怪獣が鎮守府に着任しました。これより蹂躙の時間が始まります。   作:サンダーボルト

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金剛型と正規空母が共同戦線を張るようです。戦果を期待しています。

連日南方海域に出撃を繰り返していた怪獣鎮守府だったが、本日の出撃は潜水艦のみ。その理由は他でもない。資源が少ないのだ。

 

いくら駆逐艦が道中で燃料を拾えるとはいえ、一回の出撃分を補える量を持ち帰れるわけではない。他にも戦闘で弾薬やボーキサイトを消費するし、損傷を直すために鋼材もいる。高速戦艦である金剛型は戦艦の中でも燃費は良く、駆逐艦も二隻いるので資源の消費は抑えられていた。

しかし流石に何十、何百と出撃していれば資源も尽きる。遠征任務も同時進行していたが、完全に支出が収入を超えていた。そこで一旦育成を打ち切り、資源の補充に力を入れる方針に切り替えたのだ。

 

『伊58(ゴーヤ)』、『伊(ハチ)』、『伊168(イムヤ)』。この鎮守府にいる潜水艦が三隻で編成を組み、多くの提督がお世話になっているであろう東部オリョール海へ出撃した。戦闘で被害が出た、もしくは疲労が溜まったら控えの潜水艦と交代し、何度も何度もオリョールへ行ってもらう。

 

各鎮守府には大本営から資源が供給されるが、それとは別に大本営からの任務をこなす事でも資源を受け取る事ができる。毎日更新される簡単なものから、1~3ヶ月ほどで更新される難易度のものまで様々な種類がある。

大本営からの資源の供給の限度はその鎮守府の提督の階級によって差がある。階級が高ければそれだけ戦果を挙げている分、資源の消費も激しいのでそれを考慮した結果だ。大本営の資源も無限ではない。何もしていない鎮守府に資源を際限なく与える余裕は無いのだ。

 

潜水艦が主に狙うのは敵の空母と補給艦になる。今もなお広がり続ける深海棲艦の勢いを削ぐために、敵の航空戦力と補給艦の撃破を対象にした任務が多い。

 

更に言えば潜水艦は水上艦と比べても燃費が良い。そしてオリョールには燃料と弾薬が拾えるポイントが多く、特に燃料は潜水艦三隻なら確実に黒字になる。資材に困っているならここを利用しない手は無いのだ。

 

前提督もこのオリョール周回に味を占め、潜水艦を酷使して大量の燃料を得てはよその鎮守府に売り飛ばしていた。当然、その対価は全て前提督の懐に入り、艦娘に還元されることは無かった。ただでさえ耐久が低い潜水艦の中から今まで轟沈が出なかったのは奇跡に等しい。今回の出現に関してもゴーヤ達は渋い顔をしていたが、交代・休憩・入渠が認められている旨を伝えると喜んで出撃していった。

必要以上に酷使されなければ、対潜能力に乏しい敵しかいないあの海域に行くのは潜水艦にとっていいストレス解消になるようだ。

 

そんな訳で潜水艦以外は殆ど休暇に近くなった昼下がりの時間帯。赤城は部屋でお茶を入れ、同室の加賀が羊羹を切り分けてちゃぶ台に置く。

 

 

「……こ、これが噂に聞く間宮羊羹…じゅるり…」

 

「ありがたや、ありがたや……」

 

「ああ…生きているうちにお目にかかれるとは思わなかったわ…」

 

「そうね瑞鶴。先輩方に感謝しないとね」

 

「……少々、大袈裟ではないかしら」

 

 

目の前に差し出されたツヤツヤ輝く和菓子を目にして、蒼龍はだらしなくよだれを垂らし、飛龍は誰に対してかは分からないが拝んでいる。瑞鶴、翔鶴も感無量と言った感じで羊羹を見つめ、それらを見た加賀が自分の分の羊羹を手に瑞鶴の対面に座る。落ち着きがないと呆れている加賀の持ってきた皿の上を見て、瑞鶴がジト目で加賀を睨む。

 

 

「良く言うわ…。加賀さんの羊羹、随分大きく見えるのは私だけですか?」

 

「あなただけよ」

 

 

瑞鶴の抗議をさらりと受け流したすまし顔の加賀。いつもならここでもっと噛みつくところであるが、今日は先輩方がこの羊羹をご馳走してくれる手前、機嫌を損ねるのは避けたいので閉口するのみであった。

それでも簡単に割り切れるものでもない。むすっとしている瑞鶴の横から赤城が羊羹の皿の隣りに湯呑を置く。

 

 

「どうぞ。鳳翔さんから良いお茶の葉を譲って頂いたんですよ?」

 

「あ、すいません。いただきます」

 

 

赤城の気遣いに瑞鶴のイラつきも消えてゆく。そうだ、折角のお茶会なのだから楽しまなければ。

両手を合わせて挨拶を済ませると、全員が羊羹に手を伸ばした。元より正規空母は大食いな上、アイスと同じく艦娘に大人気の間宮特製の和菓子だ。みるみるうちに羊羹は減っていき、新しく開けた羊羹の空き箱が増えていく。美味しい、とは誰も口にしていないが、黙々と食べ続ける彼女達の緩み切った表情を見ればどう思っているかは想像できるだろう。

 

羊羹を食べきって、程よい熱さのお茶を一気にすする六人の艦娘。至高のひとときを堪能して一息つくと、赤城が少し心配そうにしながら口を開いた。

 

 

「ところで皆さん。ムートー提督とは上手くコミュニケーションをとれていますか?」

 

 

その問いに答える者はいない。気まずそうに顔を逸らせる者がいるだけだ。

 

 

「い、いや…コミュニケーションと言われましても…ねえ?」

 

「未だに見られただけで足がすくみます、はい」

 

「仕事の話なら普通にできますけど、雑談となると何話せばいいか分かりませんもん。ね、翔鶴姉」

 

「すみません、私が至らなくて…」

 

「……やはり、そうですか」

 

 

赤城は物憂げに溜息を吐く。

 

 

「あなた達だけでなく、鎮守府のほとんどの艦娘が同じ反応をしているわ」

 

「最近、睦月型や暁型の子がよく遊びに来るから、提督もこの鎮守府に慣れてきていると思ってたんだけど…」

 

「本当ですかそれ?どうやって仲良くなったんだろう…」

 

「くすぐったら仲良くなれたらしいわ」

 

「……可愛らしいですね」

 

「私達にはそんな勇気ありませんよ…」

 

「……この際、はっきりさせておきましょう。あなた達は提督と信頼関係を築く気はある?」

 

 

加賀が言うと、赤城を除いた四人が顔を見合わせた後、瑞鶴を皮切りに話しだす。

 

 

「そりゃ、怪獣でも提督だし、前の提督から解放されたのもムートー提督さんのおかげでもあるし…上手くやっていきたいとは思ってますよ」

 

「電磁パルスは正直言って空母にとっては迷惑だけど、空を奪われる事が無いっていうのは安心できるし」

 

「赤城先輩を助けていただいた恩は、返したいと思っています」

 

「私達のために来てくれたなら、それに応えなきゃですよね」

 

 

同僚や後輩が提督を嫌ってはいなかったと胸を撫で下ろす赤城に、満足する答えだったのか静かに頷く加賀。しかし突如、部屋の扉が大きな音をたてて勢いよく開かれた。

 

 

「――――その言葉が聞きたかったネー!!」

 

 

入ってきたのは金剛型戦艦の長女である金剛。お決まりのポーズを決めたその後ろから、比叡、榛名、霧島がペコペコ頭を下げながら入ってきた。

 

 

「金剛…入ってくるときはノックをしなさい。五航戦が同じことをしたら頭を射抜かれても文句は言わせないわよ」

 

「Oh、Sorry!でも提督の話と聞いたら、体が勝手に動いていたのデース!これは自分でも止められないヨー!」

 

「そのアグレッシブさはあまり見習いたくはないわね」

 

「まあまあ加賀さん…。ところで金剛さん、口ぶりからして私達の話を立ち聞きしていたんですか?それは英国淑女としてどうなんですか?ねえ?」

 

 

加賀を諫めたようでそうでもなく、金剛に笑顔で詰め寄る赤城。金剛は少し顔を青くして後退りつつ、弁明を口にした。

 

 

「ち、違うネ赤城ー!!盗み聞きしに来たわけじゃないヨ!実は赤城達に話を聞いてほしくて来たんだけど、お取込み中だったみたいだから出るチャンスを窺ってただけだヨ!」

 

「そしてそのお話の内容が提督がらみだったようですので、お姉様が我慢できずに出て行ってしまった、という事になります」

 

 

金剛の話に霧島も口添えをする。

 

 

「そうですか……それでお話とはなんですか?」

 

「赤城達も話してたデショ?提督についてデース!提督とスキンシップするにはどうすればいいか、相談しに来たネー!」

 

 

それを聞いた赤城達は少なからず驚いた。金剛は提督に対する好感度が異様に高く、いわゆる提督LOVE勢として名を馳せている。言動のみならず行動も積極的で、愛の叫びと共に抱き着いたりするのは日常茶飯事とまで言われている。

と言っても、前提督に対してはそんな好意を向けてはおらず、むしろ姉妹を守るために敵意すら向けていた金剛がいつの間にか怪獣提督LOVEになっていた事。そして我が道を行くといった感じでドンドン進んで行動していた彼女が、他者にスキンシップの取り方を相談しに来た事。二重の意味で驚いていた。

 

 

「なによ金剛、いつの間に提督のことをそんなに慕うようになったのよ?」

 

 

飛龍がからかい混じりで聞いてみると、金剛は両手を頬に付けて、体をくねらせながら話し出した。……あ、これ面倒くさいやつだ、と飛龍は聞いた後に少し後悔する。

 

 

「んふー、前のクソに比べて今の提督は素敵デース。鋭い眼光!逞しい腕!そしてPowerfulなBody!!どこをとっても前のクソより私達の提督に相応しい人材デース!」

 

「お姉様…言葉遣いが汚くなってます…」

 

 

もはや提督と認めるのも嫌なのか、淑女らしからぬ言葉を混ぜながらもムートーを賛美する金剛。比叡の苦言も聞き流し、金剛の話は止まらない。

 

 

「それに強さだけじゃなくて優しさも兼ね備えているのが提督の良いところネー!私は覚えてマース、被弾しそうになった私を提督が庇ってくれたんデース!」

 

「(あれただの偶然だよね?)」

 

「(敵を襲おうとして降下したところに当たっただけだよね)」

 

「(幸せそうだから黙っておきましょう)」

 

 

空母も一緒に出撃していたために一部始終を見ていたが、今の金剛に水を差すのは憚られるので黙っておく事にした。

 

 

「あのWildな戦い方も提督の魅力の一つデース!己の身ひとつで戦う勇猛果敢な姿、今も脳裏に焼き付いてマース!みんなも見てるから分かってくれるよネ?」

 

「(あんな生々しい戦い、一回見たら忘れられないっての。今も脳裏にこびりついてるわよ…)」

 

「(敵の重巡の頭を食いちぎったのを見た時は吐きそうになりました…)」

 

「(あれ見た瑞鳳がその日の夜に眠れなくなって私の部屋に来たんですけど)」

 

「(金剛にはあれがどう見えていたのかしら)」

 

 

恋する乙女は盲目である。目の前でおきていた惨状も、金剛には好感度が上がる素敵なイベントとしか映っていなかったらしい。

 

 

「金剛さんのお話は分かりました。でも珍しいですね?そんなに好きなら金剛さんなら相談なんかしないで、とっくに提督に何かしらのアタックを仕掛けていてもおかしくないのに」

 

「No、もう仕掛けていマース。でも効果はNothing!提督のHeartは揺るがなかったネ~…」

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

それはある日の事。廊下を歩いているムートーを陰からジッと見つめる影が四つ。他ならぬ金剛型四姉妹だ。タイミングを見計らい、金剛が飛び出して提督へ向かって走っていく。

足音に気づいたムートーが振り返ると、金剛はジャンプして回転しながら飛びついた。

 

 

「提督ぅ~!!バァーーニング、ラァァァァ……ぐへぇ!?」

 

 

が、飛びついた金剛はムートーの巨体に跳ね返された。身長は数倍、体重に至っては数十倍あるであろう相手に勢いをつけて飛びつけばそうなるだろう。

 

 

「ひえぇぇぇぇ!金剛お姉様ー!!」

 

「ここは戦略的撤退よ!榛名、金剛お姉様を担いで!」

 

「ええ!お姉様、しっかりしてください!傷は浅いですよ!」

 

 

妹達が金剛を回収し、慌ただしく去っていく。ムートーは金剛達が走っていった方向をしばらく見た後、何事も無かったかのように歩き出した。

 

さらに同日、ムートーが執務室へ入ると机の前に金剛型四姉妹がスタンバイしていた。

 

 

「金剛型1番艦!英国で生まれた帰国子女、金剛デース!」

 

「同じく2番艦!恋も戦いも負けませんっ!比叡です!」

 

「同じく3番艦!榛名!全力で参ります!」

 

「同じく4番艦!艦隊の頭脳、霧島です!」

 

「「「我ら!金剛型4姉妹!!」」」

 

「デース!!」

 

 

口上の後に姉妹全員でポーズを決めたその鮮やかさは、彼女らの背後で戦艦の主砲が発射されたエフェクトが見えてしまう程だった。勿論それは目の錯覚であるが。

 

彼女達のパフォーマンスを見たムートーは一言、小美人妖精を通して言った。

 

 

「……知ってる、だそうです」

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「Coooooooool!!こんなにアピールしているのに、提督のHeartはちっとも掴めなかったネー!」

 

「流石は怪獣提督、簡単にはいきませんね。もっと気合い、入れて!いきましょう!」

 

「榛名の事まで気にかけて頂いていたなんて…感激でした!」

 

「諸々の出来事にも動じないタフな精神…流石は怪獣司令、データ以上の方ですね」

 

「(それただ困惑してただけじゃ…)」

 

「(姉妹揃ってなにやってるの、この人達…)」

 

「(榛名も何故か金剛と同じく陥落してるわね。やはり姉に似たのかしら。でも比叡は金剛一筋だし、霧島はどっちかというと尊敬の念よね)」

 

 

飛龍、瑞鶴が金剛達の行動に呆れ、加賀は金剛以外の姉妹の感情を冷静に分析している。

 

 

「赤城は何かやっていマスカー?提督と一番交流してるのは赤城ネー。だから聞きに来たんだヨ!」

 

「私?私は特には…。仕事をするか、提督に聞かれた事を答えるくらいしかやっていませんから」

 

「……Moodもへったくれもないネー。でも、ウーン……赤城を見てて、何か思いつきそうデース…」

 

 

金剛は腕を組み、顔を赤城に近づけて唸る。……そして何かを思いつき、とびきりの良い笑顔を浮かべた。

 

 

「そうだ、提督をDinnerに誘ってみるネー!」

 

「私を見て思いついたのがそれですか!?」

 

 

自分を見て出た金剛のアイデアに赤城はあんまりだと叫ぶ。しかし納得していないのは赤城だけで、他は妥当な案だと考えているようだ。

 

 

「成程、そういえば提督って食堂に来た事無かったもんね!」

 

「そもそも何食べてるかも分からないし」

 

「それなら提督の好きな食べ物とかも聞いてみるネー!」

 

「……もし聞けたら、榛名が提督にお弁当を…」

 

「What!?榛名、抜け駆けはNo!なんだからネー!!」

 

「そうと決まれば話をしに行きましょうか、赤城さん」

 

「……はい、そうですね加賀さん」

 

 

納得していない自分を置いて話が進んでいるのを見て、赤城は抗議するだけ無駄なんだなと悟る。そして内心拗ねながらも、金剛や加賀達と一緒に提督を夕食に誘いに行くために腰を上げるのであった。


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