八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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2話続けてタイトルが固有名詞なのでアッサリ感が増します。
でもこの回はこれ以上にふさわしいタイトルが思いつきませんでした。
というわけでして、VSインフィニット・ストラトス、いってみましょう。


それでですね、この回以降に「I・S」と表記されていたらラスボスのことをさしていると思ってください。
「IS」と表記されていたら、普通に機械のことをさしています。


第127話 インフィニット・ストラトス

「名付けてインフィニット・ストラトスとは大きく出たものだな」

「で、でも、もしあの言葉が本当だとしたら、なんの遜色も――――」

「なに弱気になってんのよ! それならなおのこと短期決戦狙わなきゃやばいでしょ!」

 

 地上からⅠ・Sを見上げたラウラは、どこか忌々し気にそう呟いた。続くシャルロットの声はわずかに震えており、絶望感を覚えていることが見てとれる。そんな気位では勝てはしないと一喝する鈴音だったが、どうにもならないと思っているのは彼女も同じ。ただ、持ち前の負けん気からして虚勢を張る方へ動いてしまう。

 

 だが短期決戦というのは正論そのもの。早く倒し切ってしまわねば、いったいどんな単一仕様能力を創造されてしまうか解かったものではない。鈴音は双天牙月を構え、それに同意見の者も次々と主兵装をI・Sへ向ける。しかし――――

 

『兵力分散、開始』

(うわわっ、なになに!?)

「……なんとも……ない……?」

 

 専用機持ちが行動を開始したのをみてか、I・Sも戦闘続行の姿勢をみせた。そしてI・Sが両手をかざして向けてきたかと思えば、赤色と青色の電撃のようなものが放射される。思わず防御の体勢をとってしまうが、不思議とダメージそのものは全くなかった。

 

 強いていうならば、赤や青の静電気のようなものが迸るくらいだろうか。メンバーは9人だが、半々くらいの割合で赤青単色の静電気が――――というのが正確なところである。いったいなにごとかと専用機持ちたちが目視で機体を確認しているその時――――

 

「へ……? 簪ちゃん、なんで突っ込んで来て――――」

「ち、違っ……! これ……引き寄せられ……キャッ……!」

(ふ、吹き飛ばされるぅぅぅぅ!)

「黒乃ーっ!?」

 

 打鉄弐式の脚部が地面からフワリと浮いたかと思えば、ミステリアス・レイディ目がけて突っ込んでいく。やがて楯無と簪は思い切り激突。逆に黒乃は近場にいた一夏と真反対の方向へ互いに吹き飛ばされてしまう。残ったメンバーも似たようなもので、激突、あるいはその逆の現象が起きていた。

 

「もしや磁力か!?」

「おっ、箒ちゃん大正解~! 表示にエレクトロマグネチックってのが増えてるよ~」

 

 引き寄せられたり反発したり、そして赤色と青色。そうくれば、磁石のS極とN極を指しているのではと箒が閃いた。開発者本人から正解のお墨付きは得られたが、引っ付いたまま離れられなかったり、または近づけなかったりとそれどころではない。

 

「まずいぞ! この団子状態でレーザーを撃たれでもしたら全滅はまぬがれない!」

「ラウラ、んなもん解かってるから移動する努力をするわよ!」

 

 I・Sが神翼招雷を模して超威力のレーザーを放ったのは確と覚えている。となれば、なす術なく固まった状態では仕掛けてくる可能性は高い。磁力のせいでIS同士が密着した状態ながら飛行を試みる鈴音とラウラだったが、I・Sは――――

 

『標的補足』

「続けて磁力操作だと……? しかもどこへ向けて――――なっ、あれは!?」

「黒乃、後ろ後ろ!」

(はい? って、あ、愛刀たちが襲ってくるんですけど!?)

 

 I・Sは身動きの取れないメンバーには興味も示さないかのように、明後日の方向へ磁力操作を発動させた。すると黒乃に迫ってきたのは、S極の磁気を帯びたらしい叢雨を始めとする愛刀たち。セブンスソードを使用した際に投げ捨てたのが仇となったらしい。

 

 ついでにいうならば、ビル倒壊に伴ってそこらへ転がった鉄筋等もおまけだ。これをみた黒乃は逃げの姿勢をみせるが、いくら逃げようとも引き離せない。それは勿論ただ追尾しているだけでなく、N極の磁力を帯びた刹那そのものが引き寄せ合っているからだ。

 

(雷光の出力でも逃げ切れないってどうなって――――)

「黒乃さん、前もですわ!」

(し、しまっ――――キャア!)

「黒乃っ!」

 

 後ろに気を取られたせいか、黒乃は追加でI・Sが磁気を帯びさせた鉄骨のつぶてを避けきれなかった。となれば、自然に後ろから迫る愛刀たちにも追いつかれてしまう。圧殺せんともいわんばかりの鉄のサンドイッチ。前後から迫るソレに押しつぶされた黒乃は、相応のダメージを受ける。

 

「クソッ、それ以上はやらせるかっ!」

『マイクロウェーブ・ヒーティング』

「ぐああああっ! な、なんだ……今の爆発は……!?」

 

 痛めつけられる黒乃を黙ってみていられるはずもなく、一夏はI・Sめがけて突っ込んでいく。しかし、手を向けられた瞬間に高熱を感知――――したと同時に胴体あたりで爆発が起きた。あまりにも突然な爆発なため混乱する一夏だったが、I・Sの発言からして電子レンジの原理を利用する単一仕様能力を創造した可能性が高い。

 

 電子レンジの原理を要約するなら、マイクロ波により分子を振動させ、分子摩擦の際に熱が生じるといったところだろう。I・Sが放ったのは、恐らくそれの超強化版。時間をかけずに一夏付近へマイクロ波を放ち、発熱どころか一気に爆破させたのだろう。

 

(あ、あれ……? なんか知らんけど解除された!)

「磁気が……消えた……?」

「なんにせよ、これでようやく飛べるね!」

 

 I・Sがマイクロ波加熱を使用したのと同時ほどに、黒乃を押しつぶす勢いだった鉄塊は一気に剥がれ落ちた。専用機持ちたちもそれは同様で、なにをしても離れなれなかったのに簡単に脱出ができた。そして、I・Sを取り囲むようにして陣取る。

 

「みんな、人数の利を生かしていくわよ!」

「「「「了解!」」」」

 

 9対1などと、本来なら圧倒的優位のはずだ。しかし、専用機持ち全員は妙な焦りすら感じていた。やはり単一仕様能力の創造というなにが起こるか解からないという部分が大きい。だからこそ専用機持ちたちは知らしめられることとなる。I・Sを前にして、人数の利など存在しないということを。

 

「喰らいなさい!」

「こいつもおまけだ!」

『エネルギー無効化』

「今度は零落白夜か!?」

 

 ブルー・ティアーズのBTによる一斉射撃、それに合わせて箒が空裂による遠距離攻撃を見舞う。しかし、I・Sの背負う輪から全身を覆う膜のようなものが現れたかと思えば、それにぶつかった瞬間に箒とセシリアの攻撃は掻き消えた。この感じ、雪羅の盾そのままである。

 

「それなら物理で殴るわよ!」

(物理っつったら私のお仕事!)

『磁力操作』

「ま、またぁ!? あだっ!」

 

 I・Sとの距離を一気に詰め、鈴音と黒乃はそれぞれ龍砲、鳴神で攻撃をしかけようとする。しかし、またもや磁力操作を発動されてしまう。赤青の磁気は全方位に放たれ、ついでかのように他のメンバーも巻き込んだ。そして引っ付いたり離れたりで身動きが取れなくなっていると――――

 

『エネルギー倍加』

(ヤバッ……! 離れて鈴ちゃん!)

「ああっ、黒乃!」

(ぐっ、うううう……! や、やっぱり効くな……!)

 

 身動きが取れなくなった一瞬の隙を突き、I・Sは疑似神翼招雷を発動。高出力のエネルギーウィングで一気に加速したかと思えば、そのままエネルギーの刃で黒乃を切り裂いた。己の扱える攻撃なだけあって、大体の威力は把握している。それだけに、ごっそりと減ったシールドエネルギーに内心で顔をしかめた。

 

「奴が神翼招雷を発動した途端に磁力も消えた……? 待て、確かさきほども――――そうか!」

「な、なにか解かったの!?」

「ああ、気休めにすらならんかも知れんが……。奴が発動させていられる単一仕様能力は、いずれか一種のみのはずだ」

 

 流石にある程度の縛りは存在するようで、不自然なまでに磁力操作が解除されたことによりラウラが勘付いた。それはⅠ・Sが想像した単一仕様能力を、同時に運用できないという点。確かに先ほどの黒乃へ向けた攻撃も、残った専用機持ちを拘束したままの方がより成功率も高かったろう。

 

 なのにそれをしなかったとなると、できなかったと推理してもよい。なぜなら、もしできたとするなら今頃は全員が跡形もなく消滅してしまっていた可能性もある。例えば磁力ないし重力操作で身動きを少し悪くしたうえで、疑似神翼招雷のレーザーなんて放たれたらそれだけで生存率は限りなく低い。

 

 自らをISの完成形とまでいっておいてそれをしないのはなおのことおかしい。となれば、ラウラの読みは完全に正解というのが証明できる。もっとも、本人の言葉通りに解かったところで気休めにしかならない。I・Sは、完全防御不可ともとれる攻撃すら発動できるのだから。

 

『……ニュークリア――――』

「っ……あいつ正気か!?」

「それだけは絶対に止めろおおおおおおっっっっ!!!!」

 

 I・Sがどこか面倒くさそうに、黒乃を除いたメンバーを疎むかのように一言呟いた。それを耳にした全員は絶句し、血相を変え、なにがなんでも止めなくてはと誰それ構わず味方を巻き込むのを厭わず攻撃を仕掛ける。ニュークリア――――つまり核攻撃。人体にとって最強であろう見えない毒とも表現すべきソレを、今ここで使ってやろうとしたのだ。

 

 こればかりは発動前になんとか阻止できたようだが、味方が味方へ与えた損害もかなり大きい。特に打鉄弐式の山嵐から飛翔した無数のミサイルは、多くの格闘特化の専用機持ちのISへ直撃してしまう。無論だが直撃した数は圧倒的にI・Sの方が勝るが、残念なことにI・Sにはあれがある。

 

『エネルギー増幅』

「声はしても姿が見えない、というかこれ――――」

(ジャミング系の単一仕様能力でも創造した……?)

 

 これを狙ったのか、はたまた偶然か。なんとしてでも核攻撃を中断させた弊害か、文字通り煙に巻かれてしまった。例え姿が煙幕に紛れようと、ハイパーセンサーさえあえば位置は特定できる。しかし、不気味なことにI・Sの反応のみパッタリと途絶えてしまった。

 

 これもI・Sの仕業かと勘ぐる黒乃だが、もはや不思議な現象が起きたとするならそれが正解とした方がよいだろう。つまり、これからなにが起こるのか一応の警戒はできるというもの。……といいつつ、全員が若干感じつつあるのだ。奴に対してなにをしようが無駄なのだと――――

 

『重力操作』

「しまっ……! ぬ……うわぁああああ! さ、先ほどよりも速度が――――」

「箒ーっ!」

 

 絢爛舞踏を使用できる箒を真っ先に狙ってくるのはあるていど予想はついたが、反応も気配もなくまるで陰からノソッと出現したかのような登場をされては意味は無かった。そしてI・Sが重力操作を至近距離で発動させると同時に、箒は真っ逆さまに地上へと引きずり込まれていった。

 

 箒にとってこれを体験するのは二度目になるが、先ほどと比べるまでもなく落下速度が速い。これは恐らく創造した単一仕様能力の特性が絡んでいるのだろう。簡単にいうなれば、範囲と重力の比例反比例といったところか。つまり、範囲を広めればかける重力は弱くなり、狭めればその逆。つまり――――

 

「ガッ!? ……ハッ……!」

『篠ノ之 箒、沈黙確認』

「そ、そん……な……!」

 

 聞いた事もないような墜落音。距離からして箒の息が切れたような声は届かないが、簪を始めとして顔色を悪くするメンバーがちらほら。とりあえず確認できるのが、死んではいないくらいのことだからだろう。そんな中、あまりにも機械的、そして淡々とした口調であるI・Sの声が響いた。

 

「よくも……!」

「簪ちゃん!? 迂闊に突っ込むのは――――」

 

 静かな怒りをみせたのは、似たような境遇からか仲が良かった簪。このあたりが藤九郎の指摘した部分で、意外と熱くなりやすいというところなのだろう。簪は夢現を展開すると同時にI・Sへ斬りかかり、姉である楯無も心配からくる保護欲求に突き動かされてしまった。蒼流旋を構えて突き入れるも――――

 

『磁力操作』

「こ、これは……!?」

「あ、あちゃー。これは戦線復帰が厳しいかも……!」

 

 更識姉妹へ磁気を浴びせたI・Sは、矢継ぎ早に何処かへ向けて再度磁気を放出。すると、細く捻じれた鉄骨が姉妹の身体へ巻き付いた。確かにこれならば、例え他の単一仕様能力を発動したところで脱出は難しいだろう。楯無が苦い顔をしたのはそれを悟ったから。

 

『標的を地表へ固定』

「くっ、うぅ……!」

「キャア!」

『更識 楯無、及び更識 簪。一時的拘束完了』

 

 後は地面に転がっている鉄に引き寄せられ、更識姉妹も地上へ落ちてしまう。速度は箒ほどでもなく気絶もないが、やはりあの状態から復帰するには誰かの手を借りない限りは厳しそうだ。いうまでもないが、I・Sを相手にそんなことをしている暇はない。

 

『次標的へ攻撃開始』

「むぅっ、今度は私か……!」

「さっきの2人は除いて、厄介なのから潰そうってわけね!」

 

 I・Sは疑似神翼招雷で加速すると、少しは離れてからUターン。それと同時にシュヴァルツェア・レーゲンへロックオン警報――――次の狙いはラウラだ。いくらI・SといえどもAICは脅威とみなしているらしく、早めに無力化しておくべきと判断したのだろう。

 

(なら私に任せなさい! 本家本元をみせたるわ! でも黒乃ちゃんは手伝ってちょ!)

『締まらない人だな~もう……。でも、任せて!』

「姉様!? 姉様も大ダメージを先ほど――――ええい! 各員、済まないが私を守る陣形を!」

「「「了解!」」」

 

 真っ直ぐ超スピードで向かって来るI・Sに対し、ずっと長く神翼招雷を扱ってきたのだと黒乃が飛び出す。雷の翼を放出するのと同時に一気に飛び出し、そしてそれを刹那の本体へ倍加させつつ吸収。そして安定のために雷の翼を放出するのと同時に再加速。

 

 そしてオリジナルとの対話を果たしたため、ある程度は同時に技を維持できるようになった。黒乃は右掌に6倍増幅のレーザーブレード――――天裂雷掌刃を発動。その長さゆえに既に射程距離圏内だが、最大まで引き付けて振うことを選ぶ。そして――――

 

(今だああああああああっ! ……は!? す、透け――――)

「っ!? ここまでか……!」

『バリア無効化攻撃』

 

 突っ込みつつ横一線に天裂雷掌刃を振ってみれば、なんとI・Sの機体を透けて通過していってしまうではないか。これを目撃したラウラは、全てを悟って悔しがる表情をみせる。そう、最初からI・Sはラウラの背後に潜んでいたのだ。

 

 神翼招雷の発動の瞬間は、凄まじい閃光が周囲を照らす。その一瞬で、先ほど雲隠れした際のステルスする単一仕様能力を発動させた。これをみるに、その能力はただ潜伏するだけではなかったのだろう。消えたうえで、ジャミングのような要領でハイパーセンサーに事実を誤認する映像を流させるといったところだろうか。

 

 もしかすると、箒があそこまで接近された際も実は煙は偽物だったのかも。真偽は定かではないが、見事に全員が騙されてI・Sの接近を許してしまう。一撃で仕留める気が満々だったのか、指先から放たれる疑似零落白夜にて腰あたりをバッサリと斬り裂かれた。

 

「いいか! 断じて私に構うことは許さ――――」

「ラウラああああっ!」

「なにを……! 馬鹿か貴様っ! それでは奴の思うつぼだろうがああああ!」

「知らないよそんなの! キミが死んじゃうくらいならそれでいい!」

 

 零落白夜は一撃必殺。場合によってはIS搭乗者を殺傷することも易い。なんてことは、既に誰しもが周知している事実だ。ではラウラがISが解除されて済むのは手加減? それで片付けることなどできず、誰がどう考えても罠そのものだった。

 

 生身でこの高度から落ちれば即死も即死。ならば仲間意識の強いこのメンバーなら誰かが助けに入る。助けに入った誰かはその間隙だらけ。次はそれをターゲットにすればよい。……という狙いがあるのは明白。だからこそラウラは、自分とI・Sを倒すことを秤にかけ、そのうえで倒す選択肢が下に傾いた。

 

 落ちていく最中、自分は見捨てろとそういおうとした。いおうとしたのに、いい切る前に涙目のシャルロットが自分の救助に入っていたのだ。そんなシャルロットの表情をみたラウラは、嬉しそうで、それでいて悲しそうな――――そんな微妙な顔をせざるを得なかった。

 

『マイクロウェーブ・ヒーティング』

「うぅ……! あっ! ああああああ!」

「シャルロットさん! このっ――――」

「それ以上は――――」

 

 しめたといわんばかりにI・Sがシャルロットへ向けて手をかざすと、マイクロ波加熱による灼熱が背中を焼いた。ISが地球外での活動を視野に入れていたとなると大気圏関連のことも計算に入ってるかも知れない。しかし、この単一仕様能力の場合は一点集中なだけに絶対防御もあまり意味をなしていないらしい。

 

 いや、なければ今頃シャルロットの背中は炭と化していたろうが、ダメージからしてという意味だ。あまりの痛みとラウラを保護することで手一杯なのか、リヴァイヴの操作がかなり危ういようにみえる。そんな嫌らしい手口に嫌悪感を抱いたセシリアと鈴音が動くが、それはI・Sに阻まれてしまう。

 

『マイクロウェーブ・ヒーティング』

「こ、このまま、では……!」

「いい2人とも、急いで高度を下げるんだ! 後は俺と黒乃でなんとかしてみせる!」

 

 もはやシャルロットを攻撃する必要はないと判断したのか、今度は鈴音とセシリアを小規模な爆発が襲う。それも一度や二度ではなく連続で、防御不可能な爆発で削り切ってしまおうという魂胆なのだろう。対抗手段もなくただやられっぱなしな現状をみて、一夏はラウラの二の舞になる前に高度を下げろと叫んだ。

 

 悔しいが一夏のいう通りというのもあり、役に立たないよりはと先に動き始めたのはセシリア。リヴァイヴの操作がまだおぼつかないシャルロットの救助へ向かった。ブルー・ティアーズの機動力はギリギリ足りており、機体ごとシャルロットに抱き着くような形で衝撃をいくらか和らげる。

 

 が、それが行われたのは地面スレスレでの話。衝撃は和らげたものの、ラウラを抱えたシャルロットを抱えたセシリアは地面へ激突。しばらくスライドすることでようやく勢いは止まった。それよりも、唯一生身であるラウラの安否を確認すべき。気絶はしているが、どうやら命に別状はないらしい。シャルロットは意識もあるが――――

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルロット・デュノア、セシリア・オルコット、沈黙を確認』

「悔しいけど、アレのいう通り。絢爛舞踏でもない限り、リヴァイヴは戦えない……!」

「わたくしも同じくですわ……」

 

 エネルギーそのものを回復しさえすれば戦闘続行も可能だが、肝心の箒は絶賛気絶中だ。いつまでそのままなのかなんて目途が立つはずもない。そう思わせるほど壮絶な墜落であり、むしろ気絶で済んだのが不思議なくらいに思えてくる。

 

「このっ……このっ……鉄屑っ!」

「止めろ鈴! 6人も戦えないってなったなら、アイツらを守る役割も必要だ! ……解かってくれ」

「くっ……そぉ……! 勝ってたのに……! 一回勝ったのに……! なんなのよぉ……!」

 

 怒髪天を衝いた鈴音がなおも攻勢に出ようとするのを、一夏は再び制した。9名のうち6名が戦闘不能。中にはISを展開できない状態の者も含まれる。となると、確かに護衛役も必要だろう。一夏がそれを任せたのは、白式には零落白夜があるから。

 

 たったワンチャンスにはなるだろうが、一撃で屠り去ることも可能かも知れない。僅かな希望に託すことにはなるが、鈴音は撃墜寸前の自分が残るメリットが薄いことは重々承知している。しかし、持ち前の負けん気からして相当悔しいのか、大粒の涙を流しながら高度を下げて行った。

 

『凰 鈴音、戦線離脱』

「ああ、残るは俺と黒乃だけだよクソッタレ! やるぞ黒乃、準備は――――」

(ハッ、ハッ……!ゼェ……ふぅ~……)

『お姉さん、聞こえてる!? 落ち着いてってば!』

 

 自ら離れて行った鈴音をみてか、手間が省けたかのような声を響かせた。それにピクリと眉を反応させて怒鳴って見せた一夏は、遠くに佇む黒乃へ向けて覚悟を決めろと声をかける。しかし黒乃は、次々とやられていく仲間を前にして――――メンタルの弱さが出てしまう。

 

(こんな時にかよ……!)

「待ってました~! そうなってくれなきゃ面白くないもん! たっくん、瞬き厳禁ね!」

「目が細いものでして、これでもバッチリ開眼してるんですよ?」

 

 己の戦績は運と機体の性能によるところが大きく、実際はみんなの方が実力的には上回っている。そう思い込んでいるために、味方が簡単に落とされていってしまい恐怖に包まれてしまう。だがそれは毎度おなじみ、恐ろしい笑みと共に現れる八咫烏と認識されていた。

 

 戦闘能力は黒乃より勝るが直情的。まるで楽しむような戦い方をする――――というのが一夏の認識なだけに、有難迷惑のような複雑な感情が渦巻く。対して科学者2人の興奮度は増すばかりで、束に至っては飛び回りながら拍手を送る始末。

 

(やらなきゃ……。私がちゃんとやらないと……! 私がちゃんと倒さないと……!)

『うん、だから、それは別に背負い込む必要はなくて!』

(やらないと、やらないと、やらないと……みんなが! みんなを守らないと!)

『ああ……もう! お姉さん、人の話を聞いてってば!』

 

 恐怖に駆られて湧いて出る強迫観念。自分がやらねばみんなが死ぬ。自分の死を恐れつつ、同じくらい他人の死に恐怖する性格を前にして、I・Sの戦闘能力は黒乃の正気を乱すほどだった。息を乱しながら内心で自分を奮い立たせる言葉をブツブツと呟き、ついにはオリジナルの呼びかけも耳にせず飛び出てしまった。

 

『マイクロウェーブ・ヒーティング』

(倒す、壊す、破壊する!)

「っ~……! おい待て! 箒もいないのにそんな無茶な戦い方をしやがって!」

『一夏くん……! これは、私の干渉を受けないくらい取り乱してる?!』

 

 防御無視のマイクロ波加熱による爆発もものともせず、天翔雷刃翼でI・Sに接近していく。その姿はやはり痛みもまた楽しみと解釈されるようで、一夏は八咫烏を非難するかのような怒声を上げた。それを聞いたオリジナルはなんとか止めようと試みるが、本人にも関わらず全く主導権を奪えない。

 

 肝心の天翔雷刃翼といえば、当たる寸前で全方位疑似雪羅の盾で防がれてしまった。Ⅰ・Sは白式と違って発動を躊躇わなくていいため、かなりのエネルギーを割いた攻撃だったというのに全くの無傷。それが黒乃をなお焦らせるという悪循環――――

 

(だったら物理で――――)

『マイクロウェーブ・ヒーティング』

(うぎっ……っ~! 知らん……知らん……! シャルだって痛かった! けどシャルはラウラたんを守った! だから私も!)

 

 加速度のあるうちに進路を変えてI・Sの懐に潜り込む事には成功した。しかし、もはや向こうとしては攻撃を防ぐ気はないらしい。力強く鳴神が草稿に叩き込まれるが、I・Sも爆発するタイプではなくマイクロ波加熱で継続的に黒乃の身を焼き続ける。

 

 どちらが先に力尽きるかなど一目瞭然。もっというならば、I・Sは疑似絢爛舞踏を発動できるために無駄な努力ともいっていい。ここまでくると、先ほど啖呵を切った一夏にも絶望が襲い掛かってくる。やがてそれは完全に一夏を蝕み、取り返しのつかないところまで辿り着いてしまった。

 

「――――てくれ……。束さん、頼むからもう止めてくれ! 俺たちの負けだ! だから――――」

「ん~……いっくんには悪いけど生き死にの問題なんだよね。それにほら、やっとくろちゃんの待ち受けた瞬間が来るんだよ?」

「そっちの都合のいい解釈をするなよ! いつもの黒乃はそんなこと望んでなんかいるもんか!」

「アハッ、平等に愛するって宣言した男子の発言じゃないねぇ。ダメダメ、そんなんじゃ止まらないよ」

 

 一夏にできる精一杯の行動は、情けなかろうとなんだろうと命乞い一択であった。敗色濃厚というのは解かるが、よりによって一夏からその言葉が出るのは束からしても少し意外らしい。だが関心を示したのも束の間、端的に交渉へ応じる気はないと制した。

 

 そう、束の目的は、黒乃の――――八咫烏の悲願を達成することも含まれているのだから。己の全力を打ち破り、己を殺す存在――――それを探して八咫烏は戦い続けている。と、そう解釈されている。だとしたら、手を休めるというのは愚かというもの。

 

『雷光、破壊完了』

(そ、そんな……いつの間に!?)

『磁力操作』

 

 雷光の破壊といわれて注目してみると、烏の骨格にも似たソレはドロドロに溶けていた。恐らくは、というより考えるまでもなくマイクロ波加熱によるものだ。これでは刹那はその機動力を十分に発揮できないだろう。そんな状態に磁力操作の単一仕様能力を喰らえばどうなるか――――

 

『プラン、最終段階』

(ぐふぅっ! 磁力の拘束で身動きが……!)

「おい……待てよ、頼むから……頼むから嘘だっていってくれええええ!」

 

 蹴り一発で吹き飛ばされてしまえば、後は引き寄せられた先にぶつかるまで止まらない。雷光があれば抵抗も出来たろう。だが無意味だ。I・Sとしてはもう背後のビルにぶつかればもう勝ちなのだから。最終段階といった行動が気になったのか、一夏がハイパーセンサーでビルに注目すると、そこには絶望が待ち受けていた。

 

 一夏は既に泣きながら黒乃を追いかける。そんな一夏をI・Sが攻撃する素振りをみせないとなると、もはや間に合わないという計算が出たのだろう。そしてビルが接近するにつれ、黒乃もハイパーセンサーで背後に迫る絶望を視認。自らの最期が近づいてきたうえで黒乃は――――

 

(あぁ……これは、そういう……。うん、なら――――最期だし、あなたはどうか――――)

「届け……なんでもいいから届けよクソがあああああああ!」

「――――生きて」

「!? 黒――――」

 

 黒乃がビルに叩きつけられる――――よりも前に感じたのは、鋭いなにかが自らの胸を貫いた感触。それは、ビルに柄が埋まった状態で突き出た叢雨の刃。どのタイミングかは不明だが、すでにI・Sは磁力操作により黒乃へとどめをさす布石を用意していたのだ。だから待つだけでよかった。後は勝手に黒乃の方から突き刺されにいってくれる。

 

「あぐっ!? カハッ!っ――――————」

「ハ――――」

 

 鮮血が舞い飛び、黒乃が口から大量の血を吐いた。無理もない、叢雨が刺さっているのは寸分たがわず左胸――――心臓なのだから。後は力が抜けたかのように頭、首、四肢をダラリと放り出し、目も閉じることはない。いや、むしろ瞳孔が開ききっている。誰がどう見ようと即死だ。

 

「噓……でしょ……? 嘘よっ! 嘘に決まってんでしょこんなの! だって黒乃が――――」

「……こんな……ことって……!」

「あ、あぁ……わたくしたちが不甲斐ないばかりに……!」

「……なにが17代目楯無よ! 私は……!」

「い……や……。いやぁぁああああ! 黒乃様ぁぁああああぁぁぁぁああああっ!」

 

 即死。あの黒乃が。次代のブリュンヒルデ筆頭の黒乃が。自分たちの友人の黒乃が。大切な友人である黒乃が、あっけなく即死した。あからさまなまでの死に様だというのに、もちろん皆はそんな事実を受け入れられない。壊れてしまいそうな心を保つので精いっぱいだった。そんな中で一夏は――――

 

「ハッ……! ハハッ、ハハハハ……! アハハハハ!」

 

 嗤う。なにがそんなにおかしいのかと問いかけたくなるほどに、一夏は心底から可笑しいかのような高笑いを上げた。大空を見上げ、目からは涙を流しつつただ嗤う。他のみんなが壊れてしまいそうな心を保つのが精一杯、とするならば――――そう、織斑 一夏は壊れてしまったのだ。

 

 前回とは違い、すでに黒乃が死から舞い戻ってくる手立てがないのは一夏も理解してる。だからこそ現実を受け入れられない。だからこそ一夏は壊れてしまった。これは夢だ、なんて悪い夢なのだろう。そうやって愉快に笑い飛ばさねば、一夏の精神はもっと悲惨に朽ち果ててしまっていたかも。

 

『標的死亡確認、戦闘終了』

「アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 ただ虚しくも、機械的な声と、一夏の狂った笑い声だけが決戦の地を駆け巡っていった――――

 

 

 




黒乃の通算死亡回数が3回となりました。
私の小説は基本的に主人公が大変な目にあいやすいので……。
ですが、苦あれば楽ありと言います。
それを踏まえて、次話も引き続いて閲覧をお願いいたします。

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