どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第三十五話

 ナルトが人柱力としての修行に力を入れている中、アカネはアカネで色々と行動していた。

 イズナの戦力は到底侮れる物ではない。この戦争で敗れれば待っているのは理想の世界という名の地獄だ。幻術に支配されて見せられる平和な世界に何の意味があるのか。到底受け入れる事の出来ない未来を回避する為には、イズナとの戦争に勝たなければならない。

 その為の準備は必要不可欠だ。前もって決めていた作戦を総大将である雷影含む五影全員に相談し、そこから更に作戦を詰めていく。

 

「なるほどな……。ならば、お前はこの戦争では部隊を率いず、遊撃要員として動くわけだな?」

「はい。今の私は立場としては下忍です。部隊を持っても部下が納得しないでしょう」

 

 そう、アカネがいくら強くとも、明確な立場は下忍なのだ。下忍が部隊の隊長をしても、部下となる上忍や中忍は反発する可能性が非常に高いだろう。

 例え納得したとしても内心では快く思わない事は多いだろうし、そんな状況でアカネが命令を出しても満足の行く働きが出来るとは思えなかった。

 まあ、忍連合軍の作戦会議に参加出来て、その上自分の意見を述べる事を許されている段階で下忍の域を超えているのだが。

 

「それにマダラが現れた場合、部隊を率いていてはマダラへの対応が遅れてしまいます」

 

 それが最も重大な問題だ。マダラの相手はアカネ以外では務まらない。五影が揃ったとしても勝ち目は薄く、そもそも雷影が総大将である以上戦場で五影が揃う事はない。……はずだ。

 五影全員ですら勝てない敵を放置すればどれ程の被害が出るか。それを抑える為に、マダラ出現に合わせて自由に動ける立場がアカネには必要なのだ。

 

「ただ、同行者は一人付けますが」

「同行者だと?」

 

 アカネの作戦には一人の協力者が不可欠であった。いや、彼がいなくとも作戦自体は可能なのだが、彼がいるといないとでは作戦の自由度が格段に変わる事になる。

 

「ええ、私の後ろにいる彼、うちはオビトです」

「よろしくお願いします雷影様!」

 

 アカネからの紹介に、オビトが力強く挨拶をする。

 火影を目指すオビトにとって、五影全員が揃っているこの場にいる事は緊張と感激で一杯だった。

 いつか自分もこの中に。そういった想いがオビトの挨拶を力強くさせていた。

 

「ふむ。うちはの者か……。うちはにしては中々いい目をしとるな!」

「ありがとうございます!」

 

 どうやらオビトは雷影に気に入られたようだ。雷影からすればうちは一族はエリート意識が高く、すかした態度を持つ者が多いという印象だ。

 そんなうちは一族にあって、オビトの熱血具合は雷影には印象良く映ったようだ。

 

「オビトの万華鏡写輪眼の力があれば、この作戦は非常にやりやすくなります」

「ほう。こやつも万華鏡に。……木ノ葉にはどれだけの万華鏡開眼者がいるんじゃぜ?」

 

 万華鏡写輪眼。うちは一族自慢の写輪眼すら超える瞳術。写輪眼ですら手を焼く代物だというのに、それを遥かに上回る力を持つのが万華鏡写輪眼だ。

 それを有する存在は過去の戦争でもほんの僅かしか現れていない。オオノキも万華鏡保持者を見たのはマダラ以来だ。

 それが複数いるならば非常に頼れる戦力と言える。……忍界が手を組むという状況になっていなければ恐るべき敵なのだが。

 

「現状ではオビト含めて五人ですね」

「……」

 

 清々しいまでのインフレに流石のオオノキも開いた口が塞がらないようだ。いや、それは綱手を除く他の五影も同じなのだが。

 万華鏡有するうちは一族に、アカネ有する日向一族に、それらを有する木ノ葉隠れの里。明らかに木ノ葉一国の力が他里と比べて突出しているとしか思えない五影である。

 今回の忍連合軍はある意味では良い機会だったのだろうとオオノキは悟った。これを機に忍界が手を取り合えば無駄な争いはなくなる。木ノ葉との勝ち目のない戦争など考える必要もなくなるのだ。

 このまま上手く戦争が終われば、岩隠れは五大忍里として木ノ葉隠れと対等の立場でいられるだろう。ある意味イズナに感謝するオオノキであった。全ては戦争で勝てればの話だが。

 

 オビトの能力と作戦の大まかな説明が終わり、アカネとオビトは此度の戦争にて遊撃部隊として動く事が決定された。

 戦場のいずこかにマダラが現れたら、連合本部にて全部隊に情報を伝達している情報部隊から通達が入り、アカネがその場へと向かう様になる手はずだ。

 なお、オビトがアカネに戦場で追従する理由の一つがここにもある。情報部隊の伝達方法だが、山中一族の心伝身の術――いわゆるテレパシー――にて行われる。

 だが、アカネは自らの固有能力にて、心伝身の術を無効化してしまうのだった。なお、この固有能力の詳細を知る者は未だ世にいない。

 

 また、念には念を入れて影分身のアカネを各部隊に一体ずつ配置させる事となった。

 マダラやその裏にいるイズナ、そして尾獣に対抗する為に、本体の余裕を持たせるよう影分身は最小限のチャクラで作り出される。

 だが、最小限でも元が元だ。全チャクラの1%程度を消費し、それを更に各部隊に振り分ける程に影分身を作り出したとしても、その影分身一体一体の力はそこらの上忍を超える。

 チャクラ総量で言えば上忍以下になるだろうが、そもそもの技量が桁違いなのでチャクラ以上の活躍は見込めるだろう。

 そうして影分身がマダラと遭遇すれば、影分身が消滅して本体に情報を伝え、遭遇前に消滅した場合は先に決めていた様に情報部隊からの伝達を待てばいい。

 

 なお、ここまで念を入れているのだが、アカネは戦場にマダラが出現すればその瞬間にチャクラにてマダラを感知する事が可能である。

 ここまでするのは本当に念には念を入れての事であった。万が一にも何らかの未知の手段で、マダラやイズナがチャクラを感知出来ない様にしていないとも限らないからだ。

 

 これで一先ずのアカネの戦争での動きは決定された。後は残る時間を使って準備を進めるだけだ。

 木ノ葉隠れでは影分身のアカネが弟子である忍達の最終調整に当たっていた。イタチとサスケの眼も互いに馴染みつつある。戦争にもぎりぎり間に合うだろう。

 と言っても、二人ともぎりぎり過ぎる為にアカネと同じく部隊に加わる事はなく、遊撃部隊として動くだろうが。

 うちはきっての忍であり、永遠の万華鏡を得た兄弟。その遊撃部隊がどれほどの活躍をするかはまさに見物と言えよう。

 

 

 

 

 本体であるアカネは特筆してやる事は終わり、すでに日常の一部――食事や睡眠と同意――となっている鍛錬をこなしたり、老人達と茶を飲みつつ昔話に花を咲かせていたりする。

 

「ギャハ、ギャハ、ギャハ! 日向の姫にマッサージをさせるとは。流石は両天秤のオオノキと恐れられただけあるのー」

「ワシからすれば信じ難い光景じゃて……」

「全くだ。もう少し御自分の立場という物を考えてほしいものだ」

「私、下忍ですもん。ここですかオオノキ?」

「おお、そこじゃぜ。あ~、効くのぅ」

「ふむ。心地良さそうだな土影殿……」

 

 一通りの会議が終わり、休息の時間となった時、老人組――チヨバア・ヒルゼン・ダンゾウ・アカネ・オオノキ・ミフネ――が集まって和気藹々としていた。

 その最中にオオノキが腰を痛めた事が切っ掛けとなり、アカネによるマッサージが始まったのだ。

 人体をこれでもかと知り尽くしているアカネだ。マッサージの極意など人を壊す極意と同時に会得している。壊すも治すも思いのままなのだ。

 そんなアカネのマッサージをこれでもかと受けたオオノキは、まさに若返った思いになっていた。

 

「おお! 身体が軽い! こんな気持ちは初めてじゃぜ! マダラだろうがイズナだろうが、もう怖い物はない!」

 

 絶えず鈍い腰痛に襲われていたオオノキは、マッサージを終えた瞬間にその痛みから開放された。骨や神経の歪みを矯正されたのだ。まさに新生オオノキである。

 生まれ変わったかのような気持ちにオオノキは舞い上がり、思わず叫び出す。それを聞いたアカネが何らかのフラグが立ちそうな気がして不安になったのは誰も知らない。

 

「調子に乗りすぎですよオオノキ。そもそも、身体の使い方に無理があったから腰痛になるのです。無理というか、無駄とも言えますね。修行不足ですよ」

 

 アカネがフラグを回避する為にオオノキに注意を促す。アカネからすれば腰痛すら修行不足の一言で済ませてしまうのだった。

 

「おぬしに言われてはどの忍だろうと立つ瀬がないぜ。日向ヒヨリ以上に修行をしている忍がどれだけいるか知りたいもんじゃぜ」

「土影殿に同意」

「右に同じく」

「ギャハ! そりゃそうじゃ!」

「こいつら……」

 

 オオノキの言葉から始まり、アカネを肴に笑う老人達。それを僅かに疎ましげに、されど楽しげに笑うアカネ。

 そしてそんな彼らを見てミフネも笑みを浮かべる。

 

「こうして、忍の重鎮である各々や、侍である拙者が集まり馬鹿な話をして笑い合う。こんな時が訪れるなど、この歳になっても思いもせなんだ……」

 

 そう呟くミフネに、誰もが聞き入った。そう、その通りだ。こんな状況を誰が思い描く。かつては、いやほんの数週間前までは敵同然の相手が集まり、互いに笑い合う。まさに夢物語だ。

 皆がそう思い、今のこの状況に深い感慨を持つ。その中にあって、アカネだけは違う想いに浸っていた。

 

「柱間と……マダラ。この二人は夢見ていました。誰もが手を取り合う世界を……」

 

 そして、アカネも。そんなアカネの想いを察したのか、この場の誰よりも疑い深く、敵対心が強かったオオノキが言う。

 

「この戦争、必ず勝つ」

 

 世界の行く末はその先にある。オオノキがその言葉を言い放つ事は、他の誰よりも深く重みがあり、そしてこの場の誰もがそれに同意する。

 歳を取り、凝り固まった感覚を捨て、新たな目標を定める。生き方が定まっている老人には難しい事だ。だからこそ、忍を代表する老人達が平和を求めて同じ意識を持つ事が、何よりも世界が変わろうとしている証拠と言えた。

 

「その為にはしっかりと休養を取らんとな。日向の姫よ、ワシもマッサージをしてくれんかの。ギャハ、ギャハ、ギャハ!」

「確かに。では拙者もお願い致す。先程の土影殿を見ているとどうも肩の凝りが疼く故に」

「仕方ないお爺ちゃんお婆ちゃん達ですねぇ」

 

 アカネは苦笑しつつも、影分身を使って両者にマッサージを行う。

 他の里や国の重鎮に甲斐甲斐しくマッサージをする木ノ葉の英雄を見て、ヒルゼンもダンゾウもやや頭を痛くする。だが自分達も彼らの気持ちが分からない歳ではないので次の順番を待っていたりする。

 こうして老人達はリラックスしながら、明るい未来に想いを馳せていた。

 

 

 

 忍連合軍の戦争への準備は着々と進んでいた。潜入偵察隊によって暁のアジトは割り出され、その戦力の一部も把握出来た。

 一部、と言ってもその数はなんと十万。忍連合軍総数八万よりも多い数だ。だが、それで怖気づく者は五影にはいなかった。

 総大将である雷影から素早い指示が飛び、残る五影もそれに倣い細かな指示を出し、作戦や準備が整っていく。忍界史上初の五大忍里と侍による様々な混合部隊が作り出され、そして各里の忍の垣根を超える為の額当ても作られた。

 “忍”。その一文字のみを印された額当てだ。木ノ葉隠れでも、砂隠れでも、霧隠れでも、岩隠れでも、雲隠れでもない。ただ、忍。ここにあるのは国や里を超えて、忍の世を守る為に集まった忍なのだ。という意味がこの額当てには籠められていた。

 

 その意味を、我愛羅が忍達に伝える。

 かつては敵同士であり、互いに憎みあっていた事もある。親兄弟、仲間を殺され、憎んだ敵が傍にいる。当然そんな状況下で仲良く手を組み合う事など出来ず、諍いを起こす者は複数現れた。

 だが、我愛羅の演説でそれも収まる。今ここに敵はいない。皆が皆、暁に傷つけられた痛みを持っている。痛みを知っている。ならば、そこに国や里の差はない。あるのはただ“忍”だ、と。

 我愛羅の想いが籠もった真摯な言葉に、忍全てが賛同する。諍いを起こしていた者達は互いに非を詫び、そして互いを認め合った。

 この瞬間、忍連合軍の戦意は格段に上昇した。我愛羅が年若く風影となった事に納得しない者達もいただろうが、今の我愛羅を見て風影に相応しくないと考える者は最早いないだろう。

 

 そうして忍連合軍が動き出す。史上最大の戦争である、第四次忍界大戦が幕を上げた。

 

 

 

 

 

 火の国から見て北にある山岳。山岳の墓場と呼ばれる場所に、イズナのアジトがあった。そこではイズナが忍連合軍が動き出すのを待ち構えていた。

 

「動き出したか」

 

 イズナは忍連合軍が準備を終えるのをわざわざ待っていたわけではない。マダラの輪廻眼を両掌に移植して、その反動にも耐え切った。

 だが完全に力が馴染むにはまだ時間が必要だったのだ。万華鏡写輪眼を移植した場合も、それが馴染むのに時間を必要とする。輪廻眼もまた同様だったのだ。

 今のイズナはほぼ完全に四つの輪廻眼に馴染んでいる。その力はイズナですら計り知れない程だ。

 

「ふ、早く試してみたいものだ。……いかんな、まるで玩具を与えられた子どもだな」

 

 新たな力を振るいたくて堪らない今の自己の心境を、イズナは正確に評する。だが初めから力を振るっては余興の意味がないと、イズナは自らを戒めた。

 そう、余興なのだこの戦争は。忍界の全てが手を組み、力を合わせて立ち向かう彼らの意思も、イズナにとっては余興に過ぎなかった。

 イズナは既に得ているからだ。十尾に至る尾獣のチャクラ、その全てをイズナは手に入れていた。一尾から七尾までは言うまでもなく外道魔像に封印済みだ。ならば残る八尾と九尾はどこに?

 

 その答えの一つは、ビーが大蛇丸の目を誤魔化す為に切り捨てた八尾の足の一部であった。正確には大蛇丸はわざとビーを見逃したのだが。

 一部と言えど八尾は八尾。そのチャクラは多少は外道魔像へと封印されている。そして、残る九尾のチャクラ。それは穢土転生にて補っていた。

 

 かつて、雲隠れの里にて「雲に二つの光あり」と謳われた忍達がいる。それが兄の金角と、弟の銀角の金銀兄弟である。

 二人はかの六道仙人の末裔であり、その力はまさに雲隠れでも、いや当時の忍界でも比べる者が少ない程であった。

 九尾と戦い、食べられるも腹の中で生き延び、九尾のチャクラ肉を喰らいながら二週間も暴れ続け、堪らず九尾が二人を吐き出して生き長らえたと言えばその実力の一端が理解出来るだろうか。

 しかもその際に九尾のチャクラを持つ様になったのだ。金銀兄弟は雲隠れが集めた六道仙人の宝具の内、四つを所有しており、本来なら使用するとあまりのチャクラ消費に死亡するとまで言われるそれらの宝具も、九尾のチャクラのおかげで何の問題もなく扱えた。

 

 金銀兄弟はその力にて二代目火影扉間に致命の傷を与えた事もある。もっとも、扉間一人に対し、金銀兄弟は二十人の部隊で相手にしていたのだが。

 この場合はその状況から部下が逃げ切る時間を稼ぎ、その上で自らも木ノ葉隠れまで逃げ切れた扉間を褒めるべきだろう。おかげで扉間は致命の傷を負うも、ヒヨリによって治療されて生き長らえたのだから。

 

 そんな金銀兄弟もとうの昔に亡くなっている。だが、それを覆す禁術がこの世にはあった。そう、穢土転生である。

 穢土転生にて蘇った者は生前と同じ力を再現されている。あまりに強すぎた場合は再現しきれないが、金銀兄弟に宿った九尾のチャクラを再現する事も可能であった。

 その金銀兄弟を外道魔像に封印する。そうすれば九尾のチャクラの一部だが、外道魔像に封印した事になる。

 

 この二つ、八尾の一部と金銀兄弟はあくまで代用品だ。だが、代用品でも十尾を目覚めさせるには十分だった。

 代用品ゆえに十尾は完全体としては復活しない。だがそれでもイズナには問題なかった。イズナの目的はあくまで無限月読による永遠の平和。その術は十尾が復活してさえいれば組む事が可能なのだ。

 目的に至る手段をイズナは既に得ていた。だからこそ、この戦争は余興でしかないのだ。戦争の結果に関わらず、イズナは目的を果たせるのだから。

 と言ってもイズナは戦争で負けるつもりは毛頭ない。代用品は用意しているとはいえ、八尾と九尾を捕らえて完全な形で十尾を復活させた方が良い事に変わりはないのだ。

 そして何より。自分達の世界を守ろうとする今の世の忍や、日向ヒヨリの力と意思をへし折る事が出来ると思うと、負けても良い等とはイズナには到底思えなかった。

 

――口寄せ・穢土転生!――

 

 イズナは穢土転生にて贄である金銀兄弟を浄土より口寄せする。

 

「……なんだぁ?」

「オレは……オレ達は確かに死んだはず……いや、これはまさか」

 

 蘇った金銀兄弟は死んだ時の記憶を思い出し、現状に戸惑っている。だが、金角はどうやら自らの現状に思い至ったようだ。

 

「そうだ金角、銀角。お前達は穢土転生によって蘇った」

「てめーなにもんだ。オレ達を蘇らせてどうするつもりだ」

「どうする、だと? くくく、お前達が何かをする必要はない」

「……どういう意味だ?」

 

 穢土転生にて蘇らせたならば、それなりの意味があるはず。だが、何もする必要はないというイズナに金銀兄弟は訝しむ。

 そんな金銀兄弟に対し、イズナは二人の誇りを傷つけるような言葉を放った。

 

「戦場に出した所でお前達程度、日向ヒヨリの手に掛かれば塵芥に等しく敗れるだけだ。それでどこぞに封印されても困るのでな。ここで利用させてもらう事にした」

「なんだと!?」

「てめー! オレ達を舐めてんのか!!」

 

 騙し討ちとはいえ、二代目火影を追い詰め、二代目雷影を討ち取った二人だ。イズナの今の言葉がどれほど癇に障ったか。

 元々激情しやすい二人はイズナの言葉に切れ、その力を開放する。尾獣化である。人柱力以外で尾獣化を成せる者は金銀兄弟を除いてこの世にはいない。その力は小さな九尾と言えるだろう。

 だが、それで終わりだ。尾獣化した所で二人は穢土転生の肉体。術者であるイズナに対して逆らう事は出来ない様に術を組み込まれていた。

 

「ぐ、ぐおお!」

「身体が……動かねぇ!」

 

 尾獣化しようとも、イズナの穢土転生に逆らう事は不可能であった。これに曲りなりにも逆らう事が出来るのはうちはマダラくらい……いや、それももう不可能と言うべきか。

 四つの輪廻眼を得たイズナの力は今までよりも遥かに増していた。それは穢土転生に逆らっていたマダラの意思を容易く封じる程にだ。もう、マダラはイズナの力に抗う事は出来ないのだ。

 

「無駄にチャクラを放出するとはな。おかげで日向ヒヨリが気付いただろうが。まあ、どうでもいいがな」

 

 そう、この瞬間にアカネは九尾のチャクラを放つ存在に気付いていた。どれだけ遠く離れていようと、尾獣化する程のチャクラを放てばアカネが気付かぬ訳が無い。

 同時に九尾のチャクラを引き出せる様になったナルトも、金銀兄弟が放つ九尾のチャクラを察知していた。今頃は疑問に思ってビーに相談している事だろう。

 

「さて、金銀兄弟よ、復活ご苦労だった。ではお別れだ」

『うおおおおおッ!?』

 

 そうして、金銀兄弟は何もする事が出来ずに、外道魔像へと封印される。これで全ての尾獣のチャクラが外道魔像に封印された、という訳ではなかった。

 今の外道魔像には二尾から七尾までの尾獣が封印されていなかった。それはイズナが穢土転生を利用して新たな戦力を作り上げていた事が原因である。

 イズナは暁によって捕らえた人柱力を六道の力にて操り、その身体に再び尾獣を封印したのだ。言うなればイズナ流のペイン六道である。

 そして人柱力に尾獣を封印しても、その封印の大本は外道魔像に繋がっている。つまり人柱力に何かあったとしても、尾獣は外道魔像の中に戻る様に細工が成されていた。これならばアカネや忍連合軍が何をしようとも問題はない。

 更に名だたる忍の穢土転生体が無数。イズナが暗躍しつつ集めていた者達だ。そして白ゼツ十万体。穢土転生という質、白ゼツという数。二つを揃えたならば、忍連合軍にも劣らないだろう。

 

「さあ、余興を始めよう。頼むから、兄さんやオレが出てくるまで耐えてくれよ。そうでなくては興ざめだ」

 

 そうしてイズナが動き出す。史上最大の戦争である、第四次忍界大戦が開戦した。

 

 

 

 

 

 

 戦端が開かれてから僅か一時間足らず。既に両軍は様々な場所でぶつかり合っていた。

 戦争と言っても、ただただ正面から軍勢同士をぶつけ合う物ではない。忍連合軍は幾つもの部隊に分かれており、それを狙って暁の軍勢も分散して攻め入っていた。

 多くの血が流れる戦場。その趨勢は、忍連合軍に傾いていた。

 

 

 

――土遁・開土昇窟!――

 

 地中を移動する白ゼツの大軍を、岩忍が土遁にて地中より追い出す。瞬間、雲霞の如く地中より溢れ出す白ゼツ達。その数は数千、いや万に及ぶだろう。

 だがそれに怯む者は忍連合軍にはいなかった。白ゼツが溢れ出た瞬間に掛かる部隊長の号令と共に、幾多の忍達が白ゼツに攻撃を仕掛ける。

 眼前はどこもかしこも敵だらけだ。術が外れるという心配をする必要はなく、誰もが全力の一撃を放っていく。

 一瞬にして無数の白ゼツ達は命を失っていく。だが、敵は数に任せて更に押し切ろうとする。死を恐れぬ白ゼツ達は自らの命を武器にひたすらに前に進んでいく。

 数の利と命を惜しまぬ勢い。その二つによって忍連合軍にも被害が出始める。だが――

 

――牙狼牙・廻!――

 

 キバが双頭狼となりて、全身からチャクラを放出させつつ高速回転で敵を蹴散らしていく。

 

――八卦空壁掌!――

 

 ヒナタとネジが同時に八卦空壁掌を放ち、更に強大な衝撃波を生み出して敵を飲み込んでいく。

 

――蟲玉!――

 

 シノが蟲を大量に操り多数に攻撃を仕掛けつつ、その類稀なる体術にて無数の敵を鎧袖一触する。

 

――土遁・土流割! 水遁・爆水衝波! 雷遁・千鳥流し!――

 

 そして影分身のアカネが土遁にて大地を割り、未だ地中の敵を大地の裂け目へとさらけ出し、水遁にて大地の裂け目を敵ごと埋め、そこに雷遁を流し込んで一気に殲滅する。

 アカネと、そしてアカネによって大きく成長した者達が敵に大打撃を与えていた。当然他の忍達も彼らに負けじと力を振るい、結果として味方の損耗は予想よりも少なくすんでいた。

 

 

 

 別の戦場では穢土転生との遭遇戦が開始されていた。

 あらかじめ穢土転生による敵の存在を示唆されていた忍連合軍だが、いざ名だたる忍の面々と立ち向かうとやはり戸惑う事はあったようだ。

 敵は一体一体が里や歴史に名を残す程の存在であり、その上不死身の化け物という理由もあって開始当初は忍連合軍に被害が多かった。

 だが、穢土転生を無効化する為の手段は構築済みであった。外傷を与えてもすぐに再生するならば、まず動きを封じ、その後に封印術にて封じればいいのだ。そうすれば如何に不死身であろうとも足掻きようがない。

 もっとも、強大な敵を相手にそれを行う事が困難なのだが。戦争前に穢土転生対策をシミュレーションしていた忍達も、穢土転生の強者達に苦戦し、対応が遅れていたのだ。

 

 対応が遅れた理由はそれだけではない。敵は過去の人物達。つまりはかつての同胞であったり、恩師、親友、家族等と、忍連合軍の戦う意思を削ぐ様な相手もいたのだ。

 それらの穢土転生達はイズナによって意思を縛られて無理矢理に争わされている。それが分かっていても、親しかった者達に刃を向けるのを躊躇う者は少なからず居た。

 

 だが、だからと言ってむざむざ殺される訳にもいかない。敵が知人だからこそ、その地獄から解放してやりたいと全力を尽くす者もまた存在していたのだ。

 

再不斬(ザブザ)……白……すぐに楽にしてやるからな」

 

 カカシが二人の穢土転生に向かってそう呟く。

 鬼人・再不斬。かつてナルト達が少年時代に戦った元霧隠れの忍。サイレントキリングと呼ばれる無音暗殺術の腕前は右に出る者がないと言われた程の忍だ。

 そして白。再不斬に付き従う少年であり、氷遁と呼ばれる血継限界の所有者である。

 イズナに穢土転生の駒として選ばれただけに、両者ともにその実力は高い。当時のナルト達が勝てたのはカカシの存在と、ナルトとサスケの潜在能力の一部が開花した為だ。そうでなくてはナルト達は今を生きてはいなかっただろう。

 そんなかつての強敵だが、二人はナルトにとって特別な敵だった。ただ強く恐ろしいだけでなく、その生き様や死に様はナルトに強い影響を与えていた。そして何より、この二人もナルトを気に入っていたのだ。最後にナルト達と戦えた事を良かったと言える程に……。

 カカシにとっても、生死を懸けて戦った敵である再不斬の事を少なからず尊敬している。そんな再不斬と白が無残にも操られて争いを強制されているのを見て、カカシの中に沸々と怒りが湧いていた。

 

 敵は再不斬と白だけでなく、他にも無数の穢土転生体がいた。数で言えば忍連合軍が勝っているが、その質は確実に穢土転生達の方が上だろう。……極一部を除けば、だが。

 

「オレが倒した者から順に封印術を掛けろ! 再生する暇を与えるなよ!」

 

 部隊長であるカカシがそう叫び、そして瞬身の術にて一瞬でその場から掻き消える。

 カカシの狙いは再不斬だ。既に戦場は再不斬の得意術である霧隠れの術にて濃霧に覆われて視界が失われていた。

 視界が役に立たないこの状況では、忍連合軍の多くが戦力半減となるだろう。それを解除する為にも再不斬を真っ先に封印する。それがカカシの狙いだった。

 

 アカネとの修行で身に付けた雷遁の鎧を身に纏い、身体能力を最大限に活性化させたカカシの動きを見切れた者は殆どいなかった。

 だが、こと速度という一点でカカシを上回る者がいた。それが白である。氷の鏡を無数に生み出し、その鏡の反射を利用して一瞬で移動する秘術を白は持っている。

 それを利用して白は再不斬の前に立ち、カカシの雷切を受け止める。意思がなく、死すらない穢土転生だからこその庇い方だ。だがそれは、かつての白が再不斬を庇った時と皮肉にも一致していた。

 

 白によって動きを封じられたカカシに向けて、再不斬が彼を象徴する武器である首切り包丁を振るう……と見せかけて、再不斬は大地に向けて首切り包丁を振り下ろした。

 その一撃によって大地は砕け、その下から現れたカカシに首切り包丁の一撃が命中する。そして、そのカカシは音を立てて消滅した。

 あらかじめ作っていた影分身に、地中を掘り進めて奇襲させようとしていたのだ。そして、それを再不斬は見抜いた。再不斬はサイレントキリングの達人だ。それ故に音で気配を察知する技術に長けていたのだ。

 かつてカカシと再不斬が戦った時は、似たような戦法にて地中からの奇襲に対応出来なかった事が、今の再不斬に活きたのかもしれない。最適な行動をする様に操られていたのもこの奇襲を察知出来た理由の一つだろう。

 

 そして再不斬は、白に動きを止められているカカシに向かって今度こそ首切り包丁を振り下ろそうとする。動きを止めている白ごとにだ。イズナによって感情を制御されている穢土転生に、仲間を巻き込む事に対する躊躇いなどなかった。

 そして再不斬は……上空からのカカシの奇襲によって袈裟切りに裂かれた。

 

「……!?」

 

 全てはカカシの術中であった。本体の攻撃も、地中の奇襲も、全ては囮。本命は空中に飛ばしておいた二体目の影分身であった。

 本体が雷遁の鎧を帯びる時に発する音も、影分身が地中を掘り進む音も、空中からの奇襲を悟らせない様にわざと立てていたのだ。そして、攻撃する一瞬のみに雷切を発動し、その類稀なる切れ味にて再不斬を切り裂いたのだ。

 

「今だ!」

 

 カカシの合図と共に封印術の使い手が再不斬と白を封印する。途端に戦場を覆っていた霧は晴れ渡り、視界は元に戻った。

 封印されていく再不斬と白を見ながらカカシは思う。かつての再不斬も自分を庇った白もろともにカカシを斬り殺そうとした。だが、その時の再不斬には白を斬る事に躊躇いを持っていたのだ。

 そして、白が死んだ事に内心で動揺し、その動きは精彩を欠き、互角に戦っていたカカシに呆気なく敗れたのだ。それは忍としては失格の感情なのだろう。だが、再不斬が感情のある人間である証拠でもあった。

 そんな人間を、感情のない道具にまで貶め、争わせる。再不斬と白の二度目の死に様を見たカカシはここに誓った。こんな戦い、一刻も早く終わらせてやる、と。

 

「行くぞ! 残る全ての穢土転生を封印する!」

『はっ!』

 

 カカシの号令と共に、忍連合軍と穢土転生の争いは激化していく。

 

 




 カカシ「死人を無理矢理操り、望まぬ争いを強要する。外道め!」
 扉間(術を作ったのはワシだが、使ったのはワシじゃないからセーフ)

 なお、カカシの部隊にも影分身のアカネは配置されており、カカシが再不斬と戦っている間に数人の穢土転生を封印し終えていたりする。
 ちなみに戦争編は大分端折ります。全てを細かく描写していたら原作みたいに二十巻近くの長さになっちゃうから……。

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