どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第三十三話

 五影会談。暁がもたらした被害と脅威により開催されたそれは、イズナの登場によって混迷の一途を辿っていた。

 イズナの計画を聞いた五影と鉄の国の侍大将ミフネは、到底その目的を理解出来ず、敵対する道を選んだ。

 イズナもそうなるだろうと予測しており、不敵な笑みを残して消え去って行った。残された者達に出来る事は唯一つ。そう、イズナの計画を止める為に諍いを捨てて協力し合う事……ではなく、一人の可憐でか弱い乙女を糾弾する事であった。

 

「ぷるぷる。私、悪い日向ヒヨリじゃないよ?」

「やかましいわ!」

 

 脇を締めるように両腕を胸の前に寄せ、媚びるようなわざとらしい上目遣いで戯けた事を宣うアカネに対し、日向ヒヨリとはこんな性格だったのだろうかと、綱手を除きこの場で最もヒヨリを知るオオノキが思わず叫ぶ。だが、外部に知られていないだけで、こういう一面も持っているのである。

 

「正直に答えろ! 貴様が日向ヒヨリだというのはどういう意味だ!?」

 

 真面目に対応しないアカネに、我慢という言葉をそこら辺の草原にでも捨ててきたエーが怒鳴り散らす。だがまあ今回ばかりはエーと同じ気持ちの者達が大半であったが。

 流石にアカネもこれ以上とぼける事はしない。最初のおとぼけはいわゆるお約束という奴なのだ。

 

「そのままの意味ですよ。私はかつて日向ヒヨリという存在でした。死して魂が輪廻転生し、再び今の私として生を授かったのです」

『!?』

 

 驚愕する皆に対して、アカネは転生に関してある程度の情報を公開する。幾つかの重要な情報は秘密にしているが。流石に何度も転生してきた事や、童貞捨てるのが最初の目的でしたとか言える訳がなかった。

 

「信じられないだろうが、これは事実だ……。私も初めて知った時は本当に驚愕したがな」

 

 誰もが信じ難い事実を、やはり信じ切れずにいたが、綱手のその言葉で信憑性が上がり一概に嘘だと断定する事も出来ないでいた。

 

「うーん。私のチャクラの質は変わっていないので、オオノキなら分かるんじゃないですか?」

「……そ、そういえば……日向ヒヨリと同じチャクラの質じゃぜ……」

「本当かオオノキ!?」

 

 第一次忍界大戦にてヒヨリの戦いをその目で見た事があるオオノキだ。その圧倒的な実力と、有り得ない程のチャクラの量、そしてその質は目と体に焼き付けられていた。

 そんなオオノキがアカネのチャクラを探ると、そこにあったのはヒヨリと同質のチャクラだ。間違いない。そう確信するオオノキの言葉は、アカネがヒヨリの転生体だという信憑性を更に上げていた。

 

「……もしや、これはチヨバアも知っている事か?」

「あ、そうですね。チヨは前回の一件で私の正体に気付きましたよ」

「どういう事だ風影?」

 

 二人の会話の意味が理解できずにエーが我愛羅へと確認する。そこで我愛羅はかつての事件のあらましを説明した。

 人柱力として暁に狙われ攫われた時に、救出部隊としてアカネとチヨバアもが来ていた事。そして事件解決後に、チヨバアからアカネとは敵対するなと言われていた事を。

 

「チヨバアは余程お前を恐れているようだな……」

「失礼な。私をそんな危険人物みたいに言わないで下さい」

 

 少し拗ねた様に言うアカネだが、綱手とオオノキだけは他の誰よりもチヨバアの気持ちを理解出来ていた。

 特に敵としてヒヨリと相対した事のあるオオノキはその思いが強い。ヒヨリにとっては無数の敵の中の一人に過ぎなかったかもしれないが、オオノキにとっては群を蹴散らす圧倒的な個を見せ付けられたのだ。当時の畏怖はまだ残っていた。

 

「で、では、あなたが日向ヒヨリの転生体という事に間違いはないのですね?」

 

 こうも立て続けに情報が上がっては嘘だと断言する事も出来ず、水影は最後に念を押してアカネへと確認をする。

 それに対してアカネは首肯した。ここまで来て今更嘘を吐く気はアカネにはない。今は全ての里が協力して乗り越えなければならない事態に陥っているのだから。

 

「はい。私の誇りに誓って、私が日向ヒヨリの生まれ変わりだという事を宣言します」

『……』

 

 この言葉は真実だろう。五影とミフネはそれを確信出来た。里や一国を代表するまでに至った彼らだ。嘘を見抜けるかはともかく、真摯に答えた言葉を理解出来ない訳はなかった。

 

「……一つ聞く。お前の強さは日向ヒヨリの最盛期と同等なのか?」

「いいえ」

 

 オオノキの質問にアカネは首を横に振った。当時の最盛期と同等ではない。それは非常に残念な答えだった。

 当時のヒヨリはまさに圧倒的な実力を誇っていた。当然同じ三忍であるマダラも圧倒的な力を見せ付けていた。

 敵にマダラを有するイズナがいるならば、こちらにも同レベルの三忍がいる事は非常に望ましい事だ。だがそうでないならば……。

 僅かに落胆するオオノキだったが、彼は少々勘違いしていた。

 

「当時よりも今の方が強いですね。修行は欠かしませんでした!」

「もうお前一人でいいと思うんじゃぜ?」

 

 オオノキは思考を放棄した。

 

「何を言っているオオノキ!!」

 

 たった一人に戦争を任せるという本気か冗談か分からない発言をするオオノキに、エーはそれを冗談と受け取らずに怒りを顕わにする。

 多くの者はオオノキの言葉を冗談だと思い、雷影は相変わらず冗談が通用しないな、等と思っていた。だがオオノキは半分以上本気で発言していたりする。

 

「お前は何も分かっとらんのじゃぜ。日向ヒヨリよりも強い。これを当時の日向ヒヨリの強さを知る者が聞いたら、誰だってワシと同じ思いになるはずじゃぜ……」

 

 達観したオオノキの言葉は何よりも説得力が籠もっていた。アカネとしては少々納得いかない思いである。

 

「まったく。私がいくら強くたってどうしようもない事は山ほどあるんですよ? イズナとの戦争もそうです。皆が協力して、初めて勝機が生まれると私は考えています」

 

 あのイズナの自信。それはハッタリや誇張ではないとアカネは感じ取っていた。真実イズナはアカネを含み五大忍里が協力したとしても負ける訳がないと思っているのだと。

 それだけの切り札を持っているのだろう。それが輪廻眼か、それとも十尾とやらか、はたまたそれら含む全てかまではアカネにも分からないが。

 

「私に対して思うところもあるでしょう。ですが、どうか忍界の、いえ全ての人々の未来を守る為に、協力してください」

 

 そう言ってアカネは頭を下げる。しばらく無言の時間が続くが、実年齢はともかくこの場の誰よりも長く生きているアカネのこの行動を無碍にするつもりは誰にもなかったようだ。

 

「お前が何者だろうと関係ない。ワシはあんな奴に協力するつもりも負けるつもりもない。癪だが手を組んでやる」

「日向の姫君にそう言われてはな……。ワシも協力しよう」

「元よりそのつもりだ」

「ええ。イズナの暴挙を許す訳にはいきませんからね」

「私も当然協力する。ばあ様、頭を上げてくれ」

 

 雷影・土影・風影・水影・火影。五大隠れ里と謳われる忍の里の長が協力しあう。そこにはかつて柱間とマダラが夢見た形があった。それを思い、アカネは嬉しくなる。

 

(見てるか柱間、マダラ……。今、忍界が一つになろうとしているんだ)

 

 それは強大な危機が訪れたからこその団結なのだろう。皮肉だが、イズナの行動がこの協力関係を生み出したと言える。

 だがそれでもいい。ようはこれで終わりにせず、これを始まりにすればいいのだ。この強大な危機を乗り越え、その後も全ての里が協力し合えたなら……。

 アカネが希望の未来に想いを馳せている中も、五影の会話は続いていく。

 

「しかし、良く日向ヒヨリを信用したもんじゃぜ雷影よ。お前なら日向ヒヨリが裏でマダラと手を組んでいる、とか言い出しそうなもんじゃと思っとったんじゃがな」

「おい両天秤のジジイ! めったな事を口にするな! ばあ様を疑っているのか!」

 

 オオノキの言葉は辛辣だが、ある意味では全うな疑りでもある。元々同胞であったマダラとヒヨリだ。実は裏で手を組んでいるのではと疑ってもそれほどおかしな発想ではないだろう。

 もちろんそんな訳ないとアカネを信じている綱手はその言葉に激昂したが、エーは激昂する綱手を横に置いてオオノキに答えを返す。

 

「ふん。自分達から正体をばらし疑われる様にする馬鹿がどこにいる。もし手を組んでいたならば黙っていた方が利になるだろう」

 

 まさに正論と言える答えだった。敵が騙し討ちをするならば、わざわざスパイ容疑を掛けられる様な情報を与えはしないだろう。

 それすら計算に入れていたとしても、疑問を持たれる段階で不確定要素は大きすぎる。むしろ、イズナがこういったいざこざを狙ってわざわざ日向ヒヨリの正体をばらして行ったのではないかと勘繰る程だった。

 

「下らん話は終わりだ。ワシらがすべき事はイズナの狙いである八尾と九尾、つまりはワシの弟と木ノ葉隠れの人柱力をこちらで確保する事が先決だ。火影よ、九尾の人柱力の保護は万全か?」

「問題ない。ナルトは里で保護してある」

「私の影分身がついています。何かあれば影分身が解除されて、本体である私に何らかの情報が伝わる様になっています」

 

 ナルトは綱手から言われたSランク任務――という名目の保護――である修行に今も励んでいる。ナルトとしても兄弟子である長門から託された想いを守る為に更なる力を求めていた。

 

「よし。なら問題はワシの弟か……」

 

 そう言いながら、エーは内心でこの状況でややこしい事を仕出かした弟に頭を痛くしていた。だが表情には出さずに他里に向けて次々と指示を出していく。

 

「木ノ葉から得た情報によると、ビーは単独行動中の様だが、先ほどのイズナの言葉からするとそれに間違いはないようだな。里からは既に捜索隊を編成しておる。岩・霧・砂・木ノ葉にはキラービーの情報を提供する。それを元に捜索チームを編成しすぐに動け」

 

 そうしてエーの指示ともたらされた情報によってキラービー捜索の動きが進む。そこでミフネは纏まりつつある忍達にある提案を促した。

 

「五影の方々。こうして協力関係になるに当たり、公に忍連合軍を作るというのはどうだろうか」

 

 その提案に異論を唱える者はいなかった。五大隠れ里が協力するのだ。誰が見ても分かりやすい纏まりの形を作り上げた方が良いだろう。

 問題なのはその指揮系統だ。連合軍の権限を誰が持つか。それによっては一悶着あるやもしれなかった。

 

「指揮系統は統一するのが望ましい。だが、それを決めるのがあなた方だけでは揉め事になる。ここは中立国の立場を尊重して頂いた上で、拙者が提案したい」

 

 この意見にも異論を唱える者はいない。ここで反論した所でその者が全員から糾弾されるだけなのだから。

 緊張が場を支配する中、ミフネがゆっくりと忍連合軍総大将を指名する。

 

「先の雷影殿の指示、その適切さと早さは有事に置いて非常に利となるだろう。ヒヨリ殿に対しての判断からも、冷静に事をみる力を持っている事が窺える。それにキーとなる尾獣八尾をコントロール出来るのは雷影殿のみ。故に、雷影殿に忍連合軍の大権を任せてみてはいかがか?」

『……』

 

 綱手・我愛羅・メイの三人は特に異論なく、納得の表情を見せていた。オオノキのみ若干不満そうにしていたが、ここに至って揉めていては今後の纏まりに差し支えが生じる。それは年の功で理解出来たオオノキであった。

 

「仕方ない。お前の命令を聞いてやる」

「ああ、協力しろ」

 

 互いに不満そうに不敵に笑いながらも、エーもオオノキも敵としての相手をある意味信頼していた。

 だから味方にすればどれほど頼もしいかも理解している。互いに相容れない一面を持つ忍同士が、今手を取り合った。ここに、忍界初の忍連合軍が結成された。

 

 

 

 

 

 

 五大忍里からなる忍連合軍が結成されるが、それで五影会談が終わった訳ではない。その後にも幾つかの話し合いが講じられていた。

 

「八尾と九尾をこちらの連合軍で見つけ出し、隠しておくのがベストではないでしょうか」

 

 メイの意見は正論だろう。イズナの目的である無限月読には十尾が不可欠。そして十尾復活には八尾と九尾が不可欠。

 八尾と九尾を除く全ての尾獣がイズナの手にある今、その目的を妨げる為には八尾と九尾を捕らえられない様にするのが最も効率的だろう。

 

「何を言っている! ナルトもビーも大きな戦力だぞ! 隠してどうする!」

「火影に賛成じゃぜ。イズナの持つ七体の尾獣が集まった力は想像もできん……。それに尾獣を使った術や隠し玉を持ってるやもしれんぜ。ワシら忍連合軍側も、八尾と九尾の尾獣を戦力として計算した方がいいのではないか?」

 

 対してそれに異を唱えるのが綱手とオオノキだ。両者ともに強大な力を有するナルトとビーを隠すのではなく、戦争の戦力として投入した方が良いと判断していた。

 だが、五影にはメイと同じ考えの者が多かったようだ。

 

「それは駄目だ。これは二人を守る戦争でもある」

「この若僧が! ナルトはな――」

「あいつの事は良く知ってる……」

 

 我愛羅の言葉に綱手は力を籠めて反論しようとするが、それを遮って我愛羅が言葉を発する。

 

「仲間の為なら無茶をする……だからこそだ」

「……」

 

 我愛羅のその言葉に、綱手は何も言えなかった。まさにその通りだと綱手も理解していたからだ。

 綱手はナルトと出会ったばかりの事を思い出す。あの時も、ナルトは無茶をして、そしてそれを押し通していた。結果として綱手はそのおかげでかつてのトラウマを克服出来たが、その代償にナルトは瀕死の重傷を負った。

 綱手の治療が間に合ったから良かったが、そうでなければナルトはあの時死んでいただろう。それを思い出すと綱手は我愛羅に対して何も言えなくなったのだ。

 

 沈黙する綱手を尻目に、メイとエーも我愛羅の意見に賛同する声を上げる。

 

「私も風影様の意見に賛成です」

「ワシも風影の意に同意だ。もしもの事を考えれば、敵を前に八尾と九尾をおいそれと出すわけにはいかん!」

 

 エーは八尾と九尾が捕らえられる危険性を上げ、そして続けて別の危険性も口にする。

 

「そもそも八尾であるワシの弟は作戦などという言葉には縁遠い奴だ! 何をしでかすか分からん……逆に戦場が混乱するかもしれんしな!」

 

 エーの言葉にエーの部下の二人が何とも言えない表情を浮かべて同意を示していた。どうやらキラービーの性格は雲隠れではかなり知られているようである。

 

「……九尾のナルトも同じだ」

「……だな」

「……ですねぇ」

 

 キラービーの評価を聞いた我愛羅がナルトについても同じだと語り、綱手もアカネもそれに同意した。意外性ナンバー1の名は伊達ではなかった。

 

「分かりました。では八尾と九尾は保護拘束という事でどうです火影様、土影様?」

「……分かった」

「……うむ」

 

 メイの申し出に、綱手もオオノキも渋々だが同意する。内心では人柱力の戦力を持ち出したい所だが、五影内ではその意見は少数な上に、他の五影が言う様に危険性の高さも理解しているので、どうにか納得したようだ。

 こうして五影全員の意思により八尾と九尾に対する処置が決まった所で、エーは五影以外の人物の意見を求めた。

 

「……お前の意見を聞きたい日向ヒヨリ」

 

 五影会談で五影や会談を預かる立場の者以外に意見を問う。それは異例と言っても過言ではないだろう。

 だが相手はこの場の誰よりも長く生き、誰よりも経験豊富で、誰よりも敵であるイズナやマダラについて詳しい人物だ。忍連合軍を預かる者としては意見を求めるのは当然ではあった。

 

「そうですね。ナルトの気持ちを考えるとナルトも戦力に加えたい所ですが……」

 

 そこまで言ったアカネの言葉に再び場が荒れようとする。五影の話し合いでは三対二で決着した問題が、アカネの意見で再びもつれようとしているからだ。

 五影でないアカネの意見など話し合いの数に入れる必要はないが、そうするにはアカネの立場と実力が高すぎた。

 再び混迷しようとする五影会談。だが、それを作り出したのがアカネならば、それを収めたのもアカネであった。

 

「ですが、今のナルトが戦争に加わった所で正直足手まといにしかならないでしょうね」

 

 アカネのその言葉に一番に反応したのは綱手だった。綱手はアカネの事を誰よりも尊敬している。立派な祖父であった柱間と同等の存在であり、幼い頃より世話になっている存在だ。尊敬しない訳がなかった。

 だが、それでも今のアカネの言葉は綱手には許せなかった。綱手はナルトの事を心底想っており、ナルトが強くなろうとしている意思と、そして実際に強くなったその努力を知っている。それが無意味であるかの様に言うアカネの言い方は、アカネを尊敬する綱手にも看過出来なかったのだ。

 

「ばあ様! ナルトは強い! あのペインを倒したんだぞ! それが足手まといになるわけがないだろう!」

 

 綱手のその反論はまさしく正論だろう。ペインは暁の表向きのリーダーであり、真の黒幕ではない。だが、実力が確かだからこそペインは表とはいえ際物揃いの暁でリーダーを張れたのだ。

 その実力は木ノ葉隠れが誰よりも知っているだろう。今もなお木ノ葉隠れの里に残るペインの巨大な爪跡。広大な里の大半を破壊しつくし、生き返ったとはいえ多くの名のある忍を打倒したペインのその実力は、忍界でも屈指の物だろう。

 それと真っ向から相対し、打倒したのがナルトなのだ。仙人にすら至った今のナルトに勝てる忍が一体どれ程いるだろうか。それが足手まといだと言うのならば、世の忍の大半は足手まといになるだろう。

 だが、綱手のその正論による反論は、ナルトの立場を考慮すれば正論には成りえないのだった。

 

「綱手。ナルトは強いですよ。それは私も認めます」

「なら何故!」

「そのナルトよりも、敵の方が圧倒的に強いからです」

 

 なおもアカネに食って掛かっていた綱手に対し、アカネはその言葉で反論を切って捨てた。

 

「ナルトがただの忍であれば、まさに戦争において頼れる戦力となっていたでしょう。ですが、ナルトは敵に狙われる立場。八尾と九尾を敵に捕らえられる訳にはいけません」

 

 それは綱手も先の五影との話し合いで理解している。だからこそ綱手もナルトとビーを保護拘束する案に納得したのだ。

 だが今納得出来ないのはナルトが戦争で足手まといになるという一点だ。それをアカネは説明した。

 

「そして、今のナルトが百人いたところで、イズナ相手に勝ち目はありません。そんなナルトを守る為にどれだけの忍が犠牲になればいいか……あなたに分かりますか綱手?」

「それは……それ程なのか……?」

 

 今のナルトが百人いたところでイズナには敵わない。ナルトの実力を知る綱手としては、流石にそこまでとは考えていなかったようだ。

 だが、アカネは綱手の問いに対し、残酷にも首肯する事で答えた。

 

「イズナの実力は恐らくマダラ以上となっているでしょう……。あの自信からして恐らく間違いはありません。イズナ自身、穢土転生のマダラ、一尾から七尾までの尾獣……それらから己の身を守るのに、ナルトはまだ未熟です」

 

 ナルトが自身で自身の身を守る事が出来ない以上、ナルトを守るのは他の忍の役目となる。そうなればどれだけの忍がナルトに代わり犠牲となるのか……。それを考えれば、今のナルトを戦争に参加させる訳には行かなかった。

 

「……」

 

 アカネの意見に反論の言葉がなくなった綱手は沈黙するしかなかった。

 アカネも認める様にナルトは確かに強い。ナルトに勝てる忍は本当に僅かだ。だが、イズナはそれを凌駕するのだ。

 ナルトとイズナの戦力差が少なければともかく、百対一でもイズナが勝つとなれば、それはナルトを守るという前提がある戦争ではナルトは足手まといとなってしまうのだ。

 

「ナルトが九尾の力を自在に扱える様になれば話は別ですけどね」

 

 そこまでの強さになれば、ナルトが足手まといになる事はないだろうとアカネは言う。

 ナルトが九尾の力を引き出せれば、それでイズナに勝てると言う訳ではない。だが、少なくとも簡単に捕らえられる事はなくなるだろう。

 そこまで話してアカネはチラリとエーに対して視線を向ける。それに気付いたエーはまさかと思いつつも、ナルトとキラービーの隠し場所として考えていたとっておきの場所を思い出していた。

 

「……それに関してはワシに考えがある。元々八尾と九尾の隠し場所として提案しようとしていたのだが……」

「どういうことじゃ雷影?」

 

 隠し場所だけならともかく、ナルトが九尾の力を自在に扱える様になる事に関してどんな関係があるのか。オオノキの、いや他の五影全員の疑問にエーは答えた。

 

「場所は暁メンバーの出ていない雲隠れにある場所が妥当だろう。そして、そこはビーと一緒に修行に励んだある孤島だ。そこでビーは尾獣の力を己の物にした」

「なるほど……。そこで八尾と九尾を保護しつつ――」

「ナルトに人柱力の修行を課す、というわけか」

「それなら万が一に九尾が暁に襲われても、それを自力で跳ね除ける可能性も上がるな」

「保護と人柱力の強化。一挙両得の案という訳じゃぜ」

 

 エーの案に全ての五影が納得した。だが肝心のエーは浮かぬ顔でアカネを見つめていた。

 

「……雲隠れの秘密の孤島の事を知っていたのか?」

「いえ。噂で聞いた事はあるくらいです。雲隠れには人柱力を御す方法があるという噂をね。まさか本当にあるとは……」

「ふん……。まあいい。元々九尾もそこに案内するつもりだった。今更この状況で秘密だとは言わん」

「ありがとうございます雷影様」

「ふん」

 

 にこやかに礼を言うアカネに対し、エーは不機嫌そうに返す。どうにもアカネの手の平の上で動いている感じがして気に食わないようだ。

 だからと言ってアカネに対して反発する程に気に食わない訳ではない。物腰や目配りなど、そこには嫌みの様な物は感じない。先の礼も真実想いが籠められているのをエーは感じていた。

 そこら辺の機微の調整を上手くされている様で、どうにも苦手に感じている様だ。

 

 

 

 八尾と九尾に対する方針が決定した次にした事は、敵の戦力の確認であった。

 

「残る暁についてだが、我々が知っている情報を全て開示しよう」

 

 そうして綱手は大蛇丸から得た情報を五影全てに伝えていく。

 と言っても注目すべき存在は少ない。残る暁は実質二人しかおらず、そしてその内の一人は情報収集専門に等しいからだ。

 だがその情報収集一つ取っても暁は桁違いだ。ゼツという人物が情報収集担当であるが、そのゼツは胞子の術という特殊な術を用いる事が出来る。

 胞子の術とは、己の分身を胞子の状態にして対象に取り付かせ、チャクラを奪い取り実体化するという術だ。しかも胞子状態では優れた感知タイプの忍ですら気付く事が出来ないという恐るべき術である。

 更に樹木を媒介に大地と同化して感覚を共有する術も持っている。この二つの術は柱間細胞から得た木遁忍術を応用して作り出された術のようだ。

 これらは大蛇丸の研究によって解明されたゼツの能力であり、この点から大蛇丸が余程の研究者だというのが窺える。

 他にも隠れた能力を有している可能性もあり、単なる情報収集専門の忍と思わない方がいいだろう。

 

 そして肝心要のイズナ。彼に関しては分かっている事は非常に少ない。

 アカネの言葉によると、当時のイズナの実力は現在で言うならばイタチやサスケに匹敵する程だったようだ。

 確かに強いだろう。だが、その程度ならば何の問題もない。忍連合軍が相手をするまでもなく、木ノ葉隠れだけでどうとでもなる程度と言える。

 だが今のイズナは輪廻眼を有しているのだ。輪廻眼の恐ろしさはペインにて実証済みだ。しかも会談に侵入したイズナの言から、それ以上の実力を持っている可能性は非常に高いと言えた。

 

 何より、一番分かりやすい障害となっているのがイズナに操られるマダラである。

 その実力はオオノキも知っている。千手柱間・日向ヒヨリの二人と共に、たったの三人で第一次忍界大戦を終結に導いたのだ。実際に当時の戦争に参加していたオオノキとしては、あの光景は恐怖以外の何物でもなかった。

 だが、アカネはオオノキが驚愕する事実を述べた。

 

「今のマダラは穢土転生であり、その実力は完全には発揮出来ていないでしょう。それでもなお、今のマダラは第一次忍界大戦当時のマダラよりも強いです」

「な、なんじゃと!?」

 

 当時でさえ、その実力は同じ三忍以外には並ぶ者はいないとさえ謳われた存在が、不死身の肉体を得て当時以上の実力となって敵対している。

 それに驚愕しない者はこの場にはいなかった。前もって話を聞いていた綱手でさえ、何度聞いても背筋が凍る様な思いとなる。

 

「マダラは永遠の万華鏡を得て、木遁忍術を得て、その上で輪廻眼を得ています。これらは当時の戦争ではマダラが得ていなかった物です」

 

 あの圧倒的な力に、更に圧倒的な力が加わっているという。マダラ一人で忍連合軍を圧倒出来るのではないか? オオノキがそう考えたのも仕方ないと言えよう。

 だから、アカネの次の言葉にオオノキが動揺したのも仕方ないと言えた。

 

「ですが、マダラを抑える策はあります」

「本当か!?」

 

 マダラとの絶望的なまでの実力差を想像していたオオノキだが、それだけにアカネの言葉は朗報だった。

 考えてみればここにいるのも、マダラと同じ三忍であった日向ヒヨリ、その転生体なのだ。アカネがマダラを抑えられるならば希望の目はあるだろう。

 

「戦争が始まり、マダラが現れたら私が相手をします」

「それだけであのマダラを抑えられるのか?」

「抑えるだけならば簡単です。というか、勝つだけならばそれほど苦労はしません。むしろ、周囲の者達を巻き込まない様にする方が難儀ですね」

『……』

 

 化け物もかくやとばかりのマダラを相手に、勝つだけならば苦労はしないと断言するアカネ。これには五影も、いや室内の誰もが絶句した。

 やはりこれも化け物だ。オオノキは改めてそれを確信する。そして誓った。アカネが存在する限り、忍界に無駄な争いを投じる様な行動はしない、と。

 

「未知数なのはやはりイズナと、そして捕らえられた尾獣ですね。イズナがどれ程の力を有しているか……尾獣をどの様に利用してくるか……」

 

 こればかりは実際に戦争で見ない限りは理解出来ない事だとアカネは語る。これらによって此度の戦争の行く末が決まると言っても過言ではないだろう。

 

「確かに暁の力は未知数。だが、今ここに世界初の忍連合軍がある。その力もまた未知数……。そしてこの戦争、我々侍も参戦する! ヒヨリ殿の心配も分かるが、これでもなお勝ち目はないかな?」

 

 イズナの力を案ずるアカネに対し、ミフネは忍と侍の全てが結集した力も負けてはいないと断言する。それに対してアカネは答えを返す。

 

「まさか。今の忍界に一番期待しているのは私なんですよ」

 

 そう言ってアカネは笑顔で答えた。ここにあるのはまさに希望なのだ。ここから忍界全てが手を取り合う可能性が広がろうとしているのに、それに期待しない訳がなかった。

 

 こうして五影会談はひとまず終了した。五影はすぐに己が里に戻り、第四次忍界大戦に向けての準備を始める。

 各里からそれぞれの国の大名にも連絡が行き渡り、そして大名達の会談も終えて、正式に忍連合軍は結成された。

 五大国という強大な国と、五大忍里という強大な忍里。それらを巻き込んで、世界が大きく動き始めた。

 

 




 オオノキは原作と違ってマダラの全力を第一次忍界大戦で見ているので、原作よりもマダラに対して畏怖を持っています。

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