八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第42話 Aブロック最終試合

「…………。」

「…………。」

 

 無言。俺は喋れない訳だが、何も発声しない事を苦痛に感じるのは久しぶりだ。俺の隣に並び立つラウラたんは、無駄なお喋りをせずにただ悠然と構えている。はぁ……これからAブロックの最終戦なわけで。組み合わせとしては、俺&ラウラたんVSイッチー&マイエンジェルといった具合だ。

 

 やはり、1回戦の内にイッチー達とは当たる運命か……。まぁ、1回戦の内で助かったってのはあるんだけどね。これからとあるトラブルが起き、学年別トーナメントは中止になるだろうから。本当に良かった……。あのまま行くと、モッピーと共に挑む2回戦はセシリー&鈴ちゃん組みになるところだったぞ。

 

「……先の試合。」

(ほぇ?)

「やはり貴様が実力者である事は解った。だが……他人に合わせているようでは困る。言っておくが、私に余計な気遣いは不要だ……良いな?」

 

 ようやくラウラたんが話しかけてくれたかと思ったら、内容としてはあまり良い物ではなかった。何と言うか、忠告?みたいな感じに聞こえる。ラウラたんの様はまさに、臨戦態勢に入っている獣が如く。……触れれば噛みつかれる気しかしない。要するに、行動次第ではラウラたんに攻撃されるのも有りうるという事か。

 

「あ、あの~……そろそろ出番なので……。」

「了解した。ほら、解っていてもいなくても早く飛べ。」

 

 俺が否定も肯定も出来ないでいると、ピットの教師が大変に恐縮した様子で出番であると伝えた。いやぁ……スミマセン。俺が喋られないわラウラたん軍人オーラ全開わで、かなり殺伐とした雰囲気が流れていたらしい。とにかく、俺が先に行かんとラウラたんが出れない。俺は少し慌てつつ、カタパルトから即出撃した。

 

「ボーデヴィッヒと組んでくるって、なんか黒乃らしいって思うぜ。」

「流石に2人と同時にタッグなのは予想外だけどね……。」

 

 試合開始になるまで心に余裕を持とうと努めるが、そんな最中にイッチーが話しかけてきた。いや、別に俺が提案した事じゃ無いんだよ?マイエンジェルも、そんな苦笑いを浮かべられても困るって。少しばかり和やかな感じとなったが、イッチーは急に顔つきを引き締める。

 

「ボーデヴィッヒ、今日は良い試合にしような。」

「貴様……随分と余裕だな?貴様程度が、この私に善戦できるかも怪しい物だ。」

「いいや、勝つさ。黒乃や千冬姉の強さが見えないんなら……ボーデヴィッヒに負ける訳にはいかないんだ。」

 

 イ、イッチー……キミに悪気は無かろうし、挑発で言ってるつもりじゃないのは解るよ。でもさ、でもさ、それって煽りにしかなってないからね?だって、俺の隣のラウラたん……顔には出てないが、あからさまに不機嫌オーラが噴き出てるんだもの。俺くらいの小心者になるとね、気配でそういうのは解っちゃうんです。

 

「……良いだろう。そこまで言うのならば―――」

『試合開始。』

「どれほどやれるか見てやろう!」

「くっ!」

 

 ラウラたんは試合開始の合図と同時に、レールカノンをイッチーへ向けて発射した。とんでもない速度で発射されるわけだが、直線的攻撃ならイッチーは何とか避けれてしまうらしい。そう……何とかね。ラウラたんは間髪入れずに、プラズマ手刀を展開……と同時にイッチーへ斬りこむ。

 

「喰らえ!」

「させないよ。」

(させないよ返し!)

「えっ!?うわぁ!」

 

 まぁ逸る気持ちも解りますよ。けどね、これはタッグマッチなわけでね……マイエンジェルからすれば、ラウラたんがイッチー狙いなのなんてお見通しだったみたいだ。イッチーの前に滑り込むようにして、アサルトカノンのガルムを構える。そこですかさずオイラもQIB(クイック・イグニッションブースト)ドーン!

 

 同じくラウラたんの前に割り込むようにして、下からガルム目がけて驟雨を振り上げる。俺の割り込みが急すぎたせいか、マイエンジェルは対応しきれない。結果、マイエンジェルは万歳するような感じとなり……ガルムは明後日の方向へ火を噴いた。

 

「貴様……助けはいらんと言ったろうが!」

(ふぉおおおお!?あ、危ないぃ!)

「ああっ!」

「シャルル!この、滅茶苦茶な奴……!」

 

 まさかのタッグマッチで、味方からのロックオン警報である。ラウラたんがそう叫びながらレールカノンを撃つもんだから、慌てて宙返りするようにラウラたんの背後に回る。すると俺のハイパーセンサーに映ったのは、砲弾が直撃したマイエンジェルだった。なるほど、俺が目くらましみたいになった効果だな……。

 

「これが私の戦いだ!文句があるなら力で示せ!」

「ああ良いさ、見せてやるぜ……俺の強さ!」

(おおう……盛り上がってるぅ。)

「アハハ……お互い大変だね、黒乃。」

 

 盛り上がっている2人を差し置いて、俺もマイエンジェルも冷静なものだ。自然に戦いの手は止まり、互いの苦労を分かち合う。しかし、マイエンジェルはだけどと前置きをすると、ラファール・リヴァイヴ・カスタムツーのショットガン、レイン・オブ・サタディを構えた。

 

「一応は試合なんだから、僕とキミも傍観ってわけにはいかない。」

(まぁ……足止めてたらヤジが来そうだし。)

「僕の全力、キミにぶつけさせてもらうから!」

 

 そう言うマイエンジェルの表情は、何処か楽し気に見えた。しかし、マイエンジェルが無策にショットガンで攻めにくるとは思えない。なんて考えている間に、すぐそこまでオレンジ色が迫っているわけだが。よしっ、それならば……ギリギリまで引きつけるぞ。マイエンジェルが引き金をひくタイミングを狙って……。

 

「速い……!ううっ!?ま、まだまだ!」

 

 俺は極々出力の低いQIB(クイック・イグニッションブースト)を2〜3回連続で使う。それを利用して、マイエンジェルの背後をとった。ま、要するに裏周りだな。すかさず俺は叢雨も抜刀!あえて驟雨をラファールの盾に防がせ、がら空きとなった胴体へ叢雨で斬りこむ。が、カウンター狙いかショットガンを無理矢理にでも放つ。

 

(問題ない……QIB(クイック・イグニッションブースト)で十分躱せる。)

「予想通り……。一夏!」

「任せろ!」

(ほわぁ!?ゆ、誘導されたか!)

 

 俺がQIB(クイック・イグニッションブースト)で離脱を図った方向には、既にイッチーが回り込んでいた。ラウラたんを無視して、それでも俺を狙ってきましたか……。とにかくイッチーは、雪片を俺目掛けて振り上げている。俺は咄嗟に驟雨を逆手に持ち替え、ほぼノールックの状態で雪片の刃を受け止める。

 

「流石だな、黒乃!」

(いやいや……ラッキーだっただけだよ……どへぇ!?)

「邪魔だ、藤堂 黒乃!」

 

 ギチギチと驟雨を震わせつつ、雪片の刃を受け止めていた。さて……ここからどうしようかと思案していると、横入りして来たラウラたんに蹴っ飛ばされる。じゃ、邪魔だって言われましても!あぁ……まずいよ!こんな吹っ飛ばされた状態……マイエンジェルにとっては格好の的じゃん!

 

「一夏!」

「ああ!」

(何ぃ!?)

「ぐうっ!?小癪なハエが……!」

 

 吹っ飛ばされた俺は総スルーして、マイエンジェルはラウラたんへと突っ込んでいく。ある程度の距離へ寄ると、ショットガンを乱射。あの距離感なら大したダメージにはなってないだろうけど、ラウラたんは鬱陶しそうにマイエンジェルをAICで捕らえた。

 

(ラウラたん、それ悪手!悪手!)

「今だ!」

「何だと……!?」

(お、俺かい!?このっ……!)

 

 マイエンジェルは動きを封じられたが、今度はイッチーがフリーだ。急いで救援に向かおうとすると、予想に反してイッチーは俺へ斬りかかってくる。雪片相手に叢雨、驟雨は心許ない……。2本は鞘に納めて、急ぎ神立を抜刀。コンパクトに神立を振りかぶり、しっかりと雪片に勝ち合わせた……は良いけど。

 

「それは私の獲物だ!」

「よそ見しても良いのかな?」

 

 これはもしかして、常に攻撃できる方を2人で同時に攻める作戦か!?きっとイッチー達は、俺とラウラたんの足並みが揃わない事を予想していたんだろう。そのため、こうやって入れ代わり立ち代わりで細かいスイッチを繰り返して……。現にイッチーも、マイエンジェルがAICから脱出したと同時にターゲットをラウラたんへ変えた。

 

「またな、黒乃!」

(な、なんつう潔い引きっぷり……。)

 

 爽やかな様子でそう言うもんだから、思わず知らず取り逃がしてしまった。あぁもう!またラウラたんが囲まれてるじゃないか!クソッ……どうする、どう動くべきなんだ……。と、ここまで考えて思いついた。俺は、いったい何を必死こいて勝とうとしているのだろうか。

 

(結局のところ、アレが発動しないと困るってのもあるし……。)

 

 物事には順序ってもんがある。今までだって、決まり通りに進めて……決まり通りに生きてきた。今回の場合は、ラウラたんは倒され、アレが発動し、イッチーとの対話が代わるきっかけになる。それが正しい流れなのであって、俺が変に頑張っちゃったら余計な事態を―――

 

「教官から与えられた課題を、この私が……こなせない訳にはいかんのだああああっ!」

「っ!?流石はボーデヴィッヒさん……一筋縄じゃいかないね。」

「ああ。だけど、俺達が押してるのは間違いない!このまま押し切るぞ、シャルル!」

 

 ―――いや、今の前言撤回。違う……全くもってそうじゃない。だって俺が言った事は、流れ通りじゃないとラウラたんが変われないと……そう言ってるようなもんじゃないか。ラウラたんがイッチー達に負けて、イッチーに答えを与えられる事でしか……変わる事が出来ないって決めつけたりなんかしちゃダメだ!

 

 変われる。ラウラたんはきっと、自分の頭で考えて答えを見いだせる。流れに沿って負けにいくなんて言語道断!だから勝とう……イッチーとマイエンジェルに。勝って課題とやらをこなしてくれ。それがきっと、キミの次なる1歩に繋がるだろうから。

 

(恐れるな、考えるな、でもイメージは止めるな……常に強い自分を想像して―――()ぶ!)

「一夏、危な―――」

「なっ……ぐふっ!?」

「藤堂 黒乃……!?」

 

 全力。ああ、なんだろうか……その言葉を念じて飛ぶだけで―――こうも身体は軽く感じる物なのか!俺は100%のOIB(オーバード・イグニッションブースト)でイッチーに接近すると、そのままドロップキックの要領で右足をその腹部へと見舞う。当然ながらイッチーは軽々と吹っ飛ぶ。だが、まだ終わっちゃいないよ!

 

「早く体勢を―――」

(間に合わせなんかしない!)

「ぐああああっ!」

 

 吹き飛ばした端からすぐに追いつき、神立の刃でイッチーの胴体を斜めに斬りこんだ。そのまま勢いに乗せて空中で逆さまになると、イッチーの露出している腕目がけて足を延ばす。鳥類の構造をした刹那の足で捕まえると、グルグルと回転して―――

 

「う……うおわああああ!?」

(すまんね、マイエンジェル!)

「へ……?い、一夏!?ひゃっ!」

「っ!?そこだ!」

「ぐっ……っ……!」

 

 遠心力をつけ、マイエンジェルにイッチーを投げつける。空中で姿勢の制御が効かなかったのか、イッチーは見事にマイエンジェルへ激突した。それまでマイエンジェルと交戦中だったラウラたんだが、これは好機と言わんばかりにレールカノンを発射する。その砲弾は、吸い込まれるようにイッチーへと命中した。

 

(まだ終わらん!)

「……まだ来るの!?」

「ろくに体勢も整わせてもらえな―――」

(ふんぬ!)

「キャアッ!?」

「ぐわっ!」

 

 神立を鞘に戻せば、続けて疾雷と迅雷を抜く。そのままOIB(オーバード・イグニッションブースト)を継続させつつ、一瞬で2人の前まで迫れば……固まった状態の2人に対して、一太刀ずつしっかりと浴びせた。だが……継続して飛ぶのは無理だな。OIB(オーバード・イグニッションブースト)の連続使用には暴発しないためのセーフティがある。悔しいながらも、再起動可能になるまで黒い羽は仕舞っておかなければ。

 

「藤堂 黒乃……。貴様、まだ出し惜しみをしていたのか!?先ほどとはまるで動きが違うではないか!」

「違うよボーデヴィッヒさん!黒乃の動きが良くなったのは……絶対に出し惜しみなんかじゃない!」

「シャルルの言う通りだ……。それこそが、千冬姉にも通じる強さなんだ!本当はお前にももう……見えてるはずだぞ!?」

「教官の強さ……藤堂 黒乃にも通じる……?解らない、私には……。」

 

 なんというか、ラウラたんの言葉も正解だし……イッチー達の言葉も正解に近い気がする。でもまぁ、俺の強さがちー姉に通じる……ってのだけは否定しておくよ。俺はそこまで気高くも誇り高くもない……汚い人間だもん。だけど今はせめて、どんな形だって良いんだ……1つの答えをラウラたんに見せてあげたい。

 

「シャルル……決着をつけよう!」

「……うん!」

(ラウラたん、ボーッとすんな!試合はまだ終わっちゃいな―――)

「黒乃おおおおっ!」

 

 ええい、なんでこっちに来るんだい!?イッチーは解りやすい事に、俺の名を呼びながら突っ込んで来た。さっきと似たような状況だが、レーザーブレードの疾雷と迅雷なら問題ないだろう。俺は疾雷、迅雷を交差させるようにして、正面から受け止めた。

 

「……ありがとうな黒乃。お前のおかげで、大事なものは伝えれた。後はボーデヴィッヒ次第だ……だから!」

(くぉっ!?まずい……ラウラたんから引き離されてしまう!)

 

 イッチーは随分と押せ押せで、白式のスラスターを全力で吹かしちからづくにも俺を後退させる。OIB(オーバード・イグニッションブースト)の使用は……まだ不可能か……!そうこうしている間に、俺は地表近くまで後退させられてしまった。こうなったら、まだ地に足が着いていた方が踏ん張れる。俺は慎重に機体制御をしながら、刹那の脚部を接地させる。

 

(ラウラたん……ラウラたんは!?)

「クソッ!解からない……!解からない……!」

「これで……とどめ!」

 

 ラウラたんは迫るマイエンジェルにレールカノンを放って応戦してる……が、その表情は不安でいっぱいいっぱいの子供のようだ。きっとだけど、イッチーの言葉に思うところがあるんだろう。答えを見いだせてはいるが、それを認められない……と。オーケー……だったら、あともう少しじゃないか。怖がることなんてない……胸を張って、その答えに自信を持ってくれ。

 

(ただそれは……勝った後だって出来るさ!)

「しまった!?」

 

 OIB(オーバード・イグニッションブースト)……よし、クールタイムは終わった!それを確認すると同時に、俺は雪片を横方向へと弾く。そのまま雷火から黒い翼を吹き出すと、一目散へマイエンジェルとラウラたんの元へ飛ぶ。マイエンジェルが構えているのは、盾殺しの異名を誇るパイルバンカー……灰色の鱗殻(グレー・スケール)

 

 俺はこの時にはもう悟っていた。マイエンジェルの攻撃を止めるには、もう手遅れだと。だが、ラウラたん……まだキミの盾になるって選択肢は残されてるからね!本気になった俺の想いって名の盾……貫けるもんなら貫いてみな!俺はOIB(オーバード・イグニッションブースト)の勢いそのままに、ラウラたんへ抱き着いた。

 

「「!?」」

「で、でも……そのまま!」

(がっ……かはっ……!?)

 

 ズガン!と爆薬が炸裂する音と同時に、俺の左わき腹へととんでもない衝撃が走る。OIB(オーバード・イグニッションブースト)を使ったが、なんとかエネルギー残量はあるし、今のだって絶対防御は発動してる。だけど……絶対防御アリで、こんなにも痛いのか……!?俺はそのまま、ラウラたんを抱きしめたまま墜落してしまう。

 

「このっ……何故、何故なんだ!どうして貴様は、そう頑なに私を庇う!?」

「みい……出して……答えを……。」

「!?」

「手を伸ばせば……きっと……きっと……届くから……!」

 

 ラウラたんは、俺の腕から簡単に抜け出す。それもそうだ……俺の腕には、ろくに力なんて籠ってないもの。まだ戦えない事も無い……けど、もうリタイヤも同然だ。だからせめて伝えたい事があった。俺はラウラたんへと手を伸ばすと、シュヴァルツェア・レーゲンに包まれた手を握る。

 

「だから……戦って……!」

「戦……う?」

 

 この時の俺は、それがラウラたんにとって最良だって思ったんだ。だからこそ、俺がラウラたんを追い詰めた。自分に……酔ってしまっていたのかも知れない。だって俺の言葉が、アレの引き金になってしまったから……。俺は、とんでもない過ちを犯してしまったんだ……。

 

 

 

 

 

 

「…………っつ!」

(なんだと……いうんだ……!)

 

 度重なる私を庇うという行為……今までのだったらまだ理解が及ぶ。しかし、藤堂 黒乃は……絶対防御に回せるエネルギーもほとんどない状態でパイルバンカーを私の代わりに受けたのだ。バリア貫通の衝撃が凄まじかったのか、藤堂はまるで立ち上がる事が出来ない。それどころか、左脇腹を押さえて小刻みに震えている。

 

「このっ……何故、何故なんだ!どうして貴様は、そう頑なに私を庇う!?」

「みい……出して……答えを……。」

「!?」

「手を伸ばせば……きっと……きっと……届くから……!」

 

 私が憤りと不満をぶつけると、藤堂は無表情ながらも……必死な様子で私にそう伝える。答えを見いだせ……?そんなもの、とっくの昔に見えている。私に足りん物とは、教官のように絶対的な力……。そのはず……なのに……!どうして私は、藤堂や織斑 一夏やシャルル・デュノアの言葉に……恐怖を覚えているんだ!?

 

 知るのが怖い?理解するのが怖い?……そんなはずはない!教官の力の出所が、そんな甘っちょろい要因なはずもない!だからもう止めろ……。私は藤堂に、教官と同じものを感じ始めていた。それどころか、教官と藤堂が重なって見える幻影すら浮かぶ。

 

(違う……違う違う違う!そんなはずはない!認めてたまるか、そんな事!そうだ……力だ……私にもっと力さえあれば、こんなまやかし……すぐに消え失せるハズなんだ!)

 

「だから……戦って……!」

「戦……う?」

『力が欲しいか?』

 

 藤堂の戦えという言葉の後に、然りと私は聞いた。力……?そう、力があれば、力があれば、力があれば……!戦わねば、戦わねば、戦わねば……教官を穢す全てと、教官の栄光を蔑にする全てと。教官のように絶対的で、唯一無二で、比類なき力で戦わねばならんのだ。

 

 そう……私が示す、私が教官と同じに、私が教官、私が織斑 千冬。私が私、絶対的で唯一無二で比類のない私。私にならねば、戦わねば、力があれば、私にならねば……!私は……私になるんだ!……瞬間、意識がどす黒い何かに飲まれるような感覚を覚える。

 

「あっ……ああ……ああああああっ!」

 

 藤堂が私を掴んでいた手が離れると、私の意識はますます深い黒へと沈んでいく。その様相は、まるで底なし沼を呈していた。何処か、身を委ねてしまいたくなるような……。しかし、それは甘い罠。深い黒のそこには……何もない。そう……空っぽな私が墜ちるには、ふさわしい場所であった……。

 

 

 




(勘違い要素は)ないです。

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