怪獣が鎮守府に着任しました。これより蹂躙の時間が始まります。   作:サンダーボルト

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完全に趣味ですが、よろしくお願いします。


Massive Unidentified Terrestrial Organism が鎮守府に着任しました。これより交代手続きを行います。

20××年、海より現れた謎の生物『深海棲艦』が世界各国に攻撃を仕掛けた。人類は戦闘機、戦艦等の兵器で応戦したものの、深海棲艦にダメージを与える事は叶わず劣勢を強いられてしまう。あらゆる海域が深海棲艦のテリトリーとなり、物資や人員の輸送が困難になってしまったのだ。

 

 

しかし、突如海軍に現れた妖精と艦娘と呼ばれる者達によって、戦況は変わろうとしていた。

 

 

艦娘はあらゆる艦船を模した兵装、『艤装』を纏って戦う者であり、艦娘の攻撃は近代兵器の攻撃を寄せ付けなかった深海棲艦に唯一対抗できる存在だった。妖精はそんな艦娘達を献身的にサポートする存在で、艦娘の建造や武器の開発、空母に搭載される艦載機に乗り込んで戦う勇敢な妖精もいる。

 

 

そして、深海棲艦と戦うために艦娘を集め、艦隊を指揮して戦う者を提督と呼ぶ。提督は各地に設営された鎮守府に着任し、深海棲艦から海を取り戻すために戦っている。

 

 

今も深海棲艦を倒すための作戦が行われ、ある鎮守府の艦娘達は命がけで出撃していた。しかし、熾烈な戦いを終えて戻ってきた艦娘達を待ち受けるのは、とても残酷な仕打ちであった。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「ボスを撃破できなかったとはどういう事だ!?」

 

「も…申し訳ありません…」

 

 

時刻は夜。大規模作戦から帰投した艦娘を怒鳴っているのは、まだ年若い男の提督。怒号に怯えながら謝るのは、五航戦、正規空母『翔鶴』だ。この場には、この二人を囲むようにして沢山の艦娘が立っている。翔鶴はまるでさらし者にされるようにして怒鳴られていた。

 

 

「制空権も取れず、昼戦でろくにダメージも与えられず、夜戦で大破だと!?貴様、何のために艦隊にいるんだ!この役立たずがっ!」

 

「っ!!」

 

 

頬に平手打ちを受け、翔鶴は勢いで後ろに尻餅をつく。まだ幼い駆逐艦達の何人かは怯えて小さく悲鳴を上げ、軽巡や重巡の艦娘がなだめて落ち着かせようとしていた。尻餅をついた翔鶴に更に蹴りを入れようと、提督が足を上げたところで翔鶴の妹、『瑞鶴』が庇うように翔鶴に抱き着いた。

 

 

「も、もう止めてよ提督さん!」

 

「うるさい!この出撃が最後のチャンスだったのに、この役立たずのせいで全部パーだ!!どれだけ資材を注ぎ込んだと思ってやがる!」

 

「しょ、しょうがないでしょ!52型と彗星だけじゃ、いくら何でも無理よ!もっといい装備があれば、翔鶴姉だってもっと…」

 

「なんだお前、俺の采配が悪かったとでも言うのか!?」

 

「ち、違…!」

 

 

提督の上げられた足は、瑞鶴の顔に蹴りを入れた。悲鳴を上げて倒れる瑞鶴を、今度は翔鶴が守るように抱きしめる。

 

 

「止めてください提督!私ならどんな罰でも受けますから、瑞鶴には手を出さないで…!」

 

「フン…なら、この場でそのぼろ切れを全部脱いで土下座しろ。役立たずですいません、ってな!」

 

 

これがこの鎮守府の日常風景であった。失態を犯した艦娘をあえて全員の目の前で罰する事で上下関係を無理矢理植え込む。気の弱い艦娘はこれだけで逆らう気力を無くし、そうでない艦娘も他の誰かが危害を加えられる事を恐れて動けなくなる。

 

艦娘はその全てが麗しい乙女であり、基本的に提督には逆らえない立場であることから、提督という立場を悪用して好き放題に振る舞う人間も少なからずいるのが現状だ。

 

指導として振るわれる暴力、性的暴行、疲労を無視して休みも与えず出撃させる、戦闘で損傷を負って中破、大破しても修理を禁じる、練度の低い艦娘を轟沈させても構わず進軍する捨て艦戦法等、例を挙げればきりがない。

 

この鎮守府もいわゆるブラック鎮守府というものであり、艦娘達を限界以上に酷使していた。怒鳴られていた翔鶴も疲労がとれないままで出撃させられていたのである。

 

目先の手柄にとらわれ、艦娘達の事など一切考えていない提督であるが、逆らえば他の誰かに矛先が向き、暴力や解体処分を受けるかもしれない。そうなるくらいならと、翔鶴は悲壮な決意を胸にスカートに手をかけた。

 

しかし、その手を掴んで止めた者がいた。

 

 

艦隊の主力、一航戦『赤城』だ。

 

 

「なんのつもりだ、赤城っ!」

 

「提督…いくらなんでもやり過ぎです。敵の大将を仕留め損ねたのは翔鶴だけの責任ではありません。共に出撃したこの赤城にも責任はあります」

 

「そんな!赤城先輩は至らない私のフォローをして下さいました!提督、赤城先輩は何も悪くありません!」

 

 

翔鶴の懇願する声を無視し、提督は赤城を睨み付けながら距離を詰めた。

 

 

「おい、赤城……貴様は提督である俺に逆らう気か?」

 

「……そう捉えて頂いて構いません」

 

 

赤城の凛とした返答に、同じ一航戦である『加賀』、ニ航戦『蒼龍』『飛龍』が息を飲む。

 

 

「提督……私達はもう限界です。ろくに補給も受けられず、疲労も取れぬままに出撃を強いられる今の環境では、誰であろうと提督のお望みの結果は得られません。

この鎮守府の艦娘達は、みんな弱りきっているのです。

私達は兵器ですが、生きているんです。お願い致します、どうかそれを──」

 

 

赤城の声は一発の銃声で遮られた。提督の手には銃口に煙が残る1丁の拳銃。提督の目の前にいた赤城が、足から血を流して固いアスファルトの地面に倒れこんだ。

 

 

「あ……うぐぁ……!!」

 

「赤城さんっ!!」

 

 

足を押さえて踞る赤城を見て、加賀が叫びながら駆け寄った。服の袖をちぎって止血をしながら、加賀は提督を睨み付ける。提督はそんな加賀に銃口を向けた。

 

 

「この銃弾は対深海棲艦用に作られた物だが、どうやら艦娘にも有効のようだな」

 

「……あなたはそれを、仲間に向けて使うのですかっ!?」

 

「仲間だと?ハッ、艦娘風情が調子にのるな。お前達はただの兵器だ。大人しく俺の言うことを聞いていればいいんだよ!」

 

「あなたという人は……!!」

 

 

提督が再び拳銃の引き金を引こうと指をかける。加賀は足を撃たれて動けない赤城と、後ろで抱き合って震えている後輩たちを守るため、襲い来る痛みに備えて目をつぶった。

 

我慢の限界が来たのか、この提督の凶行を止めようと『武蔵』『天龍』『那智』など複数人の艦娘が砲を構え、得物に手を伸ばす。

 

まだ幼い駆逐艦『電』『文月』『巻雲』達や気の弱い『羽黒』『阿武隈』『潮』達は、目の前で起きている惨状に耐え切れず、目を閉じて顔を背ける。

 

提督が銃を撃つのが早いか、艦娘が提督を止めるのが早いか、同時に動き出したその時――――

 

 

 

 

 

ズシン―――と、重く鈍い音が全員の耳へ入り込んだ。

 

 

 

 

 

その場にいた全員が軽い揺れを感じ、何が起きたのかと周囲を見回す。

 

夜間戦闘用に探照灯を持っていた艦娘の一人がある方向に目をやると、動きが固まり顔から血の気が引いていった。

 

 

「……な、なに……あれ……?」

 

 

震える手で指差した方に全員の視線が集中し、彼女と同じように固まった。そこには人間でも艦娘でも、ましてや深海棲艦でもない異形の存在がいた。

 

体躯は5メートル程もあり、特徴的な三角形の頭部には、ちょこんと提督の帽子が乗っていた。体に提督用の軍服も身につけているようであったが、ボタンは一番上だけ止められた状態であり、ちょうど『木曾改二』が身に付けているマントのようになっていた。探照灯の光に反射する赤く光る目はじっと提督達を見据えていたが、やがて特徴的な鍵爪状の太く長い腕を動かしてゆっくりと前進する。

 

 

「と、止まれ!貴様は何者だ!?」

 

 

混乱した艦娘の一人が声を張り上げる。どう見ても話の通じる存在ではないが、それでも警告をした彼女を誰が責められようか。

 

当然、怪物はそれに答える事は無く、ただ前進を続けるのみであった。

 

 

「………う……撃て……」

 

 

絞り出すように声を出し、艦娘に命令を下す提督。しかし、目の前の怪物に意識を持っていかれていた艦娘達は動かない。それに苛立った提督は、大きな声で喚くように命令を繰り返した。

 

 

「ぼさっとしてないで撃て!!あいつを殺せ!!俺の命令が聞けんのか!?」

 

「っ!?う、撃て!目標はあいつだ!!」

 

 

正気になった戦艦の一人が砲撃を開始。それに触発されて艤装を展開していた艦娘が次々と砲撃戦を始めた。艤装を装備していなかった者や、夜間なので艦載機を飛ばせない空母達は後ろに下がる。12.7cm連装砲が、20.3cm連装砲が、46cm三連装砲が次々と撃たれ、怪物に直撃する。

 

巻き起こる爆炎を見て提督が口元に笑みを浮かべるが、それはすぐに消えた。怪物は艦娘達の激しい砲撃をもろともせず、こちらに向かって進み続けていた。それどころか怪物の動きが早くなり、大きな地鳴りを起こしながら突進してきた。

 

まるでダメージを与えられていない事に驚愕する艦娘達。砲撃は続けているものの、怪物の進行を止められない事に怯えが生まれ、じりじりと後退を始めていた。

 

 

「お、お前たちはこのまま砲撃を続けろ!!俺の逃げる時間を稼ぐんだ、いいな!?」

 

「なっ…提督!?」

 

 

そんな艦娘達を置いてけぼりにして、提督は一目散に逃げていった。自分たちも本当は逃げたい気持ちであったが、提督から命令されてしまっては背くわけにもいかない。自分たちを見捨てて逃げる提督を後目に、艦娘達は砲撃を尚も続行する。

 

その最中、加賀は赤城を連れて怪物から少しでも距離を取ろうとしていた。

 

 

「か、加賀さんっ。私はこの足ではまともに動けません。私はいいから、早く逃げて!」

 

「赤城さん、あなたを置いて逃げはしません…!」

 

 

加賀は赤城に肩を貸して立ち上がらせようとしていたが、地鳴りと砲撃の衝撃波に邪魔されて上手く立つ事が出来なかった。そうこうしている間にも怪物は目の前まで迫ってきていた。

 

加賀は動くことの叶わない赤城に覆いかぶさり、自分たちに迫る死の瞬間を待った。

 

しかし、二人が感じたのは痛みではなく、突如発生した風の感触だった。

 

怪物が一対の腕を大きく開くと、それは巨大な翼になっていた。怪物は翼を羽ばたかせ、攻撃を加える艦娘達を飛び越えて逃げる提督へと向かっていった。

 

 

「ひっ…ひぃぃぃぃぃ!!?」

 

 

提督は死に物狂いで走るものの、走る速度と飛ぶ速度とでは勝負にもならない。あっという間に空から追いついた怪物は片腕を横なぎに振るい、提督を鎮守府の壁に叩きつけた。全身の骨が粉々に砕けたが、提督にはまだ辛うじて息があった。

 

怪物は地上に降りると、唸り声を上げながら瀕死の提督に顔を近づける。そしてまだ息があることが分かると、鋭い牙で提督の喉に食らいついた。首の骨を完全にへし折って提督の息の根を止めた怪物は、振り向きざまに後ろに広がる海へ提督の死骸を放り投げた。

 

彼方で小さい水柱が上がるのを見て怪物は満足げに吠えると、そびえ立つ鎮守府を仰ぎ見る。怪物は再び飛び上がり、鎮守府のてっぺん、提督の執務室の丁度真上に降り立った。

 

怪物は鍵爪状の腕を鎮守府の屋根へ突き刺し、大きく仰け反って力強い咆哮を上げる。夜の暗闇に映える赤い光に、全ての艦娘の目が引き寄せられていた。

 

 

「失礼します!あなたはこの鎮守府の秘書官である、赤城さんですよね?」

 

「……えっ?は、はい、そうですが…」

 

 

倒れている赤城の前に急に小さい妖精が現れ、赤城に声をかけた。我に返った赤城は突然の事に困惑しながら返事をする。赤色のひらひらした服装の妖精は、笑顔で敬礼してこう続けた。

 

 

「この鎮守府に新しい提督が着任しました!これからよろしくお願いしますね!」

 

 

ブラック鎮守府に着任する新しい提督。これまで酷い目にあってきた艦娘にとって、これは一筋の希望の光になるだろう。実際こんな状況ながら、あの提督がいなくなったことで艦娘達は僅かながら安堵の気持ちを抱いていた。

 

いま目にしている存在が、救世主には絶対に見えないと思いながら。




ムートーにするかMUTOにするか、迷います。

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