八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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表では主に黒乃VSゴーレムType Fをお送りします。
今話に限っては、表から読むことを推奨させていただきます。


第101話 雷光散華(表)

(やるって意気込んだのはいいけど―――)

 

 絶天雷皇剣が効かなかったという事実は、自分で感じている以上にメンタルへきている。それだけならまだしも、今の一撃にかなりのエネルギーを割いてしまったという単純かつ致命的な問題も。それが同時に襲い掛かるとなると、作戦なんてまともに思い浮かぶはずもなく―――

 

 くっ、近頃は神翼招雷に頼り切りだったというのもあるけど、防がれてしまったら次どうするか思いつかなくなるほどだったなんて……。バードゴーレムがこちらを見据えるばかりだからまだいいが、なんだか切り札を無効化できるんだぞと主張しているみたいで腹立たしい。

 

『――――――――』

(うわっと!……ええい、ホントもうやるしかない!アホなんだから考えたって仕方ないっしょ!)

 

 今度はそちらから仕掛けてこないのならとでも言いたげに、おもむろにレーザーカノンを展開して撃ってくる。弾速は速めだが直線運動ゆえに反射で避ければなんとかなるけど、ここから先はQIBもOIBもほとんど使えないと思わなければ。

 

 今すぐにエネルギー切れになるほど切羽詰まってはいないが、意識せずに発動させてたらそれこそ詰む。昔の刹那は刀7本でやってきたんだ。とどめだけもらったとはいえ、ゴーレムⅠを撃墜したことだってある。ある男曰く―――戦いの基本は格闘だ!為せば成る、絶対にコイツだけは―――

 

(落とぉす!)

『――――――――』

 

 私が決意を新たに動き始めたと思ったら、またしても可変で逃げの一手ときた!思わずキーキー叫びたくなってしまうが、そんなことしてる暇じゃないのが現実か……。なんといったって、逃げの一手というのは少しばかり語弊が残るからだ。

 

 曲芸飛行のように狙いを定めさせないようにしつつ、奴の周囲にはリモコン手裏剣が浮いている。どのタイミングで差し向けてくるのかは解らないが、高確率で刹那を消耗させる目的で使用してくるはず。そうなれば無意味に追うことも愚策、攻撃できるタイミングを待つのも愚策となってしまう。

 

 だが、前者に至っては無意味にという場合のみ無駄ということだ。先ほども思い出したが、基本に忠実にをテーマにいこう。昔だったらQIBもOIBも使わずにあれくらい追いかけていたはずだよ。実際のとこ、通常飛行での追走の訓練なんて飽きるくらいやった。

 

 鷹兄をはじめ近江重工の皆さんの推移を結集させた機体だ、ここでやらねばあの人たちの努力を無に帰すのに同義。コースを読め、AIだからある程度の法則性はあるはず。指先の神経1本1本を操るかのように集中しろ。刹那は僅かな操作の差で飛行の鋭さに違いが出るのだから。

 

『――――――!?』

 

 そうやって基本に忠実に、今まで学んできたことを1つずつ丁寧に思い返しながらバードゴーレムを追いかける。するとどうだろうか、ハイパーセンサーに表示される奴との距離が徐々に縮まっていくのがわかる。よし、よし!やれているよ私!さぁ、基本に忠実にっていうのはなにも飛行だけのことじゃない―――

 

『――――――――』

(格闘のことに関してだって!)

 

 私から逃げられないことを悟ったのか、バードゴーレムは形態を人型に戻してこちらへリモコン手裏剣を放つ。絶天雷皇剣を使うと鳴神の刀身は消えてしばらく使い物にならない。代わりに叢雨と驟雨を抜刀しリモコン手裏剣を迎え撃った。

 

 そう……たしかこうやって、万が一だのいわれて投擲された物を刀で弾く訓練もしたじゃないか。あの時はなんでこんな怖い目にとか思ったが、ありがとう鷹兄―――練習しといて損はなかったよ!正面から向かってきたリモコン手裏剣を、戻ってくることを想定しつつ大きく弾く。

 

 高速回転しているために切り裂くまではいかないが、とにかくこれでバードゴーレムと1対1だ。向こうも重ねて観念するかのように、初手で見せた腕部収納型の刃を出してくる。それを殴りかかるようなモーションで振るうバードゴーレムの動きに合わせ、私はなんの躊躇いもなく叢雨・驟雨を振るう。

 

(やああああっ!)

『――――――――』

 

 刃と刃がかち合うと同時に、衝撃の激しさを物語るかのような火花が散った。初撃は唾競り合いのような状態へ移行したが、基本に忠実にという理念でいくならまずそれはあり得ない。私はすぐさま刃を離すと、休ませる暇を与えないように次々に斬撃を繰り出した。

 

(なにも!考えずに!連打ぁ!)

 

 私の叩きつけるような連続攻撃に対し、バードゴーレムは冷静にというよりは反撃の手がないといった様子。とりあえずは防御を固め、リモコン手裏剣が戻ってくるのを待つといったところだろうが、そうはさせてたまるかってもんですよ。なにも考えずにとはいったけど、無策ってことではないさ。

 

 それまで振る動作で攻撃をしていたが、脇差型の驟雨を懐に潜らせるよう突き入れる。するとそれに反応して見せたバードゴーレムは、刀身をわしづかみすることで刃の接触を止めた。えぇ、それで正解ですとも。ありがとうね、見事に止めてくれちゃって!

 

(ふんぬ!)

『――――――!?』

(あんまり使ってあげられなくてごめんね、出番だよ霹靂!)

 

 私はなんの未練もないかのように、驟雨を握っていた手を離した。と同時に上へ向けてQIBで飛び上がる。とはいっても、逃げるためのものじゃなく次の攻撃へつなげるため。肘を曲げて仕込み刀である霹靂を展開させると、今度は下へ向けてOIB!

 

(狙うは―――肩関節っ!)

『――――――!!』

(いよっし、そのまま斬り裂く!)

『――――――!?』

 

 OIBの加速度を利用し、肩関節を狙い突貫。思ったよりも簡単に霹靂の刃はバードゴーレムの肩へと突き刺さり、ショートしたらしい電撃をあげた。だがそのままで終わる気はなく、OIBを継続させつつ腕を手前に引くようにしながら下へ向けて力を入れ続ける。

 

 刃そのものは短いせいで機能停止には追い込めなさそうだが、バードゴーレムの肩から胸周辺を割くようにして霹靂は突き抜ける。こういった時にしか出番はあげられないが、霹靂を使った際の功績は大きいぞ。これで後はどうにでもなるはず。

 

『――――――!!』

(あ、しまっ―――うぐっ!?)

 

 バードゴーレムもただでは転んではくれず、回転しながら翼を振り回して殴打するような攻撃を仕掛けてくる。ピンポイントを狙っていたのか、私の顔面に思い切りそれが叩きつけられた。こ、この……よりによって顔なんか狙いおって!これ以上傷がいったらどうしてくれるんだまったく。

 

 結構な勢いであったせいか、頭と足の位置がそのまま逆さになってしまう。が、顔の心配ができるってことは落ち着いている証拠だ。私は上下反対のままバードゴーレムと距離を置き、その辺りで戻ってきたリモコン手裏剣にも冷静に対処。安全が確保されたところで、姿勢を正しい位置へと戻す。

 

(けどこれで……)

『――――――――』

 

 私はハイパーセンサーで、先ほど入れた傷をじっくりと観察。うん、やはりどこからどう見ても深い。だとすれば、私のやるべきことはただ1つ。あの傷からバードゴーレムの内部へ、膨大な攻撃性エネルギーを流し込んでやることだ。つまり―――神翼招雷である。

 

 奴がレーザー反射コーティングを施されているのは理解した。あの弾き方からして、翼だけでなく全身反射すると考えていいだろう。だが流石に内部までそういう機能を付与することはできまい。もし仮にできるとするならば、バードゴーレムはなにも気にした様子をみせないはずだ。

 

 翼攻撃の後に追撃なんてできたはず。しかし、私を大人しく下がらせてくれたのをみるに、奴も距離を置きたかったんだと思う。つまり、それが内部はレーザーが効くと考えていいはず。ブラフという可能性も考えられるが、それは相手が人間なら心配する必要があるだけであってAIなのだから問題ないだろう。

 

(ただ、問題は山積みなんだよね……)

 

 至ってシンプルではあるが、まずどう当てるというのも問題。絶天雷皇剣を発動させた際のように大きな隙はもうくれないだろう。威力は高いけれど、神翼招雷を使って発動させる技はどれも回避は難しくない。更に変態飛行が可能なモードがあるのならなおのことだ。

 

 つーか、ぶっちゃけ発動そのものが困難な状況なんですけどね!ハハハ。……ダメだ、笑えない。どのみち現実を受け入れて打開策をみつけないとなぁ。え~と、さっき発動させた神翼招雷にかなりのエネルギーを割いちゃったわけだ。でも奴を仕留めるには、アレ同等に膨らます必要があるはず。

 

 けど、神翼招雷は発動させた時点で指定したエネルギー量を食ってしまう。つまり、使い始めてから実際の攻撃に至るまでの間に、ダメージを受ける等の原因でエネルギーを削られると恐らくはそれでアウト。刹那を展開していられずにゲームオーバーがいいところだ。

 

(ぬ……やっぱ地道に疾雷と迅雷に頼る?それとも掌から出せるレーザーブレードでどうにか―――)

 

 同じくレーザー兵器ではあるのだが、いまいち決め手に欠けるというかなんというか……。別に見た目が派手だからって理由から神翼招雷にしようってことではないけど、当たった場合の確実性でいうなら間違いないからな。う~む、なんとかうまいことエネルギーの効率を―――

 

(エネルギーの……効率……。あ、その手があったか!)

 

 やっぱりゲーマー的に思考を止めないでいたらなにか思いつくもんだ。この間鷹兄に雷光の排出エネルギーの効率を弄れるように仕様を変更してくれたじゃないか。意図的に効率を変えてしまえば、少しずつエネルギーを吐き出せるようになるはず。だとしたら問題解決だ!

 

『――――――――』

(うわっ!そりゃ、流石に邪魔しにはかかるよね……)

 

 私がコンソールを呼び出すと同時に、バードゴーレムがこちらへ驟雨を投げつけて来た。本当は受け止めて鞘に戻したかったが、生憎そんな暇はない。私に出来たのは、遠くへ飛んでいく驟雨を見届けるくらいだ。くっ、ごめんね驟雨……後で必ず拾いに行くからさ。

 

 遠距離攻撃が妨害行為になりえないと判断したのか、バードゴーレムはまたしても腕から刃を伸ばした。そのままコンソールの操作を続ける私に肉薄してくるけど、ここは気合で避けながらなんとか頑張らなくては……。回避!操作!回避!回避!操作!―――といった感じで、回避を主としながら雷光の仕様を変更―――

 

(―――完了!どっせい!)

『――――――――』

 

 これが最適かは未知としかいいようがないが、通常時と比べてもかなり落とした。これで機動力に関して手放したのも同然ともいえるけど、確実に仕留めてしまえば良いだけの話。さぁて、それならこのターンで決着をつけることにしましょうか。いくよせっちゃん、私に力を貸してくれ!

 

(神・翼・招・雷!)

『―――――――?』

 

 私がこのタイミングで神翼招雷を使用するのが不可解なのか、バードゴーレムは少しばかり様子をうかがうような仕草を見せた。しかし、それならそれで好都合だとでも言わんばかりにレーザーカノンとリモコン手裏剣を展開。多分だけどぶっぱするんじゃなくて、手裏剣反射でやらしく攻めてくるんだろう。

 

 なんて思っていたら、あっという間に広範囲をリモコン手裏剣に制圧されてしまった。まぁなに、焦ることはないさ。このために雷光を弄ったのだからね、そう……このために。私は神翼招雷で倍加させたエネルギーを刹那へ取り込み更に倍加。いつもならここで腕やらに分配するのだが―――

 

(再放出!)

 

 翼から本体へ流したエネルギーを翼として再放出。これで発動時と比較すると6倍まで膨れ上がっているわけだ。だが、エネルギー効率を落としているので翼の大きさはまだまだ小さい。つまりは、いつもの大きさになるまでこれを繰り返せばいいという魂胆なのだ。

 

『――――――――』

(はんっ、当たるもんですかっての!)

 

 神翼招雷を発動させた際の初期エネルギー自体が微量ということは、まだまだ刹那にエネルギーは残されているということだ。バードゴーレムが威力を絞ったレーザーカノンをリモコン手裏剣へ向けて撃ち、複雑な反射をしつつ四方八方から私を襲う。QIB・OIBは使えないながら、巧みに避けても余裕なくらいの残量は確保できている。

 

 後の利点といえば、タイミングを熟考できるところだろうか。いつもの威力が出るまで倍々していくのには時間がかかる。だが、なにも生真面目にいつもの威力まで待つことはないのだ。倍々を繰り返しつつ攻撃を避け続け、撃てるタイミングを待って仕掛ける。難しいが、もうこれしか残されていない。

 

(そういうわけで、地獄の耐久レースを始めましょうか……!)

 

 ここから先―――というかずっとそうなのだが、集中力を切らせては命に関わる。油断をすれば膨らませたエネルギーを暴発させてしまうだろうし、普通にレーザーへ当たるのだってバッドだ。どちらがより悪いかと聞かれれば圧倒的に前者だが、なんか攻撃を喰らうのって精神衛生上よくないじゃん。

 

『――――――――』

(ん……私がどういうつもりなのかバレたかな?)

 

 攻撃を華麗に避けつつ倍々を繰り返していると、途端にバードゴーレムの攻め手が苛烈なものになった。それは人間の焦る姿にどこか似ている。AIだから焦るという概念が存在しないから、これは私がどういうつもりで倍々をし続けているか読まれたとみていいだろう。

 

 だからといって倍々を止められないから苦しいところである。さっきもいったが、止めたらそれは私の心の臓が止まるのと同じ意味を持つ。つまり、やっぱり避けつつ倍々は変わらずってことだ!それまで無傷を保てていたが、流石に刹那の装甲各所にレーザーを掠らせてしまう。

 

 大丈夫、大丈夫……私に掠るより数倍まし!そうやって自分に言い聞かせながら回避と倍々を続けるが、これはこれでまずいことになってきたぞ……。なにかって、奴に震天雷掌波などの攻撃を当てる隙が見当たらないよいうことだ。いや、こちらの狙いを見透かされたのなら意図的に隙を消している……?

 

 って、今そんなことはどうでもいい。問題なのはこのまま倍々を続けていると、そのうちいつものエネルギー倍率を超えてしまうということだ。神翼招雷で考案した必殺技のバリエーションの1つに、倍加させたエネルギーを腕で留めて爆発させるというものがある。

 

 つまり、エネルギーを取り込んで長時間放置していると不可に耐えられず爆発するということだ。それをこのまま倍々させたエネルギーがと付け加えたらどうなると思う?乗り手である私からいわせれば、腕とかそんなの関係なしに―――刹那そのものが大爆発を起こすはず。

 

(ま、まずい……まずい、まずい、まずい!)

 

 しかもただの爆発じゃなく、行き場を失ったエネルギーが周囲一帯を巻き込みながら。冗談とかそんなのじゃなく、本気でバトルマンガみたいなことになるぞ。そんなエネルギーの爆破現象に巻き込まれたらどうなる?……想像つかないよ!絶対防御があったってそれは流石に―――

 

(死ぬ……よね……?)

 

 …………っ…………落ち着け、落ち着け!回避を止めるな、倍々を止めるな。死ぬからなんだ、こいつだけは死んでも潰す。最悪、一か八かくらいの気で震天雷掌波を撃てばそれで解決じゃないか。最終的にどこまで膨れ上がるかは全くの謎だが、膨大過ぎるくらいなら巻き込みだって狙えるはず!

 

 前向きに行け。どちらにしてもこれしか選択肢が残されていなかったからそうしたんだ。つまりどう転んでも震天雷掌波を撃つことはまず確定している。———のなら、そうビビる必要もない。本当に落ち着け、1つのミスが台無しに繋がるんだったらなおのこと。

 

(というわけで、続行!)

 

 攻撃するタイミングを図る私は、まるで荒野のガンマンが如くその瞬間を待ち続けた。だけど翼がどんどん大きくなっていくだけで、そのタイミングとやらはいっこうに訪れる気がしない。いい加減に限界近いのか、モニターに警告表示が出て正直鬱陶しくなってきた。

 

 そうやって私がイライラし始めた頃だろうか、なんだかバードゴーレムが距離を測りかねているような仕草を見せ始めた。……みた事も無い膨大なエネルギー量に、対処をしかねてAIが処理不全でも起こしているのだろうか。なんにせよ、これほど好都合なことはない。きっとこれでチャンスはかなり増えたはず。

 

(よし、よし……!次で一気に距離を詰めて、本体への供給はラストだ!)

 

 動揺してるのが人間にせよ機械にせよ、私とせっちゃんのやることは変わらない。シンプルイズベスト、寄って斬る―――なのだが、今回の場合は寄って殲滅、つまりアクセス&デストロイ!とりあえずは、半端じゃない大きさになった天翔雷刃翼で接近だ!

 

『――――――――』

(遅い―――ってほどでもないね。今は私が速いんだ!)

 

 攻撃性能を持つ代わりに天翔雷刃翼の推進力はOIBには劣る。———はずなんだけど、規格外の倍々を続けたせいで出力が凄い。つまるところ速度がやべええええええっ!け、けど……バードゴーレムの攻撃なら全て見切った。奴も必死で抵抗を見せるが、想定されてすらいない速度を手に入れた私からすれば無意味ぃ!

 

(この距離なら―――)

 

 というか、逆にここまで近づいているのに可変して逃げないってことは、向こうも私が攻撃した瞬間を狙っているということなのだろう。しかし残念だったな、撃ったら私でもどうなるか解らないものをテメェが想定しきれるわけなかろうに。そのまま派手にぶっ飛びな!

 

(雷の翼、本体へ供給―――う゛っ!?あ゛ぁぐ……ま、さか……こんな時に……!)

 

 何倍まで膨らんだか存じぬエネルギーを刹那へ取り込んだ―――その瞬間のことだった。私の頭には脳を直接揺さぶられたような感覚。そしてそれに伴い視界は歪み、意識が遠のいていく。例のアレだ―――例の頭痛がこんなタイミングで起きてしまった!

 

 耐えろ!惚けるな!とにかく奴を見据えなければ!今日のは特に酷い―――だが意識を集中させなければ確実に死ぬ。未だ霞む目線の先には、レーザーカノンを構えているバードゴーレムの姿が。更に砲口では既にチャージが始まっている証拠を示すかのように、エネルギーが集約しているのが見えた。

 

(機体の安定をさせている暇もない……だったら震天雷掌波も撃てない!どうする、私にはなにが残されて―――)

 

 刹那の装甲各所には、赤黒い電撃を帯び始めていた。響く警報の音もこれまでにないということは、つまり、そうだよね……。なにが残されてって、白々しい―――私が1番よく解っているじゃないか。残された最後の選択肢―――それを選ぶしかないっていうことを!

 

『――――――――』

(ここは気合で避けるしかないから頑張れ私ぃぃぃぃ!)

 

 チャージ時間は短いが、私を殺せる威力でレーザーカノンを撃ってきた。でもねぇ、初っ端に最大出力をみちゃってるから驚きも薄いんですわ。私は勢いを死なさないよう配慮しつつ、わずかに体を捻らせた。すると、レーザーは私の背中ギリギリを通過していった。

 

 それすなわち、雷光は巻き込まれてしまったということ。ハイパーセンサーでしっかりと、私をここまで飛ばさせてくれた翼の最期を見届ける。そして雷光は爆破、ほとんど跡形も残らないくらいに消滅した。今までありがとう、何度アップグレードされたって私の翼はキミだけだよ。

 

(だから、敵は討つ)

『――――――!?』

 

 やはりちょっとやそっとじゃX倍天翔雷刃翼の推進力は死なず、私はそのままバードゴーレムに抱き着いた。むしろ抵抗をさせずに地表の方へと高度を落とさせるくらいの速度だな。向こうも抵抗をしているつもりなのかジタバタと暴れるが、そこは死んでも離さないという意志の元―――私がこの拘束を解くことはない。

 

 地表が近づくにつれ、刹那の装甲にはだんだんと亀裂が走り始めた。そして、そこから抑えようのないエネルギーが漏れ始める。迸る電撃も激しさを増し、赤黒い状態から赤、赤から白といったように爆発の予兆を感じざるを得ない。……皆は、どうしてるかな、ちゃんと勝てたかな?……せめてもう1度だけ、あなたに―――

 

「待て……馬鹿な真似はよせ、黒乃!そいつも俺が倒すから、だから―――」

(アハッ、良かったぁ……勝てたんだ。うんうん、それでこそ私の旦那様!)

 

 私の名を呼ぶ声―――イッチーの声が聞こえる。姿は……まだ遠いかな、けど爆発に巻き込まれることはなさそう。最悪イッチーと白式には雪羅の盾もあるし、心配ではあるけど大丈夫だって信じるしかない。あぁ……本当に、最期にあなたの姿を見れて、あなたの声が聞けて、あなたが私の名を呼んでくれて―――

 

「よかった……」

 

 私たちが地面に激突する寸前のことだろうか、鼓膜を破くような衝撃と共に―――刹那は内に溜めたエネルギーを全て吐き出す。―――なにがなんだかわからなかった。爆発の衝撃、焼けた鉄の温度、電撃の奔流―――それら全ては言葉で表現しきれない。ただ―――痛い、苦しい、熱いといった単語でしかたとえられない。

 

 だがこれは表現できるかもね。爆発の衝撃で吹き飛ばされる浮遊感―――これだけ勢いよく飛び出たというのに、しっかり重力に従い落下していく感覚がハッキリと解る。そして更なる衝撃―――なんだかもう他人事のようにすら思えてきたが、この感じは―――

 

(地面……)

 

 次の瞬間、ゴシャだとかメキャだとか―――えげつない音が響く。私が頭から地表へ落ちたというのを否が応でも思い知らされる。それこそ頭痛の比なんてもんじゃなく、脳に響くとかのんなんじゃなく―――ただひたすら頭という人間の部位が痛くて痛くて仕方ない。

 

 しかも最悪なのは、ここまで酷いことになっておいて気絶ができないでいることだ。いや、死ねなかった……かな?未練たらたらってことなのだろうか。それならそれで、奴を倒せたかどうかこの目で確認しておかないと。私は首だけ動かして吹き飛んできた方向を視界に入れた。

 

(あぁ……大丈夫そうだ……)

 

 私の目に映ったのは、ドーム状のようにしてその場にとどまるエネルギーの奔流―――の中心部にいるバードゴーレムだ。反射コーティングはしっかり機能しているようで、絶天雷皇剣の時のように塊になったエネルギーがヒュンヒュンとあちこちへ飛び散っている。

 

 が、私が霹靂で斬り裂いた箇所はそうはいかない。しっかりとそこだけエネルギーを弾いていないことが見て取れるし、バードゴーレムもそこからショートでも起こしてるのか壊れた玩具みたいにガクガクと痙攣するような仕草をみせていた。へっ、ざまぁ……プークスクス!

 

 ……はぁ……ダメだ……眠くなってきたかな……。最期の最期まで悪ふざけてくのが私のスタンスってことでどうっすかね?……いったい私は誰に話しかけているのだろう。まぁ……明るく逝ければそれが1番だよね。なんだか、疲れた……。今までの疲労が、ドッと襲ってきたような……。

 

「黒乃っ!あぁ……黒乃……黒乃!なんで、こんな……!」

「……泣か……ない……で……」

「ふざけんな、無理に決まってんだろそんなの!だって、だって、黒乃が……黒乃が!」

 

 いつの間にか、私の傍らには雪羅の盾を展開して居座るイッチーが。よくみえなくなってきた目でその表情を捉えると、イッチーは情けないくらいに顔面を皺くちゃにしながら泣いているようだった。駄目だよイッチーってば、イケメンが台無し……。まぁ……別に顔なんてさ……よくても悪くても好きなんだけど……。

 

 駄目……だってば……。そんな顔されたら、私……心配で逝けない……よ……?できれば……私以外を恋人にしないで……一生独身でいてくれたらなって思っちゃう……じゃん……。ほら……もう、私の楔は消えるから……イッチーはとにかく生きて……。あぁでも……最期に……これだけは伝えない……と……ね……。

 

「愛し……てる……」

「おい……黒乃?なんでそんなやり切ったって顔なんだよ、もう全部終わったって顔なんだよ!待て、待ってくれ!俺は……俺はお前が……黒乃がいてくれないと―――」

(ごめん……もう……なにも見えない……聞こえない……とにかく眠くて仕方ないの……。……先に……逝くね……できれば……ゆっくり……追いかけてき―――)

「黒乃?黒乃……?あぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!くろのおおおおおおおおおっ!」

 

 

 




黒乃の安否に関しては、裏の方で描写しております。

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