遊戯王ARC-V 風纏いの振り子   作:瑞田高光

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幻想決闘録-4

 最後のエレボスの一撃でさとりは膝をついたのを見て何事もなくデュエルが終わったのを確認できたのを見て小さく息を吐く。

 

「私の負けよ」

 

 さとりのその言葉が放たれた直後に大きな音と共に揺れが起きた。どこかに到着したようで辺りを見渡すと見晴らしが良いとはお世辞にも言えない、林と蒸気に閉ざされた場所であることに気付いた。辺りはかなり静かで下から聞こえる機械音以外は何も聞こえない。感じれるのは……土やお湯の匂いが別々に感じれる以外には……どこからともかく感じる視線位か。

 

「ここは面倒だから、早く行ったほうが良いわよ」

 

 まぁ、確かに監視されているようなこの視線はあまり良いものではない。

 

「そりゃ行きたいのはやまやまだが……どっかに行っちまった連れを探さねぇといけないもんでな」

 

 あの二人の行方も探しておきたいからこそ、そう簡単にここをアッサリ去るのはどうかと思うしなぁ……

 

「先日、この山に要注意人物が現れたという話を聞きました。ただでさえ危険な場所ですから、早く立ち去った方がいいですよ。連れも馬鹿ではないでしょう?」

 

 要注意人物、ねぇ……先日ってことは少なくともあの二人ではないだろうが……

 

「山は下れば地上に出る。地底は昇れば地上に出る。どのみち地上を目指せばいいのよ」

 

 捨て台詞を吐いたさとりが山を下りていく……まぁ、これ以上情報が無いのなら……また情報を探せばいい。俺も山を下りながら問いかけることにした。

 

「そうか、それならそうさせてもらおうか……最後に一つ、良いか? 人の出入りが多い場所を知っているか? いろいろ情報を集めたくてな」

 

「人間の出入りなら、人里がいいはずですよ。確か山を降りて……少し南に行けば着くと思います」

 

「そうか、情報感謝する……っ!」

 

 感謝の言葉を述べて言われたとおりに道を進んでみようと思った瞬間、背後から何かが接近している、そんな気がして左に踏み込んで回避を試みる。シュッと空気を切る音が聞こえて僅かに右腕の袖が若干切れているがそんなものには気にしてられない。自分の居た方の右側を振り向くと白い長い髪……いや、毛並み、なのか? 頭に犬耳のある所を見ると動物を擬人化したようにも感じ取れる。服装は上は白色の明るい服装、下半身は裾に赤白の飾りのついた黒い袴のようなスカートを身に着けて頭には山伏風の帽子を乗せている。そして、右手に持っている剣が恐らく俺に向けられていたのだろう。そして反対の手には盾のようなものを持っているように見受けられる女性のような人物がそこにいた……しっかし、急に襲い掛かってくるとは…………

 

「……随分と手荒い歓迎方法だねぇ。なぁ、さとり。この山の奴は全部こんなやつなのか?」

 

 ……まぁ、コイツの紅い瞳は明らかに敵意を俺に向けているんだが……それに、なんっつーか、意思があんま見えねぇ目をしてるっていうか……まぁ、とにかく感じれたのは誰かがこいつを俺たちに差し向けた、ということくらいか……

 

「そうだったと思いますよ。私も許可は取っていないし」

 

 そうだったと思う、ね。まぁ、地底(?)とこの山は管轄が違うと考えれば妥当か。

 

「人間が殴り合いになったら勝てないから、デュエルの方がいいわよ」

 

「そりゃどうも……っとと」

 

 俺はさとりにそう返すも目の前のコイツはまた俺に剣を振りかざしてきた。ほんっと危ないったらありゃしない……俺はある程度距離を取るとデュエルディスクを構えた。

 

「お前、デュエルできるんだろ? ならこっちでやりあわねぇか?」

 

 そう問いかけてみると一瞬の間はあったが、相手もデュエルディスクを構えてくれた。若干の安堵は出来たが、負けたら元も子もない。出来るだけ手早く済ませたいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……悪いな、完全にデッキの回りが良すぎた。3体の帝で直接攻撃!!」

 

 俺の後攻で始まったデュエルだったが……結果から言うと、手札が回りに回りすぎてフィールドにアイテール、剛地帝グランマーグ、怨邪帝ガイウスが揃ってしまっての後攻1ターン目1killだった。いや、俺も正直相手の【X-セイバー】が初ターン終了時点で手札にエアベルンを残してのガトムズとソウザ2体がフィールドにいる状況には正直ヤバいとは思ったけど、蓋を開けてみればデュエルは比較的アッサリと終わってしまった。相手の手札、墓地、フィールドに展開を妨害するカードが無かったことが恐らく勝因だったんだろうな。3体の攻撃で相手が吹き飛んで、そのままデュエルが終了した。

 

「……ん?」

 

 相手の周りに相手のものと思われるデッキとエクストラデッキが散らばっていたからそれと纏めておこうと思って歩み寄る。一応相手は気絶しているようだったから自分への危害は及ばないはずだ。しかし、そこで俺は初めて気づいた。【相手のエクストラデッキがなぜか16枚あり、そのうちの1枚だけがエクシーズモンスターのカード】であったことだ。メインデッキ自体は纏めたときに普通だったからこそ、余計に気になった。けど、そのエクシーズカード自体は白紙のカードで唯一の手掛かりはそれがランク4のエクシーズモンスターで素材が3体必要である点だ。まぁ、大体これで何かってのは絞れるんだがな……

 

「……アイツはどっか行っちまったな」

 

 さとりはどこか行ってしまったようだけど……まぁ、歩いていけばいいか。とにかく俺は人里を目指してまずは山を下りていくことにした。人がいる場所なら情報集まりそうだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side衣音

 

「っしゃ!」

 

 小町っていう何かすっげぇ鎌持った奴とのデュエルが今終わった。結果は勝利。初対戦相手とかだと初心者風プレイングって結構ハマるんだよなぁ。まぁ、雄牙やコナミさんはもう一切通じないから苦手なんだけど……にしても、ここ本当にどこなんだろうな……それに、あの二人も探さないといけないし……

 

「小町」

 

「げっ」

 

「なんですかその態度は」

 

 項垂れてため息をついていた小町に声をかける誰かの声が聞こえてきたのでそっちを見ると緑髪に青い服と黒いスカートのようなものを身に着けている奴だった。あ、こっち見てきた……

 

「ん……なんでしょうか?」

 

 別に警戒しているわけじゃねぇけど……丁寧口調で接しニコリとほほ笑む。素は出したら行けなそうな、そんな気がする。

 

「失礼ですが、貴方、この人はなにをしていたかわかりますか?」

 

 うん、何となくだけど嘘がつけなそうな相手だしなぁ……面倒くせぇけどまぁ、普通に伝えるか。

 

「いやぁ、自分はちょっと道に迷ってしまったんですけど……丁度そっちから歩いてきたんで色々話をしてるとお互いデュエリストだと分かったんでついさっきまでデュエルをしてましたね」

 

 まぁ、あの小町ってのが下手すぎな愛想笑いしてっけど……何かしでかしたのかな?

 

「そんな理由でデュエルを? いや、それより」

 

 何か急に考え込んでしまっているけど……何考えてんだ? というか、遊戯王が浸透している場所だったら大抵デュエルは普通じゃねーのかよ……変わった場所だなぁ、ここ。

 

「小町。今日のところは不問に付しましょう」

 

「本当ですか!」

 

「ただし明日、時間は問いません。私のところへ来なさい」

 

 パッと開いて~咲いた、笑顔は~消えた……ってか?替え歌だけど。いや、本当にそんな感じだった。小町ってやつの表情の変わり具合が本当にあっという間に変わったところを見ると……仕事の上司と部下で、小町が仕事サボってた……って感じか?

 

「私は四季映姫と申します。手早く用件を伝えますと、デュエルしていただけませんか?」

 

 ん、コイツもデュエリストか。まぁ、断る理由もないし……

 

「はい、もちろん良いですよ。ただ、自分はそこまで上手くないですけどね」

 

 苦笑いをしながらデュエルディスクを構える。もちろん、自分のデュエルタクティクスを本気でそう思っているわけではない。ただ、相性が悪い相手にはとことんうまく効かない。だからこそのいつものデュエル前の文句のようなものだ。

 

「弱ければ結構。私が勝つだけです」

 

 デュエルディスクに映し出された先攻は俺、か。いつもなら嬉しいけど今回はあまりデッキの回りが良くないな……とりあえずいつものようにするか。


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