どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第二十話

 木ノ葉の里から数km程離れた場所にある森の中。

 そこに一人の男が立っていた。仮面を被り顔を隠した男はそこでじっと誰かを待っていた。

 

「……来たか」

 

 待つ事僅か十数秒。僅かなチャクラを発してからその程度の時間でのご到着だ。

 流石は、等とは男は思わない。何故なら相手は日向ヒヨリ、その転生体。ならばこの程度の所業など造作もない事なのだ。

 仮面の男の前には何時の間にか日向アカネが立っていた。二人は僅かに互いを見やり、そして懐かしそうに仮面の男が口を開いた。

 

「まさか転生するなど思ってもいなかったぞ。身体は違えどこうして再びお前と相対するとはな……久しいなヒヨリ」

「……マダラ」

 

 仮面の男――うちはマダラは仮面を外すことなく会話を続ける。

 

「お前ならばオレの発した僅かなチャクラを感じ取る事が出来ると思っていたぞ」

 

 その言葉からマダラが何らかの目的があってアカネをこの場に呼び出した事が分かる。

 ではそれは一体何なのか。今のマダラは暁の象徴とも言える外套を羽織っている。それが意味する所は一つしかないだろう。

 暁の一員であるマダラの用件。それが碌な物ではないと予想しつつ、アカネはマダラが何かを言う前に先にマダラにある確認をした。

 

「お前は……穢土転生で操られているのか?」

「ふ……流石に分かるか。そう、今のオレは穢土転生で蘇った身だ」

 

 やはりそうか。マダラの返事を聞いたアカネは内心でそう呟く。

 柱間と闘い死んだはずのマダラがこうして今ここにいる理由は穢土転生による擬似的な復活くらいしかアカネは想像が出来なかった。

 そして例え実は死んではおらず生きていたという可能性もあるかもしれないが、アカネは白眼にてマダラの仮面の裏を透視しているのだ。

 そこには穢土転生の証である黒ずんだ瞳があった。写輪眼を持つマダラには似つかわしくない黒ずんだ瞳が……。

 

「だがオレは操られてなどいない。オレはオレの意思で動いている」

「……穢土転生の術者は大蛇丸なのか?」

「そうだ。お前への対抗としてオレを穢土転生したのだろうな。だが、その為にオレを生来の実力に近しく蘇らせてしまった。縛りきる自信があったのかもしれないが……ふ、三忍の名を舐めてもらっては困る」

 

 確かに今のマダラは誰かに操られている様子はない。だが操られていないという保証もまたなかった。

 会話だけは自由意志を持たせておいて肉体の主導権のみを得る事も穢土転生は可能だった。そうであるならば油断するわけには行かないだろう。

 

「まあ、それを信用しろというのは無理があるだろう。だが、オレの話は最後まで聞いてほしい。お前がオレに協力してくれるならばそれに越した事はないのだからな」

「協力?」

 

 一体何の協力をさせようと言うのか。疑心暗鬼ではあるが、マダラの話に興味を持ったアカネはその内容を聞く事にした。

 

「そうだ。……なあヒヨリよ。オレ達が目指した平穏な世界には一体いつになったら届くんだ?」

「それは……」

 

 その質問に対してアカネは何も答える事が出来なかった。いや、答えを知らない訳ではない。知っているからこそ答えられなかったのだ。

 長きを生きるアカネはそれを理解していた。人間が生きる世界で完全なる平穏など有り得ないという事を。

 人が二人いれば大小の差はあれど争いは起こる。どれだけ仲が良く協力して生きていても競争とは起こる物なのだ。そしてその競争の果てが戦争である。

 極端だがつまり完全なる平和・平穏とは人が生きていく社会では達成する事は出来ないのだ。

 

「そうだ。オレ達が目指した平和な世界にはいつまで経っても到達する事なんか出来やしない。オレが死んでからどれだけの時が流れた? それでも世界には争いが蔓延っている……無駄だったのさ、オレ達がして来た事はな」

「そんな事はない! 確かに未だに世界には争いはあるし、今でも人は傷つけあっている……。だが! それでも私達がした事は無駄じゃなかった! 争いの中にも秩序が生まれ、無駄な死は少なくなった!」

 

 自分達がしてきた事は無駄ではない。あの最悪の戦国時代を変える為の努力と、成し遂げた成果。それらを否定する事は例えマダラと言えども許す事は出来なかった。

 だが、激昂するアカネに対してマダラは冷たく言い放つ。

 

「違うな。オレ達がした事は新たな戦争を産み出しただけだ。確かに里というシステムが出来た事で小競り合いは減った。だがその代わりに里と里の戦争が出来上がった。結局は回数が減っただけでその規模は逆に大きくなった。これを無駄と言わずに何と言う?」

「それでも確実に犠牲者は減っている。あの血に塗れた時代と比べれば世界はより平穏に近付いている。今は無理でも、完全には無理でも、それでもいつかは戦争がない時代も――」

 

 争いを無くす事は無理でも限りなく少なくする事は出来る。時代は常に流れ続けているのだ、今は無理でもいつかはそこに行きつく。

 争いの少ない平和な世界を知っているアカネにはそれが夢物語ではないと実感していた。

 そんな想いを籠めたアカネの言葉を遮って、マダラはアカネに告げる。

 

「恒久的な平和。それが実現出来るとしたらどうする?」

「な……!?」

 

 恒久的な平和の実現。確かにそれが可能ならば素晴らしい事なのかもしれない。

 だがどうやって実現するというのか。それを問われて答えられる者はいるのだろうか。

 いや、答えだけならば幾つかはあるだろう。例えばだが、この世に生きる全ての人間を滅ぼし尽くせばいい。そうすれば人と人の争いはなくなり、自然本来の必要な争いしか残らなくなる。

 だがそれは本末転倒だ。人が生きていく中での平和が必要だからこそアカネは柱間達と努力してきたのだ。肝心要の人がいなくなれば何の意味も持たないだろう。

 

「オレにはその手段がある。こうして穢土転生で復活出来たのはまさに好機、天がオレに世界を変えろと言っているのだ。そしてお前が協力してくれれば確実に世界に平和を齎す事が出来る」

 

 自信を持って答えるマダラに嘘はない。それはアカネの長年の経験で理解出来た。

 だがそれ以外の何かでマダラは嘘を吐いている。それもまた長年の経験で理解出来てしまった。

 

「……一つ、いや二つ聞きたい事がある」

「……なんだ?」

「何故、柱間と闘った? その方法とは一体何だ?」

 

 アカネが一番確認したかった事。それはマダラが自分達を裏切って柱間と死闘を繰り広げた理由だ。

 ヒヨリであった当時に柱間にもそれを確認したが、柱間曰くマダラは世界を平和にする為だと言っていたという。

 だが何故世界を平和にする為に柱間と殺し合う必要があったのかがヒヨリには理解出来なかった。

 

 そしてもう一つ、恒久的な平和とやらを実現する方法。それが本当ならば確実に非人道的な方法になるはず。そうであるならば協力など出来るわけがない。

 

「……柱間とオレは結局相容れなかったのさ。オレの考えを柱間は理解出来なかった。ならばオレの邪魔になる前に消すしかなかった」

「そんな事で……そんな事で私達を裏切ったのか?」

「それも全ては世界の為なのさ。目的に至るまでに犠牲は必要だ。オレ達もそうしただろう? 互いの一族で殺し合って、な」

 

 マダラの言葉は間違ってはいない。里というシステムを作るまでに柱間もマダラもヒヨリも、それぞれの一族として他の一族と戦って来たのだ。そこに至るまでに死んだ忍の数は十や二十などでは利かないだろう。

 

「だからと言って……!」

「お前が協力してくれればその犠牲も限りなく少なくすむ」

 

 犠牲が必要なのは仕方ないかもしれないが、だからと言ってそれを当然と割り切るのは間違っている。

 そう憤慨するアカネにマダラは優しく語りかける。

 

「オレにはお前が必要だ。共に平和な世界を作り上げ、そして共に生きようではないか」

 

 それはアカネにとって甘美な誘いだ。平和な世界が実現する事は当然望む所ではあるし、友であるマダラと共に生きる事も否はない。

 だがその前に最後の確認が残っている。肝心要の平和な世界を実現する方法。それを聞かなければ話は始まらないだろう。

 

「……どうやって平和な世界を実現するつもりだ?」

「月に己の眼を投影する大幻術、無限月読にて全ての人間に幻術を掛けるのさ」

 

 それはアカネが想像した中で全ての人間を殺す手段を除き最悪の手段の一つだった。

 やはりか。そう落胆したアカネを他所にマダラは次々と己の理想を吐いて行く。

 

「全ての人間を幻術の中でコントロールする。誰もが望む世界をそれぞれに与える。そこには争いもわだかまりもない。完全なる平穏が待っている」

「……もう一度聞く。お前は穢土転生で操られてないんだよな?」

「当然だ。まあ、それを証明しろと言われても証明しようがないがな」

 

 穢土転生で復活した者がその縛りを解く事は不可能ではない。それはアカネも知っているし、マダラならばそれが可能なほどの実力を持っている事もまた知っている。

 だが、そんな事は関係なくアカネには確信出来る事があった。そして、それを実証する為にアカネはある言葉を言う。

 

「お前……何者だ!?」

「? 何を言う。オレはうちはマ――」

 

 マダラの言葉を遮ってアカネは更に言葉を続ける。

 

「油断すんな柱間! どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ! こうしてるのはオレ達を欺く演技の可能性もある!」

「なに……!? 柱間だと?」

 

 アカネの突然の言葉にマダラは辺りを警戒する。

 マダラの、いや仮面の男のその反応でアカネは完全に理解した。

 そして怒りを籠めて残りの言葉を言い切った。

 

「何の目的でここに来た!? ……どうした、お前はうちはマダラなんだろう? だったら……何故この言葉で怒りを顕わにしない!!」

「……」

 

 当人達だけが知る何らかの暗号か何かか。とにかくそれ(・・)を知らなかった男はメッキを剥がす事となった。

 

「上手くマダラを演じたな……私も最初は騙されかけたよ」

「……いつから気付いていた?」

「貴様が……貴様が私達の夢を無駄だと言った時からだ……マダラが、あれだけ弟を、イズナを思って、イズナの為に里を作り上げたマダラが……! それを無駄だったなどと口にするか! マダラの想いを侮辱したな……イズナァァァ!!」

 

 アカネの身から怒りと共にチャクラが噴き溢れた。尾獣すらも凌駕する膨大なチャクラが物質的な圧力すら伴ってマダラに、いやマダラの体を操っているイズナへと向かう。

 

「ふ、ふふ……ふはははははは! 良くぞ見抜いた! 警戒に警戒を重ねていたつもりだったが、まだオレはお前を見くびっていたようだ!」

 

 だがそのチャクラの暴威を受けたマダラは、いやイズナはそれを涼しげに受け止めていた。

 うちはイズナ。うちはマダラに残された最後にして最愛の弟。マダラが守りたいと願った唯一無二の存在。

 それこそがうちはマダラの肉体を操っている張本人であった。最初に言った穢土転生の術者が大蛇丸というのも大嘘であった。穢土転生体は術者以外には操る事は無理なのだから当然だ。

 穢土転生体に幻術を掛ける事は出来るが、それでも意識を乗っ取り操る事は幻術では出来ない所業である。

 

「イズナ! 何故貴様がマダラを操っている!? 何故貴様が今も生きている!?」

 

 アカネがマダラを操っている存在がイズナだと気付いたのはマダラの演じ方が完璧だったからだ。その口調に表情の変化、更に何十年も前の状況を詳しく知っており、マダラを生前の実力に近しく穢土転生にて蘇らせた上で操る事が出来る。その全ての条件を満たす者などイズナ以外には考えられなかったのだ。

 

 だが、アカネもそこに至った理由や原因までは理解出来ない。それを知るには当人から聞きだすしかないだろう。アカネは木々を軋ませる程のプレッシャーと共にイズナを詰問する。

 

「何故オレが兄さんを操っているか……だと?」

 

 仮面をゆっくりと剥がしていき、それを握りつぶしたイズナはアカネに劣らぬ程の怒気を顕わにした。

 

「それを貴様が言うか! 貴様が、貴様らがそうさせたんだろう!!」

「なに……!? どういう事だ!」

 

 イズナの言葉に身に覚えがないアカネはそれがどういう意味なのかを問う。

 そんなアカネに対してイズナは怒りのままに叫び続けた。

 

「貴様らが兄さんを変えた! どうしてオレ達の兄弟を殺した千手なんかと手を組まなくてはならない! どうして千手柱間なんぞが里の長になる! どうして兄さんはそれを許容した! 全部……全部貴様と柱間のせいだろう!」

「な……!」

 

 それはイズナがずっと溜め込んできた想いだった。

 千手一族は五人いたイズナの兄弟の内三人を殺した憎い敵だ。それは兄のマダラも同じ想いだった。そのはずだった。

 それを変えたのが当の千手一族である千手柱間であり、そして二人の癒着剤の役目となっていた日向ヒヨリであった。

 

 千手柱間がいなければ。そうであれば忍の世を支配していたのは兄のマダラだった。

 日向ヒヨリがいなければ。そうであれば兄のマダラは千手柱間と手を取り合うなどなかった。

 それがイズナの考えである。

 

「いや、オレだって平和な世界がそれで実現出来るなら我慢もした! 兄さんに頼まれれば憎い千手とも手を取り合った! だが現実はどうだ! 里が出来て一族の争いがなくなったら次は里と里の争いだ! 下らない争いにオレ達うちはは便利な道具として駆り出される! そうして得られる物は何だ? 僅かな名誉か? ふざけるな! そんな事で……そんな下らない物の為に弟達の無念を諦めろと言うのか! それを容認した兄さんを見続けて生きろと言うのか!!」

「イズナ……お前……」

 

 そこまでの闇を抱えて生きていたのか。

 ヒヨリであった頃、ヒヨリはイズナと対面した事はほとんどなかった。イズナが避けていた事は知っていた。だが、ここまで思い詰めていたとは思ってもいなかったのだ。

 

「第一次忍界大戦。その終わりが全ての始まりだったのさ。あの戦争でオレは理解した。どれだけの犠牲を払っても、どれだけの我慢を強いても、今のやり方で完全な平和は手に入らないってことがな」

 

 アカネに思いの丈をぶつけつつ、イズナはかつての記憶を掘り起こしていた。

 

 

 

 

 

 

「イズナ……どうすれば分かってくれる?」

「兄さんこそ分かってくれ! 今のままじゃオレ達うちはは里に組み込まれて永遠に道具として使われるだけだ! それに、柱間のやり方では本当の平和なんて手に入りやしない!」

 

 第一次忍界大戦が終結した木ノ葉の里。その中のうちは一族の所有地にて、一族の当主であるうちはマダラとその弟うちはイズナは言い争っていた。

 その原因はイズナが木ノ葉から離反しようとマダラに持ちかけた事から始まる。イズナは里というシステムでも完全な平和には至れないと今のやり方に見切りをつけたのだ。

 

「今すぐに平和を実現する事なんて出来やしないさ。だが、永遠に続くと思われていた一族間の争いを失くす事は出来た。オレ達は少しずつだが前に進んでいるんだイズナ」

 

 だがマダラはそれは早計だとイズナを諭した。確かに戦争は未だになくならないが、一度に全ての争いを無くすことなど出来はしない。それを成す為には少しずつ目標に向かって歩み続けるしかないのだ。

 例え自分達の代でそれを成せなかったとしても、その想いを引き継いでくれた次代の者が、それで無理でもその更に次代の者が世界を少しずつ良くしてくれる。そうすればいつかは平和な世界に行きつくはずだと。今焦る必要はないのだと。

 

 だがそんなマダラの言葉はイズナには届かなかった。マダラ程に千手に対して寛容になれていないイズナにとって、家族や仲間を殺した連中と歩みを共にする事は非常に苦痛だったのだ。

 それでも平和が訪れるならばまだ我慢も出来たが、実際には戦争は未だになくなっていない。先の大戦は木ノ葉の三忍による圧倒的な力により一応の終結を迎えたが、力で迎えた終結などいつ崩壊するか分かったものではない。

 そう考えていたイズナはそれでもすぐに発起したわけではなかった。例えうちは一族が木ノ葉から離反したところでその結果は見えていたからだ。

 木ノ葉が誇る三大戦力である千手・うちは・日向。その力はほぼ拮抗している。うちはのみが離反したところでその結果は想像に難くないだろう。

 

 だが今のイズナはそれを覆す手段を手に入れていた。正確には、その手段に至れる方法を知ったというべきか。

 

「兄さん、オレと眼を交換してくれ」

「なに? どういうことだイズナ?」

 

 突如として眼を交換してくれなどと言い出したイズナにマダラは理由を問いかける。そんな事をして何の意味があるというのだろうか。

 

「オレ達は互いに万華鏡写輪眼に目覚めている……でも、万華鏡は強力な瞳術だけどその分反動が大きい」

 

 イズナの言う通り、万華鏡写輪眼は強力だがデメリットもまた大きかった。

 使えば使うほどに視力を徐々に失っていき、更に肉体に掛かる負担も大きく使う度に全身が痛むのだ。

 

「だけど万華鏡写輪眼を開眼した者同士が瞳を交換するとその反動がなくなる! 視力が落ちる事のない永遠の万華鏡写輪眼を手に入れる事が出来るんだ!」

「なんだと!? どうしてそんな事をお前が知っているんだ!?」

 

 それはうちは当主であるマダラも知り得なかった事である。真実か否かはともかく、何故それをイズナが知っているのか。それがマダラには解せなかった。

 

「うちはに伝わる古文書を紐解いていた時に見つけたのさ……これだよ」

 

 そう言ってイズナは懐に収めていた古びた書物をマダラへと手渡す。それをマダラはじっくりと読み進めて行く。

 

「確かに……そう書いているな……だが、こんな書物があったとは……」

「オレだって驚いたよ。蔵の整理をしている時に棚の上からこれが落ちてきたんだ。オレにはそれが天命に思えたよ」

 

 そう、その偶然をイズナは天恵と受け取ったのだ。これに書いてある事が真実であり、そしてうちは一族に伝わる石碑に書かれていた事をイズナなりに解釈すれば……。

 賭けにはなるが、上手く行けば真の平和を得る事が出来る。例えどれほど可能性が低くとも、それだけでイズナには全てを賭ける事が出来た。

 

「……永遠の万華鏡を手に入れてどうするつもりなんだイズナ?」

「千手柱間に勝負を挑む」

「なに?」

 

 千手柱間に勝負を挑む。それはまさに自殺行為と言えた。

 いや、イズナは強い。マダラと共に研鑚を積み万華鏡写輪眼を開眼しているイズナに勝てる忍など数える程だ。

 だが柱間はその数える程の中に加わっている忍なのだ。例え永遠の万華鏡写輪眼を手に入れた所でイズナが柱間に勝てるとはマダラには到底思えなかった。

 だからだろう。次のイズナの言葉にマダラが肯定してしまったのは。

 

「頼むよ兄さん。これでオレが柱間に負けたら、その時は今の木ノ葉の全てを受け入れるよ」

「……分かった。ただし、戦うのは柱間一人だ。他の忍や里を巻き込む事は許さん」

「ああ、もちろんだ! ありがとう兄さん!!」

 

 そうして二人は互いの両眼を交換し、共に永遠の万華鏡を手に入れた。

 それが……悲劇の始まりとなった。

 

 

 

 

 

 

「オレは貴様らの作った偽りの平和ではなく、真の平和を作る為にこうして兄さんを操っている! 貴様らがいなければ兄さんはオレの意見に賛同してくれたんだ……オレが兄さんを操らなくてはならないのは貴様らのせいだ!」

 

 まるで子どもの癇癪の様な叫びを聴いてアカネは苛立ちを募らせる。

 

「ふざけるな! どうしてお前がマダラを操っているか、その経緯は分からん……だが! マダラがお前の野望に反対した事は間違いないんだろう! だというのに、マダラを操ることで無理矢理協力させている奴が……どの口でほざく!」

「それはこちらの台詞だ! 何度も言わせるな……貴様らさえいなければ良かったのだ!」

 

 話は完全に平行線であった。全ての原因を千手柱間と日向ヒヨリのせいと決め付けているイズナにアカネの言葉は届きはしなかったのだ。

 

「兄さんを操っているオレには世界を平和に導く使命と義務がある。貴様が協力すると言うのならば全てを許すつもりだったが、そうでないならば貴様は計画の最大の障害だ……ここでくたばれ死に損ないが!」

「やってみるがいい。だが、いかにマダラを操っているとはいえ、穢土転生で不完全な力となっているマダラで私を倒せると思っているのか?」

 

 アカネの言う通り、穢土転生は死者を蘇らせるがそれは生前と完全に同じ力で蘇らせる事が出来るわけではなかった。

 いや、並の忍ならばそれも可能だろう。だがうちはマダラという世界最強の一角ともなると穢土転生では再現出来る力に限界があるのだ。

 無限のチャクラを有しており、朽ちる事のない肉体を持っているが、実力としては生前の一割から二割は落ちるだろう。それではアカネに勝てるわけもない。

 だがイズナはアカネの台詞を聞いて不敵に笑った。

 

「ふ、確かにお前の言う通り、今の兄さんの体でまともに戦ってもお前に分があるだろうな」

「……何を狙っている」

 

 イズナのその言葉からアカネはイズナがまともに戦うつもりがないという事を見抜いた。

 ならばどうやってアカネと戦うつもりなのか。口で説明するよりもその身で理解させてやる。そう言わんばかりにイズナはマダラを操ってその力を開放した。

 

「何を狙っているかって? ……こうするのさ!!」

 

 完成体須佐能乎。かつてのマダラの最強の力。両目の万華鏡を開眼したもののみが使用可能となる須佐能乎の、言葉通り完成体だ。

 その力は天を裂き地を砕き山を断つ。地形を大きく変えて地図を書き変えなければならない程の影響を与える力の権化。

 それを……イズナは木ノ葉の里に向かって振り下ろした。

 

「っ!?」

 

 天から振り下ろされた須佐能乎の剣をアカネは廻天にて逸らし弾く。須佐能乎の力は木ノ葉から空に向かって方向を修正されてそのまま天を貫いて消えて行った。

 地形を変える一撃を見事に捌き切ったアカネにイズナは賞賛の言葉を送った。

 

「流石は日向ヒヨリ。この一撃を受けて傷一つ負わないばかりか、見事に木ノ葉を守り切るとはな」

「き、貴様……!」

 

 イズナからの賞賛の言葉を聞いてもアカネは少したりとも嬉しくはない。それどころかイズナの最悪の戦術を理解して怒りを顕わにしていた。

 

「気付いたか。そう、確かに貴様は強い。その力は忍界最高だろうさ。だが……木ノ葉を守りながらいつまで耐えられるかな!?」

 

 そう、それがイズナの作戦。厄介なアカネを足止めし、そしてまともに戦わずに封じる最高にして最悪の戦術。

 アカネが大切にしている友と作り上げた掛け替えのない木ノ葉を人質にしたのである。

 須佐能乎の力は数km離れていようが確実に木ノ葉に届き、そしてたったの一撃で里を半壊させるだろう。その時に生まれる犠牲は数え切れないものとなるのは間違いない。

 それを防ぐ為に、アカネは身を挺して須佐能乎の力を受けなければならない。これがまともな戦闘ならば避ければ済むものを、木ノ葉を守る為に常に庇い続けなければならない。

 そんなアカネに対してイズナはただ全力で木ノ葉に向かって須佐能乎の力を振り下ろせばいい。この状況でどちらが有利かなど言うまでもないだろう。

 

「イズナ! 分かっているのか! お前は、お前はマダラの想いを砕こうとしているんだぞ!?」

「何度も……何度も言わせるな! 貴様が兄さんを語るな! 貴様が……貴様がいなければこうする必要もなかったんだよ日向ヒヨリィィィ!!」

 

 イズナは咆哮と共に須佐能乎の剣を木ノ葉に向けて幾度となく振るう。

 その全てをアカネは廻天にて受け流し、逸らし、木ノ葉に、そして出来るだけ周囲に影響のないように空に向けて力の方向を変えて行く。

 

「はっははははは! そらそら! いつまで持つかな!」

「く、うう!」

 

 アカネのチャクラは膨大であり、そのスタミナも同様であり、そして磨き上げた技術は並ぶ者がいない。

 だが人である限りどんな事にも限界という物が存在する。三日だろうと一週間だろうと戦い続けるチャクラを有していようと、いずれは尽きる。しかもマダラの完成体須佐能乎を受け止める程の廻天となるとその消耗は当然激しい物となる。

 対してイズナの操るマダラの肉体は穢土転生で作られた物。穢土転生体のチャクラはまさに無限。出力そのものは生前を基としている為限界はあるが、どれだけ術を放とうともそのチャクラが尽きる事はない。

 持久戦に置いて穢土転生に勝てる者はこの世のどこにも存在していないのだ。強いて言うなら術者の体力はいずれ尽きるだろうが、アカネと比べてどちらの消耗が早いかなど言うまでもない。そも、術者の体力が尽きようと、術者が死のうと穢土転生は止まらない。持久戦でアカネに勝ち目等有りはしないのだ。

 

「どうした日向ヒヨリ!? 貴様が勝つのは簡単だぞ! 木ノ葉を見捨てればいい! それだけで貴様はその力を十全に振るう事が出来るのだからな!!」

「く……っ!」

 

 そんな事がアカネに出来る訳がない。イズナはそう理解しているからこそ、勝ち誇ってそれを嘲り笑っているのだ。

 

「愚かな奴だ! 誰よりも強い力を持ちながら、無駄に優しい心を持っているからこそ自らそれに枷を嵌めている! 木ノ葉を背にしている時点で貴様の勝ちはなくなったんだよ!」

「はあっ!」

「ぬ!?」

 

 アカネはイズナの嘲笑を無視して廻天にて須佐能乎の力を逸らしつつ、その猛撃の合間を縫って八卦空掌にて反撃をする。

 その一撃はマダラを覆う須佐能乎によって防がれてしまう。須佐能乎は最高の攻撃力を誇ると同時に最高の防御力も兼ね備えているのだ。

 だが、防ぎはしたがマダラの肉体は八卦空掌の威力に押されて数十メートルも後方に吹き飛ばされた。その事実にイズナは驚嘆する。

 

「……心底、貴様に守るべき物がある事を安堵するぞ。完成体須佐能乎の攻撃を受けつつここまでの反撃に転じる事が出来るとはな」

 

 そう言いつつもイズナは攻撃の手を緩めない。イズナはアカネの狙いを理解していた。アカネは須佐能乎の力が木ノ葉に及ばない位置までマダラの肉体を移動させようとしているのだ。

 そうすれば木ノ葉を気にせずに攻撃に集中する事が出来る。だが、イズナがそれを理解していながらアカネの狙いを許すわけがなかった。

 

「ぐぅ!?」

 

 突如として謎の力にて吹き飛ばされるアカネ。目に見えない何らかの力がアカネを襲ったのだ。

 流石のアカネも初見にてそれに対応することは出来なかったようだ。だが、知識として知っていた為にそれが何であるのかは理解した。

 八卦空掌により吹き飛ばされた距離を一気に詰めて元の位置に戻ったイズナにアカネは問い掛ける。

 

「馬鹿な……何故お前に、マダラの両目に輪廻眼がある!?」

 

 何時の間にか両眼を輪廻眼に変化させているマダラを見てアカネは叫ぶ。そう、その力は自来也を圧倒した敵ペイン六道。その中の一体ペイン天道が使用する斥力の力であった。

 ペイン六道以外にも輪廻眼を、しかもマダラがそれを有している事はアカネにも予想外の事態だ。

 

「答える必要はない……。それよりも、これを防ぐ事が出来るかな?」

 

 そう言ってイズナは印を組む。何をしようとしているのか、イズナが組んだ印を知らないアカネはイズナがこれから使用する術が何なのか予測出来ない。

 この世界で長く生きるアカネは多くの印を知っており、印を見れば術の発動前にそれが何であるかを理解する事が出来る。例え知らない印だろうと忍術の印は概ね性質に合わせて組まれ方に法則があるので大抵は予測出来る。

 だがイズナが組んでいる印は見た事もない印だった。子・丑・寅と言った干支の名を冠した十二の基本印とは全く違う印だ。恐らく秘伝忍術か血継限界の類いなのだろう。それならばアカネにも予測は出来なかった。

 

 イズナの術を警戒するアカネだが、印を組んで術を発動するには僅かな間という物が存在する。それを狙わないアカネではない。

 だが、そんなアカネに対してイズナは嘲り笑うように口を開き、そしてアカネはその言葉を聞く前に何が起こったのかを理解した。

 

「いいのか? 木ノ葉が終わるぞ?」

 

 イズナがその言葉を言い終わる前にアカネは木ノ葉へと振り向き、そして空を見る。

 そこには常識では考えられない物があった。いや、超常の力を使う忍という存在に対して常識を問うのもおかしいかもしれないが、そんな忍であっても常識外れの事態が起こっていたのだ。

 それは……木ノ葉の里の遥か頭上。天高くから堕ちる巨大な隕石という有り得ない現象があったのだ。

 人の、個人の力で隕石を落とす。それを成す者を本当に人と呼んでいいのだろうか。

 

「さあ、防いでみせろ!」

 

 言われるまでもない。アカネは両手を勢い良く合わせ、そして周囲の自然エネルギーを吸収する。

 仙人モード。そう呼ばれる状態に至るのに要した時間は一秒未満。両目の周囲に僅かに隈取りが浮かぶくらいの変化という完璧な仙人モードに至ったアカネはその力を隕石に向けて放つ。

 

――仙法・螺旋風塵玉!――

 

 螺旋丸に風遁の性質変化を加えた術・螺旋風塵玉。強大な螺旋の渦に籠められた風の刃があらゆる物を切り刻み微塵と化すのだ。

 アカネはそれを巨大隕石へと撃ち放つ。螺旋風塵玉が命中した隕石は術名の通り粉微塵となり風に乗って散っていく。だが、そうであるにも関わらずアカネは新たな術を即座に発動した。

 

――仙法・八卦水壁掌!――

 

 八卦空壁掌に水遁を加える事で水の重さと高圧水流を得て圧倒的な破壊力を手に入れた八卦水壁掌だ。それは天から降り注ぐ二つ目(・・・)の隕石へと放たれた。

 膨大な水の壁が高速で放たれた事で二つ目の隕石は砕け散りながら彼方へと吹き飛んでいく。瞬く間に放たれた二つの極大仙術。まさに伝説の三忍の名に偽りなし。だが――

 

「良くやった。だが、隙だらけだぞ?」

 

 その言葉を言い終わる前から、いや正確にはアカネが八卦水壁掌を放つ前からイズナはアカネに向けて須佐能乎の剣を振り下ろしていた。

 その一撃を避ける事はアカネには出来なかった。いや、元より避ければ木ノ葉へとその力が届いてしまう。初めから防ぐ以外の方法はアカネにはない。

 問題は……そのタイミングで放たれた須佐能乎の威力を木ノ葉へと届かせない為の廻天を発動する間がアカネにはなかった事だった。アカネに出来たのはせめてその身で少しでも威力を減らすべくその一撃を受ける事だけだ。

 

 イズナの凶刃が、アカネに振るわれた。

 

 




 黒幕イズナ登場。

 MADARA「焦るなイズナ。急ぎすぎては何も掴む事は出来ないんだ」
 原作マダラ「だ、誰だこいつ?」
 原作柱間「り、理想のMADARAがここにいる……」
 原作扉間(無限月読に掛かったかな?)

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