八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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VSインフィニット・ストラトス、クライマックスです。
1人で戦うのも寂しいので、展開的にもみんなと一緒に打倒といきましょう。


第130話 覇王に集いし刃たち

 正面からは黒乃、そしてその八方からソードBTを渡さんと接近を試みる専用機持ち。どちらを優先的に妨害するかは比べるまでもなく、後者を狙うのが定石というもの。しかし、I・Sは自我を得た己の、機械ながらにいわば思考を巡らせた。この強者を放置することになってもいいのかと。

 

 磁力さえ使えばどうとでもなる、なんていう浅い思考は持ち合わせてはいない。同じく最終形態移行した黒乃を自由にするのは、いささか危険なような気がした。流石に感情までは芽生えていやしないが、I・Sは過る懸念を拭いきれない。それならばと、I・Sは次なる行動に出た。

 

『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』

(身体が動かない……!)

「おのれ、こんな広範囲のAICなどと!」

 

 迷うのならばいずれも止めてしまえばいい。単純な答えに至ったI・Sは、自身の単一仕様能力でAICを創造。ただしその効果範囲は、シュヴァルツェア・レーゲンに積まれている本家本元の比ではない。まだまだ遠方と表現するにふさわしい専用機持ちたちも停止させるほどだ。

 

(……次の一瞬に賭けるしかないね)

『う、うん。私も一応だけど備えておくね』

 

 AICはありとあらゆる物体の慣性を完全に無力化する。それは発動させているI・Sにも当てはまり、解除しないことには黒乃に攻撃を加えることもできないだろう。恐らくだが、I・Sは自分を中心としてドーナツ型に停止結界を這っていると推測される。

 

 もっというのなら、上下の死角も消えるように塞いでいるだろう。これで外部からの妨害はまず不可。それまでなにも邪魔されることがないI・Sが手元に呼び出したのは、メタトロニオスであった名残とも取れる方手持ちのレーザーライフル。

 

 それをきちんと両手に装備し、側面を連結。これにより1本となったライフルは、見るからに銃口へとエネルギーを集約を始めた。最大出力のその先、暴発寸前まで溜め黒乃を葬り去る魂胆らしい。だが発射の瞬間、その一瞬だけはAICも解除されるはず。

 

(まだ、まだだ、大丈夫、見てから回避余裕でした)

『ゲームスキル、きっと役に立つよ』

 

 傍観しかできない専用機持ちたちが歯噛みする中、黒乃は内心で己の反射神経を信頼する言葉を並べた。最終的には格闘ゲームにより培われたものへと辿り着くが、オリジナルの言葉どおりに焼石に水なはずがない。そして、全てが決まる一瞬がついに訪れる。

 

(まだ――――)

『まだ――――』

(『っ……今だっ!』)

 

 何度目かすら解らない生きるか死ぬかの応酬。黒乃はこれまで潜り抜けた修羅場により鍛えられた勘も頼りに、I・Sがレーザーを発射した瞬間に全力でQIBを吹かす。墜落覚悟の出力で横っ飛びした結果、やはり攻撃の瞬間にはAICが解除されていた。

 

(うおっほぉおおおお! スレスレぇ!)

『言ってる場合じゃないって! 墜落しちゃったら立て直すまでの時間がもったいないじゃない!』

(おいおいもう忘れたのかい黒乃ちゃん。大丈夫だよ、なんたって私には最高の仲間がついてるんだからさ!)

 

 轟音と閃光で視界は悪いが、とにかく自分が生きているのなら避け切ったということだ。そんな安心感からやってやったぜと歓喜を露わにするが、オリジナルが言及したように刹那は明らかに地面へと進路をとっている。だが自分が動けるようになったのなら、他のみんなもそうだということ。

 

 黒乃は決死の回避を試みる最中で、確かにその目で捉えていたのだ。スターライトMkーⅢを優雅に構え、その銃口を自分に向けるセシリアの姿を。これから起こりうることはご愛嬌として、黒乃は自らに迫る蒼い閃光に身を任せた。

 

(ありがとうございます!)

『レ、レーザーに押されて墜落は阻止できた……! セシリアさん、凄い精度の射撃!』

「あ、当たりましたわ。よかった……。っと、黒乃さん!」

(確かにお受け取りぃ!)

 

 それなりの火力を誇るスターライトMkーⅢではダメージもあるが、下へ向かっていた状態から横へと力が加わり、拙いながらも黒乃は刹那の態勢を墜落から復帰させた。更にはI・Sがレーザーを発射した隙を突きソードBTを投げ渡すことにも成功だ。

 

 記念すべき1本目の帰還を喜びつつ、黒乃はそれを雷光へ連結。後は当初の目的であるI・Sを見据え、更に速度を上げて行く。待ち構えるようなI・Sに対し、臆すことなく鳴神の刃を煌かせ、トップスピードのままその胴体へ一太刀を浴びせる。————かと思いきや。

 

(あ~ばよ~とっつぁ~ん!)

『うぇ!? あ、ま、まぁ、今は回収が最優先だよね……うん』

 

 黒乃はフェイントのようにして鳴神を振るフリをしつつ、大胆な事にI・Sの真横を通り過ぎた。実のところ最初からこうするつもりだったのだが、AICを創造されておじゃんになってしまったのである。黒乃の思惑を図りかねていたオリジナルは、なんだか複雑そうな声を上げてしまう。

 

 そして黒乃が向かう先は1つ、刹那に次ぐ機動力を誇る紅椿を駆る箒である。通り過ぎたからといって決して安心はできないが、一撃必殺でも飛んでこなければダメージは度外視するつもりなのだろう。しかし、黒乃の目に映った箒はなぜだか腕を振り上げていた。

 

「黒乃、受け取れええええっ!」

(投げちゃった!? あっ、でもなんか正確なパス!)

『これで2つ! 箒ちゃんもすごい!』

「は、ははっ、なんとかなるものだな……」

 

 箒はソードBTを投げナイフの要領で投擲。無謀なと少しだけ思った黒乃だが、思いの他ソードBTが真っ直ぐ飛んできて驚きを隠せない。投げた本人も驚いているようだが、何気に練習をしていたり。そう、きっかけは学年別トーナメントで目撃した黒乃の投擲である。

 

 あまりに見事な投擲だった。だから見よう見まねで練習してきたが、まさかこんなところで役に立つとは。そんな考えが浮かび、箒は乾いた笑みを浮かべた。とはいえ、これで2本目が黒乃の手元に戻った。だが、I・Sが転んでタダで起きるはずもなく。

 

『――――――――』

(げっ、これ全部が追ってくんの!?)

『確かに数は多いけど、これならなんとか――――って、お姉さん前!』

(ぜ、前門のミサイル!? 後門のレーザー!)

 

 Ⅰ・Sが掌から放ったのは、無数のレーザーだった。それもただのレーザーではなく、複雑なカーブを繰り返していることから追尾機能があることが伺える。また面倒なと苦い表情を浮かべるも、なにやらオリジナルがただごとではないような声を上げた。

 

 警告に従って意識を前方へ集中させてみると、そこにはまさに弾幕と呼ぶにふさわしい様子でミサイルの群れが迫ってきているではないか。この時点で彼女の仕業だと察しが付くが、ミサイルとレーザーに挟まれるというのは恐ろしい体験である。もっとも、察しがついている以上、ミサイルが当たることはまずないと解かっているのだが。

 

(びっくりはしたけど、これで3本目は確実かな……)

「黒乃っ……!」

『簪さんからは直……。毎回こうだといいんだけどね』

 

 ミサイルは全て綺麗に黒乃を避け、まるで庇うかのようにレーザーへと激突。黒乃は後方で感じる爆風も気にせず、援護をしてくれた者へと接近した。そこでリレーのバトンのようにソードBTを差し出すのは、スフィア・キーボードでの演算を終えたばかりの簪。

 

 山嵐の有する火器管制システムにより、複雑な軌道を描いたミサイルにて簪を守ったのだ。地下でより磨きをかけたのか、演算処理にタイムラグというものを感じさせない。かくして黒乃は、すれ違いざまに直接簪の手からソードBTを回収に成功した。

 

「そういえばあなたって、水中ってどうなのかしら?」

『次は楯無さんが仕掛けるみたい!』

(あいよ黒乃ちゃん!)

 

 3本目のソードBTを雷光へ連結させると、そんなからかうような声が響いた。そして次の瞬間には、巨大な水の球体がI・Sを包み込む。楯無とミステリアス・レイディのアクア・クリスタルである。とはいえ、I・Sが相手となると決していい手とはいい難い。

 

『重力操作』

 

 I・Sは自分の周囲一帯へと強力な重力を加えることにより、纏わされていた水を一気に地面へと引きずり下ろした。地面と大量の水が激突した衝撃で、バシャアと大きな破裂音が。やはりこれでは大した時間稼ぎにもなりはしない。そう思った時だった。

 

「ざーんねん、本命はこっち」

『!?』

(あれ、なかなかエグイよねぇ)

『そのエグさが活躍してるんだから思い出さないの』

 

 楯無が指パッチンをするような仕草をみせると、それと同時にI・Sの内部から小規模な爆発が起きた。アクア・クリスタルに含まれる起爆性ナノマシンの効果である。水として浸透させたソレを内部で爆破、攻撃することを旨とするため、場合によっては気づいた時には手遅れということも。

 

 楯無との模擬戦で雷光を破壊されたことを思い出した黒乃は、なんだか素直にすごいと褒める気が湧かなかった。内心で響く大人なオリジナルの小言へ適当な相槌を返しつつ、未だ内部爆発を繰り返すI・Sをスルーして楯無からソードBTを受け取る。

 

「お受け取りど~も~」

(ブレないなぁ、たっちゃんは。よし、次!)

『えっと、この位置から近いのは――――』

『―――磁力操作』

 

 楯無の飄々とした態度はブレることなく、ソードBTを渡し終えると同時に手をヒラヒラさせて黒乃を見送った。ある意味で安心感を覚えつつ、オリジナルと共に次なる目標を定めようとしたその時。またしても厄介な手に打って出られた。

 

 先ほどは止めてからの一手でケリをつけるつもりでのAICだったのだろうが、既に黒乃の手元には3本のソードBTが戻っている。ともなれば、なにを形振り構ってやいられるだろうか。同時に使用できる単一仕様能力は一種類ながら、これを足掛かりにしてやればよい。

 

「くそっ、またこれか!」

「みんな、急いで距離を――――」

「置く必要? ないわねそんなもん。むしろアタシは、この瞬間を待ってたって感じよ!」

「鈴、なにを――――うん? はっ、なるほど、そういうことか!」

 

 発動条件はⅠ・Sが放った電磁波に触れること。赤と青の電撃が迸るため視認そのものは難しくはないが、なにぶん速度が速度なせいで防御は不可に等しい。事実、9人共に赤か青の電撃を帯びてしまっているということは、見事に喰らってしまった証拠である。

 

 ここから先はI・Sの独壇場になってしまうのかと大半のメンバーは苦い表情を浮かべるが、鈴音のみが待っていたと真逆の反応をみせた。その意味を図りかねていたラウラだったが、黒乃、鈴音、そして己に迸る電撃の色を確認すると、なにかに気づいて猛然と黒乃へ突っ込んでいく。

 

(いや、ちょっ、そんなことしたら――――ほらぁ! 引き寄せられ……って、好都合な気がする)

『たぶん鈴ちゃんとラウラちゃん、それが狙いだね。完全にI・Sのミスだよ』

 

 迸る電撃の色はS極とN極を表す。同じ極ならば反発し、異なる極なら引き寄せ合うというのは説明するまでもないだろう。先ほどの磁力操作で黒乃が帯びた磁気はN極、つまり赤。その逆で鈴音とラウラはS極で青。黒乃に接近しなければならない状況ならば、逆に利用してやろうという作戦に出たのだ。

 

 これまでと同様、一定距離へ近づいた途端に機体の制御ができなくなり、3人は互いを引き寄せ合いそのまま接触。I・Sが単一仕様能力を解除しない限り離れることはできないが、これでさらに2本のソードBTを回収したも同然である。

 

「姉様、こ、これを……」

(なんかもう、雷光にひっついちゃってますけど……。取れるかなこれ?)

「……あっ、やばっ。この後のことなにも考えてないんだけど」

(今言うかなそれ!?)

 

 鈴音とラウラが手渡すまでもなく、ソードBTはカチンと大きな音を立てながら雷光に接着。これも単一仕様能力解除までは剥がれることはなさそうだ。それよりもまず、自分たちが離れることができないのをどうにかするべきだろう。

 

「渡したメンバーはとりあえず援護! 渡してない人はどうにか黒乃ちゃんに接近を!」

「お姉ちゃん……ひっつきながら……?」

「ええ、ひっつきながら! とにかくやる!」

 

 いずれは解除してくれるとして、それまではソードBTを渡し終えたメンバーが全力で援護だと楯無が指示を下す。ただし、簪とひっつきながらで妙に恰好がつかない。それでもやるのだという意気に感化されたのか、9人は気合を入れ直すかのように行動を再開した。

 

「でもどうしよう。僕らは黒乃と反発して接近できないや」

「鈴とラウラが引っ付いてる間は問題ないんじゃないか?」

「え? あ、そっか、鈴とラウラが僕らと逆だから引き寄せてくれるんだ!」

 

 やはり磁力の問題はネックなものだったが、意外にも一夏が盲点のような突破口を見出した。そう、黒乃とは反発してしまうが、黒乃に引っ付いている鈴とラウラには引き寄せられる。ならば全力でソードBTを投げでもすれば自然に黒乃の元へと届くだろう。

 

『――――――――』

 

 箒、セシリア、楯無、簪の足止めを喰らっていたI・Sだったが、流石にこれ以上の磁力操作はマズイと考えたらしい。すぐさま単一仕様能力を解除し、専用機持ちたちの拘束を緩める。どちらかといえば発動してくれていた方がよかったために、残念そうな顔つきになるメンバーもちらほら。

 

「くっ、思い切りブン投げでもしたらよかったか?」

「それはあまりにも安直だよ。別の方法を考えよう」

 

 ソードBT1本でも破壊されれば詰む状況において、一夏の呟きは実行されずに済んでよかったといったところか。どちらにせよ、これで渡せていない3人はまた頭を悩ますはめに。しかし、なんとかして打開せねばと思った時には遅い。I・Sは、またしても厄介な手できた。

 

『エレキトリック・ブラスト』

(ぐぅぅぅぅっ!? こっ、これは……!)

『今度は電撃!? 防御貫通なうえに避けられない!』

 

 I・Sは新たに電撃を操る単一仕様能力を創造した。まず防御は不可能な上に、光の速度で迫るために回避も不能。しかもこのまま電撃を受け続けたとして、ISの回路等々がショートしてしまう可能性も。近江重工が耐電加工もしてくれているだろうが、受け続けても壊れないというのは頼り過ぎと言える。

 

「ぼ、僕に任せてっ!」

「シャルロット!?」

 

 いくらISといえど電撃を喰らえばたじろぎそうなものだが、それでもシャルロットは前に出た。ろくな援護ももらえないだろうに、無謀にも思える突撃だ。だが逆をいうならば、シャルロットがなんの考えも無しに動くはずがない。

 

(試したことはないけど、理論上は可能なはず。その反動で僕がどうにかなる可能性もあるけど、それでも!)

『――――――――』

(それでも、黒乃の役に立ちたいから!)

 

 向かって来るなら迎撃のみ。電撃だけでは飽き足らず、I・Sは高火力ライフルの連射を浴びせる。だがシャルロットは瞬時加速をやってみたらできたといえるセンスの持主。本人の気合も相まってか、当たれば撃墜必至の弾雨を掻い潜っていく。そしてシャルロットが構えたのは、幾度となくフィニッシャーとなったあの武装――――

 

「グレースケール・フルバースト!」

『!?』

 

 盾殺しの異名を持つパイルバンカー、グレースケール。本来は連射の効くパイルバンカーと、それだけでも恐ろしい兵器である。しかし、今回は少しばかり様子が異なる。フルバースト、つまりシャルロットは、全弾分の威力を一発に込めて放った。

 

 6発の威力が集約された一撃は、まさに衝撃的威力。盛大な鉄の打たれる音が鳴ったと思えば、I・Sを射程圏外まで吹き飛ばしてしまったではないか。ただし、その代償かグレースケールはそれを内包する盾ごとおじゃんになってしまった。腕にも影響があったのか、シャルロットは顔をしかめながら黒乃のほうへ向き直る。

 

「く、黒乃、受け取って」

(うん、ありがと!)

『シャルロットさん、ナイスファイト!』

 

 黒乃とシャルロットの位置関係として、投げさえすればソードBTが届く距離だ。これで7本、残るところは一夏の所持するソードBTのみとなった。I・Sからすればもはや形振りかまっている暇などないということになる。だが、標的が一夏と黒乃に絞られたともいえる。

 

『神翼招雷』

「えっ!? なっ……シーケンス早くない!?」

「単なるコピーではありませんからね……」

「距離からして妨害は間に合わんぞ。姉さまの神翼招雷も間に合わん!」

 

 遠方で虹色の光が翼の形状を成して現れたかと思えば、それはI・Sに取り込まれていった。この一連の動作は見慣れたもので、刹那の単一仕様能力である神翼招雷だ。確かにこれだけ見れば同じだが、セシリアの言葉通りにI・Sのそれはコピーとは異なる。

 

 決定的とまではいわないが、上位互換と表現しても差し支えはない。よって、妨害も一夏がソードBTを渡すのも間に合わない。というよりは、そんな相談をしている間に超巨大レーザーはすでに放たれている。つまり、回避も間に合わない。それを察した一夏は、とにかく全員の前に躍り出た。

 

「箒いいいいっ! 白式を回復させ続けてくれ!」

「わ、解かった!」

(イッチー!?)

 

 これまでにないほど巨大な雪羅の盾を形成した一夏は、箒にそんな指示を出しながらレーザーを受け止めた。確かに絢爛舞踏を発動しつつなら、半永久的に零落白夜も発動が可能だ。だがそれと白式や一夏が持つかは別問題であり、それを察した黒乃はすぐさま神翼招雷を発動しようとした。

 

(待ってて、今そんなの吹き飛ばして――――)

「黒乃っ、俺を信じてくれ! 今お前がするべきなのは、あいつを消し飛ばすことだけだ!」

(……けど!)

「今度こそ……今度こそだ! こんな嘘つきで、不甲斐なくて、情けない俺を好きでいてくれる黒乃のために、ようやく命を張れる瞬間なんだ! 俺が黒乃を守る! 守って、生きて、黒乃との明日を取り戻す!」

 

 すぐさま同等のエネルギー量で相殺してやろうと神翼招雷を発動。しかし、翼を出したあたりで一夏に止められてしまう。曰く、考えていいのはソードBTがそろった後のことのみ。一時はためらいを見せた黒乃だったが、一夏の懺悔するような言葉に心動かされた。

 

 そんなこと気に病まなくてもいいんだよと思いながらも、愛する人の想いに敵うことなく歓喜の感情が勝る。だから、と表現するのは変かも知れないが、黒乃は一夏を信じることに。一夏が自分たちを守り切ったことを想定し、神翼招雷は継続させつつ――――

 

「頑張って!」

「っ……ああ! 黒乃のその言葉さえあれば俺は無敵だ! お前も気合入れろ、箒!」

「うむ!」

 

 決死の力で呪いを振り切り、腹から出した声で一夏を応援して見せる。意外なサプライズに少し驚いた一夏だったが、泣き笑いしながら己の左腕にすべてを託す。もちろん、ガス欠を防いでくれている箒にもだ。そして黒乃の叫びを皮切りに、他の専用機もちも声を上げる。

 

 これくらいしかできないからと、叱咤激励と呼ぶにふさわしい言葉を並べる。黒乃は声が出たのは一度きり、後はとにかく一夏の無事を祈り続けた。これを防げるか防げないかですべてが決まる。もちろん主目的としては黒乃を守ることだが、一夏もまた腹の底から叫んで気合を入れた。

 

「うおおおおおおるああああああああっ!」

『!?』

「っしゃああああ! 黒乃おおおおおおっ!」

(はぁ~……ほんとかっこいい……。私の旦那かっこよ過ぎ……!)

『のろけるの後! 一夏くんと箒ちゃんの頑張りが無駄になっちゃう!』

(了解、黒乃ちゃん! いくよ!)

(『久遠転瞬!』)

 

 超巨大レーザーを防ぎ切ったテンションそのまま、一夏は最後のソードBTを黒乃へ。これにより久遠転瞬の発動条件が整った。すぐさま黒乃は前方にQIB。速度の条件も瞬時にクリア。そして次に黒乃が現れたのは、I・Sの目の前だ。

 

(斬ぃぃぃぃるっ!)

『――――――――』

(まだまだ!)

『――――――――』

 

 久遠転瞬は時空間移動能力、やはりI・Sにそれを防ぐ手立てはない。実際には抵抗できているのだが、抵抗するよりも前の時間に巻き戻されてはどうしようもないだろう。黒乃は消えて現れてを繰り返し、とにかく鳴神による斬撃を浴びせた。

 

 しかし、I・Sからすれば違和感が残る。その気になれば機体もエネルギーも無限回復できるというのに、どうしてちまちまと攻撃を繰り返しているのかが疑問なのだろう。だがそんな答えは至極簡単なもので、その答えがわかった時には既にI・Sは消し炭どうぜんであろう。

 

(震天————雷掌波あああああああっ!!!!)

『!?!?!?!?』

 

 I・Sの真下に現れた黒乃は、至近距離から震天雷掌波を放つ。I・Sの視点から見るならば、いつの間にか食らっていたといった表現が近い。それも今までに見たことがない特大クラス。一撃をもってして倒そうという意思が丸見えだ。

 

 黒乃は久遠転瞬での時空間移動を繰り返している最中、ゴーレムType Fと交戦した際と同様の行動をとっていた。つまり、神翼招雷のエネルギー増幅を何度も行うことである。以前は隙がないために放てず自爆という結果に終わったが、久遠転瞬がある限り相手の隙など気にする意味などない。

 

 これこそがあの時にやりたくてもできなかったこと。一撃をもってしてすべてを破壊できると自負した技。震天雷掌波は、I・Sを瞬時に飲み込んだ。そして束が作成したために学園よりも強度が上であろうシールドをいとも簡単に突き抜け、天高く昇っていく。

 

「やっ……た……? お姉ちゃん……フラグにならない……よね……?」

「ええ、あれは流石にどうしようもないでしょう」

「つまり、えっと、その、僕らの勝ち?」

「勝った……。そうだ、姉さまと私たちがかったんだ!」

「黒乃ぉ、あんた最高よ!」

「すべて終わったのですね……」

「……篠ノ之博士の処遇は置いてだがな」

「そうだ、そんなの後でいい! 黒乃っ!」

 

 あまりにも圧倒的な存在であったI・Sが一瞬にして消し飛んだ。その事実が良い意味で受け入れがたく、黒乃含めた専用機持ちはしばしあっけにとられた。しかし、会話を重ねるごとにその実感がわき始め、仲間たちはI・Sを討った英雄のもとに集う。

 

 取り囲まれた黒乃はどうしていいのか解からない様子だったが、みんなを少しだけ遠ざけて迷わず一夏に抱き着いた。その選択を咎めるものは誰もおらず、むしろ穏やかな視線で2人の様子を見守る。中には目に涙を溜める者もいた。

 

「あー……えー! 盛り上がってるとこ悪いんだけどさー!」

「……ハッ! そんなに死にたいならさっさと言え腹黒兎」

「どう死にたい? アタシとしてはやっぱミンチにしたいんだけど――――」

「まだ終わってないよ?」

 

 せっかくの盛り上がりを遮るかのように、束が塔に接続してある大型スピーカーで声を上げた。一夏と黒乃は未だ2人の世界。黒乃が一夏の目の前で一度死亡したこともあって、メンバーはとりあえず2人にするために代理のつもりか会話を始めた。

 

 しかし、耳を通してみればまだ終わってはいないというトンデモ発言。あれだけの一撃を喰らわされたI・Sをみた以上は、もはや負け惜しみか何かにしか聞こえなかった。なにをそんな馬鹿なことをと顔を見合わせていると、束は相変わらず無邪気な笑顔で空を指さした。

 

「はいはい、信じられないというそこのあなた! たかーいたかーい空へとごちゅうもーく!」

「空ですって……? !? ちょっとお待ちなさい……悪い冗談にもほどがありますわ!」

「や……やっぱり……フラグ……?」

「簪ちゃん、悪いけど冗談言ってる場合じゃ――――って、逆に笑えてくるわね……。ハハ、ハハハ……」

「そんな……。勝ったのに……。僕らが勝ったのに!」

「姉さん、貴女は……!」

 

 みんなが見た先、そこでは絶望が空を覆いつくしていた――――

 

 

 




いつからこの回で倒しきれると錯覚していた?
……はい第3形態突入でございます。
何が起きたのか、何が絶望なのか、次話でお確かめください。

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