ややこしくて申し訳ありませんが、読む際は注意してください。
いつも通りにどちらから読んでも差支えはないかと。
『おい貴様ら、現状が解っていないのなら1から説明してやるぞ?』
「うわああああっ!?ち、千冬姉……?」
『織斑先生だ。で、説明は必要か不要かハッキリしろ。さもなくば貴様らがいかに愚かしい行為をしているか延々―――』
「わ、解った!解ってます!さっきの女を追えば良いんでしょう……」
『お前は先に篠ノ之の所へ寄るのを忘れるな』
抱き合った状態の2人の耳に、慣れ親しんだドスの利いた声が鳴り響く。あまりに突然にそう言われ、どちらも考えるよりも先に身体が離れる事を選んだ。後に続いた千冬の小言は、要するにイチャイチャするのはテロリストを捕縛してからにしろという事らしい。話はそれだけなのか、手早く通信は切れてしまう。
「じゃあ、その……行動開始だな!白式を展開しっぱなしだといつ動作が停止するか解らないからさ、俺は生身で箒を探すよ。向こうも絢爛舞踏が発動しないとか言ってたし……」
(わっ、解ったよ!じゃあ私はモッピー以外の皆と合流―――っと、鳴神を引っこ抜かんと)
千冬は恐らく管制室か何かで様子を見ていたのだろう。だとすると、1人で居たというのは考えにくい。イコールして、もっと大人数に見られていたという事だ。2人共そんな方程式が容易に想像できてしまったのか、どこか照れくさそうにしつつ話題をそらしにかかる。
一夏は白式を納め、黒乃は地面に突き刺さったままの鳴神を引き抜こうと必死だ。かなり深く刺さっているようで、刹那のフルパワーをもってしても簡単に抜けはしない。よいしょよいしょと格闘する事しばらく、スポリと鳴神が抜けたのは良いのだが、勢い余って手元から離れて飛んで行ってしまう。
(どわっ!?)
「……!?く、黒乃?」
(わーわー!違う、違うから!意図してやったことじゃ……)
鳴神は勢いよく回転しながら山なりに吹き飛び、立ったまま無事なロッカーに突き刺さった。一夏は既に行動を開始していた為、一部始終を見ていない。ただただロッカーに鳴神が突き刺さった音に驚き反応し、目を白黒させるばかり。これを意図した行動と思われるのが嫌なのか、慌てて黒乃は鳴神へと手を伸ばす。
(ん……?いや待て、落ち着け。このまま慌てて引き抜いたらまたどっか飛んでっちゃうかもしんない。だからここは……斬っとこう)
「…………?」
(うん、不思議がられてはいるけど引かれてはないね!なら良し……)
ここで焦るのが自分の悪癖であると、黒乃はいったん心を落ち着けさせた。そして再度鳴神に手を伸ばし、柄をしっかりと握る。そうして、両腕に力を込めてロッカーを中ほどから縦に斬り裂く。ちなみにだが刃が上の状態だった為、振り方は斬り上げ。これで黒乃の両手にキチンと鳴神が収まった。
とにかく今の黒乃にとって、一夏にどう評価されるかが全てらしい。内心で満足気に鞘へと鳴神を収める黒乃に対し、一夏は首を傾げるばかり。不可解ではあるが、黒乃の事だから何かしら考えがあるよな、程度に自らを納得させ、何を言うでもなく走り去って行く。
(さて、じゃあ行こう。多分だけどあの子が来るだろうけどさ、四の五の言ってられんよ。だって―――イッチーの為だもん)
ぷはっと短く息を吐くと、刹那の脚部は軽くフワリと地面から浮き上がった。そうして、決意を新たにオータムの開けた壁の風穴から外を目指す。やはり閉所での刹那の操縦は慎重さを要求されてしまうが、黒乃は難なく突破し太陽煌く大空の下へ飛び出た。
『藤堂、聞こえるか?』
(うん、よく聞こえる)
『どうやら先ほどの女は確保されたらしい。近江とボーデヴィッヒを探して合流せよ。……念のためだが、お前も警戒にあたれ』
(了解!)
狭い通路から脱出すると同時に、再び千冬から通信が入る。内容は、オータムの確保に成功との事。とりあえず指示に従うべく、黒乃は高度を一気に上げた。するとハイパーセンサーを使うまでもなく、シュヴァルツェア・レーゲンを展開するラウラを発見。黒乃は一気に接近し距離を縮めた。
「姉様……。あまり心配はしていなかったが、無事で何より」
(ありがと、ラウラたん。ところで、とんだオーバーキルだねこれ……バリアか何か?)
「たまたま僕が逃げた先で彼女と居合わせてね。シールド発生装置で作った簡易的な檻に入ってもらいつつ、ボーデヴィッヒさんがAICをかけてるのは念のためかな」
原作からしてAICで捕まるのは知っていたが、オータムを囲む半透明の物体が黒乃としては気になって仕方がない。ノックするように数回叩いてみると、未だ王子姿の鷹丸が解説を入れた。シールド発生装置という事は、シンデレラ用に持ち込んでいたのだろう。
「そういうわけだ、姉様。こちらは私達に任せ、姉様は避難誘導を―――むっ、あ、いや……済まない姉様……。些か配慮の足りない発言だった」
(ああ、いやいや……気にせんよそれくらい。というか、ちー姉もそれ込みでこっちに回したんだろうし)
「まぁ、退屈だろうけど僕らはのんびりいこうよ。ね、オータムさん」
「このっ……!ざっけんなクソニヤケ面ぁ!」
黒乃に避難誘導は不可だ。喋る途中で自らの失言に気が付いたラウラは、伏し目がちに謝罪を述べる。本人は全く気にしていないが、どうにも空気は気まずいものに。そこへ茶々を入れるかのように、鷹丸がオータムを煽りにかかった。捕まっている側からすればたまったものではない。
AICの影響下でろくに身動き出来ないにも関わらず、オータムは歯をむき出しにしながら吠える。その様はまるで野犬のようだ。おっと怖い……なんて言いながらわざとらしく飛びのいて見せるからまた腹立たしい。こんな状況でもぶれない鷹丸に、どうにも呆れがちな表情を見せるラウラだが、瞬時に引き締めざるを得ない事態が―――
「「!?」」
「うん?2人共、どうかしたかい」
「いえ、哨戒に当たっていたセシリアと鈴の反応が……。残った反応は―――サイレント・ゼフィルスだと!?」
(来たか……。なんでちー姉が教えてくれんかったかだけど……今は考えてる暇はない!)
「なっ、姉様!?」
警戒に当たれという指示にしっかりと従っていた2人は、ハイパーセンサーにて確と察知できた。それは、突如としてブルー・ティアーズと甲龍の反応が消失したという事態。更には1つISの反応が残っている事から、撃墜されたというのは容易に想像がついた。
願わくば来ない事を願っていた黒乃だったが、そうなってしまったのならば仕方がない。学園に襲来した彼女を迎え撃つべく、雷光の出力をハイパワーに上げて上空へと飛んだ。意識を集中させるまでもなく、敵影は既に学園の敷地内へと入ろうとしている。そうはさせまいと、
(待ってたよ―――マドカちゃん!)
「…………」
イギリスから強奪したブルー・ティアーズ2号機とも呼べる機体、サイレント・ゼフィルスを駆る少女―――織斑 マドカを名乗る謎の少女。その正体は様々な仮説と憶測を呼んでいるが、それはもはや黒乃にとってどうでもよかった。ただ―――彼女の存在が、一夏を悩ますという事だけで戦う動機としては十分だ。
(……ハッピーエンドには、キミとイッチーの対話が必要なのかもね。でも―――)
「…………」
(大好きな人をさ、曇らせたくはないじゃん?だから私は―――キミを、倒す)
恐らく、黒乃にとって初めてなぁなぁでなく―――ハッキリとした意志を持って倒すと断定した存在だろう。彼女がそれを解したかどうかは不明だ。それでも、マドカは周囲の空気が変わるのを肌で感じていた。ユラユラと漂うような空気感から、まるで刃を首元へと突き付けていられるような―――そんな感じの。
「……フッ」
(藤堂 黒乃、推して参る!)
目測でもかなりの距離が空いているせいか、黒乃にはマドカが笑った事を察知できなかった。勢い良く鳴神を抜刀、と同時に
ブルー・ティアーズ2号機というだけあって、サイレント・ゼフィルスは射撃型機体だ。ただ、あらゆる点においてブルー・ティアーズの上をいく。まず初手にマドカが構えたレーザーライフルは、スターブレイカーという。射程、威力ともに改良されているため、刹那では掠らせるのもまずいかも知れない。
「…………」
(そんな射撃!)
直線的な射撃は、黒乃にとって最大級に避けやすい攻撃である。
「…………」
(ぬぅ、そりゃ使ってくるか……)
サイレント・ゼフィルスの蝶の羽にも似たスラスターから分離したのは、6基のBT兵器である。そう、ブルー・ティアーズが4基の所を6基。全てのBTは向かってこず、4基が黒乃を囲む。残りの2基がマドカの傍らだ。こちらの方が厄介とも言えるが。
「……やれ」
(くっ……!)
6基のBTは、マドカの指示の元同時に攻撃を開始した。こればっかりは真っ直ぐ飛んでもいられず、黒乃は
(神翼―――招雷!)
一撃でそれら全てを葬り去ってしまえばよい。神翼招雷の発動と共に、巨大な雷の翼が雷光から吹き出る。そしてすぐさま刹那へと供給。倍加されたエネルギーは、両掌へと配分される。一連の動作中に素早く鳴神を仕舞った黒乃は、両手を前方へと突き出した。
(いっけぇ!)
「チッ……!」
まばゆい赤黒い光を放ちながら、エネルギーが更に倍加しながらレーザーとして照射される。当たれば即撃墜まで持っていかれるであろう威力を前に、流石のマドカも回避行動を取った。直線的な攻撃故に回避は容易い。しかし、回避を優先するあまりにBTの操作が疎かになってしまう。黒乃はこの隙を待っていたのだ。
(寄って斬る!)
「くっ、小賢しい……!」
レーザーを照射し終えると同時に、黒乃はマドカ目がけて
(むぅ、惜しい!けど、攻め手が全くないわけじゃないのが解ったから―――らぁ!?う……ぁ……。あ、頭が割れるように痛い……!これって、もしかしなくても!?いやいやアカンよ!出てくるにしてもタイミング悪すぎで―――)
当てられなかったがしつこい追撃はせず、黒乃は
本人には、この頭痛に心当たりがあった。忘れもしない、驚愕の事実が発覚した際と同じ頭の痛み。それはつまり、彼女の出てくる合図だと黒乃は悟った。今出られては自分も彼女も困るだろうと、黒乃は必死で抑え込もうとするが、努力も空しく強制的に選手交代させられてしまう。
「…………あ、あれ……もしかして、タイミング悪い時に入れ替わっちゃった……?」
「何……?貴様、情報では喋られないはずでは―――」
(わ、わっ!?そっか、喋んない方が良いんだよね……多分だけどお兄さんも困っちゃうだろうし。えっと、無表情無表情……)
「……まぁ良い。取るに足らん事だ」
周囲をきょろきょろと見渡した
「そら、喰らえ」
(大丈夫―――私ならできる!だって、私は彼でもあるんだから!)
「なにっ……?」
どうやら、感覚的に刹那の操作を理解しているらしい。操縦桿を握る黒乃の目に、不安は全く宿っていない。そうしてマドカが攻撃を再開、黒乃も回避行動を始める。するとマドカは、驚愕を隠し切れない。何故なら、先ほどまでと動きのキレが全く違うから。
(うん、いける!やれる!)
(なんだこの無茶苦茶な動きは!?ただの人間に、これほどの動きを耐える肉体があるはず―――)
黒乃の飛び方は、
(あの女、わざと引きつけて避けているというのか―――ナメた真似を!)
(……!見かけによらず熱くなる方……かな。こうも私に集中しちゃったら―――)
「しまっ……!?」
(攻撃するには十分な隙だよ!)
「ぐ……くっ……!このっ、小癪なっ……!」
少しばかり黒乃に当てる事へ躍起になってしまったマドカは、自らの過ちに気が付いた。先ほどまでとは違い、隙のない布陣を崩してしまったのだ。おかげで、全てのBTは黒乃に引きつけられている。ハイパーセンサーで周囲のBTの状態を確認した黒乃は、
今度はエネルギー・アンブレラで防ぐ暇もなく、鳴神による鋭い斬撃を右肩から斜めに喰らう。自らの失態を認めたくないのか、マドカは黒乃を睨み付けた。そんな視線に射抜かれた黒乃は、マドカの目から自分に向けられる個人的な感情を感じている。簡単に言うならば、憎悪―――
(なんだろ、この子……。そういえば、初めて会った気がしないような……?)
黒乃は更に、妙な親近感を感じたのだ。バイザーで顔が隠れているのに、なんとなくそういう目をしているのだなと悟れるという事は、とても身近で良く知っているかのような―――初めて会う少女にそんな感覚を抱く。そうやってマジマジと少女を観察していると、口元がグニャリと歪むではないか。
「なるほどな、それはそれで面白いそうだ」
(っ!?来るの……ってあれ!?し、しまった……!)
小さくそう呟くと、マドカはサイレント・ゼフィルスを全速前進させ突っ込んでくる。すぐさま身構えた黒乃だったが、マドカは遥か横を通り過ぎてしまう。その背は刹那の機動力で余裕に追えるが、今度は黒乃の失態だった。そもそも、マドカの目的はオータムの回収のはず。だとすると、IS学園に踏み込んでくるのを想定しておくべきだった。
(さて、此処か。確かに見る限り逃げ遅れている者が多いな。ならば……)
(そんな……あの子、まさか!?)
「攻撃開始だ」
「だ……めええええええええ!」
IS学園敷地内の上空にて、マドカは避難の遅れてしまった者達の集団を眺めた。中には昴や朝日も居るではないか。するとマドカは、スターブレイカーを構えBTもフル展開。この時点で何が起きるか察した黒乃は、全速力で集団の前方へ降り立つ。そのままマドカに背を向け、神翼招雷を発動させて雷の翼を広げる。
「ハッ、やはりそう出るか!ならば望み通りにしてやろう!」
(ぐっ、うっ!ううっ!)
「なっ、黒乃!?テ……メェ、このガキがぁ!ふざけんな、アタシが相手になるから人質なんざ止めやがれ!」
「先生、黒乃さんの想いを無駄にしてはダメです!」
「……あぁ、そうだな。おいテメェら、黒乃の負担を少しでも減らす!ふた塊になって翼へ隠れな!」
翼を平らに広げるのではなく、根本は少し曲がっている。自身を守りつつ、昴達を守る為だろう。しかし、降り注ぐレーザーの衝撃ばかりはどうしようもならない。黒乃は歯を食いしばりつつ、その場に立ち続ける。明らかに黒乃を庇わせる為であろうこの行動に、昴は上空のマドカへ怒鳴り散らした。
それを窘めたのは朝日だった。小学生に言われちゃ世話ねぇぜと、昴は広範囲に広がった生徒や来客へ右翼か左翼のどちらかへ隠れるように指示を出した。昴の迫力も相まってか、行動はとても迅速に行われる。神翼招雷が続く限り、昴達はまず無事だろう。
(だけど、持続時間はそう長くない……ど、どうすれば!……うぅ!?あ、ぐぅ……!も、もう時間切れ……?ご、ごめんお兄さん……またタイミングの悪い時にこうた―――)
「黒乃、しっかりしろ!
「負けないで、黒乃さん!」
(く……黒乃ちゃんんんんんん!ホントこれタイミング悪いよ!?)
神翼招雷の効果時間が切れてしまえば、もう昴達を守る盾はない。何か打開策はと頭をフル回転させていると、激しい頭痛が黒乃を襲う。どうやら、またしても交代の合図のようだ。朝日が叫んだ辺りで完全に主導権が戻ったのか、憑依している方の黒乃は内心で情けない声を上げた。
(うひゃあ、背中でドカドカいってるよぉ!ハイパーセンサーで確認するまでもなく怖いぃ!)
「これは、黒乃……!?」
かなり無茶をさせられている状況に、黒乃はいつもの怖い時に出てしまう笑みが零れた。それは真っ先に昴の目に留まる。八咫烏の黒乃と思われている人格へと変貌したと解釈されたらしい。だとすると、昴には疑問が浮かんだ。どうしてこちらの人格が、人を守るような行動を……?と。
(ま、まずい!神翼招雷が―――終わる!)
(フッ、翼が消え始めたか。ならばこのまま―――)
「待たせたな黒乃、もう大丈夫だぞ!」
(イ、イッチー!)
神翼招雷の効果が徐々に切れ始め、巨大だった翼に力が失せ始めた。黒乃や昴達がもう駄目だと思ったとき、憎いタイミングでアイツが現れる。そう、白式を纏った一夏だ。一夏は黒乃の背中の前に躍り出ると、雪羅の盾を高出力で展開。エネルギー無効化能力により、サイレント・ゼフィルスの射撃を全て受けきる。
(反撃の手立て―――見えた!どいてくれぃ、イッチー!)
「良し、いけ黒乃!」
(くぅらぁえぇええええええええ!)
「チィッ……この威力は―――」
一夏がレーザーを防御している内に、黒乃は雷の翼を倍加させながら刹那へ吸収。急いで両掌に分配させ、腕をマドカに向けて突き出す。そして両掌から、更に倍加させつつレーザーを発射。つまり消えかけだったとはいえ、6倍にまで倍加させたレーザーがマドカを襲う。
その密度たるや、照射の際に発生した光で目を開けられない程だ。大地や大気が震えているのではないかと錯覚すらしてしまう。事実、黒乃本人も当たったかどうかを視認できないでいた。しかも、トラブルが発生してしまう。それは、機体安定の為に雷の翼を出し忘れた事だ。
(あ、ヤバっ!?ツインバスターモードの威力で、徐々に下がって……!)
「黒乃!安心しろ、俺が支える―――だから黒乃は思い切りやれ!」
(イッチー……。ああ、もぅ!そういうとこホント大好き!愛してるよ!だから……文字通り支えてて。そうすれば私は、もっと頑張れるから!)
地面を抉りながら、ジワリジワリと刹那が後退を始めた。このまま打ち続けると、いずれ刹那は転倒してしまうだろう。そうなれば、確実に危険な事になる。黒乃が焦りを見せると、いち早く一夏が刹那の異変に気が付いた。一夏は黒乃の腰に抱き着くようにして、白式のスラスターを精一杯吹かす。
何より一夏の言葉が決め手になったのか、黒乃は照射し切っていないエネルギーを一気に刹那の両掌から噴出させる。勢いの増したレーザーは、射程もかなり伸びて雲をも貫く。そうして、ようやく刹那は6倍にしたエネルギーを放出し終えた。
「やった……のか?」
「いや、アレを見ろ!」
(くっ、ツインバスターが目くらましになったかな……?)
「…………」
一夏が青色に戻った空を見渡すと、昴が先にマドカを発見して指差した。黒乃の言った通りに、レーザー照射のあまりの威力を目くらましとして利用したのだ。証拠に、肩には妙にぐったりとしたオータムを背負っている。そしてマドカは、何を言うでもなく飛び去ってしまう。逃がしはしたが、何はともあれ―――
(どうにかなったね……)
「やった……。やったな、黒乃!すげぇよ黒乃は、こんな沢山の人を黒乃が守ったんだもんな!」
「おーおー……見せつけてくれちゃって、お熱いねぇ。……ありがとうな、黒乃。」
「ありがとうございます、黒乃さん!それにしても、愛し合うお2人……はぅ!素敵です!」
脱力しながら刹那を解除すると、同じく白式を解除した一夏が黒乃へ抱き着いた。日頃から疎まれ続けた黒乃が、迷わず人命救助に入って一夏は嬉しいのだ。中には、黒乃に正面切って悪口を言うような生徒も混じっていた。それでも躊躇わなかったとなれば、黒乃を誇りと思う一夏は興奮を抑えられない。
「そうよ、あの子が助けてくれたんだわ!」
「危険を顧みず、身体を張って僕らを守ってくれたんだ!ありがとう、本当にありがとう!」
(あ~……あのー皆さん、助けに入ったのは私っていうか黒乃ちゃんで……。っていうか、イッチー降ろしてよ!嬉しいけどさ、こういうのは2人きりの時だけに―――まぁ、良いか……)
「よく頑張ったな、黒乃!なんかもう、ホント最高だ!」
生徒達はバツが悪そうな表情を浮かべている者が大半だが、あまり事情を知らない一般客達は挙って黒乃に礼を言う。辺りは黒乃への感謝と拍手で包まれ、一夏は我を忘れて黒乃を姫抱きで持ち上げグルグルと回転を続けた。いろんな羞恥で頭が爆発しそうな黒乃だったが、ふとした考えを浮かべて冷静になってしまう。
(黒乃ちゃん、何の前触れもなく交代したって事は……いよいよなんだね?キミもイッチーの事が好きなんてのは知ってるけど、ごめんね……今だけは、独占させてね……)
「わっ、っと、っと……く、黒乃!?」
「おーう、そういうのは他所でやれよぉ!」
「ヒュー!ヒュー!」
黒乃は、間違いなく消滅までのタイムリミットが近い事を悟った。その残り時間を堪能するかのように、黒乃は大勢の前だろうと一夏の首に両腕を回して固く抱き着く。それを見た昴は思い切り茶化しにかかり、朝日すら口でヒューヒューと言いながら便乗するではないか。
それでも一夏が黒乃を降ろすことはなかった。そうさ、この子は俺の大事な人なんだぞと周囲に誇示するかのように。そんな2人の様子を、控えめに下がった場所で見守る影が。紅椿を纏う箒だった。別の場所で避難誘導を行っていたのだが、絢爛舞踏を使って白式を回復させた一夏がさっさと行ってしまって思うところでもあったのだろう。
そうして箒は、寂しそうで、それでいて嬉しそうで、それでいて悔しそうな表情で、周囲の喧騒にかき消されながらも確かにこう呟いた。
「……そろそろ―――潮時なのかもしれんな」
黒乃→私ってか黒乃ちゃんが助けに……まぁ、良いか。
一夏→やっぱり黒乃って最高だ!
昴→あれは、確かに八咫烏―――いや、アタシの見間違えか……。
ちなみにIS操作のセンスというか才能ですが、オリジナル黒乃>>>憑依黒乃
くらいの差があります。