八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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黒乃視点、かつ正しい時間軸に並べ替えたのが今話です。
先にⅠとⅡを読んでおいたほうがよいかも知れません。


第122話 決戦前日(裏)

(後悔……ねぇ)

 

 今日は1月7日、ついに明日が決戦の日になってしまった。明日に備えて後悔のないよう過ごすようにいわれたけど、そんなもの山のようにあるわ。積んで1度もプレイしてないゲームもあれば、未視聴のまま放置しているアニメだってある。

 

 けどそんなものをたった1日で消費し切れるはずもなく、むしろ私としては勝って帰って好き放題にするんだーって心構えだ。じゃあなにをしようかって話なんだけど、イッチーが朝から出かけちゃって部屋から出るのも億劫でさぁ。

 

 ……ちなみにだけど、別に外出とか制限するほどヤンデレじゃありませんから。拘束するってイッチーのこと信じてない証ですし、既に彼の総ては私のモノですんで。っていうか、浮気とかしてたら雰囲気とか女の匂いで解かるはず。ま、その時はイッチー殺して私も死ぬけどね……。

 

(とりあえず、誰か遊び相手を探そうかな)

 

 このままなにもしないでボーっとしてるとか、それこそアニメとかゲームより始末が悪い。適当にフラついてれば誰かが遊んでくれるだろうということで、すぐさま自室から外へ出た。まずは……あえて遠いところから仕掛けてみようかな。

 

 というわけで、私が目指したのはメインエントランスだ。あそこが出入り口付近となっていて、真っ直ぐ進めばすぐ地上っていう構造になっている。むしろあそこで出待ちとかしてたら誰か通りかかるかもね。なんて思っていたら、いつもと変わらぬポニーテールがトレードマークなモッピーが居るじゃないか。

 

 モッピーは特に何もするではなく、背もたれのないタイプのソファに座って空を眺めていた。ははん、さては私と一緒でなにもすることがなかったクチですな。こういっちゃなんだけど、モッピーは剣道以外の趣味が謎っちゃ謎だもんなぁ……。

 

 さてさて、それはそれとしてだ。そんなボーっとしてたら格好の餌食だぞモッピー。私はモッピーを驚かせる意図で、丸まった背中を背もたれにするかのようにしてソファへ腰かけた。ふむ、背中からモッピーの体温が伝わってなんともいえませんな。

 

「……っ!? 黒乃……」

(へへ、驚いた?)

 

 なんていう感想を抱いていると、モッピーは思惑通りに驚いた様子をみせた。更なる私の思惑としては、びっくりするだろうとかいうリアクションなんだけど……。…………なんだけど、モッピーはまさかのノーリアクションである。あれ、もしかして怒らせただろうか。

 

 いやいや、モッピーはそんなことで怒るほど器量の小さい女性ではない。という確固たるものがあるため、もう少し待ってみるのだが……。うん、やはりひとことすら発さない。……モッピーや、いったいどういうつもりかね。さては我慢比べのつもりかな。

 

 そう思ってもう少し待ってみても、やはりノーリアクション。おかしいなと思いつつ、私は我に返るかのようにして1つの考えが浮かんだ。もしかして、単純に1人になりたかったとかなんじゃないかな。わざわざこんな場所に居たんだし、そのくらいしかないよね。

 

 あー……ごめんね気が付かなくってさ、こりゃ失敗失敗。私は既に邪魔になっているだろうから、自分で考えているよりずっと静かにモッピーの元を退散した。う~む、素直に近場から攻めた方が無難だったかな。近場といえば居住区画かな。

 

 確かセシリーは居たっぽいし、せっかくだし自販機の紅茶でも買ってお邪魔してみようかな。私は居住区画に戻るまでの自販機で紅茶を購入し、いざセシリーの個室へ。インターホンを鳴らしてみると、秒でセシリーが出迎えてくれた。

 

「あら黒乃さん、わたくしになにかご用――――」

(うん、ちょっと遊び相手を探しててさ。はいこれお土産)

「こ、これはご親切にどうも……。さ、お入りください」

 

 にこやかな様子で出迎えてくれたんだけど、紅茶を手渡すとどうも微妙な反応をされてしまう。なぜだと考えていると一瞬にして答えは浮かんだ。それはそうか、セシリーがペットボトル飲料の紅茶なんか飲むはずないじゃない。それ数分前に思いつけや、相手は貴族様やで。

 

 ……つっても渡しちゃったものを返せというのも失礼だし、そのままセシリーの部屋の中へ。テーブルに着くよう勧められたんだけど、なんかガタガタやってるのは気のせいかいセシリー。なんだかこれまたタイミングの悪い時に尋ねちゃったかなぁ。

 

「それで、単にわたくしに会いに来て下さったと解釈してよろしいのかしら?」

「いつも通り」

「そうですか、いつも通りですか。フフッ、そうですわね」

 

 用事を尋ねられたんだけど、別に特別な理由があるわけじゃない。いつも通りに遊びに来ただけですよと伝えると、セシリーはなんだか優雅に微笑んだ。……その微笑みの意味はよく解からないですけど、馬鹿にしてるっぽくはないし問題ないか。

 

 その後はセシリーのために買ってきた紅茶を恵んでもらいながら、適当な世間話をしながら過ごした。お茶菓子も分けてもらったりして、満足なティータイムを過ごしてセシリーの部屋を後に――――って違う。なにやってんの、遊び相手を探そうつってんのに暇してどうすんのさ。

 

 き、気を取り直して次だ。ふ~む……扉の様子を観察するに、シャルとかんちゃんは外出していないようだ。なら次はなんとなくだけどシャルを訪ねてみようじゃないか。セシリーの個室を訪問した時と同じく、インターホンを勢い良く押してみる。

 

「わっ、はーい、今出まーす! よいしょ……っと――――ああ黒乃、いらっしゃい」

(やっほー)

 

 ドア越しに声が聞こえてしばらく、シャルは私をにこやかな笑顔で迎えてくれた。可憐といえばいいのか、この子の笑顔は凄まじく癒される。まぁ、一時期というか男を捨てる前はマイエンジェルとか呼んでたもんなぁ。今後この笑顔を向けられるであろう男は、きっと心底から幸せなことだろう。

 

 シャルの部屋にお邪魔した私は、世間話に終始した。内容は女子特有というか、セシリーと大して変わらないんだけどね。でもファッションとかっていうのは個人差があるもので、シャルが欲しがっている物のセンスはセシリーとだいぶ異なる。

 

 私に似合いそうだと勧めてくる物も違いが出ていて、このあたりをしっかり観察すると面白いものだ。喋ることができないぶん、深く相手のことを考える癖がついているみたい。だからって研究材料っていうことでもないんだけどね。

 

「――――そうそう、冬休み前くらいから美味しいハーブティを見つけたんだよ。今までタイミングがなかったから、ぜひ飲んでいってよ」

(あ、いやいや、お構いなく――――)

 

 すると、シャルは急に思い出したかのようにパッ表情を明るくした。いいことを思いついたっていう反応なんだろうけど、私はさっき紅茶を飲んだばかりだ。厚意は受け取るにしても丁重にお断りしようと思ったが、シャルは既に台所に立ってしまう。

 

 シャルが台所を物色している最中、ふとベッドに置きっぱなしの携帯がチィロンと着信音を鳴らせた。思わず上から覗き込んでみると、私の身体には稲妻が走ったかのような衝撃が轟く。こ、こここ……この内容は、彼氏的などなたかからの着信では!?

 

 いや、だって登録されてる名前が明らかに男だし、送られてきた文章も冬休みも最後だから会えないかって感じだし。ちょいと指で上方にフリックしたらなんか終始イチャイチャしてる感じだし……。私の居る世界観は原作じゃないのが確定したとはいえ、まさかこんな形で改変の影響が出てるとは。

 

「わ……わーっ!」

(わーっ!?)

「み、見た……?」

「見た」

 

 あまりの衝撃に打ち震えていると、シャルはダイビングヘッドスライディングで携帯を奪取。おっと、これはデリカシーのないことをしてしまったな。だからこそ見たかどうかの質問には素直に見たと答えておいた。それでも許されざる行為だろうけど。

 

「…………彼氏?」

「え、えーと、まだそうではない……かな」

 

 ……といいつつ、真偽が気になり過ぎて思わずそう問いかけてしまう。シャルも隠すだけ無駄と判断したのか、苦笑いを浮かべながら白状してくれた。どうやら友達以上恋人未満のようだけど、どちらかが告白したら即オッケーっぽいなぁ。

 

(そっかぁ~……)

「え? ちょっと、なんで黒乃が落ち込んでるの?」

 

 いや落ち込んでいるっていうか、いろいろと複雑といいますか。私が精神的に男だった頃となると、割と本気でキミに恋してましたもので。もっというなら前世から恋してたとかいうサイコパスまっしぐらな状況だったせいか、項垂れるのを止めることができなかった。

 

 

「違うよ黒乃」

(ほえ?)

「僕が好きでそうしたんだ。この選択に後悔はないよ」

 

 ぬふぅーし!? シャ、シャルさんや、どうして私にとどめになるような言葉を贈るのでしょうか……。そ、そうですか、そんなに好きですか……。ならもう私になにもいうことはない。いや、むしろ私からはこの言葉を送らせてもらおうじゃないの。

 

「…………幸せに」

「……うん! キミらに負けないくらい幸せになってみせるから!」

 

 私とイッチーが交際を始めても、みんなは祝福してくれた。ならば、私がすべきはみんなのどんな恋だろうと応援してあげることだろう。シャルの肩を掴みながらそう告げると、とても嬉しそうに微笑む姿が映る。うんうん、キミは本当に幸せになるべき人だよ。

 

「ごめん黒乃、僕出かけてくるね! あまり遅くならないようにはするから!」

 

 そういうと、シャルは部屋を飛び出して行ってしまった。おろ、なんだか自然にキューピットになっちゃった感じかも。ハッハッハ、それなら結構。ハッハッハ、グッバイ初恋……。いや、うん、男としてのね、うん。私の初恋はイッチーですから、はい。

 

 さて、だがこれでまた暇になってしまったぞ。私もシャルの部屋から出ると、人を求めて周囲を見渡した。ふむ、どうやらかんちゃんも部屋にいるご様子。なんだかたらい回しな状態だけれど、せっかくだし相手をしてもらおう。というわけで、かんちゃんの部屋のインターホンをポチっとな。

 

(どうもどうも)

「く、黒乃さま……じゃなて、黒乃……」

 

 ……かんちゃんが出迎えてくれたわけだけど、やっぱ小さく様って呼んでないかな。だとしてなんなのだろう、どういう意図があってなのだろう。別に同い年の小娘を尊敬してるってことはないと思うけど、それ以外ならやっぱり怖がられて下手に接してるのかな。

 

「あ、あの……とりあえず入って……。それで……その……適当な場所に……」

(わ、解かったよ。ありがとう)

 

 かんちゃんの所作はなんだかぎこちなく、目に見えて緊張しているのが伝わってきた。なんだか申し訳ない気分になりつつ、一応は入ってといわれたので従うことに。そして適当な場所に座るよういわれたので、私は真っ直ぐ目指したベッドに腰を下ろした。

 

「えっと……お茶とかお菓子とかは……?」

「なにもいらない」

 

 かんちゃんは、相変わらず緊張した様子でそう問いかけてきた。明らかに気を遣っているようだし、さっきもいったがセシリーのところで紅茶を頂いたばかりだ。それゆえのなにもいらない。だったのだが、かんちゃんはガクッと肩を落とす。

 

 もしかして、機嫌を損ねたと思わせてしまったかな。だとするなら、私が気を遣ってなにか頂くべきだったかも知れない。か、かんちゃん、そ、そんなに考え込まなくてもええんやで。ほらほら、私はお話できれば満足だから隣に座りんさいね。

 

 そうやって隣付近をポンポンと叩いてみると、かんちゃんは凄まじく恐縮した様子で座った。いや、ここ貴女の自室で……って、顔を俯かせて黙ってしまったじゃないか。モッピーの時とはまた状況が違うけど、これはこれで耐えがたい。

 

(う~ん……このまま怖がられっぱなしは困るよなぁ)

「あ……。そ、そういえば……なんの用事で……」

「勇気を出して」

「!?」

 

 なんて思いながらかんちゃんをジッとみていると、自分から切り出さなくてはならないのを思い出したのか、私に用事を訪ねてきてくれた。その質問の回答からは少しズレるけど、そんな怖がらなくてもええんやでという意味を込め、勇気を出してとアドバイスしてみる。

 

 するとかんちゃんは驚いた感じのリアクションをみせるけど、私がそんなことをいうのがそんなにも意外かね。……ダメだこれ、退散した方がいい。こう、まずグッと距離を縮ませようとしたのが間違いだった。私は立ち上がり暇することに。

 

「あ……あ、あの……!」

(いざ、さらば)

 

 優しいかんちゃんは私を引き留めようとしてくれたみたいだが、今回は完全に私が悪いからまたにするよ。けど、いつか絶対に心を開いてもらうから。という意味を込め、サムズアップをみせながら部屋を出た。……あれ、なんか前もこんなことをしたような気がするけど……気のせいか。

 

 う~ん、じゃあ次は出かけている人を探しにでも行こうかな。もちろん、この地下施設内に居ればの話だけど。そんなわけで遊戯関係の区画に歩を進めてみると、早速ラウラたんの背中を発見した。これから遊びに行くのか、それとも散歩かな。

 

 どちらにしたって相手はしてもらえるだろうし、こちらも早速……。そういえば、さっきは気配を探知してもらえなくて悪戯に走ってしまったんだったかな。ならば、むしろ私はここだぜと自己主張しながら接近を試みてみよう。動きがうるさいとツッコミを受けそうな動作をしつつ、いざラウラたんの肩に手を――――

 

 置いた瞬間、私の足は地面から浮いた。おまけに景色が凄いスピードで逆さまになったのをみるに、どうやら私はラウラたんに投げられたらしい。……なんで!? まだ私なんも悪い事してませんけど! なんて空中で考えてるけど、このままいくと背中を叩きつけられてしまう。

 

 それはご褒美以外のなにものではないのだけれど、いきなり人を投げるような妹を持った覚えはないぞ。というわけで、黒乃ちゃんのボディスペックをフルに活用、逆さまな状態のままラウラたんを掴んだ。そして体勢を整えると、見事に着地しつつ反動を利用してラウラたんを投げ――――はしないんだけどね。

 

「姉様……。申し訳ない、反射的に投げてしまった」

(は、反射的って……)

 

 ラウラたんを離してみると、反射的に投げちゃったとのこと。軍人特有というか、やっぱり達人の域まで辿り着くとそうなるのだろうか。そういう境地には永遠に辿り着けないだろうというか、反射的にイッチー投げちゃうとか最悪なので御免被る。

 

「だが、今の殺気はなんなのだ? いくら姉様とて、事情を問いたいものだが」

 

 さ、殺気? 殺気って、いったいラウラたんはなんのことをいっているのだろう。無表情から繰り出すシュールな動きのことは違うだろうし、なんたってそんな殺気とか……。ラウラたんは中二病とかではなく素でこんな感じの子だから冗談とは考えにくい。……意味は解からないけど、とりあえず乗っとくか。

 

「油断大敵」

「なっ……!?」

 

 いけないぞラウラ=サン、そんなことでは! という感じで、むしろ師匠気取りでそんなことをいってみる。瞬時にラウラたんはなにいってんだこいつみたいな反応をみせるが、まぁそりゃそうだよねって感じ。でもラウラたんの殺気発言もこっちからしたらなにいってんだって感じで――――

 

「なんということだ……」

(なんということだ、とは?)

「なんということだ! 姉様の妹を名乗らせてもらっているというのに、どうやら精進が足りなかったようです!それに比べて姉様はまさに常在戦場の極み。感服いたしました!」

 

 えぇ……? ラウラたん、まさか私の師匠気取りを本気にしたわけじゃあるまいね。常在戦場の極みとか、私からは程遠い言葉だぞ。だって、実際の戦闘になっても油断してるくらいなんだもの。気を回してるのは刹那の操作に関してっていうか。

 

「姉様のおかげで目が覚めました! 私はこれで失礼します!」

 

 あ~……いやいやいやラウラたんこれマジの奴だ。私が引き留める暇もなく、ラウラたんはいずこかへと走り去ってしまった。この調子なら後で武道場なりに行くのかも。……後で覗いてみることにしよう。なんだかこのまま放置しておくのは忍びない。

 

 ラウラたんの様子をみるのはまたにしておいて、それまでどこかで時間を潰すことにしよう。というより、主目的は暇をつぶすことなんだけどさ。じゃあ次は鈴ちゃん、もしくはたっちゃんを探してみようかな。あの2人なら、運動ができるスペースに居る可能性が高いかな。

 

 そのまま真っ直ぐ体育館を目指してみると、ダムダムとボールをつくような音が微かに聞こえてきた。どうやら鈴ちゃんがバスケットボールで遊んでいるらしい。誘ってくれればいくらでも付き合うというのに、1人で随分と寂しいものだ。

 

 よーし、それなら私も混ぜてもらおうじゃないか。こと運動においてはおっぱいが揺れて痛かったりするけど、お互い暇なんだからWin―Winってことで。なんて考えながら小さな背中に近づいていくと、鈴ちゃんは全力の様相でボールをバックボードへぶん投げた。

 

 跳ね返ったボールはワンバウンドで私に向かって飛んでくる。反射的に構えた両手でなんとかキャッチしたが、ビリビリと痺れるような衝撃が走った。あふぅ……これがまた私的にはご褒美――――ってそんなことは後でもいい。ボールを受け取ったからにはだ。

 

(シュート!)

「黒乃……」

 

 小学だったか中学だったかで習った綺麗なシュートフォームを思い出しながら、ゴール目がけてジャンプシュートを放った。ボールは我ながら上手い感じで飛んでいき、ゴールネットをかすれながらリングを通過していく。位置からしてこれはスリーポイントシュートってやつだね。

 

 すると鈴ちゃんはニッとしたような笑顔をみせ、地面で跳ねるボールを回収。ボールをドリブルしながらこちらへ迫ると、小さく腰を落とすようにしながら私の前に立ちはだかった。表情が相変わらず楽しそうなのをみるに、1on1で遊ぼうということらしい。

 

 うむ、勿論だとも。こちとらそのつもりでここに来たのだし、なにかしら遊んでいかないと嘘だ。というわけで、私たちのガチンコ1on1が幕を開けた。だが鈴ちゃん、勝負事となると手加減はするつもりはないぞ。なににおいても負けては悔しいですから。

 

 私は体格の有利および黒乃ちゃんのボディスペックをフル活用し、鈴ちゃんに優勢な時間を与えないほどだ。特に点を数えているわけじゃないけれど、圧倒的な差がついていると思う。そうやってゲームを続けていると、先ほどまで元気に私を追い回していた鈴ちゃんの足が止まった。

 

「ア、アンタねぇ……ちょっとは手加減しなさいよ……!」

(あちゃぁ、ちょっと頑張り過ぎたか)

 

 鈴ちゃんは膝に手を着きながら、ぜぇぜぇと肩で息をしている。運動はできる方だけど、流石に黒乃ちゃんスペックにはついてこられないらしい。ならばと休憩を提案しようとしたのだけれど、それどころではなくなってしまう。なにせ、顔を上げた鈴ちゃんは――――

 

「覚えときなさいよ……!」

(ん……?)

「貸しも借りも、全部キッチリ返すんだから! 覚えときなさいよ!」

 

 そう叫ぶ鈴ちゃんの頬には、みたら解かるほどに大粒の涙が伝わっていた。驚いて引き留めようとしたがもう遅く、鈴ちゃんは走り去ってしまう。……もしかして、ホントに手加減がなさ過ぎて泣かせちゃった? 嘘でしょ、あんなに泣く姿は初めて見るってくらいの感じだったぞ。よほど悔しかったのかな……。

 

 う~む、これはなんとも後味の悪い。完全に私が悪いんだろうけど、明日のこともあるのに少し気まずいぞ。……今はそっとしておくとして、時間をみつけて謝りにいくとしよう。とりあえず、ボールを片付けて私も他の場所に移ろうかな。

 

 ん~……なら、そろそろ武道場を覗いてみることにしようかな。ラウラたんが空回りしてなければいいけど、なんて思いながら足を運んでみるも、そこにいた人物は目的の者ではなかった。あの外はねで水色の髪は、たっちゃんじゃないか。様子をみるに、型の確認かなにかをしているらしい。

 

 こうしてみると、やっぱりたっちゃんも凄い人なんだと思う。普段はどこまで本気か解からないような人物像だけど、真剣な表情のたっちゃんは雰囲気からして別人のようだ。楯無を名乗る重責がどれほどのものかなんて計り知れないけれど、やっぱ宿るカリスマは本物なんだろうね。

 

 しかし、こうも真剣になられると一気に話しかけにくくなってしまった。私の場合は先ほどのラウラたんのように、肩を叩く等で相手に接触を余儀なくされる。けど、流石に日に2度も同じことは起きないでしょう。近づいたら気配で気づいてくれるよね――――と思っていたんだけれど。

 

「はぁっ! って、く、黒乃ちゃん!?」

(フラグでしたか、そうですか)

 

 たっちゃんは寸前まで私のことに気が付かなかったのか、上段回し蹴りを放つ際に振り返ってようやく存在を知ったらしい。危うく顔面を蹴り飛ばされそうになったけど、そこはゲーマー特有の反射神経をもってしてガード。たっちゃんの足を腕で防ぐことに成功した。

 

「黒乃ちゃん、ごめんなさい。けれど、気配を消して近づくのは止めてね。今みたいに危ないわ」

(いやだからさ、もうどうしたらいいの)

 

 存在感を醸し出しながら近づいたら殺気がどうのいわれ、普通にしてみたら気配を消すなといわれ。もはやどうしながら近づいたらいいか解かりませんぜ。確かに今回の場合は不用意に近づいたというのはあるから、一概にたっちゃんを責めていい話ではないのだけれど。

 

「ところで、私になにか用事かしら?」

(用事……用事ね)

 

 たっちゃんは思い出したようにいうが、実際は特別なにかあるわけではない。強いていうならラウラたんを探しに来たんだけど、この様子なら立ち寄ってはいないのだろう。え~っと、だからこの場合はなんていえばいいのかな。まぁいえればだけど――――

 

「理由なんてない」

「っ……!?」

 

 特に理由はないというのは正解だが、これは表現が悪かったかも。別にアンタに用事なんかねーよ、ペッ! ……的な取られ方をしてもおかしくないんじゃないかな。しまったぞ、そのことに発言してから気が付いた。失礼なことをしたと内心でオロオロするしかない。

 

「黒乃ちゃん」

(な、なんでしょう……?)

「ありがとう、大好きよ」

 

 名前を呼ばれたから説教でも始まるんだと身構えていると、突然柔らかい感触が私を包んだ。たっちゃんが私に告白しながら抱き着いてきたから。その好きが友人としてというのは理解してるけど、あまりにいきなり過ぎませんかね。話の流れがおかしいといいますか……。

 

「せっかく会いに来てくれて嬉しいけど、お姉さんもう行くわね。それじゃ!」

(あ、うん。それじゃ)

 

 私はクエスチョンマークを浮かべるばかりなのだが、意味の解からないうちにたっちゃんは去ってしまった。……みてないのは解かっているけど、一応はラウラたんの居場所を質問しておくべきだったかな。……まぁいいか、ラウラたんだって子供じゃないんだし、そんな心配ばっかしてても仕方ない。

 

 それに明日が決戦なのは解かっているだろうから、そんなにまで無茶はしないだろう。となると、全員に会ったのにあまり時間を潰せなかったが、このまま大人しく自室に戻ることにしようかな。戻るまでに誰かに声をかけられたら御の字というか、そういうスタンスで。

 

 でも結局は戻るまでに誰にも遭遇せず、私は半ばヤケクソでベッドに入るしかなかった。なにもするでもなくボーっとしていると、だんだんとまどろみが私を支配していくではないか。だ、だから……昼寝は1番無駄な時間の使い方だって……ぐぅ……Zzz……Zzz……。

 

 

 




黒乃→よしよし、少し悪戯してみよう!
箒→あぁ、またこうして寄り添ってくれるのか……。

黒乃→ほいセシリーこれ、お土産ね
セシリア→失態を見透かされた気分ですわ……。

黒乃→シャルに彼氏……。なんかショックな私がいる……。
シャル→巻き込んだなんて思うなんて、黒乃は水臭いんだから。

黒乃→相変わらず怖がられるなぁ……。
簪→黒乃様が……いつも私に勇気をくれる……。

黒乃→油断大敵だぞラウラたん! まぁ冗談だけどね、ハッハッハ。
ラウラ→流石は姉様、常在戦場の極み!

黒乃→げっ!? 鈴ちゃん泣かせちゃったかなぁ……。
鈴音→アタシもかなり黒乃が好きねぇ。

黒乃→気配? 別に消した覚えもないけど……。
楯無→私が気づけないって、相当よ黒乃ちゃん?



一夏については独立した話を設けています。

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