原点回帰といってもいい回かも知れません。
「よーし、今日も早速始めっぞー」
「そうはいいますけど、いったい着替えもしないでなにをするんですか?」
打倒クロエに向けた近江重工地下空間での生活2日目、専用機持ちたちは会議室に集合をかけられていた。時間通りに来てみれば待ち受けていたのは藤九郎で、初日に仕掛けられた耐久戦のこともあるのか、露骨に怪訝な反応を見せる者もいた。
そんな視線は軽くスルーし、藤九郎は適当な挨拶をかけた後に早速本題に入る。が、すかさずシャルロットが素朴な疑問を投げかけた。そう、専用機持ちたちはISスーツに袖を通していない。むしろ私服で集合と連絡をもらったくらいだ。すると藤九郎は、いい質問だと言わんばかりに頬を釣り上げた。
「昨日の今日で大暴れしろとは言わないさ。だから、今日は頭を使ってもらおうと思ってな」
「おじ様の後ろのこれ見よがしなモノがそうってわけ?」
「カッカッカ!まぁ見るからに怪しいわな。そうだぞ鈴ちゃん。そんでこいつの正体は……っと!」
藤九郎の背後には、机にクロスをかけて隠されたなにかが陳列されていた。あえて誰もツッコミを入れなかったわけだが、ここで来たらもはや同じこと。鈴音がピッと指差しながら示してみれば、藤九郎は一気にクロスを引きはがした。机の上に乗っていたものの正体とは―――
「将棋、囲碁、チェス、それにオセロか……。ドイツ出身としては物足りん気もするな」
「ボードゲーム大国だもんね……」
「それで、これがどうしたというのです?」
「これのいずれか自由に選んでオジサンと勝負だ」
各種ポピュラーなボードゲームが並べられており、今日の内容はいずれかで藤九郎と勝負することだという。京都においてマドカと戦闘を行わなかったメンバーは、鷹丸が呟いていた言葉を思い出した。ボードゲームの類では1度も父に勝ったことがない。あの鷹丸が確かにそういっていたのだ。
あの鷹丸を推して勝てないということは、自分たちに勝機はないも同然だろう。だとすると、どういう意味でボードゲームなのだろうか。オセロなんかは単純なようで奥が深いわけだが、将棋やチェスのように戦略を練るようなものともいい難い。
「昨日みたく、実は真意がってパターンかしら?」
「いや、そういうのでもねぇ。目的としちゃ主に2つだな。まず1つ目は、お前さんらの考え方の癖や判断力を見極めたい」
「俺たちの?」
「おう、それが解かればオジサンがアドバイス出来ることも増えるかも知れないしねぇ」
十人十色だとか千差万別だとか表現するように、人間とは1人1人考えが全く異なるものだ。藤九郎はボードゲームでだいたいを読み取ることでもできるのか、これを選んだのだという。それを聞いた時点で比較的に考えるのが苦手な方のメンバーは少しばかり顔をしかめた。きっと単純だと思われるとでも想像しているのだろう。
「んでもう1つは、まぁ面談とでも思ってくれや」
「そちらも意図を聞いてもよろしいか?」
「意図……っつーかだな、普通に会話を重ねようってだけのことだよ」
藤九郎が面談という言葉を持ち出すと、箒が訝しむような様子で問いかける。単に鷹丸の父親であるという点で警戒しているというのもあるだろうが、藤九郎単体でも箒としてはいまいち信用がならなかった。そういう印象を抱く人物が真っ当なことをいうと、相対的に怪しく聞こえてしまうのかも知れない。
だが藤九郎には本当に意図らしい意図もなく、だいたい言葉通りでしかない。これを期に親睦を深めようということもなく、ましてや信頼できる人物だと思わせる気でもなさそうだ。だが確かに藤九郎の言葉にも一理あり、単に言葉を交わすのも重要なことだろう。
「んじゃま、質問ねーなら始めっか。オジサンここ待機、お前さんら適当に順番決めて1人ずつ入ってな。待ち時間は適当に過ごしてくれぃ」
「えーっと、適当にじゃんけんとかでいいよな」
「人数多いから、初めはグーとパーだけでいきましょう」
そういいながら藤九郎はすぐに始められる準備のため、将棋とチェスの駒の配置を始めた。パチパチ、コトコトと音が響く最中、一夏が音頭を取って簡単にじゃんけんでの決定ということに。すかさず楯無も助言をするかのように、グーとパーでの分割方式へ舵を取る。
そうして組み分けが進んで行き、だんだんと順番が確立されていく。1番最初の相手はシャルロットということになり、それ以外のメンバーはぞろぞろと会議室から出て行った。なんだかんだでシャルロットも藤九郎と2人というのは不安が残るのか、少しばかり遠慮がちにみえる。
「さてシャルロットちゃん、どれをご所望かな?」
「そ、それじゃあ、えーっと……オセロでお願いします」
「ん、意外だな。オジサンてっきりチェスでくるかと思ってたぜ」
「あはは……。できたらかっこいいんだろうなーとは思うんですけど、思うだけであまり興味はなくて」
シャルロットはずらりと並んだボードゲームを眺めると、その中でルールは最も簡単であろうオセロを選んだ。ヨーロッパ圏出身であり、なんとなくキャラに似合うチェスでくる算段だった藤九郎。別に予想が外れたからといってなにがどうということではないのだが。
そうしてオセロはすぐさまスタート。藤九郎はレディファーストだということで先攻後攻をシャルロットへ選ばせた。レディファーストなんていっているが、ここでどちらを選ぶかもキチンと見るつもりなのだろう。それを理解しつつ、シャルロットは先攻を選択した。
「あの、よろしくお願いします」
「おう、よろしく。しかしまぁ律儀だねぇ」
「そうですか? なんか変に習慣づいちゃったのはあるかも知れませんけど」
特になんていうことはなく、終始和やかなムードで対局は進んで行く。藤九郎も相手を煽るような発言はなく、振る話は本当に世間話くらいのものだ。ただし、盤上は常に藤九郎の有利で進んで行くが。やるからには負けたくないという気持ちのシャルロットだったが―――
「ん~……慎重が過ぎて、何度かチャンスを逃してるねぇ。誘いと思って乗って来なかったか? こことか」
「へ? あ、えっ、あぁ……き、気づきませんでした」
「そうか、まぁ視野が狭いっつーよりは狙いすぎだな。そこさえ治しゃ問題ないですよ……っと」
「あっ!? う、うわぁ……一気に真っ白だ……」
手を抜いていたといわれればそれまでだが、藤九郎は盲点を突くかのようにあえてつけ入る隙を作っていた。しかし、シャルロットが意図的な隙に気づくことはない。要するに慎重という評価を下しつつ、藤九郎は白の駒を一手。すると、逆転の可能性がみい出せない程に盤面は白に染まっていく。
その後何手づつか繰り返し、そのまま盤面は埋まり切る。勝ち負けはあまり関係ないにしても、見るからに惨敗してしまいシャルロットは肩を落としながら次の者と交代した。お次は鈴音、選んだのはオセロ。たびたび周囲の人間が将棋を指しているのは見たものの、シャルロットと同じく興味までは湧かなかったらしい。
「パワー押しなのはいいけどね、ちょっとは辛抱強くするのも覚えた方がいいな」
「…………待ったなし?」
「待ったなし!」
調子よく藤九郎の持ち駒を手中に収めていた鈴音だったが、それもまた藤九郎の策略であった。要するにひっくり返させておいて、後から一気に奪う戦法だ。あまりにも見事に引っかかってくれただけに、流石の藤九郎も苦笑いしながら一手を指した。
……と、このような感じで、次々と専用機持ちたちは手玉に取られていく。例えばラウラ、選んだのはチェス。
「流石は軍人、臨機応変かつ練られた戦術が見て取れる。……が、その分セオリー通りともいえる。奇を狙うのもまた大事だぞ」
「しまっ……!?」
例えば簪、選んだのは囲碁。
「見た目に反して負けず嫌いか……。ま、次はもう少し冷静にな」
「……参りました……」
例えばセシリア、選んだのはチェス。
「お行儀のいい指し手だねぇ。ポリシーに反しようが、勝つ為の手は妥協しない方がいい。こんなふうに、捨て駒だとかな」
「ま、参りましたわ……」
例えば楯無、選んだのは将棋。
「こりゃまぁよく似た姉妹なもんで。妹ちゃんと反省点同じ! 切り崩されてから冷静にだ」
「ちょっ……と待って! もう一局! もう一局だけ勝負して!」
例えば一夏、選んだのは将棋。
「意外にも消極的だねぇ。努めて冷静にしようとしてるのが解かるぜ。難しい方に考えず、もちっと伸び伸びやってみな。ま、自分のダメなとこ自覚してんのはいいこった」
「ぐ!? う、裏目かよぉ……」
例えば箒、選んだのは囲碁。
「……マジで文句のつけどころがねぇかも」
「それは……ありがとうございます」
「おう、普段からもっと生かそうな」
「根本的な問題だった……!」
8名との対局の感想はどこか厳しいものだが、それぞれがなんとなく自覚していた問題点が多く含まれていた。このボードゲームには、それを再確認させる意図も含まれているのだろう。だが、次の相手は藤九郎とて一筋縄にはいかない。なにせ、本人の意志ですら顔色1つ変えることができないのだから。
(お邪魔しま~す)
「よう、悪いな嬢ちゃん、随分待ったろ? けど、一気にやっちまわねぇとオジサンも忙しくってなぁ」
(いえいえ全然! ため込んだアニメとかもありますし)
オセロは比較的に早く済むが、流石に将棋、囲碁、チェスはそうはいかない。確かに順番が最後になった黒乃は長時間待たされたが、その間自分が眠っていた時期に放送されていたアニメを消費するにはちょうどよかった。とはいえ、猛勉強もありまだまだ沢山あるようだが。
「そんじゃ、どれで対局だ?」
(う~んと~……それじゃぁ……)
黒乃は比較的に考えることが苦手である。それは本人が最も理解しており、若干のコンプレックスすらあるほどだ。だからこそ選ぶべきはシンプルなオセロ―――なのだが、それは悪癖故に選択されることはなかった。よって、黒乃が指差したのは―――
(将棋で!)
「ん、将棋な。持ち時間だの難しいことは省いてっから、ゆっくり考えて指してくれや」
その悪癖とは、要するに見栄っ張り。なんだかシンプルという理由で選ぶのが格好悪いような気がしたので、一応はルールと駒の動かし方を把握している将棋を選んだのだ。ただし、こういう場合は選んだ途端に止めとけばよかったとか考えているのがだいたいのパターンだったりする。
「そうだねぇ……先攻後攻は、まぁオジサンが先でいいか?」
(全然いいです、はい。どうせどっちが先でも私の負ける未来しかないんだし……)
黒乃が自分の思う通りに会話ができないという事情を鑑みてか、藤九郎は自らが先に始めるということを提案した。黒乃も問題なくそれに同意し、いざ対局がスタート。面談という意味も含まれているせいか、藤九郎は早速トークに入り始める。
「ここでの生活はどうだ。特に不便がなけりゃいいんだが」
(ないです。……というか、なんで地下施設なのに個室があんな豪華なんですかねぇ?)
文句なんて見当たるはずもなく、黒乃は即座に藤九郎の心配を否定した。というのも、まさにVIPとしか表現のしようのない待遇を受けているからだ。居住スペースを除いた施設もまた豪華であり、黒乃たちはみなリゾートやアミューズメントな気分に浸ってしまいそうになってしまう。
「そうか? まぁオジサン的にも、嬢ちゃんと坊主周りには気ぃつかったんでなぁ」
(いらない心配を……とは言えないか、おかげで私もウハウハですし)
藤九郎は表情を意地の悪いものに変えると、2人の間柄を考慮したと告げる。一夏と黒乃の部屋は当然のようにひと部屋をあてがわれ、各種内装はまるで新婚夫婦が住むにふさわしいような有様。訪問当初は少しばかり困惑気味だった2人だが、美味しい思いをしているのも否定できなかった。
その最も解かりやすい例えは寝具。要するにベッドだが、サイズはダブルベッドの仕様。交際が始まってからは学園でも添い寝がデフォだったが、窮屈というほどでもないが些か狭いのは否定できない。むしろダブルベッドで添い寝をしてみて、その快適さを知らしめられたというべきか。
あまりにも快適なため、自宅の方の改装計画が進行していたりする。自宅となると部屋は別々だが、どこか空いている部屋を寝室にしてダブルベッドを配置だとか。何気に藤九郎は、一夏と黒乃が先のことを考えるのに一手担っているのかも知れない。
「…………」
(ありゃ、オジサン長考? 適当に指してるからそう考えることもないと思うんだけど)
その後も黒乃が回答できる範囲の世間話を続けつつ、将棋の方も進行が続く。しかし、その時である。突如として藤九郎が黙り込み、真剣な眼差しで盤面を見つめるではないか。形勢をいうのなら圧倒的とまではいかないが、藤九郎の方が押している。それだけに、黒乃は不思議でならないようだ。
(打ってもまるで響かねぇ……。誘いに乗るでもなければ、逆に仕掛けてくることもねぇ。んな妙な将棋は初めてだ……。まるで軟体動物に関節技でも仕掛けてる気分だぜ)
どうやら藤九郎は、黒乃の指し手について違和感を覚えているようだ。この場合はいつものパターン、深読みされ過ぎという奴である。本人は適当に指しているのだが、藤九郎の頭にはそんな考えはない。いや、むしろ誰だろうとなにかの狙いがあってそうしていると解釈するだろう。
それだけに、考えても考えても黒乃がどういうつもりで駒を進めているのかがまったく読めない。安心してほしい、最初からなにも考えていないが、持ち前の豪運で好手ばかりに転んでいるだけである。更に他人の考え過ぎが加えられ、こうして黒乃は凄い人物だと思われてしまう。
(仕方ない、様子見なんぞは柄じゃねぇんだが)
(おっ、そう来ますか。そいじゃ私は~っと―――)
あまりに不可解であることに気づかされたせいか、藤九郎が選んだ手は様子見だった。ここで一手だけあたりさわりもない駒を動かし、次の黒乃の一手で狙いについて大まかな認識を作るつもりなのだろう。そんな藤九郎の思惑も知らずに、黒乃は次に動かす駒のチョイスを始めた。
(ふ~む……どこに指しても似たようなもんじゃん。……おや……?)
自分が指した後の藤九郎の動きも考慮しつつ盤面を見渡すが、黒乃からしてどれもいまいちピンとくるものではなかった。そんな時、黒乃の目に留まった駒が1つ。その視線の先にあるのは、トリッキーな移動がおなじみの桂馬である。駒を飛び越えて両斜め前奥に移動が可能。
(変な動き方で扱いづらいけど、逆にちゃんと扱えたらなんかカッコイイ気がするんだよね~)
他の駒は割とシンプルな動きをするものが多い。飛車と角はそれぞれ十字、斜めにどこまでも移動できる。香車なんて成るまでは真っ直ぐにしか進めないというシンプルさ。それと比べると、確かに桂馬の動きは特異に感じられるだろう。
ゆえに扱いこなすことができれば上級者という印象でもあるのか、黒乃は内心で棋士が桂馬を使って王手を取るイメージを湧かせた。というわけだ、これだけで黒乃の次に指す手が決まった。黒乃は桂馬を手に取ると、右斜め前奥へとパチンと勢いよく指してみせる。
「…………!?」
(え、え? なにオジサン。もしかして反則とかだったかな……)
「……おっと、驚かせちまったか? 悪いな嬢ちゃん」
黒乃が桂馬を指した次の瞬間、藤九郎が盤面へ詰め寄った。その勢いがあまりにもよかったせいか、机や椅子をガタガタと鳴らして黒乃を驚かせてしまう。これを自分が反則行為を働いてしまったのではと思った黒乃だったが、そんなもので済まされることではなかった。
(やられた……! あまりに無欲で無関心な指し手だったせいか、完全に読み違えちまったか……。嬢ちゃんの意味不明な指し手はひたすら布石。いや、俺に攻め以外の一手を指させることが目的だったか……?)
大人しく座り直した藤九郎だったが、心中穏やかではないらしい。どうやら黒乃の一手は逆転にもつながるようなものだったようで、またしても考え過ぎが加速するばかり。特に深い考えがない今までの手が、今回の決定的な一手をデコレートしたと表現してもよさそうだ。
(……お嬢ちゃんが本人の意志に関係なく顔色変えてねぇのは解かるが、こいつは俺も認識を改めなきゃな。こいつぁとんでもねぇ)
藤九郎とて黒乃を舐めていたというわけではないが、絶対的な自信を持っていたであろうボードゲームで驚かされるのは思うところがあるのだろう。しかし、なにもそれは怒りだのといった負の感情ということではない。むしろ藤九郎は強者との出遭いを喜ぶような様だ。
歓喜を抑えることができないのか、藤九郎は顔を俯かせつつクックックと笑ってみせる。だが黒乃からすればひたすら奇妙な光景でしかなく、むしろ若干引きているともいってよい。いや、突然の行動に対して心配だろうか。とにかく、黒乃が藤九郎に手を伸ばそうとすると―――
「いやぁ、本当に面白い嬢ちゃんだ。あのバカが気に入るのもよく解かる」
(お、面白い……? 今の手、別に大したことじゃ―――)
「けど済まねぇな、ちょっくら本気出させてもらうぜ」
(はぇ?)
ゆっくりと顔をあげた藤九郎は、心から愉快そうな表情を浮かべていた。まるで少年を思わせるその笑みに、黒乃は鷹丸を重ねずにはいられない。今なら解かる。奴がそういう表情を浮かべているときは、たいていよくないことが起きる前兆だったと。
裏を返せば、鷹丸の父である藤九郎がそういう顔になったのならまた同じこと。その考えはズバリ的中していて、そこから藤九郎の攻めは凄まじいものだった。豪運により上手くいく適当な指し手だけではフォローが効かず、黒乃は徐々に追い詰められていく。そして黒乃の駒が少なくなってきた頃―――
「王手だ」
(え~……あっちを動かしたらこっちが―――うん、完全な詰みですね! ありがとうございました!)
「カッカッカ、いいのいいの礼なんて。むしろムキになって大人げないっつって怒ってもいいんだぜ?」
王将をどう動かしても次の一手で取られてしまう状態、とどのつまり王手が完成してしまう。本当に詰んでいるかどうかの確認をした後、黒乃は降参や感謝の意味を込めて深々と頭を垂れた。豪快に笑い飛ばす藤九郎だが、実際の所は勝てて感心していたりする。
そのあたりを含めて大人げないということなのだろうが、負けてしまっては示しがつかないというのもあるだろう。トップがトップたる所以というのは、本人がしっかりそのイメージを保つというのも大事なことだからだ。鷹丸でも自分には勝てないという自負も絡んでいそうだ。
「総評だが……うーん、なんもねぇ!」
(え、えぇ……?やっぱり適当にやってたのバレちゃったかな)
「オジサンが偉そうにいえたこたぁなにもねぇ。強いていうなら―――これからも、お嬢ちゃんの感じるままにってところか?」
(あらやだ素敵な評価……。はい、これからも私らしく頑張ります!)
今までのメンバーに対してもケチを着けたつもりもなければ、強いてという表現も最初から当てはまる。しかし、黒乃の場合は本当になにもないで済む。自分に本気を出させた相手にアドバイスを送るというのも変な話という認識なのかも知れない。
しかし、結果的に黒乃は感じるままにという部分をいたく気に入ったらしい。自分を表現しづらい黒乃にとって、なにごとでも自分らしくと評価されるのは嬉しいことなのだろう。思わず黒乃はその言葉に対しても一礼を送ってから席を立つ。出て行こうとしたのだが、藤九郎に引き留められてしまう。
「ああ、ちょっと待ってくれ。集合かけて1つ2つ話してから解散にすっから」
(なるほど、了解)
話すといっても、それは小言ではなく労いの言葉だ。やはり偉そうにいえたものではないという想いが強いのか、下した評価に対しても考え過ぎないような言葉もかけるつもりかも。そうして再度集合をかけたメンバーにだいたい想像通りの内容を話すと、今日のところは解散となった―――のだが。
藤九郎に負けたのが悔しかったメンバーから始まり、専用機持ち内でボードゲームのプチブームが巻き起こる。解散した後も将棋やチェスでの対局は続き、そんな中でもやはり黒乃は―――持ち前の豪運が大半の要因で勝ちを重ねていくのだった……。
黒乃→適当に桂馬をこう……パチーン! って感じで。
藤九郎→こいつぁ……! 文字通り逆転の一手!
ちなみにですが、各メンバーがどれを選んだとかは適当です。
セシリアなんかは絶対にチェスですけれど……。
次回は唐突にクリスマス回です。
最終決戦編で最も甘い回になるかも……?