八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第24話 クラス代表の座

「はいは~い皆、席に座ってね。」

「あれ……?近江せんせー、先生の授業はもっと後からじゃないんですか?」

 

 セシリーとのゴタゴタ劇場第1幕が終わると、教室に現れたのはちー姉ではなく鷹兄だった。鷹兄はいわゆるイケメンの部類だから、女子達はキャッキャとはしゃぎながら己の席へと着く。するとその内の1人が、手を挙げながら質問を投げかけた。すると鷹兄は、頭をボリボリと掻きながら答える。

 

「少し織斑先生から頼まれ事をね。どうしても遅れるから、先にしておいてほしい事があるんだって。」

「じゃあ、授業をするって事ではないんですね?」

「うん。なんでも、クラス代表を決めなくちゃならないらしくて。」

 

 はいキタ……きましたよぉ~ゴタゴタ劇場第2幕の引き金が。このクラス代表の座を巡って、イッチーとセシリーが火花を散らすわけなんだけど……。あったらあったで嫌なのに、なかったらなかったで困るのも事実だ。だってこれが上手く運ばないと、イッチーがセシリーにフラグを建てられない。

 

 事細かな内容は別として、大きな流れはなるべく原作通りに進めたいもの。平穏無事に生きるにはね、臆病なくらいが調度いいんです。もしイッチーがフラグを建てるという行為そのものが、この世界における大きな分岐点とすれば……?俺としては、そう考えるだけで身震いしてしまう。

 

 詳しくは、バタフライ効果で検索だ!……俺は誰に言っているんだろう。そんな間に、鷹兄はクラス代表について説明している。まぁ……言葉通りの意味だけどね。クラス代表、つまりこのクラスの委員長的な役割を成す。普通の学校と違うのは、代表は対抗戦等の催しに駆り出されるってところくらいかな。

 

「織斑先生が言うには、自薦他薦は問わないそうだよ。それじゃ、やってみたい……または、この人が良いんじゃないかって人は挙手してね。」

「はい。織斑くんが良いと思います!」

 

 わ~……原作や二次創作で見た事ある~……なんて言ってられないな。う~む、やっぱりこうなっちゃうかぁ。言いたかないけど、これはイッチーが不満に思うのも仕方が無いと。俺は……言いたい事とか言えない人なんで、黙りっぱなしでしょうね。ってかイッチー、アンタまたボーッとして……。

 

「う~んと、推薦多数って事で……織斑くんで決定かな?」

「ちょっ、ちょっと待て!俺はそんなのやらないぞ!」

「そうだねぇ、僕も無理矢理とかよくないと思うけど……織斑先生の言葉をそのまま伝えるよ。」

 

 鷹兄はちー姉の言葉を代弁し、イッチーを絶望の淵に叩き落とした。他薦されたからには、責任を持って役割を果たせ……ってところか。イッチーが苦し紛れにオリ主を推薦するパターンなんてのもあるけど、俺には喋れないという鉄壁が存在する。喋れない奴に委員長が務まるはずもない!アーッハッハッハ!

 

「くっ……ろのは無理だよな……そうだよな……。」

「じゃ、これで決まりかな?1組の代表は、織斑 一夏くんって事で――――」

「ちょっとお待ちください。そんな選出は認められませんわ!」

 

 親の顔より見た展開……と思わず言いたくなるかも知れない。イッチーが1組の代表に決定するか否かの絶妙なタイミングで、セシリーはヒステリックな声をあげながら立ち上がった。それを鷹兄は、どうかしたのかな?とでも言いたげな顔でセシリーを見る。とは言っても、相変わらずニヤけっぱなしだけどね。

 

「男性がクラス代表などと、良い恥さらしですわ!実力からして、わたくしかミス・藤堂が代表になるのが自然ではありませんこと?」

「近江先生は自薦他薦は問わないって言ったろ。そんなにやりたいならアンタがやってくれ。」

 

 いや、セシリー……そこで俺を巻き込まんといてくれ。確かに俺は代表候補生のポジションに就かせてもらってるけど、8割ほど運で辿り着いただけだからね?そんな事より、イッチーが本当にまともな返答を見せてくれる。でも……日本大好きっ子なイッチーが、果たしてセシリーのあの発言に耐えれるかどうか……。

 

「ハッ!虎……いいえ、烏の威を駆る狐といったところかしら?貴方、先ほどからわたくしに対して強気な発言が目立ちますが、それは全て……ミス・藤堂あっての事ですわよね。」

「……何が言いたいんだ。」

「それは先ほど申しました。やはり貴方のような男性を連れているという事は、ミス・藤堂は程度が低いという事で――――」

「何度目だ……?俺もさっき言った……黒乃の事を、馬鹿にするなって!」

 

 イッチーいいいい!話の流れが全然違う!なんで?どうして?イッチーは、セシリーの俺を馬鹿にしたような発言が気に食わなかったらしく、激しく怒りを露わにしながら負けじと立ち上がった。なんでこうなるのかな~……。俺の事で怒らなくて良いって言って……はないけど、言ってるのに……。

 

「あら、それではどうするおつもりで?」

「ブッ飛ばす。それで、黒乃に謝って貰う。それだけだ!」

「それは、ISで……ととって良いのですね。」

「当たり前だろ。女相手に素手なんて言わねぇよ。」

 

 そういや、こっちの事を忘れてた……。イッチーがセシリー相手に戦うと宣言すると、教室の中に笑い声が響いた。いや、これは……もっと酷くて、馬鹿にするような……嘲笑と表現した方が良いのかも知れない。これが女尊男卑の現状か……。精神的に男だからか、やっぱ……受け入れられない俺が居る。

 

「織斑くん、本気で言ってるの?男が強かったのなんて、もうかなり昔の話だよ。」

「今の内に謝っときなって、頼めばハンデとかも貰えるかもよ?」

「そんなのは関係ないんだよ……。男には、譲れない誇りって奴がある。オルコットは、それを何度も傷つけた。だから俺は戦わないといけないんだ!男が弱いだとか、女が偉いだとか、女尊男卑だとか……そんなのはどうだって良い……。俺の誇りを……黒乃を傷つけたアンタは、アンタの土俵で倒さないと意味は無い!」

 

 こ、声を大にして俺が誇りだとか言わなくて良いから……。でも……なんだ、カ……カッコイイじゃん……。だぁっ!コレだから女の子の身体は……。集中しろ、集中~……イッチーにときめきはしても落とされる事はあってはならん。なんて言うか、俺に残された最後の意地みたいなもんさ。

 

「良いでしょう……相手になって差し上げますわ。ただし、貴方が負けたらわたくしの奴隷にでもなっていただこうかしら?」

 

ど……れい……?奴隷!おお、なんと良い響だろうか!俺としたことが、この発言を見落としていたなんて……。はいはいはい!俺、セシリーの奴隷になりたいです……ぜひ椅子にしてください!感情が高ぶった俺は、思わず椅子から立ち上がってしまった。あまりに突然の事のせいか、クラス内が少しざわつく。

 

「フ、フン……ようやく、重い腰をあげましたね。大切な方を罵倒されて、頭にきましたか?良いでしょう……貴女もお相手して差し上げますわ。」

「黒乃、どうして……?」

「気持ちは同じ。」

 

 俺が立ちあがった訳は全然違うけど、負けて奴隷にしてもらえるんなら模擬戦なんて安い安い!そしてイッチーの問いかけには、久々に声での返答が出来た。そう……気持ちは同じだぞ、イッチー。だって同じドM仲間だもんな!俺の為どうこう言ってたけど、それは口実に過ぎないんだろう。

 

「黒乃……!」

「よろしいですわ。お2人共返り討ちにして――――」

「随分と盛り上がっているな、貴様ら……。」

「あ、織斑先生。お帰りなさーい。」

「近江先生……。しっかりと教師としての勤めを果たしてもらわねば困ります。」

「いやぁ、展開的に放っておいた方が面白そうかなと思いまして♪」

 

 俺の言葉に、イッチーはパッと明るい笑みを浮かべた。うんうん、同士が居るのは嬉しい事だよな。多少のリスクは付きまとうが、俺&イッチーによるセシリーの奴隷計画が始まろうとしたとき……ちー姉の凍えるようなトーンの声が耳に入った。鷹兄……アンタすごいよ、ちー姉の前でヘラヘラしてられるとか。

 

「…………。それで、これはどういう状況です。」

「え~っとですね、簡単に言えばクラス代表の座をかけて模擬戦をする流れかと。」

「誰と誰が?」

「俺と!」

「わたくし!そして――――」

「…………。」

 

 鷹兄が本当に要約して状況を伝えると、更に詳しい情報を要求した。するとイッチーとセシリーは、どこか息の合った調子で自分達が対戦すると宣言する。そこは俺もノリを忘れずに、セシリーの言葉に続いて自分を親指で指差す。するとちー姉は、どこか頭の痛そうな表情を見せた。

 

「はぁ……よしっ、良いだろう。織斑とオルコットの両名は、1週間後の放課後に第3アリーナで模擬戦だ。そこで雌雄を決すればいい。」

「織斑先生、わたくしとミス・藤堂の試合は……。」

「却下だ。オルコットと藤堂では勝負にならん。」

「なっ……!?」

 

 え、えぇ……?ちー姉……流石にそこまで言われると、俺でもショックだよ。勝負にならんて……確かにそうかも知れないけど、むしろ俺としてはそっちの方が好都合なんだけどなぁ。ちー姉の勝負にならない発言に、セシリーは驚きを禁じ得ないようだ。きっとだけど、俺がちー姉に擁護されてると思ったのだろう。

 

「聞き捨てならない発言ですわ!」

「……私の言っている意味は解るな?」

「当然です。それでも……私は彼女と戦います!」

「そうか……。ならば、織斑との模擬戦の翌日、場所と時刻は同じだ。藤堂、お前もそれで構わないな?」

「…………。」

 

 まぁ天下のブリュンヒルデから贔屓されれば、セシリーが怒るのも無理はない……。怒りを煽るような結果になってしまったけど、これでなんとかセシリーと戦う算段がついたぞ!後は……適当に負けてやれば晴れてセシリーの奴隷に……フヒヒ……!俺はちー姉の問いかけに、無言で頷いておく。

 

「話はまとまったな。では、これより授業を開始する。」

「僕はお役御免ですか?」

「……いえ、先生の知恵がタメになる場面もあるかもしれませんので。」

「解りました。それなら、織斑先生の指示で補足を入れますね。」

 

 立ちっぱなしの俺達をスルーして、ちー姉と鷹兄はそんな相談をしていた。鷹兄が教壇から退いた時点で、早く座った方が良いよーというありがたいお言葉をいただく。それで我に返った俺達は、慌てて自分の席へと着いた。さて、鷹兄のアドバイス通りに頭を切り替えないとな……集中集中。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、オルコット。」

「……あら、織斑先生。御機嫌よう、何かご用事でしょうか?」

 

 ようやくお昼休憩の時間となり、わたくしは学年食堂に足を運……ぼうとしていたのですが、背後から織斑先生に呼び止められてしまいました。気配もなく話しかけられると、かなり心臓に悪いですわね。わたくしは、何のご用事かと聞きながら振り返りましたが、織斑先生がこれからわたくしに語る事など容易に想像がついてしまいます。

 

「……先ほどの件だが、事の顛末を詳しく近江から聞いた。オルコット、お前は……わざとこうなるように事を運んだな?」

「…………。」

 

 なるほど、流石にブリュンヒルデを前に隠し事は通用しないようですわね。織斑先生の言う通り、わたくしが織斑 一夏を挑発するような言葉を並べたのは全てわざとです。ま、男性の方がクラス代表になるのは恥……というのはほぼ本音に近いですけれど。

 

 とにかくわたくしは、織斑 一夏に対してミス・藤堂を馬鹿にするような発言をわざとしました。そうすれば、織斑 一夏は簡単に釣れてくれましたもの。そして織斑 一夏がわたくしと模擬戦を行うとなれば、ミス・藤堂も黙ってはいられないと思いましたが……予想通りでした。

 

 彼女らは、互いに互いの事を大切にしていらっしゃる……。わたくしが仕掛けたファーストコンタクト後の様子を見れば、それは明白な事ですわ。だからこそわたくしは、ミス・藤堂を直接挑発するよりも……もっと効率的な手を使わせていただいたまでです。

 

「もしそうだとして、先生はわたくしに何を仰りたいのです。」

「……さっきと変わらん。」

「わたくしに、彼女とは戦うなと……。」

 

 織斑先生は、それを言う為にわざわざわたくしを呼び止めたのですわね。全く……片腹痛いですわ。クラス代表の座や、織斑 一夏との模擬戦などはわたくしにとってはどうでも良い話ですわ。わたくしがこの学園に来たのも、全てはミス・藤堂と戦うためだけ……。

 

「……フフッ。」

「何が可笑しい。」

「あら、失礼……他意はありませんのよ?ただ、どうやら噂通りの御人のようで。」

「言いたい事があるならハッキリと言え。」

「そうですか?でしたら。織斑先生は根っからの小烏党とお聞きしておりまして、まさにその通りだなと。」

「…………。」

 

 小烏党とは、簡単に言えば八咫烏の黒乃を支持する派閥の事ですわ。彼女、どうやら男性……特に日本の男性の方達にとって、半ば神格化された存在らしいので。それは恐らくですが、彼女が数多くのIS操縦者を再起不能にしてきたから……。少しでも多くのIS操縦者が減る事は、男性の方にとっては救いであるご様子。

 

 まぁ……単に彼女の美貌に魅了されたファンも小烏党とされるようですが。問題は、他でも無いブリュンヒルデが完全なる小烏党であるという事ですわ。ブリュンヒルデの愛弟子と呼ばれるほどならば、何ら不思議な事でも無いような気もしますけれど。

 

「私がお前に忠告しているのは、別に藤堂の心配をしての事では無い。」

「ならば、何の為だと仰りたいのです。」

「お前の為に決まっている。……アイツの二の舞になりたいのか?」

「……失礼ですが、貴女が気安く姉様の事を語らないで下さる?」

 

 わたくしとしては、この不毛なやり取りに区切りをつけたかったのですが……思わず反応してしまいましたわ。わたくしに対して、織斑先生がアイツと仰ったのだとすれば……それはアンジー姉様の他ありません。確かに織斑先生のご友人だったようですが、わたくしほど密接な関係ではありません。

 

 それも小烏党の織斑先生では、その言葉に何の重みも感じられませんわ。ですが、単純にわたくしを気遣っての言葉という事は判断できました。あえて言葉を選ばずストレートに表現したのかもしれませんわね……。取り繕われたって、なにも嬉しくはありませんもの。

 

「わたくしは。ただただ八咫烏と戦う事だけを夢見て日本へ来ました。」

「…………。」

「まさかこんな早くにチャンスがくるとは思っていませんでしたが……。とにかく!一矢報いる事が出来るのならば、わたくしはこの身朽ち果てようとも構いませんわ!」

 

 八咫烏の実力と、多くのIS操縦者を潰してきた実績はもちろん承知の上ですわ。もしかするとわたくしのIS操縦者としての人生は、ここで幕を閉じてしまうかも知れません……。ですが、理屈などは抜きにしての話ですわ。そう、彼と同じように……。

 

「……解った。そこまで言うのならば、もう止めはしない。」

「ええ、覚悟はとうにできています。」

 

 それは先ほどもわたくしは言いましたが……。今回こそ織斑先生は、わたくしの言葉に納得してくれたようですわ。そうなると、これ以上ここに居るのは無意味ですわね。わたくしは、織斑先生に優雅なお辞儀を見せると、食堂を目指して歩を進めようとしました。

 

「……少し待て。」

「まだ何か?」

 

 わたくしが完全に織斑先生から離れようとすると、またしてもわたくしは呼び止められました。これ以上わたくしに何のご用事なのかしら。そう思いながら、髪の毛を翻し振り向くと……織斑先生はわたくしに背中を見せたままですわ。しばらくその背を眺めていると、織斑先生が静かに口を開きました。

 

「これから言う私の言葉は、どう取ろうとオルコットの勝手だ。それこそ、小烏党の戯言だと思っても構わん。」

「その前提で、わたくしに何を申しても無駄ですわ。」

「藤堂は、確かに八咫烏と呼ばれるような一面もある。ただ……それだけではない事を、解ってやれとは言わん。……だが、頭の片隅には置いておいてほしい。」

「…………。」

 

 その言葉に織斑先生は時間を取らせたと付け加え、一切振り向く事なくわたくしの前から去って行きました。それだけではない……。ええ、言われなくとも……解っております。八咫烏の黒乃は、わたくしの想像とは違った人物であったのは確かですわ。

 

 わたくしの想像した通りの人物であったならば、それなりに気も楽になったでしょう。ミス・藤堂の気持ちを利用するような真似をして、戦いの場へと引きずり出した……。ですが、だからこそ戦えるというのもまた事実ではあります。エレガントではありませんがね。

 

「ですが、やはりわたくしは……貴女を許せません。」

 

 誰も居ない廊下で、わたくしは1人そう呟きました。ミス・藤堂……例え普段の貴女が善き人であろうと、八咫烏としての顔もまた本物ですわ。どちらも本当の貴女……。だからこそわたくしは、貴女へと挑ませていただきます。そう……この身朽ち果てようとも。

 

「……お昼にしましょう。」

 

 織斑先生と話したせいか、当初の目的を見失うところでしたわ。そうです、わたくしはお昼を食べようとしていたのです。時間は……まだ余裕がありますわね。どちらにせよ、急ぐのはあまり好ましくありませんし……。さて、今日は何を食べましょうか……。

 

 

 




黒乃→セシリーの奴隷になるチャンス!
セシリア→彼を貶せば乗って来ると思いましたわ……ミス・藤堂!

以下、ちょっとした用語解説を挟みます。

小烏党
IS操縦者を精神的に追い込み、再起不能にしてきた藤堂 黒乃を女尊男卑の世に現れた救い主、女神として崇める半ばカルトじみた団体。ただし、あくまでその活動はネット内までに限定。逆に女尊男卑主義者のからは徹底的に疎まれる。そのせいか、現在は小烏党関係なしに単なる黒乃のファンも同一視される傾向。支持層としては、8割方が日本人男性。

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