八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

79 / 154
第72話 我が愛しきシンデレラ

(はぁ……。あの人に関わると、わけ解んないうちにわけ解んない事になる。)

 

 第4アリーナの更衣室では、一夏が内心でそう呟きながら着替えを行っていた。ザックリと現状を説明してしまえば、生徒会発の出し物を手伝う事になっている。それが演劇で、シンデレラをやるだとかぼんやりした内容しか伝えられていないのだ。とりあえずは王子役を任命された一夏は、それっぽい服に袖を通している。

 

「浮かない顔だね。」

「近江先生……。やけに様になってますね。」

「うん?ハハッ、こう見えても御曹司ですから。」

 

 そんな一夏に話しかける男性が1人。いつもの白衣は脱ぎ捨て、妙に似合う王子然とした衣装を纏った鷹丸だ。あまりに似合いすぎなせいか、一夏は投げかけられた話題とは少しズレた返事をしてしまう。一方の鷹丸は、ノリノリで優雅なお辞儀をして見せる。

 

「……って言うか、シンデレラなのにどうして王子役が2人?」

「まぁ僕の事は気にしないで、ちょっとしたおまけだから。それより、どうにも表情が冴えないのはやっぱり―――藤堂さんと2人きりなのを邪魔されたからかな。」

「ブフッ!?ゲホッゲホッ!」

 

 あくまで自身をおまけと言うが、気分とノリの問題か鷹丸は何かオーラからして違う。全力で楽しむ主義故だろう。しかし、話題が元に戻ると同時に一夏は咳込むはめに。主に、どうして2人きりなのを知っているといった意味で。まさか間近で見ていたなどとは思うはずもなかろう。

 

「な、なんで知ってるんすか……?」

「彼女達がしきりに騒いでたからね、一夏は何処行ったーって。そうすれば、必然的にこっそりと藤堂さんのところへ……っていう簡単な推理だよ。」

「そう……ですか、なら良いんですけど。」

 

 嘘である。清々しいほどに真っ赤な嘘である。だが、鷹丸にこう言われてしまえば一夏は信じて疑わない。良くも悪くも、織斑 一夏とはそういう男なのだ。ただ、鷹丸のニヤニヤした笑みばかりは許容できるものではないらしい。一夏は少しばかりムッとした表情を浮かべる。

 

「ハハ、怒らない怒らない。ほら、せっかくの男前が台無しだよ?王子様。」

「うわっ……!?これは、王冠?また随分と凝ってますね。」

「あー……藤堂さんの王子様って訂正しようか?」

「い、良いです別に!というかもう……余計なお世話です!」

 

 鷹丸は全く一夏を窘めるつもりもない様子で、頭に王冠を被らせた。自身も似たような王冠を被ると、ハハハと笑いながら先へと進んでいた……が、振り返ってそんな事を言い出す。思わず一夏が顔を真っ赤にしながら騒ぐと、鷹丸は今度こそ大笑いして先へ進んで行った。

 

「そう言えばですけど近江先生、台本とか渡されました?」

「いや、全然。更識さんはアナウンスするからその通りに動けって言ってたよ。」

「……台詞は?」

「アドリブで。」

「ですよねー。大丈夫かおい……。」

 

 大きな笑い声にも反論したいところだったが、一夏はそれよりも大事な事を思い出した。これから演劇をやるというのに、脚本も台本も渡されていない。疑問を生徒会顧問だと自称する鷹丸にぶつければ、なんとも楯無らしくはある回答が。一夏はますますやる気を無くしつつ会場へと足を踏み入れる。

 

『あるところに、シンデレラという少女が居ました。』

 

 2人が舞台のセットへ移動するや否や、楯無の声が第4アリーナ内に響く。それと同時に、2人を煌々と光るスポットライトが照らす。その眩しさに目を細めながらも、一夏はまともな出だしに安堵するような表情を隠しきれない。しかし、そんな安心も数秒後には砕け散る事になろうとは。

 

『シンデレラは身内の酷い仕打ちに耐えながらも、舞踏会へ憧れを抱いていました。するとシンデレラを可哀想と思った魔女が現れ、シンデレラに綺麗なドレスとガラスの靴を与え―――』

(……なんか普通ですね。)

(彼女が普通過ぎるって、僕は逆に怖いけどなぁ。)

(あ~……。)

 

 響く楯無の声は、シンデレラを微妙に端折りつつも、常套句とか様式美とか例えて良い。一夏が率直な考えを小声で鷹丸に伝えると、同意せざるを得ない回答が返って来る。確かにと口にする必要すらないと感じたのか、一夏はただただ唸った。そして、鷹丸の言葉は現実へと昇華する。

 

『しかぁーし、いざ舞踏会へ出てしまうとさぁ大変!まさかまことしやかに囁かれているあの噂が本当だったとは!』

(ん?流れ変わったな……。)

『隣国に位置する2人の王子が……まさかデキていたなんて!』

「何ぃぃぃぃいいいいっ!?」

「おやおや、流石にそれは不名誉だなぁ。」

『さぁシンデレラよ、こうなったら実力行使しかあるまい!貴女の愛(物理)で王子を取り戻すのだ!』

 

 2人の王子……と言われてしまえば、該当するのは一夏と鷹丸しか居ない。一夏はこれまでにないほどの大声で叫ぶ。だが、鷹丸は顔に出ていないだけなのか……全く不快に感じているようには見えない。否定してくれ、余計怪しまれる!……と一夏が言おうとすると、アリーナ内の明かりが一気に点灯した。すると―――

 

「王冠寄越せええええっ!」

「おっと危ない。織斑くーん、3歩後ろ。」

「へ?いや、そう言われても全然状況が―――ってどわあ!?」

 

 舞踏会場を模したセットの上段から、シンデレラよろしく白のドレスを纏いガラスの靴を履いた鈴音が降って来た。……だだし、中国版の手裏剣とも呼べる飛刀を投げながらだが。いち早くそれを察した鷹丸は、余裕の様子で後退。状況が呑み込めていないながらも一夏がそれに合わせると、鼻先ギリギリを飛刀が通過し叫び声を上げる。

 

「チィッ!前々からただ者じゃないとは思ってたけど……予想以上ね、近江先生!」

「いやぁ、それほどでも。……それより凰さん、僕まで襲う必要はないんじゃない?」

「先生の王冠取っても、一夏と同じ扱いで良いって事らしいわよ!」

「ふぅん、それは初耳だな。教えてくれても良いのにねぇ。」

「ちょっと待て!何か知ってるなら頼むから教えてくれよ近江先生!」

 

 2人のちょうど中間あたりに着地した鈴音は、ニヒルな笑みを浮かべながら鷹丸を見た。わざとらしく照れる様な謙遜を露わにするが、鈴音からすればそれは社交辞令に感じられた。目にもの見せてやるとは思いつつも、聞かれた質問には素直に答える。そんな鈴音と鷹丸のやり取りを見て、一夏はこの野郎やっぱり何か知ってやがると声を荒げるが―――

 

「近江先生のが取りやすいと思ってたけど、どうやら作戦変更ね!」

「うおおおおっ!?ちょっ……待て馬鹿!殺す気か!?」

「殺さないように殺すわよ!」

「もはや意味が解らん!」

 

 一夏の王冠目がけて、鈴音は何の容赦もなく飛刀を投げつけた。不格好ながらもなんとかそれを回避すると、一夏は非常に常識的な抗議をぶつける。床や壁に飛刀が刺さってるあたり、どう見たって本物だ。しかし鈴音は、エキサイトしているのかとてつもなく理不尽な言葉で返す。

 

「織斑くん、とにかくキミはここから遠くに逃げるのをオススメするよ。じゃないとキミのお姫様は登場すらできないから。」

「……やっぱり知ってんのね。そうはさせるもんですか、あの子には悪いけど……王冠取れなくてもそれだけは絶対に阻止させてもらうわよ!」

「キミのお姫様……?まさか、まさかとは思うけど……それなら!」

「このっ、待ちなさ―――」

「そうは問屋がなんとやらってね。」

 

 チョンチョンと、鷹丸は遠くを指差しつつ意味深な台詞を放った。しかし、先ほどの会話でなんとなく一夏にも察する事が出来たのだ。だとすると、一夏がそうしないわけにはいかない。全力で走り出した一夏には、既に鈴音が見えなくなってしまっていた。宣言通りに妨害を仕掛けようとする鈴音だったが、それは鷹丸に阻まれる。

 

「とにかく、王冠は取られたらダメだよ。僕も絶対死守するから、とりあえずは遠くへ遠くへ……ね。」

「はい、ありがとうございます!」

「……近江先生、不細工になりたくなかったらそこ退いて。」

「いやぁゴメンね、僕にも譲れないものがあるんだよ。」

「そ、言うだけ無駄ならもう良いわ。忠告はしたから。」

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!はぁっ!」

 

 走る。織斑 一夏はひた走る。途中狙撃されたり、武士っ娘&軍人っ娘に襲撃されたり、王冠が外れたペナルティだとかで電撃を喰らったり、正直心がポッキリ折れそうだったり。しかし、一夏は鷹丸の意味深な言葉にただひたすらの希望を抱く。とある条件を満たせば、己が愛してやまないシンデレラが現れると。

 

『はいは~い、生徒会長よりお知らせしま~す!織斑くんが規定ラインを突破したため、真打登場といこうじゃありませんか!』

「っ……来たか!」

 

 全力疾走していた足を止めると、アリーナ内の明かりがまた消え、一夏達のスタート地点であった舞踏会場へとスポットライトが。その2階に位置するちょうど鈴音が降って来たフロアから勢いよくスモークが噴出されると、奈落のような仕掛けから玉座がせり出してきた。そこに座っているのは……シンデレラ衣装を纏った黒乃。

 

(も~……止めーや私だけこんな大ごとしてからに~。)

『はい、そういうわけで……織斑くんがスタート地点から一定距離離れるというハンデを背負ってのご登場!藤堂 黒乃ちゃん……ってお~いみなさ~ん、聞いてます~?!』

「…………。」

 

 随分と大掛かりな登場の仕方をしたせいか、表情に出ないながらも黒乃は本気でげんなりしていた。しかも楯無のアナウンスに応えない程に周囲が静まったのを、自分が白けさせたとすら考えている。そうではない。誰しもが、シンデレラの姿をしている黒乃に見とれているのだ。

 

 その様は、まるで時が止まったかのようだ。もはや息をする事すら憚られるような、ある種異様な空気に包まれている。それほどにまで、純白のドレスを纏った黒乃は美しい。いや、一夏から言わせれば美しいなんて表現すら生ぬるく感じられる。

 

(……って!なるべくイッチーの近くに―――でも、あうぅ……今行ったらイッチーの王冠欲しいみたいに思われるかなぁ?)

『おっと!真っ直ぐ織斑くんの元へ向かうかと思われた藤堂さんですが、玉座に座り直してしまいました。もしやこれは、自らが彼の正妻であるという自負からかーっ!?』

(せ、せいさ……!?ち、違う違う!私とイッチーはそんなんじゃなくって……。)

 

 これから一夏に巻き込まれに行こうと覚悟した事を思い出して玉座から立ち上がった黒乃だったが、周囲の目を気にして萎縮してしまう。シオシオと力なく座れば、茶化すような声色で楯無がアナウンス……と言うよりはもはや実況を始めた。会場をヒートアップさせるのは、本来の目的でもあるのだが。

 

『織斑くん!』

「近江先生!?」

『藤堂さんがキミを追わなかった!これの意味が解らないほどキミも鈍くはないだろう?!』

「…………。」

『解っているなら走るんだ……彼女の元へ!』

「ああ!」

 

 アリーナ内に鷹丸の声が響く、どうやらピンマイクか何かを持ち込んでいたらしい。ちなみに鈴音だが、同じく鷹丸が持ち込んでいた小型捕縛用ロボの餌食となっている。複雑に絡み合ったネットにもはやお手上げ状態だ。黒乃の登場とたまたまタイミングがかみ合ったのだろう。

 

 そして鷹丸は、珍しくも真剣そのもので一夏の背中を後押しした。端から見ればドラマティックなのかも知れないが、その裏には邪悪な目的が潜んでいると誰が思うだろうか。それでも、一夏がその言葉でハートに火が着いたといっても過言ではない。一夏は両足に力を籠め、舞踏会場へとリターンバックした。

 

『何やら男同士の熱い友情を感じます!だけれどそこに水を差すのが私流でござーい!一般参加枠カムヒア!』

「「「織斑く~ん!」」」

「関係ない……黒乃が、俺を、待ってるんだ!」

(えぇ……?いや、別に待ってるって程でも……。)

 

 黒乃が立って、座った。黒乃が一夏を追わなかった。それを鷹丸や一夏はこう捉えたのだ。『貴方の事を待っている』と、まさに王子の到着を待つ姫が如く……迎えに来てくれる事を望んでいるのだと。だからこそ一夏は、猛然と黒乃の元へ走る。必ずお前を迎えに行くと、力強い瞳がそう語っていた。

 

 しかし、悪ノリなのかなんなのか……宣言通り楯無が水を差しに入った。すると、アリーナ内に大量の女子がなだれ込んでくる。彼女らも一夏の王冠を奪おうと、一目散に向かってくるではないか。圧倒的な数の暴力を前に、一夏は不敵に笑って見せた。何故なら、彼女らが単なる演出にしか思えないから。

 

 俺と黒乃のラブストーリーを盛り上げるには、おあつらえむけだ。一夏にとっては本当にそれくらいにしか感じられない。誰が何人いようと関係ない。一夏の瞳には、黒乃しか映っていない。迎えに行くと決めた愛する人しか。己の愛しの姫君しか。

 

「黒乃おおおおっ!」

(わっ、わ……!イ、イッチーってば、そんな必死にならんでも……。)

「良い、座っててくれ!証明して見せるから!お前がどんな場所に居たって、どんな遠くに離れたって!俺が必ず迎えに行く!黒乃の隣まで辿り着いてみせる!」

(イッチー……。)

 

 真っ直ぐ自分の方へ向かってくる一夏は、女子の波を躱し、掻い潜り、時には倒されとてつもなく不格好だ。どういう理由で自分の方へ向かって来るかは解っていないが、黒乃はとにかく一夏が心配でまた立ち上がった。しかし、それを制したのはほかでもない一夏自身。

 

 いくら泥臭かろうとひたすら黒乃に向かい続ける一夏は、周囲の目など気にせずそう叫んだ。そう言われた黒乃は大人しく座ったが、何も一夏の言う通りにしたわけではない。体に力が入らなくなってしまったのだ。頭がボーっと、フワフワするような感覚に襲われ……もはやまともに立ってはいられない。

 

「「「近江先生~!」」」

「おやおや、これは僕もゆっくり出来なさそうだねぇ。じゃっ、そういう事で。」

「ええ!?」

「近江先生が消えちゃった!」

 

 王子役で参加しているという事は、当然ながら鷹丸も捕縛対象である。むしろ一般参加枠のほとんどは鷹丸の方に狙いを定めていた。しかし、鷹丸は初めから酔狂でこの土俵に立っているのも同然。そろそろ引き上げ時と判断するや否や、大人1人包むのは余裕ほどの大きさをした布を頭から被った。

 

 それと同時に、鷹丸の姿も消え去ってしまうではないか。これも本人の発明で、いわゆる透明マントのようなものだ。正確に言えばステルス機能搭載布とかそこらだろう。いきなり目の前で起こったイリュージョンを前に、鷹丸派閥の女子達は動揺を隠せない。いや、一夏に狙いを定めていた女子一同もそうだ。

 

(っ!?今だ!)

 

 目の前で1人が消えて見せれば、あっけにとられるのも頷ける。だが、一夏はあくまで冷静だった。女子の大半がまごついている隙を突き、己の持てる最高速度で黒乃との距離を一気に詰めにかかった。周囲がその事に気づいた時にはもう遅い。一夏は、あの人の波を潜り抜け……愛しい人の元へ辿り着いた。

 

「「…………。」」

 

 2人はただ見つめ合う。一夏は玉座に座る黒乃を見上げ、黒乃は玉座から一夏を見下ろす。2人の間に言葉はない。いや、不要なのかもしれない。人生の大半を共に過ごした2人には、言の葉を紡ぐという行為は時として野暮となる。その野暮という感覚を2人が抱いているかは解らないが、むしろそれを感じているのは周囲の方だった。

 

「お迎えにあがりました、シンデレラ。」

 

 先ほどまで必死に一夏と鷹丸を追いかけていたというのに、女子達は恐ろしく静かだ。無理もない。2人の創り出す空間は、何処か神聖で、不可侵を余儀なくされている。そして、一夏の演技じみた言葉がそれを加速させた。その風景はまさに、演劇を見守る観客そのもの。アリーナ内に居る人々は、ある意味呑まれたのだろう。

 

「貴女は時が来れば魔法の解けてしまう運命。私は確とそれを承知しております。ですから魔女とは違い、私は貴女に解けない魔法をかけたいのです。」

「…………。」

「さあシンデレラ、どうか私の元へ。……私の手を取って下さい。」

(あ、えっと……は、はい……。)

 

 変なスイッチでも入ったのか、一夏は完全に芝居がかった口調で黒乃を自分の元へと誘う。傅いて手を差し伸べる姿なんかは、まさに王子そのもの。黒乃は様々な緊張に心臓を高鳴らせながら、ゆっくりとした所作で階段を降りていく。普段の黒乃ならば躊躇った事だろう。しかし、もはや周囲の目なんかはどうでも良く感じられていた。

 

(……これで良い?さぁイッチー……どんな魔法を私にかけてくれるのかな。)

「シンデレラ……いや、黒乃。俺は……」

(うん……。)

 

 黒乃は期待に胸を踊らせていた。自分でも何を期待しているのかは解らないのだが、とにかく一夏が言葉を紡ぐのを今か今かと待ち受ける。一夏の方は、伝えるつもりなのだ。この大勢の前だろうとなんだろうと、ここしかないと黒乃への積み重ねた想いを。今なら言える。ここなら言える。一夏は重ねられた黒乃の手を握り、勢いよく口を開く。

 

「俺はっ、黒乃の事が―――」

 

 黒乃の事が大好きだと、そう告げようとした瞬間の事だ。一夏は不意に自身の足元へと転がって来た球体に気を取られてしまう。何かマズイ。本能的に危険を感じたが既に後の祭りであった。球体は大きな爆音を上げ炸裂。そして周囲へと白煙を撒き散らす。

 

「なにっ!?くっ、これはいったい……?」

(これって、もしかして……。)

 

 女子達は演出なのか、それとも不測の事態なのか判断が付かずにいた。おかげでパニックには陥っていないが、1人が騒ぎ出すと集団心理が働き一気に状況は深刻化するだろう。そんな中、黒乃はこの急な煙幕に心当たりがあった。黒乃の予想通りならば動かない方が吉。しかし―――

 

「黒乃、とにかくこの煙幕から出るぞ!」

(まっ、イッチー!そっちの方向は―――)

「ぐっ!?な、なんだ……人の手?って、うおわぁ!?」

(わああああっ!?)

 

 一夏ならばすぐさま黒乃を危険から遠ざけようと行動する。一夏の頭はもはやそういった思考ルーチンが組まれていると言って良い。走り辛いであろうと判断したのか、黒乃を姫抱きに持ち上げ駆け出す。そして舞踏会場から降り、しばらく移動したその時だった。なんと床が開き、そこから腕が伸び一夏の足を掴むではないか。

 

 何事かと思考を巡らす暇もなく、一夏は黒乃共々床下へと引きずり込まれてしまった。やがて地上では煙が晴れ、2人の姿が消えた事に女子達はすぐ気が付いた。しかし、やはり演出なのかどうなのか判断がし辛く、ただガヤガヤと騒ぐしかない。これからもっと騒がしくなるとも知らず……。

 

 

 




黒乃→別に待ってるって程でも……?
一夏→絶対に迎えに行くからな!

来てほしいとは思ってるみたいですけどね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。