晴れて――と言っていいのだろうか――
もちろん中には藍染を慕う者やどうしてもクアルソを王と認められない者もいたが、クアルソが藍染を超える絶対強者である事は既に周知の事実となっており、クアルソに逆らおうという者はいなかった。
特に、クアルソとハリベルの決闘を見た者はそれが顕著だった。
「それじゃあ以前約束した通り、ハリベルさんと決闘しようと思う」
「ああ」
クアルソとハリベルは
ハリベルがクアルソと決闘しようとした理由は、クアルソの実力を計る為だった。その意味は既に失われているが、それでも強者との決闘は戦士であるハリベルには望ましいものだ。故に、約束通りにクアルソと決闘を行う事にしたのだ。
「ハリベル様ー! 頑張ってください!!」
「クアルソなんかぶっ飛ばしちゃってください!!」
「二人とも失礼ですよ。クアルソ様でしょうクアルソ様。一応は王らしいのですから。それはともかくとしてハリベル様。頑張ってくださいませ」
ハリベルの
それも仕方ない事だ。彼女達は自分の主であるハリベルに何度もアタックし、何度もにべもなく袖にされているクアルソを見てきたのだ。あの下衆で情けないクアルソが知らぬ間に破面の王になったとしても、崇敬など出来る筈もなかった。とどのつまり、クアルソがハリベルの上の立場になるのが納得出来ないでいたのだ。
「心が痛い。スンスンさんの丁寧な言い方の方がより辛辣で心が痛い……」
「部下がすまない。だが、クアルソ様が力とまともな態度を示せば彼女達も理解するだろう。クアルソ様が王に相応しいということを。まともな態度を示せば」
「心が痛い!」
辛辣なのは部下だけでなくその上司もだったようだ。だが仕方ない。全部自業自得の結果なのだ。
なお、クアルソの懇願によりハリベル達
「ふぅ。まあそれはいいや。とりあえず決闘を始めようか。ルールとかはどうする?」
「互いに殺すのは無し。後は全力で
殺しは流石に無しにしたが、それ以外はルール無用の全力勝負だとハリベルは言う。全力で戦っても勝ち目がない事はハリベルも理解している。だが、少しでもクアルソという高みに触れてみたかったのだ。それ故の提案だ。
「なるほど……。じゃあこちらからも一つ提案が。勝負は二回行うとしよう」
「二回……? 別に構わないが……」
決闘だと言うのに何故勝負を二回行おうというのか。それがハリベルには理解出来なかった。これは試し合いの意味が多分に含まれているが、決闘とは本来一回勝負だ。生死を分ける戦いに二度目など本来あり得ないからだ。
可笑しな事を提案するクアルソに首を傾げるハリベルだったが、その提案自体は了承した。ようは二度もクアルソと闘えるという事だ。その機会を逃す必要はないだろう。一度目でクアルソの力を少しでも感じ取り、二度目でそれを生かすようにすればいい。そうすればより多くの経験と力を得る事が出来るだろう。
そう判断したハリベルは、しかし油断する事なくクアルソを見据え、初手から全力を出そうと集中する。
「それじゃあ準備はいいか?」
「ああ……いや、少し待て」
そう言って、ハリベルは僅かに逡巡した後、クアルソの提案の真意を理解して笑みを浮かべる。
そして己の斬魄刀を抜き放ち、刀剣解放を行った。
「討て――
その判断を見て、クアルソは感嘆の声を上げると同時に、先の提案を覆した。
「おお……。すまないが、やっぱり勝負は一回だ。その方が真剣みが増す」
「解った」
クアルソの反応と言葉を聞いて、ハリベルは己の予想が当たっていたと理解して嬉しそうな笑みを浮かべる。
「なんだなんだ? ハリベル様が本気を出したのが怖くなったのかクアルソ?」
「なっさけねーなーおい! 二回勝負を持ち出したのはテメーだろうが!!」
クアルソの前言撤回にミラ・ローズとアパッチが罵り上げる。それを聞いて、クアルソでもハリベルでもなく、スンスンが溜め息を吐いて二人を諌めた。
「あなた達……もう少し頭に知恵が回り切らないものなの?」
「ああ!?」
「どういう意味だよスンスン!?」
どういう意味も何も、そのままの意味だという意味を籠めてこれ見よがしな溜め息を吐くスンスン。その態度に更に立腹する二人を、今度はハリベルが諌めた。
「止めろミラ・ローズ、アパッチ。クアルソ様は私を試していただけだ」
「試していた?」
「いったい何を試したって言うんですか!?」
「私が戦闘前に
「そういうこと。戦闘開始してから
そう、それがクアルソが勝負は二回と言った理由だ。
圧倒的格上を前にしてそれはあまりにも大きすぎる隙である。それを理解させる為に、敢えて最初の勝負は
「
「戦いに卑怯も何もない。あるのは勝利か敗北か、生か死かだ。自分が卑怯な手を使うのを厭うのはいいが、相手が使うのを非難するのは負け犬の遠吠えに等しい」
「う……」
アパッチがクアルソに卑怯と罵ろうとするが、それを口にする前にクアルソが厳しい言葉を叩きつける。
それを聞いて、アパッチはそれ以上何も言う事が出来なかった。その言葉が正しいとアパッチも理解したからだ。いや、した、ではない。理解していた。アパッチも闘争が支配する虚の世界を生き延びてきた猛者だ。この世界で正々堂々等望むべくもない行為だ。自分がするならともかく、相手にそれを望むなどあり得ないだろう。
そして何より、普段のクアルソとは比べるまでもない程の真面目な態度に気圧されていた。今のクアルソは武人モードではないが、それでも決闘中や修行中に下衆ルソになる事はない。あくまであれは普段の行動であり、決闘や修行の最中は相応の態度で臨むものなのだ。
「クアルソ様の言う通りだ。相手がどんな手を使おうとも対応する。それが出来なかったから卑怯というのは敗者の理だ」
「……はい」
敬愛するハリベルにもそう言われ、アパッチは落ち込んだ。同じようにクアルソをこき下ろそうとしていたミラ・ローズもだ。スンスンのみが二人を見て少し良い気になっていたが。
「それじゃあ準備は終わりでいいか?」
「いや、もう少し付き合ってもらおう。三人とも、下がっていろ」
『はい!』
元々
「
三人が下がったところで、ハリベルが右手に持った鮫を模した大剣を振るい、その力の一端を発揮する。
水を生み出し自在に操るのがハリベルの能力だ。そして
「さあ、これで準備は終わりだ。後は全力で戦うのみだ」
水を生み出し操る能力を持つが、水があればある程、生み出す必要がなく操る武器が増える。水辺こそがハリベルの最大の力を発揮出来る戦場なのだ。それを準備段階で用意しておくことで、最初から全力の闘いが出来るようにしたのだ。
実際の戦闘ならばこれも不可能だが、準備時間ありの決闘なら問題ない行為だ。やはり決闘というよりも試し合いの意味が強いと言えた。
「ああ。それじゃあこの枝を投げるから、これが地面……ほぼ水だけど。水面に落ちた時が勝負の合図ということで」
「解った」
クアルソがそこら辺に生えている石英の枝を千切り、合図として使用する。そして、石英の枝を上空高く放り投げた。
枝が落ちてくる速度が非常にゆっくり感じられる。それ程にハリベルは集中していた。そして枝が水面に落ちた瞬間――
「くぅっ!!」
――クアルソが
「
その瞬間を利用し、ハリベルが己の最大の奥義を発動させた。
「これは……」
周囲の水が大きくうねりを上げていく。その上、水の量が一気に増大していった。
クアルソは増大する海に飲み込まれないよう空中の霊子を足場にして逃れる。そして周囲一面を見渡して感嘆する。もはや水面ではなく海が出来たのではないかと錯覚する程に、水が辺り一面に広がっていた。
「
ハリベルが間髪入れずに更なる技を放つ。
生み出された大量の水が大津波となってクアルソに押し寄せる。その質量、その水圧はあらゆる物を飲みこみ、打ち砕く勢いであった。
「
その圧倒的高水圧の津波を、クアルソは
「
その
「くっ!」
津波を突き破り、多少は威力が減衰した筈の
相殺する事は叶わなかったが、それでも威力の減衰は更に出来たようで、ハリベルは多少のダメージを負うだけで済んだ。
――ここまでの威力差があるのか……――
この結果にハリベルはクアルソとの実力差をより実感する。
「
ハリベルが更なる技を繰り出す。クアルソの真下の水から大量の水の槍が作り出され、それがクアルソ目掛けて飛来する。
それだけではない。真下に注目させるのがハリベルの攻撃の目的だ。本命は自身の一撃だ。
「
真下からの大量の水槍と同時に、ハリベルが傷付いた肉体から流れる血を利用して、
水槍と
「ごはっ!?」
――腹部に生じた衝撃に嗚咽を上げた。
「はっ!」
「ぐぅっ!」
例え女性が相手であろうとも、それが戦いであるならば手加減はしても容赦はしない。それがクアルソの武人としてのスタンスだ。多分戦いが終われば滅茶苦茶落ち込む事だろう。
クアルソの攻撃で上空に吹き飛ばされるハリベル。だが、クアルソの攻撃はまだ終わってはいなかった。これが本当にただの試合や修行の一環ならばハリベルがどこまで出来るか見守るのだが、一応は決闘という形なのでそれも無しにした。
「終わりだ」
そう呟き、クアルソは吹き飛ぶハリベル目掛けて
「……」
大きな衝撃を受けてハリベルは気を失い、
「勝負は終わりだ! ハリベルさんを助けてやってくれ!」
『ハリベル様!』
クアルソの言葉を聞き終わる前に、三人は水中目掛けて飛び込んだ。クアルソが行かなかったのは、戦士が敗れた相手に助けられるのを恥と思うだろうと考えたからだ。その気遣いを普段も見せる事が出来れば……まあ全ては無意味な仮定でしかなかった。だってそれが出来ないのだから。
「ハリベル様! 大丈夫ですか!」
『ハリベル様!』
ミラ・ローズに抱きかかえられ、ハリベルが水中から姿を現した。気絶はしているが命に別状はなく、すぐに目も覚ましたようだ。
「私は……そうか、負けたか」
「ハリベル様……」
「気にするな。三人とも、ありがとう」
気絶から覚めるや否や、自分が負けた事を自覚するハリベル。そのハリベルに対し、慰めの言葉を掛ける事は
それが彼女たちのハリベルに対する最大の気遣いであるとハリベルも理解している。だからそんな彼女達に礼を言い、ハリベルは彼女達から離れてクアルソに向かい合った。
「私の負けだ。
「本気だったさ。ただ全力ではなかっただけだ」
そう、クアルソは本気ではあった。本気で攻撃し、本気で戦った。威力を落とし、致命傷となるような技は使わなかったが、攻撃自体は本気だったのだ。全力で攻撃してしまうと普通の一撃でも致命傷になってしまう為に、そうするしかないのだ。
「そうか……今後とも、よろしくお願いしますクアルソ様」
「あー、はい。うん……よろしくハリベルさん……」
「ハリベルと、どうか呼び捨てにしてください」
「いや、その……はい。よろしくハリベル……」
「はっ!」
なんと ハリベルが おきあがり ちゅうじつなぶかに なりたそうに こちらをみている!
ぶかに してあげますか?
はいを選ぶしかクアルソには出来なかった。多少は気さくな会話が可能になっていたというのに、完全に上司と部下の関係に収まってしまったようだ。実直なハリベルの想いを覆す事はクアルソには難しかった。
実のところ、ハリベルのクアルソへの好感度は爆上がりしていた。上司と部下という立場故にこうして畏まっているが、それがなければ以前とは比べ物にならない程、打ち解けていただろう。それにクアルソが気付くのはいつになることか。それは誰にも解らない事である。
「お前たちもクアルソ様に改めて挨拶をしろ」
『……よろしくお願いしますクアルソ様』
「よろしくお願いしますわクアルソ様」
ハリベルに命じられた事でミラ・ローズとアパッチは不満そうに、スンスンは特に何も思ってなさそうにクアルソに対して礼儀を正して挨拶をする。それを悲しそうにクアルソは受け取った。
「はい、よろしく……」
――ああ、どうしてこうなった?――
大体藍染のせいだとクアルソは憤慨する。次に会った時は一発、いや、今まで犠牲になった人や利用された人達の怒りも籠めて十発は殴ってやるとクアルソは心に誓った。
◆
「くたばれっ!!」
「お前が死ねっ!!」
今、
グリムジョーはルピを非常に憎んでいた。殺したいと思っている程にだ。だが、クアルソが
それを解消すると同時にもう一つの問題を解決すべく、クアルソはルピとグリムジョーを止めは刺さないという条件の下に戦わせる事にした。その問題とは、
以上の五名が現在
それはともかくとして、見事に階級が穴だらけだ。しかも
そこでクアルソはルピとグリムジョーに戦わせ、勝った方が高い階級を得られるものとした。そうすればグリムジョーの鬱憤を晴らす機会を与えると同時に、強い者が低い数字を与えられる
そうして戦い始めた二人だったが、止めは無しと言われているというのに互いに殺意てんこ盛りだ。よほど互いに相手に負けたくないと思っているようだ。もしかしたらどさくさに紛れて殺すつもりすらあるかもしれない。
「おおッ!!」
グリムジョーが解放状態の最強の技、
「そんな見え見えの大技ぁぁ!」
それに対し、ルピは正面からぶつからずに
「ぐっ! こんなチマチマした攻撃が効くかよッ!!
そう叫びながら、グリムジョーはルピに対して
「ちっ!!」
威力は大した事ないが、顔面に数発の
「そぉら!」
「!?」
ルピの八本の触手がグリムジョーを追撃する。それらの追撃を躱すグリムジョーだったが、触手の先端から突如として無数の棘が伸びた為に、完全に回避し切る事が出来なかった。
「このっ!」
致命傷にならない嫌がらせのような攻撃にグリムジョーが更に苛立つ。どうせならこれくらいの大技を使って見せろと言わんばかりに、グリムジョーは先程の攻撃で出来た傷から流れる血を利用し、
「なっ!?」
触手から放たれた
両者の戦いを見学していたスタークが、ルピに対して感心の声を上げる。
「へぇ。ルピもやるもんだ。解放状態の力が以前よりも随分上がっているんじゃないか?」
「そりゃな。オレと修行している時は基本的に解放状態の力をより引き出せるように修行をつけていたからな」
スタークの言葉にクアルソがそう返す。ルピと修行した期間はたったの十日間程度だが、それでも十分な成果は得られているようだ。
「しかし、グリムジョーはちょっと興奮し過ぎだな。ルピに良いようにあしらわれてるじゃねーか」
「ああ、ルピに対する恨みを晴らそうとして力が入りすぎだ。空回っている状態だな」
そう、グリムジョーは本来の実力を引き出せていない状況だ。基礎的なスペックはグリムジョーの方がルピよりも上だ。だが、ルピの度重なる嫌みったらしい口調にグリムジョーのフラストレーションは溜まりに溜まっていた。その上、少し前に弱っていた時に殺されかけもしたのだ。それらの恨みを晴らそうと、グリムジョーは必要以上に力を入れていた。
それが隙を作ることとなり、予想外のルピの実力に翻弄されていた。攻撃の威力も速度もグリムジョーの方が上だが、ルピが巧みに間合いをずらしたり、攻撃の隙間を縫って小技でダメージを与えたりして、グリムジョーの体力と冷静さを奪っているのだ。
そして大技を放とうとしたところで
「くそっ……!」
「
――
「がっ……」
逃げ場のない、ほぼ零距離からの
「はっ、はっ……! まだだ……! グラン――」
ルピは油断しない。これでグリムジョーを倒したとは思わない。勝ったと思った時、油断した瞬間、それが最も危険な時であるとクアルソに教え込まれていたのだ。その教えを守り、ルピはグリムジョーに更なる一撃を放とうとして――
「そこまで」
「あ……」
クアルソによって追撃を止められた。
「終わりだルピ。それ以上は止めになる」
「え? じゃあ――」
自分の勝利なのか。そう思い喜びの声を上げようとしたルピだったが、グリムジョーの叫びによってその声が遮られた。
「ふざけるな! まだだ……! まだ俺は終わっちゃいねぇ! 戦わせろ!!」
全身から血を流し、それでも気概は十二分にあるグリムジョーがそう叫ぶ。確かにまだ戦えるだろう。今のグリムジョーは手負いだが、手負いの獣ほど怖いものもない。確かに、今戦ってもルピに勝てる可能性はあるだろう。
それでも、クアルソはこの戦いが決着した事を残酷に告げた。
「いいや終わりだ。お前がまだ無事なのはルピの最後の攻撃を受けていないからだ。オレが止めなきゃ、二発目の
「……!」
そう、グリムジョーがまだ戦える手負いの獣で済んでいるのは、ルピの追撃をクアルソが止めたからだ。あの一撃は放たれていれば確実に命中していたとクアルソは判断していた。今のグリムジョーが二発目の
そもそも、今のルピはかなり消耗していた。グリムジョーの攻撃力はルピに致命傷を与えるには十分過ぎるほどだ。その攻撃を掻い潜っていたのだから、相当神経を削る作業だったのだ。
それに、
「お前の負けだグリムジョー。気負い過ぎたな。もう少し冷静に戦えるようにしろ。お前の課題だな」
「……うおおおおおおおおお!!!」
クアルソの言葉に、グリムジョーはその怒りを大地に叩きつけることしか出来なかった。
こうして、ルピ達の階級を決める戦いは終わりを告げた。グリムジョーはルピの下だと決まってしまったのだ。
もっと上手く戦っていれば勝てていたかもしれない。自分の実力を発揮出来ずに勝負に負ける。それは非常に悔しいことだ。今のグリムジョーの無念や如何ほどか。
「ルピ、良くやったな。今回はお前の戦術の勝利だ」
「は、はい! ありがとうござ――……今回は?」
クアルソからの称賛の言葉に喜びを顕わにするルピだったが、とある単語が気になり、その疑問をそのまま口にした。
「ああ、今回はだ。次も頑張れよルピ。グリムジョーはもっと冷静に戦えるようにな」
『……え?』
クアルソの突然の発言に悔しがるグリムジョーも、そのグリムジョーを見て悦に浸っていたルピも、呆けたような声を上げた。
「ちょ、待ってくださいよクアルソ様! 次もって、折角勝ったのにまたやらなきゃならないの!?」
ルピがクアルソの発言に異議を申し立てる。ルピ自身、グリムジョーが自分よりも強い事を理解していた。勝てたのはグリムジョーが興奮し過ぎていたのと、ルピがグリムジョーの実力を発揮出来ないような戦いを心掛けていたからだ。
もう一度戦えば恐らくグリムジョーが勝つだろう。非常に悔しい事だが、それはルピ自身が一番理解していた。こうして勝てたのだから自分がグリムジョーよりも上の階級になれると思っていたのに、それが覆るかもしれないのだから、クアルソの発言は寝耳に水だった。
「そりゃそうだよ。お前らも今のままの強さで終わるつもりはないだろ? 誰もが成長するんだ。その成長した強さを試す機会は必要だろ?」
そう、修行をすれば誰しも実力が上がるだろう。必ず。否が応にも。何があってもクアルソが強くしている。絶対にだ。そして強くなったと実感出来る一番の方法が、
「今後、
その勝負で下位の
階級が上の者は下の者に抜かれないよう努力し、下の者は上の者を抜く為に努力する。これぞ修行の無限螺旋だ。非常に素晴らしい案だとクアルソは思う。
ただし命の奪い合いをなしにしているため、何度でも勝負を挑めてしまうのが問題だ。勝つまで挑む気概は大事だが、かといって一戦一戦の重要性を薄めるのも如何なものかとクアルソは危惧する。故に、一度勝負を挑んだ者がその戦いで敗北した場合、一年間は勝負を挑めないものと規定した。そして、勝っても負けても勝負を行った者に対して、他の者が勝負を挑むには三日間の期間を空ける事もだ。疲弊した状況を狙い打ちする姑息なやり方を防ぐ為だ。
これらの説明を聞いて、グリムジョーは獣のような笑みを浮かべる。
「そうか……良かったなルピ。この一年、俺よりも上の階級になれた事を噛み締めていろ……。その一年で終わりだからなぁ!!」
「ッ!! 言ってろ! 次もボクが勝つに決まっているからな! クアルソ様! 修行付けてくれますよね!?」
「もちろんだ!」
ルピの言葉から自分の案が上手く行っている事をクアルソは実感し、非常に良い笑顔で返事をした。
◆
クアルソとハリベルの一戦から、クアルソは名実共に破面の王として認められた。あれだけの力を見せ付けられては、クアルソに不信感を抱いていた者も認めざるを得なかったようだ。
右に行ってもクアルソ様。左に行ってもクアルソ様。我々を導いてくださいクアルソ様。その力の一端を授けてくださいクアルソ様。様様様の嵐である。クアルソの長い人生の中で敬われた事は幾度もあったが、ようやく男として転生――と言っていいのだろうか――出来たのだから、色々とフレンドリーに生きたかったのが素直な気持ちだ。なお、最後の力の一端を云々と言った
「はあ。疲れるよほんと」
「そう言って破面の王様が部下の所で寛ぐのはどうかと思うよ?」
クアルソはスタークの元でゴロゴロとしていた。日頃のストレスをスターク相手に晴らしているようだ。
「そう言うなよスターク。今やオレの味方はお前とリリネットだけだ……」
「難儀だねぇ。支配者になったんだから好き勝手にしても怒られないだろうに」
スタークとリリネットだけはクアルソを前にしても今までと同じ態度で接していた。流石に他の
「大体クアルソが破面の王だなんてちゃんちゃら可笑しいよな。まあどうでもいいけど。そんな事よりクアルソお茶ー」
「はいはい。今日のお茶は中国茶だ。中国茶は種類も豊富で奥が深いんだぞ。これは浦原さんから仕入れた中々の白茶だ。オレも楽しみだよ」
リリネットの何時も通りの態度にクアルソの心が癒されていく。リリネットもクアルソとの一時を楽しんでいた。着実に非攻略対象への好感度を互いに上げているようだ。
「それで、残りの
白茶を淹れるクアルソに向けてスタークが質問する。それに対し、クアルソは渋面を作って答えた。
「難しいな。
現在、
人数が足りないからとりあえず補充する。そんな適当なやり方をしていいものだろうか。否、断じて否だ。
少なくとも、通常状態のヤミーを相手に勝てるくらいでなければ
だが、
取りあえず、今は暫定
現在の
そして
通常状態では
だが、最弱の
だからといって通常状態のヤミーを弱いままにはしておけない。いや、
ともかく、
これにより通常状態では
なお、この勝負も
「まあ、要期待だな。修行してればそのうち強くなるだろ」
「そりゃあんな修行させられりゃなぁ……」
スタークはクアルソの修行光景を思い出して身を震わせた。ヤミー、グリムジョー、ルピと、
それは地獄だったとスタークは思った。何故か途中で見学から参加に変わっていたスタークは、普段の怠惰な己の性格を呪った。こんな苦しい思いをするならば、努力家な性格に生まれた方が良かった、と……。
「ヤミーが、破面の王になるなら藍染みたいに力をくれとかほざいたからな。誰かに与えられた力で強くなろうなんて甘えた事をほざいたんだ。そりゃ修行に力も入るってもんだ」
クアルソが少々怒りが籠もった声でそう言う。クアルソからすれば、修行せずに力が欲しいなどと寝言以下の言葉だ。そんな事を臆面もなく告げられては、絶対修行主義者のクアルソが怒るのも当然であった。
そうしてヤミーと、巻き込まれた三人はクアルソの修行を徹底的に受けたのだ。その結果、ヤミーとグリムジョーはクアルソに対して強い言葉を出来るだけ使わなくなった。彼らの反逆精神は瀕死状態に追い詰められていた。もちろん、いつかは下克上してやると思ってはいるが……。少なくとも今は絶対に逆らわないと決めていた。
「と、もういいか。ほら、白牡丹っていう白茶だ」
「おおー、なんだこれ? お茶の中に茶葉が入ったままだぞクアルソ?」
「茶葉が開くのを見るのも楽しみ方の一つ……まあいいか」
グラスに入ったお茶に浮いている茶葉を見てリリネットが文句を言うが、これはそういう淹れ方であり楽しみ方なのだ。だが、見た目の華やかさよりも味を重視しているリリネットは茶葉があると飲み難いと思って文句を言っていた。
クアルソはリリネットにそういう楽しみ方を言っても仕方ないかと納得し、茶葉を取り除いた白牡丹をリリネットに手渡した。そうしてリリネットがお茶を口に含み、飲み込んだ瞬間に満面の笑顔になった。
「これ美味いな! お茶なのに甘いけど、爽やかな感じだからくどくないな!」
「お前って意外と舌の感覚いいよな」
リリネットの敏感な舌にクアルソは感心しつつ、リリネットに取られる前にスタークにも白牡丹を手渡した。それと同時に用意していた点心を取り出し、三人でゆっくりとした時間を楽しんだ。死神の大敵、
他の技もオリジナル技です。
破面がヤミーに挑む→ヤミーの戦闘経験が増える→ヤミー強くなる→十刃のボーダーラインが上がる→クアルソの修行をヤミーが受ける→ヤミー強くなる→十刃のボーダーラインが上がる→破面がヤミーに挑む→ヤミーの戦闘経験が増える→ヤミー強くなる→以下エンドレス。
次回は