八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第41話 Aブロック第1試合

(おかしい……絶対におかしい……。)

 

 タッグ結成騒動から時は流れ、学年別トーナメント本番の日となった。俺はピットで腕組みしながら仁王立ち……俺流の集中の儀式である。つまるところ……今から試合だったり。だからこそ俺は、心の中でおかしいと呟くんだ。原作ではイッチー&マイエンジェル組VSモッピー&ラウラたん組がトップバッターなはずなのに……。

 

 イッチー組VSラウラたん組の試合は、Aブロックの最終戦に回されていた。俺が2人とタッグを組んでるからかも知れないが、余計なお世話なんですけどねぇ……。日に2試合する事が確定してしまったわけで、かなり憂鬱だ。何か見えない力が働いている気しかしない。

 

「黒乃、試合の前はやはり緊張するか?」

(あぁ……するする。いつまで経ってもこの感じは慣れないと思うよ。)

「そうか……。だが、良い意味での緊張だろう?私もそれを実感しているよ。」

 

 俺が仁王立ちを解除すると、後ろに控えていたモッピーが話しかけてきた。モッピーの質問に緊張すると肯定するが、妙に意識の違いがある気が……。つまるところ武者震いだろと聞かれたんだろうけど、そんな事は全然ない。何と言うか……子供が歯医者とか注射する際の待ち時間みたいな?死刑執行を待つかのようなあの感じと一緒だ。

 

「準備は良いかしら?篠ノ之さんは打鉄に乗ってね。」

「解りました。黒乃、私達の力を見せつけてやろうじゃないか。」

「…………。」

 

 そろそろ試合の時間らしく、ピットに居た教師が確認を取る。そしてモッピーは、俺とハイタッチを交わすと打鉄に乗り込む。よしっ、さすれば俺も刹那を展開……っと。で、出撃の順番はまず俺からだ。打鉄が先に出ちゃうと、追いついて激突しかねないからね……。俺は刹那を浮かすと、しっかりカタパルトの上に乗った。

 

(オーケー、行きますか!)

 

 ゲートが出撃可能な状態になったのと同時に、レースゲームよろしくロケットスタートをかける。相も変わらずな速度な刹那を華麗に制御して競技場まで飛び出ると、凄まじい数の観客が俺を出迎えた。……思えば、大勢の前で戦うのってこれが初めてだったか。の、ののの……飲まれないようにしないと……(震え声)

 

「……打鉄、ラファールか。妥当な組み合わせだな。」

 

 続けて競技場に飛び込んで来たモッピーは、口で会話が可能な位置に浮いている。そう言われてアチラさんの様子を窺うと、確かに1人が打鉄で、もう1人がラファールを纏っていた。前衛後衛……確かに理想的な組み合わせだね。えっと、打鉄の方が榊さんで……ラファールは結城さんな。2人とも見た事が無いとなると……3組か4組所属だと思う。

 

「しょ、初戦からついてないわ……。」

「だ、大丈夫!死にはしないって……多分……。」

「かなり萎縮しているな。」

(モッピーは平気かい?)

「私か?私は問題ないぞ。気持ちとしては剣道の試合等とあまり変わらん。」

 

 向こうを見ると、何やら励まし合ってるご様子。まぁ、専用機持ちと当たったらほぼ負け確定だからな……とにかく全力で頑張ろうって感じか。で、モッピーは特に問題なしなのね……流石は武士っ娘。……俺もモッピーを見習わんとな。ってか、代表候補生なんだから俺がリードするくらいの気持ちじゃないと!

 

『それでは、開始位置に着いて下さい。』

「黒乃、勝つぞ。私達2人でな。」

(おうよモッピー!)

 

 試合会場にアナウンスが流れると、俺&モッピーは今度は拳と拳をぶつけ合う。そしてフワフワ浮きながら開始位置まで移動すると、俺は神立の鞘に手を添え……いつでも抜刀できるよう気持ちを切り替える。まぁ言っちゃ悪いけどさ、経験がものを言う世界だよ。流石の俺も初心者同然の相手に―――

 

『試合開始。』

(負けるわけにはいかないんだよねぇ!)

「うわわっ、速―――キャア!?」

「ちょぉっ……!?マジ洒落になんな―――」

「お前の相手は、この私だ!」

 

 試合開始のブザーと同時に、前方へ大きくQIB(クイック・イグニッションブースト)。これで前進速度に加速を着けると、一目散へラファールの結城さん向け舵をとる。そのままトップスピードに乗ると、抜刀した神立ですれ違いざまに腹部を斬り裂いた。やはりまともな反応は出来ないか……だったらこの勝負、その時点で決まったのと変わらない。

 

「へ、下手な鉄砲数うちゃ……当たらなーい!?」

(無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!)

 

 明らかな格下相手は久々……というかほぼ初めてな為に、俺のテンションはどこか迷子になりはじめていた。結城さんはアサルトライフルを連射するが、縦横無尽に飛び回ってそれを難なく回避する。というか、NDK?NDK?みたいな感じで、結城さんの周囲360度を纏わりつくみたいに避けてるんだけどね。

 

(……うん、止めよう!流石に性格悪いぞ、俺。それより、モッピーは……。)

「そこだぁ!」

「近接戦は不利ね……。それなら!」

 

 む、マズイな……葵同士の斬り合いになっている以上は当然モッピーに形勢が傾く。しかし、榊さんはモッピーと距離を置いて射撃戦を仕掛けるつもりらしい。これは……いったん結城さんは放置して、モッピーが榊さんへ追いつく隙を作った方が良い。俺はそう思って行動を開始したんだが……。

 

「うひぃ!?こっち来ないで……って、あいた!」

「結城!?なんで私の真後ろに……!」

「流石だな、黒乃。」

 

 結城さんを通り越して、榊さんへ接近しようと思ったのに……結城さんは自分が標的にされていると思ったみたいだ。ろくにハイパーセンサーも確認せず後ろへ下がったようで、同じく後退していた榊さんと背中がぶつかってしまった。……何だか知らんが、この機を逃す手は無い。

 

 距離が近い割に人数が密集しているから、神立では思うような戦いが出来ない。俺は神立を鞘へ戻すと、両肩の疾雷、迅雷を引き抜いた。さて、あまり距離を詰めてる時間も無さそうだ……。さすればこれしかあるまい。出力を抑えつつOIB(オーバード・イグニッションブースト)で……寄って斬る!

 

「カ、カウンター!」

(遅い!)

「ひゃあ!?ア、アサルトライフルが斬れ……キャッ!?」

「隙あり!」

「くうっ……!?」

 

 至近距離、もっと言えば紛い成りにも真っ直ぐ突っ込んでくる俺はカモだとでも思ったんだろう。だけど残念、まず最初の目標は結城さん本体じゃない。俺は疾雷と迅雷を交差させるようにして、アサルトライフルの銃身を挟み込む。そのまま外へ手を広げるようにすれば、アッサリと銃身は焼き切れてしまう。

 

 そして銃身が切断されて衝撃を受けている間に、今度はしっかり結城さんへ疾雷と迅雷の2連撃を浴びせた。モッピーもしっかりと榊さんへと一太刀を斬りこんで、圧倒的に俺達が有利な状況だろう。よしっ、このまま押し切る!……と思ったが、どうやら簡単にはいかないらしい。

 

「ゆ、結城……スイッチ!」

「うん、榊さん!」

「こうなったらヤケクソ!覚悟、藤堂……さん!」

(くっ……ちょっとまずいかぁ……?)

 

 背中合わせだった2人は、それぞれ逆方向へ回転し、標的を変更してきた。ラファール相手はモッピーにやり辛かろうと思ったんだが、なんか榊さんが凄い勢いで斬りかかって来るもんで……。葵による連続攻撃を防いでいる間に、モッピーとの距離を開けられてしまった。

 

「遠距離戦……くっ!避けるのならばなんとか……!」

「真剣勝負だから……恨みっこなしだよ!」

 

 モッピーは中距離からチマチマとショットガンを撃たれてやり辛そうだ……。散弾銃って言うくらいだし、前方広範囲に弾丸が散らばり、地味ながらも着実にモッピーが削られていく。一方の俺は、未だ防戦一方……というか、考える時間が欲しいからあえて防御に徹してるんだけどね。

 

 う~ん……そうだな、シンプルに離脱してから結城さんを攻撃でも良いけど。それだとまたしても榊さんがフリーになって、今度こそモッピーが焔備の射撃を浴びさせられてしまうだろう。結城さんを攻撃して、急いで榊さんのとこまで戻る?いや、それだと仕留めきらなきゃ結局は同じ事だろうし……。

 

(よしっ、それなら……。)

 

 俺が選択したのは、この場で榊さんの相手をしつつモッピーを援護する事だ。まぁ……2回までしか出来ないけど、このまま指咥えて見てるってのもなんでしょ。俺は疾雷と迅雷にて、榊さんの振っている葵を大きく弾いた。そのまま少しばかりの距離を開けつつ、疾雷と迅雷を仕舞う。取り出したるは、紅雨と翠雨。しかし、翠雨の方はすぐさま結城さんへ投げつける。

 

「っ!?結城、気を付けて!」

「へ?……しまっ……!あ、わわっ……ちょ!?ス、スラスターに突き刺さってるよぉ!」

「助かったぞ黒乃!」

「あ、貴女……こんな距離から狙って……!?」

 

 なんだか知らんが、俺が投げた翠雨はラファールのスラスターへと突き刺さったらしい。それは当然ながら飛行能力に障害は出るだろうし、結城さんが慌てる理由も解る。だけど聞いて欲しい……俺は狙ってやった訳じゃないんだ。隙が生じれば万歳と思ってたんだけど、あれなら結城さんは大丈夫かな……。

 

「だけど、そんな短いの1本でどうしようっての。今度は武装を変える暇もあげないわ!」

 

 そう言うや否や、榊さんは再び俺への攻撃を仕掛けてきた。た、確かに……葵相手に紅雨1本だとやり辛いかもね……。今も紅雨の峰に手を添えて、葵と鍔迫り合いをしているが……突破されるのも時間の問題かも知れない。いやね、刹那の特性殺しちゃってるのは解ってるよ。けれど……近接戦で張りつかれると離脱もけっこう難しいんだって。

 

「せいっ!はぁっ!」

「わっ!うわわわっ!」

 

 むぅ……結城さんが逃げ回っているせいで、エネルギーをゼロにするまではもう少し時間がかかりそうか。それすなわち、援護は期待できないと言う事を意味する。ん~……モッピーのパパンなら、鍔迫り合いの状態からでも軽~く受け流せるんだろうな。こう……手首をこうやってクリン!って回してさ。

 

「キャア!」

(はい……?)

「見事な受け流しだ、黒乃!」

 

 おおう、なんてこったい……イメージインターフェースに引っかかったか何かで、達人ばりの受け流しが発動したではないか。急に紅雨の刃が力を失ったために、榊さんはずっこけるようにバランスを崩す。それならば、そろそろ榊さんにはとどめを刺させてもらおうか。

 

(閃け、鮮烈なる刃!)

 

 紅雨は締まって、右手に叢雨を握った。そしてQIB(クイック・イグニッションブースト)で大きく前へ移動し、すれちがうと同時に榊さんに一太刀浴びせる。まだまだ!QIB(クイック・イグニッションブースト)で接近して斬るこの工程を連続で繰り返す。

 

「キャアアアア!?こ、この……これ以上は好きに―――」

(無辺の闇を鋭く斬り裂き!)

「ヒッ……!キャッ!」

(仇為す者を微塵に砕く!)

「な、ど、どれだけ続いて……!?)

(決まった!漸毅狼影陣(ざんこうろうえいじん)!)

 

 やたらめったらにとにかく斬る斬る斬る斬る斬る斬る!だって、原作だったらこの辺で消えてるくらいの速度だからね……。流石にそこまではいかないだろうが、榊さんの目にはそれに近い風に見えているかも知れない。刹那も実際に加速の一途を辿り……最後にOIB(オーバード・イグニッションブースト)を使いながらすれ違い、とどめの一太刀を浴びせる。

 

「キャアアアア!?」

(くぅ~……良い感じぃ!)

 

 うん……やっぱり鷹兄がインストールしてくれたおかげで動かしやすいや。まぁ……QIB(クイック・イグニッションブースト)OIB(オーバード・イグニッションブースト)を連発させないとだから、相当に燃費が悪いんだけどね。とはいえ、榊さんを再起不能にするには事足りた。絶対防御が発動するうちに墜落したみたいだし大丈夫そうだな。

 

「す、すごい……!」

「チャンス……よそ見してる場合じゃないよ!」

(ぬぅん、モッピー!?)

 

 確かに漸毅狼影陣は凄かったかも知れないけど、結城さんの言う通り感心してる場合じゃないよ!?ええい、ここまで来たのならば……モッピーも無事に勝ちたい!俺は自然と、全力のOIB(オーバード・イグニッションブースト)を発動して結城さんに迫る。その間に俺は、叢雨を仕舞って神立を握る。

 

 とは言っても、まだ抜刀はしない。アタッチメントから神立の鞘を左腰から外すと、右手は柄を、左手は鞘をしっかりと握る。結城さんとの距離はグングンと詰まり、既に神立の射程距離。ここで俺はOIB(オーバード・イグニッションブースト)を止めて、残った距離をQIB(クイック・イグニッションブースト)で詰めながら……神立を思い切り抜刀!

 

(次・元・斬!)

「ひゃああああ!?」

「な、なんという……!?」

『試合終了。勝者、藤堂 篠ノ之ペア』

 

 鬼ぃちゃんこと、スタイリッシュな青コートさんの技である。とは言っても、単にすれ違いざまの居合もどきだけどね~。本当は、こう……ズバババッ!嵐のような斬撃が敵を襲う技なんだけど、そんなの物理的に再現不可だし仕方ない。なんにせよ、今のが決定打になったみたいで……俺達の勝利がアナウンスされた。

 

 次の試合があるからとの事で、勝利の喜びを分かち合う暇もなくアリーナから撤収させられた。榊さんと結城さんも、教師たちが回収したみたいだね。だったら……俺らも急いでピットへ戻ろう。そうしてモッピーと共にピットへ戻るが、何かモッピーは消沈しているように見える。

 

「……凄いな、黒乃は。ほとんどお前1人で勝ってしまったではないか。」

(むっ、そんな言い方は好きじゃないぞモッピー。モッピーも頑張ってたし、俺1人だと危なかったと思うよ?)

「黒乃……。そうか、ありがとう。」

 

 何かモッピーは、自分が役立たずだったとでも言いたげだ。そんな様子にちょっとばっかしムカっと来た俺は、ペチリと優しくモッピーの頬を叩く。そんな事は無い、モッピーが居てくれたから勝てたんだ。俺のそんな意味を込めた優しいビンタの意図を、モッピーはしっかり察してくれたらしい。

 

「…………。黒乃は刹那のエネルギーを補充しないとだな。私の事は気にせずに、近江先生の元へ向かってくれ。」

(ん、それじゃあお言葉に甘えて。)

「黒乃……次も、いや……その次も次も……勝とう、私達2人で。」

 

 勿論だよモッピー!まぁ……次は無いかも知れないけど、そんなのは言いっこなしで。俺はまたしてもモッピーにハイタッチを求めると、フッとクールな笑みを浮かべてからパシンと掌と掌がかち合う。その反響が終わると同時に、俺はモッピーの言う通りに鷹兄の元を目指した。

 

 

 

 

 

 

「…………。」

 

 黒乃の背が見えなくなると、私はいつの間にかカタパルト付近の壁にもたれかかっていた。何と言うか、黒乃の隣で戦えた高揚が……グワッと一気に失せてしまった気分だ。私の頭の中には、黒乃は凄い奴だという考えしか浮かばない。私と言う足枷があったろうに、見事完璧な勝利をものにしたのだから。

 

 まずあの投擲……あんな距離から、的確にラファールのスラスターを狙った。榊の陰に隠れて、結城は狙いにくかったはずだ。にも関わらず、ど真ん中としか言いようがない的確な投擲。まさか結城もそんな箇所を狙われるとは思っていなかったらしく、絵に描いたような動揺っぷりだった。

 

 次いでは短刀による受け流し……あれも見事な物だった。戦闘中だと言うのに、思わず賞賛の言葉を送ってしまったぞ。大型物理ブレードの葵と、短刀型物理ブレードの紅雨……どちらが有利かは明白だ。しかし黒乃は、その不利を物ともせずに……いや、むしろ短刀の小ささを利用したかのような感じに見えた。

 

 そして、その後榊に放った連撃……。何と言うか、美しかった。見目麗しい黒乃だったからかも知れないが、れっきとした攻撃だと言うのに……まるで舞を見ているかのような……。だからこそ黒乃に見とれてしまい、隙を作ってしまう大失態を犯してしまったのだが。

 

 しかしだ、やはり黒乃にとっては私の失態など大きな問題では無かったらしい。最後に見せたあの居合……。そもそもどうして、神立のような大太刀で居合が可能なのだ……。しかも、あの居合は……決して1回で終わる斬撃ではなかった。何と言うか、吹き荒れた突風と共に確かに刃を振るった残光が見えたんだ。

 

 少なくとも3……いや、4……?残念な事に、途中から目で追えなくなってしまったからな……。それはあの連撃の方にも言えた事だが、途中から何撃目かを数えられない速度だ。少なくとも、一瞬で6撃以上は浴びせていたぞ……。黒乃が刃を振る速度、随分と速くなったものだ。

 

(だからこそ、私は……。)

 

 黒乃に対して、あんな事を言ってしまったんだろう。解っている。専用機と量産機の時点で差が現れるのは仕方がない事だと。しかし私は、黒乃に何かをしてもらうばかりで……黒乃に何もしてあげられない。この試合、私は完全に足手まといだったろう。

 

 その証拠に、黒乃は刹那であまり飛び回ってはいない。どちらかと言えば足を止めている事が多く、自らの手で一方の足止めをするような……そんな戦い方だった。……黒乃は私がそんな事を言うのを良しとせず、叱ってくれたようだが……。駄目だ、やはりこんなのでは全然駄目だ。

 

 黒乃と刹那は、飛び回ってこその物だろう。その翼を毟ったのは、間違いなく私……。済まない黒乃、私はもう大丈夫だ。次こそは、お前の大空を翔る姿を見させてくれ。いや、見させてみせる……。私がしゃんとせねば、黒乃はいつまでも飛び立てない。

 

 そう、例えるならば……黒乃は親鳥で、私は雛鳥。なんとも……もっともらしい表現だ。つまり、私はいつまでも甘えてはいられんという事。心の何処かで私は、黒乃が居るからなんとかなる……と思っていたのかも知れない。……堕落だ。もし黒乃が倒れれば、そんな気で戦えるはずもない。

 

(黒乃、次だ……次こそ私は!)

「箒さん、見事な勝利でした。」

「アンタ、けっこういい仕事してたわね。美味しいとこは黒乃が持ってっちゃった……みたいな試合運びかしら。」

「セシリア、鈴……。そうか、次の試合は2人だったのか。」

 

 決意を新たにピットを出ようとしていると、ISスーツ姿のセシリア・鈴組に話しかけられる。黒乃はこの場に居ないが、セシリアの見事な勝利とは……間違いなく私達2人へ送られた言葉だろう。だとすると気になるのは、鈴の私が良い仕事をした……という言葉だった。

 

「ところで鈴、私が良い仕事をしたとは……?」

「アンタ自覚なかったの?だって、黒乃が作った隙はキチンと利用できてたじゃん。黒乃があんな長い連続斬りを使ったのも、アンタがキチンと結城を抑え込んでたからだろうし。」

「箒さんならば、安心して背中を預けられる……という奴ですわね。ギブアンドテイク、タッグマッチとはそういう物ですわ。」

 

 私が鈴にそう尋ねれば、まるで呆れたように返された。……あの時は、とにかく足手まといにはなるまいと必死だったせいか、ガムシャラだった覚えしかない。しかし、そういう考えも出来るのか……。ほんの些細な事だろうと、確かに相手の為になる。そうか、タッグマッチとは……奥が深いのだな。

 

 そして何より、私としてはセシリアの言葉が嬉しくて堪らなかった。安心して背中を預けられるなど、これ以上の賞賛の言葉は無かろう。黒乃が本当にそう思ってくれているかは甚だ疑問だが、きっと……そうだと信じたい。私は、口元を釣り上げながら小さく拳を握った。

 

「ま、箒よりアタシのが上手くやるだろうけどね!なんたって、黒乃の1番の親友はアタシなんだもん。」

「抜かせ。やはり私だからこそ―――」

「はいはい、そこまでにして下さいませ。これ以上は大会運営の邪魔になりますわ。」

 

 鈴が無い胸を張りながらそう言うせいで、私は思わず噛み付いてしまった。売り言葉に買い言葉となる寸前に、邪魔になるからとセシリアが待ったをかける。……まぁ、そこはセシリアの言う通りだろう。私と鈴は、顔を数秒見合わせると、フン!と鼻を鳴らしながらそっぽを向く。

 

「わたくし達は当然勝ちますので、次は当たるという事になりますわね。」

「……大した自信だな。恐らくはそうなるだろうが、勝つのは私と黒乃だ。」

「言ってなさい、返り討ちにしてやるんだから!」

 

 鈴は私にズビシ!と指を差しながらそう言うと、意気揚々といった様子でカタパルトの方へ向かって行く。それでは、そう一言告げるとセシリアもカタパルトへ移動した。……本当にこれ以上は邪魔でしかないな。そう思った私は、ようやくピットを後にした。

 

 

 




黒乃→なぁ~んか、怖いくらいに上手くいった試合だったよ。
箒→黒乃の実力を間近で見るいい機会だったが……凄すぎてあまり参考にはならんな。

漸毅狼影陣(ざんこうろうえいじん)
『テイルズオブ』シリーズ10作品目の主人公『ユーリ・ローウェル』の使用する秘奥義。超高速で移動しつつ、消えたり現れたりを繰り返しながら敵を切り刻む技。黒乃はコレをQIBを連発させることで、再現度の高い仕上がりに完成させた。

疾走居合
スタイリッシュアクションゲーム『デビルメイクライ』シリーズの主人公『ダンテ』……の双子の兄である『バージル』が使用する。『閻魔刀』と呼ばれる太刀で神速の名に相応しい居合斬りを放つ技。個人的には居合技と言えばまず思い浮かぶのがコレ。


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