八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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ようやくラスボスと戦闘開始。
この回でメタトロニオスのモチーフになった機体は丸わかり……なはず。


第125話 VSメタトロニオス

 ブザーが鳴ると同時にクロエはライフルを両手に展開。凄まじい速度で射撃体勢に入り、トリガーを同時に引いた。千冬の得たデータから弾速は予習済みであるが、クロエの狙いは初めから2人ではなかった。アスファルトを盛大に破壊すると共に、目くらましを図ったのである。

 

 もちろんハイパーセンサーで位置そのものは特定できるし、むしろ逆に土煙を利用されてしまう可能性すらある。それでもクロエが直撃を狙わなかったのは、刹那と白式には基本的に近接戦闘しか行えないからだ。だからこそこうして――――

 

「うおおおおっ!」

(やぁああああ!)

 

 2人はこうして、最も想定できたであろう攻撃を選んだ。左右から土煙を突破しつつクロエに迫り、それぞれの刃を振り上げる。そんな攻撃に対して、クロエは至って冷静に対処を始めた。右から迫る一夏に対してはライフルの銃口を向け、左から迫る黒乃に対してはレザーブレードに持ち替えた。

 

 同時攻撃に見せかけてタイミングを外すつもりの黒乃だったが、まるで初めから解かっていたかのような対応を取られてしまう。しかし、入力したQIBの勢いはもはや止められない。一気にクロエとの距離を詰めるも、それはレーザーブレードを構えるだけで止められてしまう。

 

「稚拙ですね」

(くっ、間一髪!)

 

 黒乃が体勢を崩してくれるという前提だったためか、一夏はひたすらライフルの銃口に近づくだけになってしまう。年下から厳しい言葉を貰いつつ、突進の勢いを殺しきった一夏は慌てて回転しながら射線から退避した。それと同時にクロエはライフルを射撃し、一直線に抜けていったエネルギーがいくつものビルを貫いていく。

 

「まだだっ!」

「無駄ですよ」

(やってみなくちゃ――――)

「なにをやっても無駄なのです」

 

 回避と同時に瞬時加速で接近し斬りかかるが、右手のライフルもレーザーブレードに持ち替えて防がれてしまう。そこから雪片を振って連続攻撃を開始し、黒乃も鳴神を疾雷と迅雷に持ち替えて手数で攻める。が、やはり初めから攻撃される場所が解かっているかのように全て防がれてしまう。

 

 むしろクロエは我関せずの様相で、このまま眠ってしまいそうなほどだ。無論、クロエは敵に対してなにも感じたりはしない。そうみえるのはクロエが無表情であること、そしてなにより黒乃と一夏の焦燥が影響しているに他ならないのだ。

 

「ちっ……! 黒乃!」

(了解! いったん仕切り直しを―――)

「そんな暇があるとお思いで?」

「なにっ!?」

 

 名を呼ぶだけで意思の疎通が図れることを利用し、一夏は黒乃に仕切り直しを提案した。しかし、2人が刃を離そうとした一瞬の隙を狙われる。クロエは瞬時に両手にライフルを展開すると、ピンと腕を伸ばしながら銃口を向ける。そしてトリガーを引きっぱなしにして発射。

 

 これまでの単発式のレーザーとは打って変わり、照射型のレーザーが銃口から放出され続ける。それに加えて回転しながら発射することにより、周囲360度を一気に焼き尽くした。クロエの頭上を飛び越えるようにして回避には成功したものの、辺りのビルは薙ぎ払うが如く倒壊していく。

 

(神翼招雷!)

 

 ここに来て黒乃は神翼招雷を発動。今回は2倍放出で、移動と攻撃を両立できる天翔雷刃翼だ。OIBほどの速度は出ないが、格段にエネルギー効率はよい。近接の間合いからとりあえず離脱することが目的らしく、黒乃は一夏の腕を掴んで遠い彼方へ離れていった。

 

(あなた、手荒いけど許してね!)

「黒乃……? ああ、そういうことか……。よし、なら思い切り頼む!」

(はいな! 行ってらっしゃいませーっ!)

 

 かと思えば、ある程度の距離が取れると同時にUターンを始める。そしてクロエとの距離が詰まる最中、黒乃はジッと一夏を見つめた。それで黒乃がどう出るかを察した一夏は、少々戸惑いを隠しきれないながら自分のことは気にしなくていい旨を伝える。それを受けた黒乃は、一夏を想い切り放り投げた。

 

「う……ぬぅおおおお!」

「…………」

 

 天翔雷刃翼の加速度も相まってかなりのスピードでクロエに迫る。一夏はそれに加え、瞬時加速で更に速度を上げた。恐らく候補生クラスでも回避するのが難しいレベルの速度で接近する一夏に対し、クロエはなにも行動を起こさない。そう、なぜなら――――それがフェイクであると理解しているからだ。

 

(……震天雷掌波!)

 

 一夏は結局なにもすることなくクロエの隣を通り過ぎるフェイクでしかなかった。本命はこちら、天翔雷刃翼のエネルギーの一部を取り込み、震天雷掌波に繋げた黒乃の攻撃。機体安定のためにある雷の翼を放出させずに済むよう、真下から両手を上にするかのようにして放つが――――

 

 一夏がフェイクだと解かっていたということは、本命のことも察していたということである。クロエはなんの気ないような所作で震天雷掌波を回避し、その行く末を見守った。極大のレーザーは遥か上空のシールドにぶつかることで消滅したようだが、威力はやはりお墨付き。束と鷹丸の両者は凄まじい揺れを足元に感じた。

 

「「…………」」

「思ったよりも息切れが早いですね」

「いいや、やっとスタートってところさ。今のでお前とその機体の謎がハッキリした!」

 

 動きが止まった2人に対し、あえてクロエはなにもせずにいた。彼女としては全く挑発のつもりはないのだが、黒乃と一夏のどちらともにそんな言葉を送る。すると一夏は、ニッとニヒルな笑みを浮かべて勢いよくクロエを指差して見せる。

 

 その秘密とは、恐らく千冬が勘付いた例のやつだろう。今までは確証が取れなかったが、これまでのやりとりでそれを確信したとのこと。クロエは相変わらず無表情、束と鷹丸はまるで回答が楽しみだといわんばかりに頬を釣り上げ始めた。

 

「多分だけどその機体は、既に二次移行済みだな。そして千冬姉がお前を傷つけられなかった理由はただ1つ、その機体に目覚めた単一仕様能力にある!」

「……どうしてそう言えるのですか?」

「俺たちが戦いながら検証を進めていたからだ」

 

 メタトロニオスは既にセカンド・シフトした機体であると、一夏はまずそう前置きした。世代のほどは定かでないながら、セカンド・シフトした機体ならば覚醒する可能性のある能力――――単一仕様能力。それこそが千冬の大敗の原因であり、なおかつ2人は既に検証を進めていたらしい。

 

「あの連続攻撃。俺たちは絶対に当ててやろうって、それはもう必死だったさ」

「次のフェイクはそうでもないと」

「ああ、実は黒乃も全く攻撃を当てる気はなかった。それに対してお前が取った行動はなんだった? ただ俺たちをみてただけだったな」

 

 当てるつもりの攻撃に、クロエは一応の対処を取る姿をみせた。しかし、自分たちが初めから当てる気のない攻撃に、クロエは避ける態度すら見せないほどだった。一夏はこの差異で全ての謎が解けたといいたいのだろう。そして、それが導く答えとは――――

 

「だからお前は、本当に俺たちがどう出るかが見えてたって結論を出した。それはつまり――――その機体の単一仕様能力で、未来を予知していたからだ!」

「フッ……フフフ……!正解――――大正解だよいっくん!」

(できれば不正解であってほしかったけどな~……)

「正確にいうと、相手の動きを計算して予測する演算能力っていうのが近いんだけどね。凡人が使ったら脳がパンクして鼻血ブーどころか穴という穴から出血しちゃうところを愛娘であるくーちゃんは見事に制御してくれて――――」

 

 簡単に説明するならば、未来を視る能力である。そんな答えに対し、束は心底から愉快かのように正解だと花丸をプレゼントする勢いだ。更にはいかにクロエがすごいかをまくし立てるように説明していき、後半になるにつれ早口になって聴き取り辛い。

 

 そんな束を誰しもが傍観している間に、一夏はやはり姉の言葉が正解だったかと顔をしかめる。あの日保健室にて、恐らくは未来予知だという推測を立ててもらったものの半信半疑だった。だが正解だという答えをもらった今では、クロエが無傷で千冬に勝利したのも頷ける。

 

「パパ、ママ、申し訳ありません。少々動きに露骨が過ぎました」

「更には――――うん? どうしてくーちゃんが謝るのさ。別に答えが割れたところでどーしようもないんだし大丈夫だよ」

「そうだよクロエ。気に病まないで、むしろ堂々としてればそれでいいさ」

「…………はい……!」

 

 そういうクロエはシュンとしているというか、落胆しているということを表に出している。よほど両親とする2人の期待に応えようという想いが強いのか、そのぶん裏切ってしまったと感じてしまうらしい。だが、どうやらクロエの落胆は杞憂で終わったようだ。

 

 束も鷹丸もまるで気にした様子をみせない。束の言葉通り、未来予知の能力が割れたからといってなにも痛いことはないのだ。むしろそんな絶望的な能力を備えているクロエとメタトロニオスをどう攻略してくれるかと期待しているまである。

 

「お時間を取らせてしまいましたね。それでは再開いたしましょう」

「来るぞ、黒乃!」

(うん!)

 

 それまでカウンター気味の戦いしかみせなかったクロエが、ついにその重い腰を上げた。右手にライフル、左手にレーザーブレードを構えつつ2人に肉薄を開始。じゃんけんで例えるのなら後出しどころか先出ししてなおかつ勝てる能力を前に、ひるむどころか挑まねばならないのは覚悟の上だ。

 

(とりあえず黒乃を後ろに――――)

「能力が解かったうえで防御に入るなど具の骨頂。こちらには既に視えているのですよ」

 

 クロエを打倒するためには黒乃が要であるという理由から、一夏はいつでも雪羅の盾を構えられる準備をして前に出る。しかし、クロエからすればその行動も既に把握しているのだ。クロエは前方にレーザーブレードを投擲し、その刀身にライフルの射撃を命中させた。

 

「なっ、これは!?」

(レーザーを拡散させて退路を――――)

 

 刀身にぶつかったレーザーは、あらぬ方向に乱反射しながら2人を襲った。以前交戦したType Fほどではないながら、あまり身動きを獲れない状況になってしまう。しかし、ここで2人が取るべき行動は、多少のダメージを覚悟してでも抜け出すことだった。

 

「そこです」

「くっ……!」

(あっぶ!?)

 

 退路を封じられたところに、一直線に鋭いレーザーが襲い掛かる。ギリギリ触れるか触れないかのところでそれを避けた2人だが、そうなることも既にクロエには視えている。やはり周知されているというのなら、手っ取り早い行動が1つだけある。

 

「イチかバチかだ!」

「視えているので、強いて言うならゼロでしょうか」

「グフッ……!?」

 

 単純にまっすぐ行きさえすれば、視えていようがいまいが関係ない。それは確かに正解なのだが、白式では物理的に速度が足りなかった。肉薄してくる一夏に対し、クロエはピタリと接近するのを止める。そのままグルリとサマーソルトをするかのように回転し、強烈な蹴りを一夏の胴体へ命中させた。

 

 当然ながら一夏は軽く吹き飛ばされ、こうなってしまえば隙だらけだ。クロエは両手にライフルを展開すると、2本の状態から左右を連結させることで1本に。そのまま体勢の整わない一夏にレーザーを発射――――したところで、とある未来が視えて顔をしかめた。

 

「ぐああああ!」

(子供だからってタダじゃ済まさないよ……?)

「やはりですか。確かに来ると解かっていても、避けられなければ意味は無いですね」

 

 吹き飛ばされた一夏と入れ違うように向かって来るのは、鬼気迫る様子の黒乃だ。一夏は無策に突っ込んだのではなく、自分の攻撃に関して未来を視ることを選ばせ、タイムラグを作り出すことこそが目的だった。そう、クロエが視たのは一夏がどう攻めてくるかという部分のみ。

 

 発射のタイミングで再度未来を予知した際には、既に攻撃されている自分が視えていたということなのだろう。刹那の機動力があってこそのものだが、クロエはある種の諦めを覚えた。最適な行動を割り出すことで疑似的な未来を視るという能力のため、一度喰らうと解かったのなら避けるだけ無駄と判断したのだ。

 

(まずはイッチーのぶん!)

「おっ! この流れはまさかまさかの原点になる必殺技きちゃう!?」

 

 距離が詰まり切る前に、黒乃は紅雨と翠雨を投擲。この入りをみた束は、刹那が二次移行する以前において、最大の必殺技だったセブンスソードを繰り出すつもりではと興奮を隠し切れない様子だ。そして紅雨と翠雨はクロエの胴体に命中した。その頃には既に完全に黒乃の間合いである。

 

(これもイッチーのぶん!)

「くっ……!」

(これもこれもこれもこれもこれも!)

 

 近接戦闘の射程距離に収めた瞬間、今度は疾雷と迅雷を抜刀。たとえ未来を視ても反撃をさせないためか、怒涛の連続攻撃でクロエを切り刻んでいく。そしてある程度攻撃を加えたのち、ポロっとてから落とすようにして疾雷と迅雷を手放した。そしてノータイムで叢雨、驟雨を抜刀。

 

 これも同じく手数に任せた攻撃を繰り出し、クロエに反撃の手立ては与えない。いや、そろそろ反撃がどうとかは度外視している可能性も考えられる。この雰囲気をみるに、一夏を傷つけられたせいで冷静さを欠いてしまっているのかも。どちらにせよ――――

 

(イッチーのぶんだああああああっ!)

「うっ……! ダメージ甚大……!」

 

 叢雨と驟雨も手放し、最後のダメ押しに鳴神での攻撃を見舞う。すれ違うかのように長い鳴神の刀身を根本付近から滑らせることにより、より大きなダメージをクロエへと与える。それもただすれ違っただけでなく、黒乃は既に次の一手を打っていたのだ。

 

(震天――――)

「流石にそれは――――」

(雷掌波!)

「やらせませんよ」

 

 すれ違いざまに既に神翼招雷を発動することにより、なるべく隙をなくして高火力の攻撃を撃つ。しかし、クロエは予想よりも早く体勢を立て直し、握った右手のライフルからレーザーを放つ。単発でなく照射されたそれの威力をみるに、恐らくは最大火力だろう。

 

 そして震天雷掌波とビルを軽く消し飛ばすほどの火力のレーザーがぶつかり合い、けたたましい音と眩い光を放つ。一見拮抗している両者のそれだが、どうやら片方のみで撃っているぶんクロエに不利な状態なようだ。徐々に黄金の光が、赤黒い光に押されていくのがみえる。

 

 しかしだ、それこそ未来を視た結果で右手のライフルのみで射撃を行ったのだ。クロエは単一仕様能力を発動させ、より的確な演算処理を行う。そして、左手のライフルを黒乃に向けて構えた。クロエのハイパーセンサーに映るのは、刹那の翼の先端付近――――

 

「これでどうでしょうか」

(っ……!? バ、バランスが崩れて――――キャアアアアッ!)

 

 クロエの取った行動は、ほんの弱い出力でチラッとみえている刹那の翼の先端付近を射抜いたというただそれだけのことだ。だが絶妙なバランスで高火力のレーザーを放つ震天雷掌波発動中には致命的であり、機体安定のためにある雷の翼込みでも刹那の重心は傾いた。

 

 おかげで拮抗していたレーザーも上方にそれてしまう。さすれば黒乃に待ち受けるのは、ライフルの高火力レーザーであった。一応は震天雷掌波は継続中なために反撃などできず、なす術なくレーザーは黒乃を飲み込んだ。刹那は大きく吹き飛ばされ、そのまま地面へ真っ逆さま。

 

「黒乃おおおおっ!」

(あ、あなた……)

 

 吹き飛ばされた先で軽く気絶でもしていたのか、一夏がようやく復帰して姿をみせた。あわや地面に激突というところで黒乃を受け止め、無事に地上へと送り届けることに成功。憎らしい様子で空中へ佇むクロエを睨み付けた。向こうは相変わらず、特になにかを考えている様子はなさそうだが。

 

『ダメージ、与えられたな』

(そうだね……。あなたが隙を作ってくれたからだよ)

『ということは、ある程度の限界とラグはあるってことか』

 

 警戒は怠らないが、一夏は秘匿通信で黒乃に話しかけた。それに関してクロエが行動を起こすことはなく、静観を貫くつもりらしい。未来を視た先で、2人がしばらく棒立ちのままだったからだろう。むしろ相談するなら好きにするといいと、そのくらいのつもりなのかも知れない。

 

 2人の相談している内容は、恐らく今の今まで無傷だったであろうクロエとメタトロニオスにダメージを与えることに成功したことについて。攻撃が成功したということは、未来予知も絶対ではないことを示している。そう一夏はいいたそうだ。

 

 ある程度の限界とは、未来を視るのもずっとずっと先を読むことはできないということ。ある程度のラグとは、単一仕様能力の発動そのものにわずかなクールタイムが存在すること。つまり、延々に遠い未来を見続けることはできないということだ。

 

『ここまで千冬姉の予想通り。だったら後は、秘策をぶちかますのみだ』

(うん、1発勝負で二度目は通じない……。大胆不敵に決めちゃいましょう!)

 

 メタトロニオスに備わっているライフルは火力が高いため、一撃受けただけでもシールドエネルギーの消費が大きい。もちろんバリア貫通や機体そのもののダメージ等々で、長期戦へ持ち込むことは不可能だろう。秘策に関しても初見殺しの要素が強いため、つまりは次が事実上のラストチャンス。

 

(……ねぇ、あなた)

「ん、黒乃?」

「あい……し……て……る……」

「っ!? …………ああ、ありがとうな。俺もだ黒乃、愛してる」

 

 トントンと一夏の肩を叩いて注目させると、相変わらず声も絶え絶えの様子だが、キチンと自らの意志と声で愛してると伝えた。一夏の胸中には、一瞬にして様々な感動が過る。今にも大泣きしそうなのをなんとか堪え、震えた声で同じく自分の想いを伝えた。

 

 一夏の言葉にコクリと頭を頷かせると、互いに右手と左手を取って宙へと浮いた。やがて高度がクロエと同じになるとピタリと止まり、覚悟の決まった様子で佇んだ。相対するクロエはしばらく動く様子をみせなかったが、2人を前にして口を開く。

 

「もう相談はよろしいので?」

「ああ、待たせて悪かった。けど、これで最後だ」

 

 クロエとしては束と鷹丸を楽しませるというスタンスを崩す気がないのか、どうせ無駄だろうけど攻撃しても大丈夫かという旨の言葉を伝える。それに関して黒乃たちが思うところはなく、事実無駄で終わってしまう可能性すらあるのだからなにも間違ってはいない。

 

 ただ、それで終わらせる気なんて毛頭ない。黒乃と一夏は次の一撃でクロエを仕留める気なのだから。そしてそれの前段階となる攻撃を発動させるため、黒乃は神翼招雷を使い放出した雷の翼を取り込むことで4倍まで増幅させた。倍加させたエネルギーを刹那の内部で留め続けるのは自爆を引き起こしてしまうため、これでカウントダウンが始まったようなものだ。そして――――

 

「行くぞ――――黒乃おおおおっ!」

(一生ついていきますともおおおおっ!)

「…………」

 

 2人は手をつないだまま、白式が刹那に追いつける速度をキープしつつ真っ直ぐ突っ込んだ。それを怪訝な表情で眺めるのは、同じくして真っ直ぐ前進を続けるクロエである。もちろん未来予知を発動させて先を読んでいるが、その程度の行動で自分を倒せると2人が思っているのは違和感を覚えるのだろう。

 

(黒乃ちゃん、お願い!)

『任せて! せ~のっ――――』

『(天刺雷掌槍!)』

 

 黒乃は左手をクロエへ向けてかざすと、オリジナルである黒乃と役割分担することで使える天刺雷掌槍を放った。より細かい制御を習得したことにより、グネリと曲がって何度もコースを変えながら細長い雷の槍がクロエに迫っていく。

 

(これが作戦……? いえ、そんなはずはありません――――なにより、あの握っている手になにかあるにはずでしょうから)

 

 今度こそクロエは、解かりやすいほどに顔をしかめた。そもそも天槍雷掌槍を発動するだけなら黒乃だけでも事足りる。となると、京都でみせた白式と刹那による合わせ技がキモだと踏んだ。未来を視ながらしつこく迫る天刺雷掌槍を避けつつ、肉眼で白式の左手を眺める。

 

 するとクロエの想像通り、淡いながら確かに青白い光を放っている。これで黒乃と一夏がなにかしらを企んでいるのは確定だ。ならばその思惑を打ち砕いてやろうとクロエが選んだ行動は、ギリギリのタイミングで未来予知を発動させ、強烈なカウンターを喰らわせてやろうというものだ。

 

 そもそも、メタトロニオスは単一仕様能力の特性からしてカウンター型だ。クロエが今まで無傷でいられたのも、反撃を意識していたからだろう。よってクロエは、あらゆる可能性を考えながら2人を引き付ける。そして、未来予知を発動――――

 

(そんな馬鹿な……!?)

「黒乃、今だ!」

(うん!)

 

 クロエの視たものとは、結局なにもされなかったという意味不明な未来だった。当然のように黒乃と一夏は手を放し、左右へ分かれてクロエの横を通り過ぎていく。それと同時に天刺雷掌槍も消え去ったため、本当になにも起きなかったとていいだろう。

 

(そんなはずはありません……!)

 

 一夏の性格からして、これで最後と銘打ったうえでこの結果はありえないと考える。彼の言葉にハッタリ等々はないという認識のため、クロエは単一仕様能力のクールタイム後即発動させ未来を視た。すると、そこに映し出されていたのは――――

 

「これは……そんなことが!?」

 

 

 

 

 

 

 時はさかのぼって、京都での一件が片付いた頃。黒乃が復帰したということで、対クロエに関する話し合いが行われることになった。未来予知の類であることは既に千冬から知らされているため、専用機持ちたちはみんなして難しい顔を浮かべるばかり。

 

「未来が解かったうえで避けられない攻撃を仕掛ける……とか?」

「シャルロットが言いたいのは、速度的な話と手数的な話だな。前者に関しては姉様が可能としてだ――――」

「あの人たちが……素直に参加させてくれるはずない……」

 

 オズオズとした様子ながら、シャルロットは提案を出してみた。ラウラの細かい解説の通りに単純な速さや手数で攻撃するのが最善手としてだ、後者の手数に関しては人数のことをいっている。簪のフォロー通り、黒乃を除いたメンバーを極力参加させない方針で来るはずだ。

 

 それを始めから解かっていた実の妹である箒、および昔なじみの一夏は眉間に皺を寄せる。黒乃も表情が出はしないが、クロエと1対1で戦わなければならない可能性が浮上したことに戦々恐々としてしまう。終いには、対抗策を誰かが提案するのを祈り始めてしまう。

 

「最悪一夏さんだけでも参戦させる努力をしなければなりませんわね」

「単一仕様能力の組み合わせがいいものね。どうせなら箒ちゃんもだけど」

「まず参加させるための対策を取らねばならないのはしんどいな……」

「じゃあ、こういうのはどうだ――――」

 

 神翼招雷の制御を外部的要因である零落白夜で行えることが発覚しただけに、黒乃と一夏はセットにしておきたいものだ。箒の紅椿もエネルギー増幅と組み合わせはいいものの、半永久的にできてしまうとなると、他のメンバーより参加させてはもらえなくなるだろう。

 

 というわけで、話はいったんいかようにして対クロエ戦に参加するかという部分に。だが誰かが異議を唱えると、また別の誰かが異議を唱えるような状態が続いてしまう。すると、今まで黙っていた比較的に単純な思考を好む少女が我慢の限界を迎えた。

 

「だーっ、もう面倒くさいわね! 要するに視えても防げなきゃいいんでしょ? ならアタシの衝撃砲でふっ飛ばしてやるわよ!」

「「「「「…………」」」」」

「なっ……なによ、なんか文句でもあんの!?」

 

 要するに鈴音がいいたいのは、未来が視えても肉眼で捉えられない攻撃を繰り出せばいいのだということ。甲龍の龍砲から放たれる衝撃波、それは空気を弾として飛ばすために視認は難しい。しかしそんな提案をしてみると、全員が鈴音をみつめて口を閉ざしてしまう。呆れられていると感じたが、そうではない――――

 

「「「「「それだ!」」」」」

「えっ、え? いやいや、アタシとしてもヤケクソのつもりで――――」

「そうか、盲点だった……。確かに見えさえしなければ確実に仕留める方法がある」

「ええ、そうね。これでなんとしてでも一夏くんは参加させなきゃ」

 

 自分のヤケクソ気味な提案に対し、全員が口をそろえてその手があったかといったふうなリアクションをみせた。これには鈴音も困惑するばかりで、そんな馬鹿なと他のメンバーを落ち着かせにかかる。しかし、鈴音は自分の提案した起死回生の一手を取り違えているのだ。

 

「は? 一夏は絶対って、どういうことよ」

「解かって……なかったの……?」

「つまりだな、俺と黒乃で神翼招雷のエネルギーを――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……そんなことが!?」

 

 メタトロニオスの触れるか触れないかの位置で漂っているのは、ハイパーセンサーで捉えることすら難しいレベルの小ささに――――神翼招雷の6倍増幅したエネルギーを、零落白夜で圧縮させた球体である。そう、単純に視認できていなかったのである。

 

 クロエからしたら寸前で二手に分かれただけにしか視えなかった未来だが、その時は既に黒乃と一夏は全ての行動を完成させていたのである。あとはクロエの未来予知発動タイミングによる賭けのようなものだったが、鈴音のような良くも悪くも単純である脳から割り出される作戦など、良くも悪くも頭が固いクロエでは思いつきもしなかったのだろう。

 

 更には、クロエが未来予知に頼り過ぎていたこともある。クールタイムのことを考慮して発動させれば、全てが簡単に見破られてしまっただろう。しかし、クールタイムが終われば即発動を繰り返したことにより、こうしてタイミングを外してしまった。それすなわち、もはや回避は叶わないということ。

 

「まだ……まだです! メタトロニオス! 私に敗北以外の未来を視せなさい、メタトロニ――――」

 

 クロエが先ほど視た未来には、ただひたすら赤黒い電撃が広がる光景しかなかった。やはり回避不能ということはクロエが最もよく解かっているのか、焦りを隠すことができないように悲痛な叫びが響き渡った。そんなクロエをよそに、ついに極小の球体がメタトロニオスの装甲に触れた。

 

 ――――と同時に、凄まじい爆発と共に球体が真の姿を現す。あそこまで小さくしたとはいえ、正体はかなりのエネルギーを割いて6倍増させたレーザーだ。触れた衝撃でその形を保ってはいられず、途方もない雷撃が周囲一帯を包み込んだ。

 

 その中心となるのが恐らくはクロエとメタトロニオスで、あまりの閃光のせいでそれこそ視認なんかは全くできない。仮に悲鳴なんかを上げていたとして、聞き届けることもできないだろう。試験の段階で、アリーナの半分ほどを消し去った威力なのだから。

 

 そんな威力の攻撃を、世界の敵とはいえ子供相手に放たなければならなかった。罪悪感は過るが、だからこそ2人は目を離さずに電撃が収まるのをただただ待ち続けた。その手は再度固く握り合い、言葉はないが安心しろとそう互いに言い聞かせているかのようだった。

 

 

 

 




(勘違い要素は)ないです。


というか、このあたりから勘違い要素をぶっこむ隙がないんだよなぁ。
この回に至っては、クロエがある意味で勘違いしてるといえばしてますが。

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