八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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VSマドカ、前半戦でございます。
まずは一夏&箒のターンでお送りします。


第111話 烏喰らい

「やっぱりお前だったか……!」

「よく来たな、歓迎するぞ」

「貴様、その顔はいったい!?千冬さん……なのか……?」

 

 2人が京都上空へ辿り着くと、そこで待ち受けていたのは織斑 マドカを名乗る少女だった。一夏は予測の範囲内らしく、恨めしい目でマドカを睨み付ける。一方の箒は、今回バイザーで隠されていないマドカの素顔に衝撃を覚えているようだ。

 

 あどけなさは残しつつ、その顔立ちは千冬を思い起こさせる。他人というには無理のある印象を受けた。勘ぐろうと思えばいくらでも出来たろうが、箒の心情は揺らぎを消し去る。聞こうと思えば倒してからでも遅くはない。そうやって、箒は意識を戦闘の方へ向けた。そう、それよりも確認しなければならないことがある。

 

「その機体は……」

「ん?ハッ、癪だが奴の力を借りたのだ。貴様を確実に葬ってやるためにな」

 

 現在マドカの乗っている機体は、サイレント・ゼフィルスに似て非なるものだ。蝶を模したデザインは変わらずだが、カラーリングやディティールが異なる。最もかけ離れているのは、BTシリーズとしての本懐ともいえるBT兵器が見当たらないという点だろう。

 

 サイレント・ゼフィルスの改修機か、はたまたデザインを参考に1から作成したISか……。真相は解からないが、とにかくこの機体は一夏を殺すために開発されたと思ってよいのだろう。奴というのはつまり、近江 鷹丸―――ということを一夏が理解すると、表情は一気に険悪なものに変貌を遂げた。

 

「いい目をするようになったな」

「……そりゃどうも」

 

 憎しみの籠った一夏の目を見たマドカは、ニヤリと笑って賞賛の言葉を送った。先ほども地上で鷹丸に同じことを言われたせいか、一夏の反応は微妙なものだが。しかし、それでも眼から憎しみの火が消えることはない。今の一夏にとって、黒乃が傷つく要因の総ては恩讐を送る対象なのだから。

 

「さて、そろそろ死んでもらうとしようか。……あぁ、安心しろ篠ノ之 箒。電池程度は殺そうと思ってはいないのでな」

「で、電池だと!?貴様、人が気にしていることを……!い、いや……そんなことより―――貴様はいったい何者なのだ。なぜ一夏と黒乃を殺さんと欲する!」

 

 マドカが箒をこの戦場に招いたのは、本人の談の通り白式の電池役としてだ。燃費の悪い白式だが、エネルギーを増幅させる絢爛舞踏を所持する紅椿があれば鬼に金棒。つまり、あくまでフェアかつ全力で戦う気はあるらしい。だが箒が黒乃の名を口にした途端に、マドカの雰囲気は一変した。

 

「正直なところ、織斑 一夏。貴様の命そのものにさほど興味はない」

「どういう意味だ」

「そのままの意味だよ。単に貴様が死ねば―――あの女の絶望した顔が見られるというもの」

 

 マドカは嗤う。それはもう、心底から愉快であるかのように。言葉通り黒乃の絶望した姿でも想像しているのか、無邪気さすら感じさせるほどだ。同時にその殺気を周囲に振りまき、そんなマドカの姿はまるで死神だとか悪魔だとかを連想させる。

 

「くっ、そんなことの為に一夏を―――」

「箒、もういい。こいつが俺たち姉弟にとってなんだとか、目的だとか、全部どうだっていい話だ」

「一夏!?」

「どうせ殺すんだから同じことだしな」

 

 そんなことと断じるような浅い事情はないと察しながらも、箒はマドカの言葉にそう反論するしかない。だがそんな反論を、殺害対象とされている一夏が止めた。あまりにもらしくない言葉に、どういうことだと説明を求めようとするが、箒は己の耳を疑う発言を拾ってしまった。

 

 一夏が、あの織斑 一夏が―――マドカを端から殺害する気でいるのだ。あまりの衝撃に、箒はすぐに次の言葉を紡げない。冗談はよせだとか、なにを馬鹿なことをだとか、頭の中にはそういうものがあるのだ。しかし、それこそ一夏の目は―――本当にマドカを殺す気だと察してしまうくらいに淀んでいた。

 

「ほう、それは面白い。ならば―――死んだ者の負けということでいいな!」

「異論はねぇ。黒乃を傷つける全ては―――俺が殺してやらぁぁぁぁっ!」

「くっ、一夏……。織斑先生、シールドジェネレータの作動を!」

『了解した。シールドジェネレータ、作動開始!』

 

 物騒な方向へ盛り上がる2人を止める術など存在せず、ついに一夏とマドカは動き出した。一夏は雪片弐型を、マドカは機械的な形状をした物理ブレードらしきものを展開。互いの振り上げた刃はぶつかり合い、京都の上空にこの日初めての火花が舞い散る。

 

 一夏に対して言いたいことが山ほどある箒だったが、今の優先順位はそれではない。すぐさま千冬に通信を入れると、シールドの展開要請を。そして次の瞬間には、京都を覆いつくすかのようにシールドが張られていくのを見届けた。全てのジェネレータのエネルギー連結が終えるとシールドは不可視の状態に。

 

(とりあえずは良しとするか……。しかし、気の離せん戦闘になりそうだ)

 

 そもそも気の抜けない戦闘などないが、今回は更に特別。目を離した隙に、マドカが殺害されてしまう可能性がある。なにも箒はマドカの心配をしているわけではなく、一夏を殺人者にさせるわけにはいかないという考えからだ。そんなことになれば、黒乃が悲しむのは目に見えているのだから。

 

「はぁああああっ!」

「おらああああっ!」

「一夏、そのまま逃がすな。こいつを喰らえ!」

 

 激しい斬り合いを繰り広げる一夏とマドカだが、未だ互いにヒットはなし。今のところは刀同士がぶつかり合うのみ。2人に距離を置くという選択肢はないらしく、2対1の状況ならそれは間違いなく利用すべきだ。個人的には好かないながら、箒は射程圏外から空裂の飛ぶの斬撃を放つ。

 

「奴の造った機体だぞ、ただの物理ブレードなわけがあるまい!」

「なっ、これは!?」

「箒の紅椿と同じ!?」

 

 マドカの扱う物理ブレードに一瞬だけ黒い雷が走ったかと思えば、振るった斬撃に乗せて鋭い波動が飛んでいく。それもひと振りで無数に飛翔し、空裂の攻撃を相殺どころか搔き消していくつか箒まで届くではないか。これはどう見ても、紅椿との共通点を感じずにはいられない。

 

「冥途の土産に教えてやろう、知ったところで防ぎようはないのだからな」

「なんだと!?」

「機体の名は黒騎士、そしてこいつはレイヴンイーター。その名の通り奴を喰らう為の武装だ」

 

 なんとマドカ自らが、先の攻撃のタネ明かしをするというではないか。レイヴンイーターと名のついた武装には、BT技術とイメージインターフェースを複合させた装置が内臓されているのだという。そして、想像通りに空裂や雨月の攻撃性エネルギーを放出する技術もだ。

 

「これがどういうことだか解かるか?」

「もったいぶる暇があるんなら、とっとと攻撃したらいいだろ!」

「待て一夏、確と見極めてからでも遅くは―――」

「良いだろう、百聞は一見に如かずだ」

 

 焦らすかのようにして質問してくるマドカに対し、一夏は聞くだけ無駄だと箒の静止も聞かずに突撃をかけた。するとマドカも口で説明するより早いと感じたのか、仕掛けてくる一夏を迎え撃つ。ただし、先ほどまでのレイヴンイーターとはひと味違う。なんと、ブレードから銃へと変形するではないか。

 

 ガコン!と機械的な音を響かせつつ鞘部分がストックのようになり、引き金もその付近に着いている。銃身は長いがスナイパーライフルほどではなく、どちらかといえば機関砲が近いかも知れない。そしてマドカがトリガーを引くと、レーザーのようなエネルギー系統の光が発射された。

 

(見た目は至って平凡だが……あの口ぶり、なにかあると思った方がいい。だったら!)

 

 不思議なことに一夏目がけて真っ直ぐ飛ぶレーザーは、恐ろしいほどに平凡だった。だが一夏に油断はなく、大事をとってということもあるが雪羅の盾を構える。エネルギーを消滅させる特性のあるこの盾ならば、レーザーである以上は確実に防げる。見守っていた箒も思わずほくそ笑んだ―――その時。

 

「それが油断というんだよ」

「なにっ!?ぐああああっ!」

「ば、馬鹿な……寸前で分裂しただと?!」

 

 レーザーが雪羅の盾に着弾する寸前、突然にレーザーが無数に分裂したのだ。レーザーはまるで意志を持つかのように雪羅の盾を避け、通り過ぎた後にUターンして一夏の背に命中した。あまりに不可解なこの現象に、一夏も箒も理解が追いつかない。そんな2人に、マドカはまたしても説明を挟む。

 

「今のがBT技術とイメージインターフェースの複合だ。私の言いたいことが解かったか?」

「……まさか、フレキシブル!?いや、それだけでは説明が―――」

「イメージインターフェース……。そうか、イメージ力で分裂する弾丸そのものを生み出したんだな!」

「ご明察。あながち能無しということでもないらしい」

 

 あの曲がって迫る動きは、以前に見たサイレント・ゼフィルスの射撃と同じだ。だが分裂までいくような動きは覚えがないし、根本から可能とは思えない。だとすれば、マドカの口ぶりからして答えは1つ。そもそもあのレーザーは、分裂するように出来ていたのだ。

 

 これがイメージインターフェースを用いているということなのだろう。第3世代以降のISにおいてイメージする力というのは肝心要、もはやなくてはならない域にまで到達している。飛行、武装の呼び出し等と同じ原理で、弾そのものを創造したのだ。

 

 これは高いIS適正とBTを複数同時に制御しつつ、自身も行動可能という純粋に高度な技量を誇るマドカだからこそできる芸当なのだろう。仮に弾の創造が出来ようと、偏光制御射撃と併用など考えただけで脳がパンクしてしまいそうだ。

 

「要するに、その気になれば私はどんな攻撃も繰り出すことが可能ということだ。例えばだが―――このような攻撃もな!」

「な……そんな馬鹿な……!」

「こいつは、黒乃の!」

 

 再びモードをブレードに切り替えたマドカがレイヴンイーターを頭上に掲げると、そこからエネルギーの奔流が噴き出て刃を形成した。流石に規模は異なるが、その見た目は黒乃の絶天雷皇剣を思わす。巻き込まれたが最後、凄まじいダメージを受けることになるだろう。しかし―――

 

「ふざけんな―――」

「一夏!」

「ふざけんな!それを使っていいのは、黒乃だけなんだよ!」

(やはり冷静さを欠くか、愛が深いというのも考え物だな)

 

 かつて暴走したラウラが雪片を使用した時のように、一夏はマドカが絶天雷皇剣によく似たソレを発動させたことが許せなかった。ラウラの際は黒乃が近くにいたということで冷静さを保ったが、壊れかけの一夏ではそうはいくはずもなく。

 

 激高した一夏は、怒りに身を任せ真っ直ぐマドカへ向かっていく。そしてそんな一夏を見て、マドカは内心での笑みを止められない。なぜなら、こうなることを予想して疑似的な絶天雷皇剣を発動させたからだ。想像以上に簡単に釣れ、2人の愛情に関して盛大に皮肉った。

 

「望み通り喰らうがいい!」

「関係ねぇ、俺には雪羅が―――」

「馬鹿者!フレキシブルの応用をもう忘れたのか!?」

「フッ、覚えていたところで無駄だっ!」

 

 マドカは思い切り頭上から巨大なレーザーブレードを振り下ろす。だが、それでも一夏は真っ直ぐ突っ込むばかりだ。雪羅の盾を用いて防ごうと考えたのか、左腕を前に構えようとする。それは冷静な箒から見れば愚の骨頂であり、一夏に横から突進するような形で進路を無理矢理にでも変更させた。

 

 箒はマドカを甘く見ていたつもりはない。代表候補生でもない自分よりは何枚も上手の相手だと心から思っている。だが残念なことに、それでも足りなかったのだろう。振り切ったレーザーブレードが当たることはなかった。しかし、振り切った後の切っ先が蛇のように動いて2人へ襲い掛かったのだ。

 

「しまっ……ぐ……ああああっ!」

「がああああああああ!」

 

 これだけのエネルギー量ながら、ここまで変幻自在とは。箒が脳内でそう悔いるよりも早く、偽・絶天雷皇剣は2人へ直撃した。箒が一夏を助けに入ったことが仇となり、固まった状態だったのが同時直撃の大きな要因だろう。2人は姿勢を保っていられず、京都を覆うシールドの上に墜落した。

 

(寸前のところで絢爛舞踏を発動させたか……。チッ、敵ながら天晴というやつだな)

「ほ、箒……済まねぇ……助かった……ぜ……」

「謝罪はいい……。それより、機体の状態を……ゲホッ!ゲホッ!」

 

 こちらに関しては、箒と一夏が接触していたことが功を奏した。箒は直撃と同時ほどに咄嗟の行動で絢爛舞踏を発動させたのだ。エネルギーの減少と増幅のせめぎ合いで競り勝ち、無事とはいかないが命に別状はない。奇跡的に、機体もまだまだ動く状態のようだ。

 

「一夏……勝ちたいのならばまずは私情を捨てろ。許容するつもりはないが、勝った後の方がこなせることも多かろう」

「……ああ、そうだな。箒のいう通りだ」

「ハッ、哀れだな。貴様らまだ私に勝つ気で―――」

 

 憤りを覚えているということではないが、箒は一夏の胸ぐらを捻りあげながら忠告を送った。一夏がその言葉の何割をどう解釈したかなどは解かったものではない。が、なんとなく眼の色や雰囲気はいつもの爽やかさを宿した気がしなくもない。

 

 そんな2人のやりとりを、マドカは嘲笑するかのように鼻を鳴らした。もはや勝つ見込みはないという言葉を紡ごうとしたところ、突然に周囲を赤黒く染め上げる光が轟いた。思わずマドカや一夏が視線を送ると、そこには烏の翼の形状に似た雷の翼が。そう、これは―――

 

「そ……んな……。なんでだよ……どうしてお前が今そこに居るんだ……黒乃っ!」

「黒乃、お前という奴は……やはり巻き込められずにはいられんというのか!」

 

 1度目撃したら決して忘れるわけのないこの光景は、間違いなく神翼招雷の発動によるものだ。それはつまり、黒乃が戦場に出て来てしまったというなによりの証拠。それを理解すると同時に、2人は嘆かずにはいられなかった。いや、それは一夏と箒だけのことではない。

 

 2人の戦いを見守っていた楯無&代表候補生たちも。モニター越しに黒乃の存在を確認した千冬と真耶も……。この作戦に参加したIS学園勢は意気消沈の様を隠し切れない。そんな中、現状でただ1人の敵勢であるマドカは遠方に見える神翼招雷の対処について図りかねていた。

 

(奴め、またしても駆け引きのつもりか?私に同じ手は通じんということは解かっているだろうに)

 

 マドカは遠方に見える雷の翼に対し、デジャヴのようなものを感じずにはいられない。あれは忘れもしない、撤退を強いられたキャノンボール・ファストでの出来事だ。あの時は八咫烏の黒乃に入れ替わっていることに気がつかず、スラスターに震天雷掌波を喰らってしまった。

 

 このシチュエーションはその時と重なって感じるが、だからこそおかしいというもの。どちらの黒乃にせよ、同じ手が通じないのはまず理解しているだろう。外れる前提で攻撃を仕掛ける性格でもないとすると……。そうやってマドカが思考を巡らせていると、やはり雷の翼は刹那に取り込まれた。だが、そこから先―――

 

(なにも起きない……。馬鹿な、今度は本当にハッタリだと?)

(黒乃、やっぱりトラウマが……!)

 

 黒乃がなにかしら必殺級の攻撃を繰り出す気なら、雷の翼が再放出されるはず。しかし、その様子は全く見受けられない。マドカは本当にハッタリだったのかと首をかしげずにはいられないが、一夏はなにも起きないという事実に心当たりがあった。

 

 そもそも黒乃が京都に連れられた理由は、心の傷を癒してもらうという名目だ。心の傷とは、自爆の大きな要因となった神翼招雷に対して。京都旅行前に一夏が目撃した神翼招雷のシーケンスが進められないこの光景は、今繰り広げられている光景そのものではないか。そうやって一夏が己の無力を呪い始めたその時、なにか―――黒乃の居る方向がチカリと光った。

 

(あの小さな光はいったい……?)

「……これはまさか……!?」

「超極細のレーザーブレード!」

 

 ハイパーセンサーを用いつつ目を凝らして光へ集中してみると、それは天裂雷掌刃と比べれば一目瞭然なほどに細いレーザーブレードだった。ただし、長細く形成されているため射程は比べ物にならない。刹那そのものをハイパーセンサーで捕捉するのが困難な距離だというのに、余裕で届いてくるほどだ。

 

「黒乃……乗り越えたんだな!」

「しかもあれほど繊細なエネルギー操作、八咫烏の方にはこなせんぞ!」

「それがどうしたというのだ!この距離だぞ……避けるのは容易―――」

 

 黒乃が戦場に出てくることには否定的ながら、一夏は思わずトラウマを乗り越えた証拠なのではと歓喜を露わにした。箒もグッと拳を握り、今までの破壊的な用途とは違った攻撃手段に黒乃本人だと確信を得る。そんな盛り上がりを見せる2人が不快なのか、マドカは苛立った様子で軽く横にずれることで極細レーザーブレードを回避―――したかに見えた。

 

「曲がった!?」

「なにっ!?ぐああああっ!」

 

 極細レーザーブレードは、マドカの横を通り過ぎる寸前で見事なカーブを描いた。そんな路線変更など想定しているはずもなく、反応の遅れたマドカの脇腹にクリーンヒット。しかもレーザーブレードはまだまだ伸びていき、マドカを遠くへ押しやったところでようやく収まりを見せた。

 

「はぁ……はぁ……馬鹿な……いったいなにがどうなった!」

 

 こういった悪態は心の中で収める方のタイプだが、思わずそう叫ばずにはいられなかった。BT技術を積んでもいない機体である刹那が、自分の十八番である偏光制御射撃にも似た攻撃を仕掛けてきたのだから無理もない。可能性として神翼招雷のレーザーはそもそも曲げることが可能という説も挙げたマドカだが―――

 

「ならば……たった1度……たった1度見ただけでラーニングしたと……?」

 

 その説が有力だとすると、マドカは自身がレーザーブレードを曲げたのを見られていたと予想する。そして黒乃はすぐさま学習し、己の技術として取り入れたのだという結論を導いた。マドカから言わせれば、そんなことあっていいはずがない。そんな馬鹿なことがあっていいはずがない。

 

「みと……めるか……!認めてたまるか、認めてなるものかああああっ!来い、藤堂 黒乃!やはり貴様は……今日この場で殺してやるうううう!」

 

 そう、そんな才能に満ち溢れた事実を認めていいはずがなかった。ここでそれに納得してしまっては、黒乃の才能を認めることそのものであり、黒乃に屈服することそのもの。だからマドカはひた叫ぶ。まるで黒乃を殺すことこそが、己の存在価値であると主張するように……。

 

 

 

 

 

 

(……随分と高い位置で戦ってるみたいだ)

 

 どのくらいの高さだとか、詳しいことを確認している暇はない。だが、少なくとも京都の街並みが小さく感じるくらいはある。しかし、飛び立つにしてもギリギリだったな……。私が高度を上げている途中で、巨大なシールドが空に張られ始めるものだからたまったものではない。

 

 そこは刹那の機動力を生かして通り抜けることができたが、なんなら破壊しないといけない事態になっていたかも知れない。いや、それは流石にダメか。なんかイッチーとモッピーしか戦闘に参加してないみたいだし、それだったら地上に居るであろうみんなと合流して―――

 

 ……って、なんでみんなは戦闘を開始していないんだ。原作よろしくイッチーが暴走している様子でもないが、それならそれでアラクネとゴールデンドーンの2機が残っているはずなのだけれど。……冷静に考えるのなら、なにか出撃できない原因がある―――というところか。

 

 ならばその原因を取り除く方が先決だったか?慌てて飛び出たものだから、いろいろと優先事項は見誤ったかも。まぁ、ちー姉が怖くて通信を切ってるから情報が入らないっていうのもあるんだけどね……くわばらくわばら。だとすると、やはりマドカちゃんと戦うイッチーとモッピーの援護が役目かな。

 

 それにしても、ここからだと随分遠いや。なんというか、本気で私を避けようとしていたのが伺い知れる。なんだ、なんだよ、なんですかぁ?この露骨なハブりは、泣くぞ。いや、んなことより援護するにしたって方法を考えないと。そのまま突っ込んでも芸がないというか、マドカちゃん相手には無意味に等しいというか。

 

 決定的な一撃というのなら間違いなく神翼招雷が頭に浮かぶけど、もし流れ弾でも飛んで行ったら確実にシールドをぶち抜いてしまうだろう。となると、後のことはもう考えたくもないわけでしてー。はぁ……こういう時の為に、例の新技術を体得しておきたかったんだけど。

 

『お姉さん、お姉さん』

(わーっ!? び、びっくりした……この状態でも会話できるのね)

『あ、うん。前の時に説明したけど、黙ってたのは不安を煽る必要があったからで―――って、今はそんなの後回しだよ!』

 

 ああでもないこうでもないと思案していると、いきなり脳内で私の声が響いた。まぁ私というか、正確にいえば私の肉体の真なる持主である黒乃ちゃんの声なんだが。あまりに急なことに驚いたが、どうにも黒乃ちゃんは私の心配をしている暇がないくらいに慌てているみたい。

 

『威力調整の練習してたでしょ?あれ、もしかしたら良い手があるかも』

(マジですか!?おせーて、おせーてくれよぉ!)

『えーっと、お姉さんの記憶からサルベージしたものだから少しボンヤリしてるけど……』

(ん~……?あ~……?これは、後半のインフレが半端ない某NINJAマンガ……?)

 

 思い出せる記憶には偏りがあるが、黒乃ちゃんが私の記憶を漁って見つけた資料はキチンと理解ができる。あのマンガの前半頃……そう、主人公の代名詞ともいえる必殺技が完成したころだったかな。あの必殺技も繊細な技術が必要とされ、おおざっぱな性格の主人公は苦労していたっけ。

 

 簡単にいえば、放出した膨大なエネルギーを回転させつつ掌の上で留める必要がある。だが繊細なエネルギー調整をしつつ圧縮なんて技術をできなかった主人公がどうしたか。そこはNINJAマンガであるだけに、分身を出現させて放出役と回転圧縮役を分担―――っ!?まさか……。

 

(黒乃ちゃん、つまり―――)

『できるかどうかは解からないけど、やってみる価値はあるんじゃないかなって!』

(うん、激しく同意。私たちも2人で1人だからね!)

 

 やはり想像した通り、黒乃ちゃんが言いたいのは自分たちも役割分担してみようよってことらしい。上手くいく保証はないながら、確かに私は2つの思考が同時に可能であるに等しいはず。マルチタスク、なんていったりするあれが近いかも知れない。

 

 今までだったら露知らず、黒乃ちゃんと対話を果たした今は成功する気しかしてこない。その自信が現れてしまったのか、発動させた神翼招雷には結構なエネルギーを費やした。多分だが、向こうからも翼は視認できるだろう。一応は注意しながら、私は右掌を前へ突き出して構える。

 

『役、どう分ける?』

(エネルギーの調整は私がやるよ。黒乃ちゃんはブレードの形成を!)

『うん、任せて!』

 

 なにも私は微細なエネルギー調整が苦手ということではなく、単にそれとブレードの形成を同時に行えないだけだ。ならば長期間に渡り刹那を運転してきた私こそが、絶妙な加減を問われる操作を行った方がいいだろう。黒乃ちゃんも学園祭の時に発動そのものはしているから、後の感覚は伝えなくとも解かるはず。

 

 黒乃ちゃんの頼りがいのある言葉を受け取り、それを合図にするかのようにして神翼招雷のシーケンスを進めていく。まずは倍加させつつ刹那へ供給。そして通常時は倍加したエネルギーが倍加しながら掌から放出されるわけだが、今回に限ってはここからが大事になる。

 

 いつもはこう……無遠慮に蓄積したエネルギーを一気に撃ち出すイメージだ。それでは黒乃ちゃんが形成するレーザーブレードはいつものとなにも変わらない。だから、ゆっくり……ゆっくり……現在4倍まで増幅されているエネルギーを絞り出していく感じで―――

 

『お姉さん、最高の匙加減!これなら……』

(黒乃ちゃん、集中。ここから先は、私の放出の速度とキミの形成の速度を合わせないと思った通りに伸びていかないからね)

『は、はい!』

 

 集中しているせいかよく解からないが、どうやらレーザーブレードの切っ先ほどを形成するのには成功しているみたいだ。しかし、説明した通りに難しいのはここから。どちらが早くても遅くてもダメという、2人でやるにしても高難度であることは変わりないようだ。

 

『……ねぇお姉さん、いつも技名つけてるよね?』

(ま、まぁね……)

『じゃ、今回もそれを合図にしようよ。せ~の、とかじゃ味気ないし』

(ん、それはなかなかいいアイデアかも。それじゃ―――)

 

 天翔雷刃翼と震天雷掌波に限っての名付け親はかおるんだが、なんだかんだで気に入ってたりはする。最近に至っては、技名の法則に従って絶天雷皇剣なんて自分で着けちゃったし。でも面と向かっていわれるとなんだか恥ずかしいというか、悪気はないんだろうけどそれがかえって……。

 

 い、いや黒乃ちゃんのアイデアそのものが使えるのは事実。ならば今回も新技だから、私がネーミングしなければならないようだ。今回も技名の法則には従いつつ、即興で考えたものを脳内で黒乃ちゃんに伝えた。するとしばらくの間を置いて、解かったという返事が。

 

(よし、そんじゃいくよ黒乃ちゃん!)

『うん!新技―――』

(『天刺雷掌槍(てんしらいしょうそう)!』)

 

 私たちが同時に技名を叫ぶと、凄まじい勢いで極細のレーザーブレードが飛び出していった。よし、よし……成功しているぞ!しかもこの細い見た目ながら、6倍のエネルギーが圧縮されているので掠っただけでもそれなりのダメージを与えることができるはず。

 

 赤黒い雷はグングンとその距離を伸ばしていくが、ここからが問題である。絶対なる安全圏なため反撃される可能性を考えなくていいのは最高なのだが、そもそもこの天刺雷掌槍をどうやって当てればいいのだろう。距離が開いていれば開いている分、回避も容易いというのは常識で―――

 

(あぁ……やっぱり避けられて―――)

『まだだよ!まぁぁぁぁがぁぁぁぁってぇぇぇぇっ!』

 

 ギリだがハイパーセンサーで捕捉できているが、私の目に映ったのは軽く避けちゃうマドカちゃんの姿だった。そりゃそうだよねぇ、と私がガッカリしたような声を上げていると、いきなり黒乃ちゃんのシャウトが響き渡るではないか。するとどうだ―――

 

(お、おお……?ホ、ホントに曲がった!?)

『お姉さん、伸ばしていかないと途切れちゃうよ!』

(あ、う、うん!)

 

 やはり前に私が考察した通りに曲げることが可能な仕様なのか、黒乃ちゃんのシャウトと共に天刺雷掌槍はグググと曲がってマドカちゃんに命中。思わずそれに感心してしまってボーっとしてしまったが、黒乃ちゃんの言う通り私がエネルギーの放出をやらねばそこで打ち止めになる。

 

 私がエネルギーを絞り出すのに合わせ、黒乃ちゃんも天刺雷掌槍の形成を継続させる。結果としては、マドカちゃんをイッチーとモッピーの近くから遠ざけるくらいには伸びたぞ。しかもその間にダメージを喰らわせ続けられたようで、あのジェスチャーからしてマドカちゃんはかなり悔しがっているのだと思う。

 

『大成功だね!』

(黒乃ちゃんのおかげだよ!)

『えへへ……。……お姉さん、戦っている間は私も起きてるね。なにか思いついたら声をかけて欲しいな』

(うん、そっちも!)

 

 さて、これで先頭に景気をつけることができただろう。それもこれも、私の中で元気に喜んでいる黒乃ちゃんのおかげだ。なんというか、やはりセンスやら才能やらを感じずにはいられないな……。黒乃ちゃんの貴重なアドバイスを今後も拝借するとして、待っててね2人とも!私が今すぐ行くからね!

 

 

 




ダブル黒乃→私たちが力を合わせればこんなものだよ!
マドカ→たった1回みただけでマネられただと!?

VSマドカにおいて、どうしてもやりたいシーンがあるので。
それに伴いオリジナル要素をぶち込ませていただきました。
もはや黒騎士である必要性も特になかったんですけどね……。

次回は黒乃も交えて、VSマドカ後半戦といきましょう。

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