八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第39話 烏と黒兎 対峙せし

シャルルに関しての今後が話し合われてから、数日が経過した。多くの者にとっては、いつもと変わらぬ日常が刻々と過ぎていく。……が、日に日にその様相は変わりつつあった。主にピリピリした方向へと……だ。要因としては、とある侍ガールと鈍感王のやり取り故なのだが……尾ひれが2枚も3枚も着くのは周囲の人間のせいに他無い。

 

「「あ。」」

「「…………。」」

 

 放課後の第3アリーナにて、英国と中国の代表候補生がバッタリと顔を合わせた。とりわけ、この2人もとある噂話に踊らされている。そのためにこうして誰にも悟られぬよう特訓をしようと思っていたセシリアと鈴音なのだが、所詮は同じ穴のムジナという奴だろう。

 

「奇遇じゃん。アタシは学年別トーナメントに向けて特訓しようかと思ってたんだけど。」

「えぇえぇ、それは奇遇ですわね。わたくしも全く同じですわ。」

 

 場とタイミングが一緒というだけで、互いの腹の中は丸見えだった。そう……キーワードは、学年別トーナメントである。その名の通り各学年ごとに行われるトーナメント方式の大会なのだが、どういうわけか優勝すると織斑 一夏との交際権を得られるという話になっている。

 

 この噂が広まった事に、侍ガールはどうしてこうなったと頭を抱え込むばかり。鈍感王に至っては、そんな噂が広まっている事すら知らなかったり。とにかく、その噂が嘘でも真でも……セシリアと鈴音が黙っていられるはずもなかったという事だ。笑顔を浮かべて相対する2人は、水面下で火花をスパークさせた。

 

「なら調度いいわ。……前哨戦といこうじゃないの。」

「フフッ、良いでしょう。返り討ちにして差し上げます。」

 

 特訓といっても、相手が居る居ないのでは成果に雲泥の差がある。口では前哨戦がどうのと言っている2人だが、実のところ本音半分。残りは、単に一緒に訓練でもしないかと提案するのが癪なのだろう。鈴音の言葉にセシリアは乗った……となると、候補生同士の戦いの幕開け……とはならなかった。

 

「「!?」」

 

 セシリアと鈴音が、専用機の主兵装を構えた瞬間ほどの事だ。両者の機体には、対峙しているのとは別の者からの攻撃が警告される。しかし、そこは腐っても代表候補生。瞬時に攻撃を察知すると、慌てず騒がずその場を飛び退く。セシリアと鈴音の合間を縫うかのように、砲弾が過ぎ去っていった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

「…………!」

 

 2人を攻撃したのは、ドイツの最新鋭第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラだった。その証拠と言わんばかりに、リボルバーカノンの砲口からは白煙が立ち込める。セシリアも鈴音も、忌々しそうな表情でラウラを睨みつける。

 

 鈴音に至っては、闘争本能を駆り立てられた野生動物さながらな風体だ。彼女のトレードマークたるツインテールが、まるで逆立って見えてしまう。それは……自身の親友と想い人が逆恨みされているからだろう。特に前者、ビンタされたのは知っているし、生身で攻撃され掛ける姿も見た。親友に対してそんな仕打ちをしたラウラは、鈴音にとってただ敵でしかない。

 

「アンタ本当……いい加減にしないとブッ飛ばすわよ?この際だからアタシは良いわ……。けどね!アンタが今まで黒乃にしてきた事……忘れたとは言わせない!」

「落ち着いて下さい鈴さん。たかだか戦う事しか能のない野蛮人ですわ。わたくし達と同等の言語が通じるかどうかも怪しい物です。」

「……イギリスのブルー・ティアーズに中国の甲龍か。ハッ、データで見た時の方がまだ強そうだ。」

 

 鈴音は自分が攻撃された事よりも、黒乃の事に対しての怒りをこの場でぶつけた。セシリアはかなりの毒舌をかましながら鈴音に落ち着くように促す。で、ラウラはそれらを一切無視して更に挑発的な言葉で反撃してきた。あからさまな挑発なため、まだ2人が釣られる事は無い。

 

「データでしか物を語れないとは、流石は石頭の国(ドイツ)出身ですわね。」

「ってか、アンタが最新鋭の恩恵受けてるからそう見えてるだけじゃない?新しけりゃ良いってもんじゃないわよ。」

「何を勘違いしている。私は乗り手の問題だと言っているんだぞ。」

 

 機体のスペックデータならば、乗り手の影響は受けていないだろうからな。ラウラはそう付け加えて、何処かやれやれとでも言いたげに肩をすくめて見せる。まだ2人とも平気そうだが、セシリアは僅かながらに片眉をひくつかせた。もちろんラウラは、その一挙一動を見逃さない。

 

「気に障ったなら試してみると良い。私は逃げも隠れもせんぞ?臆病者の八咫烏とは違ってな。」

「…………今……なんつった……?」

「臆病者の八咫烏と言ったのだ。失望したよ、多少なりとは見どころのある女だと思っていたが……私の行動に何もやり返して来ない。挙句の果てには、織斑 一夏(種馬)に縋りついて生きているような醜い売女―――」

「オーケー……もう良いわよ、よ~く解ったから……。アンタは……アンタだけは殺さなきゃ気が済まないってね!」

 

 ラウラが黒乃を引き合いに出したのは、もちろんの事わざとだ。今までの煽りはいわゆる下準備で、こちらが本命であった。黒乃を侮辱する言葉を並べれば、セシリアはともかく鈴音は確実に交戦してくる。ラウラの読みは大正解で、激昂した鈴音は双天牙月を振り回しながら突進していく……が、1本の短刀がそれを止めた。

 

「っ……今度は何!?……って、黒乃……!?」

「ようやく出て来たか……藤堂 黒乃!」

 

 短刀はまるで鈴音とラウラの間に割って入るように、両者の調度中間あたりの地面へ突き刺さる。その短刀が飛んで来た方向を見れば、刹那を纏った黒乃がそこに居た。黒乃は悠然と歩いて行き、地面に突き刺さった紅雨を引き抜いて太もも部に収納した。すると、刹那の左腰にぶら下がっている大太刀……神立を抜けば、ラウラにその切っ先を向けた。

 

「ちょっと待ってよ、黒乃がそんな事する必要ない!アイツの馬鹿みたいな逆恨み、アンタが気にする事じゃ―――」

「…………。」

「鈴さん、ここは大人しく下がりましょう。だって、逆ですもの……。」

「……解かったわよ。」

 

 セシリアが言った逆という言葉の意味は、黒乃だからこそやらねばならない……だ。鈴音はその言葉の意味を十分に理解したうえで、それでも悔しそうに黒乃とラウラから距離を置いた。黒乃は、下がる2人に対して……それで良いとでも言いたげに首を頷かせる。

 

「解りやすい女だ……周囲の人間を襲撃すれば、こうもアッサリ出てくるとは。」

「…………。」

「奴らがそんなに大事ならかかってこい!さもなくば、私は決して止まらんぞ!」

「…………。」

 

 ラウラにとって、初めからセシリアと鈴音なんて眼中にはなかった。誰だろうと黒乃の周囲の人間が傷つけば、流石の黒乃も黙ってはいない。何故襲撃が読まれたかなど疑問が残るが、それももはやどうだっていい。こうして目標は出てきたのだから。ラウラは、嬉々として黒乃に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 放課後の俺氏は、ここのところ第3アリーナに通うのが日課になっていた。だけど、何も訓練が目的ってことではない。俺の真の目的は、ラウラたんに襲われるセシリーと鈴ちゃんを守る事だ。いろいろと考えたけど、やっぱり俺が関わっているラウラたんに関しての事は……見て見ぬふりをしていられない。

 

 戦いは嫌だ。なるべくなら平和的に行きたいし、襲ってくるから仕返しってのは絶対にありえない。だって、ラウラたんにとってそういう方法しか思いつかなかったなら……それは仕方がないって俺は思う。ただ、それにセシリーと鈴ちゃんが巻き込まれるのも違うんだ。

 

 何か起きるんだったら、俺1人が被害を(こうむ)ればいい。だって、俺が居なくたって原作は廻ってく。怖くて今すぐ逃げ出したい……けど、友達が傷つくのはもっと嫌だ。……なんて、ただの綺麗事だよな。それでも、今回に限って俺は本気で臨む。せめてあの2人だけは無事で乗り切ってみせよう。

 

 さて、毎日コソコソとアリーナ内に隠れてたわけだが……それも今日で最後になりそうだ。このギャーギャーと言い争うような声は、間違いなく2人がラウラたんの挑発に引っかかっているのだろう。ハイパーセンサーで確認すると、鈴ちゃんがえらいご立腹である。

 

(ほい、鈴ちゃんストップ!)

「っ……今度は何!?……って、黒乃……!?」

「ようやく出て来たか……藤堂 黒乃!」

 

 鈴ちゃんとラウラたんの中間に、紅雨をヒュッと投げつける。もちろんどちらにも当てる気はないので、紅雨は真っ直ぐ地面へと突き刺さった。ラウラたんはお待ちかねだったようで……。やっぱり、俺もしくはイッチーをその気にさせるためにセシリーと鈴ちゃんを……。

 

 まぁなんというか、まんまと釣られちゃってるんだろうなぁ。でもでも、これが1番最良……だろ?頭の悪い俺じゃ、単純にこんな方法しか思いつかないけど……とりあえず、ラウラたんの注意を引こう。俺は鞘から神立をゆっくり引き抜くと、ラウラたんへと突きつけた。

 

「ちょっと待ってよ、黒乃がそんな事する必要ない!アイツの馬鹿みたいな逆恨み、アンタが気にする事じゃ―――」

「…………。」

「鈴さん、ここは大人しく下がりましょう。だって、逆ですもの……。」

「……解かったわよ。」

 

 俺がラウラたんと交戦の意志を示すと、鈴ちゃんがすかさず止めに入ってくれる。それはとても嬉しいけど、俺に関連してるから……2人には怒ってほしくないんだよ。セシリーは俺の想いをくんでくれたのが、鈴ちゃんへと俺の好きにするように説得してくれた。あんがと、セシリー……。

 

「解りやすい女だ……周囲の人間を襲撃すれば、こうもアッサリ出てくるとは。」

(おろ、俺ってばそう言う評価なんだ……。)

「奴らがそんなに大事ならかかってこい!さもなくば、私は決して止まらんぞ!」

(ありゃ~……ラウラたんってば良い顔しちゃって。)

 

 大人しく下がってくれた2人を見守ると、振り返ってラウラたんを見据える。するとラウラたんは、だいたい俺の想像通りの事を言ってきた。……そっか、止まってくれないか。じゃ、望み通り俺が相手になるよ。そしたら……全部丸く収まるもんね。俺は覚悟を決めると共に、今1度神立を構え直した。

 

「さぁ……これ以上私を失望させてくれるなよ!」

(これは……避けだ。)

 

 ラウラたんは、シュヴァルツェア・レーゲンを低空飛行させつつこちらへ向かってくる。そしてそのまま右手を突き入れるようにしながら、プラズマ手刀を伸ばす。いわゆるスティンガーみたいな攻撃だけに、直線的で避けやすい。俺は身体を捻るようにして、プラズマ手刀は難なく回避。

 

 とはいえ、ラウラたんは一筋縄じゃいかんからね。俺はすぐさま次の行動へと移す。避けたと同時に、前方へとQIB(クイック・イグニッションブースト)で距離を開ける。そこから上空へと飛び上がると、広い空域を確保する事に成功だ。さ〜て、こっからが本番!存分に飛び回らせてもらうよ。とはいえ、雷火の出力は抑えとかないとね。

 

「貴様の土俵だろうがなんだろうが!」

 

 ラウラたんも地上から高度を上げて、だいたい俺と同じくらいの標高だろう。喋ると同時にリボルバーカノンを乱射するもんだから気が抜けない。まぁでも、リボルバーなだけに連射力はさほど高くはない。俺は雷火を通常運行で、砲弾を全て避け切ってみせる。ラウラたんの小さな舌打ちが聞こえた。

 

「チッ……!ならば!」

 

 うおっ、来たか!?それまでノンストップで飛行を続けていた俺だが、スピードを落とすと同時に真下へQIB(クイック・イグニッションブースト)で緊急回避。危ない危ない……これがあるから、ラウラたんは温存気味に戦わないと。何が起きたかと聞かれますと、ISきってのチート武装を使う兆候が見えたんだ。

 

 アクティブ・イナーシャル・キャンセラー……通称AIC。指定した一定の範囲内に、慣性を全て無力化する結界を張るというえげつない特殊武装である。ラウラたんが左腕を上げるのが、発動の合図と思っていい。本当は腕を上げなくても発動自体は可能なんだろうけど、ラウラたん的にはその方がやり易いんでしょう。

 

 とにかく、QIB(クイック・イグニッションブースト)を使うのはなるべくAICを回避する用途に絞らないと。後心配する事は、自分から停止結界に突っ込まないようにする事……かな。よし、そんじゃ……いつも通りの戦法で行くぞ。動き回って翻弄し、隙があれば接近して叩き斬る。これぞ俺と刹那の黄金パターンさ。

 

「貴様……この期に及んでまだ逃げるか!」

(まぁ落ち着きなってラウラたん。俺は期を窺ってるだけだからさ、今にこっちからも攻撃を―――)

 

 ……攻撃、できなくねぇ?いつも相手してる人達って、多少なりの隙があるからQIB(クイック・イグニッションブースト)ないしOIB(オーバード・イグニッションブースト)で接近してズバッと斬れちゃうわけよ。接近のタイミングは、ゲームで鍛えてきた判断能力に任せてるんだけど……ラウラたんには隙が全く見当たらない。厳密に言えば近づけはするだろうけど、多分離脱が間に合わなくてAICに捕まるね。

 

(……攻撃、できなくねぇ?)

「クソッ、クソッ、クソッ、クソッ!なんなんだ貴様は……つくづく癪に障る奴め!」

(いやいやいや、違うんだって!)

 

 何そのさ、俺が舐めプで避けるしかしてないみたいな良い方は!俺だって一生懸命やってるよ、それこそ射撃武器があれば攻撃してます!だからそんな怒り方せんといてぇ……。う~……無理にでも攻撃を仕掛ける?いや、でも喰らうと解ってて前に出たくも無いし……。

 

 そうやって悩みながら回避を続ける。しかしだ、刹那は短期決戦型のISで燃費は白式並に最悪だ。エネルギーは雷火にも個別に詰まれているとはいえ、QIB(クイック・イグニッションブースト)を多用しているせいでもうすぐすっからかんだ。雷火のエネルギーが尽きれば、残りは刹那本体のエネルギーを削らないとならないとだから……。

 

(すごくまずい……。)

「貴様が戦う意思を見せないのならば―――」

「そこまでだ、ボーデヴィッヒ!」

「ほぅ?調度いいところに来たな。これならどうだ、藤堂 黒乃!」

 

 けたたましい音が聞こえ、青白い光が背後で起きた。何かと思えば、イッチーが零落白夜でアリーナのシールドを破壊したらしい。それを見たラウラたんは、リボルバーカノンの砲口をイッチーへと向けた。それはつまり、零落白夜の特性を知ってるな!?

 

 きっと今のは最大出力……そうなると、今の白式に絶対防御用へ回せるエネルギーはほとんど残ってない!QIB(クイック・イグニッションブースト)を多用したせいで、刹那だってほとんど同じ状態だ。刹那の残りエネルギーで身代りになってあげられるか?だけどもしバリア貫通したらひとたまりも……。

 

(ああ……もう!イッチー守るのが先決!後は野となれ山となれ!)

「……黒乃ならそうするって思ってた。だけど―――」

(え……ちょっ、何して……!?)

「それは男の役目だって、相場が決まってるんだよ。」

「喰らえ!」

 

 俺は自分に対するダメージを覚悟で、イッチーへ向かって突っ込む。そのまま体当たりでも何でもして、イッチーをリボルバーカノンの射線上からずらす……つもりだったのに。イッチーは雪片を投げ捨て、しっかりと俺を抱き留める。そのまま俺と前後ろが入れ替わるように反転すると……その背でリボルバーカノンの砲弾を受けた。

 

「ぐああああっ!」

(あ……?え……?嘘……嘘っ……!?)

 

 イッチーの叫び声が耳に届いた瞬間、頭が真っ白になった。刹那の制御なんて保ってはいられず、イッチーの腕に抱かれたまま一緒に墜落してしまう。地面に着いて状態が安定すると、俺は理解の及ばない頭のままでイッチーの背をまさぐるように触る。

 

(イ、イッチー……背中……撃たれて!?)

「だ、大丈夫だ黒乃……心配するな。1撃は貰っても良いようにエネルギーの調整はしておいたから。」

(でも……!)

「……黒乃が無事で良かった。」

 

 っ~~~~!?あ、あれ……何だコレ、すっごい今……胸がキュンってなった……!いや、いやいや……今のは違う。だって私がイッチーにときめく訳が……ってぇ!なんかナチュラルに私って言っちゃった!だ、だって……イッチーが私の頬を撫でながらそんな事言うから……!

 

「貴様らのその傷の舐めあいがっ!見ていて1番腹が立つ!」

「一夏が入っちゃった時点で、もう約束も意味ないわよね……黒乃!」

「デュノアさん、お2人を頼みます!」

「任せてよ!ほら一夏、黒乃、掴まって!」

「ああ、サンキュー!ほら、黒乃……。」

 

 うっさい……うっさい!今は自己嫌悪中でそれどころじゃないの!あぁもう……なんでさ、イッチーってそんなキャラじゃないじゃん……怒りのままにラウラたんへ突っ込むタイプのはずじゃん。それが、私を守るのを最優先して、無事で……無事で良かったってあんな……慈しむみたいな顔して!ああ、畜生……なんでドキドキしてるの私は!

 

 って、また私っつって……!オ、オーライ……少し落ち着こうか私……じゃなくて俺。とにかくシールドエネルギーの切れたに等しい俺とイッチーを援護するかのように、セシリーと鈴ちゃんがラウラたんへ攻撃開始した。そして、俺達の回収役はマイエンジェル。俺もイッチーも専用機を解除して、ラファールの腕に掴まれ運ばれる。

 

「貴様ら、私の邪魔をするな!これは私と藤堂 黒乃の戦いだ!」

「それなら!……もう終わりだ。どう見たって黒乃の負け、お前の勝ちじゃねぇか。黒乃、お前もそれで良いだろ?」

(ああ、はい……もうなんでも良いです……。)

 

 俺達が離脱したと同時に、セシリーと鈴ちゃんも攻撃の手を止めた。きっと2人は、なるべく穏便に済ませようとした俺の気持ちを尊重してくれたんだろう。それはイッチーも同じなようで、とにかくこの場は丸く収まるように話を進めようとしてくれる。ただ、今は絶賛自己嫌悪中なので……上の空気味に首を頷かせた。

 

「なっ……ふざけろ!そんなのが認められるはずが―――」

「だったら、別のところで雌雄を決しろ……ガキども。」

 

 当然ラウラたんからすれば納得のいかない話であって、おかまいナシに攻撃を再開しようとしたところで……空気を氷つかせるような声が響いた。そこに現れたのは、言わずと知れた鬼教官……ちー姉だ。そう言えば、模擬戦するのは勝手だけど、バリア破壊する事態は見逃せないとかだっけ。

 

「教官!?」

「織斑先生だ。近々学年別トーナメントがある……それまで全員大人しくしていて貰おうか。藤堂、学年行事ならば……お前も手加減はせんだろう?」

 

 いや、別に今回だって手加減してたわけじゃないんですけどね。まぁ良いよ、今は面倒なだけだからとにかく肯定しておこう。俺が首を縦に振ると、ちー姉はよろしいと答える。そしてすぐさま、ラウラたんにも同意を求めた。ラウラたんは渋々っぽく従うと、ちー姉はこう締めくくる。

 

「それでは、これ大会本番まで一切の私闘を禁ずる。解散!……それと織斑。」

「は、はい!」

「上出来だ。良くやった。」

「っ……!ああ!」

 

 なんだろ、最後の2人のやりとりは……。あれかな、姉弟だから解るって奴?何だそれ、少しさびしいぞ。俺だって家族なんだから仲間外れにしなくたって良いのに。とにかくちー姉は、意味深な言葉と共に姿を消す。ラウラたんも……もう居ないや。早業だねぇ。

 

「で、結局何がしたかったわけ?」

「ま、まぁまぁ凰さん……。黒乃は、無益な戦いは嫌だったんだよね。」

(ヒュウ!よく解ってるじゃん、マイエンジェル。ご褒美にナデナデしてやろう。)

「わっ、や……止めてよ黒乃、くすぐったいってば。」

 

 鈴ちゃんは、俺が反撃すらできなかった事に関して物申したいらしく、かなり不機嫌ですよって感じて話しかけられた。するとすかさずマイエンジェルが俺をフォローしてくれる。早くいつもの調子を取り戻したかった俺は、マイエンジェルの頭を撫でた。口では止めてと言われたが、本気でそう思っているようすじゃない。

 

「シャルルの言う通り、皆が無事で済んだんだ。だから言いっこなしだよな、黒乃。」

(〜〜〜〜っ!?)

 

 一応イッチーには実害があったわけだが、そんなの気にしない様子で朗らかに笑う……俺の頭を撫でながら。これは……もしかしてもう手遅れか!?イッチーに惚れたってのでは無さそうだけど、凄く恥ずかしいしドキドキする……。俺の……俺のアイデンティティが崩壊してしまう。俺が俺で無くなって……。

 

「……黒乃が襲われたと聞いて来てみれば、なんだこの微笑ましい一家のような様は。」

「あら箒さん……。雨降って地固まるという感じでしょうか。」

「心配して損した……とは言わんが、来ない方が良かったのかも知れんな。敗北感が……凄まじい……。」

「ま、まだまだここからよ!一夏がそんな気で頭撫でてるはずが……ないと思いたい……かなぁって……。」

 

 おお、モッピーも心配で様子を見に来てくれたみたいだ。っていうか、なんで皆は原作っぽく行動してくれないの?それだったら俺も、皆に責められるとかでイッチーの事とか気にしてる暇なんてなかったと思うんだけど……。って、ていうかイッチー!いつまで撫でてんの。俺は優しくだが、イッチーの手を取り払う。

 

「ん、そうだな……ずっとこうしてても仕方がないし。せっかく皆揃ってるんだ、飯にしようぜ。」

「そうだな……安心したせいか腹が空いた。」

「じゃ、3人は後から合流だね。」

「そうですわね。すぐに追いつきますわ。」

「その代わり、席の確保を任せたわよ!」

 

 鈴ちゃんは、言葉と同時に元気な様子で走り去る。セシリーは俺の顔を見ると優雅に笑って、ゆっくりと鈴ちゃんを追いかけ始めた。はぁ……本当、いつまでも自己嫌悪してられないか。俺はイッチー、モッピー、マイエンジェルに向かって小さく手を振ると、小走りで2人の後を追う。

 

 

 

 




黒乃→ラウラたんマジで隙ねぇよ!だから舐めプじゃないの!
ラウラ→この女、この期に及んでもまだ……!

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