どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第十九話

 今、木ノ葉の里をある衝撃が襲っていた。

 二代目三忍自来也死す。それは多くの忍にとって信じがたい出来事であった。

 三忍とは木ノ葉にとって特別な称号だ。それは初代三忍が木ノ葉の設立者であり、そして並ぶ者がいない実力者だったからである。

 それは二代目三忍も同じだ。多くの忍にとって三忍とは雲の上の存在なのだ。

 

 その三忍である自来也が暁のリーダーであるペインに敗れた。

 強く、里を愛し、忍の文字に恥じない忍耐を持つ彼が死んだ事も衝撃だったが、暁のリーダーが自来也を上回る強さという事もまた木ノ葉を揺るがしている衝撃であった。

 あの三忍でも勝てなかった。それを知って危機感を覚えない忍は木ノ葉にはいないだろう。

 

 そして、自来也の最後の弟子であるナルトもまた、自来也の死を知って嘆き悲しんでいた。

 

 

 

「何でそんな無茶を許したんだってばよ!!」

 

 ナルトは火影室で綱手に詰問していた。暁という危険な組織のリーダーがいるアジトに一人で潜入任務をする。それがどれだけ危険な任務かはナルトにも理解出来る。

 だというのに、そんな危険な任務を自来也一人で行かせたのだ。それがナルトには許せなかった。

 正確には自来也が自ら買って出た任務であり、一人ではないと逆に難しい任務であり、そして綱手は反対をした側なのだが、最終的に一人で行かせた事に変わりはないと綱手はナルトの言葉を否定しなかったのだ。

 

「バアちゃんはエロ仙人の性格を良く分かってんだろ! たった一人でそんな危ねー所に――」

「よせナルト。五代目の気持ちが分からないお前じゃないだろ」

 

 なおも綱手を責めるナルトをカカシが宥める。ナルトとて綱手が親しい人の死をどう受け止めているかは理解している。

 だが、理解出来るからと言ってそれで納得出来る程ナルトは大人にはなっていなかった。

 

「くそ! 大体、そんな危険な任務ならアカネが一緒にいれば良かったじゃねーか!」

 

 それを聞いてアカネは顔を僅かに顰めるが、すぐに表情を元に戻してナルトへと言葉を返した。

 

「私とて常に誰かに付いていられる訳ではありません。忍の世界に死とは切っても切れない物。どんな強者でも死ぬ事はあります。私がいればどうにかなると思っているなら大間違いですよ」

「う……」

 

 静かだが、しかしはっきりとした物言いとアカネから放たれた圧力にナルトは気圧されて何も言い返せなくなる。

 任務と死は隣り合わせ。それは分かっていたつもりだった。だが、親しい人の死に慣れていないナルトにはやはりつもり(・・・)だったという事だろう。

 

「くそ!」

 

 ナルトは五代目火影が自来也だったならば綱手にこんな無茶をさせていなかったと悪態を吐いて火影室から退室する。

 

「ナルト!」

「サクラ……いい。少しそっとしておいてやれ。それよりも、お前も退室しろ。少し緊急の話し合いがある」

 

 そんなナルトを追いかけようとするサクラを綱手は止め、そしてサクラにも退室を促した。

 今のナルトには時間を与えた方がいいという綱手の判断だろう。その言葉に従いサクラはナルトを追う事はなく、自身も退室した。

 

「……オレはいいのか?」

 

 サクラは退室させて自分は残される。それを不思議に思ったサスケは綱手に問い掛ける。

 

「お前には頼みがある」

「……ちっ。分かったよ。オレも今のナルトじゃ戦い甲斐がないからな」

 

 サスケは綱手が何を頼みたいのかすぐに理解した。

 今のナルトは大切な師匠が死んでしまい落ち込んでいる。優しく慰めてあげる事も必要だが、発奮を掛けた方が上手くいく場合もある。特にナルトの様なタイプだとそうだろう。

 

「理解が早いな……流石はライバルというところか」

「ふん」

 

 綱手が親友と言わなかったのは言っても拒否されるからだ。

 だがこんな親友がナルトの近くにいてくれた事を綱手は内心感謝していた。

 

「だが、今日の所は放っておいてやってくれ。あいつも一人で考えたい事もあるだろうしな」

「過保護すぎんぜアンタ。まあいい、それじゃあオレは行くぜ」

 

 そう言ってサスケは火影室を退室する。口ではこう言っているが、親がいないナルトにはこれくらいの理解者がいてもいいだろうという思いもあった。

 

「ウスラトンカチが……」

 

 その理解者を罵倒して出て行ったナルトに若干の怒りを感じつつ、同時に自来也が死んだ事で悲しむ気持ちも理解する。

 自分だったらどうだろうか。そう考えればぞっとする。家族が任務で死んだら自分は怒り憎しみ、そして何を捨ててでも復讐に走るだろう。そんな嫌な自信があったからだ。

 

「ちっ! オレは何を考えている……」

 

 起こっていない出来事を考えて嫌な気持ちになるという何の得にもならない事をする自分が馬鹿らしくなり頭を振る。

 自来也が死んだ事で意外に影響を受けているのか。そう思ったサスケは気分を変えるべく窓から飛び出して外の空気を浴びに行った。

 

 

 

 ナルト達が退室した火影室では残る四人による話し合いが始まっていた。

 まあ、四人と言っても一人は蛙なので三人と一匹というのが正しいのかもしれないが。

 

「さて、問題はペインの能力だな」

 

 綱手はまずそこからだと話を切り出す。ペインの能力が理解出来なければ自来也と同じく返り討ちにあってしまうだろう。

 

「うむ。奴らは――」

 

 ペインの能力を自来也と共に体験したフカサクが知りうる限りの情報を顕わにする。

 それを聞いたカカシはペインの底知れなさに恐怖する。一人で挑んで勝てる相手ではない。ここまでの情報を手に入れた自来也の奮闘に頭が下がる思いだ。

 

「視界の共有と個体ごとの固有能力。大まかにはこれくらいですが、その固有能力がまた厄介ですね」

「うむ。特に復活と斥力の様な能力。これらをどうにかしない限り勝ち目は薄いな。……ばあ様はどうだ?」

 

 ペインの能力について纏めていた綱手はそれらの能力を相手にアカネが勝てるかどうかを確認する。

 どうにも綱手ですら自分を頼る気持ちが零ではないようだ。そう思うアカネだが、まあ人に頼る事は全てが悪い事ではないかと思い直す。

 物事の全てを他人に頼っては成長にはならないが、緊急事態なら話は別だ。それに綱手は常日頃からアカネに頼っている訳ではないので問題はないだろう。

 

「まあ、体験してみない事にはどうとも言えませんね。その斥力とやらが私の想像以上なら私でも苦戦するかもしれません」

「……そうか」

 

 アカネでも苦戦するやもしれないペインの実力に驚くべきか、自来也を圧倒したペインに苦戦で済ませるアカネに驚くべきか。アカネを除くこの部屋の者達は全員が同じ思いを抱いた。

 

「それに伝説の輪廻眼です。他にも能力があってもおかしくはありません」

 

 アカネは友であり同志であり好敵手でもあったうちはマダラを思いだす。

 マダラの持つ写輪眼を超えた万華鏡写輪眼は凄まじい瞳力を有していた。特に完成体と呼ばれる須佐能乎の威力は天を裂き地を砕き山を断つ程だ。

 そして輪廻眼と言えば三大瞳術の中で最も崇高と謳われている代物だ。ならばマダラの万華鏡写輪眼を超えていてもおかしくはない。

 自来也と戦った時ですら本気ではなかったのかもしれない。そうであるならばアカネとて勝てるとは言い切れなかった。

 

「警戒するに越した事はないな……。フカサク様、他に情報はないのか?」

「うむ……どうもあのペインは全て本物ではないようじゃ」

「本物では……ない?」

 

 綱手の言葉にフカサクは首肯し、そして詳細を述べた。

 

「これは自来也ちゃんが気付いたんじゃがの。あのペイン六道は全て過去に自来也ちゃんが出会った事のある忍の様なのじゃ」

「……? つまり、そいつらが全員輪廻眼を持っていたのか?」

「いや、そうではない。自来也ちゃんが出会った時には誰も輪廻眼など持っておらんかったそうじゃ。つまり、ペイン六道は後天的に輪廻眼を得たという事になる」

 

 後天的に輪廻眼を手に入れる。それが事実ならどれ程恐ろしい事か。

 一人ならまだしも、六人もの人間が輪廻眼を後天的に得るなど出来る訳がない。輪廻眼の大量生産を可能とするならそれだけで忍界を牛耳る事が出来るだろう。

 

「これも自来也ちゃんの予想なんじゃがな。恐らく輪廻眼を持つ者はかつての自来也ちゃんの弟子である長門一人じゃろう」

「だったら何故そんなにも輪廻眼を持つ者がいるんだ?」

「……ペイン六道の中に長門とやらはおらんようじゃった。恐らくその長門本体が全てのペイン六道を操っている。そうであるならば納得が行く話じゃ」

 

 フカサクの言葉を聞いた三人はこれまでの情報を吟味する。

 一個体につき一つの固有能力。六人全員が持つ輪廻眼。全ての視界を共有。全身に刺さったチャクラを乱す黒い棒。死体の復活。そしてペイン六道はかつては誰も輪廻眼を持っていなかった。

 長門本人がペイン六道に己の力を分け与えて全てを操作している。確証のない推測だ。だが、確かにそう言われると全てに納得が行った。

 

「だとしたら本体を倒さない限り……」

「ペインを倒した事にはならない、な」

 

 カカシと綱手が難しそうに呻く。ただでさえ強いというのに、本体がどこにいるかも分からずに倒す事が出来るのだろうか、と。

 

「とにかく今は自来也のおかげで手に入れた情報源から新たな情報が得られる事を期待しましょう」

「……そうだな」

 

 黒い棒とペイン六道の一人餓鬼道の死体、そして雨隠れの忍。これら全てを調べ上げれば更なる情報が得られるだろう。

 そうなればよりペインの秘密に近付けるやもしれない。今はそれを待つしかないと綱手も判断した。

 

「さて、ではナルトですが……明日になって本人の気持ちが定まっていれば仙術の修行をつけましょう」

「ようやくか……こう言っては何だが、もっと早くにしても良かったんじゃないか、ばあ様?」

 

 綱手の疑問は分からなくもない。既にナルトの基礎能力は仙術を学ぶに十分過ぎる程に達している。

 仙術を身に付けるには自然エネルギーに負けないくらい多くのチャクラを有していなければならないが、ナルトは完全に基準値を超えていた。

 それでもアカネがナルトに仙術を学ばせなかったのには理由があった。

 

「もちろんナルトに仙術を教える事は吝かではなかったのですが……今の第七班の関係が非常に上手く回っていましてね……」

 

 そう、アカネの言う通り今の第七班の関係は非常に上手く行っていた。それはそれぞれの力関係についてだ。

 ナルトは現状でもサスケとほぼ互角の力量に至っている。それでもナルトはサスケに負ける事が多いので必死に努力して修行し、サスケはナルトに追い付かれまいと修行に更に励み、同じ様にサクラも二人に追い付こうと努力する。

 だがナルトが仙術を覚えてしまうとこの関係が崩れてしまう可能性があるのだ。

 

 仙術を覚えたナルトは確実にサスケを圧倒する実力を得るだろう。もちろんそうなるとサスケも負けじと努力するだろうし、サクラも同じだ。

 だがアカネの理想としては今の力量関係を維持したままの方が実力の伸びが早いのだ。仙術を覚える事はいざとなればいつでも出来るので後回しにした結果である。

 更に言えばナルトの向上心が減少する可能性も考慮していた。サスケを圧倒する実力を得て調子に乗って修行への気の入り方がこれまでと比べて減少するだろうというアカネの予想だ。

 これに関しては修行をしなくなるという事はないだろうが、確実に起こり得る事態だとは思っていた。人間は目標を達成すると気が抜けてしまうものなのだ。

 

「ですが、自来也の死という衝撃を受けたナルトならばその心配もないでしょう。理不尽な力から誰かを守る為には自身にも力が必要。それをナルトなら分かるはずです」

「……そうだな。荒療治だが、これが忍の世だ。ナルトには悪いが今回の件を糧にして欲しい……」

 

 死に慣れては欲しくないが、死と隣り合わせの世界に生きている。その実感はして欲しい。そういう贅沢な願いを籠めて綱手は呟いた。

 

「ナルトならきっと乗り越えてくれる。私はそう信じている」

 

 

 

 

 

 

 自来也の訃報から一夜明けた木ノ葉の朝。ナルトは未だ自来也の死から立ち直れずに自室にて籠もっていた。

 昨夜に恩師であるアカデミーの講師イルカに慰め励まされたが、やはり完全に振りきれてはいないようだ。

 部屋の明かりを点けるのも億劫だ。そんな風にナルトが沈んでいる時、玄関のチャイムが鳴り響いた。

 無視しようかという思いもあったが、何か重要な任務に繋がる話かもしれない。忍としての習性が捨てきれずにナルトはゆっくりと玄関へと移動する。

 そして扉を開いた時に驚愕した。そこには同じ第七班にしてライバルであるサスケの姿があったからだ。

 今までサスケがナルトの家を訪ねた事はなかった。だからこそ余計に驚愕したのだ。

 

「サスケ……な、何の用だってばよ?」

「ちょっと面貸せウスラトンカチ」

 

 いつもなら反応しているその罵倒にナルトは呆ける事しか出来なかった。

 サスケの剣幕に押されての事だが、そんなナルトを見てサスケは苛立ちを覚える。

 

 サスケはナルトの返事を待たずにさっさと移動する。

 

「ちょ、待てよサスケ!」

 

 ナルトは慌ててサスケの後を追う。

 道中サスケは一言も言葉を発さず、それに対してナルトも何も言えなかった。

 

 そうして二人が着いたのは演習場の一つだった。

 

「おい、どうしてこんな場所に来るんだってばよ!?」

 

 まさか今この状況で戦おうと言うのか。だったら別の時にしてくれ。

 そう言おうと思っていたナルトだが、その言葉を口にする事は出来なかった。

 

「ぐあっ!?」

 

 ナルトに背を向けていたサスケが突如として振り返ってナルトを力いっぱい殴りつけたからだ。

 サスケの突然の行動にナルトは反応する事も出来なかった。そしてその隙を突いてサスケは何度もナルトを殴り、蹴り飛ばす。

 

「な、何しやがる……!」

 

 蹴り飛ばされて距離が開いた事でようやくナルトはその言葉を口にする事が出来た。

 怒りを顕わにするナルトに対して、サスケはそれ以上の憤怒を見せていた。

 

「気に入らねェんだよ」

「……なっ!?」

 

 サスケから放たれる怒気と、写輪眼となったその鋭い視線にナルトは気圧された。

 

「さっきから何だその態度は。いつからお前はそんなに腑抜けになった? あの程度の攻撃なんざ修行でいくらでも受けてきただろうが。それが反応する事すら出来ないとはな。無様だなナルトォ!」

「うっ……く……」

 

 サスケは気に入らなかった。今のナルトの全てが気に入らなかった。

 自分に追い付こうと追い抜こうとするナルトはどこにもおらず、ただの負け犬がそこにはいた。

 あの程度の剣幕に気圧されてのこのこと付いて来て、あの程度の奇襲に反応出来ずにただ殴られるままでいて、この程度の怒気に気圧されて何も言えなくなる。

 そんなナルトはサスケの知るナルトではなかった。サスケの知るライバルの姿ではなかった。それがサスケには心底我慢出来なかった。

 

「これがオレと同じ班の一員か! これがオレの認めた男か! これがオレの……クソがっ!」

 

 最後の言葉を飲み込んで、サスケは怒りのままにナルトに突撃した。

 

「ナルトォ!」

 

 忍術も幻術も使わない。ただ体術のみで攻撃する。いや、振りかぶって殴っているだけで、それは体術と呼ばれる物ですらなかった。

 そう、子どもの喧嘩の様に力一杯に攻撃しているだけだ。

 

 五発、六発と殴られていく内に、ナルトにはサスケの思いが理解出来てきた。

 

(……そうか……)

 

 サスケは悔しかったのだ。自分が認めた男が腑抜けになった様を見て。

 サスケとて最初はただ発破を掛けるだけにするつもりだった。だが、ナルトを一目見た瞬間にそんな気持ちが吹き飛んだのだ。

 こんな男が自分のライバルなわけがない。こんな男がオレの……オレの最も親しい友なわけがない。

 そんな思いを籠めて、不器用なサスケはただ全力でナルトを殴りつけているのだ。

 

(すまねぇ……サスケ……)

「おおお!」

 

 サスケが放ったテレフォンパンチをナルトがまともに喰らう。それを見てサスケは目を見開いた。

 サスケには分かったのだ。今の一撃をナルトはわざと受けたのだと。

 そしてナルトは吹き飛びつつも倒れる事なく踏みとどまり、叫んだ。

 

「サスケェ!」

「がっ!?」

 

 助走を付けて思い切り振り被り叩きつけた拳をサスケはまともに喰らう。

 吹き飛ばされつつも、サスケもナルトと同じ様に踏みとどまり、そしてナルトと同じ様に叫びながら前に出る。

 

「うおおおぉ!」

「ぐぅ!!」

 

 またも吹き飛ばされるナルト。そして再びサスケを全力で殴り飛ばす。サスケも負けじとナルトを殴り返す。

 そこにあったのは忍同士の戦いではなく、ただの意地の張り合いであった。

 

 

 

 どれだけの時間が過ぎたのか。本人達は数時間は経ったかの様に思っていたが、実際は十分も経ってはいなかった。

 二人は既にボロボロだ。避ける事もなく全力で殴り合えばそうもなろう。だが、それでも二人の顔はどこか晴れ晴れとしていた。

 

「……今日もオレの勝ちだウスラトンカチ……」

「……当たり前だろうが……お前の方が先に殴ってんじゃねーか」

 

 サスケの言う通り先に倒れたのがナルトだったので勝者がどちらかと言えばサスケだろう。

 だがナルトの言う通り最初にナルトを多く殴っているのでそれだけサスケが有利だったのは当然だ。

 

「……いつまでもウジウジしてんじゃねーよ」

「ああ……分かってんよ」

 

 それ以上の言葉はナルトには必要なかった。言葉以上に分かりやすくサスケが教えてくれたからだ。

 落ち込んでいても何も始まらない。悲しむ事が悪い訳ではない。だが、それで進む事を止めてしまっても死んだ人間は帰ってこない。

 

「エロ仙人の想いはオレが受け継ぐ……そうじゃなきゃ、弟子失格だからな……」

「……ふん」

 

 ナルトの想いを聞いたサスケはようやく自分なりの結論を見つけたかと思い、そしてその結論に至れたナルトを内心で尊敬する。

 自分とナルトの立場が逆であったならば。その時自分は同じ結論に至れるだろうか。その自信がサスケにはなかった。

 

 

 

 

 

 

「なんでこんなにボロボロなのよぉ!?」

 

 顔中ぼこぼこでもはや別人のように膨れ上がっていたナルトとサスケを見てサクラは憤慨する。

 修行でもこんなになった事はないというのに、まさに酷い有様であった。まあ、顔だけを狙ってひたすら防御も回避もせずに殴りあっていたらこうもなろう。

 

「全くもう! 本当に何時まで経っても子どもなんだから!」

「ごめんよサクラちゃん……」

「わりぃ……」

 

 手当てをしてもらっている身としては二人とも謝る事しか出来なかった。

 顔は腫れ上がって痛みを通り越して外の空気が気持ちよくなるくらいに熱を持ち、口内は鉄の味しかしていないのだ。

 これで医療忍者を怒らせて治療をしてくれなかったら当分はまともに動けなくなっているだろう。

 

「ホントにもう……男って馬鹿なんだから……」

『……』

 

 サクラのその言葉に二人は何も言えなかった。ただの侮蔑の言葉とは違う、その言葉に籠められた思いを理解したからだ。

 ちなみに近くにはアカネもおり、サクラの言葉に「うんうん」と頷いて同意していた。どうやらかつての親友達を思いだしているようだ。

 

 アカネが過去に思いを馳せている間にナルト達の傷はサクラの医療忍術により完治する。

 治療を終えたナルトはサクラに礼を述べるとすぐに火影室へと赴いた。自来也の想いを受け継ぐと決めた今、やるべき事は一つだろう。

 

「ばあちゃん! エロ仙人を倒した敵の事を詳しく教えてくれ!」

 

 ナルトがやるべき事は自来也を殺した敵を倒す事である。

 敵討ちをしたいという思いもあるだろう。だが、自来也が倒せなかった敵を自来也の代わりに倒す。それが自来也の意思を継ぐ第一歩だと思ったのだ。

 

「……少しは吹っ切れたか」

 

 突如として火影室に押しかけて第一声が挨拶でないという失礼極まりない態度であったが、綱手は不機嫌になるどころか昨日とは打って変わったその顔を見ることで笑みを浮かべた。

 

「いいだろう。だが、ペインの情報を教えたところで今のお前をペインと闘わせるわけにはいかん」

「なんでだよばあちゃん!? エロ仙人の(かたき)はオレが討たなきゃならないんだ!」

 

 気持ちの整理をつけてやる気を漲らせていたナルトに今の綱手の言葉は納得が行かなかった。

 だが綱手としても言い分がある。負けると決まっている闘いをナルトにさせるわけには行かないからだ。

 

「今のお前ではペインには勝てん。九尾の人柱力であるお前がペインに負けてしまえばどうなるか……お前も風影を通じて理解しているはずだ」

「っ! ……だったら、このまま黙って他の奴らがペインを倒すのをみてろって言うのかよ!?」

 

 暁に負けた人柱力がどうなるか。それは我愛羅の一件でナルトも良く分かっていた。綱手の言い分も理解出来る。

 だが、だからといって「はい分かりました」と言って納得出来るナルトではない。

 それを綱手も良く分かっている。だからこそ、ナルトのその噛みつくような言葉に不敵に笑って答えを返す。

 

「勘違いするな。私は今のお前では、と言ったんだ」

「え? ……どういうことだってばよ!?」

 

 ナルトの疑問には綱手の代わりにフカサクが答える。

 

「ナルトちゃんには妙木山で仙術の修行をしてもらう。仙術を身に付けん限りにはペインに抗う事も出来んからのう」

「せん……じゅつ?」

「そうじゃ。自来也ちゃんも身に付けていた力じゃ」

 

 自来也も身に付けていた。それを聞いたナルトは目を見張りフカサクに掴みかかるように確認をする。

 

「それでホントにペインに勝てるのか!?」

「それは分からん。じゃが、今のままでは勝ち目がない事は確実じゃ」

「……」

 

 それを聞いたナルトはどの道これ以外に方法がないと理解する。

 仙術を身に付けなければ綱手はペインとは闘わせようとしないだろうし、そもそも勝ち目がない。

 ならば答えは簡単だ。例えどれほど厳しい修行だろうと必ず乗り越えて仙術を身に付ける。それ以外にない。

 

「仙術の修行は想像以上に厳しいぞ! それでもやるかえ?」

「エロ仙人にも出来た事だろ? だったらオレだって負けねぇ! やってやる!!」

 

 そうしてナルトの仙術修行が始まった。

 妙木山は木ノ葉から歩いて一ヶ月は掛かる上に、秘密のルートを知らない限り辿り着く事すら不可能な秘境にある。

 だが蝦蟇と口寄せ契約を結んでいる者ならば逆口寄せにより直接妙木山へ移動する事が出来るのだ。

 妙木山へと辿り着いたナルトは蝦蟇仙人から厳しい仙術修行を受ける事になる。

 

 だが、ナルトが修行に励んでいる間も時は全てのモノに等しく流れていく。

 ナルトが妙木山に赴いてから一週間。とうとう暁が木ノ葉へと襲撃を仕掛けたのである。

 

 

 

 

 

 

「ちっ……」

 

 修行が上手く進まずに舌打ちをするサスケにアカネは宥めるように話しかける。

 

「焦る必要はありませんよ。自然エネルギーは簡単に感じ取れるものではありませんから」

 

 アカネの言葉が示す通り、サスケは自然エネルギーを感じ取る修行をしていた。

 もちろんその理由は仙術を得る為であり、仙術を得る理由はナルトに負けたくない為である。非常に分かりやすい男であった。

 

「妙木山以外にも仙術を学べる場所はないのか?」

 

 ナルトが妙木山に旅だってから一週間しか経っていないが、それだけの期間を掛けて修行の成果が出なかった覚えがないサスケは一向に進まない仙術修行に苛立っていた。

 正確には仙術を学ぶ上で最高の環境である妙木山にいるナルトが自分よりも先に進んでいるかもしれない事に苛立っているのだが。

 

「あるにはありますよ。湿骨林と龍地洞です」

「……それはなに(・・)なに(・・)の秘境だ?」

「湿骨林が蛞蝓で、龍地洞が蛇ですね」

「……その中じゃ蛇がマシか。じゃあ――」

「残念。私も龍地洞の場所は知りません。湿骨林なら分かりますよ?」

「……遠慮しとく」

 

 サスケはナルトが仙術修行をしていると聞いた当初は自分も妙木山に行くと言い出していた。

 だがアカネからの説明を聞いて前言撤回した。その説明とは、秘境にて仙術を会得するとその秘境の特徴が現れるというものだった。

 つまり蝦蟇の秘境である妙木山で仙術修行をすると、仙人モードになった時に蛙の影響を受けて見た目が蛙っぽく変化するのだ。

 もっともこれは仙術に対する適正が高ければ変化も少なくなるのだが。ちなみに自来也は少々の影響を受けて見た目が若干蛙化していた。

 

 とにかく、それを聞いたサスケは蛙になる事を拒んで妙木山行きを取り止めた。

 ならば秘境に頼らずに仙術修行をする。それがサスケの考えであったが、流石に何のとっかかりもなしに自然エネルギーを感じ取って吸収する事は天才サスケをして難しかったようだ。

 何の成果も得られない為に妙木山以外の秘境をと確認したが、返って来た答えはサスケにとって残念極まりないものだった。

 蛙・蛞蝓・蛇ならばまだ蛇がマシと思ったが、肝心の蛇仙人の秘境である龍地洞の場所はアカネをして知らなかったのでどうしようもない。

 

「……ナメクジ可愛いのに」

「それだけは共感できねーな」

 

 今すぐカツユを口寄せしてその可愛さをたっぷりと教えてやろうか。そう思ったアカネだったが、流石にそれは止めにした。

 

「とにかくです。秘境に頼らずに仙術を会得するならそれ相応の時間が必要になります。まあ、サスケなら1ヶ月もすれば自然エネルギーを感じ取れる様になるでしょう。ですが問題は別にあります」

「問題?」

「ええ。仙術の説明はしたから覚えているでしょうが、仙術エネルギーとはチャクラの源である身体エネルギーと精神エネルギーに更に自然エネルギーを混ぜ合わせて生み出されるものです」

 

 それは修行の始めにアカネから教わった事だ。ナルトと違いそれなりに記憶力のいいサスケは当然それを覚えている。

 自然エネルギーという外なるエネルギーを加える事で内なるエネルギーのみのチャクラよりも遥かに強くなれると。

 しかも自然エネルギーは世界に溢れ返っている。使えば使うほど消耗する従来のチャクラと違い、取り込めば取り込む程逆に体力を回復するのだ。

 スタミナでナルトに負けているサスケには打ってつけの力と言えた。だからこそサスケは仙術チャクラを会得したかったのだ。

 だが、ナルトと比べてチャクラが少ない。それが仙術を得る上でのネックだった。

 

「自然エネルギーとは非常に強力な力です。その身に膨大なチャクラを持たないと自然エネルギーを取り込んだ時に逆に自然エネルギーに取り込まれてしまいます」

「自然エネルギーに取り込まれる?」

 

 それはどう言う事なのか。想像もつかないサスケに対し、アカネは恐ろしい答えを返した。

 

「自然エネルギーを取り込み過ぎた場合、その者は石へと変化してしまうのです。それも永遠に……」

「!?」

 

 それこそが仙術を学ぶ上で最も重要かつ恐ろしい事実だ。

 自然エネルギーとはあまりに強すぎるが為に下手に利用すると大きなしっぺ返しを受けてしまうのだ。

 

「今のあなたのチャクラ量ならば最低限の仙術を会得する事は出来ます。ですが、取り込める自然エネルギーの量は確実にナルトよりも劣ります」

「……」

 

 サスケのチャクラ量は決して少ないわけではない。木ノ葉の上忍の平均の倍はあるだろう。むしろ多いくらいだ。だが、ナルトはその倍以上のチャクラを持っているのだ。

 そのチャクラの差はそのまま自然エネルギーを取り込める許容量の差に繋がる。取り込む自然エネルギーがナルトよりも少なければどうなるか。それくらい馬鹿でも分かるだろう。

 ナルトとサスケが同じ仙人モードになってもその効力は圧倒的にナルトが有利だと言う事だ。

 

「どうしますか? 会得するには危険が過ぎ、会得した所でナルト程の成果を得られない。それでも仙術の修行を続けますか?」

「……」

 

 アカネの問い掛けにサスケはしばし沈黙し、そしてニヤリと笑う。

 

「少ないチャクラも要は使い様だ。そうやってオレはナルトに勝ってきた。これまでも、そしてこれからもだ。仙術も術である以上武器の一つ。質で劣っても使い手が上ならば何の問題もない」

 

 そう、サスケのチャクラがナルト以下なのは今までも同様なのだ。取り込める自然エネルギーが少なくとも、それもこれまでと変わらないだけの話。

 例え少ないチャクラだろうとそれでもナルトを上回る。手に持つ手段を最大限に活かして戦うのが忍なのだ。

 チャクラ量も、忍術も、幻術も、体術も、戦術も、仙術も、それらは全て手段に過ぎない。それを相手よりも上手く活用した者が勝者となるのだ。

 たかだかチャクラ量が劣るだけで負けるわけには行かない。それがサスケの考えであった。

 

 サスケの答えを聞いたアカネは機嫌良さそうに笑う。

 

「分かりました。それでは仙術の修行を続けましょう。まずは自然エネルギーを感じ取る事からですが……修行の前に言った様に、私がいない時には絶対に仙術の修行をしてはいけませんよ?」

「ああ……オレも石になんかなりたくないからな」

 

 最初に聞いた時はその理由が分からなかったサスケだったが、自然エネルギーを取り込み過ぎた場合は石に変化してしまうと聞けば納得もする。

 誰かにそれを止めて貰わなければ一度の失敗で永遠に自然物の仲間入りだ。それはサスケも御免であった。

 

「ではじっとして自然エネルギーを感じ取る修行を再開します」

 

 自然エネルギーは生物としての流れを止め、自然の流れと調和して初めて感じ取る事が出来る。

 その為には指先一つ動かさずにじっとしなければならないのだ。聞くだけだと簡単だが、実際にそれを実行する事は困難だ。

 動物とは読んで字の如く動く物である。動かずに居続ける事は非常に難しく辛いのである。

 

「くっ……激しい修行の方がまだ楽だぜ……」

 

 今までの修行と全く別物の修行にサスケは地獄の修行の方がまだ楽だったとこぼしてしまう。

 それを聞いたアカネは仙術を会得したら次は仙術の修行が楽だったと思わせてやろうと考え――突如として愕然とした。

 

「な……!」 

「……? お、おい? どうしたアカネ?」

 

 急に振り返ってあらぬ方向を見つめて目を見開くアカネにサスケは驚愕する。

 今までアカネと接して来て、こんな反応をしたアカネを見たのは初めてなのだ。

 心配するサスケを気に掛ける事も出来ずにアカネは小さく呟いた。

 

「穢土転生……なのか? ……マダラ」

 

 うちはマダラ。かつての同志にして好敵手にして、そして最高の友。

 そのチャクラを感じ取り、アカネは驚愕に目を見張った。

 

 




 仙術に関しては独自解釈があります。またナルトが何日で仙術を会得したのか原作を読む限りでは理解出来ませんでしたが、何十日も修行した様な描写もなかったので一週間とさせていただきました。

 SASUKE「全く世話を焼かせやがって、あのウスラトンカチが」
 原作サスケ「だ、誰だこいつ……?」
 原作ナルト「つまり、どういうことだってばよ?」
 原作サクラ(ちょっと熱血入ったSASUKE君も素敵かも……)

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