どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第三十一話

 暁の脅威が去って僅か一日。木ノ葉の里は早くも復興の兆しを見せていた。

 それと言うのも一人の忍の活躍が大きかったからだろう。その忍の名はヤマト。かつてはテンゾウという名で暗部に所属していた木ノ葉唯一の木遁使いである。

 かつての大蛇丸の人体実験により、初代火影柱間の細胞を埋め込まれた多くの実験体の中で唯一の適合者であり生き残りがヤマトだ。それ故に彼は柱間のみの秘術であった木遁を使用出来るのだ。

 その木遁を巧みに使用して一瞬で大量の家屋を作り出す。職人が複数人で掛かって何日も掛けて行う作業を僅か数秒足らずで行うのだ。復興速度は桁違いだろう。

 人が生活する上で住居があるとないとでは大違いだ。ヤマトの活躍はまさに木ノ葉の影の救世主と言えた。……もっとも、それは彼の疲労と引き換えに得た実績だったが。

 

「も、もう駄目だ……これ以上は死ぬ……」

「お疲れ様でした。はい、チャクラを分けてあげますね」

 

 アカネのチャクラ譲渡があったとはいえ、一日足らずで木ノ葉の住民全員が住める家屋を作り出したヤマトは肉体的にも精神的にも疲労困憊であった。

 ノルマをこなし終えた後に疲労回復の為のチャクラを譲渡され、ヤマトはようやく解放された。

 

「明日には足りない家屋や設備などが書類に纏められていると思います。明日も今日ほどではないでしょうが大変なのでゆっくり休んでください」

 

 まさに救世主に相応しい活躍をしたヤマトに労いの言葉を掛け、アカネはその場から消えた。どうやら影分身のアカネだったようだ。

 消滅した影分身を見てヤマトはぽつりと呟く。

 

「アカネがいるからこれだけの作業をどうにかこなせたと思うべきか。それともアカネがいるから休憩すらなくこれだけの作業をこなさなければならなかったのか……不毛だな、今は何も考えずに休もう」

 

 考えても意味がない事に気付いたヤマトは自分で作った家の中に入り、作りたて故に布団なども一切備え付けられてない床にそのまま寝転がって泥の様に眠りについた。

 

 

 

 

 

 さて、里が復興に向けて動いている中、一部の忍達が一堂に集まって会議を開いていた。

 参加者は木ノ葉の上役に三代目火影、五代目火影、志村ダンゾウ、自来也、うちはと日向の長、火影の両腕、名だたる名家の代表に、多くの上忍達、そしてアカネである。

 

「皆、里の復興に忙しい中だが良く集まってくれた」

 

 まず木ノ葉のトップである五代目火影綱手が集まった面々にそう告げる。綱手は暁襲撃の一件で酷く消耗していたが、アカネの治療とチャクラ譲渡により元の体調に戻っていた。

 

「今回集まってもらったのは他でもない。今後の木ノ葉、そして忍界の未来について重要な話をする為だ」

 

 綱手の言葉がなくとも誰もが理解していた。暁の脅威は去ったがそれは一時的な物に過ぎず、残る暁は少なくとも多くの尾獣を有するその戦力はけして侮ってはならないものなのだと。

 

「暁に関しては五大国全てとその隠れ里で協力するべきだが、それに関しては私の方から再び五影会談を開く様に申請してある。……多くの里から人柱力が連れ去られ、尾獣を奪われている現状ならば五影会議も開かれるだろう」

 

 そう言う綱手の表情には僅かな苛立ちがあった。これまでに幾度も砂隠れと共に他里に向けて緊急の会談を要請していたが、それらは全て却下されていた。

 ここまで緊急を要さない限り協力する切っ掛けすら出来ない忍界の現状に苛立ちを、そして憂いを持っているのだろう。

 

「だがそれは別として木ノ葉の里でも皆に知ってもらいたい情報が幾つかある。……アカネ」

 

 そこまで話して綱手は部屋の一番後ろに座していたアカネに言葉を掛け、そして前に来るように促す。

 促されるままにアカネは綱手の横まで移動し、そして多くの忍へと向き直した。

 

「初めましての方もいらっしゃるので自己紹介を。日向アカネと申します。残る暁に関しては私がより詳しい情報を得ているので、こうして皆様の前で話させて頂きます」

 

 アカネが前に出る事に多くの忍から困惑の気配が漏れるが、それは僅かでありすぐに全員がその気配を消している。

 だがアカネの事情を知る者からはその困惑が全くない事から、幾人かの忍はそこからアカネに何らかの秘密や事情がある事を理解していた。僅かな気配の動きからそこまで察する事が出来るのは流石は名だたる忍の集いと言うべきだろう。

 

「ですが、暁に関して話す前に皆様に私について知ってもらおうと思います。これから話す情報は眉唾物と取られそうですので、まずはその信憑性と説得力を得る為に私について知ってもらった方が良いと思いますので」

 

 アカネという少女について詳しく知ればどう説得力が出るというのか。その真意が理解出来ない者が多いが、相手は下忍と言えど五代目火影である綱手が呼んだ忍である。誰もが文句も言わずに黙ってその推移を見守っていた。

 

「先ほどは初めましてと言いましたが……こうして見ると多くの者と知り合いだったりしますね。では改めて。私は日向ヒヨリの転生体、日向アカネと申します。生前よろしくしていた方もしていなかった方も、今後ともよろしくお願いしますね」

『……は?』

 

 今度こそ多くの忍から呆けた様な声が漏れ出ていた。流石の名だたる忍達もこの紹介を理解するには一瞬以上の時間を要する様である。

 

「ヒヨリ様の……?」

「転生体?」

「はい」

 

 自分達の耳か頭が壊れたのかと確認する様に呟いた言葉をアカネがにこやかに肯定する。

 

「ヒヨリ様って……」

「あの初代三忍の?」

「はい」

 

 再び念を入れるかの様に多くの忍がアカネに確認をする。だが返って来るのは年頃の少女のにこやかな笑顔と肯定の言葉だ。

 

「すまないが、それが嘘ではないという証拠はあるのか?」

 

 そう聞いて来たのは山中いのの父親である山中いのいちだ。やはり転生と言われてもいきなりは納得出来ないのだろう。しかも転生前の人物が日向ヒヨリとあらば尚更であった。

 

「そうですね……」

 

 証拠と言われたアカネはどう答えるか悩み周囲を見渡す。生前と同じチャクラの質や記憶など証拠になる物はあるが、いのいちに対してそれを証明する事は難しい。

 アカネはいのいちの事を知っているが、それは文字通り知っているだけだ。ヒヨリの頃にいのいちとまともに会話した事など殆どなく、彼を納得させるだけの材料をアカネから提出する事は出来ないだろう。

 もちろん事情を知っている綱手や自来也などに説明を頼めばそれでいいのだろうが、せっかくだからそれ以外の者からどうにか証拠になる様な物を出す事は出来ないかなとアカネは考える。

 そして奈良シカマルの父である奈良シカクを見つけ、アカネはある情報を思い出した。

 

「……38戦38勝0敗」

 

 その言葉の意味は誰にも、アカネの前世であるヒヨリについて、この場で最も詳しいだろう綱手やヒルゼンにも理解出来なかった。当然いのいちにもだ。

 だが一人だけその勝敗を聞いて僅かに反応する者がいた。そう、奈良シカクである。

 

「それは……」

 

 日向ヒヨリ。そして自分。その対戦成績。これらを結びつける記憶がシカクには確かにあった。

 偶然の一言で片付けるには正確過ぎる数字の指摘。そしてヒヨリが誰かに話す事はまず考えられず、例え話していたとしてもこの情報が日向一族とはいえ今の世代に伝わる事もまずないだろうとシカクは考える。

 

「まさか、本当にヒヨリ様なのですか?」

「懐かしいですねシカク……」

 

 懐かしそうに過去を想うアカネと、それをどこか信じ難く思いつつも納得せざるを得ないシカク。

 そんな二人を見ていのいちは驚愕する。シカクが認めるという事はまず間違いない事だといのいちは理解しているのだ。

 

「ほ、本当にヒヨリ様なのかシカク!?」

「……これまでの情報を統合するに、まず間違いはないな」

 

 シカクはこれまでの情報全てを統合して思考し、そして結論を出した。これまでの情報とはこの会議に置けるアカネの発言だけでなく、シカクがこれまでの人生で耳にしたアカネの情報の全てという意味だ。

 三年前の木ノ葉崩しに置けるアカネの活躍、里に無数に散らばる多重影分身、多くの忍を鍛える手腕、日向一族の秘蔵っ子。幾つか眉唾な噂もあったが、これらに前世が日向ヒヨリという情報を絡めると納得も出来るという物だ。

 

 シカクは木ノ葉でも、いや世界でも右に並ぶ者が少ない程に頭が切れる忍だ。そのIQは200を超えるのではないかと言われる程にだ。

 そのシカクがここまで断言するからには本当にまず間違いないのだろう。それほどいのいちはシカクの頭脳を信頼していた。

 

「シカク、先ほどの対戦成績は何なんだ?」

 

 いのいちが気になるのはそこだ。この成績を聞いてシカクはアカネがヒヨリの転生体だという奇想天外な話を納得した。ならばこれはそれだけ説得力のある情報だったという事になる。

 いのいちだけでなくこの場の全ての忍がそれを気にしていたが、それでも多くの者はやはり文字通り対戦成績なのだろうと予測する。

 ヒヨリに勝てる忍など他の初代三忍以外にまず考えられず、老いていたとしても若かりし頃のシカクでは勝ち目はなかっただろう。38勝0敗という成績も当然という物だ。

 

「38戦38勝0敗……ふふ、強かった。……シカク、あなた強すぎますよ……」

「戦闘ではともかく、将棋ならば負けるつもりはありませんな」

『将棋かよ!!』

 

 全員が総突っ込みをする。どうやら38勝はヒヨリではなくシカクの戦績の様である。

 

「飛車角落ちならばまだ良い勝負になったでしょうが、ヒヨリ様は頑なにそれを拒みましたからな」

「当然です! 対等の相手に勝ってこそ勝利の喜びがあるというもの! 手加減されるなど屈辱の極み!」

「……飛車角落ちでも負けるのが怖かったという事は?」

「……そ、そんな事、ないよ?」

 

 とまあ、この会話から分かる様に、かつてヒヨリは暇な時間を見つけて偶にシカクと将棋を指していたのである。

 結果は先も説明してある通り全敗。千年を超える年月を生きる中で覚えた将棋も、真の天才の前には呆気ない物であった。アカネのIQでシカクに将棋で勝つには、それこそ一つの人生を将棋に捧げなければならないだろう。

 

「ま、まあ、将棋はともかくだ。アカネがヒヨリ様の転生体である事は上層部の全てが承知の上じゃ。今まで黙っていたのは無用な混乱を避ける為であるのは理解してくれると思う」

 

 混乱する場をヒルゼンがそう言って締めた。

 ヒルゼンの言葉を聞いて会議室は一気に静まり返り、そして改めてアカネの存在を誰もが理解し受け入れた。流石は年の甲と言うべきか。場を支配する力は高い様である。

 

「さて、私に関してまだ納得出来ない方もいらっしゃるとは思いますが、それは後にして話を進めさせてもらいます」

 

 どうやって転生したのか、なぜ転生したのか、記憶と共に実力も引き継いでいるのか、他にも様々な質問があるだろうが、今はそれどころではないのだ。自身が日向ヒヨリの転生体である事を理解してもらったところでアカネは本題に移る。

 

「今回の事件……いえ、忍界に置ける様々な事件の裏にいる首謀者……それは――」

 

 ここまでを聞いたフガクはアカネが首謀者の名前を言い切る前にうちはマダラが首謀者だと察し、そして表情には出さずとも苦い思いをしていた。

 うちはマダラと言えばうちはの英雄なのだ。千手柱間や日向ヒヨリと共に木ノ葉の基盤を作り上げ、第一次忍界大戦にて破竹の活躍を成して三忍の二つ名を有した忍。

 今でもマダラを尊敬し、マダラを目指すという者はうちはに少なくない。フガク自身はマダラが木ノ葉に反旗を翻し、柱間と死闘を繰り広げたという隠された歴史を知っているが、殆どの忍はそうではないのだ。

 それが覆されるのかと思うと、うちは一族の当主としてはやはり受け入れがたいものがあった。

 だが、アカネの口から出た首謀者の名前はフガクが予想だにしていなかった物だった。

 

「――うちはイズナです」

『!?』

 

 うちはイズナ。その名を聞いた者の反応は二つに分かれる。一つは、イズナはもう死んだはずでは? というもの。もう一つは、誰だそれは? というものだ。

 イズナの名はマダラと比べると認知度が低い。それはイズナが名が広まる程に活躍していない、という訳ではなく、単純に兄であるマダラの偉業が大きすぎるのが原因だ。

 第一次忍界大戦にてイズナはかなりの戦果を上げている。当時の単純な実力でも現在のイタチやサスケに勝るとも劣らぬ実力者であっただろう。ただ、偉大すぎる兄の影に埋もれてしまったのだ。更にはイズナが自ら歴史の影へと消えていった事も大きな原因だろう。

 大戦当時から今も生きる者や、そうでなくても経験を積んでいる者、博識な者はイズナの名を知っているが、それでもまだ若いと言える忍はイズナの名を知らずとも致し方ないと言えた。

 

 そうしてイズナを知らぬ者が困惑する中、イズナを知る者から別の困惑の声が上がった。

 

「馬鹿な……! うちはイズナはとうの昔に死んでいるはず……!? いや、例え生きていたとしてもどれだけの高齢か……。この様な事件を起こせるとは到底思えませぬ!」

 

 その疑問は当然と言うべきか、うちは一族について誰よりも詳しいはずのフガクから上がった。

 フガクも当時を生きる者ではなかったが、それでも一族を率いる当主としてその歴史や過去の人物について詳しく理解している。

 その知識の中で、イズナはマダラが反旗を翻し柱間によって討たれた後に木ノ葉から出奔したというものがあった。

 

「私もイズナはとうに死んだものと思っていました……。マダラが死んだ事が原因で木ノ葉から出奔し、そしてそのまま何処かで、と」

 

 フガクの疑問も、そしてアカネのその考えも至極全うなものだ。人は永遠ではない。どれだけ強くとも、どれだけ賢しくとも、どれだけ優れていようとも、寿命は等しく存在する。

 イズナが木ノ葉から離れてどれだけの年月が経ったか。五十年生きれば長生きと言われるこの時代で、既に七十を過ぎたヒルゼンやダンゾウよりも遥かに年上のイズナが今を生きているなどどうして思えるのか。

 

「ですがイズナは生きていた。そして、マダラが木ノ葉を裏切ったその原因も、イズナにあったのです……!」

 

 その言葉を皮切りに、アカネはマダラとイズナから得た情報を語り始めた。

 

 

 

 

 

 アカネが全てを話し終えた後、室内を支配したのは静寂であった。誰もがアカネの話を信じ切れず、それでいてなお激しく危機感を感じていた。

 マダラの裏切りの真実。イズナの暗躍。輪廻眼。月の眼計画。十尾。無限月読。この中のどれか一つだけでも忍界を揺るがす事が出来るだろう。それがこうも立て続けに知らされれば無言にもなろうと言うものだ。

 全員が事態を飲み込めただろうという十分な時間が過ぎた頃に、アカネに代わり綱手が話を切り出した。

 

「分かったはずだ。これがどれ程の大事(おおごと)かを。イズナをそのままに放置すれば待っているのは永遠の平和という名の支配だ。そんな事を許すわけにはいかん!」

 

 綱手の言葉に誰もがその眼に力を取り戻す。

 そうだ。事の大きさに呆けている場合ではない。この事態をどうにかする為に今出来る事をしなければ。そうした思いが全ての忍に宿っていく。

 

「未来とは、平和とは、一人の人間によって与えられる物ではない! 全員で掴み取ってこそ意味がある物だ! それをイズナに示す為にも忍界全てが手を組まねばならん! 皆も他里に思う所はあるだろう。だが、里と里という垣根を越えて人と人が手を結ばねばならないのだ! 皆の力と想い、私に貸してくれ!」

『はっ!!』

 

 綱手という木ノ葉を照らす灯火の元に、木ノ葉の思いは一つに纏まろうとしている。これで木ノ葉の意思に問題はないだろう。ヒルゼンとダンゾウは成長した綱手を見てそう安堵する。

 だが問題はその手を組むべき他里なのだ。恐らく五影会談は開催されるだろうが、それで上手く五里が纏まるだろうか。砂隠れはともかく、残りの三つに関して考えると頭が痛くなるヒルゼン達であった。

 

「ともかくだ。今はどうなるか分からん五影会談の問題よりも現状分かる問題に関して纏めるべきだろう」

 

 そう言って綱手はフガクに視線を向け、そして口を開く。

 

「フガクよ。別天神に関して……この場の者達に説明する事になるが、構わないな?」

「……はっ。あれはうちはにとっても木ノ葉にとっても最も秘するべき力でありますが、この状況にあっては致し方ないかと……」

 

 この二人の会話を聞いたアカネは疑問に思う。別天神というアカネすら知らなかった万華鏡の力を、この二人は既知であるように聞こえたからだ。

 フガクが知っているのは何の疑問も抱かない。うちはの当主として過去にあった万華鏡の力や情報が記録として残っている可能性もある。そこからフガクが別天神に関して知りえていてもおかしくはないだろう。

 だが綱手はそうではない。しばらく木ノ葉から離れていた綱手がそこまで万華鏡に関して詳しいとは思えない。火影という立場とはいえ、全てを知っている訳ではないのだ。

 その綱手が別天神に関して何らかの情報を得ている。ここからアカネが予測出来る事は一つ。火影の右腕であるうちはシスイ。彼から何らかの情報を得ているという事。いや、もしかしたら――

 

「……もしや、別天神の使い手が今のうちはにいるのですか?」

 

 アカネは疑問をそのままに綱手にぶつける。そして綱手の答えは……肯定だった。

 

「ああ……。シスイ、説明しろ」

「はっ。私の万華鏡写輪眼はもうお察しされたかと思いますが……別天神なのです。それも両目ともに」

 

 この情報に多くの忍が驚愕する事となる。当然だ。かつての大英雄を操った力を持つ者がいるのだ。これを悪用すればどうなるか。下手すれば里が割れかねない情報であった。

 この情報は木ノ葉を揺るがしかねない最重要情報だったので、火影と僅かな上層部しか知りえない情報だった。それほど別天神の力は凄まじいのだ。

 対象に幻術を掛けられていると気付かせずに思考を誘導・操作するその術は、一握りの上層部に仕掛ければ下手すれば組織の全てを操りうる可能性を持つ力だ。

 火影に仕掛けたとすれば、木ノ葉その物を裏から支配する事も不可能ではないだろう。そんな力を周囲に知らしめる訳にはいかず、ごく僅かな人数で機密として守っていたのだ。これはアカネすら例外ではなかった。

 

 それだけではない。シスイという人物は誰からも認められる人格者であるが、だからと言って別天神という力を持たせたまま自由にさせるという事は、木ノ葉の上層部としては看過出来なかった。

 故にシスイにはある呪印が施されていた。緊急時に置いては現火影の了承が、そうでない場合は火影と相談役二人、そしてダンゾウの四人の了承がなければ別天神を使用出来ないという呪印だ。

 これによりシスイは要注意人物とみなされながらも自由を得ていたのだ。下手すれば国を乗っ取る事も可能な力だ。これは穏便な処置と言えるだろう。

 これらの情報を聞いて多くの忍が安堵のため息を吐いていた。これならば本人は当然として、第三者がシスイを抱き込んで悪用する事も容易ではないだろう。

 

 綱手がシスイに関する境遇や状況を説明した後、シスイは別天神に関して詳しい情報を伝えていく。

 もっとも、その幻術としての力に関しては大体がアカネがマダラから得ていた情報と変わりはない。あえて言うならば再使用に必要とされる時間に関してだろうか。

 効果だけを見ればまさに最強幻術の名に相応しい別天神であるが、やはり強すぎる力にはそれなりのデメリットも存在していた。

 別天神は一度使用すれば、再使用までに十数年もの年月を必要とするのだ。

 

「シスイ殿が最後に別天神を使用したのはいつ頃なのだ?」

「私が万華鏡写輪眼に目覚めた時の事ですね。二十年近くも前、霧隠れの忍と交戦中の事でした。その後はこの力を上層部とフガク様に説明し、封印に至りました」

 

 シカクの質問に対してシスイが説明をする。それに対してシカクは微笑を浮かべて頷いた。

 

「そうか……つまり別天神を使用する事に問題はないのだな?」

「ええ、それはまあ……」

「何かいい案でもあるのかシカク?」

 

 何やら含み笑いをするシカクに対して綱手は若干の期待を籠めて確認する。シカクは先も説明した通り非常に頭の切れる忍だ。恐らくは木ノ葉一と言っても過言ではないだろう。

 そんなシカクの立てる作戦ならばその信頼性も高い。イズナという予想もつかない難敵を相手に効果のある作戦はいくらでも欲しいというのが綱手の本音であった。

 綱手の期待に応えるかの様に、シカクは自身の考えを述べていく。

 

「いい案という程ではありません。誰でも思いつく程度の事です。つまりは――」

 

 

 

 

「……なるほど」

「上手く行く保証はありませぬ。いえ、普通ならば問題ないのでしょうが、正直敵の力が未知数なので……」

「いや、可能性はある。いけるかシスイ?」

「恐らくは……ですが」

「そうか。いや、十分だな」

 

 別天神の力を考えれば可能性は高い。特にイズナがこちら側に別天神の使い手がいる事を知らないというのも強みだろう。

 上手く行けば――そう考えるだけでアカネの心は高揚していた。

 

「良し。今回は非常事態に当たり、シスイの別天神の封印を一部解除する。シスイよ、今後イズナ陣営のみに対して別天神の使用を許可する」

「はっ!」

「では次だが――」

 

 そうして綱手は様々な情報と今後の対応について会議を続けていく。

 

 

 

「大蛇丸に関してだが……奴が自力で幻術から抜け出る可能性はないんだな? イタチよ」

 

 しばらくして話題に上がったのは大蛇丸に関してであった。

 二代目三忍にして木ノ葉の裏切り者。その力は五影にすら匹敵、下手すれば上回るだろうとすら言われている危険人物だ。実際仙術を身に付けた大蛇丸に確実に勝てると言える五影はいないだろう。

 そんな大蛇丸だが、今はイザナミの幻術の中だ。ここから自力で脱出するのは不可能。抜け出るには己を変革せねばならないという、別天神とは別の意味で厄介な幻術だった。

 

「はい。大蛇丸が幻術から抜け出せた時、それは奴が自らの過ちを理解し受け入れた時でしょう。今の自身を保ったまま自力で抜け出せる事は不可能です」

「……だが、それで大蛇丸が過ちを理解し幻術から抜け出したとして、木ノ葉に仇なさないとは限らないのでは?」

 

 そう心配する声が周囲から上がる。イザナミの力を理解しているうちは一族はともかく、そうでない一族の者はあの大蛇丸がそれで更生するとは到底信じ切れないのだ。

 

「大蛇丸が生まれついての邪悪であるならば……二度と幻術から抜け出せる事はないでしょう。そうでないならば、過去の過ちを悔い、かつての自分を思い出す事が出来たならば。その時は木ノ葉に仇なす事はもうないと思われます」

 

 むしろどこで復活の禁術を仕掛けているか分からない分、殺して処分という方法を取る方が危険だとイタチは言う。

 

「ふむ……分かった。イタチの言い分も皆の心配ももっともだ。大蛇丸に関しては現状死なぬように栄養補給を行いつつ、厳重な封印を施して管理する事とする」

 

 そう結論付けた後、綱手は申し訳なさそうにイタチを見た。その視線は特にイタチの左目へと注がれている。だが綱手はその立場上言いにくい事があり、それを察した自来也は綱手の代わりにイタチへと謝罪の言葉を掛けた。

 

「すまんなイタチ。本来ならばあやつは友であったワシが止めるべきだった……。ワシの力不足がお前に犠牲を強いる事となった……。面目ない」

「いや、師であるワシが大蛇丸の変化を察してやれなかった事が原因よ。ワシが止める事が出来ておれば……すまぬ」

 

 木ノ葉隠れの長として公の場では素直に謝罪するわけにもいかない綱手に代わり、自来也とヒルゼンが謝罪をする。いや、例え綱手の代わりという名目がなくとも、この二人は謝罪をしていただろう。それほどに大蛇丸に関して責任を感じていた。綱手もこの場に第三者がいなければ同じく謝罪していただろう。

 それを理解出来ているイタチは三人の気持ちを汲み取り、その謝罪を受け取った。

 

「お心遣いありがとうございます。ですが、私は木ノ葉の忍として抜け忍を捕らえたのみ。あまりお気になさらないで下さい。それよりも、お聞きしたい事があるのですが……」

「うん? どうした?」

 

 イタチの言葉が自身に向けられていると知った自来也は、内心で何を聞かれるか理解しつつイタチに問い返した。

 

「……自来也様はお亡くなりになられたのでは?」

『……』

 

 会議が始まってから誰もが突っ込みたかったその質問に、事情を知らぬ多くの忍が同意する様に頷いた。

 こうなるだろうと理解していた綱手と自来也は互いに頷き、そして綱手が口を開いた。

 

「自来也が死んだと言ったな……あれは嘘だ」

『そんなの見れば分かります』

 

 ほぼ全員からの冷静な突っ込みが入る。まさに火影を火影と思わぬ無情の突っ込みである。

 

「ま、まあ、ぶっちゃけるとだ。敵を騙すにはまず味方から、という訳だのゥ」

 

 自来也の言い訳で一応は全員が納得の意を見せた。忍の世界では良くある手法なのだ。小隊の誰もが密書を運ぶ依頼だと思っていても、実はそれは囮で本物の密書は別の小隊が運んでいるなどというのは忍の世界では珍しい事ではない。

 

 そうして自来也に関しての説明が終わったところで、綱手がイタチへとある確認をする。

 

「ああ、イタチ、今の大蛇丸から情報を得る事は出来るか?」

「可能です」

「ならば後ほど私と共に来てくれ。以上で大蛇丸に関しては終了とする」

 

 様々な情報から下した綱手の処置に対して異論を挟む者はおらず、大蛇丸に関しての議題は終了した。

 いつか彼が幻術から解き放たれた時、その時はもしかしたら二代目三忍が再び集結する時かもしれない。それがいつになるかは誰にも分からないが。

 

 

 

 

 

 

「ではこれにて会議を終了とする。皆はそれぞれ与えられた任務に当たってくれ。手の空いた者や任務までに時間のある者は出来るだけ里の復興を手助けしてほしい。以上だ」

 

 綱手の言葉と共に、多くの忍が解散してその場から離れて行く。

 アカネもまた同様だ。アカネにもするべき事は多いのだ。その内の一つを終わらせるべく、アカネはうちはの人間を伴ってそのままフガクの家へと移動した。

 

 

 

 そうして一同がフガクの家に到着し、人払いをした一室にて集まる。そこには会議にはいなかったサスケの姿もあった。

 

「では、先の会議にて敢えて話していない情報について語ります」

 

 サスケは会議とやらが気になるが、今はそれは置いておきアカネの話に集中する。そこから語られた話はとんでもない物だった。

 永遠の万華鏡写輪眼。従来の万華鏡と違い、視力の低下や使用時の肉体への反動がなくなる。まさに永遠の瞳力を手に入れられるのだ。その上新たな瞳力に目覚める可能性もあるという。

 まさに夢の様な情報だ。万華鏡写輪眼の唯一の欠点がなくなるばかりか、更なる力すら望める。この永遠の万華鏡があればどんな敵でも倒せるだろう。

 そう思っていたサスケだが、アカネの鋭い視線を受けて冷水を掛けられた思いとなる。

 

「永遠の万華鏡写輪眼があれば誰にも負けない。そんな風に考えていませんでしたかサスケ?」

「!? そ、そんな訳ないだろう」

 

 まさに図星を言い当てられたサスケ。だがサスケの気持ちを理解出来る者は少なくないだろう。

 先の暁が起こした戦争にて、ただでさえ己の力不足を見せ付けられた想いだったのだ。次は負けない様、誰かに守られなくてもすむよう、更なる力を欲する。それは浅はかと一言では言えない感情だろう。

 だが、容易に苦労もせずに手に入れた力で間違える者は多い。万華鏡に至ったのはサスケの才能と不幸な状況だが、こうも容易く永遠の万華鏡写輪眼を手に入れてはサスケが慢心しかけても致し方ないだろう。

 

「少し考えが変わりました。サスケ、しばらくは万華鏡写輪眼の特訓をします。新たな力とそのリスク。それらを理解した時、永遠の万華鏡に関して再び話をしましょう」

「う……。くそ、分かったよ……」

 

 サスケとしては早く永遠の万華鏡が欲しかったが、アカネにこうも言われた上に、周囲にいる逆らいがたい面々――フガク・イタチ・シスイ――がいればNOとは言えなかった。

 後に、サスケは別の意味で永遠の万華鏡写輪眼を欲する様になる。あんな化け物にただの万華鏡で勝てるか。それがサスケの言い分であった。

 

「イタチさんもそれでいいですか?」

「ああ」

 

 イタチとしてもアカネの言い分に異論はなかった。サスケが間違った道に進む前に正そうとしてくれているのだ。異論などあるはずがなかった。

 そんな二人の会話を聞いてサスケは考える。あの時、大蛇丸が言ったアカネの正体。それを兄や父は知っているのだろうか、と。

 恐らくだが父は知っているだろうと予測出来た。サスケがアカネの修行を受けていると知った時の父の反応。今思えばあれはアカネの正体を知っているからこその反応だろう。

 更に同じ理由でカカシも知っていると予測出来る。サスケと綱手が初対面する前に、カカシが父と似たような反応をしたのをサスケは気付いていたのだ。

 父が知り、カカシも知る。ならば当然だが火影も知っており、火影の右腕たるシスイも知っているだろう。ここまで来れば一定以上の実力者や上層部は知っているはずとサスケは考えた。

 

 そうして膨らんだ疑問や好奇心を抑える事はサスケには出来なかった。なので、他に誰も聞いていないこの場でサスケは疑問をぶつけてみた。

 

「アカネ……お前が日向ヒヨリの生まれ変わりだというのは本当か?」

『ッ!?』

 

 サスケの言葉に対する全員の僅かな反応。それだけでサスケも理解した。

 

「なるほど、やはり真実か……」

「……大蛇丸か?」

 

 アカネもサスケがその情報を知りえる可能性を考え、そして答えに行き付いた。

 アカネの確認に首肯するサスケを見て、アカネはため息を吐く。

 

「全く。面倒事しか作らないなあいつ……。ええ、黙っていてすみませんでした。仰る通り、私は日向ヒヨリの生まれ変わりですよ。……幻滅しましたか?」

「幻滅? 何でだ? むしろ納得したし、安心したくらいだ」

 

 アカネとしては今まで師として友として接していた相手が、実はかつては何十年も生きた老人な上に生き汚く転生しました、となれば幻滅の一つもするかなーと思っていたが、サスケとしてはそこら辺はどうでもいい話だ。

 むしろほぼ同年代でありながらこの圧倒的な力の差に納得し、そして修行時間の違いから自分の才能が低いわけではないと安心したくらいである。サスケの才能が低いとすれば、この世の誰も才という物を持たずに生まれている事になるだろう。

 

「安心って……」

「気にすんな。まあ今は無理だが、いつか必ず追いついて、いや追い抜いてやる。せいぜい修行時間の差に胡坐をかいて待っていろ」

 

 そんな挑発的なセリフに対し、アカネは驚きつつも真実笑みを浮かべて頷いた。

 

「ええ。ですが、私が座して待つ様に見えますか?」

「……そこは座して待ってろよ」

 

 アドバンテージが大きい上に修行を怠らない。油断をしない上にスタート地点が違ううさぎを相手に亀では勝ち目はないだろう。

 だがサスケは亀ではなくうさぎ、いや龍と言っても過言ではない。これくらいのハンデなどむしろ望むところとばかりに、サスケは不敵に笑った。

 

「まあいい。せいぜい首を洗って待ってろよ」

「はい。楽しみにしていますね」

 

 アカネとしては本当に楽しみにしていた。アカネは強い。強すぎると言ってもいいくらいにだ。幾度となく転生を繰り返し、その都度修行と実戦を重ね、この世の誰よりも経験を積んでいるアカネだ。

 敵がいない。それは平和が脅かされる事が少ない証拠である。だがアカネにとっては内心残念な事実でもあった。

 この鍛えた技を惜しげもなく使用出来る相手が欲しい。それは忍にとっては失格の考えであり、武人にとっては至極当然の考えであった。やはりアカネの骨子は忍ではなく武人だという事だろう。

 

「ところで、シスイは永遠の万華鏡に関してはどうしますか?」

 

 現在木ノ葉の万華鏡開眼者はシスイ・イタチ・サスケ・オビト・カカシの五人。だがオビトとカカシは他の三人と違い片目ずつという開眼だ。この二人に永遠の万華鏡の法則が通じるかはまだ不明である。

 そしてイタチとサスケがいずれ万華鏡の交換をするとして、シスイはどうするのか。

 イタチとサスケが交換した後にどちらかと万華鏡を交換するのか。それともオビトとカカシの二人と片目ずつ交換するのか。それらの方法で永遠の万華鏡に至るか至らないか。兄弟などの血縁関係でなくとも問題はないのか。

 分からない事は多くある。だがシスイの答えは一つだった。

 

「いえ、私はこのままで十分です。むしろ私に関しては下手な事はしない方がいいかと……」

「そうか。そうだな。すまないシスイ。いや、ありがとう」

 

 そう。ただでさえシスイは別天神という警戒される力を有しているのだ。それが永遠の万華鏡になればその警戒度は更に跳ね上がる。下手すればうちは一族全てに在らぬ疑いを掛けられかねない程にだ。

 それを憂慮したシスイは永遠の万華鏡を求めることを拒否した。そこまで里の為に滅私するシスイに対し、アカネは謝罪と礼を述べるしか出来なかった。

 

 これ以上は逆にシスイに気を遣わせてしまうだろうと判断したアカネは別の話題を切り出した。

 

「しかし、イタチとサスケの万華鏡交換については問題が一つあるな……」

「イタチの左目ですな」

「……っ!」

 

 アカネの言う問題点をフガクはすぐに察し、そしてサスケは苦い顔をする。

 自分を助ける為に左目の視力を失ったのだ。サスケの反応は止む無しだろう。いくらイタチが気にするなと言ってもそれで気にしないサスケではなかった。

 

「ええ。今の状態で互いの瞳を交換して、果たしてそれで問題ないのかどうか……」

 

 視力を失った万華鏡写輪眼でも、永遠の万華鏡を得られるのか。それともやはり失明したままなのか。それは移植してみなければ分からないだろう。

 だがアカネの見解としてはやはり失明した状態から元に戻ると考えるのは、少々気楽に過ぎるという物だった。

 

「いえ、それに関しては問題ありません」

「フガク?」

 

 何を以って問題ないと言えるのか。もしやアカネも知らぬうちはの秘密でもあるのか?

 そう思っていたアカネに対し、フガクは決意していた思いを述べた。

 

「私の左目をイタチに移植して頂きたい」

「父さん!?」

 

 驚愕するイタチ。当然サスケも絶句しており、シスイも動揺を抑えられていない。

 うちはの現当主が、いや警務部隊の隊長が実の息子相手とは言え、一族の代名詞とも言うべき写輪眼を譲る。これがどれ程の大事か分からない者はこの場にはいなかった。

 写輪眼は両目揃って初めて真価を発揮する。片目を失うという事はそれだけで戦力が下がるが、うちはに限ってはそれ以上の痛手となるのだ。

 うちは一族という精鋭を束ねる存在がそうなるのは本来避けなければならない事だ。だがそれを理解しつつもフガクはイタチに片目を譲る所存だった。

 

「イタチよ。お前の力は既にオレを超えている。そんなお前の力を維持、いや今以上にする事が出来るならば、オレの片目程度安い物だ」

「だが……!」

 

 父の想いを知るも、イタチはなおも食い下がろうとする。そんなイタチに対してフガクは一喝した。

 

「勘違いするでない! これはお前への施しではなく、木ノ葉の、引いてはうちはの為に最善手と考えての命令だ!」

「……ッ! ……了解致しました」

 

 命令とあらば逆らう事は出来ない。苦々しくもその命令を承諾したイタチに対し、なおもフガクは言葉を続ける。

 

「それでいい。オレからの最後の命令だ。すまんなイタチ」

「最後? それはもしや……」

「うむ。お前と左目を交換次第、オレは警務部隊の隊長の座から降りる。次の隊長は……イタチよ、お前だ」

 

 片目を失ったうちは一族が里の治安を維持する警務部隊の隊長を務める訳にもいかない。フガクの言葉は誰もが納得のいく物であり、ぐうの音も出ない話であろう。

 

「ですがオレは今回の戦争で一度死んだ身……オレには荷が重いかと……」

「お前で駄目ならば誰を推薦すればいい? サスケも既にオレを超えてはいるが、まだ経験不足な点も多い。だがお前ならば誰もが納得するだろう。うちはの者達に聞いてみるといい。誰も文句は言わん」

 

 フガクにここまで言われてしまえば、イタチとしてもそれを拒む事は出来なかった。

 フガクは自身との目の交換を命令と言ったが、その後の隊長の座につく話に関しては命令とは言わなかった。つまりこれはフガクからの頼み事となる。

 目に関しては命令と言い、隊長に関しては命令とは言わない。そこにあるフガクの当主としての想いと父としての想い。その二つを理解したイタチは、フガクの想いを拒否する事など出来はしなかったのだ。

 

「了解いたしました……隊長の任、お受けいたします」

「うむ……。それではアカネ様、移植の手術をよろしくお願いいたします」

 

 フガクの考えは変わらないだろうとアカネも理解している。なのでこの願いには拒否する事無く首肯した。

 これによりイタチの左目は再び光を取り戻した。代わりにフガクの左目は失明状態となる。一応はイタチの左目を移植したが、やはり光は戻らぬままであった。

 しかしうちは全体で考えればイタチが失明したままよりは全体の力を増した事になるだろう。だが、もしフガク以外の写輪眼保持者から移植すれば、フガクの力も衰えぬままだっただろう。

 だが例え誰かが写輪眼を譲ると申し出たとしても、フガク自身がそれを拒否しただろう。それがフガクの忍としてではなく、父としての矜持であった。

 

 

 

 取りあえずうちはの面々の問題が一段落した所で、アカネはイタチに向かって謝らねばならない問題を切り出した。

 

「さて……イタチよ」

「は……なんでしょうか?」

 

 改まったかの様に述べるアカネにイタチも態度を正して耳を傾ける。

 そんなイタチに対し、アカネは全力で……土下座を敢行した。

 

「申し訳ありませんでしたーー!!」

『……は?』

 

 これに驚愕したのはイタチだけでなく他の面々もだ。一体どうしてアカネがイタチに土下座してまで謝罪するというのか。その疑問はアカネが全て答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 あれは長門の輪廻転生にて木ノ葉の無数の死亡者が生き返った時の事。ダンゾウが生き返った事を素直に喜ぶヒルゼンと、そんなヒルゼンを鬱陶しそうにあしらうダンゾウ。そんな二人を見て笑みを浮かべていたアカネだったが、次の瞬間にその笑みは吹き飛んでいた。

 

「あ――」

 

 何かに気付いたかの様なアカネの呟きと、その後の明らかに動揺していると見られるアカネの態度にカカシとオビトが反応する。

 

「わ、私が治療せずとも生き返っていた……」

 

 それを聞いたオビトはアカネに優しく声を掛けた。

 

「そんな事関係ないだろ? 死んだ人間が生き返るなんてどうやって予想すればいいんだよ? アカネちゃんの治療が無駄だったなんて誰も思わないって」

 

 そう言うオビトだったが、カカシはアカネが冷や汗を掻いている理由に気がついた。

 

「まさか……」

「……じゅ」

「じゅ? 樹? それとも呪? え、どうしたのアカネちゃん?」

 

 オビトはアカネがこうも焦っている理由が理解出来ず、何を言いたいのかも理解出来ていない。

 それを理解しているのはカカシのみだった。じゅ、の後に続く言葉もカカシには予想出来ている。

 

「じゅ、寿命……めっちゃ……削っちゃいました……」

「……あ」

 

 アカネのその言葉でオビトも思い出した。アカネの再生忍術は医療忍術でも治療不可能な傷すら再生させる事が出来る優れた忍術である。

 だがメリットが大きければそれに伴うデメリットもまた大きくなりやすい。再生忍術もそれに漏れなくデメリットが存在し、再生した傷が大きければ大きいほど、対象の寿命を削ってしまうのだ。

 再生忍術とは対象の各種タンパク質を活性化させて細胞分裂を急速に速めて細胞を再構築する術だ。

 全ての器官や組織すら再生出来る術なのだが、人間が一生で行う細胞分裂回数は決まっている。つまりそれを速めるという事は実質寿命を縮めるのと同意なのだ。

 

「ど、どれくらい?」

 

 その寿命の減り方はもちろん再生忍術による細胞分裂の回数によって決まる。目安としてはその怪我が自然治癒するのに掛かる日数だが、一概にそうとは言えない。傷の範囲が大きければ大きいほど寿命は減りやすく、例え完治に時間が掛かるとしても傷の範囲が小さければ寿命は減りにくい。

 そしてアカネの経験や感覚で対象の寿命がどれくらい減ったのかは予測出来る。その予測によると――

 

「だいたい、一年くらい……かな?」

 

 で、あった。それ程にリンが受けた傷は大きかったと言える。

 一年くらいなら、と思う者もいるかもしれないが、それは人生残り僅かとなった時に同じ事が言えるかと考えれば一年の大きさを理解出来るだろう。

 それも死ぬはずの運命を覆せるならば一年の寿命も仕方なしと思うだろうが、寿命を削らなくても復活出来たとなれば話は別だろう。

 

「ご…………ごめんなさい」

 

 そこには見事に土下座するアカネの姿があった。

 

 ちなみにイタチの寿命も約一年程縮む結果となっていた。この時イタチは気絶していた為にアカネが後ほど伝えたのである。当然同じ様にリンにも後ほど土下座謝罪を敢行していた。

 まあ、当然の如く誰も怒ってなどいないのだが、治療が余計な物になったと思い込んだアカネ当人は地味に傷ついていたりするのであった。

 

 




 シスイが万華鏡に目覚めた時期や、霧隠れ相手に使用した事は捏造設定です。霧の青(白眼を片目に移植してる人)がシスイの力をある程度理解していたので、そこから捏造しました。

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