どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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ダイの大冒険 第四話

 デルムリン島の上空に2人の男性が浮いていた。彼らはデルムリン島を見下ろし、そしてその内の一人が口を開く。

 

「ここがデルムリン島かぁ。本当にこんな島に先生の弟子候補がいるんですか?」

「そのはずですポップ。パプニカ王国のレオナ姫の話では、とても強い勇者との話でした。それにとても心優しいとも。大魔王や魔王軍との戦いにおいてきっと力になってくれるでしょう」

 

 先生と呼ばれた彼の名はアバン。メタルンと出会ったあの人物である。そしてもう一人の名はポップ。アバンの弟子の1人である魔法使いの少年だ。

 アバンはメタルンと別れてから、ヒュンケルと共に修行して、そして世界中を旅した。魔王ハドラー復活と大魔王バーンの脅威。それらに対抗する為に、多くの弟子を育てようとしたのだ。

 アバンは多くの人間に大魔王の情報を伝えなかった。ハドラーの死から数年。平和に慣れ親しんだ人々にそんな恐ろしい話をしたところで信じてくれる可能性は低い。そればかりか混乱を生み出す切っ掛けとなるかもしれないと危惧したのだ。

 信頼出来る僅かな人物にのみその情報を伝え、アバンはヒュンケルと共に弟子を探す旅に出る。そうしてアバンの弟子となった内の1人がポップであった。

 

 ランカークスという小さな村の武器屋の1人息子だったポップは、その村を訪れたアバンに憧れて家出してまで無理矢理アバンの旅について来て弟子入りをした。

 だが、根性がないポップは辛い修行になると今一本気に打ち込めず、ダラダラとアバンの修行をそれなりにこなすだけだった。……ヒュンケルがいなければ、だが。

 ヒュンケルの存在はポップにとって非常に良い刺激となった。見た目が良くクールなヒュンケルを、ポップは気に入らなかった。修行が辛くて投げ出したい時も、ヒュンケルが鼻で笑えばポップは奮起した。

 そればかりか、修行の途中でアバンが立ち寄った村で出会ったアバンの弟子の1人であるマァムという女性に恋をしたポップは、そのマァムがヒュンケルに淡い恋心を抱いているのを知って更に奮起した。

 ヒュンケルには負けてなるものか。マァムは渡さねーぞ。意地と恋。その二つによって並以上の努力をした結果、今ではポップも一人前以上の魔法使いに成長して立派なアバンの使徒となっていた。

 

「しかしポップもトベルーラでの移動が上達しましたねぇ」

「そりゃあね。師匠にあんだけしごかれりゃ猿でも上達しますよ……」

 

 アバンの褒め言葉にポップは地獄のしごきを思い出して陰鬱になる。ポップの先生はアバンだけだが、魔法使いの師は別にいた。それがかつてのアバンのパーティメンバーであった大魔導士マトリフだ。

 アバンがポップに教える事が出来るのは魔法使いの基本と応用だが、その応用も魔法使い専門ではないアバンでは完全な指導は難しい。そこでアバンはマトリフにポップの指導を願ったのだ。

 気難しいマトリフだが、かつての仲間のお願いを聞くくらいの融通はあった。その代わり、ポップは逃げ出したくても逃げられない程の地獄の修行を受ける事になったのだが。おかげで魔法の腕だけならばアバンを超えたので、そこは感謝しているポップだったが。

 

「おや、ヒュンケルも来たようですね。さ、私たちも下に降りてヒュンケルに合流しましょう」

 

 ポップが一方的にライバルと見ているヒュンケルは戦士なので呪文は全く使えず、トベルーラで移動するアバン達についてくる事が出来ない。

 2人に連れて行ってもらう事はどこか間抜けに思ったのか、ヒュンケルは船でデルムリン島を目指していた。そしてその圧倒的体力によって然程の時間を掛けずにヒュンケルは2人に追いついていた。

 

「へーい。……小船を漕いでトベルーラに短時間で追いつくなんて、あいつ本当に人間か?」

 

 ヒュンケルの底知れない体力にポップは呆気に取られる。そうして2人はヒュンケルと合流し、デルムリン島に上陸するのであった。

 

 

 

「さて、この島のどこかにダイ君という少年がいるはずですが……むっ!」

「どうしたんですか先生?」

 

 デルムリン島に上陸したアバンは、早速ダイを探そうとする。だがその時、アバンは何者かの気配を感じて動きを止めた。

 そんなアバンの反応にポップが疑問をぶつける。それに対し、ヒュンケルもまた臨戦態勢を取りつつポップに警告をした。

 

「気を抜くなポップ。凄まじく強い何者かがいるぞ!」

「な!? なんだって!」

 

 ポップはヒュンケルの事を気に入らないと思っているが、心底嫌っている訳ではない。むしろ兄弟子として尊敬しており、その強さには憧れすら抱いている。それを自分でも認めてはいないが。

 そんなヒュンケルが、凄まじく強いという何者かが潜んでいる。そんな事は今まで一度もなかった事だ。それ故にポップは緊張して思わず固唾を呑み、杖を手にして周囲を警戒する。

 

「出てきてください! 私たちは争いに来たわけではありません!」

 

 そんなアバンの叫びに、森の奥から1人の壮年の男性が姿を現した。そう、バランである。アバンとヒュンケルが感じ取った強者の気配も当然この男だ。

 

「……」

「……」

「……」

 

 バランとアバン、そしてヒュンケルが互いに見つめ合う。

 

 ――出来るな――

 ――私よりも遥かに強い!――

 ――こ、この男、何者だ!――

 ――こえぇ! なんだこのおっさん!?――

 

 バランはアバンとヒュンケルの強さを見抜き、人間にしてはかなりの者だと感心する。

 同時にアバンとヒュンケルもバランの強さを感じ取り、その底知れぬ強さに戦慄していた。これ程の強者がいたとは予想だにしていなかったのだ。

 ポップもまた、戦士ではない為にバランの強さを見抜く事は出来なかったが、その存在の圧力を感じ取る事は出来た。

 

 互いに互いを牽制し、緊迫感が場を支配する。だが、そんな場をあっさりと破壊する存在が空からやって来た。

 

「ピギィ!」

 

 そう、メタルンである。

 

「む、メタルン? 何故出てきた?」

 

 謎の存在が空にいたのはバランもメタルンもとっくに気付いていた。そしてメタルンにはソアラ達の警護を任せ、バランが新たな来訪者の目的を探りに出る。今までの来訪者はダイに任せていたが、どうにも今回の相手は毛色が違う為にバランが表に出たのだ。

 だが、ソアラを守っていたはずのメタルンがいきなり飛び出してきた。それを訝しむバランだったが、来訪者であるアバン達の反応を見て徐々に納得する事となった。

 

「ああ、あなたはまさか!?」

「あの時のメタルキング!」

 

 アバンとヒュンケルはメタルンを一目見て理解した。彼こそあの時の恩スライムのメタルキングであると。他に空を飛ぶメタルキングなどいないのだから分かって当然だが。

 

「む? 知り合いだったのかメタルン?」

「ピギィピギィ!」

 

 ――うむ。共に大魔王に立ち向かおうと誓った友だ!――

 

 未だにメタルンの言葉を理解する事は叶わないバランだが、メタルンの反応からして知り合いに変わりはない事は理解した。

 なお、アバンとヒュンケルにメタルンとそんな誓いを交わしたつもりはない。言葉が分からないので当然である。

 

 メタルンの出現により一触即発の空気は破壊され、アバンはバランと挨拶を交わす。

 

「お初にお目にかかります。私はアバン。未来を担う人材の育成をしている教師です」

「……バランだ。アバン……もしや、ハドラーを倒したという勇者アバンか?」

 

 アバンの自己紹介と感じ取った実力から、目の前の人物が勇者アバンだと見抜くバラン。

 バランの言葉にアバンは頷いて肯定し、そして自分の目的を語り出した。

 

 メタルンとの出会いから知った魔王ハドラーの復活。そしてその裏に潜む大魔王バーンの脅威。これらに対抗すべく、世界中の有望な若者を育てているのだと。

 そして、レオナ姫から聞いた情報に、デルムリン島に未来の勇者とも呼ぶべき逸材である少年がいると知り、こうしてやってきたのだ、と。

 

「なるほどな……その少年、ダイは私の息子だ」

「なんと! いや、なるほど……。あなた程の人物の息子さんならば、レオナ姫の話も頷けますね」

 

 バランという圧倒的強者の息子。それならば、レオナ姫の話も真実だろうとアバンは納得する。

 そんなアバンを見ながら、バランはどうするかと悩んでいた。

 

 今のダイは十分な強さを得る程に鍛えはした。だが、同じ者ばかりから鍛えられても経験が偏るだろう。

 人間が持つ技術というものも侮れない物があるのはバランも知っている。竜の騎士としての生まれ持った強さや、長きに渡り引き継がれてきた経験を持つバランだが、だからこそ非力な人間が編み出した武術の強さは侮れないと理解していた。

 今のダイに必要なのは力をより上手く活かせる技術、そして精神だと思い、バランはその二つを兼ね備えているだろうアバンの願いを聞き届ける事にした。

 

「いいだろう。お前にダイを鍛えさせてやる。だが、あまりに期待外れだったらさっさと出て行ってもらうぞ」

「え、偉そうだなこのおっさん……」

 

 完全に上から目線な言葉にポップが思わず呟く。だが勘違いしてはいけない。これは文字通り上からの言葉なのだ。圧倒的強者はバランであり、アバンはお願いしている立場に過ぎなかった。

 それを理解しているアバンはポップを制止し、そしてバランの言葉に頷いた。

 

「分かりました……。ではこの契約書にハンコを……あ、なければサインでもいいですよ?」

「……」

 

 緊張する空気をぶち壊すアバンの態度にバランも呆気に取られる。そして思った、食えない人間だと。

 強さでは圧倒しているが、何を仕出かすか分からない恐ろしさを秘めている男だ。そう感じ取ったバランは、アバンと敵対するのは出来るだけ避けようと判断した。

 

 

 

 そうしてアバンによるダイの修行が始まった。

 アバン一行と出会ったダイは、アバンが真の勇者たる存在だと理解し、魔王ハドラーを倒した勇者その人に出会えた事を喜びアバンに憧れた。

 そして弟子のヒュンケルとポップとも良い関係になれた。初めての弟弟子が出来たポップは素直に喜び、少し年下のダイを弟のような親友として受け入れた。

 ヒュンケルもまた、凄まじい力を秘めているダイに驚嘆しつつも、その純粋な思いや、幼い頃はモンスターに育てられたという自身と同じ境遇に共感し、ダイを仲間として受け入れたのだった。

 

 ダイが受けたアバンの修行。それは1週間で勇者になれるというスペシャルハードコースという、アバンの教えの中でも最も厳しい修行コースだった。その修行を乗り越えた者は現在ヒュンケルしかいない。

 ポップも最初に受けた時は3日で挫折していた。だが、ダイはそれを受けるといい、ポップもまた弟弟子に負けじと同じコースを受ける事を選んだ。ヒュンケルがふっ、と鼻で笑ったのが癪だったというのもある。

 

 一般人では決してクリア出来ないスペシャルハードコース。だが、すでに逸般人となったダイにとってはそこまで難関でもなかった。

 ダイは初日にて、アバン流刀殺法の基礎である大地斬を覚えた。覚えたというより、既に使えたと言うのが正解だ。これくらい出来なければバランとメタルンに何を言われるか分からないだろう。それ程過酷な修行をダイはこなしてきたのだ。なお、まだ12歳である。

 そしてその日の内に、次の技である海波斬を使いこなす。基礎は十分だった為に、アバンの教える技をメキメキと吸収出来たのだ。

 

 ダイが苦労したのは空を斬る空裂斬であった。空を斬るというこの技は、心の目で敵の意思や本体を見極め、光の闘気で斬り裂くというものである。この技を極めた者は、斬りたい物だけを斬る事も可能となるだろう。

 だが、強さで言えば十分なダイも、心の目で敵の意思を見抜くという行為は困難だった。やはりいくら強くても経験不足という事だろう。

 メタルンとバランもこの点を鍛えようとし、小悪党なでろりん達やバロン達の悪意を見抜く事が出来るかどうかとダイを見守っていた。だが、それでも経験が足りず、他の修行で補おうとした所に、アバン来訪だ。

 これもいい経験になると思いアバンにダイを託したが、中々によい結果を生みそうで満足していた。

 

 一方、ダイとポップがスペシャルハードコースをこなしている中、ヒュンケルは終生のライバルと言える存在と出会っていた。

 

「むぅ……」

「やるな……」

 

 ヒュンケルと対峙しているのはラーハルトだ。二人は出会った瞬間に互いの強さを認め、そしてどちらからともなく手合わせを申し出ていた。

 そうして行われた手合わせだが、趨勢はラーハルト優勢で動いている。互いの戦士としての才能は互角であり、パワーでヒュンケルが、スピードでラーハルトがそれぞれ勝っていた。だが、両者の積み重ねてきた経験が違ったのだ。

 ヒュンケルもアバンの元で長きに渡って鍛えてきた。その技の冴えはラーハルトも目を瞠るものがある。だが、ラーハルトは世界最強の騎士であるバランと、世界最バグの存在であるメタルンを相手に鍛えてきたのだ。その差は確実な差となって戦いに現れていた。

 

「くっ!」

「勝負あり……だな」

 

 槍の切っ先を喉元に突きつけられ、敗北を悟るヒュンケル。アバンの弟子となってアバン以外では初の敗北だ。最近では純粋な戦士としてはアバンを超えたという自負もあったヒュンケルは、この敗北に強いショックを受ける。

 そして、それ以上にヒュンケルは喜んだ。これ程の強者がいる事に。自らがまだ未熟な事に。それらはつまり、自分はまだ強くなれる事を意味しているとヒュンケルは受け取っていた。

 

「オレの名はヒュンケル……お前は?」

「ラーハルトだ」

「ラーハルトよ。もう一度勝負してくれ」

「ふっ。負けてすぐに再戦を挑むか……日に二度も負ける事になるぞ?」

 

 すぐさま再戦を申し込むヒュンケルにそう言いつつも、ラーハルトはヒュンケルに共感を抱いていた。負けたままでゆっくり眠れる程達観していない。2人は似た者同士だった。

 そうして再び戦いが始まる。互いの手を理解した2人の戦いは先程とは違う進み方をする。その結果も違う物になったかどうか……それを知る者はこの2人と、そして空でライバル同士の戦いを暖かく見守っていたメタルンだけだった。

 

「ピギィ……」

 

 ――お前、私に向かって日に何度も挑んで負け続けてたよな……――

 

 ……暖かく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 ダイがアバンに師事してから3日。そのたった3日で、ダイはアバン流刀殺法を極めた。これにはアバンも驚いていた。

 

「いやはや……まさか3日で空裂斬を極め、そしてアバンストラッシュを成功させるとは……」

 

 アバンストラッシュとは、地を斬る大地斬、海を斬る海波斬、空を斬る空裂斬を極めた者のみが扱う事が出来るアバン流の奥義。全てを斬り裂く必殺技である。

 その威力は人間の武術としては最高峰だろうとバランも感じ取った。ダイはまだ幼く親である自身に遠く及ばないが、この刀殺法を自在に操り、今まで培った修行と組み合わせる事が出来れば……その時はダイも自分に肉薄するだろうとバランは思う。

 

「アバン殿。お前の手腕を認めよう。よくぞダイをここまで育ててくれた」

「いやー。私が出来た事は少しの技法と心構えを教えたくらいですよ。あなたが鍛えた基礎があってこそ、ダイ君はここまで成長出来たのですよバラン殿」

 

 そう言いあって、2人は互いを認め合う。

 そうしてバランとアバンが親睦を深めている中、ダイはアバン流刀殺法を極めた拍子にメタルンに勝負を挑んでいた。

 

「ようし! このアバンストラッシュならメタルンにだって!」

「ピギィ……」

 

 ――認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを……――

 

 調子に乗っているダイに、メタルンはため息を吐きつつ首を振る。そしてダイの勝負に乗ってあげる事にした。調子に乗っている時が一番危ないと教えてあげる為だ。なお、本人が一番調子に乗ってそうなのは言ってはならない事である。

 

「せい! やあ! そこだ!」

 

 アバン流を修め、以前よりも鋭さを増したダイの剣筋。空裂斬のマスターのおかげか、敵の動きを目だけではなく感覚で掴もうという素振りも見えた。十分な成長と言えるだろう。

 

「ピギィ! ピギギィ! ピギ、ピギギィギィ!」

 

 ――当たらんよ! 残像だ! 見える、私にも刻が見えるぞ!――

 

 だが残念。理不尽は理不尽だから理不尽なのだ。生きる伝説のバグ相手には、公式チートの竜の騎士も形無しだった。

 

「はぁ、はぁ……くそー……! やっぱり駄目だったかぁ……」

「ピギギィ」

 

 ――いやいや。成長したよダイ。もう少しで当てる事が出来てたよ――

 

 なお、そのもう少しには海よりも深く山よりも高い概念が内在していたりする。

 

「ただものじゃないメタルキングとは思っていましたが……ここまで凄いとは……」

「ええ……この目で見ても信じられませんね」

「とてもじゃないけどスライムの延長線にいるモンスターとは思えねぇよ……」

 

 メタルンの理解不能な実力を初めて見たアバン達も正直驚いていた。アバンとヒュンケルは最初の出会いが出会いな為に、普通とは違うメタルキングと思っていたが、そうではないポップの衝撃は2人以上だった。

 そんな3人を見て、バランとラーハルトは然もありなんと頷いていた。

 

 そんな風に皆が過ごしていると、突如として島の空気が、いや、世界の空気が変わった。

 

「これは……」

「むぅ……この波動……まさか!」

「ピギィ……」

 

 誰もが空気の変化に気付き、そしてその正体を探ろうとする。そんな中、2人と1匹がその正体に気付いた。

 

「動き出したか……ハドラー!」

 

 そう、これは魔王の波動。モンスターを支配する邪悪な意思。つまり、ハドラーが人間界に再び現れたのである。

 

 

 

「これで島のモンスターが暴れる事はもうないはずです」

「ありがとうアバン先生!」

 

 魔王の邪悪な意思に支配されかけたデルムリン島のモンスター達は、アバンが島に張ったマホカトールという破邪の結界によってその支配から解放され、正気に戻る事が出来た。

 友達ばかりか爺であるブラスまで魔王に支配されかけたのを、瞬く間に救ってくれたアバンにダイはその尊敬を高める。

 単純な戦闘力で言えば既にアバンはダイより下回る。父やメタルンにも当然遠く及ばないだろう。だが、その力だけでは解決出来なかった事を解決したアバンの手腕に、力が全てではないとダイは実感したのだ。

 

「さて、こうして魔王ハドラーが動き出したという事は、魔王軍もまた動き出したという事でしょう。今頃は世界中の人々が魔王軍に苦しめられているかもしれません……」

「それを食い止めるのがオレ達の役目……そうでしょう先生?」

「へっ。オレの魔法で魔王軍なんて蹴散らしてやるぜ」

 

 そんなアバン達の会話を聞いていたダイが3人に向けて口を開く。

 

「オレも行く! 罪もない人達を苦しめるなんて許せない! それに、レオナだって助けたいしね」

 

 そう言ったダイは、次にバランに向けて目配せをした。

 

「うむ。大魔王が世界を混乱に落とそうというのなら、それを防ぐのは私たちの役目だ。アバンよ、私も共に行こう」

「父上とダイが行くのにオレが行かない理由はない。ヒュンケルよ。万軍を得た気持ちでいるがいい」

 

 そう言って、ダイと共にバランとラーハルトもアバン一行に同行する事になった。世界最強のパーティ誕生である。

 

「ピギギィ――」

 

 私も大魔王を退治しに行くぞとメタルンが喋っている途中だった。島を覆うマホカトールの結界に大きな衝撃が走ったのだ。その衝撃に誰もが反応し、そしてその原因をその目で見た。

 

 

 

 

 

 

「ククク。ここがアバンが居るという島か」

 

 時は僅かに遡る。デルムリン島の北にある海上にて、1人の魔族が立っていた。

 その魔族の名はハドラー。元魔王であり、現魔王軍魔軍司令の座につく男である。

 

「アバンめ。復活して間もないのにオレが攻めてくるとは、まさか夢にも思っていまい」

 

 ハドラーがデルムリン島に向かっている理由。それは己を葬った宿敵である勇者アバンの抹殺であった。

 勇者アバンはこの数年に渡り、精力的に人々に力と知恵を与えていた。それを疎ましく思った魔王軍は、ハドラー復活を知ってからアバンが準備を整える前に、一気に殺してしまおうと計画したのだ。

 見た映像を送る事が出来る悪魔の目玉というモンスターを利用しアバンの情報を集めていたハドラーは、アバンがデルムリン島に向かったという情報を得た。

 

 デルムリン島ならば人間はおらず、周囲はモンスターばかり。助けを呼ぶ事も出来ず、むしろ多くのモンスターに囲まれる事になるだろう。万が一、大魔王の力でパワーアップした自身がアバンに劣っていたとしても、デルムリン島のモンスターがいれば数の利によって勝つ事は容易いとハドラーは考えていた。

 

 そうしてハドラーはデルムリン島に到着する。そして島が結界で覆われているのを見た。

 

「結界……? 小癪な……」

 

 この結界でモンスターが暴れるのを防いでいるのだろうと思い、ハドラーは一笑に付す。この程度では魔王の意思は止められても、魔王そのものは止められはせぬ、と。

 そうしてハドラーは結界の中に侵入しようとする。

 

「ほう、流石はアバンの結界。並の結界とは違うな」

 

 そう言いながら、ハドラーは結界を無理矢理こじ開けようと力を籠める。

 ハドラーとマホカトールの結界がぶつかり合い、その衝撃で島が揺れる。だが――

 

「ぬ、ぬぐ……! さ、流石はアバンの結界……だ、だが……この程度でこのオレを止められると……!」

 

 だが、ハドラーが結界を抜ける事はなかった。並のモンスターなら触れるだけで消滅する結界だが、それを半ばまで破ってきたハドラーは流石は元魔王と言えた。

 しかし、大魔王バーンの存在を知り、一層修行に励んだアバンの結界を破る事は困難だった。アバンは自身の実力を良く把握している。戦士としてはヒュンケルに及ばず、魔法の力量もポップが上。ならば、自分の強みは何か。

 それが破邪呪文であった。剣も魔法も出来るが、どちらも専門の職業には敵わない。それでも己の強みを理解し、それを伸ばしたアバンはやはり他の者よりも熟練の経験を持っていると言えた。

 数年間で鍛えに鍛えた破邪呪文は、大魔王の元で傷を癒し、新たにパワーアップした肉体を与えられたハドラーを上回っていたのだ。

 

「おおぉ!? く、くそ! ぬ……抜けぬ!」

『……』

 

 結界の半ばでハドラーは身動きが取れなくなってしまった。戻る事も進む事も出来ず、ただただ破邪の結界により地味なダメージを受けるだけとなったハドラー。

 そんなハドラーを見て、バラン達やアバン一行は呆然としていた。当然だ。強大な敵の出現かと思えば、その敵が間抜けにも結界に挟まっているのだ。こんな締まらない話があるだろうか。

 だが、そこで唯一動いた者がいた。

 

「ピギィ!」

 

 そう、メタルンである。

 メタルンは怒っていた。自分と人間の間の溝を深めた魔王の存在を。ハドラーがいなければ人とモンスターの垣根はもっと低かったはずなのだ。

 

 ――こうしてのこのこと現れたのが運の尽き。ここであったが15年目! ハドラー覚悟!――

 

 メタルンは闘気砲を放った。ハドラーに220のダメージ。

 

「ぐわあああぁぁっ!?」

 

 メタルンの闘気砲を喰らったハドラーは、その威力によって結界の外に吹き飛ばされる。だが、それでメタルンが攻撃の手を緩めることはなかった。 

 

 メタルンの体当たり。ハドラーに288のダメージ。

 

「ぐわあああぁぁっ!?」

 

 メタルンの体当たりにより天高く吹き飛ばされるハドラー。この2発でハドラーの体力は殆ど残っていなかった。これ以上同じような威力の攻撃を喰らえば確実に死んでしまうだろう。

 だから、メタルンは攻撃の手を緩めつつ、攻撃自体は控えなかった。

 

 メタルンはハドラーを咥え、結界に何度も何度も叩きつけた。ハドラーに14・13・15・12のダメージ。

 

「ぐわあああぁぁっ!?」

「は、ハドラァーーッ!!」

 

 見る見る内にボロボロになっていくハドラーに、思わずアバンが叫んだ。

 アバンはハドラーを許せない悪だと思っているが、それでも一定の敬意を抱いていた。

 ハドラーは確かに悪であり、人間の敵だ。だが、それでもハドラーは自らの手を汚して動いていた。人間の国を攻める時も、自らが前線に赴いていた。

 裏から手を回し、自分の手を汚さずに利だけを得る存在を思うと、ハドラーはまだ武人だと言えた。

 そんな相手が、自分の宿敵が、見るも無残な姿にされていく様に、アバンはどこか感傷を感じていた。

 

「ピギィッ!」

 

 ハドラーをボロボロにした事で一応怒りが収まったのか、メタルンはハドラーを口から結界に向けて放り投げる。

 そして、ハドラーが結界にぶつかる瞬間、アバンが結界の一部を解除してハドラーを結界との直撃から救い、そして大地に叩き付けられる前にその身を抱きかかえた。

 

「は、ハドラー!」

「こ、これは……」

「む、むごい……」

 

 ハドラーのその姿は、ハドラーの敵であるアバン達が哀れむ程に悲惨だった。

 全身を覆っていた黒い外套はズタボロで、立派なラッキョヘアーはへなりと萎れていた。鼻からは威厳と共に鼻水が流れ落ち、その瞳には涙すら浮かんでいた。これを見て魔王と思う者はいないだろう。そんな姿だ。

 そのあまりの惨状に、ハドラーに対して父の仇という想いを抱いていたヒュンケルですら憐憫の情が湧いたくらいだ。

 

「ハドラー! しっかりしなさい! あなたは私を殺しに来たのではないのですか!? あなたがここで死んでしまえば、あなたの復讐に備えていた私はどうすればいいのですか!?」

 

 最早自分が何を言っているのかさえアバンは分からなくなっていた。人間の敵である魔王がいなくなる事は本来喜ぶべき事だ。だが、このまま宿敵が死んでしまうのも何か違うと、アバンの中の何かが訴えていた。

 

「あ、アバンよ……オレはもう……ダメだ……」

「何を言うんですか! こんな傷、私がアバンストラッシュでつけた傷に比べれば……比べれば、こっちが酷いですが……とにかく諦めてはいけませんハドラー!」

「ピギギィ」

 

 ――安心しろ。みねうちだ。死にはしない――

 

 などとメタルンが言っているが、言葉が分からない以前に今のアバンとハドラーの耳にはその声が入っていなかった。

 完全に2人の世界を作り出し、アバンとハドラーは最期の別れのような会話を交わす。

 

「思えば……貴様はオレにとって特別な人間だった……。どんな人間もオレに怯える中……貴様だけは果敢にオレに向かって来ていたな……」

「ハドラー……!」

「幾度となく殺しあった宿敵だったが……いや、だからこそか……人間如きにあそこまで感情を剥き出しにするとは、な……」

「私もですよハドラー……。あなたは人間の敵でしたが、それでも戦士としてどこかで尊敬していました。常に戦線に立つあなたをね……」

『……』

 

 どこで突っ込んだらいいのだろうかと皆が見守る中、なにか口を挟みにくい空気を生み出しつつ、2人の会話はクライマックスに突入しだした。

 

「ふ……人間の神か、それとも魔族の神かは知らんが中々粋な神もいたものだ……オレの死に場所を……貴様の腕の中にしてくれるとは……な……」

「ま、待ちなさいハドラー! その台詞はまだ早いというか、もっと別のシーンで使うべきだと思うのですが!?」

 

 もうアバンですら訳の分からない事をいい出す始末だ。この状況を作り出した元凶としてどうにかしようとメタルンが思う。その時、ハドラーの様子が急変した。

 

「ぐ、ぐぅぅぅ!?」

「ハドラー!?」

「ピギィ!?」

「これは……!」

 

 胸を抑え、今までとは全く違う苦しみ方をするハドラー。その急変に誰もがメタルンを見やり、メタルンは手加減に失敗したのかと慌ててハドラーの身体を感知する。

 胸を抑えているので心臓や肺でも潰してしまったかと確認するが、メタルンはそこで異常なまでの魔力の増幅を感じ取った。

 

「がああぁあ!?」

「ピギギィィ!?」

 

 その増幅は僅かな内にどんどんと膨れ上がっている。しかもハドラーの苦しみようからして、明らかにハドラーの意思とは無関係の出来事だ。

 このままではまずい。勘だが、長年の経験からそう思ったメタルンは、闘気の刃を作り出してハドラーの胸の一部を切開した。

 そして切り開かれた胸の中を見て、バランが驚愕の声を上げた。

 

「く、黒の……核晶(コア)だとぉぉ!」

「な、なにぃぃ!?」

 

 バランの叫びを聞き、ハドラーもまた驚愕に叫び声を上げる。

 黒の核晶。それは魔界で禁忌とされている悪魔の兵器だ。黒魔晶と呼ばれる魔力を無尽蔵に吸収する石を原材料にし、呪術で加工する事によって完成する超強力爆弾。

 その破壊力は凄まじく、禁呪法を使う事を厭わない魔界の悪人ですら恐れて使わないというとんでもない代物だ。

 かつてバランもその恐ろしい破壊力を目の当たりにした事がある。冥竜王ヴェルザーがバランを倒す為に使用してしまったのだ。

 その結果。ヴェルザーの支配地であった大陸一つが消滅する事となった。それ以来、ヴェルザーですら使用を禁じた程の兵器。それが黒の核晶だ。

 

 そんな超兵器がハドラーの身体に埋め込まれている理由。それはハドラーを死の淵から蘇らせ、その身を改造したバーンが埋め込んだものであった。

 地上では使う事もないだろうと思っていたバーン。だが、予想以上に地上に強者がいた事と、その強者達の殆どがデルムリン島に集まっている時にハドラーが出向いたというタイミング。

 これがバーンに黒の核晶の使用を決断させた。ハドラーが勝てばそれで良かったが、ああもあっさりと負けたとあらば敵の強大さは底知れない。ここで見逃せば確実に己の邪魔となるだろう。

 そしてバーンは、ハドラーを監視させていた悪魔の目玉からハドラーが負けたタイミングを確認し、無情にも黒の核晶に起動の魔力を送り込んだ。

 

 ――ま、まずい! もう爆発寸前だ!――

 

 黒の核晶の威力を誰よりも知るバランは焦っていた。黒の核晶はその大きさで威力も変わる。ハドラーの体内に埋め込まれていた黒の核晶は大陸を消し飛ばす程ではないが、それでもデルムリン島を消滅させてこの場の全員の命を奪う事は容易いだろう。

 黒の核晶が起動する前ならば、ドラゴニックオーラで黒の核晶を包み込んで起動の為の魔力を弾くという方法もあった。だが、既に黒の核晶は起動している。爆発までもう秒読み段階だ。

 自分とダイだけならばドラゴニックオーラの全てを防御に回せば生き延びる事が出来るかもしれない。だが、黒の核晶の脅威を理解していないダイはその防御が間に合わないだろう。そもそもだ。その方法ではソアラやラーハルト、それに他の人間やモンスター達――ただしメタルンは除く――が全滅する事は確実だ。

 バランは黒の核晶の爆発を自らのドラゴニックオーラで最低限に抑え込む決断をした。自分の命は失われるだろうが、それでも他の者達の、家族の命には代えられない。

 そうして黒の核晶に手を伸ばしたバランだったが、その手が黒の核晶を掴む事はなかった。

 

「な!? メタルン何を!」

 

 そう、メタルンが黒の核晶を咥えて飛んでいったのだ。

 そのあまりの速度にバランは止める事も出来ず、瞬く間にメタルンは黒の核晶を咥えて空の彼方に消えて行った。そして――

 

『ッ!!』

 

 目を覆わんばかりの大爆発がデルムリン島の遥か上空にて起こった。

 

「め、メタルーン!!」

「ば、馬鹿な……!」

 

 ダイがメタルンの名前を叫ぶ。そしてラーハルトもまた目の前で起こった出来事を信じられないでいた。

 2人とも、メタルンの強さは嫌というほど理解していた。誰にも負けた事のない最強のメタルキング。竜の騎士すらあしらうメタルンが、まさかこんな事になるとは思ってもいなかったのだ。

 

「おのれ大魔王……!」

 

 頭に血が昇りつつも、バランは戦士として冷静な判断を行う。

 ハドラーに仕込まれていた黒の核晶が起動したのはハドラーが敗北した後。だが、黒の核晶の起動は自動ではなく、製作者が任意で魔力を放つ事で起動する。

 つまり、この一連の流れを見ている者がいる。そう判断したバランは神経を集中させ、海上から僅かに顔を出している悪魔の目玉を発見した。

 

「そこか!」

 

 悪魔の目玉に向けてライデインを放つバラン。その威力に耐えられる訳もなく、悪魔の目玉は海の藻屑となった。

 

 

 

 

 

 

「ふむ。気付かれたか」

「ば、バーン様……何故ハドラーに黒の核晶を……」

 

 デルムリン島から遠く離れた地にある魔王軍の本拠地である鬼岩城にて、バーンはワインを片手に全てを観戦していた。

 そんなバーンに対して、ミストバーンは恐る恐ると部下であるハドラーに黒の核晶を仕掛けた真意を聞く。

 

「ハドラーを死の淵から救った時、万に一つの為に埋めていたのだ。使う事はないだろうと思っていたが……あの場にアバンはおろか竜の騎士とあのメタルキングがいるとなれば話は別よ」

 

 バーンの言葉にミストバーンはしばし沈黙し、そしてハドラーの犠牲も致し方なしと納得する。

 竜の騎士とあのメタルキングは敵にすると厄介極まりない存在だ。それを排除する為ならば、ハドラーには悪いがミストバーンに異論はなかった。大魔王さまのお言葉は全てに優先する。それがミストバーンの数少ない口癖だった。

 

「……しかし、どうやらあのメタルキングしか仕留められなかったようです」

「十分だ。あのメタルキングは然しもの余も読めん存在だ。竜の騎士ならば戦って負ける気はせんが、あのメタルキングがそこに加われば……」

 

 バーンはそれ以上何も言わなかったが、ここまで言っただけでも信じがたい事だとミストバーンは思う。メタルキング風情が魔界の神である大魔王を警戒させたのだから。

 

「ハドラーは余から離反するやもしれんが、ハドラー程度ならば代わりはいくらでもいる……」

 

 そう、新生魔王軍最高幹部である魔軍司令ハドラーだが、所詮はバーンが戯れに作り出した軍団の長だ。その程度の人材など探せばいくらでも、とまでは言わないが、それなりに存在するのであった。

 

「3日待ちハドラーが戻らねば、ガルヴァスをハドラーの代わりに魔軍司令に抜擢せよ。元々ハドラーの座を奪おうとしていた奴の事だ。この抜擢に歓喜することだろう……」

「は……」

 

 バーンの命を受け、ミストバーンはその場から消え去る。

 そしてバーンはワインを口に運び、激化するだろう地上の戦いに思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

「あの爆発は何なんだよ!」

 

 突如として起こった大爆発に、状況が理解出来ないポップが疑問を叫ぶ。

 

「黒の核晶……魔界に関して書かれた古い書物で読んだ事があります」

 

 そんなポップに対し、アバンが口を開いた。黒の核晶を見た事はアバンもないが、その名前は文献などで見た事があったのだ。

 そしてアバンが黒の核晶について全員に説明する。その説明に対し、黒の核晶を直接目にした事があるバランが肯定する事で全員がその恐ろしさを理解した。

 

「な、何故魔界の超爆弾がオレの身体の中に!?」

 

 まさか自分の身体にそんな恐ろしい爆弾が仕掛けられているとは思ってもいなかったハドラーが当然の疑問を口にする。

 

「……あなたを復活させた大魔王バーン。そうとしか考えられないでしょう」

「ば、馬鹿な……!」

 

 アバンの言葉をいきなり受け入れる事はハドラーには出来なかった。バーンはその超魔力によってハドラーを死の淵から蘇らせてくれた恩人だ。

 だが、考えても考えても、バーン以外の犯人には思い至らない。信じていたバーンに裏切られた事実に、ハドラーは大きなショックを受けていた。

 

「そんな事どうでもいいよ! そ、それよりメタルンは!? メタルンはどうなったんだ!」

 

 ダイの叫びに答える事が出来る者はいなかった。いくらメタルンがメタルボディを有しているとはいえ、あれだけの爆発を口に咥えたまま受ければどうなるか……。それを理解出来ない者はいなかった。

 

「そ、そんな……うう……メタルゥゥン!」

「おのれ大魔王……!」

「許せぬ。メタルンの形見とも言えるこの槍で必ずや大魔王を!」

「ピギィ!」

 

 メタルンの死に泣き叫ぶダイ。そんなダイを見て大魔王に憤慨するバラン。ラーハルトもまたメタルンの仇である大魔王を討つと激しい怒りを顕わにする。メタルンも自慢のボディを傷つけられて怒り心頭だった。すぐに傷は塞がっていたが。

 

「生きてんじゃねーか!!」

「ピギィ?」

 

 感情を爆発させるダイ達の後ろにてピンピンした姿を見せるメタルンを見つけ、悲しむダイを見てどう声を掛けていいか分からなかったポップが思わずツッコミを入れた。

 

「メタルン!?」

「黒の核晶の直撃で生きていたのか!」

「相変わらずの化け物ぶりだな!」

「ピギギィ」

 

 ――褒めんなよ照れるぜ――

 

 決して褒めてはいない。むしろ化け物度合いが上がったと驚愕しているくらいだ。

 

「でも良かったメタルン! 無事だったんだね!」

「ピーピー!」

 

 ダイもゴメちゃんもメタルンの無事を喜ぶ。バランとラーハルトもメタルンのバグっぷりにほとほと呆れていたが、まあいつもの事かと思い直してその無事を喜んだ。

 対してメタルンの異常性に慣れていないアバン達とハドラーは、メタルンの化け物ぶりに言葉を失っていたが。

 

「しかし良く無事だったな。流石のお前も黒の核晶の直撃はダメかと思ったぞ」

「ピギィピギィ。ピィギギィ、ピギギギィ」

 

 ――爆発する前に口から射出したからね。後は闘気でガードしたんだけど、爆発の影響で海まで吹き飛ばされてたのよ――

 

 その説明をダイから翻訳されて、バラン達も納得する。直撃ならばともかく、そうでないならばメタルンが死ぬ事もないだろう、と。

 もっとも、直撃でも死ななかったんじゃなかろうかと思い始めていたが。まだまだバラン達もメタルンのバグっぷりを理解しきれていないのかもしれない。

 

 さて、ダイ達がメタルンの帰還を喜んでいる中、知らずに黒の核晶を仕掛けられたハドラーは、これからどうすればいいのかと己の行く末を見失っていた。

 そんなハドラーに対し、アバンが口を開いた。

 

「ハドラー。これからあなたはどうするつもりですか?」

「お、オレは……バーン様の下に……」

「戻って、また捨て駒にされると?」

「!?」

 

 アバンの放つ真実に衝撃を受けるハドラー。そう、たった今バーンに捨て駒にされたばかりだ。だというのに、このまま帰った所で同じ事が繰り返されるだけだ。

 いや、バーンが自分を信じてくれればいい。だが、一度裏切った相手が戻って来たとして、それを信じて用いるものがいるだろうか。ハドラーが復讐する可能性を考えると、重要な要職に遇したりせず使い捨て出来る使い方をする確率は非常に高いだろう。

 そう思い至ったハドラーは、ますますどうすればいいか分からなくなっていた。

 

 ここから先は巻いてお送りいたします。

 

 ハドラー。あなたはまだ大魔王の為に人間と戦うのですか?

 も、もはやバーン様の……いや、バーンの為に戦う事は――

 ならば、私たちと共に――

 ふざけるな! 人間の為に戦う事も出来ん!――

 なら、このまま大魔王に利用されたまま終わるのですか?――

 ピギィ――

 アバン……メタルキング――

 大魔王に、己の意地を見せてやろうと思わないのですかあなたは?――

 だが、オレでは大魔王には――

 ならば強くなればいい。それだけのことでしょう。魔王の名は飾りではないはずですよ――

 アバン――

 ハドラー――

 ピギィ――

 

 勇者の説得に心動かされる魔王。涙するメタルキング。人間の為に戦うつもりはないが、魔王軍に戻る気も最早ない。魔軍司令は死んだ。謀られた怒りは強くなって大魔王に返す。

 そういうことになった。

 

 

 

 そうして、ハドラーは魔王軍から離反。アバンに幾つかの情報を与え、屈辱を晴らす為に修行する事となった。

 ハドラーから情報を得たアバンは魔王軍の動きを知り、その動きを止めるべく動き出す。当然ダイとバラン、ラーハルトもアバン達と協力する事となった。

 だが、メタルンはデルムリン島に残る事となった。理由は二つ。一つはデルムリン島の警護だ。魔王軍が手薄となったデルムリン島に攻め込み、ダイ達にとって人質となり得るソアラやブラスを捕らえないとは限らないからだ。

 

 そしてもう一つの理由。それは、ハドラーの修行相手をメタルンが買ってでたからだ。

 かつての魔王ハドラー。メタルンの修行欲をくすぐるには十分過ぎる大物だ。でろりん達もまだ修行不足なので、彼らも含めて鍛えるつもりであった。

 

「ピギィ! ピーギギピギィ!」

 

 ――打倒大魔王バーン! ダイ達が魔王軍を倒し終わる前に強くなるぞハドラー!――

 

「め、メタルキングに教えを請う……だと」

 

 メタルキングに修行をつけられる事にバーンに対するものとは違う屈辱を感じるハドラー。

 だが、メタルンの圧倒的強さを知った今、バーンに対抗する強さを手に入れるには仕方ないとハドラーも割り切る。

 こうして、ハドラーの地獄の修行が始まったのであった。果たしてハドラーは魔王軍が崩壊する前に強くなる事が出来るのだろうか……。

 

 




 恐らく今年最後の投稿です。年末は忙しくなってきますからね。皆さん、この一年ありがとうございました。来年も良いお年を。

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