八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第82話 新たな謎

「ん~……これだと雷光のウェイトがどうもな―――」

(おーい、鷹兄)

「重さ1つとっても全体の修正をかけないとだからここは慎重に―――」

(もしも~し、鷹兄~!)

 

 鷹兄に呼び出されて近江重工へ来てみれば、なんだか運用試験場内は慌ただしい雰囲気に包まれていた。ツナギを着たエンジニアさんと白衣を着た研究員さんが一緒くたになっているのも珍しいし、なにより―――鷹兄に無視されることが非常にレアだ。

 

 なにかブツブツと呟きながらコンソールを操作しているが、これは……刹那の飛行シミュレーションをしているのかな。とりわけ雷光に関するあれこれを弄ってるみたいだけど、流石にこれだけじゃちんぷんかんぷん。だからこそ反応を示してほしいのだが、これはどうしたものだろう。

 

「あ、藤堂さんいらっしゃい!ごめんね、初めて見るよね……あの状態の鷹丸くん」

(あの状態……とは?)

「あれね、悩んでる風に見えて絶好調なんだよ。自分の世界に入り込んでるときの彼はああなんだ。だから本人が満足するまではそっとしておいてあげてよ」

(はぁ……?別にそれは構いませんけど……)

「いや、本当に申し訳ない……なにぶんちょっとゴタついてて大したお構いも―――誰かーっ!テーブルとイスとお茶用意してーっ!」

 

 私が困っているのを察してか、鷹兄より少し年上っぽい研究員さんが気さくに声をかけてくれた。聞けば、鷹兄は絶好調で試行錯誤しているんだと……。そっとしておいてとはいわれたけど、それは逆になにをやっても無駄とでも表現した方が近そう。

 

 でも邪魔しては悪いというのは伝わってきた。だから端の方で見学していようと思ったが、研究員さんは周囲に私の休めるスペースをと叫びながら消えていく。しばらくすると、小気味よくテーブル、イス、お茶の順番に本当に運ばれてきてしまう。な、なんかすみません……。

 

 皆さんが作業をする尻目のようで気が引けたが、落ち着いて鷹兄を待つことに。それが1番邪魔にならないだろう……。しかし、休憩セットを用意したのが手の空いてる人だったってことは、鶫さんも忙しいのかな?右へ左へ視線を移しながら緑茶を啜るが、そこに秘書然とした姿は見当たらない。

 

 ふぅん……鷹兄の近くに居るのしかみたことがないから新鮮だな。でも、秘書である鶫さんがここに居たって、他の職員にとっては邪魔でしかないかも知れない。多分だけど、あの人は自らそのあたりを弁えたのだろう。う~ん……憧れちゃうな。1歩引いた支え方か……ぜひイッチーをサポートする際の参考に―――

 

「おや、いらっしゃい黒乃ちゃん。こんばんわー」

「朝」

「あれ、もう朝?……というかなん日の朝?」

「ここに籠ってから3日目のですよー……鷹丸さん」

 

 ようやく私の存在に気付いたらしい鷹兄は、妙なスローモーションでこんばんわと声をかけてきた。だが鷹兄、今は爽やかな朝です。この様子からするに、徹夜かなにかでほとんど睡眠をとっていないようだ。よく見ると顔色悪いし髪ボサボサだし……。そういえば電話口から聞こえた声もどこかボーっとしてたなぁ。

 

「そっかー……まだ3日かー。うん、あと2徹はいけるね。それより黒乃ちゃん、平日なのにわざわざ出向いてもらってごめん。1日分の授業を溜めこんじゃうことになると思うけど……」

 

 そう、今日は平日で学園では授業をしてる時間帯だろう。まぁいわゆる公欠ってやつだね。事情とかは鷹兄がちー姉に話してくれたみたい。そういえば、しばらく鷹兄は学園で姿を見せなかったっけ。それも確か3日前くらいからだったような……。なるほど、鷹兄がボンヤリしているのも頷ける。

 

「まぁとにかく、キミは今日中に帰れるよう本題に入ろうか」

(うん、そうだね。徹夜は少し遠慮したいし)

「もうすぐキャノンボール・ファストが近いでしょ?この間オルコットさんたちと練習したって聞いたからデータを拝借したんだけど、やっぱり雷光はレース向けな仕様じゃないって見解になったんだ」

 

 飛んでみた感じ雷光でも問題はなかったわけだが、妨害もなかったからキッパリとそういい切っていいものでもないだろう。つーか、一応は第3世代なのに換装なしで臨もうってのがまず間違っている気がしますけど。通常形態でストライク・ガンナー仕様に換装したブルー・ティアーズより速いって頭おかしいからね?

 

「それでレース用に雷光のデータをベースにして修正版……名づけるなら雷光・改を造ろうって計画でことが進んでたんだけど……。これがまぁまた難題でねぇ」

(た、鷹兄ですら難題って……。それ、もう諦めた方がいいのでは?)

「ほら、このあいだ刹那の腕部を整備したときにいったでしょ、スペアパーツが造れないって」

 

 うん、確かにそんなことを鷹兄がいっていた。刹那が刹那・赫焉にセカンドシフトしちゃって、パーツに諸々の機能が上書きした影響とか……だったかな。とりわけ、雷光は神翼招雷を発動させる要なわけで、そう簡単に再現できるものでもないだろう。

 

「ガワそのものを完成させるのはなんの問題もないんだけどさ……すみませーん、照明お願いしまーす!」

「はいよー!」

(……えぇ……?)

「なにが問題って、唯一仕様が発動してくれるかどうかなんだよねぇ」

 

 鷹兄が作業員さんに声をかけると、奥の方が照明に照らされる。するとそこに鎮座していたのは、どこからどう見たって雷光そのもの。つまりは、二次移行した機体のパーツを完全再現しちゃったってわけだ。……なんなん?なんなんこの人たち。技術力高すぎてあたしゃもう着いて行けないよ……。

 

「それが呼び出した理由だよ……。理論上は発動する前提だから、実際に刹那へリンクさせて唯一仕様が発動するか確認して、後はレース用に出力とかの微調整をするために繰り返し飛んでもらうことになるかな……」

(なるほど、雷光・改は今日ロールアウトってわけか……)

「皆が慌ててるのはほとんど微調整の方でなんだけどね……。これが最大の難関かな。本当、1か所へ修正をかけると連鎖的に他の部分の修正が……ふわぁ~ぁ……」

 

 話半分、やっぱりボーっとしているのがよく解る。その証拠に、鷹兄は大きな欠伸をみせた。なんかもう、意識の半分はすでにお休みの向こう側へいってしまっているようだ。気合と根性、あとは自身の知的欲求を満たすだけに鷹兄は立っているのではないだろうか。

 

「ん、失敬。まぁ僕ら技術屋の腕が鳴るって話ではあるんだけどねぇ。とにかく、もう少しゆっくりしててよ。とりあえずの完成まではまだ時間がかかるんだ。着替えとかも完成してからで構わないからさ……」

「頑張って」

「うん、頑張る」

 

 私が鷹兄の背中を軽く叩きながらエールを送ると、輪になって意見を交わしあっている研究員さんたちへ近づいて行った。スケジュールが明らかになったところで、またしても暇になってしまう。寝てない人が居る修羅場で居眠りもなんだかし辛く、わけも解からない作業を機械的に見続けることに。

 

 ただ、作業が解らないから退屈というわけでもない。今回はこの光景を己が目で見れて良かったと思う。なぜなら、普段から私が何気なく操縦しているつもりのせっちゃんには、これだけの人の努力が重なっている……。それを知れて良かった。もっと、頑張んないとって思い知らせてくれて。

 

 この人たちの努力を、無駄で終わらすわけにはいかない。逆に、私が頑張ることで皆が喜ぶのだったら安いものだ。私には多分だけど、そういうの足りなかったと思う……。イッチーたちだけじゃなく、近江重工の皆にだって……少しでも私を刻んでおきたいから。だから、皆の努力に努力で報おう。

 

「だーかーらー!それさっきシュミレーターで試してダメだったつったろーが!」

「あぁ!?現物で実践してない内から決めつけるなんざ研究員として失格だぞコラぁ!」

「我らが藤堂さんへの負担がキャパ超えてるでしょ……。流石にボツ案にした方が―――」

「ん~?いいんじゃないの、面白そうだし」

「すみません、ちょっと鷹丸さん黙っててくれませんか?」

 

 ……本当に大丈夫かこの人たちは。なんか内輪揉めみたいなのを始めているが……。つーか鷹兄、面白そうだとかで採用しようとすんの止めれ。なんて、疲れからかだんだんおかしな方向へゆく会議を眺めること10数分……。そこから刹那・改が完成するのが更に10数分を有したのだった。

 

 

 

 

 

 

「黒乃ちゃん、お疲れ様~」

「そっちも」

「うん?アハハ、本当にね。いや~……久々の苦戦だったけど、なんとか成功してよかったよ」

 

 雷光・改の運用試験は、黒乃が思っているよりも早く終わりを告げた。それも綿密な議論のたまものだろう。結果、唯一仕様である神翼招雷は見事に発動。なんの問題も見当たらなかった。時間がかかったのは、むしろ出力等の微調整の方。黒乃、鷹丸をはじめとした研究員たち全てが納得いくまで繰り返したためである。

 

 しかし、あくまで最終目的は換装なしでレース仕様へ変更だ。ここで妥協しては意味なんてない。それはこの場に居る全員の総意だった。総意が結束を生み、結束が成功へと導いた。きっと、そうに決まっている。きっと、誰が足りなくても成しえなかったはずだから。

 

「あ~……ところでだけど、もう少しだけ時間をもらえるかな?」

(えっと、他にまだやることがあるのかな)

「う~ん……悪いけどここじゃ話せない内容なんだよねぇ。もし時間に余裕があるなら着替えて社長室へおいで。今日は父さんいないし、警戒しなくても大丈夫だから」

 

 鷹丸はそれじゃといいながら手を振ると、おぼつかない足取りでその場を去ってゆく。そんな含みのある表現をされてしまうと、気になってしまうのが性だろう。黒乃は未だ成功に沸き立つ研究員や作業員へ向かって深々と頭を下げると、ロッカールームへと急いだ。

 

 ちらりとロッカールームにかけてある時計を眺める。今からシャワーを浴びたり着替えをして、鷹丸の話とやらを聞いても学園へ帰る時間までかなりの余裕がありそうだ。とはいえ人を待たせているのなら急がないわけにはいかない。黒乃は手早くシャワーと着替えを済ませると、集合場所へ指定された社長室へ急ぐ。

 

(鷹兄!)

「ん、来たかい。じゃあ、適当に座ってよ」

 

 社長室の戸を勢いよく開いてみると、そこには鷹丸の姿しかない。代わりといってはなんだが、資料の山が凄まじく目につく。まるで聞いてくださいとでもいいたげに、応接用のデスクで幅を利かせていた。ちょいと触れてしまえば倒れてしまいそうなだけに、黒乃は慎重に鷹丸の向かい側へと腰かける。

 

「……なんというか、僕も刹那ばっかのこと考えてこんな寝不足ってわけじゃないんだ。少し……他の調べごとがさ」

(他の……?それとこれと、私になにの関係が……)

「キミの遭ったね、事故について調査していたんだ。いくつか解ったこと……って表現すると語弊があるんだけど、キミには報告すべき事実がいろいろとね。……もしキミが聞きたくない、思い出したくないっていうんなら……これは墓場まで持っていくけど―――」

 

 そこから先は、どうかな?……と、鷹丸の開かれた目が告げていた。寝不足からか、酷く充血した瞳だ。鷹丸の真意は解らないにしても、自身のせいでこの結果を生み出したのなら聞くのが筋だ。なにより……隠された真実があるのなら、純粋にそれが知りたい。その意思を、黒乃も目で伝えた。

 

「……了解、話すよ。そこまでショッキングな内容ではないと思うけど、気分が優れなかったりし始めたらすぐに退出してね」

(うん、解った……)

「それじゃ、まずはこの写真から」

(……アスファルトが焼け焦げた痕跡かな)

 

 鷹丸が差し出した写真には、広範囲に渡って黒く焼け焦げたアスファルトが映し出されていた。これは藤堂一家が乗っていた乗用車が爆破および炎上した痕跡だという。高速道路を走行中だったため、消火活動が遅れたのが大きな原因だろう。しかし、不可解な点は見当たらない―――かのように思えた。

 

「どこに違和感がって思うよね。この焼け跡だけど、ある証拠を消してしまっているんだ。これが、その証拠を再現した写真だよ」

(これは……ブレーキ痕?けど、車とかバイクとかいった乗り物じゃこんな痕は……)

「問題として挙げるべきところがいくつかあるんだ。まずは当然ながら、これがなんのブレーキ痕なのか。そして、そのブレーキ痕が炎上地点のほぼ中心点近くで途切れていることも……かな。つまり―――」

(何者かが、炎上途中の車に急接近した……?)

 

 ありえない。黒乃は現実が受け入れられないどうこうの問題ではなく、もっと単純な物理法則にのっとってその結論を導かざるを得ない。なぜならそのブレーキ痕は、瞬間移動でもしてその場に現れなければ説明がつかないからだ。鷹丸の技術を疑っているわけではないが、これではあまりにも―――

 

「真……犯……人……?」

「うん、僕もまず1番にその可能性を考えた。けど、それはまずないと思っていいはずだよ。それが解ったことの2つ目かな。こっちは証言に関してだね」

(事情聴取の証言調書か。確か、取り調べ中の発言は全部こうやって記録されるんだっけ)

 

 お次に渡されたのは、A4サイズほどの参考人証言調書だ。参考人とやらは、黒乃を助け出した人物らしい。詳しい内容はこう記載されている。目の前で事故が起き、急いで車を路肩に駐車させた。トラックに追突された車に接近しようとしていた時点で既に火の手が確認された。

 

 車内を確認すると、若い夫婦と幼い子供の姿が。夫婦の頭部の損傷は激しく、恐らくは助からないだろうと判断し、とにかく子供だけでもと酷く歪んだ後部座席の扉を無我夢中で引っ張った。すると思ったよりも簡単にドアごと引っこ抜け、少女の救出に成功。多分だが、事故の衝撃で外れかけていたのだろうとの―――

 

(―――その後しばらくして、乗用車は爆発……)

「その証言がおかしいことに気がつけたかい?」

(……ううん、どこにも変な箇所はないと思う)

 

 事故当時は、この藤堂 黒乃にとって憑依寸前の瞬間だ。ここではオリジナルであったわけだが、自分の知っている範囲の情報量と照らし合わせてみても、ほぼ完璧に合致しているといっていい。しかしだ、あくまでも鷹丸は謎解きするべき箇所があるという姿勢を崩さないでいる。

 

「おかしいんだよ。歪んだ車のドアが大人1人の力で開く―――ましてや引っこ抜けるはずがない。僕もいろいろと検証したけど、人間の力ではまず無理だっていう結果しかでなかった」

(機械に詳しい鷹兄がいうならそう……なのかな。けど、本当に偶然って事も―――)

「そしてなにより、このブレーキ痕を残した何者かは……いったいどこへいったんだろうね」

(っ……!?そうか……確かにそうだ!このブレーキ痕が燃え続けた車の炎でかき消されたのだとしたら、少なくとも爆発より前についてなくちゃおかしい!それに、目撃証言だって……)

 

 黒乃を車内から助け出したのは当時40代の男性で、職業は主にデスクワークだとのこと。これが力仕事ならまだ納得がいったかもしれないが、鷹丸としてはそんなことは疑問の内に入らない。力持ちだろうがそうでなかろうが、そもそも人間が黒乃を助け出せたことに違和感を感じているのだ。

 

 だが、実際に黒乃はこうして生きている。だからこそ鷹丸をより混乱させた。黒乃が存命していることと、事故当時の絶望的状況があまりにも矛盾してしまっているのだ。藤堂夫妻は既に死亡していた可能性が高いとして、これではまるで黒乃のみを助けたかったかのような気さえしてしまう。だからこそ鷹丸は―――

 

「そこで僕はこう結論を出した。何者かが、なんらかの目的で、周囲の人間に悟られず……キミを助けるお膳立てをした……ってところかな」

「…………」

「解らない部分が多すぎるけど、揃っているピースからして、キミは間違いなくその何者かに命を救われているとみた方がいいと思う。もし真犯人ならキミはこの場にいないだろうしね」

 

 何者かを真犯人だと仮定した場合、方程式が成り立たなくなる部分がある。焼け跡で上書きされたブレーキ痕からして、何者かが現れたのは少なくとも事故発生後かつ大炎上までの間となるはず。証拠は消えたとはいえ、既に車は出火した状態にあったという証言からするに、それ以上手を加える必要もなかったはずだ。

 

 どういうわけか全く姿を目撃されていないというのに、こうして割り出されてしまっているのだから行動するだけ損しかない。つまり、そこまで周到な犯人ならば、現場に存在を特定されるような証拠は残さないと導き出せる。有力な可能性が残るとすれば、黒乃を助けたかったという説となるわけだ。

 

「どうして目撃証言がないかとかはこの際スルーするとして、疑問が尽きないよねぇ。この現れ方だとまるで……この日に事故が起こるのを知っているかのような登場っぷりだ」

(ん……?目撃証言がないのに加えて、事故が起こるのを知っていた。なおかつ私だけを助けたいって、それってまさか―――)

 

 鷹丸の難しそうな呟きに含まれたいくつかのワードを組み立てていくと、黒乃の脳内にはある可能性が浮かびあがった。もしや、神……?あの日あの時に発生した事故は、神が決定づけた運命のようなものだ。なるほど、事故が起こるのを知っていて当たり前。

 

 目撃証言がない。なるほど、神という完全にオカルトな存在ならばそういうこともできるだろう。黒乃のみを生かしたかった。なるほど、悲劇のヒロインとして生きる憑依黒乃を観賞したかったのだから……頷ける。黒乃の中で確信に変わりつつあるとき、1つの疑問がそれを阻止した。

 

(確かにファッキンゴッドならやりかねない……けど、このブレーキ痕はいったい……?)

 

 目撃証言はないにしても、こればっかりは確かに物理的にアスファルトへ刻まれた証拠だ。鷹丸のミスとも考えにくいとなれば、神のミスとも以下同分。これが解決しなければ、100%の答えとして提出することは到底できない。だが他の答えも浮かぶわけでは―――

 

「どうかな、心当たりがあったりは―――」

(あ、いや、その……)

「……しないよね。ある方がどうかしてるもの」

(そ、そうだね~……アハハ)

 

 心当たりはあれど、神の仕業ですともいえず。黒乃は結果として肯定も否定もできなかった。しないで正解ともいえるが。どちらにせよ黒乃ではろくな説明が出来ず、神という単語しか出ないだろう。普通に喋れたのなら憑依しているあたりから話してもよかったとも思っているようだが。

 

「余計に混乱させちゃったかな?けど、キミには話しておくべきだろうと思ってさ……」

(大丈夫だよ。それに気持ちは嬉しいし)

「……そう、それなら気が楽だよ。まぁ、この件は引き続け調査を続けるさ。なにか解ったらまた報告するからね」

(うん、ありがと鷹兄。えっと、じゃあもう今日は帰っても大丈夫なのかな……?)

「ああ、うん、付き合わせてごめん。もう帰っても問題ないよ」

 

 話が終わったという雰囲気を感じ取ったのか、黒乃はゆっくりソファから腰を浮かしていく。その動作を確認と理解した鷹丸は、慌てて帰宅を促した。それまでスローで立ち上がる途中だったわけだが、まるで残像でもみえそうな勢いで立ち上がると、頭を下げてから社長室を後に。

 

「……手ごたえなしと見るべきか、否定も肯定もしなかった……つまり、引っかかる部分はあったとみるべきか……」

 

 1人社長室へ残った鷹丸は、黒乃が出ていくのと同時にそう小さく呟いた。どうやら黒乃の反応をうかがっていたらしい。そもそも鷹丸がこの件について調査しているのは、黒乃本人の事故ではないという旨の発言からだ。興味を示したからには妥協をしない。この男はそういう人間だ。

 

(まぁ、後者じゃなければ夏休みに事故じゃないなんていわないよねぇ。つまり彼女は、やっぱりなにかを知っている可能性が高いとみるのが定石か……)

 

 おしい、本当におしいところまではきている。確かに黒乃は心当たりがあったのだが、それは神なんていう突拍子もない存在についてだ。神様はいたら夢がある程度にしか考えていない鷹丸にとって、辿り着くには非常に困難な答えといえよう。そもそも単なる風評被害で神は関係ない可能性が高いのだが……。

 

(ま、未知の存在も湧いて出て相当に面白くはなってきてるから構わないんだけどさ。……ただ今は―――)

 

 夏休みからほとんど進歩しない1人相撲を繰り広げているとは露知らず、鷹丸はまるで電池が切れたかのように資料だらけのテーブルに突っ伏した。2徹はまだいけるとうそぶいていたが、やはり限界を迎えてしまったらしい。完全に脱力した寝顔なんかは、妙に子供のソレを思わせる。

 

 最終的に鷹丸が目覚めたのはそれから約数10時間にも及ぶ睡眠……というよりは休眠の後であった。当然ながらIS学園へ勤務を再開する予定も大幅に遅れ、千冬に大目玉を喰らうことになるのだが……やはり打って響かない。まるで宙に舞う羽の如く、全く気に留める様子もない鷹丸であった。

 

 

 




黒乃→神様の仕業っていうわけにもいかないしなぁ……。
鷹丸→やっぱりなにか思い当たる節はありそうだねぇ。

ちなみにファッキンゴッドの仕業じゃないです。

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