どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第三十二話

 木ノ葉の里が着々と復興し、その影で多くの忍――主にヤマト――の悲鳴が上がる中、ある一行が木ノ葉の里を訪れた。

 

「なるほど……大蛇丸に関してか」

「はい。大蛇丸は木ノ葉にとっても抜け忍のはず。協力していただけますよね?」

 

 その一行とは雲隠れの忍であるサムイ・カルイ・オモイの三人。その目的は雷影の弟にして雲隠れの人柱力でもあるキラービーを連れ去った犯人である大蛇丸の捜索と情報の収集であった。

 特にカルイとオモイの二人はこの任務に対する意気込みが高かった。二人はキラービーの弟子であり、師であるキラービーを非常に尊敬しているのだ。今も隊長であるサムイが綱手を相手に直談判し、雷影の手紙を手渡しして大蛇丸に関する情報を確認している中、カルイとオモイの二人はその情報を待ちきれずに独自で木ノ葉の中で情報収集に奔走していた。

 この二人から見て取れるよう、雲隠れでは人柱力に対する態度や差別が他里と比べると非常に少ない。完全にない訳ではないが、それでも人柱力に弟子が存在している事からその事実が窺えるだろう。

 

「もちろんだ。だが、協力は出来るが、ある意味では無意味かもしれんな」

「……? どういう意味ですか?」

 

 綱手の言葉が理解出来ないサムイはその意味を問う。そんなサムイに対し、綱手は雲隠れにとってとんでもない情報を話した。

 

「うむ。まず問題の大蛇丸だが……既に捕らえて無力化している」

「なっ!?」

 

 名は体を表す。それを字の如く体現している忍が多い雲隠れにて、サムイもその名の如く冷静沈着な忍である。

 そんなサムイが驚愕する情報を綱手は平然と言い放った。しかもそれだけでは終わらなかった。

 

「な、ならば大蛇丸の引渡しを申し出ます。この件に関しては雷影から私に一任されているので、これは雷影の言葉と受け取ってもらって結構です」

 

 あの気難しい雷影からそこまでの信頼を得ているサムイという忍に、綱手は優秀な忍なのだろうという評価を下す。雷影からの信の厚さはそのまま忍としての実力を示していた。

 

「申し訳ないが大蛇丸に関しては我々の恥部だ。奴は木ノ葉にて裁くようにしている」

「ですが大蛇丸は雲隠れの人柱力を――」

 

 綱手の言い分に異議を申し立てようとするサムイの言葉を遮って、綱手は次の驚愕発言を言い放った。

 

「あと、大蛇丸から得た情報だが、どうやらキラービー殿は捕らえられていないようだ」

「――は?」

 

 冷静に異議を申し立てようとしていたサムイはその言葉で固まってしまった。そんなサムイに綱手は立て続けに情報を与えていく。

 

「協力は出来るが無意味かもしれんと言っただろう。捕らえた大蛇丸に幻術を駆使して引き出した情報だが、どうやら大蛇丸が捕らえたキラービー殿は分身による偽者だったようだ。雲隠れにもこの情報が伝わっていないという事は、キラービー殿はどこぞに……姿をくらましたようだな」

 

 キラービー殿はどこぞに雲隠れしたようだな。雲隠れの里だけに。この言葉を綱手は思いつくも咄嗟に飲み込んだ。正しい判断だっただろう。

 それはどうでもいいとして、綱手の話を聞いたサムイはありえない話ではないと判断した。キラービーの性格からして、暁に捕らえられたフリをして雲隠れから脱走するというのは十分考えられた。

 別にキラービーが抜け忍になったというのではなく、自由奔放な性格であるキラービーが、たまに里の外を自由に謳歌したいと考えての脱走だろう。

 だが綱手の話が全て真実であると判断するのはサムイには出来なかった。これが大蛇丸を庇う為の嘘であるという可能性もある。綱手と大蛇丸は元は同じ二代目三忍であり、これもありえない話とは言えなかった。

 

「その話、真実である証拠は?」

「大蛇丸から聞き出したという事。大蛇丸が嘘を吐いていない事。この二つは私の火影としての立場を賭けてもいい」

 

 これは賭け事が弱い綱手にも自信を持って肯定出来る情報だ。確定した情報ゆえに賭けにすらなっていないと言える。

 もちろん綱手が回りくどい言い方をしたのには理由がある。あくまでこれは大蛇丸から得た情報だ。当の大蛇丸がこの情報を真実だと思い込んでいただけで、実は別の暁が既にキラービーを捕らえている可能性はないとは言えない。

 なので綱手はキラービーが無事だとは言わず、大蛇丸から得た情報とその信頼性は確定していると話したのだ。

 

「……了解しました。重要な情報に感謝します」

「礼には及ばん。それよりも、一刻も早くキラービー殿を捕捉する事に注力した方がいい。暁の狙いは全ての尾獣を捕らえる事だ。多くの暁は此度の戦いにて死亡・無力化したが、まだ厄介なのが残っているからな……」

「厄介……とは?」

「これに関しては五影会談にて詳しく説明する。先程雷影殿より封印筒が届いた。緊急の五影会談を要請する手紙だ。……こうなる前から五影会談の要請を出していたのだがな」

 

 綱手の、雲隠れ含む好戦的な里や他里を信じられない里がそれを拒み続けたから事態は緊急を要したんだがな、という暗を含めた言葉と視線に、サムイは動じる事無く冷静に対応した。

 すなわち安易な事は何も言わず、ただただ黙するだけである。下手に言い繕う事も、異議を申し立てるのも、雷影から全権を受けているという言葉を発したサムイにとっては悪手なのだ。今のサムイの言動は雷影のそれと同意なのだから。

 それで木ノ葉隠れと雲隠れの関係が今更悪化するわけではないが、それでも無駄に攻撃出来る要素を与える必要はないだろう。

 

「……」

「お前に言っても意味はなかったな。すまん」

 

 サムイの反応を見て綱手はますますサムイの評価を高める。

 

「お気になさらずに」

「うむ。とにかく、キラービー殿捜索に関しては我々も独自の小隊を結成して対応に当たらせよう。事は雲隠れだけで済む問題ではなくなっているからな。見つかり次第連絡を取りたいので、そちらとの連絡手段を用意してもらいたい」

「了解しました」

 

 そうして特に問題もなくサムイの用件は終了した。カルイとオモイも木ノ葉隠れの里を動き回るが、特別新しい情報を得る事なく終わる。大蛇丸に関しては上層部や上忍の一部が知る情報なのでまあ仕方ないだろう。

 それよりもサムイから得たキラービーが生きて、それも捕らえられていないという情報に二人は喜びを顕わにした。確信は出来ない情報だが、それでも死んでいる可能性が高いと思われていた状況と比べると大きな違いだろう。

 三人は早速この情報を連絡鳥にて雲隠れへと送り、自身達も木ノ葉隠れに負けじとキラービーの捜索に動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 時間は流れ、五影会談が始まろうとしていた。開催場所は鉄の国。三狼と呼ばれる独特の形状の三つの山からなる国で、独自の文化、独自の権限と、強力な戦力を保有する中立国である。

 古くから忍はこの鉄の国に手を出さないという忍界全体の決まり事があり、故に鉄の国では忍ではなく侍と呼ばれる者達が国を守っていた。

 忍術としてではなく、チャクラそのものを出力として戦う術に長けている侍。その技量は万能の忍とは違い戦闘に特化している面が強く、その分一人一人が精鋭と言えるだろう。

 そんな強国であり、中立国である鉄の国ならば、五影会談にはうってつけの場所と言えた。

 

 

 

「五影の傘を前へ……。雷影殿の呼びかけにより、今ここに五影が集った。この場を預かるミフネと申す。これより五影会談を始める」

 

 木ノ葉隠れの五代目火影・綱手。砂隠れの五代目風影・我愛羅。霧隠れの五代目水影・照美メイ。雲隠れの四代目雷影・エー。岩隠れの三代目土影・オオノキ。そして鉄の国の代表である侍大将・ミフネ。

 五影と、その後ろにて会談を見守るそれぞれの信頼置ける部下が二名。そしてミフネとその部下たち。この少数人数にて忍界の未来を決める会談が始まった。

 

「オレから話す。聞け」

 

 会談は我愛羅の話から始まった。いや、始まりはしたがその進みは微々たる物だった。

 我愛羅は己の体験から来る暁の危険性を語り、人柱力がここまで奪われてからようやく協力するという現状に憤りを示す。だがオオノキは自国の体裁や面目を保つ為にそんな事は出来るわけがないと、自里のみを考えるならば正しいかもしれない反論を吐く。

 メイも尾獣が奪われた事が即危険や恐怖に繋がる訳ではないと反論する。尾獣の力は凄まじいが、反面そのコントロールは難しいと。

 

 オオノキの言い分に対して、我愛羅は体裁や面目を保つ為に無駄な犠牲を生み出す事の愚かしさを少ない言葉で語るが、この場の誰よりも齢を重ねているオオノキにとって、それはまだ若僧の意見として見られていた。

 

「下らん! 貴様らがどれだけ暁の危険性を語ろうと、ワシはお前達を信じる事は出来ん!」

 

 若人と老人。二つの意見がぶつかり合う中、エーが吠える。そこには他里に対する怒りがありありと溢れていた。

 

「木ノ葉! 岩! 砂! 霧! お前らの里の抜け忍で構成されとるのが暁だ! それだけではないぞ!!」

 

 エーはつらつらと他里の闇を語る。彼らは暁を利用してきたのだと。

 かつての戦国時代とは違い、大国は一様に安定してきた。それは軍拡から軍縮へ移行している事からも明らかである。

 軍縮が伴うに連れて国の軍事力である里は金食い虫の邪魔な存在となってしまう。だからと言って里の軍事力を下げすぎる事はリスクも大きい。戦争はいつ起こるか分からないのだ。突然に戦争が起きた時、国を守る力が少なければどうなるかは明白だ。

 それを回避する一つの方法が戦闘傭兵集団である暁だったという事だ。里は無駄な出費や人材の消費を防ぐ事が出来、暁は活動資金を得る事が出来る上に腕を磨く事も出来る。互いに得のある契約という訳だ。

 こうして特に暁を利用したのが岩隠れであり、砂は暁であった大蛇丸と手を組んで木ノ葉崩しに利用し、霧に至っては暁発生の地との噂もある。

 エーの言葉にメイは里としての恥部を苦々しく思いながらも話す。先代である四代目水影は何者かに操られていたのではないかとの疑いがあり、それが暁の可能性もあったと。これが他里に知られる訳にもいかず、事を大げさにしない為に秘していたのだ。

 

「どいつもこいつも……!」

 

 エーが強く当たれない里は木ノ葉隠れくらいであった。木ノ葉もまた暁の一員である大蛇丸を生み出しているが、それ以外では暁との接点もなく、戦争での利用もない。

 しかも雲隠れはかつて木ノ葉隠れに対して和平と言いつつも、白眼欲しさに日向ヒナタを拉致しようとした後ろめたい前科がある。捕らえられた忍も傷つきはすれど命に別状はなく、しかも穏便に済ませてもらっているという、完全に雲隠れの落ち度と言える事件であった。

 

 そうして岩・霧・砂に対して怒りを顕わにするエーに対してオオノキもまた反論する。

 

「口を慎め雷影! そもそもこの軍縮の時代にお前らがなりふり構わず力を求めて忍術を集めよるから……! 対抗する為に暁を雇わざるを得んようになってきたんじゃぜ!」

「何だと!!」

 

 オオノキのそれはエーにいい様に言われすぎない為の反論だが、あながち間違いとは言えない点もある。

 エーは非常に好戦的な性格をしており、それは他里との関係にも通じる所があった。自里には誰よりも深い愛情を持っており、同じ里の忍には大きな愛情を注いでいるが、反面自里の為ならば他里などどうなってもいいという過激な考えもある人間だった。

 もちろんその考えは大なり小なりと誰もが持っているだろうが、エーはそれが他よりも大きいと言えよう。そんな雷影を有する雲隠れに対抗する為に暁を利用するのもどうかとは思うが、オオノキもまた自里の為ならばこれくらいの汚い手段などどうでも良いと言える人物であった。

 

 そうしてヒートアップするエーとオオノキ。互いに嫌いあっている二人を落ち着かせるには相応の衝撃が必要だろう。そして今まで一度も発言をしていなかった綱手がそれだけの衝撃を持つ爆弾発言を落とした。

 

「暁にはうちはマダラがいる」

『ッ!?』

 

 静かに、だがはっきりと発せられたその言葉に誰もが絶句した。特にマダラの力をかつての大戦にて見た事があるオオノキの反応は誰よりも大きかった。

 

「あやつはとっくに死んでるはずじゃぜ……!?」

「ああ。言葉が足りなかったな。確かにマダラは死んでいる。だが、それを操る者が暁にはいる。そいつが暁の真のリーダーだ」

「死者を……操る? まさかそれは!」

「ああ……かつて二代目火影が生み出した禁術、穢土転生だ」

「穢土転生……それならば確かにマダラを。いや、なら誰がマダラを操っているんじゃぜ!?」

「……マダラの弟であるうちはイズナだ」

『ッ!?』

 

 次々と出てくる情報の大きさに、木ノ葉を除く全ての者が驚愕する。そして綱手はアカネから知り得た情報を皆に伝えた。

 穢土転生として蘇ったマダラに、それを操る上に伝説の輪廻眼を持つイズナ。そしてイズナの目的である月の眼計画。尾獣の集合体であるという十尾。どれもこれもが眉唾物の情報だ。

 

「馬鹿な……! そんな話が信じられるか!」

 

 エーの言葉は誰もが考えた物だ。到底信じられる話ではない。その証拠はどこにあるのか。それを問う前に、綱手の後ろに控えていた一人の忍が口を開いた。

 

「会談中に口を挟んで申し訳ありませんが……その真意を問える人物がどうやら忍び込んでいるようです」

『ッ!』

 

 その言葉に全員が反応する。五影は誰もが警戒態勢を取り、五影の補佐たる忍は己が主を警護すべく素早く傍に近寄る。

 唯一態度を変えていないのは口を挟んだ当の本人……日向アカネのみだった。

 そんなアカネはただ一点のみを見つめている。そして一触即発の雰囲気を醸し出したこの空間で、平然と口を開いた。

 

「私相手に隠れ切れると思っている訳じゃないだろう? ……早く出てきなさい」

 

 その言葉に、アカネの視線の先からゆっくりと一人の男が姿を現した。それを見て誰もが警戒態勢を強め、そしてオオノキは更なる驚愕と共にその人物の名を口にした。

 

「う、うちは……マダラ……!」

 

 五影の中で、うちはマダラを直接見た経験を持つオオノキが思わず呟く。その言葉を聞いて残る皆も驚愕を強める。

 

「なに!?」

「こいつが……」

「あの伝説の三忍の一人……」

「うちはマダラ……」

 

 オオノキの言葉を皮切りに、エー・我愛羅・メイ・ミフネがマダラを呆然と見つめる。

 そんな彼らを無視してマダラは、いやマダラを操るイズナは淡々と言葉を発した。

 

「ふ、やはりお前がここにいたか。まあ、オレもお前の目を欺くなど出来るとは思っていないさ。なあ……日向ヒヨリよ」

『なっ!?』

 

 五影会談で幾度となく驚愕してきた五影とミフネだが、今回の情報もまたありえない驚愕を生み出していた。

 日向ヒヨリ。うちはマダラや千手柱間に並ぶ初代三忍の一人。数多の伝説を作り出した偉人の一人。だが日向ヒヨリは確かに死んだはず。それが何故この少女を指してその名が出てくるというのか。

 各々の驚愕を他所に、マダラを操るイズナは五影に向かって己の目的を話し出した。

 

「一つ言っておくが、オレは戦闘目的でここに来たわけではない。それはお前ならば分かるだろう?」

 

 五影にそう言いつつ、イズナはアカネにそう確認する。

 

「だろうな。木遁分身如きで五影を始末出来る。流石のお前もそこまで慢心はしないだろう」

「なに? 分身じゃと……?」

 

 アカネの言葉にオオノキも、そして誰もがマダラを注視するが、それが分身であると見抜く事は出来なかった。

 これは右目に白眼を有する水影の護衛の一人である青も同様だった。白眼を発動させてもマダラの肉体が分身であると見抜けないのである。

 本当に分身なのか? そう疑問に思うアカネ以外の全員に対して、イズナは優しく声を掛ける。

 

「まあ気にするな。この木遁分身は千手柱間の術。それを見抜く事が出来たのは兄のマダラと、そこの日向ヒヨリのみ。貴様らが見抜けなくとも何ら恥ではないさ」

 

 かつての自身でも見抜く事は出来なかった。つまりこれはイズナに取っては慰めの言葉だったのだが、そう受け止められる者はこの場に一人たりともいなかった。

 特に挑発と受け取ったのはエーだ。怒気を顕わにしながらイズナへと怒鳴る。

 

「貴様!!」

「先も言ったがオレは戦闘目的で来たわけではない。落ち着いてオレの話を聞くんだな」

 

 今にも飛び出しそうな雷影に対してイズナはあくまで冷静に語り掛ける。雷影も一時は激情に身を任せそうになるが、相手が分身だというのならば倒した所で意味はない。

 まずは情報を得る方が先決だと冷静さを取り戻し、イズナの声に耳を傾けた。そんなエーの反応を見てイズナは自らの目的について説明し出す。

 

「さて、オレの最終目的である月の眼計画については既に知ったと思うが……」

 

 イズナのその語りから先の情報は間違っていなかったと誰もが理解し、そしてその正気を疑った。

 この世の全ての人間に幻術を仕掛け、永遠の夢の中に(いざな)う。常人ならば誰もが理解出来ない平和へ至る方法だ。確かにそれならば争いは起こらないだろう。

 だがそれは全ての可能性も同時に奪ってしまう事となる。人と人が関わる事で生まれる争い以外の結果。それも無限月読は消し去ってしまうのだ。

 誰もがイズナを狂人として見る。だがイズナはそんな事は気にせずにこの場に来た目的を話した。

 

「残りの八尾と九尾を差し出せ。オレの計画に協力しろ。それが最も犠牲を生まずに平和へと至る唯一の方法だ」

 

 月の眼計画への協力の申し出。それがイズナが会談の場に来た理由だった。言うなれば最後通告だ。

 これを飲むならば全ての人間が幸せな夢の世界へと至れる。だが断るならば――

 

「馬鹿な。そんな事を飲むと思っているのか?」

「そうか。ならば戦争だな」

 

 オオノキの答えに対してイズナは躊躇なく戦争と口にする。そう、断るならば、イズナの答えは一つだった。

 戦争。五大国とイズナ。二つの戦力による第四次忍界大戦。それがイズナの答えだ。

 

「残りの五影も同じ答えか?」

「私が素直にナルトを渡すと思っているのか?」

「うずまきナルトは渡さない」

「私も同じく!」

「弟は渡さん!」

 

 当然の如くに残る五影の答えも同じだった。そんな彼らに対し、イズナは愚か者を見る様に蔑みながら語り掛ける。

 

「愚かだな。そこにいる日向ヒヨリの戦力に、貴様ら五影有する五大忍里の戦力。それらを合わせた所でオレには敵わん」

「どうでしょうか? それは流石に五里を舐めすぎでは? イズナ?」

「ふ……違うな。貴様らが、いや貴様が舐めているのだよ日向ヒヨリ。今のこのオレの力をな」

 

 自信ありげに語るイズナに嘘は見られなかった。それだけの力を持っていると自負している。アカネはそう確信出来た。

 

「まあいいだろう。お前達の決意は理解した。ここに第四次忍界大戦の宣戦を布告する」

「正気か貴様!?」

「当然だ。いずれお前達は今回の決断を後悔するだろう。その時を楽しみに待っていよう。せいぜいオレを愉しませてくれよ?」

 

 そう不敵に笑いつつ、イズナはマダラの木遁分身を解除してこの場から消えた。残っているのは僅かな木片だけであった。

 アカネはイズナの真意について熟考していたが、今までの会話と最後の言葉からそこにあるのが愉悦なのだと理解した。

 わざわざ五影会談に現れたのも。危機感を無駄に煽ったのも。全ては五里が協力する為にわざとそうしたのだろうとアカネは考える。

 何故敵が強大になるのに協力したのか。それはイズナが既に勝利していると完全に思い込んでいるからだ。勝利が確定しているからこそ、その道程を愉しもうとわざと敵を煽り強大にしたのだ。

 この予想は恐らく間違っていないとアカネは思うし、事実間違ってはいなかった。そんな風にイズナの真意について思考するアカネに対し、綱手を除く各国の人間がアカネに注目していた。

 

「……え? なんでしょうか?」

『なんでしょうか? じゃあるか!!』

 

 アカネの疑問の声に全員が突っ込みを入れた。

 

「お前が日向ヒヨリだというのはどういう事だ!?」

「これが真実ならばマダラやイズナが生きていたのと同じくらい大事(おおごと)じゃぜ!!」

「最早ここに至って隠し立ては不要だ。全てを話してもらおう」

「木ノ葉には若さを保つ秘訣でもあるのでしょうか……」

 

 誰もがアカネに対して真実を問う中、メイのみ別の疑問をぶつけていたりするが、それは小声であった為にどうやら他の誰にも聞かれてはいなかった様だ。

 だが五十代になっても二十代の若さを保つ綱手といい、先の話が真実ならばヨボヨボの老人であるはずなのに完全に少女と言える若さを見せるアカネといい、そんな二人を見て自分の歳と婚期の遅れを気にするメイがそう思うのは無理のない事なのかもしれない。

 とにかく、全員から疑問の声をぶつけられたアカネから得られた真実の中に、メイが求めた答えはなかったとだけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 雨隠れのある場所にて、イズナは操作しているマダラと共に歩いていた。そしてマダラの木遁分身から得た情報に、一人納得する。

 

「五影は全員敵に回ったか……まあ、予想通りではあるな」

 

 五里の全てが敵に回ったとイズナは知る。それはイズナに取っても予想していた事であり、そして望むところでもあった。

 イズナとしても五里が自身の目的に協力した方が犠牲が少なくて済むと考えてはいる。だがそれと同時に避けては通れない道だとも理解していた。

 イズナも自身の計画が万人に受け入れられる物ではないと理解しているのだ。いや、万人どころか月の眼計画に賛同する者は余程今の世に絶望した者くらいだろう。

 だがそれでもイズナは止まらない。止まる事は出来ない。今止まってしまえば、今まで犠牲になった家族や友にどう言えばいいのか? 例えその家族や友が賛同しないだろうとしても、それでもイズナは止まる事は出来なかった。

 

「無駄だ。無駄なんだよ。例え五影や五大国が手を組もうとも、日向ヒヨリがどれほど強くとも……オレと兄さんの力には敵う事はない」

 

 そう呟くイズナはある場所に辿りついた。そこは雨隠れの国に隠されたある建物。その中にイズナは誰の断りも入れずに堂々と入っていく。

 そんなイズナとマダラに向かって突如として無数の紙が飛び交った。だが無数の紙はマダラが放った火遁にて一瞬で燃え尽きた。

 

「小南か。そんな攻撃がオレに効くと思っていたのか?」

「マダラ! 何故あなたがここに!! それと……お前は何者だ!?」

 

 先の攻撃は小南が放った紙手裏剣だったようだ。ここは小南にとって何よりも守るべき場所。それを知る者は雨隠れのどこにもいないはず。

 だと言うのにここに辿り着いたマダラに、そしてマダラの隣で立つ見知らぬ男に小南は警戒を顕わにする。

 

「オレに関しては今更お前に話しても意味がない。オレに踊らされているだけであれば良かったものを。お前も長門も無駄な事をするから永遠の平和を得る事が出来なくなった」

「な……。まさか……マダラの裏にまだ――」

 

 マダラではなくイズナから語られるその言葉に、小南はあのマダラすら操る存在がいる事を悟って驚愕する。

 そしてイズナは小南の疑問に対して答えを口にした。

 

「何故ここに、と言ったな。長門の輪廻眼は元々マダラの、オレの兄さんの物だ。そのチャクラを感知する事などオレには容易い」

「……!?」

 

 輪廻眼の真の所有者に、マダラの弟だという発言。ここまでの多くの事実に小南が驚愕し、僅かな隙を作ってしまった。

 一瞬だ。その驚愕の隙を突いたイズナの写輪眼による幻術に小南は捕らわれた。

 

「幻……じゅつ……長門……やひ、こ……」

 

 幻術と気付いたところで抵抗は無意味だった。僅かな時間で小南は気を失ってしまった。

 僅かな隙でも見せてしまえばその瞳術の餌食となる。一対一で写輪眼と向かい合う事は危険とされていた理由がこれだ。

 倒れ伏した小南に止めを刺すべくイズナは歩み寄り、そして後ろから掛けられた声にその動きを止めた。

 

「もう、止めろイズナ……それ以上の犠牲は生むな」

 

 それは操られていないマダラの言葉だった。先のアカネとの接触にて、マダラは僅かだが自身の縛りを解く事が出来る様になったのだ。

 そうして闇に落ちてなお、更なる深淵に潜ろうとする最愛の弟を止める。だが、それでも僅かにしか止める事は出来なかった。

 

「……分かったよ。こいつを殺しても生かしても意味はない。利用する関係だったとはいえ元は仲間だ。長門と弥彦と過ごす夢に浸らせるのもいいだろう」

 

 そう言ってイズナは小南に止めを刺す事を止めた。だが、それだけだ。月の眼計画に関しては、例えマダラが何を言おうとも止めるつもりはイズナにはなかった。

 そうしてイズナは小南をその場に捨て置き、前に向かって歩みを進める。そこには紙で作られた多くの薔薇の造花に埋もれた弥彦と長門の遺体が安置されていた。

 小南が二人を想って作り出した造花を踏み躙り、イズナは長門の遺体の横に立つ。そして……遺体から両目の輪廻眼を抜き取った。

 

「……確かに返してもらったぞ」

 

 死してなおイズナを嘲笑うかの如くに微笑を浮かべる長門に僅かな苛立ちを覚えるが、所詮は死人だとイズナは割り切る。

 死ねば意味がない。どんな想いがあろうとも、どんな理想があろうとも、どんな力があろうとも、生きていなければそれは無意味だ。

 だからこそ、イズナは兄の命を犠牲にしてでも今もこうして生き長らえているのだ。全ては理想を、この世の完全平和を成し遂げる為に。

 

 

 

 目的を果たした後、誰も知らぬアジトへとイズナは戻って来た。そして理想を叶える為の力を見渡した。

 イズナが千手柱間の細胞を培養し、尾獣のチャクラを注いで作り出したという十万体もの白ゼツ。

 そして姿をくらまして暗躍している内にかき集めた名だたる忍の肉体情報。そこから作り出した穢土転生による精鋭集団。

 

「しかし……大蛇丸にはしてやられたな。オレの正体はともかく、兄さんが穢土転生だという事に薄々と気付いていたか……」

 

 そう、大蛇丸もイズナと同じく穢土転生の使い手だ。故に暁にて大蛇丸は仮面で顔を隠したマダラと接触する内に、その正体が穢土転生であると確信はなくとも感づいていたのだ。

 だからこそ大蛇丸は先手を打っていた。それが初代・二代目火影の穢土転生による口寄せと、それらの封印であった。

 あらかじめ穢土転生にて口寄せした人物は、その穢土転生が解かれない限り別の穢土転生で口寄せする事は出来ない。それを利用して大蛇丸は、マダラとその裏にいるであろう何者かに対抗する切り札としてその二人を口寄せし、封じていたのだ。

 これでは然しものイズナと言えど、死した火影達を口寄せする事は不可能だ。二代目とはいえ三忍の名は伊達ではないかとイズナは大蛇丸を称賛する。

 

「まあいい。余興の愉しみが一つ減ったくらいだ。日向ヒヨリがかつての同胞二人と争う様は見たかったがな……」

 

 どちらにせよ自身の勝利に変わりはない。それを確信する為の力をイズナは手に入れたのだから。

 そうして理想実現の為に最も必要な力を手に入れようとするイズナを見たマダラは思わず叫び、イズナを止めた。

 

「まさか……止めろイズナ! そんな事をすればお前は!!」

 

 マダラのその必死の制止の呼びかけは、やはりイズナには届かなかった。イズナはこれから起きる出来事でマダラが自由になる事を考慮して、そうなる前にマダラを一時的に封印する。

 そしてイズナは……マダラの輪廻眼を自らの両掌へと埋め込んだ。

 

「ぐ……おおおおおおお!!?」

 

 輪廻眼とは神話の存在とも言われる六道仙人が開眼した、この世で最も崇高にして最強の瞳術だ。

 その力は木ノ葉にて大いに振るわれた。天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道・外道の七つの力を操り長門は木ノ葉を蹂躙した。

 だがそれすら本来の持ち主ではない故に、その真価を発揮していなかったと言える。いや、輪廻眼の力をあそこまで引き出せた長門を褒めるべきと言えよう。

 輪廻眼はそこらの忍ではその力を発揮するどころか、移植をしただけで発狂しかねない程に強力すぎる瞳術なのだ。長門が移植に耐えられたのは、長門が生命力に溢れるうずまき一族の末裔であり、本人の資質が高かった為に他ならない。

 元々輪廻眼を開眼する条件自体が、六道仙人のチャクラ――インドラの転生体――に六道仙人の肉体――アシュラの転生体――を融合させる事なのだ。それはつまりうちは一族の肉体では輪廻眼に耐えられない事を示している。千手一族や、千手の遠縁であるうずまき一族の様に秀でた生命力があって初めて輪廻眼に耐えられると言えよう。

 

 生命力という点だけならばイズナはクリアしている。イズナもまたマダラと同じく千手柱間の細胞を自らに移植しているのだから。

 その上でマダラの細胞を移植したからこそ、本来輪廻眼に目覚めないはずのイズナが輪廻眼に目覚めたのだ。だが、やはりそこには無理があった。

 自分の物ではないマダラと柱間の細胞とチャクラ。どちらか一つならまだしも、二つも掛け合わせる事で無理矢理輪廻眼に目覚めるという方法はイズナに苦痛を与えた。

 当時イズナが輪廻眼に開眼した時は三日はその苦痛が止まなかった。そこに更に輪廻眼を二つも組み込めばどうなるか。筆舌し難い苦痛がイズナを襲うだろう。いや、果たしてそれは苦痛だけで済むのかどうか。

 

「ぐおおお!! が、あああアアァァァァァアァッ!!?」

 

 イズナの叫びは何日経とうとも止まらなかった。いや、叫びは止まった。喉が枯れ果てた故に叫ぶ事すら出来ず、無言の苦痛を発し続ける様になったのだ。

 四つの輪廻眼という強すぎるチャクラと力に、イズナの肉体と精神が引き裂かれようとしているのだ。一つでも常人ならば発狂する程の力だ。それが四つともなれば、例え真の輪廻眼開眼者でも耐えられるかどうか。

 そんな苦痛の嵐を、イズナは狂気とも言える信念で耐えて、耐えて、耐え抜いた。誰が忘れようともイズナは忘れない。亡くなった家族の、同胞の無念の叫びを。彼らの犠牲は無駄ではなかった。それを証明する為に、真の平和を生み出す。

 兄も、千手柱間も、日向ヒヨリも、五影達も、誰もが真の平和を作り出せないというのならば、己こそが作って見せよう。その一心にて敬愛する兄すら犠牲にした。ならば、どうしてここで屈せようか!

 

「――!!」

 

 やがて、声にならぬ雄叫びがアジト内に上がった。そうして苦痛によるイズナの痙攣は治まり、死んだかのようにイズナは倒れる。

 だがイズナはゆっくりと、だが確かに己の二の足で立ち上がった。そして己の中に巡る新たな力の鼓動を感じて口を開く。

 

「これが……真の平和への第一歩だ」

 

 強すぎる力によって傷ついた肉体は、その力を掌握した瞬間に治癒していた。

 うちはとしての自らの力。取り込んだ千手柱間の力。自らの輪廻眼に、兄の輪廻眼。これら全てを有したイズナは確信する。もはや誰にも負ける訳がない、と。

 ここに、六道仙人すら超える存在が誕生してしまった。

 

 




 雷影が原作よりも幾分冷静なのはビーが無事だという情報が会談前に伝わったからです。だから原作みたいに机を破壊していません。

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