることがない。“ペルセホネの
辺りは、花畑で、なぐり合うモンスターもいない。平和な世界だ。
そして、花の冠でも作ろうかな。
現実ではこんな広大な花畑など、アーコロジーでは存在しないであろう。花の冠。一度は作って見たかった。おとぎ話の少女のように。
花の冠は、いざやってみると、楽しかった。一輪一輪、茎を丁寧に編み込んで輪を作っていく。
時間を忘れて、夢中になっていた。
そして、ふっと気配を感じて顔を挙げる。すぐ近くにアンデッドが立っていた。やっと現われたか、冥府王アイドーネウス。
「ごめんなさい。アイテム採取に夢中で……敵意はありません」とアンデッドは、両手を挙げていった。
(アンデッド違いかぁ……)
一瞬、やっと来た!! と思ったのに、がっかりだった。
「あ、あの。何を作っているんですか?」とそのアンデッドはさらに話しかけてくる。
ぶくぶく茶釜は、アンデッドの質問に沈黙で返すことにした。
(花が綺麗だったので、花の冠を作ってました)
そんなことを言っても、笑われるだけだ。馬鹿にされるだけだ。
『ピンクの肉棒で、それ似合わない。ギャップありすぎ』と嘲笑されるだけだ。というか、話しかけずらい外装にわざわざしているのだから、空気を読んで話しかけてこないでよ、と彼女は思う。
実際、異形種でありながら彼女を襲ってくる異形種狩り
「ごめんなさい。他人に軽々しく言えないですよね。聞いてごめんなさい」とアンデッドは一礼してこの場を去っていく。
彼女は、また花の冠を作りを再開する。
それにしても、一日に二度も、話しかけられるなんて、珍しい日だなぁ……。一か月に一度話しかけられるかどうかであるのに、一日に二度など、ユグドラシルを初めて以来、最高記録だ。まぁ、話しかけてきたのは、どっちも異形種だったけど。うわぁ、類は友を呼ぶってやつかな。だけど、なんかそれ嫌だなぁ……。
だが、ふと思う。
一日に二度も、自分が話しかけられる。奇跡のような確率であると言っても良い。ゲームを始めてから随分と経過したが、フレンド数がゼロから動いた試しがない。
(もしかして、さっきのアンデッドは、冥府王アイドーネウス? )
彼女はその可能性に気づく。冥府王アイドーネウスがエリアボス扱いであるなら、AI搭載で、簡単な会話が出来てもおかしくはない。
ギリシャ神話によれば、冥府王アイドーネウスは、一目ぼれをしたペルセホネを冥界へと強引に連れ去った人物。強引に連れ去る行動力。つまり、肉食系男子ということであろう。
だが、肉食系男子が激減して、絶滅してしまったのではないかとさえ言われている現代だ。運営もそのあたりを組んで、冥府王アイドーネウスを草食系男子に設定変更している可能性がある。
草食系であればどうするか。いきなり襲いかかってくるようなことをしないで、軽くジャブを打つのではないだろうか? いや、むしろ、こっちから襲い掛かるくらいしなければならないのではないだろうか。
いや、でも私、肉食系女子じゃないし……って、そんなことも言ってられないか……。冥府王アイドーネウスのレアドロップアイテムはかなり使い勝手が良いし、今日を逃すと“ペルセホネの
よし。彼女は決意した。先ほどのアンデッドを追いかける。頭部をぐにょんぐにょん揺らしながら走る。
「す、すみません。ちょっと待ってください」とアンデッドに呼びかける。
「え? あ、あぁ。さっきの」とアンデッドは振り向く。
彼女は、立ち止まったアンデッドを見る。冥府王と言う名前の割には、装備は貧相だが……。
「もしかして、あなたは、冥府王アイドーネウスですか?」
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「いえ、違いますが。というか、私はプレイヤーなんですが……」
「で、ですよねぇ~。あはははは」と、彼女は笑って誤魔化すことにした。