どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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ダイの大冒険 第三話

 父と母との再会、さらに義理とはいえ兄も増え、その上巨大なメタルキングという新たな友まで増えたダイ。

 そんな家族や友に囲まれた新たな生活の中、父の冒険譚や兄の修行風景を見て自分も強くなりたいと思い始めたダイは、バランに稽古をつけて貰うようになる。

 友と遊び、父や兄と修行し、母に甘え、ブラスに教わり、メタルンの奇行を笑う。そんな健康的な生活を過ごして8年という年月が経った。

 

 そんな、変わらぬようで毎日が楽しい日々に、大きな変化が訪れる事になる。そう、デルムリン島にバラン達が来て以来の人間が来訪したのである。

 

 

 

「キッヒッヒ。あれだな、モンスターの生き残りがウジャウジャいるっていう島は……」

 

 登場開始から悪役臭と小物臭を全開で解放している上に胡散臭いちょろ髭まで生やしている彼の名はまぞっほ。大半の者ならば名を付けた親を恨みそうな名前である。

 だが、それは彼だけに限った話ではない。彼の仲間も皆同じ様なネーミングだったのだ。

 

「またひと暴れしてやるかぁっ!」

 

 ゴリラに似た人間か。それとも人間に似たゴリラか。いや、やはりただのゴリラなのか。存在の98%がゴリラで占められている彼の名はへろへろ。ゴリラ故に当然だが、その見た目は名前とは裏腹である。

 なお、彼の第一印象から頭が悪そうと決め付けてはならない。それはゴリラに対して失礼だからだ。彼の頭が悪い事は確かだが。

 

「魔王が死んでおとなしくなったモンスターをいびり倒してりゃ、勝手に勇者とあがめてくれるんだからな。こんなにオイシイ商売はないぜ」

 

 一際三流悪役の顔つきをしている彼の名はでろりん。一応はこのパーティのリーダーを務めている。他の者にはある弱点がないと思っているが、全体的に小さく纏まっているだけとも言える。

 一応は剣による接近戦もこなす上にイオラという中級爆裂系呪文の使い手でもあるので、三流だが人間全体で言えば上から数えた方が早い位置にいる者ではある。上が圧倒的に強すぎるだけで、彼が弱すぎる訳ではないのだ。

 

「ちょっと待ちなよ。今回はモンスター退治が目当てじゃないんだ。アレ(・・)を見つけるまではむやみに殺しちゃだめさ」

 

 そう言って殺気立つパーティメンバーを抑える彼女の名はずるぼん。親はまともに育ってほしいと思わなかったのかと疑いたくなるネーミング筆頭である。

 もっとも、彼らのネーミングがこの世界、もしくは彼らの育った国や故郷で一般的だったならば話は別だが。

 

 さて、ずるぼんがこう言っているように、彼らはある目的の為に魔の島と呼ばれるデルムリン島へやって来た。

 慈善事業をするとはとても思えない彼らの目的。それは世界に一匹しかいないと言われる幻の珍獣ゴールデンメタルスライムを捕獲し、巨万の富を得ようという欲に塗れた彼ららしい目的であった。

 モンスターばかりが住むと言われているこのデルムリン島ならば、伝説のゴールデンメタルスライムがいると思ったのだろう。例えゴールデンメタルスライムがいなくとも、島にいるモンスターを退治して国から褒美を貰おうという性根の悪い考えすらしていた。

 そんな小悪党な彼らの失敗。それは、デルムリン島に来た。その一言に尽きるだろう……。

 

 ――どうします父上――

 ――うむ。ダイに任せてみようと思う――

 ――よろしいのですか?――

 ――ああ。これも人生経験となるだろう――

 

 そんな会話をでろりん達を見つめる何者かがなしていたが、そんなことを彼らは知る由もなかった。

 

 

 

 そうして悪巧みをしているでろりん達。だが、そこに急に声を掛けられた為に、彼らは驚いて臨戦態勢に移る事になる。

 

「ねぇねぇ。もしかして勇者様なの!?」

『!?』

 

 海上にある船の上で聞こえてきた見知らぬ声に警戒しない程、彼らも愚かではない。むしろ、悪巧みをしている者特有の警戒心を顕わにし、全員が武器や魔法の準備をした。

 そうして声が聞こえた方向にでろりん達が向く。そして彼らは、上空に浮かぶ一人の少年の姿を発見する事となる。

 

「な!」

「う、うそでしょ……」

「空を飛んでる……」

「ま、まさかトベルーラか!」

 

 空に浮いている少年に驚くでろりん達。そして、魔法使いであるまぞっほが少年が空に浮いている方法を口にした。

 思い描いた場所に高速飛行して瞬時に移動出来る呪文ルーラ。そのルーラの応用呪文にトベルーラという呪文がある。その使い手は自在に空中を移動する事が出来るという呪文だ。

 名のある魔法使いならば身に付ける事が出来るその呪文だが、まぞっほは会得していない。つまり、この少年はまぞっほよりも格上の呪文の使い手だと推測される。それがでろりん達が驚愕した理由だ。

 

 このガキは一体何者だ? そう思うでろりん達に、少年は純粋そうな瞳で質問してきた。

 

「オレはダイ! ねぇ! お兄さん達は勇者様なの!?」

 

 憧れが秘められたその瞳を見て、ずるぼんがこれを利用しない手はないと判断する。パーティの紅一点だが、パーティ一の悪党も彼女なのかもしれない。

 

「ええそうよ。ねえぼうや。あなたはあの島の子かしら?」

 

 このまま勇者として振る舞い、ダイがデルムリン島の人間ならばゴールデンメタルスライムを探す為に利用しよう。

 そう考えていたずるぼんだが、ダイはずるぼんの言葉を聞いて若干怪しみ出していた。

 

「そうだけど……。ねえ、本当にお兄さん達が勇者なの? なんだか弱そうなんだけどなぁ」

 

 父や兄、そして親友と比べると強そうには見えない。格好は勇者っぽいが、なんだか弱そうだなぁ。それがダイの彼らを間近で見た感想だった。

 竜の騎士やその竜の騎士に育てられた魔族と人間のハーフ。そしてバグに比べれば誰だって弱く見えるだろう。決してでろりん達が一般的に見て弱いわけではない事を、再びここに明記しておく。

 

「こ、このガキ――」

「お、落ち着きなさい! ねえぼうや? 君は子どもだから分からないかもしれないけど、私たちは今まで多くの人達を助けてきた立派な勇者なのよ?」

 

 ダイの言葉に激怒し思わず切り掛かろうとするでろりん。そんな彼を咄嗟に宥めつつ、ずるぼんはダイに嘘八百を並べて丸め込もうとする。

 ソアラ以外の人間を見た事がないダイは、出会ったばかりの彼らを疑う事もなくその言葉を信じた。純粋な少年なのだ。

 

「そっか……そうだね! メタルンも見た目で相手を判断するな。どんな弱そうな相手も自分より強いと思えって言ってたしね。じゃあ本当に勇者様なんだ! すごいや!」

 

 ブラスの語る寝物語や父の冒険譚から勇者という存在に強い憧れを持つダイは、勇者と名乗るでろりん達にもその憧れを向けた。

 

「分かってくれて嬉しいわ。ところで、あの島にはモンスターがたくさんいるって話だけど大丈夫なの?」

「大丈夫だよ! 皆オレの友達だからさ!」

 

 ダイの返事を聞き、ずるぼんはその名の通りずる賢そうな笑みを浮かべる。それを見抜くには、ダイはまだ人生経験が足りなかったようだ。

 

 

 

 ダイにデルムリン島の案内をさせるでろりん一味。島のモンスター全てと友達ならば、ゴールデンメタルスライムを見つけるのも簡単だろう。

 ずるぼんのその企みに一味は誰もがダイを騙した理由として納得する。なお、トベルーラを使える実力者という情報は彼らの頭の中からすっぽり消え去っていた。ダイの見た目が少年だという事と、欲に目が眩んだ結果だろう。

 

 そうしてずるぼんは、言葉巧みにダイに島中のモンスターを呼び集めさせる。

 これでゴールデンメタルスライムがいれば探す手間も省けるという寸法だ。

 

 口に指を咥え指笛を鳴らすダイ。これが集合の合図だ。この音を聞けば島中のモンスターがダイの元に集まるようになっていた。

 そうして現れるモンスター、モンスター、モンスターの大軍。何十種ものモンスターに囲まれ、でろりん達も呆気に取られていた。だが、すぐに気を取り直して目当てのモンスターを捜し出す。

 だが、どこを探してもゴールデンメタルスライムと思わしきモンスターは見当たらない。そこでずるぼんはダイに確認する事にした。

 

「ぼうや。これで全部?」

「うん。ほとんど」

 

 それで納得できるわけもなく、全部ではないと思いずるぼんは更に踏み込んで確認する。

 

「ほら、これのもっとキレイなヤツがいるでしょー?」

 

 そう言って指をさしたのはスライムだ。綺麗なスライム――けっして通常のスライムが汚いという意味ではない――と言われてダイに思い当たるものは二つあった。

 

「いるよ。ゴメちゃんとメタルンだね」

「ゴメちゃん? メタルン?」

「ゴメちゃんはあだなだよ。本当はゴールデンメタルスライムっていうんだけど、長ったらしいからゴメちゃんって呼んでるんだ」

 

 それだっ!! でろりん達が三下な笑みを浮かべる。そこに、ダイが更にでろりん達を欲深にさせる言葉を放った。

 

「メタルンはメタルキングだからメタルンなんだ。おっきくてキレイで、それに――」

『メタルキング!?』

 

 とんでもなく強い。そう続けようとしたダイの言葉を遮ってでろりん達が叫んだ。

 メタルキング。倒した者に多くの経験を授けると言われている伝説のモンスターだ。十数年前にあちこちで目撃情報があったというが、誰かに倒されたのかやがて目撃情報はなくなっていった。

 冒険者であるでろりん達もそういう情報を聞いた事があったが、まさか実在しているとは思ってもいなかった。そんな伝説のモンスターがこのデルムリン島にいる。まさに千載一遇のチャンスだ。

 ゴールデンメタルスライムの捕獲にメタルキング討伐。よだれが出るほどの収穫になるだろう。でろりん達の誰もがそう思う。そこにリスクを計算する者はいなかった。

 

「ゴメちゃんは人見知りするけど、メタルンとよく一緒にいるからメタルンを呼べばきっと来ると思うよ。メタルンもいつもはさっきの指笛で来てくれるんだけどな……」

 

 そう言いつつ、ダイは大きく息を吸ってから大きく叫ぶ。

 

「メタルーーーーン!!!」

 

 ダイが叫んで数秒。何も現れない事にでろりんが早くも苛立ちを見せようとしたその瞬間――

 

「ピギィ!」

 

 ――空中に一匹のメタルキングが現れた。

 光の闘気を放出する事で宙に静止し、メタリックなボディを更に輝かせるどでかいスライム。これこそが唯一無二――他にいてたまるかという意味で――のメタルキング、メタルンである。

 

「うおお!?」

「ああ~輝いてる~」

「ほ、本物のメタルキング!」

「す、すごいわ……!」

 

 後光――自前――を感じるその見た目にでろりん達が圧倒される中、メタルンはゆっくりと大地に降り立った。

 

「ピギィ!」

「え? どうしたのメタルン? 何で怒ってるのさ?」

 

 メタルンに目を輝かせるでろりん達を置いて、ダイとメタルンは会話(?)を続ける。

 

「ピギピギィ! ピーギギィ!」

「え? もっと人を見る目を養え? 悪意に気付けだって?」

 

 12歳の少年に結構な無茶振りだが、ダイはその意味にまだ気付けていない。そんな中、一匹のモンスターがメタルンの王冠の中から現れた。

 

「ピー!」

「あ、ゴメちゃん! やっぱりその中にいたな」

 

 そう、このモンスターこそでろりん達が求め、ダイの親友であるゴールデンメタルスライム。通称ゴメちゃんである。

 黄金のスライムに翼が生えた形状をしており、実際にその翼で空を飛ぶ事も出来るスライムだ。だが、その実態はスライムどころか生物ですらない。

 実は神々の力を僅かながらにも秘めている生きたアイテムであった。魔界では神の涙と呼ばれるそれは、持ち主の願いを叶え奇跡を起こすというまさに伝説のアイテムであった。

 そんな神の涙がどうしてスライムの見た目をしているのか。それはダイと神の涙の出会いが切っ掛けだった。

 

 バラン達と再会する更に前。幼いダイがデルムリン島で遊んでいると、草むらに光る何かを発見した。

 それが見知らぬモンスターと思ったのか、ダイは光に近付いて行き、こう言った。

 

 ――ボクとトモダチになってよ――

 

 ダイの純粋なその願いを聞き届け、神の涙は今の姿となった。

 ゴールデンメタルスライムとなったゴメちゃんはダイと共に暮らしていた。家族と再会し、友が増えた今も、ダイの一番の親友だという事に変わりはない。

 

 そんなゴメちゃんとメタルンの出会いは、メタルンとダイが出会ってすぐの事だ。

 スライム族の王であるキングスライムに密かな憧れを持っていたゴメちゃんが、メタルキングであるメタルンに好意の視線を向けるのは不思議ではなく、そして可愛らしい見た目と見た目に負けない性格の持ち主であるゴメちゃんを気に入らないメタルンではない。

 二匹は出会ってすぐに意気投合した。メタルンの王冠の中はゴメちゃんの指定席になった程だ。

 

 メタルンの王冠の中から現れたゴメちゃん。そんなゴメちゃんを見て、でろりん達の欲望は振り切れた。

 

「いたぞ! ゴールデンメタルスライムだ!」

「もうぼうやに用はないわ! そのスライムを寄越しなさい!」

「邪魔するなら全員やっつけてやるぜ」

「メタルキングは絶対にやっつけるがの」

 

 もはや正体を隠す必要もないと判断したのか、その本性を現すでろりん達。

 自分が騙されたと理解したのかダイはわなわなと震え、そして徐々に怒りを顕わにした。だがその怒りは騙された事に憤ったからではなかった。

 

「ゴメちゃんを寄越せだって? ふざけるな! そんなこと絶対にオレが許さないぞ!!」

 

 そう、ダイが怒ったのは大事な友に危害を加えようとしたからだ。自分の事よりも大事な者を優先する、優しい少年であった。

 

「それと! メタルンに手を出すんじゃない! 死にたいのか!?」

「ピギィ?」

 

 ――へいダイ。それは私に手を出したらオレが許さないぞ、という意味だよな?――

 

 メタルンがダイに疑問をぶつけるが、ダイは取り敢えずそれは置いておき、ゴメちゃんと周囲の友達に指示を下す。

 

「ゴメちゃんはメタルンの王冠に隠れてるんだ。皆も早く逃げろ!」

 

 でろりん達が狙っているゴメちゃんを世界で一番安全な場所へと避難させ、周囲のモンスター達は巻き込まれない様に逃げるように適切な指示を出す。そうしてダイは背負っている鞘から剣を抜き、でろりん達へと向ける。

 

「今逃げるなら追いかけないぞ。さあ、ゴメちゃんを狙うなんて止めてさっさと帰るんだ!」

 

 それはダイの優しさから来る言葉だった。だが、欲に目が眩んだでろりん達にそんな言葉が通じるわけもなかった。

 

「くっくっく。勇者ごっこはオレ達がいない所でやるんだな」

「ガキが調子に乗っても怪我するだけよ」

「キラキラのスライムを寄越すんだな!」

「痛い目にはあいたくないじゃろ?」

 

 そうやってダイを脅すでろりん達。だが、史上最強の男に育てられたダイがそれで怯むわけもなく――

 

 

 

 

 

「す、すみませんでした……」

「もう悪い事はしません……」

「ですから命ばかりは……」

「た、助けてくだされ……」

 

 描写される事もなく、でろりん達(レベル13前後)はダイ(レベル40)に敗れたのであった。

 

「本当に反省しているの?」

 

 ダイの圧倒的な力に打ちのめされ、ボロボロになって泣いて謝るでろりん達。

 そんなでろりん達を見て、ダイは反省しているか確認する。当然その言葉に対するでろりん達の返事は一つだ。

 

『もちろんです!!』

 

 そう言えば助かるかもしれない。だったら例え嘘だろうが口にする。それが彼らの生き様だ。

 

「じゃあ――」

 

 まだ経験の浅い――レベル的な意味ではない――ダイはその言葉を鵜呑みにしようとする。

 もう悪さをしないなら帰っていいよ。そう言おうとしたダイだが、言い終わる前にメタルンが口を挟んだ。

 

「ピギギィ! ピーギギィ!」

「え? 口だけだって? 今はこう言っても後でまた別の悪さをする?」

 

 ――なに馬鹿なこと言ってんだこのメタルキング!?――

 

 メタルンが本当にそんな事を言っているかはでろりん達には分からないが、少なくともダイがそう思っているのは確かだ。

 このままでは化け物の住む魔の島から生きて帰る事が出来ないかもしれない。そう思ったでろりん達は、次のダイの言葉で期待を膨らませる。

 

「それは流石に疑いすぎじゃないメタルン?」

 

 ――いいぞガキ! 化け物と思って悪かったもっと言え!――

 

 心中で掌を高速回転させるでろりん達。彼らも生き延びようと必死なのだ……。

 

「ねえ。本当に悪い事はもうしない? もうゴメちゃんを狙ったりもしない?」

『はい! 絶対にしません!!』

 

 ダイの確認の言葉に異口同音に返すでろりん達。当然真っ赤な嘘である。そして、チートとバグと理不尽が手を取り合ってスパークを起こして生まれたようなメタルンにはお見通しだった。

 メタルンの言う事は信じたいけど、悪人とはいえ反省している人を疑いたくない。そう思っているダイに、メタルンがある事を教え込む。

 

「ピギギィ。ピギィピギィ」

「え? ……うん、分かった」

 

 メタルンに言われた事を、ダイは忠実に実践してみた。

 

「あ! 後ろにゴールデンメタルスライムがもう一匹いる!」

『なに! どこだどこだ!』

 

 ダイの言葉に思いっきり引っかかり、全員がゴールデンメタルスライムを探しだす。が、当然見つかるわけがない。ゴールデンメタルスライムは世界に一匹しかいないし、本物は未だにメタルンの王冠の中だからだ。

 

『……』

 

 数秒後。自分達が嵌められた事に気付いたのか、でろりん達は恐る恐ると振り返り、ダイの様子を窺った。

 

「ピギィ」

 

 ――どうやら間抜けは見つかったようだな――

 

「お前達……全然反省してないじゃないか!」

『ひぃぃぃ!! お、お許しをーー!!』

 

 ダイの怒りを買ってしまったでろりん達は、涙と鼻水を垂れ流しながら謝るしか出来なかった。

 一方ダイだが、でろりん達の反省のなさに呆れと怒りを抱くも、だからと言ってでろりん達をどうすればいいか判断出来ずに内心で困っていた。

 殺すつもりは毛頭なく、かと言ってこのまま帰した所で同じ事を仕出かしかねない。外の世界など知らないから、国などに助けを求めるわけにもいかない。

 こうなったら家族に相談するかと考えていたところで、メタルンがダイに口出しした。

 

「ピギギギィ。ピギィピーギィ」

「え? 本当に? うーん……メタルンがそういうなら分かったよ。目の届く場所にいてくれた方が安心するしね」

『……』

 

 何を話しているのかさっぱりなでろりん達だが、これが自分達の命運を決める内容だと理解はしたのか震えながらもダイの言葉を待つ。

 

「ピギィ! ピギピギギィ!!」

「お前達! これからお前達が悪い事を考えないよう、心身ともに鍛えなおしてやる! 分かったか! と、メタルンが言ってる」

 

 メタルンの言葉を翻訳したダイの言葉を聞き、その意味を理解したでろりん達は思わず叫ぶ。

 

『はあぁぁっ?!』

「ピギギィ……」

 

 ―― 魔(改造)の島デルムリン島へようこそ……――

 

 この時、何故かでろりん達はそんな言葉が聞こえたような気がした。

 こうして、メタルンによる真・勇者育成計画が始まった。なお、竜の騎士やその息子二人が計画に加わったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 でろりん達の来訪が切っ掛けとなったかの様に、デルムリン島に次々と来訪者が現れるようになった。

 次の来訪者はパプニカ王国の姫レオナと、王国の司教テムジン。そしてその護衛である賢者バロンと兵士達である。

 王女一行がこの島に訪れた理由。それは代々神に使える家系であるパプニカ王国の後継者として、レオナが14歳となった月に地の神の恩恵をこうむる為の儀式をする為、というものであった。

 その儀式は地の神に近い場所に身を投じるというもの。そしてデルムリン島には地底深くに繋がる穴がある。その情報を元に、怪物島デルムリン島へと王女一行は訪れたのだった。これだけの物々しい護衛も、デルムリン島のモンスターに対抗する為だ。

 

 そんな彼らはデルムリン島にダイ達人間が住んでいる事に驚いていた。本来の歴史ならば、ダイとでろりん達の騒動の果てに、ダイの名前はロモスという王国からパプニカ王国へと伝わっていた。

 だが、バグのせいで歴史が大幅に変わった為に、デルムリン島に人間がいるという情報はまだどこにも伝わっていないのだった。

 

「へー。こんな島に人が住んでるなんてね」

「オレの家族と、他の4人含めて8人だけだけどね」

 

 レオナと話すダイは、年頃の女性との会話に少し緊張しつつ、実は純粋な人間はその内5人なんだけどと内心で思っていた。もちろんそれを口にするほどダイは馬鹿ではない。

 

「ふーん。ねえ、良ければこの島を案内してくれない?」

「いいよ! この島はオレの庭だから、目隠ししたって案内出来るくらいさ」

 

 そう言って、二人は仲良く島の奥へと移動する。当然お目付け役のテムジンと護衛のバロン達もだ。

 道中モンスターに遭遇するも、そのモンスターはダイが一声掛けるとすぐに一行の前から離れて行く。その様子を見て、レオナはただの少年じゃないとダイを見直していた。

 

「すっごーい。やるじゃないダイ君」

「まあね」

 

 レオナの言葉にダイは調子を良くする。ここまで尊敬の念が籠められた視線を受けるのは滅多にない事であり、かなり嬉しかったようだ。

 なにせ父や兄が出来た事を後から出来る様になったダイだ。それ故に、出来て褒められる事はあれどこうして尊敬される事はなかったのだ。

 

「ねえダイ君。他にも特技とかあるの? 魔法とかさあ」

 

 そうやってダイの事を知りたがるレオナに、調子に乗ったダイはペラペラと自分に出来る事を話してしまう。

 

「もちろん。メラとメラミだろ。ヒャド系はヒャダインまで使えるし、バギクロスだって使えるよ。それにライデインだって」

「ライデイン!? もうやだダイ君ったらー! ライデインは伝説の勇者だけに使える呪文よ。バギクロスだって真空系最高の呪文だし、見栄張っちゃってもう~」

 

 ダイの言葉が見栄と思ったのだろう。レオナはそう言ってダイの言葉を否定する。まあ当然の反応だ。レオナの言う通りデイン系は伝説の勇者――竜の騎士の事――だけが使えると言われる伝説の呪文だ。

 それに、ダイの見た目的に年齢は10代前半がようようだと思ったレオナは、バギクロスというバギ系最高の呪文が使えるという話も信じなかった。

 

「本当だって! もう、それなら機会があれば今度見せてやるよ!」

「そうね。機会があればね」

 

 ダイの少年特有の見栄に、ダイより少しお姉さんのレオナは可愛く思った。

 そうしてレオナがダイの案内で地底に繋がる洞窟に来た時の事だ。洞窟内部に入る前に洗礼の準備を整えているレオナ一行の元に、突如として一匹のモンスターが襲撃してきた。

 

「うわああーーっ!」

「!?」

 

 その悲鳴にすばやく反応したのはダイだ。鞘から剣を抜き、すぐに悲鳴が聞こえた場所へと駆けつける。

 ダイと会話していたレオナもまた、ダイを追いかける。そしてレオナは見た。巨大なサソリ型のモンスターが兵士を襲おうとしているのを。

 幸いと言っていいのか、襲われた兵士は傷一つついていなかった。モンスターが襲う前にダイが間に合い、その攻撃を剣で受け止めたのだ。

 

「こ、このモンスターも友達じゃないの!?」

「いや違う! こいつは島の者じゃない! どうしてここに魔のサソリが……!?」

 

 魔のサソリという、デルムリン島にはいないはずのモンスターがいる事にダイは訝しむ。

 だが、考えても答えが出るわけもなく、まずは魔のサソリを止める事が先決だとダイは判断した。

 

「おい、もう止めろ! これ以上暴れたってお前が傷つくだけだぞ!」

 

 ダイは剣を巧みに操り、魔のサソリの攻撃の全てを弾く。だが、デルムリン島の温厚なモンスターと違い、敵意に溢れる攻撃性の高い魔のサソリはそんな言葉では止まらなかった。

 

「仕方ないか……! でやっ!」

 

 話し合いは無理だと思ったダイは、その剣を振るい魔のサソリの武器を一瞬で奪いさる。

 尾の毒針、両の鋏、そして牙。攻撃に使える全ての武器を奪われた魔のサソリにもはや抵抗は叶わず、そしてダイの強さに震えるのであった。

 

「もう悪さをしないっていうんなら、これ以上は何もしないし島で住んでもいい。だけど、そうじゃないなら……!」

 

 ダイのその気迫に怖気づいた魔のサソリは勢い良く頭を縦に振る。凶暴性が高い魔のサソリだが、自分が死ぬよりは安全に暮らす方がマシだと判断してダイに屈したようだ。

 

「ふう。ほら、行っていいよ。しばらくしたら傷も治してあげるけど、絶対に他の皆を傷つけちゃ駄目だよ?」

 

 ダイの言葉に何度も頷き、魔のサソリはデルムリン島の奥へと消えていく。人間と違い、絶対的な実力差を理解したモンスターは無駄に逆らおうとはしないようだ。まあ全てのモンスターがそうとは限らないが。

 

「す、すご~い……」

 

 ダイのあまりの強さにレオナは感嘆する。魔法がどうこうと言っていたが、それよりもよっぽど凄い特技があるじゃない、と。

 

「すごいじゃないダイ君! こんなに強い戦士は初めて見たわ!」

「そう? オレより強い戦士なんていっぱいいると思ってたんだけど……」

 

 父と兄、そしてそれ以上にメタルンに言われている言葉。「上には上がいる」。それを信じてダイは精進してきた。そんな彼が世界には自分以上の強者が溢れていると勘違いしても仕方ないと言えよう。

 なお、実際にダイ(レベル41)以上の強者は地上では両手で数えられる程度だ。そこには自分達の家族も当然入っている。……もしかしたら片手で数えられるかもしれない。

 

「ちっ……」

 

 そうしてダイとレオナが会話していると、どこかで小さく舌打ちした者がいた。そして、その場から一瞬で消え去った。

 

「ん?」

「どうしたのダイ君?」

「いや……何か嫌な気配がしたんだけど……今は感じない……」

「気のせいじゃない? 誰もいないわよ?」

 

 ダイは先ほど感じた気配について考えるが、レオナの言葉を聞いてそうかと納得する。

 

 そうしてレオナが洗礼の準備を終え、地底への洞窟に入ろうとした時だ。どこからともなくメタルンが現れ、そしてダイにある事を告げた。

 

「ピギィ!!」

「わあ、おっきなスライム! しかも金属みたいに光ってる!」

 

 初めてメタルンを見たレオナはその見た目に感動するが、ダイはメタルンの報告を聞いて驚愕していた。

 

「何だって!?」

「ど、どうしたの急に?」

 

 急に大声を上げたダイにレオナも驚く。そして、ダイの口からとんでもない話を聞いた。

 

「あのバロンって奴が海岸で巨大な機械に乗って暴れてるっていうんだ!」

「ええ!?」

 

 自分を護衛していた信頼出来るはずの賢者の凶行に、レオナも素直に信じる事が出来ないでいた。

 だが、そんなレオナに説明している時間も惜しいと思ったのか、ダイは海岸に向けてトベルーラで飛んで行ってしまった。

 

「あ、待ってダイ君! ……もう! トベルーラまで使えるなんてどうなってるのよ!」

 

 ダイがいなくなった事に憤慨するレオナ。そんなレオナにメタルンが話し掛けた。

 

「ピギィ……。ピギ、ピギギィ?」

 

 ――全く。危険な状況で女の子を置いていくなんてまだまだ修行が足りないな……。仕方ない、良ければ私の背に乗りませんかお姫様?――

 

 言葉の意味はさっぱり分からないが、身体を上手に屈めて何かを訴える様に話してくるメタルンに、その意味を恐る恐るとレオナは確認する。

 

「もしかして……上に乗せて連れてってくれるの?」

「ピギィ!」

 

 レオナの言葉に勢い良く頷くメタルンを見て、レオナは若干の戸惑いをたっぷりの好奇心で打ち消し、メタルンの上に飛び乗った。

 

「ピギギィ!」

 

 ――しっかり掴まってなお嬢さん!――

 

「きゃー! はやーい!」

 

 空を飛ぶメタルンに乗ったレオナのその声に恐怖の色はなく、むしろ喜んでいるくらいだった。かなり肝が座っている王女のようだ。

 

 そうして瞬く間にレオナを乗せたメタルンは海岸に到着する。するとそこには、恐ろしい機械に乗ったバロンが暴れている姿があった。

 

「こ、これは……!? バロン! 何をしているのあなたは!」

「これはこれはレオナ姫……わざわざここまで来ていただけるとは、殺しに行く手間が省けましたよ」

「え!?」

 

 バロンの言葉に驚愕するレオナ。そう、バロンの……いや、バロンとテムジンの2人の目的は、レオナ殺害にあった。

 そもそもレオナがデルムリン島を洗礼の地に選んだのは、二人の推薦があったからだ。デルムリン島はモンスターが跋扈する島だが、それ故に人の手で穢れていない神聖な地でもあり、地の神への儀式に最も適している、と。

 デルムリン島という噂でしか聞けない島に行きたいという思いも強かったのだろう。襲い来るモンスターからも守護すると力説され、好奇心も人一倍だったレオナはその言葉を信じた。

 

 あの魔のサソリをこの島に持ち込んだのもバロン達だ。魔法の筒と呼ばれるモンスターを封じ込めるアイテム――人間も可能――にて秘密裏に持ち込んでいたのだ。

 魔のサソリにレオナを襲わせ、死んだ所でその元凶をデルムリン島のモンスターにあると説明し、レオナ以外に後継者のいないパプニカ王国を牛耳取る。それが彼らの計画の全貌だ。

 なお、護衛役やこの島を推薦した彼らに責任が行く事を考え付かない辺り、先を考えない小物である事は間違いないだろう。

 

 本来ならあの魔のサソリで事は済んでいた予定だったが、ダイのまさかの実力にしくじってしまった。しかも、魔のサソリを全く苦にしないダイの実力に、バロンも手強しと見た。

 故にバロンはその場から退散し、念の為に船に積んでいた殺人機械を動かしたのだ。

 バロンが搭乗しているその機械こそ、かつての魔王ハドラーが勇者アバンを倒す為に作り上げたといわれる兵器。キラーマシンであった。

 人間が乗り魔法力で操れる様に改造されたキラーマシンに乗り、バロンはレオナを殺すべく動き出した。

 

「お前を殺し、パプニカの実権はオレとテムジンが頂く! 死ねレオナ姫!」

 

 レオナに向けて巨大な矢を放とうとするバロン。岩すら貫通するその矢が直撃すればレオナなどひとたまりもないだろう。

 だが、その矢がレオナに向けて放たれる事はなかった。矢が放たれる直前に、矢を携えているキラーマシンの左腕を攻撃し、その狙いを逸らした者がいたのだ。

 

「でい!」

「ちぃ! また貴様らか! 先ほどから邪魔をしおって!」

「あ、あれは……?」

 

 バロンの邪魔をした者達。それはダイではなかった。レオナが見知らぬその者達は、強大な敵であるキラーマシンに果敢に挑みかかっていた。

 

「お前を倒さねーとなぁ! オレ達はお前以上の化け物にぶっとばされるんだよ!」

「そうよそうよ! あの連中に比べたらあんたなんか怖くもなんともないわ!」

「行くぞぉ! 地獄の修行を乗り越え(させられ)たオレ達の力を見せてやる!」

「おうともよ! ワシらは生きてまたソアラさんの飯を食うんじゃあ!」

 

 そう、バロンに挑む者達。それは、バロンが来る前にデルムリン島を襲撃した馬鹿……もとい偽勇者パーティのでろりん達であった。

 彼らはメタルン主導の地獄の修行を課せられ、悪いことを考える余裕がない程に徹底的に扱かれてきた。そんな彼らにとって、キラーマシンに乗るバロンのプレッシャーは恐怖はすれども耐えられるものだった。何せ彼らを鍛える者達はキラーマシンなど比べ物にならない化け物達だったからだ。

 

 人間に対する嫌悪感が未だに残るバランやラーハルトも、彼らが改心する為というメタルンの言葉に渋々だが従い、彼らの面倒を見てきた。

 こうしてでろりん達が改心する様を傍で見て行けば、人間全体への不信感も少しは和らぐだろうというメタルンの策である。でろりん達は強くなって改心し、バラン達も人間への見方を改める。まさに一石二鳥の策だとメタルンは己の策に満足している。

 

 今彼らがバロンと戦っているのも修行の一環だ。ダイが戦ったら一瞬で片がつくが、でろりん達ならば今のバロンは死闘になる程の敵だ。

 丁度いいレベルの敵だとメタルンは考え、でろりん達をバロンにけしかけた。ダイを連れて来たのはでろりん達が危なくなったら助っ人として戦闘に参加させる為だ。

 

「あ、メタルン。レオナも連れてきたの?」

 

 そうしてでろりん達が必死になって戦っている中、バランに危なくなるまで見学しろと言われたダイがメタルンとレオナに近付いてくる。

 

「ピギィ」

 

 ――ダイ。暴れるバロンが気になったのは分かるけど、それでレオナ姫を置いてきちゃ駄目でしょうが――

 

「あ……ごめんよ。でもさ、この島は安全だから大丈夫じゃ……」

 

 メタルンの注意に反論するダイ。だが、その言葉になおもメタルンは注意する。

 

「ピギギィ。ピギーギピーギィ?」

 

 ――こらこら。魔のサソリなんて見知らぬモンスターがいたのに何を言ってるのか。下手したら、あの後バロンの手先に王女様が襲われていたかもしれないんだよ?――

 

「あ! そっか。そうだね。オレって考え不足だなぁ……ごめんよレオナ姫!」

「えっと……何を言っているのか分からないけど、別にいいわよ。むしろ、あのサソリから私達を救ってくれた恩人よダイ君は。だから、今後は姫なんて他人行儀な呼び方はやめて、レオナって呼んでね」

「うん、分かったよレオナ!」

「ピギィ」

 

 ――リア充発見。当方に迎撃の用意あり――

 

 急速に仲を縮める2人を祝福するメタルン。仲良き事は美しきかな。

 

 そんな2人と一匹はさておいて、バロンとでろりん達は今も死闘を繰り広げていた。

 

「ヒャダルコ!」

「馬鹿が! このキラーマシンに魔法が効くか!」

 

 勇者抹殺の為に作られたキラーマシンは、魔法が効きにくい金属で構成されていた。

 だが、ここまでの戦いでそれを理解していたまぞっほは、だからこそ氷系呪文のヒャダルコを使用した。

 

「ひょっほっほ。海に入ったのはまずかったのー」

「な、なにぃ!?」

 

 そう、確かにキラーマシンに魔法は効きにくい。だが、キラーマシンが出撃する為に船を破壊し、海に落ちたのがまずかった。

 海水に全身が濡れているキラーマシンだ。例えそのボディが魔法を弾いたとしても、ヒャダルコならば海水に濡れるボディを凍らせる事が出来る。そうすれば、中に乗るバロンにダメージは与えられずとも、キラーマシンの動きを阻害する事は出来る。まぞっほはそれを狙ったのだ。

 

「よっしゃあ! 良くやったまぞっほ! いくぞへろへろ!」

「うがー!!」

 

 パーティの物理攻撃役であるでろりんとへろへろがこのチャンスに一気に攻撃を仕掛ける。

 狙いは足の関節部だ。そこを狙い、2人の会心の一撃が放たれた。

 

「うおお!?」

 

 2人の一撃は見事にキラーマシンの足を1本ずつ奪っていた。いくら装甲が硬かろうとも、関節部分はその構造上どうしても他よりも脆くなる。そこを突いたのだ。

 

「見たか! 硬いだけのヤツなんて、硬くて速くて関節もない丸い化け物に比べればどうってことないぜ!」

 

 でろりんの叫びが誰を指しているのかは、この島に住む者ならば誰もが理解した。そして、同時にその言葉に同意していた。

 

「ピギィ? ピギギィ」

 

 ――そんな化け物デルムリン島にいたっけ? ここにいるのは愛らしいメタルキングだしなぁ――

 

 メタルンがそう惚けるも、それに同意する者は誰もいなかった。メタルンの言葉が理解出来る者がこの場にはダイしかいないのだから、仕方ない。いればきっと誰もが同意してくれただろう。ダイは同意しなかったが。

 

「いったん離れて! 凍ってるのは表面だけだよ!」

 

 後方から全体を見守っていたずるぼんがパーティ全体に指示を下す。僧侶であるずるぼんの真骨頂は回復だ。攻撃も出来なくはないが、物理攻撃もバギによる呪文攻撃も、ずるぼんではキラーマシンにダメージを与える事は出来ない。

 その為に、ずるぼんは後方から全体を見つつ、戦況を読んで仲間に指示を与える役目となったのだ。

 彼らがここまで戦えるようになったのも、メタルン&バランの地獄の特訓のおかげである。強大な敵には怖くて実力を発揮出来ない彼らだったが、この化け物二体により恐怖心が麻痺してきたのだ。

 修行により強くなり、恐怖心をそれ以上の恐怖心で打ち消し、実力を十全に発揮して力を合わせる今のでろりん達は、恐るべきキラーマシンと互角以上の戦いを繰り広げる事すら可能となったのだ。

 

 しかし、というべきか。やはり、というべきか。修行が始まって一年も過ぎていればともかく、まだ僅かな月日しか経っていないでろりん達は、徐々にキラーマシンの地力に押され始めた。

 

「うわぁ!」

「でろりん下がって! へろへろ! 回復する時間を稼ぐのよ! まぞっほ、ヒャダルコは!?」

「もう魔法力がからっけつじゃー!」

 

 キラーマシンの素早い連続攻撃にでろりんがダメージを負う。ずるぼんの指示によりすぐにへろへろがカバーに入りキラーマシンを抑える。

 だが、長い時間を持たせる事は出来ない。そのキーとなっているまぞっほの氷系呪文が魔法力の枯渇により使えなくなったからだ。

 

「ぐおおお!?」

 

 そして、へろへろもまたキラーマシンの攻撃で沈む。どうやら気絶したようだ。その間にでろりんは回復出来たが、ここから先はジリ貧となるだけだろう。

 

「ふん。梃子摺らせやがって!」

 

 でろりん達に抵抗の力がなくなったと理解したのか、バロンは勝ち誇った笑みででろりん達に止めをさすべく近付いて行く。

 調子よく戦えていた時はともかく、敗色濃厚となったでろりん達はキラーマシンの恐怖に負けて怯え竦む。

 

「ひ、ひぃぃ!」

「もっと長生きしたかったよぉぉ!」

「もう終わりじゃあ!」

 

 そうして死の恐怖に怯えるでろりん達。そんなでろりん達を見て、ダイはメタルンに叫んだ。

 

「メタルン!」

「ピギィ……。ピギギィ! ……ピギィ!」

 

 ――ううむ。あの負けてないのに諦める性根は中々直らないなぁ……。仕方ない、やってしまいなさいスケさん! ……じゃなかったダイ!――

 

「よし!」

 

 メタルンの許しを得て、ダイはキラーマシンを倒すべく動き出す。

 

「死ね愚か者共が!」

「ライデイィィーン!」

「ぎゃああああ!?」

 

 3秒で決着はついた。でろりん達に止めを刺そうとしたバロンだったが、ダイが放ったライデイン一発で沈んだのだ。魔法に強いキラーマシンといえど、金属で出来ている事に変わりはない。電撃呪文であるライデインを無効化する事は出来なかったのだ。

 中に乗っていたバロンもライデインでこんがりと焼けて、気を失っていた。そして敢え無くお縄となった。

 

 その後、パプニカの兵士に捕らえられたバロンとテムジン、そして直属の配下はそのままパプニカ王国に連行される事となった。王国の法で裁かれるのだろう。

 それを一匹のメタルキングが残念がっていたが。この島で心身もろとも魔改造したかったのだろうか。

 

 

 

「本当にライデインが使えたのね。ダイ君って私の命の恩人だし、本当の勇者様みたい」

「え、そ、そうかな……」

 

 剣も魔法も操るダイに、命も救われた事もあってレオナは素直に好感の気持ちを向ける。

 その気持ちを受け取って、ダイは照れくさそうな仕草を取る。そんな女性に慣れてなさそうなダイを見て、レオナも更に好感を深める。

 

「ピギィ……」

 

 ――これが若さか……――

 

 メタルンがそう黄昏つつ、ダイとレオナは再会の約束をして別れた。

 こうして一つの事件が終わりを告げる。だが、今後もデルムリン島には更なる来客が訪れるのであった。

 

 




 次回予告!※壮大なネタバレ注意













 やめて! アバンがいる情報を掴んだからって、バラン(魔改造)・ダイ(魔改造)・ラーハルト(魔改造)・メタルン(バグ)が住んでいるデルムリン島を襲撃したら、大魔王の手先となったハドラーの命が燃え尽きちゃう!
 お願い、死なないでハドラー! あんたが今ここで倒れたら、新生魔王軍最強(笑)の六大軍団はどうなっちゃうの? ザボエラはまだ魔王軍に残ってる。ここを耐えれば、超魔生物になれるんだから!

 次回「魔軍司令死す」 デュエルスタンバイ!

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