八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

78 / 154
第71話 決意と願い

「はぁ……はぁ……。ここまで来れば大丈夫だろ……。」

(そ、そだね……。)

 

 2人して必死に走った俺達は、肩を上下させながらようやく止まった。今日は一般開放されているが、多少なりと関係者以外の立ち入りを禁じている場所がある。今俺達が居るのは、その中の1つ。ここなら一般人に見つかる事もそうそうないだろう。追って来ているかどうかは不明だけどね……。それにしても―――

 

「どうして。」

「どうしてって、なんで俺があそこに居たかって事か?単なる偶然なんだけどな。他の皆が言い争ってるうちに抜け出してきて、黒乃を見つけたらなんか大変ってのが一目瞭然だったからさ。」

(偶然……。偶然でも、俺のピンチに駆けつけてくれるって……。)

 

 この狙ったかのようなタイミング。これこそがこの男の怖いところだ。俺の大変なところにサラッと駆けつけては、何の憂いもなく助け出してくれる。あぁ……もう、何さそれは……そんなの、嬉しいに決まってるじゃん。だってそんな、まるでイッチーが―――

 

(所謂、白馬の王子様みたいな―――)

「く、黒乃……?あ、あぁ……そうだよな、怖かったよな。もう大丈夫だぞ、その……俺が付いてる。」

(……違うんだけどなぁ。まぁ良いか、そういう事にしといたげるよ。)

 

 何度も言う、嬉しいに決まってる。思えばイッチーは、ずっと王子様だったのかも知れないね。今までは、駆けつけてくれる事が当たり前すぎて……特別な事だとは思えなかった。けれど、来てほしい時に来てくれた。だから、すごく嬉しいのかも。

 

 溢れる想いを抑え切る事が出来ず、私はイッチーに抱き着いていた。私が怖かったと言いたいと解釈したのか、イッチーは抱き返してくる。理由は違う。けど、抱き返してくれた。温いなぁ……イッチーの腕の中は。今日のは特に心地良い。まるで陽だまりの中のような……そんな感じ。……ん?そう言えばだけど―――

 

「皆は。」

「うん……?なんかさ、誰が俺と休憩するかみたいな話になってな。……だから抜けて来た。」

(え、なんでそんな……?)

「俺は、黒乃以外の女の子と2人きりになるつもりなんてない。」

 

 う、あ、え、えぇ……?その……ど、どう反応するのが正解なのかな。いや、嬉しくないわけじゃないよ?ただ、ほら……そんな真剣な顔で言われても困るっていうか……。ああ、けど!困るって言っても迷惑って意味の困るって事でも……。あ、頭……恥ずかしくて破裂しちゃう……!

 

「だから、できれば……だけど、黒乃と2人で過ごしたい……良いか?」

(そんな急に不安いっぱいな表情で言わんといてよ……!)

 

 イッチーは何か、私に断られるのが怖いとでも言いたげな表情を浮かべて同意を求めて来た。断るつもりなんて毛頭なかったが、そんな表情されるとまずます構いたくなってしまう。私はイッチーの問いかけに対し、間髪入れずに首を縦に振った。

 

「本当か!?じゃあ―――いや、その前に。」

(その前に?)

「それ、外しといてくれ。」

(それって、仮面の事?一応は笑顔だからこっちのが―――)

「文字通り貼り付けた笑顔なんていらないさ。それだったら俺は、いつもの黒乃の方が良いな。」

 

 私が肯定を示すと、イッチーはどうにも嬉しそうな表情を見せた。しかし、次の瞬間には真剣な表情へ様変わり。何をそんなにと思ったが、どうやら笑顔の仮面が気に入らないらしい。イッチー達に形だけでも笑顔を見せられたと思っていただけに、なんだか複雑な気分だ。

 

 しかし、そんな気分も吹き飛ばしてしまう言葉をイッチーが放つ。貼り付けた笑顔よりも、普段の私のが良い。そう言われてしまえば、もはやこんな仮面をつけている理由なんてない。私はすぐさま仮面を外して、いつもの無表情を晒す。これもこれで仮面か……鉄仮面っていう名の。

 

「うん、やっぱ全然そっちのが良い……。」

(アハッ、ちょっと止めてよイッチー……くすぐったいってば。)

 

 私が素顔を晒すや否や、イッチーはすかさず頬を撫でにかかった。えへへ、なんだか今日はイッチーとじゃれ合うのが楽しいや。しばらくスルー続きだった反動かな?うん、やっぱり仲直りできてよかった。イッチーとのこうした毎日が、ずっとずっと続けば良い。明日も明後日も、ずっとずっと……。

 

「……そろそろ行くか?あ、でも―――」

(どったんイッチー?)

「いやな、冷静に考えてみると……弾達に大変な思いさせといて、俺達だけ楽しむのもなんか忍びないような気がしてきて。」

(なるほど、一理あるね……。)

 

 イッチーはそもそも私を休憩に誘いに来たわけだが、成り行き上あの騒動を弾くん達に押し付けたようなものだ。今頃事態も収拾して、学園祭を楽しんでいてくれたら御の字だけど……そうでなければ本当に忍びない。だとすると、何か良い手はないかな。

 

(あ、そうだ!文字通り休憩にすれば良いんだよ。)

「黒乃、ベンチがどうかしたのか?……座れって事で大丈夫なんだよな。」

(今の私はメイドさんだからね。特別にご奉仕してあげますとも。)

「どわっ!?く、黒乃……これって。」

(私の膝にどうぞ、旦那様♪)

 

 この学園は無駄にと言って良いほどにベンチが多い。現在の立ち入り禁止区画にもほらご覧の通り、大きめな白いベンチが鎮座している。そんなベンチに2人して腰掛けると、グイッとイッチーの肩を強引に引っ張って寝かせた。そしてイッチーの頭は私の膝の上。つまりは膝枕って事さ。

 

 ん~……耳かき棒でもあればついでにしても良かったんだけどね、流石にそんなご都合はない。私の膝のみで癒しを提供できれば良いな。イッチーは最近大変だもんねぇ。クラス代表として学園祭関連であれこれ奔走したり、たっちゃんの訓練がスパルタだったり。うんうん、休める時に休みなさい。私の膝でグッスリ寝なさいな。

 

「あぁ……黒乃、それ気持ち良い。」

(そう?じゃあ……続けるね。ほぅれなでなで~。)

 

 夏休みの最中に膝枕をしたが、あの時はイッチーが絶賛気絶中だったから反応が解らない。しかし、ゆっくりとイッチーの頭を撫でていると、だんだんとうつらうつらとしてきたのが見て取れた。気持ち良いとの事なので、イッチーの快眠のために手を休めず頭を撫で続ける。

 

「楯無さんとは大違いだな……。」

(あ゛……?あぁ、はいはい……そういやされてたね、最近ね。原作知識及びラウラたんがプンスカしてたから知ってんよ。)

 

 眠たくなって思考回路がパーですか?……今出さなくても良いじゃん、私以外の女の子の名前。フン、なら良いですよー。たっちゃんとは比べ物にならないほどグースカ眠らせてやるわい。私は余っていた片方の手で、イッチーの手を握る。こうすると安心感がダンチとか聞いた事あるような無いような。

 

「……握り方、変えても良いか?」

(へ、うん……お好きな通りに。)

「俺は……こっちのが好きだな。」

(……そうだね、私も……。)

 

 ごく一般的な握り方をしていたが、イッチーはモソモソと手を動かして恋人繋ぎへシフトチェンジさせる。なんて言うか、よりギュッと互いを握っている感じがして……。なんだか私の方も安心感がすごいな。流石に眠くなりはしないけど、ほんわかするっていうか。

 

「……幸せだな。」

(うん……。)

「……ずっと、こんな毎日が続けば良いな。」

(うん……。)

「……なぁ黒乃。俺は……お前が……―――」

(……寝ちゃった……かな?)

 

 耳を澄ませてみると、学園祭の喧騒にかき消されながらもイッチーの寝息が聞こえる。我ながら完璧だな、こうもスヤスヤ寝てくれるとこっちも嬉しいよ。うん、イッチーの言う通り幸せだ。……幸せかぁ。こういうのも、悪くないのかも知れないね。何がって、私モードの事だけど。

 

 実のところ、今は無意識とかじゃなく意識して一人称を私にしている。違和感バリバリで気持ち悪かったのに、どうしてだろ……なかなか悪くない。やっぱり変な気を張っていただけなのかな、自分が自分でなくなるとかそんな事を考えて。……ここいらが止め時なのかな。

 

 皆の記憶に残る事は永遠だ。それが私の決めた道で、その考えは揺るがない。けれど、いずれ最期の瞬間はやって来る。それまで変に意地を張り続け、後悔するくらいなら……ありたいように生きる方が良いのかも知れない。何故なら私は、私であろうとしているのだから。

 

(私、私……かぁ。フフッ……。)

 

 何が可笑しいって事はないけど、なんだか笑いが零れるな。だって、今までの私なら絶対浮かばない考えだろうから。うん、思い立ったが吉日ってね。どうしても違和感を覚えるようならそれはそれで、また元に戻せばいい話だ。私でいよう。最期を迎えるその時まで、精一杯の私でいよう。

 

 女の子らしい事にも挑戦してみようかな。美容とかに気を付けて、お洒落してみたり、可愛い小物を集めてみたり。髪形を変えてみたりも面白いかも。そんでもってより綺麗になっちゃったりしてさ、そしたら……イッチーに褒めてもらったりして。

 

「…………。」

 

 イッチーと言えばだけど、今日攻め込んで来るはずの亡霊さんなんかは……いったい何が目的なんだろ。命かな?白式かな?どちらにしたって、イッチーが大変な目に合うのは確定なんだよねぇ。そう考えると、急に不安が過ってしまう。イッチーが俺の前から居なくなっちゃうんじゃないかって。

 

(そんなのは、嫌……だよ。)

 

 イッチーが居ないと、ダメだよ……そんな。だって、だって……約束したから。一緒に居るんだ。私は、イッチーの隣に在り続ける。最期はどうか、イッチーの隣で迎えたい。それなのに浚われるとか、殺されちゃうとか……そんなの絶対にダメ。そんな結末は絶対に私が認めない。

 

 だから、受け身じゃだめだよね……。それとなし、というか全力で巻き込まれるのを回避しようと努力してきた。けれど結局のところで防げてはいない……のなら、たまには巻き込まれてやろうじゃないか。私がイッチーを守るとか、そんな大層な事は言わないけど、少しでも力になれるのなら出し惜しみはしない。

 

 そして最期の瞬間まで、イッチーの隣で。最期の瞬間をイッチーの隣で。散々弄ばれておいてこんな事をするのは皮肉なものだが、今はとにかく祈ろう。どうか、どうか……この願いだけは叶えさせてください。そうすれば私は満足ですから。私はイッチーの手を固く握りながらそう願いを込めた。

 

 

 

 

 

 

「どうかな、首尾は上手くいってる?」

『はい、それはもう!あれだけ黒乃様に接近出来たら満足ですよ!』

「そう、それは良かった。今はもう学園外だろうけど、もし捕まったら僕の名前をすぐに出してね。」

『いえ、決してそのような真似はしません!黒乃様とのパイプ役を買って出てくれている貴方を売るなんてありえませんよ、近江社長。』

 

 適当に休憩時間を見つけた僕は、携帯電話で連絡を取り合っていた。相手は小烏党の代表だ。まぁ……首領と呼ばれている創始者ではないのだけれど。今日はとある要因があって学園祭へと僕が手引きしたのだ。有体に言えば利用してるんだけどね。フフッ、本人達にそう言ったらどんな顔するかなぁ。

 

 その表情を見てみたいと言うのもあるけど、それは僕の腹の中を見せる事になる。それは絶対にタブーだ。だって損しかないもの。適当に扱って信頼してくれればそれで御の字ってね。聞く限りでは本人達も満足してるみたいだし、丸く収まっているという事にしておこう。

 

『しかし、どうして今回だったのですか?別に本社で会わせてもらえれば―――』

「タイミングと僕の立場上の問題、かな。というか、やっぱり公にはキミらに協力はできないからね。」

『不特定多数が集まる今日……と言う事ですか?』

「まぁ、そんな感じかな?」

 

 会話の最中、小烏党代表からそんな質問が飛び出た。当然ながらそこは気になるだろうけど、その裏にわざわざキミらに協力した理由があるんだよ。だからこそ、他に真っ当な理由をつらつらと並べて丸め込む。そうすると、代表は全く僕を疑いすらしない。ま、あの一言で人を疑えるような人間なら小烏党なんかには入ってないか。

 

「逆に申し訳ないね、こういう時しか会わせてあげられなくて。」

『ああ、いえ!決してそんなつもりでは……。ただ少し気になっただけです。』

「ハハッ、そんなに畏まらなくたって良いじゃない。割に付き合いは長いんだから。」

『はい、いつもお世話になってます。』

 

 質問が出るという事は、疑問があるという事。疑問があるという事は、少しでも疑いをかけられる余地があるという事だ。だから僕はすぐさま下手に出る。人心掌握のコツだよね。立場が上の人間にそういった態度を取られると、相手は当然畏まる。だから僕は自分から畏まらなくても良いと言う。そうすれば自然に良い人だと印象付けられるから。

 

『我々一同、本当に感謝していますから。その、失礼ながら機会があればお礼をと……。』

「わぁ、嬉しいな。うん、楽しみにしてるよ。」

『そうですか、ならば期待に応えられるよう頑張ります。今日は本当にありがとうございました!』

「はいはい、じゃあ……またね。」

 

 お礼ねぇ、むしろ言うのはこっちの方だよ。本当にありがとう、黒乃ちゃんを怖がらせる役を買って出てくれてさ。別れの挨拶を済ませると、僕は内心でほくそ笑みながら通話状態をオフにした。そうして物陰から、仲睦まじくじゃれ合う黒乃ちゃんと一夏くんを眺める。

 

 何の目的って、とにかく黒乃ちゃんと小烏党を接触させる事にあった。彼女を女神と崇めるあの連中なら、興奮してそれどころじゃなくなるのなんて目に見えている。黒乃ちゃんだって女の子だ。半ば暴徒と化した大勢の男性に囲まれたらそれは怖いに決まってる。

 

 そこで登場するのが、黒乃ちゃんの王子様。本当は僕が黒乃ちゃんが大変な事になってるって連絡するつもりだったんだけど、一夏くんってば連絡なしに駆けつけちゃうんだもん。本当、王子様だよねぇ。うんうん、良い傾向だ。仲違い状態になったと知った時には肝を冷やしたけど。

 

 これだけ見ても彼ら小烏党の面子は役になってくれたよ。後は2人が完璧に恋人同士になってくれればなんだけど、あの2人の恋はなかなか難しいかぁ……。あっ……膝枕に移行した?ここだけ見ると完全に恋仲なんだろうねぇ。後ひと押しってところかな。

 

 そのひと押しは本人達に委ねるしかないから、どうにか年内には上手く纏まってくれれば良いんだけど。……なんて考えていると、携帯が震えて着信を知らせた。ディスプレイを眺めてみると、そこには更識 楯無の文字が。むっ、そろそろ時間だったかな。

 

「もしもし?」

『どうも、近江先生。今は何処をほっつき歩いているのかしら?』

「適当に見回り中だよ。本当はISの展示会場にいたんだけど、どうにも手持ちぶさたでね。」

『そう、暇ならそれで良いのだけれど。』

 

 電話越しに聞こえてくる更識さんの声色は、やはりどこか壁がある。まぁ全然僕は気にしてないんだけど、むしろ本当にそれで大丈夫かと聞きたくなるくらいだ。だって、詰めが甘いんだもの。僕は24時間監視オーケーって言ったのに、結局は日中しかされてない。今日に限っては学園祭の忙しさにかまけてか、全く張られてないみたいだし。

 

 僕をそこまで疑ってないのか、それとも泳がせているって奴なのか……。どちらにしたって僕からすれば些細な問題なんだけれども。とにかく、なぜ彼女がわざわざ僕に電話をしてきたか確認しないとね。いつもの調子で何か用事かいと聞けば、更識さんはこう返す。

 

『貴方、本当に手伝ってくれるって認識で良いのよね?』

「うん、僕が生徒会の顧問になった理由の1つでもあるからね。出来る限り尽力するつもりだよ。」

『……解ったわ。例の計画、そろそろ始めようと思うから……第4アリーナまで来て。』

「はいはい了解、すぐに向かうよ。」

 

 そこに関しては、僕と更識さんの利害は一致している。ちょっと邪魔なんだよねぇ……僕の計画を実行するには、あの亡霊さん達が。壊滅とまではいかないけれど、せめてちょっかいかけてもらいたくはない。流石にこればっかりは僕の力だけだとどうにもならないからねぇ。

 

 さて、そういう事ならすぐに第4アリーナまで向かわないとね。携帯の通話を切断させ、さあ行こうと歩を進めた瞬間の事だった。またしても携帯が着信を知らせる為に震えだした。この調子を見ると、僕が更識さんと通話中もずっとかけて来てたんだろうなぁ。ならば今すぐ通話をオンっと……。

 

「もしもし?どうかしましたか―――束さん。」

『どうしたもこうしたもないってば~。再三言ってるでしょ?いっくんとくろちゃんどうなったかって!』

「ああ、それだったら何の問題もないですよ。今も織斑くんが膝枕されてます。」

『およ、それは素晴らしいね。結局は心配し過ぎだったかも?束さんってばあわてんぼ!』

「いえいえ、この件に関しては僕もかなり焦ってましたから。」

 

 今回の通話相手は、天才科学者こと篠ノ之 束さんだ。どうして僕が束さんと仲良さげかだって?ふふっ、なんででしょう。ただ1つ言えるのは、束さんと僕も利害が一致しているから……かな。しかし、それを周囲に悟らせるのはいろいろと面倒だ。だから僕は臨海学校で―――

 

「……ハハッ」

『なに、どったの?たっくん。』

「すみません、わざわざ演技までしたのを思い出しちゃいまして。」

『あ~ね。ちーちゃんも疑り深い方なんだけどさ、信じ込んじゃったらなかなか考えは揺るがないんだよ。絶対に私達が協力関係にあるって知ったらすっごい顔するに違いないね。』

 

 束さんが若干暴走しかけてたから入っていったけど、見事に口喧嘩の方向にもっていってくれたのは彼女の方だ。その瞬間に僕は束さんの真意を察していろいろと言ったけど、実際のところ本気で図星っぽい反応だった気がしなくもない。だけどそこを指摘するとまた面倒だろうから、僕は固く口を閉ざす。

 

「まぁとにかく、黒乃ちゃんの事はご心配なきよう。やっぱり一難乗り越えたおかげか前よりイチャラブしてますよ。」

『そっかそっか、これでひとまず安心かな。箒ちゃんには悪いけど、くろちゃんにはいっくんと愛し合ってくれなきゃ困るもんね!』

「今更ですけど、貴女が科学的でない理論に乗ってくれてるのが凄く意外です。」

『ん~ん、そこに関しては肯定的なつもりだよ?実際、私達は自分の好きな事に一生懸命になれるわけだし。ラヴパワーってのならもっと巨大なエネルギーになるよ。勿論、くろちゃんにとってね。』

 

 何度も言ってるけど、完璧で万全な状態である黒乃ちゃんになってもらわないと……僕らのやってる事は何の意味も成さない。あの5機に落とされるのも完全に想定外だった。アンチ刹那な構成にはしたつもりだけど、あれくらいなら簡単に勝っちゃうって思ったんだけど。そのおかげで二次移行してくれたから結果オーライではあるかな。

 

『いっくんと愛し合うフルパワーくろちゃん……あぁ!考えるだけでワクワクしてこない!?』

「フフ……同感ですよ。織斑くんがピンチだったら、黒乃ちゃんはなおの事力を発揮してくれそうですね。」

『おっ、流石はたっくん性格悪い!でも一理あるからその意見採用~!』

「どうやらお互いさまみたいですね。どのみち僕からすれば褒め言葉ですけど。」

 

 僕がお互い様だと言えば、彼女は笑い飛ばしながら肯定した。それと一緒にガタガタと音が聞こえてくる。多分だけど、何かメモする物でも探しているんだろう。どうにも周囲が乱雑である事が容易に想像がつく。時間があればだけど、掃除ロボでも造ってプレゼントしよう。

 

『むむっ、良い感じにアイデアが……。ごっめ~ん、束さんからかけといてなんだけど、もう切るね!』

「構いませんよ、僕らにとって一瞬のひらめきは命よりも重いんですから。」

『流石たっくんは話が解るねぇ。そんじゃ、まったね~!』

「はい、また。」

 

 何やら僕との会話中にいいアイデアでも浮かんだらしく、束さんは多少強引ながらも通話を切る方へ話をもっていった。人によっては失礼に価するだろうが、僕が気にするはずもない。彼女の言う「ひらめき」は、僕じゃ足元にも及ばないレベルだろうから。

 

 悔しいけど、どうやったって束さんには敵わないだろうなぁ。ま、だからって全力を出さない言い訳にはなんないんだけど。さて、そうすれば……全力で障害を排除しましょうかねぇ。幽霊退治というのもなかなかオツじゃない。待っててよね亡霊さん。虚空に向かってそう呟くと、僕は今度こそ第4アリーナへと歩を進めた。

 

 

 




今明かされる衝撃の真実ゥ!……って程でもないかもですね。
鷹丸のゲスっぷりを加速させたいがどうだ……?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。