八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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またしても一夏&千冬がメイン回。
今後こなすかどうかすら未定のイベントの前置きみたいなもんです。
というか予防線ですね、今後の構成しだいというところでしょうか。


第89話 姉と弟と義妹

「おはよう、黒乃。朝早くから済まん―――おい、その頬の傷はどうした?切ったのか、それとも火傷か?どうなんだ黒乃」

(おはようごぜーます!と、とりあえず前後に振るのを止めっ、止めてくだせー!)

 

 私たちの誕生日パーティーがから明け、いつも通りの日常が戻った。学園に戻ったのは日曜日の夕方ごろなのだが、その際には既に月曜日の早くから訪問したいというちー姉からの連絡が。私には承諾も拒否もできないので、指定された時間にきちんと出迎えの準備をしていたということ。

 

 イッチーはランニングにいったのでとりあえず軽食の片づけをしていたのだけれど、想像以上にちー姉の訪問が早かった。コーヒーくらいは用意しようと思ってたから、とりあえず座って待っててと伝えようとしたのに……私の右頬に張られているガーゼをみるなりこれだ。

 

 あ~……これはどうやって落ち着かせればいいのだろう。イッチーがいれば少しは説明が―――いや、それはダメだ。血が止まった後に病院でみてもらったところ、この傷はやっぱり残るタイプだという診断が下された。それを知れば、実は過保護なちー姉がどうなるか解ったものではない。

 

「……大丈夫」

「……解った、ならば追及は止めておこう」

 

 その場しのぎで嘘をついてみたけれど、返ってきたちー姉の反応をみるにどうやらバレてはいるらしい。程度の具合は悟られてはいないだろうが、最終的にはどう乗り越えようかなぁ……。とにかくイッチーが責められるのだけは避けるとして、今はちー姉の用事を確認してみよう。言葉にできなきゃずっと注視するしかできませんけど。

 

「…………」

「ああ、押しかけておいて悪いな。まぁとりあえずだ、こいつを受け取ってくれ。誕生日おめでとう、黒乃」

(うわぁ!ありがとう、ちー姉!)

 

 まさかちー姉からの誕生日プレゼントとは思わず、嬉々としながらラッピングされた包みを受け取った。リボンを外して綺麗に包装紙を取り外すと、中に入っていたのはメークセット一式といったところだろうか。うわわ、多分これはかなりの値が張ったはずじゃ……。

 

「美容に気を付ける心構えになったのならば、メークくらい覚えねばと思ってな。困ったのならば相談に来るといい。山田先生あたりにも声をかけておこう」

 

 なるほど、だからメークセットなわけだ。確かにそこは盲点だったかも……。結局はメークなんてしたのお墓参りのときくらいだもの。せっかくのプレゼントなんだし腐らせるわけにもいかないよね!よし、頑張って勉強してイッチーに綺麗だなって褒めてもらうぞー!

 

 恐縮しそうになる気持ちは消え失せ、感謝の気持ちでいっぱいとなった。深々と頭を下げてお礼をしてみると、そう恐縮するなといわれてしまう。あ、なるほど……周囲からだとそうみえるのか、じゃあすぐさま姿勢を戻さないとだな。ふぃ~……感謝がストレートに伝わないとは困ったものだよ。

 

「あ~……それと、だな。お前にどうしてもいっておかなければならんことができた」

(うん?どうしてもって、なにか深刻なことかな)

「弟を―――一夏のことをよろしく頼む」

(は……?あ、あ~……そうっすか、伝わってますか……。は、恥ずかし―――というより顔上げてーな)

 

 メークセットを自分用の私物スペースへしまっていると、ちー姉は深刻と照れの中間のような表情を浮かべていい辛そうに切り出した。いったいなにごとかと続きを待ち受けていると、どうにも私とイッチーの関係性について耳に届いているようで―――今度はちー姉が深々と頭を下げるじゃないか。

 

 っていうか、本当にやめてよそんなの……私たち、意味は違うけど家族じゃん。まぁ、近い将来は完全に親戚になる可能性が高いんだけどさ。とにかく、知らない仲じゃないのにそうやって畏まられると申し訳ないし恥ずかしいよ……。私が肩を掴んで顔を上げさせると、本人もなんだかやり過ぎであるとは思っているみたいだ。

 

「……済まんな、私もあまり人のことはいえんが―――ふがいない弟だ、お前にはかなり勿体ない奴だと思っている。だが、それと同時に―――あいつにふさわしいのは黒乃、お前以外にはいないだろう」

(こんなわけわかんない奴を好きなってもらってそんな!つーか、いっちゃいますけど元男ですからね!精神的に!)

「なんというか、あいつはいい意味でも悪い意味でも感情的だろう?だからこそ、いろいろと危うい部分がある。……迷惑でなければ支えてやってくれ、どうか隣に寄り添ってやってくれ」

(ちー姉……)

 

 よくも悪くも主人公体質というか、イッチーは誰かの為に怒ってあげられる人だ。……特に私の為にはよく怒ってくれていたと思う。まるでなにも表現できない私に代わるかのように。その際に、いきすぎだと感じたから止めたこともある。……今までのソレが、精神的支柱だったかどうかわからない。けど―――

 

 ちー姉のためとかじゃなく、イッチーの精神的支柱になりたいな……。だって私は、もう本当にイッチーが居ないとダメだ。例えばイッチーが命を落としたとするならば、それ以上私に生きる意味なんてない。きっと皆はそれでイッチーが喜ぶかなんていうかも知れないが、そんなのは関係のない話だよ。

 

 イッチーが居ない世界ならば、私は喜んで死を選ぶ。私にとって織斑 一夏という存在はそれほどのモノだ。そんなイッチーが壊れてしまいそうなときがくるならば、私が支えてあげたい。私が支えることでイッチーが立ち直れるのであれば、私の生きる意味を貫き通せるのだから。だから―――

 

「誓います」

「…………そうか、ありがとう……。ならば私も安心して婿が探せるというものだ」

 

 ちー姉の両手を包みながら契りを交わせば、そうかとみたこともないくらいに安心しきった表情を浮かべた。……やっぱりちー姉はいいお姉ちゃんだよね。幼少のころはかなり優しくされた覚えもある。最後は冗談めかしながらいうちー姉だが、この人が本気で婿を探せばすぐみつかるだろーなーと思う。

 

「……ところでだが、それはアレだ……はめて登校するつもりではあるまいな?」

(う、やっぱダメかな?なるべくなら片時も外したくはないんだけど……)

「待て馬鹿者、そんな目でみるな。解る、解るぞ……想い続けた男から指輪を送られたならばそういう気持ちは。だがな、左手の薬指ともならばいらん勘ぐりをする奴もいる」

 

 またしてもいい辛そうな表情をちー姉は浮かべる。皆まではいわなかったが、私の左手の薬指に当たり前のようにはめられえている指輪に対して物申したいらしい。そうして額に手を当て頭の痛そうに、やんわりと外してくれといわれる。う~ん……いらん勘ぐりねぇ。

 

 幸せ満開で気にならなかったが、確かに私は女子特有のドロドロした奴が集中しまくりだからなぁ……。私とイッチーが恋人の関係にあるうえに、ペアリングなんてはめてたらそれはもう。……私はともかくイッチーにも迷惑がかかっちゃうか……。うん、指摘されてありがとうちー姉ここは大人しく外しておくよ。

 

「いや、済まんな……本当に気持ちは解るんだぞ?我が弟の癖してロマンティックなことをしおってと思っているのだが―――」

(ちょっと待って、待って……。確かに少しは渋々だけどさ、なにもそこまでしなくたって大丈夫だよ?)

 

 なんだかよほど申し訳なく感じているのか、ちー姉は信じられないくらいに気持ちは解るがと繰り返す。それとも私がそこまで渋々と思われているかだけど……。どちらにせよ、互いに気を遣うせいで謝罪合戦のようなものが始まってしまう。それこそ互いに不毛だってのは理解してるんだろうけどなぁ……。

 

 最終的にはイッチーが戻って来てしまうということでちー姉は帰って行ったのだけれど、照れくさいから顔合わせ辛いって微妙に子供っぽい……。まぁ、そこは気にせず片付けの続きといきましょうか。私もイッチーが帰って来るまえにいろいろ済ませないとっと。

 

 

 

 

 

 

「なにか質問はあるか?なければホームルームを終了するぞ。……クラス代表」

「はい!」

 

 千冬姉が質問を促し、クラス内にそれに反応する者はいない。質問はないと判断したのか、千冬姉は次に俺へ号令を促す。元気に返事してから起立と礼の号令をかけると、まるで鍛えられた軍人のようにキビキビとした動きをみせる俺達。それを見届けた千冬姉が動き出すと、放課後がやってきた安心感からか脱力する面子ばかりだ。

 

「…………」

「っと、黒乃―――」

 

 ふと、制服の背中あたりを引っ張られた。顔を振り返らせてみると、晴れて恋人関係となった女の子が。黒乃は俺がその姿を確認したと同時に手を離す。完全に向き直ってみると、ただただ俺のことをみつめている。これは、用事があるかどうかの確認だろうか。

 

 俺と黒乃が恋人になったからって、特別なにが変わったわけでもない。なんというか、やはり付き合う前から俺たちがしてたのは恋人同士がすることだったんだなぁ……と。手を繋いだり、膝枕してもらったり、抱きしめてみたり……。なんだか思い出すだけで顔から火が出てしまいそうだ。

 

 それより、俺に用事っていっても前は自然に着いて来ていた気がするんだが。それで生徒会の仕事とか手伝ってもらってたんだけど……。わざわざ俺を引き留めるということは―――私になにか役に立てることはない?―――とでも聞かれているのだろうか。

 

 ……いじらしい。もう本当にいじらし過ぎて顔が自然とニヤけるのを止められない。慌てて口元に手を当て誤魔化すが、このくらいは見抜かれているんだろうな。ならば隠す必要もないだろう。だって俺の恋人がこんなにも可愛いんだから。俺は少しぎこちないながらも、黒乃に自分の意志を告げた。

 

「ご、ごめんな黒乃、訓練とかとは別にやることがあるんだ」

「…………」

「気持ちは嬉しいぞ、ありがとな。今日はゆっくり休んでいてくれ」

「…………」

 

 別に嘘はいっていないが、なんだか申し訳ない気分になる。けどそんな罪悪感も吹き飛ばすかのように、黒乃は間髪入れず首を縦に振った。以前ならばすぐ立ち去っていただろうが、黒乃の頭を撫でながらそう付け加えておく。すると黒乃は照れているのか、激しく首を縦に振ると足早に何処かへと去っていった。

 

 あぁぁぁ……可愛い。そりゃ前から可愛くはあったが、関係が変わるだけでこうも反応がストレートになるなんて思っちゃいないから可愛くて可愛くて……!……そんな可愛い黒乃のためにも、やっておかなきゃならないことがあるんだ。俺は駆け足で教室から飛び出した。

 

「織斑先生!」

「質問があるならしろといったろう。まぁ……聞くのが仕事だから対応はするが―――」

「……千冬姉として話がある」

「……そうか。ならば少し―――いや、今の方がいいな。……着いてこい」

 

 急いで追いかけた背中は、職員室付近でしっかり捕まえた。かなり遠方でその背を確認したと同時に声を上げると、件の人物―――千冬姉は訝しむ様子で俺を見据える。しかし、家族として話があると伝えれば、向こうも即対応してくれるらしい。……俺の真剣さが伝わったのだろうか。

 

「手早く入れ、余計な勘繰りをする馬鹿もいる」

「あれ、綺麗にしてるんだな」

「なに、どこぞのお人好しが定期的に現れては強行突破してでも掃除して去っていくものでな」

 

 案内されたのは千冬姉の部屋だった。前と違って生徒指導室でないのは、やはり誰かに聞かれるリスクがあるからだろうか。部屋に通されるなりついそんな感想が出てしまうが、千冬姉はなんだか俺をからかうときと同じ笑みを浮かべてそう返す。……黒乃のことか、それは初耳だな。

 

「そんな小言をいいに来たわけでもないだろう。座れ」

「……ああ」

「で、なにを聞きたい?」

「……千冬姉、織斑マドカって名前に心当たりはないか?」

 

 適当に座れといわれたので椅子へ腰かけると、ありがたいことに千冬姉はすぐさま本題へ入ってくれた。だからこそ、俺はストレートに抱いていた疑問をぶつける。いや、今回においては疑念と表現していいのかも知れない。だからといって、千冬姉が俺を騙しているとまではいわないが。

 

 だいいち、千冬姉がマドカと名乗った少女のこと全てを知っているとは思っていない。もし千冬姉に目的があって俺を騙していたとするならば、あそこで殺しもしないのに姿を現すメリットがなにもないからだ。よって、千冬姉と少女が共謀している線はまず薄い。

 

 逆をいえば、少女の目的は俺や黒乃を動揺させるものと考えるのが正解だろう。何故なら、解ってはいてもこうして聞かずにはいられないからだ。あの少女と千冬姉は、他人というには似すぎている。俺と兄妹だとしても、周囲からすればなんの違和感もないはず。

 

 だから俺は聞かずにはいられない、聞かねばならない。千冬姉の弟として、この事実を解決する義務というやつがある。それも主に黒乃のためであるのだが、千冬姉のためにもなるかもしれない。もしなにか抱えているとするならば、ここで吐き出して楽になってほしい。だが―――

 

「知らんな、そんな名は。誰にそんなことを吹き込まれた」

「誕生日パーティの日に、千冬姉そっくりな女の子が自分でそう名乗ったんだ」

「他人の空似というやつだろう。私の家族は和人さんと白雪さん、それに黒乃とお前だけだ。まぁ……血縁という概念まで絞るとするなら一夏のみだが」

 

 相手は千冬姉だ、そう簡単にいくわけにはいかないか……。本人にそういわれてしまってはそれまでだが、やはりこの話をさっさと終わらせてしまいたそうにみえてならない。だからこそ、なにかを隠している裏返し。あまり頭に入れないようにしていたが、あの話は……どのみち千冬姉の耳には入れておかなければ。

 

「黒乃の傷!……もう、二度と消えることはないだろうって……」

「…………!?」

「そのマドカって子が着けた傷だ。それが貴様の辿る終焉への第一歩だって……」

 

 あの日のことを思い出すと、自分の不甲斐なさにフツフツと怒りが湧き出てくる。舞い上がっていたのもあるだろう、だから反応が遅れた。その辺りが達人級な黒乃は瞬時に俺の前へ躍り出て、俺を庇うように立ち、結果的に黒乃が頬へ傷を負った。

 

 女の子だというのに、きっと世界レベルで通用する美貌なのに……そこへ消えない傷を俺が刻んだのと同じなんだ。それなのに黒乃はまるで気にする様子をみせない。人工皮膚を被せる施術も本気で提案したのだが、頑なに黒乃はそれを拒む。俺には、それがなにを意味するか解ってしまった。

 

 黒乃は、あの傷に関して誇りに思っているに違いない。俺を守ってできた傷だからと、俺が愛でてくれればそれでいいと思っている。黒乃は……そういう子なんだ。確かに、あの傷のせいで今後は男性にも少しネガティブな印象を与えることもあるだろう。その点プラスにすら考えているかも知れない。

 

 無論だが、俺にとってあんな傷は些細な問題だ。いや、黒乃を愛すのに問題すらならない。だから変な虫も寄ってこなくなるだろうと、きっとそのくらいに思っている。今はまだそれで済むのかも知れないが、あの子の談ではこれで終わるはずもない。

 

 マドカという少女は、俺と黒乃に憎悪を抱いている様子だった。特に黒乃に対しては凄まじいもので、圧し折るだの引き裂くだの物騒なことをいっていた。……これから少女の手によって、死んだ方がましと思うような目に合うことを示唆してるのだろう。

 

 だとすれば、無関係なんていわれて食い下がるわけにはいかない。あの子のことを知ることが黒乃を守ることならば、唯一の肉親を苦しめようとも聞かざるを得ないんだ。消えない傷だという俺の脅すような言葉に、千冬姉はただ驚くばかり。なんということだとでもいいたそうな表情になると、震えた唇で告げた。

 

「そのマドカとやらは、他になにか気になることをいってはいなかったか……?」

「そうだな……。俺に対して、私はお前だとも」

「そうか……」

 

 あの言葉に関しては、目を背けたくなるような現実が待ち受けているのだろう。だって、いろいろと点と線が繋がってしまうのだから。推測するには事足りるというか、多分そうだと俺の中のなにかがずっと告げていた。そう考えれば、ISを動かせる理由だって凄く簡単に納得がいく気もするというか。

 

 それをいえば自然とマドカの存在も説明が着くけれど、確証もなにもあった話ではない。やはり当時のことを知らずに憶測だけで進めてしまうと余計に話がこじれてしまうかも。だが千冬姉のこの様子からすると、考えていることは一緒の可能性が高い。これ以上は聞かない方が吉か、千冬姉のが辛そうだし。

 

「……ごめんな千冬姉、実はもう答えはみえていたんだ。千冬姉がズバッと斬らないってことは、俺たちのみえてる答えは同じだろうから」

「……かまをかけたのか?」

「いや、そんなつもりではないんだけど。まぁ結果的にはってやつ?」

「……本当に私はなにも知らん。確かにいろいろとパズルのピースが埋まる話ではあるが、あくまで憶測の域をでない。だから―――」

「大丈夫だよ、千冬姉。血の繋がりだけが家族じゃないってのは父さんと母さんのおかげで証明されたろ。例えもし憶測通りだったとしても、俺にとって千冬姉が姉ちゃんであることには変わらない。千冬姉も、俺のことを弟って思ってくれてるだろ?なら俺はそれで十分だ」

 

 いうほど気にしてはいないが、まぁ……当然ながら思うところはある。ショックではあるしそうでなければという想いもある。けれど、取り乱すこともなければ怒ることもないだろう。……やはり俺は相当に歪んでいるらしい。何故ならば、俺の中にあるのはただ1つ―――

 

「それにさ、黒乃が愛してくれればもうどうでもいいかなって」

「……それを思い詰めている姉の前でいうか?」

「ああ、そこは悪いなって思うけどさ。黒乃となにかを比べて、黒乃が劣るなんて絶対ないからなぁ」

「だからそれを姉の前で堂々と……」

 

 ありがちな質問をされるとしよう、家族と恋人どっちを助けるかみたいな。俺の場合は家族が千冬姉で恋人が黒乃となるわけだが、千冬姉には悪いが俺は即答で黒乃を助けると答えるだろう。というか、その状況が現実のものになっても間違いなく黒乃を選ぶ。

 

 つまるところ、脳内だろうとなんだろうと姉を見捨てる算段が出来てしまうのだ。だから俺の正体が想像通りだろうと本当にどうでもいい。確認しにきたのもマドカが黒乃に対して憎悪を抱いている原因に関してだし。そこが解りそうもないのなら、これ以上の問答は千冬姉を苦しめる。だから切り上げて退散しようという話なのだ。

 

「……私を責めんのか?」

「責めてなにか変わるわけでもないしな。それに責められてはいお終い……それで納得する性格じゃないくせに」

「それもそうだ……。あぁ……クソッ、なんと続ければいいのか正解が見えんぞ……」

「いいんじゃないか、俺と黒乃のことを応援してくれればそれで」

 

 なにをいいだすのだろうかこの姉は。俺にとって黒乃は次元の違う存在なわけで、それを除けば千冬姉は家族ってことで最優先すべき人だ。なにか隠してたって俺のことを想ってだろうし、責めるって選択肢は浮かばない。……ときどき取り乱して怒鳴るアレはノーカンとしておいて。

 

 悩む姉に対して俺と黒乃をこれからも見守ってくれればそれでと伝えると、なにいってんだこいつみたいな視線を向けられる。なんでだ、解せないぞ、悩んでるだろうから最良だと思われるアドバイスをしたつもりなのに。こうなったら逆に俺はなにか間違ったことをいったかみたいな顔をしてやる。

 

「……あんないい娘は世界中を探そうと2人はおらんぞ、生後から隣に居たお前は類稀なる果報者だと思え」

「ああ」

「その娘がお前を選んだんだ。いいか、お前が選んだのではなく選ばれたと思え」

「ああ」

「だとすればやることは1つだ。お前の心血一滴残らずあの娘を幸せにすることだけに使え。そしてなにがあろうとあの娘の隣を歩み続けろ。……私は死んでもその背を見守りづつけよう」

「……ああ!」

 

 本当に千冬姉の言葉は的を射ている。黒乃が近所に生まれただけでも幸せ者だよ……俺は。繰り返す出会いと別れの中で、黒乃だけはずっと俺の隣に居た。だからこの子は俺が幸せにしたいと思った。俺が貰った幸福を全て返したいと思った。俺の命を黒乃のために使いたいと思った。俺の人生を捧げたいと思った……。

 

 その辺りはいわれなくてもといった感じだが、その道を千冬姉が支えてくれるというのなら―――これほどに頼もしいものはない。いつだって俺たち2人の道を正してくれていた人が、今度は支えてくれるというのだから。世界最強の姉という肩書も捨てがたい。

 

 結局は俺たち姉弟間で伝わる謎会話になってしまったが、これである一定のモヤモヤが晴れた。後はもうマドカがなにをしてこようと黒乃を守ればいいだけの話だ。いや、あの言い方ならば……黒乃の守りたいものも守備範囲だろう。黒乃が悲しむだろうし勿論守るが、やはり最優先が黒乃なのは揺るがない。

 

 さて、さすれば帰って黒乃を愛でることにしよう。楯無さんに仕事を頼まれていた気がするがそんなことは知らん。愛でたいときに黒乃を愛でる。これが俺の掲げた信条だ、異論は認めん。あぁ……そんなこといってるとフラストレーションがどんどん……。ええい、走れ俺!風のように愛する人の元へ!

 

 

 




一夏とマドカの関連性についてはアレコレと考えてます。
ですが、前書きでもあったようにそのイベントを描写するかどうかは未定です。
このまま自然消滅する可能性もあるので、あらかじめご了承ください。
ちなみに、専用機持ちタッグトーナメント編に突入する前にあともう1話挟みます。

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