八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第68話 頂上決戦・黒乃VS楯無!

「……で、どうしてあの人は自分から黒乃に挑んでんの?」

「お前が焚き付けるからだろ。」

「でもさー……絶対にあの時ビビってたし、自分から黒乃に挑みにかかる理由が解んないって言うか。」

 

 楯無が黒乃へ宣戦布告をした放課後、専用気持ち達は揃って第2アリーナへ顔を見せていた。それも観客席ではなく、競技場内の隅っこにだ。もしもの事態が発生した際に、すかさず止めに入られるようにだ。シュヴァルツェア・レーゲンのAICがあれば事足りそうだが、万全には万全を期した方がいいというセシリアの提案による。

 

「会長にも譲れんものがあるのだろう。」

「……だね。やっぱり学園最強を名乗る以上、黒乃は超えなきゃなんない……のかも。」

「この中で八咫烏と対峙したのはわたくしだけですが、出てこないのを祈るばかりですわ……。」

「おい、お前達。そろそろ集中しろ、どうやら始まるらしい……。」

 

 5人が神妙な面持ちで会話をしていると、多少強引にラウラがその流れを断ち切った。それまで黙っていたのは、メンバーを纏めるのは己だと自負しているからかも知れない。事実、ラウラがそういった指示を出すと全員が押し黙る。そうして、遠くに浮く黒乃と楯無を見つめた。

 

(……なんでそんな本気モード?全力全開のたっちゃん、普段とのギャップが凄いよ……。)

「いきなりの申し出を受けてくれて、本当にありがとうね。」

(ああ、いえいえ……まぁそこまで気にしちゃいないんで。)

「貴女に挑むのは完全に私の都合……だけれど、ちょっと付き合ってもらうわよ!」

 

 楯無の顔つきから、その本気度がうかがえる。しかし、黒乃はどうして自分のような小者にそんな顔を見せるのかと戦々恐々とするしかない。この認識の差が、いったいどう戦況に影響するだろうか。そして、楯無は一通りの伝えるべき事を言い終え、ガトリング内蔵型のランス、蒼流旋を展開し構えた。

 

『試合開始』

「はあっ!」

(どわっち……!?さ、流石に速いな……。)

(開幕の突きをこんな簡単に止められた!?)

 

 試合開始の合図とともに、楯無は挨拶代わりに突きを放つ。刹那は高機動型で、避けられたって仕方がない……のなら、とりあえず出せるだけの速度で攻撃するという選択肢をとった。しかし、現実は……避ける必要すらない、とでも言われている気分だ。黒乃は瞬時に腰の叢雨、驟雨を抜刀。鋏を作るように交差させると、交差点でランスをガッチリ捕まえて見せる。楯無の全力の突きは、黒乃にとってさすがに速いで収まるらしい。

 

(今度はこっちの番!)

「くっ……!」

(せーのっ……せっ!)

「そう易々とはいかないわよ?いいえ、いかせてなるものですか。」

 

 黒乃は蒼流旋を挟んだまま、前方にQIB(クイック・イグニッションブースト)を発動させタックルを喰らわす。楯無が吹き飛ばされると同時に、空いた距離を詰めるためさらにQIB(クイック・イグニッションブースト)。そしてそのまま叢雨と驟雨の同時攻撃を繰り出すが、冷静に蒼流旋で防御される。この瞬間に黒乃は、急いで脱出を試みた。何故なら―――

 

(ひいっ、たっちゃんと長い事にらめっこはまずいよ!)

(!? 大人しく退く……!?この子、やっぱりいろいろと知って―――とはいえ!)

 

 楯無の専用機であるミステリアス・レディは、アクア・ナノマシンと呼ばれる物質の混入した水を自在に操作するという特性を持つ。蒼流旋の槍部分も、これを用いて形成されていたりと用途は多岐に渡る。何をそこまで焦っているのか。それは、アクア・ナノマシンが起爆性であるから。

 

 長い鍔競り合いでもして、刹那の内部に起爆性ナノマシン入りの水でも潜り込まされると大事だ。だからこそ、なるべくダメージなしで戦いたい黒乃は迷わずヒット&アウェイを狙う。その判断が、僅かながらも楯無に疑念を抱かせるという事も知らずに。

 

「逃がさないわよ!」

(逃げる事に関してはピカイチなんで!神翼招雷!)

 

 大量の水が刹那に迫る中、黒乃は迷わず神翼招雷を発動させた。用途としては、高速移動用の翼を出す為らしい。赤黒い雷の翼が形成されると同時に、グングンと黒乃は加速していく。OIB(オーバード・イグニッションブースト)よりも雷の翼の方が小回りが利く、その分速度は落ちてしまうが―――

 

(攻撃と同時に行えるこの翼なら!)

「捕らえ切れな……くっ!」

(水の盾……。いや、ここは臆さずに!)

「キャアっ!……むぅ、ホント滅茶苦茶な機体ね……!」

 

 雷の翼の速度と旋回性能を持ってして、黒乃は華麗に迫る水を掻い潜る。楯無は雷の翼を発動中は無意味と判断して防御に徹したが、それは完全にバッドな選択だ。楯無は自らを包み込むように、分厚い水を張り巡らせる。しかし、そんな物は雷の翼を前にして意味をなさない。

 

 黒乃は楯無の左側を通過するようにして、右翼を思いきりぶつける。すると何の問題もなく水を斬り裂き、雷の翼は楯無本体を捉える。かなりの高密度エネルギーなだけに、まさに触れるだけで危険な雷の翼は、楯無に大きなダメージを与えた。しかし、まだまだ再起不能へ追い込むには遠い。

 

(くっ、神翼招雷の効果時間が……!)

「そこっ、今度こそ逃がさないわよ!」

(ア、アイエエエエッ!?ミズブンシン・ジツ!)

 

 雷の翼が弱々しく消えていくのを確かに見た楯無は、これは好機とばかりに次の手へと打って出た。なんと、アクア・ナノマシンを操り自らの分身を作り上げて見せたのだ。その数は4で、どれか本体かはまる解りではある。しかし、やはり爆発機能がついているのが厄介と言えるだろう。

 

(ト、トラウマスイッチ……!忍者はもう勘弁なんですぅ!)

「っ……!まぁ、そうなるわよね。けれど―――」

(ア、アイエッ!?)

「隙、捉えたわ!」

 

 まさに分身の術なために、1度殺されかけた忍者ISが脳裏によぎる。それだけに黒乃は必至だ。叢雨、驟雨を仕舞うと、紅雨、翠雨を取り出した。間髪入れずに2本の短刀を2体の分身へ投げつけると、続けて両掌を前方へ突き出す。バチバチと音を立てて雷の槍を形成し、残った2体へ放った。

 

 それは見事に分身達へ直撃。小気味良くバシャアという音を立て、4体の分身は水の正体を現して散っていく。しかし速攻で破られるのなんて、楯無からすれば目に見えていた。あの分身は布石である。視界を遮るような水の中から、何かが伸びて刹那の脚部へと巻き付く。

 

 その正体は、ミステリアスレディに搭載されている蛇腹剣のラスティ・ネイル。蛇腹剣とは、剣と鞭の性質を併せ持ったような武器だ。現在は鞭のしての性質を遺憾なく発揮している。楯無はラスティ・ネイルを思いきり引っ張る事により、黒乃を近くまで手繰り寄せた。

 

「でやぁ!」

(こっ、こういう時に無理に離脱しようとすると雷光の出力のせいで墜落する!ど、どうすれば……?!)

「これは……どうかしら!?」

(た、たっちゃん……そりゃないよ!わああああっ!?)

 

 黒乃が自分の方へ迫る中、楯無は器用にアクア・ナノマシンを操る。しかし、何かで動きを拘束されていると刹那は弱い。忍者型ISのグリーンに好きなようにやられていたのは、黒乃が語った要因が大きいのだ。そうして、ついにアクア・ナノマシンは黒乃を捉える。狙いは、刹那の要とも言える雷光。

 

 雷光の隙間を縫って侵入したアクア・ナノマシンは、楯無の指パッチンを合図に盛大に爆ぜた。これは確実に効いたと、楯無に確信させる。しかし、その表情に余裕は見られない。何故ならば、そろそろ出て来る頃だと予測していたから。そうして爆発の際に生じた煙が晴れると、そこには……狂った笑みで浮かべる黒乃が居た。

 

「ほぅ~ら、やっぱりね……。」

『楯無さん、そこまでだ!そいつが出たからには―――』

『気持ちは有り難いけど、決着がつくまでやらせて。これは、私と黒乃ちゃんの戦いであって……私自身の戦いでもあるの。』

 

 楯無は、それなりに黒乃の研究をしている。それで解っていた事がある。八咫烏の黒乃が出てくるのは、劣勢になってからだと。八咫烏が出てくる事、それはある種……強者として認められた証だと楯無は考える。だからこそ、今度こそ……敬意を持って立ち向かわねばと恐怖を振り払う。一方で黒乃は―――

 

(今の爆発で雷光が機能不全を起こすレベルにやられてる!神翼招雷は間違えなく使えないし、OIB(オーバード・イグニッションブースト)もそんな連続使用は暴発する可能性が……!マズイよぉ……刹那は雷光が要なのにぃ!)

 

 刹那のウィングスラスターである雷光が損傷し、盛大に焦っていた。恐らくはそこからくる笑顔だろう。雷光の何が問題かと聞かれれば、様々な暴発のリスクを抱えているという点だ。翼からエネルギーを吐き続けると、臨界点を迎えてしまうのだ。

 

 当然ながら排熱する設計はされているながらも、それは万全の状態での話。ひとたび雷光にダメージを与えられてしまうと、こういった事が起こりうる。戦力を大幅に削られた刹那にて、どう学園最強を相手取るか思案していると、黒乃の瞳には地面に突き刺さる紅雨と翠雨が目についた。

 

(あれは水分身を攻撃した時の……。……良い事を思いついたかも。)

「……来ないのならこっちから行くわよ!」

(むぅ、そりゃ考えてる暇は与えてくれんか……。さすれば、賭けてみるしかない!)

 

 動かない黒乃に違和感を覚えつつ、楯無は蒼流旋を構え直し攻勢へと出て来た。とにかく黒乃は、ふと思いついた作戦を実行してみる事にしたらしい。左腰にぶら下がっている鳴神を鞘から抜くと、自らも前に出て楯無を迎え撃つ。刀と槍では圧倒的に前者が不利だが、その差をどう埋めるかがカギとなるだろう。

 

(槍には不利なら、リーチの長い鳴神でまずは削れるだけ削る!)

「あらあら、これは、すっごい、連続攻撃……ね!」

 

 鳴神の特徴と言えば、もはや日本刀と表現して良いのか解らない程の長さだろう。その為に扱いが難しく、どうにも使用回数は少なめ。しかし、要するに使いようという奴だ。黒乃は鳴神を大きく振り回す事によって、そのリーチを最大限に有効活用している。鳴神の刃は確と楯無の間合いに届き、防御に徹しさせる事に成功だ。

 

(確かに荒々しく攻撃的にはなったわ……けれど!つけ入る隙が増えているわよ!)

(せぇい!せやぁ!……って、のわわわ!?)

「それ、没収ね。」

 

 水で形成されている蒼流旋の槍部分を、楯無は自らただの水へと戻した。急に鳴神がぶつかる対象を失った為、黒乃はずっこけるようにして前方へよろける。すかさず楯無は蒼流旋を再形成し、下から振り上げるようにして刹那の腕部を狙う。そのまま腕を救い上げられ、黒乃は万歳するようにして鳴神を手放してしまった。

 

「代わりにこれでも貰ってちょうだい!」

(ぐっふぅ!?)

 

 万歳の状態程ガードが崩れている証拠となる態勢はないだろう。勿論だが楯無は見逃してはくれない。隙だらけのどてっぱらに、渾身の突きが見舞われた。黒乃が大きく後方へ吹き飛ぶと同時に、ザンッ!と鳴神が地面へ突き刺さる音が響く。黒乃がそんな音に耳を傾けていると―――

 

「悪いけど、逃がさないわよ。」

(いぃ!?ハ、ハメ技は卑怯だぞ!)

「なるほど……流石ね!」

(まだまだっ!)

「ちょっ、ちょっと……キャア!?」

 

 またしても刹那の脚部にラスティ・ネイルが巻き付く。後は同じく楯無の手元まで引っ張られた。しかし、いくら黒乃とて何度も同じ手には引っかからない。何とか体勢を立て直すと、鳥と同構造の脚部にて蒼流旋を掴んだ。そうしてそのまま威力を落としたQIB(クイック・イグニッションブースト)を出鱈目な方向へ吹かした。

 

(今だ!疾雷、迅雷!)

「しまっ!?くぅ……!」

 

 ラスティ・ネイルが巻き付き、蒼流旋が掴まれている。そんな状態でQIB(クイック・イグニッションブースト)を使われるものだから、2人してグルリと乱回転。その拍子にきつく巻き付いていたラスティ・ネイルは緩んで解け、黒乃も掴んでいた蒼流旋を離す。更に遠心力を利用した回転斬りを繰り出し、疾雷と迅雷で楯無の胴体へ攻撃を成功させた。

 

(さすればぬどりゃ!)

「……何のつもりか知らないけど、それはちょっと甘いんじゃないかしら。」

(いいや、これだから良いんだよ。……たっちゃんなら、今ので何か狙ってるって感づいたろうけどね。)

 

 吹き飛ばされた楯無を追撃して斬りつけたのなら当たり前の事だ。しかし、黒乃は距離が開くと同時に疾雷と迅雷を楯無に向けて投げつける。横回転しながら2本のレーザーブレードが楯無を襲うが、何の問題もなく対処されてしまった。蒼流旋に弾かれた疾雷と迅雷も、他の3本と同じく地面に突き刺さる。

 

(……両肘両膝の仕込み刀と、掌から出せるレーザーブレードを除くとこれで黒乃ちゃんに残された武装は2本のみ。……気のせいじゃなければ、自分から手放したかったように見えるわね。)

(さぁ……仕上げにしようか!)

「……考えるだけ無駄そうね。とりあえず迎え撃たせてはもらいますけど!」

 

 黒乃が想像した通り、楯無は何かの理由があって刀を手放しているのだと察した。しかし、流石にその理由までは読み切れないでいる。そんな中、黒乃は残る叢雨と驟雨で肉薄してくるではないか。当然考える暇を与えない狙いでもあるが、楯無は大人しくそれに乗り黒乃を迎え撃つ。

 

「ふっ!はぁっ!」

(我が奥義、ヤケクソ回避!……避けられるとは言ってないけど!)

「臆さない……か、なら遠慮なく!はああああっ!」

(ぬぅん……とりあえず間合いに入らなきゃならないとはいえ、けっこう苦しいか……!?。)

(このっ……!ここまでやってクリーンヒットなしってどうなってるのかしらね!)

 

 先手を打ったのは、槍の有利が利く楯無。鋭い二連突きを放つも、黒乃は気合で回避行動を取る。蒼流旋の先端は、黒乃の右脇、左脇を掠めた。その後は手数に任せた連続突きを仕掛けるが、最初の二連突きと同じく良くても掠る程度しか当てさせてもらえない。

 

(たっちゃん……焦ってるっぽい?これはチャンス!でぇい!)

「しまっ……!?」

(よしっ、いける!コイツで仕上げ!)

「最後の2本も投擲に!?くっ……!」

 

 相手の目的が見えない、更には当てるつもりの連続攻撃が躱される。その2点が楯無の心に不安と焦りを巻き起こし、ほんの僅かながらもつけ入る隙が生まれた。黒乃は突きをまともに受ける事も厭わずに足を止め、叢雨と驟雨を蒼流旋へと潜り込ませてカチ上げるように振る。

 

 先ほどの黒乃と同じように、楯無は万歳するようにして隙だらけだ。しかし、黒乃はすぐさま追撃には入らない。QIB(クイック・イグニッションブースト)で楯無の頭上に躍り出ると、叢雨と驟雨を投げつけたのだ。楯無の言う通りに、これで黒乃は7本の刀を全て手放した事になる。蒼流旋で叢雨と驟雨を弾く楯無が見たのは……眼前に迫る黒乃だった。

 

QIB(クイック・イグニッションブースト)で距離を詰められた!?防御……間に合わない!)

(そら、吹っ飛べええええええええ!)

「キャアアアアアアアア!?」

 

 これが刹那の真骨頂、気が付けば目の前に居るレベルの連続瞬時加速である。叢雨と驟雨を弾いている間にQIB(クイック・イグニッションブースト)で一気に距離を詰めた黒乃は、楯無の身体に掌を添えた。そうして雷の槍は形成せず、自ら暴発させる事による衝撃波で楯無を地面へと吹き飛ばす。地表に叩きつけられた楯無は、ここにきて黒乃の狙いに気が付いた。

 

(この7本の刀の配置……まさか!?)

(後は……間に合ってくれれば俺の勝ち!行くよ、せっちゃん!)

 

 地面に突き刺さっている刀は、まるで楯無を取り囲むかのように配置されていた。すると立ち上がる間もなく、黒乃はOIB(オーバード・イグニッションブースト)で地表に刺さっている刀に接近し、適当な2本を手にした。基本的に1セット2本の刀を意識して使う黒乃だが、今回の場合はそうも言っていられない。その手に握るは、疾雷と紅雨。

 

(でやぁ!)

「キャッ……!?」

(まだまだ!)

「くっ、やっぱり狙ってた……!?けど―――」

 

 OIB(オーバード・イグニッションブースト)の勢いそのままに、疾雷と紅雨ですれ違い様に楯無を切り裂く。そして疾雷と紅雨をそれぞれ収納すると、お次は驟雨と迅雷を拾う。先ほどと同じくすれ違うようにして楯無へと攻撃を加えると、驟雨と迅雷も仕舞った。更に続けて叢雨、翠雨を拾う。

 

 つまり黒乃が狙っていたのは、変則的なセブンスソードだ。通常の流れでセブンスソードを使う場合、いくら刹那が間合いを詰める事を得手とするとは言え、かなりの隙を必要とする。当然ながら楯無にはそんなものはない。しかも手元に紅雨と翠雨がなかった事も含めると、相当に変わった形での発動を強いられた。

 

 そこで黒乃が思いついたのがこの変則セブンスソードである。地面に刺さった刀を、拾いつつ楯無を攻撃できれば……という事らしい。作戦はどうあれ、効果は有ったと言っても良いだろう。楯無はOIB(オーバード・イグニッションブースト)の速度に着いては来れず、ただ棒立ちの状態だ。そうして、叢雨と翠雨による攻撃もクリーンヒット。

 

(せいっ!)

「キャア!」

OIB(オーバード・イグニッションブースト)も限界近い……けど、鳴神の一撃で削りきれるはずだ!)

「……ここまでかしら。」

 

 刹那の有する刀の内最後の1本、鳴神を拾いつつ黒乃は楯無へと迫る。OIB(オーバード・イグニッションブースト)にて雷光が大爆発を起こすかどうかの瀬戸際だが、仮に鳴神で削りきれなかったとして、刹那にはまだ霹靂もあれば雷の槍もある。それこそ暴発が起きなければ、黒乃の勝ち確定のような物だろう。

 

(……ん?いや、ちょっと待てよ……。)

 

 いざ鳴神で斬りかかろうとする最中、黒乃の頭に超スピードで思考が巡る。この勝負、勝ってはまずいのではないか……と。相対している楯無は、学園最強の称号を有した存在だ。作中でも唯一IS学園在学中ながら国家代表であったりと、何かと他のメンバーとは一線を画する部分が多い。

 

 そんな楯無に勝つ事が何を意味するか、主に己の保身を重んずる黒乃はなんとなく面倒な流れになる気しかしない。まずは生徒会長交代という話になる……かもだ。そうすれば自分に学園最強の称号が与えられ、時間を問わずに襲われる事は請け合い……。黒乃は思う、楯無だけには勝ってはならないと。

 

(ダメぇー!勝ったらダメな奴!うぉおおおおっ!)

「…………!?」

(ぬ……ぬぅ……!で、でも……勝負にそういうのはなるべく持ち込みたくないってのも本音だし、ど……どうしよう……。)

「貴女……。」

 

 OIB(オーバード・イグニッションブースト)を解除した黒乃は、浮いていた脚部を地面へと接地させた。地面を抉りながらブレーキをかけると、楯無とギリギリのところでピタリと止まる。振り上げていた鳴神は肩先あたりに当たらない位置で止まり、本人の葛藤を現すかのようにカタカタと震える。

 

「なるほどね……。うん、そういう事なら……こうしましょうか。」

(ほぇ……?……ぎゃあっ!?)

「引き分けって事で……ね?」

 

 この様子を見た楯無は、寸前で黒乃が八咫烏を抑え込んだのだと考えた。2人の戦闘を見守る6人も同じく。刹那のエネルギーも風前の灯だ。楯無からしても止めを刺すのは易い。しかし、楯無も自らが勝つ事を選ばなかった。こうなってしまったのなら、自分だけ勝つのも後味が悪い。

 

 楯無は自分と黒乃の中間で、アクア・ナノマシンを盛大に爆ぜさせた。当然ながら両者に大ダメージが入り、刹那とミステリアス・レディは寸分違わず同時にエネルギーが尽きる。これぞ非の打ち所のない引き分けだろう。吹き飛ばされた2人は天を仰ぎ、張り詰めていた緊張を解きほぐした。

 

「アハハッ、痛み分けってこういう事かしら。身を持って体感すると、なんだか面白いわね。」

(わ、笑えないよ……。1番収まりの着く終わり方にしてもらって有り難いけども……。)

「とにかく、今日は本当にありがとう。黒乃ちゃん、次は決着をつけましょう。」

(う~……たっちゃんとは永遠に決着は下したくないんだけど……。まぁ、良い試合をどうもです。)

 

 引き分けと言う結果だが、楯無はなんだか晴れやかな気分だった。ゆっくりと立ち上がって黒乃の方へと歩み寄ると、パチリとウィンクをしながら黒乃に手を差し出す。それに応えるように手を伸ばすと、楯無の右手を掴んで黒乃は立ち上がる。

 

 どうやら、引き分けであっても楯無の胸中にあった蟠りは晴れたらしい。黒乃としても、なんとなく良い形で楯無との模擬戦を終える事が出来たようだ。後は一夏とのアレコレを解決せねばと思いつつ、とりあえず今は自分で自分の健闘を讃える事にしたらしい。

 

 

 




黒乃→勝ちたくないけど、勝負事にそんなんは失礼だし……どないしよ!?
楯無→八咫烏を抑え込んじゃうかぁ……それじゃ、今回は引き分けって事で。

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