八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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IS学園サイド、クロエと初対面です。
尺の都合で戦闘シーンはなしですが……。
一度ボロクソにやられるシーンも欲しかったのがホントのところ。


第113話 奔放なる悪意

「やっほー! 箒ちゃん、くろちゃん、いっくん、おっひさー!」

『束ぇ! 貴様、そのガキと一緒ということはまさか……!』

「おっと、ちーちゃんもこの場には居ないけど居たんだ。ちょっと日本語がおかしいけど許してね!」

「ふざけるな、私の質問に答えろ姉さん!」

 

 無邪気な様子の挨拶もそこそこ、千冬は束とクロエが行動を共にしていることで多くの事情を察した。白式越しのオープンチャンネルで問い詰めてみるも、いつものように軽く流されるばかり。そして苛立ちを覚えているのは千冬だけでなく、実妹である箒も同じだった。

 

 しかし、束はやはり茶を濁す。ちょっと待っててなんて手を振りながら、メタトロニオスを駆るクロエと共にどんどん高度を下げていく。そしてメタトロニオスの脚部がシールドに着くと同時に背から飛び降り、観察するかのようにしてマドカを覗き込んだ。

 

「ぐ、あぁ……。貴様……初めからこのつもりで……!」

「あっれ~生きてる……。くーちゃん、わざと?」

「申し訳ありません。加減しろとパパが」

「あっそー。まぁいっか! 実際は生き死になんてどうでもいいし~」

 

 マドカは凄まじい剣幕で束を睨み付けるが、束はまるでそのことが不思議かのように目をパチクリさせた。どうやら束からすれば殺害するつもりだったようだが、それは鷹丸の命令を守ったクロエによって防がれたらしい。束は特に不満そうな様子を見せることもなく、ISが武装を展開するようにして装置を取り出した。

 

 それをマドカの胸部にそっと置くと、肋骨にも似た機械的なパーツがスライドして飛び出た。そして中心部らしきパーツが光を放つと、黒騎士の装甲はだんだんとその姿を消していく。そして最後に残ったのは、中心部に鎮座したコアのみであった。

 

「よーし、回収成功!」

「な、なにを……」

「あ、これ? リムーバーの小型化した装置で、ISをコア化する速度も従来のと比べ―――」

「っ……そんなことは聞いていない! それは私のISだ!」

 

 黒騎士のコアを大事そうに専用ケースにしまうと、束は可愛らしくガッツポーズして見せた。当然ながらマドカとしては納得がいかないだろう。そもそも専用機を与えると提案したのは束であり、とどめを刺したうえでコアを回収するなど意味が解らない。するとマドカの激高に対して束は―――

 

「あはっ、ナンセンスな言葉。私のIS? 違うね、この世に存在するIS全ては束さんのISなんだよ!」

「っ!?」

「白式も、紅椿も、刹那も! 有象無象が扱っている専用機たちも! 果ては量産機である打鉄なんかも、みんな、みんな、みーんな! 束さんのものに決まってるじゃん! それをどう扱おうと私の自由に決まってるじゃん!」

 

 束の言葉は言いえて妙だ。この世に存在する467に渡るISコアは全て束が製造したものであり、それがなければ専用機から量産機まで、というよりISそのものは存在しなかったのだから。束は滑稽としか言いようのないとマドカを嘲笑う。

 

「っていうかさーキミねぇ、束さんがキミなんかに本気で専用機を作ってあげると思う?」

「どういう意味だ!」

「そのまんまの意味だよ、欠・陥・品さーん」

 

 仰向けの状態のマドカにズイッと顔を近づけ、相変わらず嘲笑うかのような態度で問いかけた。そして次いで出たのは、残酷としかいいようのない言葉だ。ツンツンと指先で鼻を突きながら、マドカを欠陥品という短い言葉で表現した。それはマドカにとって最も言ってはならない言葉だろう。

 

「殺す……殺してやるうううううう!」

「くーちゃーん」

「はい、ママ―――いえ、貴女の保護を優先させていただきます」

 

 ボロボロのまま吠えることしかできないのに牙をむいてくるマドカをいい加減に鬱陶しく感じたのか、束はクロエの名を呼ぶことによって気絶させるよう命じた。しかし、その命令に従う前に自己判断での行動を取る。クロエは束の服の襟を掴むと、思い切り引っ張って退かせた。

 

 すると次の瞬間、それまで束が立っていた場所を黄金のなにかがシールドを突き破り通っていった。それは龍のようなフォルムで灼熱を帯びている。そして突き破ったシールドから姿を現したのは、ゴールデン・ドーンを纏ったスコールだ。どうやら怪我を負っているようにもみえる。

 

「ありゃりゃ、思った以上に復帰が早かったかー」

「それはこちらの台詞。案外裏切るのが早かったわね」

「よくいうよ、食事に薬物仕込むような連中と仲良くする気なんて頭からないってば!」

 

 まぁそれがどんな毒かは知らないけどね、束さんたちそういうの効かないの。……と束が付け加えると、スコールは苦虫を嚙み潰したかのような表情を浮かべた。勘付かれていたかと思ったのか、やはり効いていなかったかと思っているのか、はたまたその両方か……。

 

 それだけの会話を済ませると、スコールはマドカを回収して一目散に逃げて行く。それを束とクロエが追撃することはなく、束なんかは手を振って見送りをする始末だ。黒乃たちも状況が解からないおかげで迂闊に動く事も出来ず、終始クロエとの間合いを図ることしかできない。

 

「へぇ、思ったより薄情だね。あの蜘蛛女を置いて行っちゃうんだ」

「マドカ様さえ確保できれば良いのでしょう。非常に合理的な判断です」

「ま、別にあの連中は興味ないけどね。さ、これでみんなとお話ができるよ!」

 

 ゴールデン・ドーンの姿が視認できなくなると、束はクルリと振り返って両腕を天高く掲げた。そちらの方には警戒態勢をした黒乃、一夏、箒が浮いており、どうやら質問されればそれに答える気はあるらしい。しかし、状況の整理が追いつかないせいか誰も口を開かなかった。1番に質問をぶつけたのは―――

 

『ならば先ほどの質問に答えてもらう! 貴様と近江 鷹丸はどういう関係なのだ!』

「たっくんと私? えっへん、束さんってばちーちゃんより先に旦那様をみつけちゃったもんねー! ホントは自慢したかったんだけど、共謀が知れたらいろいろ台無しだからさー」

「なっ、姉さんがあの男に惹かれている……!?」

 

 クロエにこっぴどくやられた千冬としては、やはり束と鷹丸の関係性を問わずには言われない。質問された方はキョトンとした表情をした後、妙に自慢気な顔してお先に失礼と胸を張った。その言葉にズレた反応を示してしまう箒だが、確かにアレが義兄ともなれば流石に複雑だろう。

 

『貴様らはいったいなにが目的だ。あの小娘を追い打ちする必要性は!?』

「やだなぁ、私たちの目的っていったら一巻してくろちゃんと遊ぶことに尽きるよ」

(私……? だったら今までの事件、全部私を狙って……!?)

 

 原作でも目的は不明なために愉快犯くらいの認識だった黒乃だが、ここで初めて発生した事件が自らを狙ったものだと知った。いろいろと無自覚なため、どうしてそんなことになっているのだと考えているようだが、まさか己が戦いを求めていると思われているなんて思うまい。

 

「で、京都に来たのはウチの自慢の娘と遊んでもらおうと思ってたんだけど計画変更! ちょうど良くちょうど良いのが居たから専用機で釣ってデータ収集ってところかな」

「俺たちとマドカを戦わせたのは……!」

「そうそう、第4世代機2機と単一仕様能力を使える機体が3機、そして二次移行した機体が2機のデータね。それに合わせて欠陥品とはいえ経験値はこのコアに吸わせられたから束さん大満足!」

 

 亡国機業との対面をした際、束はマドカの顔を見るなり様々な事情を察したのだ。そしてそれと同時に、利用して愛娘とその機体を更なる高みへ押し上げようと。だから専用機を与えて憎い相手と戦う許可も出した。マドカは見事に釣られ、危うく命すら奪われそうになったのだ。

 

「だからくろちゃん、もうちょっと待っててね。多分だけどもうすぐくーちゃんも完璧な状態になるからさ!」

(いや、待っててねって……こっちこそ待ってほしいんですけど!? 誰もそんなこと望んでないんですけど!?)

 

 メタトロニオスにピタリと寄り添った束は、もう少しで準備が整うから楽しみにと黒乃へ呼びかけた。黒乃としてはノーサンキューでしかなく、ペコリと丁寧なお辞儀をするクロエに対していやいやいやと内心で大きくかぶりを振った。しかし、当然ながらそれが外面に出ることはない。

 

「えーっと、束さん的には戦う気はないんだけどどうする?」

「アンタが黒乃の敵っていうんなら、俺は喜んで―――」

「待て一夏! あの子供の秘密が千冬さんの言っていた通りなら、対策もない今では勝てんぞ!」

 

 とりあえず話せることはもうないのか、束は明らかに戦闘態勢である一夏たちに言葉をかけた。それは気遣いのようなもので、絶対に勝てないけど無駄な努力をしてみるかという旨だ。一応は世話になった人物ではあるが、一夏の目に躊躇いはなく戦う意思を見せた。

 

 しかし、箒はそれをすぐさま止めにかかる。千冬の勘付いた秘密が本物だと想定したうえで、専用機持ちたちは対クロエ戦に向けていろいろと考えてはいるのだ。しかし、今回の場合は出現することそのものが計算外なので考案した戦術を披露できる可能性は限りなく低いだろう。

 

「くっ……!」

『一夏、今は逃せ。いや、正確に言うなら逃してもらうのはこちらかも知れん……!』

「なにもなしってことでいいかな。じゃあくーちゃん、たっくんの様子はどう?」

「そうですね、少々危うい状況かと」

 

 勝てないと解かっても挑むのは愚策だくらいの判断はできるのか、一夏は歯を食いしばりながら束を睨む事しかできない。通信越しに響く千冬の声も、とてつもなく悔しそうに聞こえる。そんな一同の心情には一切の興味を持たず、束は遠くで専用機持ちたちを縛り付ける鷹丸の状況の確認を始めた。

 

 クロエがハイパーセンサーでその姿を視認してみると、どうやら危機的な状況に陥っているようだ。一夏たちにしてみれば鷹丸を追い詰めた証拠だが、クロエが居る今それは決定打になりえない。いや、むしろ状況がひっくり返る可能性すら。千冬は急ぎ退避を命じる。

 

『お前たち、そいつはもう放っておけ! 今すぐ退避―――』

「くーちゃん、たっくんがそういったなら今回も殺さないようにお願いね」

「畏まりました。では―――」

(くっ!)

「黒乃!?」

 

 クロエが射角をつけるために飛び上がると、ライフルの狙いを定めたのは当然ながら残りの専用機持ち。ここからだと超長距離射撃となるが、その場から移動する様子をみせないとなると裕に届くのだろう。ライフルのチャージが開始された瞬間、黒乃が妨害をしようとOIBで接近を試みるが―――

 

「無駄です」

(嘘っ……!?)

 

 クロエはまるで初めから解かっていたかのように、左手のライフルからレーザーブレードに変換。黄色いエネルギーで形成されたソレは、刹那の鳴神を簡単に受け止められてしまう。そして、妨害することは叶わず専用機持ちたちへ向けて高火力のレーザーが放たれた。

 

「ヒューッ、ブルズアイ! くーちゃん、後は勝手に逃げると思うから後で回収しようね!」

「はいママ。それでは帰りましょう」

「そんな……!」

『あの口ぶりからして殺す気はないようだが……。くっ! おい、誰か返事をしないか!』

 

 見事に超長距離射撃をなしとげた娘に対し、束ははしゃぎながら称賛の言葉を送った。そして再び高度を下げたクロエの背に乗ると、撤退する気が満々な様子で遠くを指差す。黒乃たちの関心は専用機持ちたちの安否へと変わり、束たちを足止めできるものはいない。

 

「じゃあくろちゃん、また遊ぼうね!」

「それでは失礼いたします」

 

 母子2人は、最後に黒乃へそう言い残して飛び去って行くのだった……。

 

 

 

 

 

 

「いやはや、やっぱり2人が揃うといろいろ違うよねぇ。ね、キミらもそう思わない?」

 

 時間は天裂雷掌刃・紫電が発動した頃まで巻き戻る。膨大なエネルギーが弾ける光に目を細めつつ、鷹丸は専用機持ちたちに同意を求めた。しかし、当然ながらそれに応える人物はいない。何人かは鷹丸の言葉そのものには反応し、睨むようにする者はいたが。

 

 残りの者は全員がただ心配そうに2つの巨大なエネルギーの刃を見守るのみ。当の本人達はこの時点で勝ちが確定したかのような雰囲気だったのだが、この時点でそれを知る由もないだろう。どちらにせよ反応がなくて茶化し甲斐のない鷹丸は、短く鼻から息を噴出すると肩をすくめた。

 

 それは構わないのだが、鷹丸には1つだけどうしても気になることが。それは、IS学園勢がなぜ自分になにもしないかだ。脅しておいてなにをと思われるだろうが、現状はあまりにもお粗末にもほどがある。誰に自らの存在を報告するわけでもなく、ただ一夏たちの戦いを静観などと。

 

 そもそもの話として、自分が失踪してからの大規模作戦に、自分が出てくることを想定していないわけがない。……と、鷹丸はそう考える。それは己の厄介さを己が最も理解しており、もし己が敵ならば心底から鬱陶しいという自負から。だからこそ鷹丸は、至極ストレートに話題を振った。

 

「ねぇねぇ、1つ聞かせて欲しいんだけどさ」

「さっきからうっさいわね! IS使えなくてよく見えないんだから集中―――」

「キミらはさっきからなにを待っているのかな」

 

 わざとらしく質問を始めた鷹丸に対し、即座に反応を示したのは鈴音だ。それ自体はいつも通りの鈴音の様子で、違和感なんて微塵も感じない。しかし、鈴音を無視して放った言葉ばかりはそうはいかない。鷹丸から見えているのは横顔のみだが、確かに一瞬だけしまったというような表情を浮かべたのが何人か居たのだ。

 

「さて、なんのことだか解からんな」

「アハ、それ便利な誤魔化し方だよねぇ。僕もその手はよく使うよ」

「わたくしたちがなにかを隠している前提なのは止めて下さいな」

 

 明言を避けつつ返事そのものはしてやるという手法を用いたのは、軍隊出身者であるラウラだった。これで鷹丸の中でなにかを誤魔化しているというのは確定し、それでいて時間稼ぎをしていると判断。セシリアも便乗するかのようにして言いがかりはよせという旨の発言をするが―――

 

「そうかい? そっちがその気なら僕にも考えってものがある」

 

 そう、鷹丸がIS学園勢を脅している時点で優劣はハッキリしている。キミらがそういう態度をとるのなら仕方がないと、鷹丸が懐から取り出したのはスイッチかなにかのようだ。この状況が出来上がった経緯からするに、恐らくはシールドジェネレータを暴走させる起動装置だろう。

 

 それを目にして察した専用機持ち一同は、これは流石に捨て置けないと全員が向き直った。鷹丸がようやくこれでモヤモヤが解消できると安心した―――その瞬間のことだ。鷹丸の背後で待機していた遠隔操作シールドプレートが、ショートしたような音を立てて地に落ちたのだ。

 

「おや、おかしいなぁ」

「やった、本当にかかった!」

「あの人のアドバイス通り……」

 

 シールドプレートが地に落ちた瞬間、専用機持ちたちは僅かに湧いた。当然ながら鷹丸は時すでに遅しということを察し、どうしてこうなったかということを分析にかかる。……が、空間投影型のディスプレイを開こうにも起動すらしない。これには流石に困った様子を見せるが―――

 

「よそ見厳禁ってね!」

「ゴフッ!? ゲッホ、カフッ……! フッ……ハァーッ……僕って最近こんなのばっかだねぇ……」

「鈴ちゃん、まだ手出しはダメって言ったでしょ」

「悪いわね、素直に守るとは言ってないわ!」

 

 気づいた時には、鈴音が脚を振りかぶっていた。身軽な鈴音の繰り出した技はレッグラリアート。要するにラリアートの脚版は、鷹丸の喉にクリーンヒットした。右足が不自由な鷹丸はバランスなんて保ってはいられず、地面をスライドするようにして吹き飛ばされる。おまけに呼吸困難ともきた。

 

 なにやら上手くいくという確信でもあったのか、鷹丸を無効化した後は手出し無用という制約があったらしい。黒乃を慕う鈴音が守るような制約ではないが。それでもまだし足りないのか、鈴音は野生味あるれる様子でフーフーと息を荒立てる。

 

「いやぁ、参ったなぁ。特定の勢力に肩入れする人じゃないと思ってたんだけど」

「あら、流石に察しがいいわね。言ってたわよ、アイツ勝ったと思ったら油断が大きいぞーって」

「それだけ貴方のことを負い目に感じてる証拠だと思います!」

 

 鷹丸が皆まで言わない人物は実父である近江 藤九郎のことだった。やはり鷹丸を最も知る人物に対策を聞くのが1番だということで、楯無が直接コンタクトをかけていたのだ。顎髭を触るような仕草をモノマネしながらそっくりそのままの言葉を伝えるが、妙にクオリティが高い。

 

 そして社長の子ということで共通点を持つシャルロットは、藤九郎がIS学園に肩入れした理由を率直に述べた。それは真理というかなんというか、あの飄々とした人物でも大きな責任感を覚えている。放任主義で息子の背中は押しつつも、それが現実になればそうはいかなかった……ということなのかもしれない。

 

「あらら、それは流石に耳が痛い……。あー……ボードゲームとかあるじゃない? 実は僕、父さんにそれ関連で勝ったことが1度もなくて―――」

「時間稼ぎはいらない……」

「前回の反省があるのでな。近江 鷹丸、貴様を拘束させてもらう」

 

 1人でも時間をかけてようやく立ち上がった鷹丸は、自身と父親についての身の上話に入ろうと試みる。が、それは抑揚のない簪の言葉に遮られてしまった。鷹丸としても苦肉の策であり、それもそうかと内心で溜息を吐く。この絶体絶命をどうやって潜り抜けるかを思案していると―――

 

「おいニヤケ面ぁ! ISが強制解除されたがテメェの仕業で―――ってんだこりゃ、追い詰められてんじゃねーか!」

「オータムさん、いいところに来てくれましたねぇ」

「ケッ! そのまま見捨ててやりてぇところだが、仕事は仕事だ……仕方ねぇ。つーか、通信機もイカレてんだがスコールからなんか聞いてないか?」

 

 鷹丸の護衛という役割で待機していたのか、物陰からISスーツを纏った状態のオータムが現れた。本人が鷹丸の仕業と思った発言こそ、IS学園が仕掛けた時限式の罠というやつである。鷹丸を無効化しても専用機持ちたちがISを展開しないのは、それに起因しているのだ。

 

 例のシールドジェネレータだが、ここら一帯の物は特殊仕様となっている。それは、取り囲んでいる間はありとあらゆる電子機器を作動しなくするという効果を持つ。わざわざ時間がかかる仕様にしたのは、それこそ鷹丸の油断を誘うためである。

 

 足を踏み入れた一瞬で無効化してしまっては、おそらく鷹丸はなんらかの手段で即離脱を図るというところまで想定したうえだ。念には念をというやつである。なにせ自分たちも最大の武器であるISの展開が不可能になるのだから。その点でいえば、鈴音の攻撃を仕掛けるという判断も間違ってはいなかったかも。

 

 そして、オータムのISが展開できないのも、スコールとの通信が不可なのも上記の内容が全てだ。もっとも、スコールは別の理由で通信はできないのだが。オータムの素朴な疑問から、束がどう動いたのかという背景を察した鷹丸は、内心でほくそ笑んで答えた。

 

「大丈夫ですよ、貴女が心配する必要は全くありません」

「あぁ? そりゃどういう意味で―――」

「どういう意味って、こういう意味ですよ」

「ガッ!? な……にっ……!?」

 

 鷹丸が杖の先をオータムの背に当てると、そこから僅かな電流が走った。どうやらスタンガンにも似た機能を持っていたようだ。スタンガンは武器なので、電子機器という分類には相当しない。どういう事なのだと行く末を見守っていた専用機持ちたちだが、鷹丸がその視線に気づいたかのようにこう言い放つ。

 

「この人をあげるからさ、僕のことは見逃さない?」

「……アンタ馬鹿なの、死ぬの? 普通にアンタも一緒に拘束するに決まってんでしょ」

「アッハッハ、だよねぇ! 我ながら傑作かもだよ、アッハッハ!」

「…………確保ーっ!」

 

 鷹丸は気絶して横たわるオータムを指さすと、なんともらしくない言葉を放った。それに反応したのは鈴音で、げんなりした表情で正論を繰り出す。本人も自分がありえない条件を提示している自覚はあるらしく、愉快そうに片手で顔を覆いながら高らかに笑ってみせた。

 

 そしてしばらくの間が空くと、本当になにも起きないというのを確認してから楯無が確保の命令を下す。専用機持ち一同は、一斉に鷹丸の確保を目的として接近を試みた。しかし、いきなり鷹丸の笑い声がピタリと止むではないか。それでなにかを察した楯無は―――

 

「中止、ストップ! 今すぐ引きなさい!」

「おや、流石は楯無の名を継ぐだけはあるね。でも大丈夫、殺さないようにちゃんと伝えてあるから絶対に直撃はしないよ。なにせ―――」

「っ……!? あの光は―――」

「僕と彼女の自慢の娘だからさ」

 

 そこは代表候補生の集団だけあって、楯無の血相を変えたような合図に反応を示してピタリと止まってみせた。そして楯無が待てをかけた理由もすぐに理解が及ぶ。振り返って上空を見上げてみれば、真っ直ぐ軌道を描いてレーザーが飛んできているではないか。

 

 今度は候補生たちが血相を変える番で、慌ててもと来た方向へダッシュをかける。レーザーの方はいとも簡単にシールドを突き破り、ちょうど鷹丸と専用機持ちたちの中間ほどに着弾。豪快な音とともにアスファルトが砕け散り、そこらを破片と粉塵で包んだ。当然目なんて開けていられず、視界がクリアになると―――

 

「逃した……!」

「うっそ、あの右足でどーやって一瞬で!?」

「……考えるだけ無駄だろうな。あの男ならなにをどうしようと不思議ではない」

 

 鷹丸は当たり前のように姿を消しており、それが信じられないのか鈴音は周囲をうろついてみる。だが人の気配は感じられず、追い打ちのようなラウラの言葉に完全に逃がしたのだと悟った。短気な正確なだけに歯痒いのかムキーッと唸りながら髪の毛を掻き毟る。

 

「楯無さん、僕らの動きは……」

「……そうね。とりあえず妨害範囲から出て、ISを展開しましょう。合流は情報の交換をしてからでも遅くはないわ」

「では善は急げ、ですわね。鈴さん、置いて行きますわよ!」

「あーはいはい、今行きますわよー」

 

 1にも2にもまずはISだという楯無の意見は間違っておらず、専用機の展開できない国家代表及び代表候補生なんてたかだか16、17の少女に等しい。この状態での奇襲なんてまっぴら御免であり、鷹丸が消えた以上はもはや有効範囲にとどまる利点などない。

 

 鷹丸を逃したという事実そのものは6人の心にしこりのようなものを残すが、とにかく一般市民を巻き込まずに済んだ。……と、そうやって無理矢理にでも納得するしか残されていない。そうして鈴音を除いた全員が駆け出し、鈴音もセシリアの呼びかけに応えて皆を追いかけた。

 

 

 




黒乃→待っててねとか言われても意味解かりませんけど!?
束→もうちょっとでこっちも万全だから、次こそ本気で遊べるよ!

申し訳ないのですが、亡国機業サイドは今話で出番終了です。
背景としては計画がダダ崩れで立て直しに相当な時間がかかる……とでも思ってください。
狂科学者サイドを重用している結果ですので、ご理解いただければ有難い……。

次回は京都編の締めです。
一夏と黒乃の反省会がメインでお送りします。

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