(なぁんでこうなるかな……。)
「1年1組の教室にてご奉仕喫茶やってま~す。こんな感じのメイドさんや、素敵な執事がお出迎えしますよ~。」
時は流れて学園祭本番、俺はメイド服を身に纏い学園内を歩き回っていた。傍らではのほほんちゃんがそう檄を飛ばし、俺は1組の場所など詳細の描かれたプラカードを掲げている。まぁつまり、宣伝の為という事だ。こうなった経緯には、大いにのほほんちゃんは関係しているんだけどね……。
1組が何を出店するかの話し合いをした日の事だ。ラウラたんの提案によりご奉仕喫茶……もといメイド服を着たモッピー達&燕尾服のイッチーが接客をするって流れになった。だけれど、学園内でもトップクラスの美人である俺がメイド服を着ないと勿体ないとかのほほんちゃんが言い出したんだよねぇ。
でもまず喋れないのに接客は論外だ。すぐにそんな話になったんだけど、じゃあ広告塔になって学園内を練り歩こう、喋る役は私がとのほほんちゃんは食い下がる。広告塔なのに表情が硬いのはどうなのかと言う話も上がった。しかし、それを無にしたのが鷹兄の発明品である。
「あ、あの……写真とか大丈夫ですか?」
「はいは~い、どうぞどうぞ~。ご奉仕喫茶もよろしくお願いしますね~」
「ありがとうございます!いやぁ、お2人共笑顔が素敵ですねぇ。」
そう、今の俺は笑顔なのだ。その理由は、文字通り笑顔の仮面を被っているから。これぞ鷹兄の発明品で、名前はそのままスマイリーマスクだか何だか言ってた。俺の顔をフェイスキャプチャしてそれを仮面にプリントしただけらしいんだけど、流石の鷹兄と言うか……ホントに俺が笑ってるようにしか見えないんだよね。
俺達に写真撮影を求めて来た男性も、何の疑いもなく俺が笑顔でいると認識したらしい。メイド服姿の美少女2人を写真に収めて満足気に去って行った。自分で言うなって?五月蠅いな、こうなったらもうヤケクソだよ。可愛いに決まってんだろ、黒髪ロングにメイド服とかド定番じゃないか。
「う~ん、写真撮るのとかをご奉仕喫茶の整理券と交換制に~―――」
「やりすぎ。」
「あはは、だよね~。冗談冗談~。」
のほほんちゃんが可愛い顔してあくどい事を言いよる。まぁ、確かに写真を求められるのも今ので数回目だもんな。あの人達が俺達の写真を撮って満足してしまったら何の世話もない。……やはりのほほんちゃんの言い分にも一理あるな。まぁ……そう教室で頑張ってる皆を忙しくさせるのも忍びないのもあるよね。
見世物な感じがして乗り気にはなれないが、メイド服姿ののほほんちゃんと一緒に頑張ろう。とは言っても、俺は偽りの笑顔でプラカード持ってるだけなんすけどね。……なんだろうか、途端に罪悪感が凄まじいぞ。せめて作り笑顔とか言っといた方が表現がソフトかな……?
「じゃあくろっち、今度は正面入り口の方へ行ってみよ~!」
(はいよ、のほほんちゃん。宣伝よろしく。)
「1組教室でご奉仕喫茶やってま~す!」
1人思案していると、のほほんちゃんが目を輝かせながらそう言ってきた。なんでこの子がそんなやる気なのか知らないが、とにかく俺に拒否権はないんでね。のほほんちゃんのスローペースな歩みに合わせ、プラカードを見やすいように掲げる。すると、明るく癒されるような声が良く響いた。
◇
「やって来たぜ、IS学園!」
(ねぇお兄、なんで数馬さん居るの?)
(すげぇストレートに言うなぁ我が妹よ。本人は黒乃に誘われたって狂喜乱舞してたぜ。)
学園祭の入場ゲート付近では、数馬がドン!と効果音でも着きそうな感じでそう言った。その少し後ろに控える五反田兄妹は、早くもツレである事を悟られたくないかのような表情を浮かべている。特に蘭なんかは……。数馬が黒乃黒乃と日頃から五月蠅いせいだろう。
ちなみにIS学園の学園祭だが、招待制度を設けている。生徒1人につき1人用の招待券が配布され、それを招待したい誰かにメール等々で送付するシステムだ。今回の場合、弾は一夏、蘭は鈴、数馬は黒乃から招待されてこの場に居るらしい。数馬が五月蠅い原因でもある。
(……お姉ってば、別に無理して誘わなくても良いのにね。)
(マジで数馬に冷たいな。アイツだって根は悪い奴じゃないんだぞ。)
(それは解ってるけど……。)
「どうしたどうしたお2人さん!せっかくの学園祭なんだからテンション上げていこうぜ!」
お互い顔も近づけずに内密な会話が成立するあたり、流石は兄妹である。黒乃に誘われたとあってテンションが割り増しなのもあるが、数馬は自分が話題に挙がっているとは露ほど思わない。知らない方が幸せな事がこの世には沢山あるというものだ。
「テンション上げんのと興奮すんのはちげぇんだよ。少し落ち着け単なる馬鹿。」
「なぬっ!?だったらいつもは弾含めて複数の馬鹿だバーカ!」
「あの、早く並ばない?」
「おう、そうだな。行くぞ
「この野郎ぜってー数馬って書いて馬鹿って読みやがりましたよ。」
人のふり見てわが身を治せと言うが、弾からして数馬は良い薬である。数馬が居なければ綺麗どころの多いIS学園女生徒を前にして、顔がだらしなくなってしまっていた可能性も十分に考えられる。とにかく、冷静な様子を保って入場の整理をしている列に入った。
「だーかーらー!アタシは顔パス……ってか、話が千冬に通ってるつってんじゃん!」
「先生先生、喧嘩腰はダメですよぉ。」
「ん……なんだ?」
「揉め事……みたいだけど。」
「見るからにイチャモンだよなー。」
3人が世間話をしつつ列が減るのを待っていると、1つ前に並んでいる人物の大声が響いた。叫んだのは、まだらに染まった金髪とスカジャンが特徴的な女性だ。傍らには小学生程の女の子を連れている。一方の入場整理をしているのは、本音の姉である虚なようだ。
「そう言われましても、招待状がない事にはお通しできませんので。」
「あのさ、無限ループって怖くね?だから、この招待券はチビの方の。アタシは千冬から通って良いっつわれてんの?解る?」
「ええ、解ります。ですからこちらの女の子は通します。ですが貴女は通せません。」
「解ってねぇじゃん!何回も説明した……っつーか今通って良いって言われてるって言ったじゃん!」
決まり事は決まり事である。そう譲らない虚は金髪の女性の宣言をピシャリとシャットアウトした。あまりにも融通の利かない様子に、女性はぐぬぬと困った表情しか出てこない。そんなやり取りを見ている弾達は、面倒な列に並んでしまったと悟る。
「あの女の人、千冬さんの知り合い?」
「あんな凶暴っぽい人、俺は知らねぇけど……。」
「……真偽はどうあれ、千冬さんの知り合いならいくらでもやりようはあるわな。」
「あ、ちょっとお兄!?」
「ちょっと良いすか?」
「あ゛あ゛!?悪いけど、文句ならこっちの石頭に―――」
「千冬さんに連絡とって、直接説明して貰えばいいと思いますけど。」
千冬の知り合いなら自分達も知っている可能性が大きい為に、あんな人は見た事ないと蘭や数馬は怪訝な表情を浮かべた。もし本当ならばと、弾は果敢にも金髪の女性に近づいていく。案の定話しかけた時点で凄まじく睨まれるが、指摘された内容を聞くと大人しくなる。そうして黙って携帯を操作すると、それを虚へ投げ渡す。
「ほらよ。」
「……お電話変わりました。……ええ、はい……了解しました。織斑先生の確認が取れましたので、貴女の入場も認めます。」
「はぁ……たく、やっとか……。行くよ、おチビ。」
「あ、はい!」
電話を受け取った虚は、どうやら千冬に事情を説明してもらっているらしい。しばらくして虚が金髪の女性に携帯を返すと、それと同時に通ってよいとのお達しが。非常に疲れた顔になった女性は、少女と共にゲートの奥へと消えていく。そんな姿を眺めて、弾と虚は溜息を吐いた。
「「はぁ……。」」
「……あの、助かりました。ありがとうございます。私はどうも柔軟な対応が苦手でして。」
「い、いえ!その……全然そんなことは。偶然俺……というか、俺らも千冬さんと知り合いなんで。」
「そうなのですか。では、入場券を拝見いたします。お連れの2人もどうぞ。」
同時に溜息を吐いたのが恥ずかしかったのか、2人はなんとなく照れ笑いを浮かべた。そうして、虚が感謝の言葉を述べると、弾は顔を真っ赤にしながら大したことではないと返す。理想的な委員長タイプである虚に感謝され、どうにも照れを隠せないのだろう。
「……はい、お3方とも大丈夫ですね。どうぞお通り下さい。」
「どもっす。よっしゃ、1番乗りぃ!」
「走ると危ないですよー……数馬さん。何やってるのお兄、早く行こう。」
「あ、あぁ……悪りぃ、今行く。あ、あの……それじゃ。」
「はい、本当にありがとうございました。」
3人の入場券を虚が確認し終えると、数馬はまるで子供のように駆け出してしまう。その背をやれやれとでも言いたげに蘭が追い始めると、弾が着いてこないのに気が付く。早い話で虚にひと目惚れしてしまった弾は、その場を離れるのが名残惜しいのだ。弾が別れの挨拶を述べると、虚はそれに柔らかい笑みで応える。
「ねぇ、そこのアンタ。」
「あ、さっきの……。」
「いやぁマジ助かった。アタシはまぁさっき見ての通り頭に血ぃ昇りやすくってさ。」
「恥ずかしいところを見せちゃいましたね!」
「それはアタシが自分で言うから良いんだよ!アンタは毎回毎回……ひと言多いんだっての!」
「うぅ~!?いふぁい、しぇんしぇいいふぁいれす!」
3人が入場口を少し過ぎるとしばらく、弾が先ほどの女性に話しかけられた。問答を繰り返すばかりの状況で、あのアドバイスで解決したから礼が言いたいようだ。女性が素直に感謝の意を述べていると、傍らの少女が口を挟む。どうやら1回や2回ではないようで、少女は女性に思い切り頬を抓られる。
「あ~ところで、アンタら千冬の知り合いなんでしょ?とりあえず自己紹介な。アタシは対馬 昴ってんだ。ゼミナール的な施設でISについて教えてんの。で、こっちのチビは教え子その1。」
「松野 朝日です!よろしくお願いします。」
なんとという程でもないが、金髪の女性の正体は黒乃の恩師である昴その人。少女の方は朝日と名乗った。夏休みに一夏と黒乃が訪れた際、初めに遭遇した少女だ。自己紹介を聞くと、弾達もそれぞれ名乗った。同時に、黒乃の友人である事を伝える。
「なるほどね、黒乃と一夏のダチか。そんで千冬と繋がりがあるわけだ。」
「昴さんもお姉達に会いに来たんですか?」
「まぁそれもあるが、メインはこの子の為って感じかね。遊びに来たってよりは勉強に来たってところ。」
「さっきゼミナールっつってましたもんね。朝日ちゃんは、見学しに来たんだな。」
「はい、夕菜ちゃんと沙夜ちゃんのぶんもです!」
昴はどうにか自分が教えている少女3人を見学させられないかと千冬に交渉を持ち掛けたのだが、流石に全員というのは却下されてしまった。確保できたのは1枠のみで、昴は特別措置で招待状はない。3人の少女は公正なるじゃんけんの結果、朝日が着いてくると言う結果に。ちなみにだが、夕菜と呼ばれた少女がのんびりとした子で、沙夜と呼ばれた方がクールな少女の事を指す。
「アタシ的には夕菜か沙夜が良かったんだけどね……。」
「酷い!?シンプルに酷いです先生!」
「朝日、アンタは日頃の迷子癖を思い出してみな……。良い!?物珍しいからって、絶対うろちょろしない事!」
「はい、先生!」
「アハハ、先生と生徒ってより……姉妹か何かみたいですね。」
「ん~……もうアタシはんな年でもねぇんだけどな。」
「そうですね、もういわゆる曲がり角……アイタタタタ!こめかみは勘弁してください先生~!」
非常に仲の良いでろう昴と朝日のやり取りを見て、なんとなく弾はそう告げた。昴はなんとなく照れながら姉という程の年は過ぎてしまったと言う。そう、自分で言うには良いのだ。朝日は凄まじく余計な事を口走り、昴の拳でこめかみを思い切りグリグリと攻撃された。
「あ、あの昴さんもそのくらいにして……。」
「そ、そうっす!アレっす、黒乃か一夏の様子見に行こうって話になってんで、まずは一緒にどうっすか?」
「そういう事なら、お言葉に甘えようかしら。朝日、蘭と数馬に感謝しな。」
「は、はいぃ……。」
蘭と数馬が話を逸らしにかかると、案外あっさりと朝日は解放された。とりあえずは、友人同士の顔見せに同行する流れとなったようだ。しかし、かと言って朝日の発言がチャラになったかと聞かれればそうでもない。昴の目がそう言っている……。
「よっしゃ、じゃあまずは1組の教室にでも―――うん?」
「どうかしたのお兄?」
「いんや、なんかすげぇ人だかりがあんぞ。」
「おっ、もしかして黒乃か!?メイド服でそこらへん歩いてるって一夏が言ってたぞ!」
「だからってあの人だかりは―――」
「いや、輪の中心は黒乃で間違いねぇ。オメェら、あのエンブレムに見覚えは?」
1組に向かおうと宣言しようとしていた弾の目線に、ワイワイガヤガヤと騒ぐ連中が目に入った。どうにも集団で誰かを取り囲んでいるようにも見える。人だかりと聞いて黒乃かもと閃いた様子の数馬だが、その発想はあながち間違いではない。しかし、悪い方の意味でだが。
その集団は、一様にして同じ柄のTシャツへ袖を通している。下地は黒色で、背中に白色でこんなデザインが描かれていた。山のように積み重なった無数のしゃれこうべに、大小さまざまな長さの7本の刀が突き刺さっている。その内の3本を足場にするように、3本足の烏が雄々しく翼を広げたあのエンブレム―――
「小烏党……ですよね。」
「なぬ、黒乃を崇めてるとかいう連中か!?じゃあ、なんであんな人数で大挙してんだ……?」
「あ~……どっかシステムに穴が……。もしくは純粋に生徒の身内かだが―――」
「野郎共、考えてる暇はねぇ!あれはほっとくと暴徒化しちまう!その前に黒乃をどうにか連れ出すぞ!」
「「お、押忍!」」
「蘭と朝日はそこに居な!いや……もっと離れてろ!」
「は、はい……。朝日ちゃん、こっち!」
「先生、無茶はしないでくださいね!」
そう、黒乃を女尊男卑をひっくり返すであろう女神とし崇める集団……小烏党が団結の証として着ているTシャツだった。割と危険思想の持ち主達だが、その活動はネット内に収まっていたはず。排女尊男卑団体がどうして堂々とIS学園に入れたかなど疑問は尽きないが、昴の怒号の通りにそんな事を気にしている暇はない。
それこそ排女尊男卑団体が崇める対象である黒乃と遭遇しエキサイティングしているとなると、IS学園内で何をしでかすか解ったものではない。昴の号令に従い、弾と数馬は黒乃救出の為に人だかりへと向かっていった。蘭と朝日の安全を確保し次第、昴も行動を開始。久々に腕が鳴ると1人異様に気合が入っているようにも見える。
◇
「黒乃様!我らが女神!」
「あぁ……ようやく会えた……会えたんだ!」
(……なにこれ?)
「あの~!そういうのは困りますから~!」
うん、ホントにアレだよ……なんだこれ?何だこの状況?のほほほんちゃんと一緒に正面ゲート付近に来たらこれだ。なんか同じTシャツを着た男達に囲まれて黒乃様とか女神様とか言われてる。……俺のファン?にしてはなんか目がギラギラしてるっていうか。その揃いのTシャツはなんなんすかね?サークルか何か?
というかもう……同時に騒ぐもんでほとんど何言ってるか聴き取れんわ!マジで何さ、ホントに意味が解らんよ!ええい……超絶美少女の俺様がメイド服着てて興奮するのは解るけど、そんな取り囲むことはないと思います!何が申し訳ないって、なんとか騒ぎを抑えようとしてくれてるのほほんちゃんに申し訳ねぇ!
「うぉら、そこのけモヤシ共ぉ!」
「黒乃、俺らが解るか?!今助け―――っておい数馬、もうちょい気張れよ!」
「ば、馬鹿野郎……これでも精一杯やってんだよ!クソッタレ……おいお前ら、その子は俺の天使なんだかんな!」
「くろっちのお友達~?」
(み、皆ぁ……!)
姿は見えないけど声で解る……昴姐さん!弾くん!カズくん!あぁ……申し訳なさが3倍になったけど、純粋に嬉しい。どうやら、俺を助け出そうとしてくれているみたいだ。これは、泣ける。それはもう、泣けたのなら滝のように涙を流していた自信がある。うぇぇぇぇ……皆ぁ、ありがとぉ……!
(でもとりあえずは、巻き込まれてるのほほんちゃんを先に……。)
「くろっち?いや~私の事は後回しでも―――」
「ん……?おっ、キタコレ!?弾、弾!手ぇ掴んだぞ!」
「でかした数馬!よっしゃ、引っ張れぇぇぇぇ!……ってどなた!?」
「あ、どもども~。私はくろっちと同じクラスの―――」
誰が最も不憫かって、間違いなくのほほんちゃんだろう。俺は後ろからのほほんちゃんの腕を掴むと、多少強引にでも人込みの中へ突っ込ませる。すると、思惑通りにそれに気づいてくれた。弾くんとカズくんがその手を思い切り引っ張ると、のほほんちゃんは脱出成功だ。呑気に自己紹介してるっぽいから大丈夫だろ。
「我らが女神に近づくな、下賤な輩め!」
「黒乃様だけは絶対に死守するんだ!」
「クソ野郎が、いっちょまえにチームワークは良いでやがんの……!」
あ~も~……女神とかそんなん勘弁してくれません?そういうのカズくんだけでお腹いっぱいなんすわ。怖いわ~……熱狂的なファンって怖いわ~。……そうも言ってられないかぁ?俺のファン(仮)達は、文字通り人垣に。正面から迫る昴姐さん達を完全シャットアウトした。
(あ、でもこれ後方のガードが甘くなってるな。しめしめ……このまましれっと―――)
(静かにな……。)
(ひっ……つ、ついに手を出してきた……!?い、嫌だ……イッチー以外の奴にそうベタベタ触られたく―――)
(落ち着け黒乃、俺だ。)
ファン(仮)は昴姐さんに気を取られている。今のうちに気配を消し、ゆっくり後ずさりをして距離を取ろうとしていた……その時だ。何者かに口を塞がれ、拘束されるような状態になってしまう。恐怖心から暴れようとすると、俺の耳元には聞きなれた声が。……って、あひぃ!?耳……耳はダメぇ……!
お、俺の背後に居るのがイッチーだからなおさらだよ……。もしかして、騒ぎを聞きつけて助けに来てくれたのかな?だとしたら、嬉しいな……誰よりも、嬉しい。いや、そんな事を考えている暇はない。今はイッチーの指示通りに動かなくては。耳は……我慢しないとね。
(合図したら一気に走るぞ。大丈夫、俺と黒乃には追いつけない。……良いな?)
(おk把握。)
「そんじゃ……逃げるぞ黒乃!」
「お……良いぞ一夏!そのまま愛の逃避行と洒落こんじまいな!」
「畜生おおおおっ!結局お前が良いところ持っていきやがってーっ!」
「ま、何はともあれ……黒乃が無事で良かったじゃねぇか。」
イッチーは俺の手を固く握りしめて走り出し、必死に足を動かして着いて行く。というか3人共、ホントにごめんね!そんでもってありがとー!見えているかどうかは解らないけど、俺は昴姐さん達に向かって必死に手を振った。今度埋め合わせを考えないとなぁ……。ともあれ、今は落ち着ける場所まで走ろう!
黒乃→熱狂的なファンってマジ怖い……。
小烏党→我らが女神、黒乃様!
ある意味では超絶熱狂的ファンなんですけどね。