怪獣が鎮守府に着任しました。これより蹂躙の時間が始まります。   作:サンダーボルト

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鎮守府が改装作業に入りました。ある艦娘達が他の怪獣提督に興味を持ったそうです。

怪獣鎮守府が取り組む最初の大仕事は、鎮守府の改装作業であった。鎮守府自体はかなり大きなつくりではあるのだが、人間の何倍もある体躯を持つムートーには不便な箇所もいくつかある。

 

工作艦『明石』と工廠の妖精達の主導のもと、鎮守府の大改造が始まっていた。これにより、第二艦隊に明石を配属できなくなったが、駆逐艦の練度が低いおかげで短い時間で入渠が終わるために問題にはならなかった。

 

水雷戦隊を指揮する軽巡と随伴の駆逐艦が入れ替わりで出撃を繰り返す中、それ以外の艦娘達は暇をもて余していた。

 

 

「あーあ、新しい提督になってやっと出番が来ると思ったのに…」

 

「そうだな…。改装作業中だと訓練もできやしない。……暇だな」

 

 

重巡『足柄』、『那智』が自室でぼやく。戦闘好きな彼女達にとって、体を動かせないのはかなりのストレスになるようだ。

 

 

「赤城さんの話だと、駆逐艦の子達が十分に育ったら私達も出撃になるらしいわよ。もっとも、資源に余裕があればの話だけど…遠征組の皆も頑張ってくれてるし、大丈夫じゃないかしら」

 

「うう…あ、足を引っ張っちゃいそうで不安です…」

 

 

同室で姉妹艦の『妙高』、『羽黒』が話に加わる。気の弱い性格の羽黒は、出撃する事に不安を抱いているようだった。

 

 

「出撃なんて久々だからね…。あの提督、私達の事を何だと思ってたのかしら…」

 

「奴の話はよせ。気分が悪くなる…」

 

「も、もうあんな事をさせられずに済むんですよね?ね?」

 

「大丈夫よ羽黒。あの提督は私達の味方のようだから。とても信じられないけどね…」

 

「怪獣の夜の相手とか、想像したくもないわよ…」

 

「だからその話は止めろ…」

 

 

前提督がいた頃の扱いが特に悪かったせいか、部屋の中の空気は重かった。ポジティブな話を振ろうにも、その話題がなければどうしようもない。どうしたものかと妙高が頭を悩ませていると、羽黒が何かを思い出したように口を開いた。

 

 

「そういえば…他の鎮守府にも怪獣提督が着任したって言ってましたよね…?」

 

「む、そうだな…。あんな提督が他にもいるとは考えたくはないが…」

 

「小美人妖精さんの話からすれば、宇宙から来た怪獣もいるって事よね…」

 

「……どんなのかしら。ちょっと気になってきたわね。ちょっと提督に聞いてこようかしら?」

 

「足柄…怪獣とはいえ、提督は執務中だぞ。邪魔をして食われでもしたらどうするんだ」

 

「やめてよ!あながち冗談とも言えないから怖いわ!」

 

「小美人妖精さんも、翻訳のお仕事の邪魔をしたらコミュニケーションがとれなくなるし…」

 

「でも、他によその鎮守府に詳しい人なんて…」

 

 

しばらく四人で考えていると、ある一人の艦娘の名前が頭に浮かび上がる。妙高型四人姉妹は、昼休みの時間を利用してその艦娘の元へ話を聞きに行く事にした。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「はあ…他の鎮守府の怪獣提督について…ですか」

 

「そうなのよ。大淀さんなら詳しいでしょ?」

 

 

昼休みの食堂で、妙高達は大淀と一緒に昼食をとっていた。大淀は大本営から派遣されている艦娘で、元帥直々の命令の伝達や任務完了の報告などでよく大本営に戻り、他の鎮守府の大淀とも情報交換をしている。ならばきっと、怪獣達についても知っているだろうと考えたのだ。

 

 

「別に話してもいいですけど、代わりにそのカツ、半分くれませんか?」

 

「う…ちゃっかりしてるわね…。いいわよ、もってけドロボー!」

 

「やった。実はカツも食べたかったんですよね。でも量が多くて食べきれないので諦めたんです。間宮さんにハーフサイズとか作ってもらえないかなぁ」

 

 

足柄のカツ丼から主役のカツを半分、ごっそりと取っていった大淀。そのしたたかさに苦笑しながら、妙高達は大淀の話に耳を傾ける。

 

ちなみに近くのテーブルでは、興味津々の艦娘達が聞き耳を立てていた。

 

 

「現在、怪獣が提督になっている鎮守府は私の知る限りでは20を超えています。そして意外なんですが、ほとんどがムートー提督のように空を飛べるんです」

 

「へー…もしかしてムートー提督のお仲間?」

 

「いえ、ムートー提督と同族と思われる提督は今のところいませんね」

 

「着任時はどうだったんだ?さぞ揉めたんじゃないか?」

 

「それが…ほとんどムートー提督と同じパターンなんですよね。怪獣がいきなり現れたんですから、無理もないと思いますが…」

 

「……やばいんじゃないの、それ?」

 

「当然、強硬派の提督からは批判されましたが、それほど大事にはなっていないんですよね。それというのも、怪獣が提督になった事について、その鎮守府の艦娘からは特に抗議は来ていないんですよ」

 

 

いうなれば、それは人間が提督であった頃よりも良くなっているという事であり、殺された提督が艦娘をどんな目にあわせていたかを物語る証拠だった。

 

 

「大事にすれば、複数の鎮守府の何百といった艦娘が提督の横行を暴露するでしょうからね。だから一気に怪獣を呼び寄せたのかもしれませんが…」

 

「そりゃ、酷い事する人間よりも、何もしない怪獣の方が良いといえば良い……のかな?」

 

「どうなんでしょう…?」

 

「運営方針はまともなのだし、まあ良いのではないか?」

 

「とはいえ、抗議というほどではないものの、苦情は少しはあるんですけどね。鎮守府がマグロ臭くなったとか、ヘドロ臭くなったとか」

 

「それは嫌だな…」

 

「あとはそうですね、怪獣提督のエネルギーの元になる結晶体に鎮守府が覆われたって所もあるみたいですよ」

 

「せ、生活できるの…?」

 

「大丈夫みたいですよ。なんかメルヘンチックで気に入った艦娘も少なからずいるみたいですし」

 

「そ、そうなんですか…」

 

「でも、大丈夫なの?妖精さん達が艦娘派っていうのは強硬派の連中も知ってるだろうし、嫌がらせとかされてないの?」

 

「嫌がらせどころか、堂々と攻め入った提督がいたんですよね。強硬派の元帥辺りと共謀したのか、鎮守府を乗っ取った怪物を排除しろ、と」

 

「……それで、艦娘同士で撃ち合いになったのか?」

 

 

神妙な顔つきで尋ねる那智に、大淀は水を一口飲んでから顔を横に振った。

 

 

「いえ…どうやら怪獣提督が自分の鎮守府の執務室から熱線を吐いて、攻め入った鎮守府の執務室にいた提督を狙い撃ったらしいです」

 

「……は?」

 

 

大淀からの返答に、那智だけでなく話を聞いていた全ての艦娘が呆けた顔をする。大淀もカツを一切れ食べ終わると、盛大に溜息を吐いた。

 

海からの敵に対応しなければならない関係上、湾岸に配備されている鎮守府同士の距離は穴ができないように近過ぎず遠過ぎずを保たれている。かといって、鎮守府から他の鎮守府を肉眼で確認出来るほど近くは無い。つまりは人間どころか、艦娘さえも不可能な事をその怪獣提督はやらかしたのだ。

 

 

「……本当の事、なんですよね?」

 

「ええ」

 

「いやいやいや、いくら何でも規格外すぎでしょ!?」

 

「何でも生前は、地上で大気圏外から落ちてくる隕石を熱線で迎え撃った経験があるそうです」

 

「なにそれこわい」

 

「他にも同じ様な事をしでかした強硬派の提督が数人いましたが、すべて返り討ちにあってます。艦娘の攻撃をかいくぐって直接鎮守府に殴りこんだ怪獣もいれば、地中から強襲した怪獣、群れを作って鎮守府を襲って制圧した怪獣、提督を養分として美味しく頂いた怪獣までいます」

 

「ひぃぃ……!?」

 

「……もう提督が深海棲艦と戦えばいいんじゃないかしら…」

 

「戦っている所もありますよ。艦隊に追従して出撃している怪獣提督の数も一頭二頭じゃありません」

 

「あるのか!?戦果はどうなんだ…?」

 

「ある海域では、怪獣提督が進軍したら潜水艦型の深海棲艦が全て骨と化したそうです」

 

「なにそれこわい。ほんとこわい」

 

「また他の海域では、怪獣提督が敵の艦載機を撃墜して制空権を奪ったとかなんとか…」

 

「もうなんでもありね…」

 

「他には二十三世紀から来たサイボーグ怪獣提督が、自身の技術を応用して艤装をパワーアップさせようと試みていたり…」

 

「もういい、もうお腹一杯だわ…」

 

「そうですか?」

 

 

矢継ぎ早に飛び出してくるとんでもない話に、それを聞きに来たはずの妙高達はげんなりしてしまう。自分達の所の方がまだ普通なのではないか?と感覚が麻痺してしまう程度には、他の怪獣提督の話は衝撃的だった。

 

 

「そんな訳で戦果もうなぎ登りになっていますし、艦娘派の皆さんの企みはほぼ成功したと言っていいのではないでしょうか。ただ、通訳を介さないと意思疎通が難しいのは問題ですけどね」

 

「日常会話ならともかく、命令とか艦隊指揮はジェスチャーでどうにかなるものではありませんからね…」

 

「そういえば怪獣提督も一緒に出撃してるって話だったけど、ウチの提督はどうなの?空飛べるし」

 

「勿論一緒に出撃していますよ。まだ駆逐艦の練度が低いので、心配になったそうです。……その分秘書艦や私に書類仕事が回ってくるのでほどほどにしてもらいたいんですけどね」

 

「……今、出撃してるのって誰だっけ?」

 

「確か、『川内』、『神通』、『那珂』、『文月』、『長月』、『望月』だったはずだが…」

 

「……色んな意味で、無事に帰ってくるかしら…」

 

 

ムートーと共に出撃した水雷戦隊がちゃんと帰ってこれるのか心配する足柄。ちょうどその時に水雷戦隊が切迫した事態に追い込まれていたのを、彼女達は知る由もないだろう。


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