東方追憶譚 ~the First Memory~   作:ほーりーさん

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少女と過去の記憶

大学の図書館から本を借りてきてからもう2日が経った。

 

 「詩音、もう準備はいいか?」

 

 お父さんはもう準備ができたみたいだ。私は1日分の着替えを荷物に入れてお父さんの車に乗り込んだ。

 

 私は今から長野にあるお父さんの研究所に同行させてもらうことになった。

 研究所に行くが、本来の目的は研究所ではない。

 私は大学で見つけた本に書かれていた、「幻想郷」という場所を調べに来たのだ。

 そのために、私は本も持って行こうと思ったが、よく考えると大学の本であるために持って行って無くしてはまずい。そのために昨日私は家で本をコピーして、大学へ本を返してきた。 

 そういえば、図書館の司書さんもこの本に見覚えがないって言っていた。

 紫さんも昨日は休みだったけどどうしたのだろう?

 

 そんなことを考えてるうちに私は車に荷物を入れた。入れたと言っても洋服を入れた荷物と、携帯やiPod、コピーした本を入れるメッセンジャーバッグだけだ。それと手で卯月を抱えている。

 出かける時、卯月を抱えて出かけるのが多かったためか、なぜか慣れてしまっていた。

 

 私は卯月と一緒に車に乗り込み、3時間ほど揺られて長野県についた。

 

 9時38分、お父さんとともに研究所の人たちに挨拶をしてから、研究員用の寮に荷物を置いて現地調査を開始した。

 

 お父さんにも一応調べたいことがあると言ったが、お父さんは特に何も言わずに「夕食までには帰ってこいよ」とだけ言った。

 

 10時頃に、私は研究所の近くのバス停から目的地まで向かった。目的地は手掛かりとなりそうな「博麗神社」に行こうと思った。

 博麗神社は幻想郷にいる「博麗の巫女」が住んでいるという神社だが、どうやら幻想郷の中と外の両方に存在するらしい。

 私は神社の神主に幻想郷について聞こうと思っている。

 そう思ってバスに乗り込み、またもや1時間ほど揺られている中、私は山の風景を眺めながら眠りについた。

 

 

 

 

「では師匠、お薬の配達に行ってきますね」

「ええ、気をつけて行ってらっしゃい」

 兎の少女は師匠と呼んだ女性に告げると、竹林にある屋敷を足早に出て行った。

「今日の配達は、人里で3件と紅魔館、そして博麗神社ね。紅魔館はまだいいんだけど、博麗神社は少し遠いなぁ」

 少女はため息をつくと、視界の端に映った一軒の民家に目をやり、寂しげな表情でつぶやいた。

「そういえば、彼女がここを去ってからもうそろそろ10年も経つんだ…」

 少女は今でも、この家を見るたびに彼女と過ごしていたあの日々を思い出している。

「もう10年経ってるってことは、そろそろ大人になっているのかな?たしかあの時が9歳だったから…今は19歳になってるのか」

 当時の思い出にふけっていたが、彼女は今自分がすべきことを思い出した。

彼女は民家を後にしたが、見えなくなりそうなところで一度足を止めて振り返った。

「また…会えるかな?」

 そう呟くと、少女はまた足を進めていった。

 

 

「博麗神社前〜、博麗神社前〜」

 そのアナウンスを聞いた私は、席から立ち上がりバスから降りようとした。

 すると、バスの運転手に呼び止められた。

 「こんなところに女性1人で大丈夫ですか?」

 「え?どういうことですか?」

 詩音は突然のことに困惑するが、運転手が言ったことは2つだった。

 

 1つは、博麗神社は数年前に無くなっているということ。

 神社そのものが取り壊されたというわけではないが、数年前に廃社となっていたらしい。

 2つ目は、この地域のバスは1日に三本しか来なく、今日は夕方にあと一本だけらしい。具体的には6時半ぐらいだそうだ。

 一応時間を忘れないようにアラームを設定しておこう。時間はバスの来るい時間ほど前でいいか。

 

 私は忠告してくれたバスの運転手に礼を言うと、バスを後にして神社へと向かった。

 

 

 そこそこ長い階段を登り見えてきた鳥居をくぐると、そこには寂れた神社があった。手水舎の水は枯れて、本殿の屋根は所々ぼろぼろになっていた。

 バスの運転手さんはいろいろ見て回っても大丈夫だろうって言っていたし、境内をいろいろと見て回ることにした

 しかし、境内をいくら見て回ったところで何かが出てくるわけではなかった。

 

「まあ、そんな簡単にはいかないよね」

 これ以上境内を探したところで何もないと考え、私は神社の裏へと回ってみた。

 

 神社の裏へまわると、木々が生い茂る自然の豊かな光景が広がっていた。

 本殿の裏には地元の高校生が書いたであろう落書きがいくつか書かれていた。数年前までは参拝客もいたのだろうと伺える。

 

 森の中を少し進むと、突然と違和感を感じた。このまま進むと、きっとたどり着ける。そんな予感がして私はどんどん森の奥へと進んでいた。

 少し進んだところには小さな池が広がっていた。

 池の周りを少し進むと、目の前に奇妙なものを見つけた。それは変なモヤモヤしたものだった。

 きっとこの先に探しているものがあるのだろうと思い、私はモヤモヤに手を当てた。

 

 すると、途端にこのモヤモヤの仕組みが頭の中に流れ込む。そしてその流れてくるものは、どこかで見覚えがあった。

 しばらく流れてくるものを見ていると、私はこれを完全に『理解』することができた。

 これがあの本に書かれていた「博麗大結界」だ。

 そして、私はこの大結界の仕組みを完全に『理解』できている。私でもなぜ理解できているのかわからないが、その事実だけは分かる。

 私はどのようのしてやっているのかわかっていないが、私はこの結界を再演算して一部を開くことができた。

 このまま入って大丈夫なのか、そんなことを思いながら私は開いたモヤの前に立ちすくんでいた。

 開いた先を覗き込んでも、周りとは特にかわった様子はなかった。

 

 そう思った時に突然と開いたモヤが閉まり始めた。

 私は反射的にモヤの中へと入ってしまった。

 

 突発的に入ってしまったことを後悔してしまったが、後ろのモヤをもう一度触れてみたところ、こちら側からも開けられるらしい。

 

 ちゃんと戻れることを確認して安堵するのもつかの間、今度は手に抱えていた卯月が突然地面へと降りて走って行った。

 

「あ、ちょっと卯月!」

 私は慌てて卯月の後を追いかけた。

 

 

 追いかけて森の中を抜けると、見覚えのある建物が見えてきた。

 

「あれ、この建物…」

 少しずつ建物へと近づくと何の建物かがわかってきた。

 おそらく、この建物が本当の博麗神社なのだろう。そんな感じがしていた。

 そして神社のそばにある建物の縁側に置いてある座布団の上に卯月は座っていた。

「もう、卯月ったら」

 私は座布団の上にいる卯月を抱え上げ、神社の表へと向かった。

 

 博麗神社に無事に着けたものの、境内には誰もいなかった。ここの巫女である「博麗霊夢」という方にこの幻想郷のことを聞こうと思っていたのに。

 しかし、ここから神社の正面へ目を向けると、神々しい秋の山の風景が広がっていた。その赤い山々を見ていると、民家の集まりのような場所が見えた。

 きっとあの本に書いてあった、ここに住む人々が暮らしている郷なのだろう。

 私はその郷を次の目的地として神社を去ろうとしたが、あの本にこの神社の巫女が貧乏巫女と言われていたのを思い出した。

 「まあ人里とここまで離れていたら人もあまり来ないだろうな…」

 そう思い私は本殿の方へと向かいお参りをしてきた。せっかくなので御賽銭箱には千円札を入れていった。これで私の残金は6,680円だ。

 

 お参りもして私は神社を去ろうとした。するとまた卯月が飛び降りて駆け出した。そのまま神社の鳥居へと走って行ったので、私もその後を追いかけた。

 

「あー!あんたこんなところにいたの!?」

 突然、鳥居の先の階段から大きな声が聞こえた。

 私は急いで向かうと、何とも奇妙な光景を目にした。

 

 目の前には、うさ耳の付いている少女がうさぎの首根っこを掴んでいたのだ。

 それも卯月に説教するかのように喋っている。

「あんた最近見かけないと思ったら何してんのよ!他のうさぎたちがどれだけ心配したと思ってるの!」

 

 私がその光景を漠然と眺めていると、少女はこちらに気づいたのか顔を赤らめて頭を下げ、「と、突然大声をあげてすみません…」と謝罪してきた。

 

「い、いえ。大丈夫です」と私が告げると、うさ耳を着けた少女は何かに気づいたのか私の顔を見あげた。

 

「え…?も、もしかして、紫苑(シオン)さん?」

 突然名前を呼ばれて困惑する。私はとっさに、

「は、はい。宮野詩音です」と謎の回答をしてしまった。

 私は内心、なんで名前を呼ばれていきなり自己紹介しているんだと真っ赤になっていた。

 

「あれ、別人?いやでも確か因幡(いなば)…、宮野って紫苑(シオン)さんの新しい親だって言ってたような…」

 

 少女も何か困惑しているようだ、このままでは埒が明かないと思い、

「あの、よければ落ち着いて話をしませんか?」

 と提案した。

 

「そ、そうですね」と少女は一言言うと、大きく深呼吸をした。

 その隙を見計らったかのように、卯月が少女の手から離れた。少女が「あっ!」と言った時には私の方へと戻って来ていた。

 

 それからしばらくして、私たちは階段に腰をかけて話を始めた。

「先ほどは取り乱してしまいすみません、私は鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・といいます」

といい、自分の名前を漢字で紙に書いてくれた。

「い、いえ。私の方こそすみません。えっと、私は宮野詩音といいます」

 などというぎこちない自己紹介から始まった。

 そして私もその紙に自分の名前を書いた。

「あ、私の名前は長いので気軽に鈴仙などと呼んでください」

 ここで鈴仙と言われて私は思い出した。

 

 たしかあの本の中に名前が書いてあったのを思い出し、私はそのページのコピーをバッグから取り出した。

 

 そこには迷いの竹林の奥にある、永遠亭と呼ばれる建物に住んでいる月のうさぎだと書かれていた。

 

「ほんもののうさぎってことは、もしかしてその耳は…」

「あ、本物ですけど。触ってみます?」

 そういうと、鈴仙は耳をピクピク動かした。

「そういえば、昔もあなたに触らせてってせがまれたことがありましたね」

「え?」

 私は突然昔のことと言われて困惑した。

 

 すると鈴仙が思い出したかのように言った。

「あ、そうでした。詩音さんはたしか記憶を消して外の世界に行ったんでしたね」

 記憶を消して?私の知らない情報がどんどんと流れてきて私の頭が混乱してきた。

 やはりここが私の故郷だったのか。それだけが頭の中でわかったことだ。

 

「えっと、やっぱり覚えていないですよね?」

「は、はい。覚えていないので、それを知るためにここに来たんです」

 そうですか、と鈴仙は一言言うと、立ち上がってこう告げた。

「それじゃあ思い出せなくても、まずは私のことを覚えてくださいね。私は昔、あなたがここにいた時に、あなたの、詩音さんの教育係をしていたんです!」

 教育係、そう言われた時に彼女に勉強を教わっている自分の姿が、彼女と一緒に出かけていた日々、彼女が私に向けて涙を流した表情、そんな記憶が目に浮かんだ。

「あ、あれ?なんだろう、これ?」

 涙が溢れてきた。どうしてこんなにも大切だった人を私は忘れていたんだろう。大切だった人を、そんな感情が胸の中を駆け巡った。

 

 すると、彼女が私の頭をポンポンと撫でて抱いてくれた。

「大丈夫ですよ、また覚えていけば、大丈夫です」

 彼女のその一言で、私は思いっきり泣きだした。私が泣いている間、彼女はずっと「大丈夫ですよ」と囁き続けていた。

 

 

 しばらくして、私が落ち着いたところで鈴仙が私にこの後どうするかと聞いてきた。

「この後は人里に行って話を聞こうと思っていたけど、鈴仙に聞くのが一番だよね」

 実際この世界のこと、私の過去に何があったのかなど、聞きたいことはたくさんあったが、どれも鈴仙に聞くのが一番だ。

「それなら、一度永遠亭に行きましょう。私も細かい話はわからないですが、師匠から聞いた方が確実でしょうし」

 私はふと気になったので少し聞いてみた。

「そういえば、さっきこの卯月に対してすごい怒っていたみたいですけど、この子のこと知っているの?」

「ん?もしかしてあんた、詩音さんにちゃんと話してなかったの?」

 また卯月に対して話しかけている。すると卯月は突然私の膝から降りた。

「やっと言う気になったみたいね。にしても卯月っていう名前まで付けてもらって」

「え?どういうこと?」

 私がよくわからないままに、卯月は突然ポンッ!っと煙に包まれた。

 少し視界が悪くなったが、だんだん煙が晴れてくるとそこには。

 

「なんでこんなところで鈴仙にバレるのかなー」

 

 そこには、うさ耳のついた、一人の赤毛の少女が立っていた。

 

 

  続く

 




お待たせいたしまし。最近プロットが纏まったので、ようやく書き上げることができました。
今回は鈴仙が出てきましたが、私は普段鈴仙ではなくうどんげと呼んでいます。
ちなみに本来は最初に霊夢と詩音を遭遇させるつもりでしたが、物語の今後の展開的に霊夢には妖怪退治に行ってもらいました。ごめんね霊夢。
さて、次回から幻想郷編の始まりです。今後は東方キャラをどんどん登場させるつもりですので、楽しみにしてください。

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