八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第98話 再来・機械人形

「簪、殺気立つな。さっきから肌が痛い」

「……私は冷静……。ただの気合……気にしないで……」

 

 専用機持ちタッグトーナメント開催当日、開会式を前にした一夏&簪ペアがそんなやり取りを繰り広げていた。無事に打鉄弐式も完成し、問題なく出場できるようになった簪だが、その裏で密かに―――とは既にいえないほどに闘志を燃やしている。

 

 恐らくは、初戦の相手が箒&楯無ペアだからだろう。半ば一方的であるとはいえ、因縁があるのは間違いない。しかも開催数日前に宣戦布告を仕掛け、退けない状態を自ら作り上げただけに燃えるばかり。逆境を楽しむかのような発想が生まれたことは、簪にとって吉か凶か。

 

 ただ、隣に立っている一夏からすれば心配をしてしまう。浮足立っているわけでもなく、ましてや調子に乗っているわけでもない。しかし、ここまで殺気に満ち満ちるような場でもないのも確かだ。その姿がなんとなく八咫烏の黒乃とダブる気がして、やはりプラスかマイナスか悩むような溜息を吐いた。

 

「気楽にいこうぜっていいたいんだけど」

「…………。それは……正論……。うん、少し落ち着く……」

 

 やはりただの気合にしては力が入り過ぎだ。一夏がそう指摘すると、簪は割とアッサリそれに従う。それに伴って、似合いもしない闘気も徐々に収まっていく。いや、姿を変えたと表現した方が良いのかも。撒き散らすような感じから、研ぎ澄ますかのように。まるで虎視眈々と獲物に狙いを定め、静かに牙を研ぎ澄ます獣のようなオーラ。

 

(……さっきよりはマシか?とにかく、空回りとかしなきゃいいけど……)

 

 普段は似たような心配を周囲にさせているという自覚があるのか、一夏は日頃から皆にかけている苦労に対して胸中で謝罪を述べた。だが、あまり冷静でない状態の人物がいれば逆に落ち着くのを一夏は感じる。なにか起きれば自分がフォローせねばという責任感に似たなにかを背負っているせいだろう。

 

『織斑くん、更識さん。そろそろ時間なのでお願いします~』

「はい、了解です。……っし、ぶちかまそうぜ」

「うん……」

 

 ピット内に真耶の声が響くと、即時出撃を促された。ほどよい緊張感を持ちつつ、一夏と簪は互いに拳をぶつけあってそれぞれカタパルトへ移動を開始。専用機である白式、打鉄弐式を展開すると、アリーナ内へ向けて一直線に飛び出す。同じく、向こうからも2機のISが出撃してくるのがみえた。

 

 紅椿とミステリアス・レイディ―――箒と楯無だ。箒はいつも通りな侍然とした雰囲気をまとっていたが、どうにも楯無はいつものとは言い難い。その表情に一切の笑みはなく、軽口も飛びではしなかった。これは意外だと簪が訝しむような視線を送るが、まるで気にした様子をみせない。

 

 これは、楯無が簪を妹ではなく挑戦者として受け入れた証ともいえよう。ただ冷たく扱うということではなく、本気で自分へ挑もうとする簪へ最低限の敬意を払っているのだ。決戦前に馴れ合いなど戦士のすることではない。これから勝ち負けを決める相手に、軽口など叩けるものか。

 

 そういう楯無の心情を、まがいなりにも妹である簪は全て察した。そして心中によぎるのは、一抹の歓喜。今まで自らを保護する存在だと決めつけていた人物が、こういった戦いの場でそういう表情を浮かべる。それすなわち、対戦相手として認められているのだと簪は感じた。

 

「必ず勝つ……」

「ああ、けどな簪―――」

「大丈夫……ただのケジメだから……」

 

 輪をかけたような小声でそう呟くと、一夏はまたしても難しい表情で窘めようとした。しかし、簪は一夏がなにをいいたいか解っているように大丈夫だと制する。てっきり一夏は勝たねばそこで終わりだといったニュアンスの強迫観念に駆られているとでも思っていたのだろう。

 

 かつての簪なら、あるいはそう考えていたかも知れない。だが、モノサシを借りることを覚えた簪にはそんな考えの一切は消え失せている。ここで負けても何度だろうと挑めばよい。この場は複雑な姉妹事情に決着をつけるためのもので、結果はどうであれ簪は楯無と試合が終わり次第に言葉を交わす気でいるのだ。

 

「どうせなら、勝ってからの方がいい……」

「おう、簪のいう通りだ!」

 

 どうせ話すのなら勝ってからだと簡潔にまとめると、一夏はそれに心から同意した。さすれば、まずは開会式へ身を投じねばと気持ちを切り替えるが、どうにも一夏たちが出撃してからかなり経つのに進行する気配が全くない。これはどうしたことかと眉を潜めると、アリーナにアナウンスが響いた。

 

『会場の皆様にお知らせします。現在、機器のトラブルにより一時進行を中断しております。選手含め、もうしばらくの間お待ちください』

(機器……か、そういうこともあるよな)

(ま、近江先生がパパッと解決してくれるでしょ)

 

 唐突な内容に、会場の一同が脱力してしまう。第2アリーナで同じく出撃及び待機していたセシリアたち海外代表候補生組もだ。機器のトラブルといえばパッ思いつくのが鷹丸である部分も共通だった。一方の運営側はそれどころではなく、大慌てでトラブルとやらに対処をしている状況である。

 

「刹那の反応はまだ掴めんのか?」

「まだ掴めないというか、向こうがシグナルを消しちゃうと流石の僕もどうしようもないですからねぇ」

「藤堂さん、いったいどこへいってしまったのでしょう……」

 

 機器の故障だと誤魔化したが、その実トラブルというのはそんなものではなかった。そう、黒乃が姿を現さないのだ。千冬が運営委員会にエキシビションマッチを提案すると、返ってきた言葉は千冬とのタッグでという条件付き。師弟関係であるブリュンヒルデと次代のブリュンヒルデ筆頭のコンビとなると、大会が盛り上がること請け合いだろう。

 

 千冬は諸々の理由でそれを渋りはしたが、納得させるには仕方ないかと妥協したのにこの状況である。本来ならば開会式のラストで出撃し、この2人への挑戦権を得るのはどのタッグだ!―――という流れになるはずだった。教師陣からすれば、真面目な黒乃が時間になっても現れないことが異常事態なだけに焦りも大きい。

 

「心配はあるが、これ以上進行を遅らせるわけにもいかん。とりあえずは私1人で出よう。試合が始まり次第、再度落ち着いて捜索をするぞ」

「はい、それがいいですね。では、会場にアナウンスを―――」

「山田先生、待ってください」

 

 しばらく考え込むような仕草をみせた千冬だが、とりあえずはその場しのぎでも大会を進行する判断を下した。特に反論すべきところも見当たらず、真耶もそれに同意してアナウンスをかけようとしたその時だ。真剣そのものの声色をした鷹丸がそれを制し、高速で刹那の反応を追っていたマップを操作する。

 

「近江先生、どうなさいました?」

「謎の熱源反応が突然2つ、3つ―――いや、5つ!織斑先生、うち4つはアリーナ上空です!」

「なんだと!?くっ……総員、衝撃に備えろ!」

 

 警戒にあたっていなかったというのもあるが、本当に突然沸いて出たかのように熱源反応が5つも感知された。1つは島の外れに位置するようだが、うち4つは1アリーナにつき2つずつ。この時点でなにかあると察した千冬は、キィーンと鳴る大音量のハウリングも気にせずアナウンス用のマイクへ叫んだ。

 

 しかし時すでに遅く、まるでアリーナ全体を揺らすかのような衝撃が走った。いつしかの無人機襲来と同じく、アリーナのシールドを破壊する攻撃が仕掛けられたのである。そして千冬や楯無が憎々しい目つきでみつめる最中、やはりいつしかと似たような機体がアリーナへ舞い降りた―――

 

 

 

 

 

 

(さて、このあたりかな……)

 

 もうすぐ開会式の始まる時間だが、誰にも悟られることなく抜け出すことができた。場所は一応学園の敷地内。校舎や駅といった施設的建造物からはなるべくなはれた場所ってところかな。私がここになんの用事って、それは考えるまでもなくただ1つ。

 

 私に対してイッチーを出汁にして脅すようなマネをしたお馬鹿さんを跡形もなく消し去るためである。……ところでだけどさ、やっぱ最近の私って猫被ってるところはちょっとあるよねっ。やっぱぁ?少しは意識してキャピキャピしとかないと男の部分が出ちゃうっていうかぁ。

 

 だけど今回―――ちょーっと本気出しちゃおっかナー……。―――殺す、マジでぶっ殺してやる。うまく誘い出したつもりかも知れませんけど?完全に悪手だってのクソ野郎が。解ってねぇ、解ってねぇよ……私相手にそういう脅し方するってのがどういうことかってのをさぁ!ほら来いよ、産まれてきたことを後悔させてやる……!

 

 するとその時、刹那のハイパーセンサーにて、はるか上空に光るなにかを発見した。そのなにかは、次の瞬間には地上へ向けて急降下を始める。この勢いは……途中で止まる気はなさそうだ。こんなことでエネルギーを使うのもなんなので、ジャンプで大きく後方へ下がる。そしてその数秒後、地響きを鳴らしながら謎の物体が地面へ到達した。

 

(……ゴーレム―――いや違う、ゴーレムの魔改造機……なのか?)

 

 揺れと舞い上がった土が晴れると、そこにはゴーレムと思わしきISが。しかし、あくまでディテールがそれに近いと感じるほどで、後は全く私の記憶へ残るものとはかすりもしない。右腕に巨大な物理ブレードも見当たらなければ、ゴーレム最大の特徴である左腕のレーザーカノンも感知できず。

 

 カラーリングもアルミ箔でも貼ったような白銀だし、デザインは鳥……か?マフラーのようなマントのような、人間でいうとうなじから延びる二股に分かれた物体が羽根状になっているのが解る。というか、よくみたら頭部のバイザーも嘴を模してるようだ。まるでファンタジーにでも出てきそうな鳥人間を思わせる。

 

『――――――――』

(む、くるか!?)

 

 バードゴーレム(仮名)が腰を落としてどっしり構える様な姿勢をみせると、両腕部から火花を散らせながら流線形を描く刃が飛び出て来た。そして地面を蹴り上げスタートダッシュをかけると、低空飛行しながらこちらへ肉薄してくる。私は叢雨と驟雨を抜刀し、冷静にバードゴーレムの右腕、左腕の刃を受け止めた。

 

 相手は機械なだけあって馬力は凄まじい。ガリガリと地面を抉りながら後退することしばらく、ようやく勢いは死に唾競り合いの状態まで持ってこれた。……けど、体格差のせいでこのままだと押しつぶされてしまいそうだ。仕方ない、このままQIBで離脱するしかないか―――

 

『――――――――』

(なっ、伸びた!?うわっ!)

 

 私がQIBを吹かした瞬間のことだろうか。まるで意志でも持っているかのように二股マントがバードゴーレムの肩から伸びてきたと思えば、刹那の脚部に巻き付いて思い切り足を掬われる。QIB発動と同時にそんなことをされては、当然ながら機体の制御なんて保ってはいられない。

 

 あらぬ方向へ飛び出た私は、どちらが上か下かも解らない。三半規管がフル稼働し平衡感覚を取り戻せたときにはすでに遅く、私の視界に映ったのはバードゴーレムがかなり砲身の長い銃らしきなにかを構えている姿だった。そして轟音が鳴り響き、閃光が瞬けば―――極太のレーザーが私目がけて迫る。

 

(う……わああああああっ!)

 

 もはや平衡感覚がどうのといっている場合ではなく、レーザーを避けることが最優先事項だった。私はまたしてもあらぬ方向へQIBを発動させると、無理矢理にでもその場から移動して見せた。おかげで地面へ激突してしまうが、それで済んでまだよかったろう。

 

 私へ当たらなかったレーザーは、私より後方に位置する悉くを蹴散らしているからだ。木々や舗装された歩道はそこにあったかどうかさえ解らず、むしろ残っているとするならば大きな破壊痕くらい。やがてレーザーは彼方の海へ着弾し、大きな水しぶきを上げた。

 

(震天雷掌波ほどじゃないにしても、威力が高すぎる!やっぱり地上じゃ戦っていられないか……!)

『――――――――』

(これは……可変式のISだって!?)

 

 最初からそうするべきだったかも知れないが、これだけの破壊力を有する兵器を所持しているのは想定しておくべきだった。これは地上では戦っていられないと判断し、一目散に上空へと飛び上がる。バードゴーレムはしばらくこちらを見上げるばかりだったが、予想外の事態が繰り広げられた。

 

 なんと、バードゴーレムが変形したのである。人、鳥、戦闘機の3要素を掛け合わせたような形態となり、私を追って来るではないか。くっ、ちょっとカッコイイじゃん……なんていってる場合じゃないな。ほぼ近接攻撃しか持ち合わせない刹那では、あれに攻撃を当てるのは至難の業だ。

 

『――――――――』

(今度はなんだ……?)

 

 バードゴーレムが新たに展開したのは、周囲に浮かぶ円状の刃。注意深くそれを観察していると、キィーンと甲高い音を発し高速回転を始めたようだ。あぁ……なるほど、そういう武装か。新たな武装の用途を察すると同時に、無数の刃は私へと向けて射出された。

 

 やっぱり手裏剣みたいなものか……。しかもただの手裏剣ではなく、リモートコントロールでもしているらしい。なぜなら、手裏剣たちはまるで統率の取れた動きで迫って来るからだ。私の前後左右に分かれるように徒党を組み、着実に私を追い詰める算段みたいだな。

 

(そりゃ、速度的には普通に飛んでれば問題ないんだけどさ……!)

 

 恐らく奴の狙いは、これら手裏剣で私の動きの精細さを欠かせ、隙をみせたところに先ほどのレーザーカノンを叩きこむのが狙いだろう。つまりだ、あまり迂闊な動きなんて見せられたものではないということ。逆にこっちも神翼招雷で高火力の攻撃をぶつけてやりたいところだが―――

 

 うむ、やはり今はその時ではない。少なくとも人型の状態でなければまず当たらないだろう。相手は無人機、人間には不可能な飛び方なんかをしてくるだろうし、それが鳥だとか戦闘機だとかの形をしているなら、なおさら複雑な飛行をみせるはずだ。だとすれば、私が取るべき行動は―――強気に避けること!

 

(初心忘るべからず!基本に立ち戻れ―――そもそも刹那は避ける機体だ)

 

 私は1度手裏剣の包囲網から抜け出すと、あえて正面へ位置取るようにして待ち構えた。当然ながら、向こうは回避をしづらくするため、時間差を作って次々と迫ってくる。だが私は臆すことなく、刹那の速度を上げて手裏剣へと突っ込んでいった。

 

 普通にみれば無謀な手だろう。けれど、バードゴーレムを視界に入れておくことができないほうがよほど危険だ。ならばやってやりますか!刹那の特殊仕様であるQIBだが、今回は限りなく出力を落としつつ連続で吹かす。こういったリモートコントロール式の武装を大げさに避けてしまうと、いつの間にか追い詰められていたという事態になりかねない。

 

 これではもはや避けるというよりは、掻い潜るといった苦しいものが表現としては近いだろう。しかし、不格好だろうと構わない。なるべく消費エネルギーは抑え、一撃で仕留めてやるにはそれが良策。私にはもはや、ライザーソードを当てるビジョンしか見えてはいないのだから!

 

(よっし、抜けた!)

 

 僅かな隙間を縫うようにして抜け出すと、今度は前方に大きくQIBを吹かす。これにより、円形手裏剣も攻撃態勢に戻るまでもう少し時間をかけなければならないはずだ。そしてなにより、バードゴーレムは私の正面。向こうもこちらに迫ってきているように見える。

 

(確実に隙を作って―――)

『――――――――』

(んぅ……?今の射撃はなんの目的で―――)

 

 グングンと互いの距離が詰まるなか、リーチの長い鳴神を選択して抜刀。立ち止まらない程度に構えていると、不思議なことにバードゴーレムがレーザーを放ってきた。正しくいえばその威力が不思議なのだが、ブルー・ティアーズのBTによる射撃にも似た威力である。

 

 特別速いわけでもなく、私は軽く進路変更する感覚で回避した。そして滞りなく私の横を通り過ぎて行く。……?なにか狙いがあると見たほうがいいんだろうけど、全く予想がつかない。ダメだ、あんなのを気にするくらいなら攻撃に集中しなければ。そうやって私が鳴神を構えなおした瞬間のことだった。

 

(いだぁ!ちょっ、なんで後方から!?……って、あれは―――)

 

 突然背中に衝撃が走り、小規模の爆発を起こした。なにごとかと早急にハイパーセンサーにて後方を確認すると、私の目には信じられない光景が移る。なんと、先ほどバードゴーレムの放った威力を抑えたレーザーが屈折して飛んできたのだ。

 

 狙いは最初から私じゃなく、あの円形手裏剣だったか……!どうやらあれの側面にレーザーを当てると屈折させることが可能らしい。リモートコントロールの手裏剣を駆使し、角度を計算・調整して私のところまで届けたんだな……。しかし、所詮は初見殺しなだけだし囲まれていなければさほど脅威じゃない!

 

(このまま続行おおおお!)

 

 多少よろけはしたものの、OIBを発動させさらに加速。鳥型戦闘機形態を保ったままのバードゴーレムの上方を通り過ぎながら、下から救い上げるように鳴神を縦に振りかぶる。しかし、その斬撃は機体を90度傾けることによって簡単に回避されてしまう。

 

 しかもそれだけでなく、バードゴーレムは私の背後に回った途端に急停止。アーマーを変形させて鳥人型形態へと戻った。その両手にはまたしてもレーザーカノンが抱えられており、背後から私を丸焼きにしてやろうという魂胆がひしひしと伝わってくる。

 

(ところがどっこい、計算済みぃ!)

『――――――!?』

 

 バードゴーレムがそう来るであろうことは、いくつか用意しておいたパターンの1つに当てはまっていた。私も同じく、通り過ぎたときには既に行動を開始している。私は空中ででんぐり返しをするように体を丸め、それと同時にQIBも発動させた。

 

 これにより、私の体はとんでもない速度で上下が逆さまに。その勢いに乗せ鳴神を振るえば、多少距離が空いていようとリーチのおかげで届く!鳴神の切っ先はロングバレルレーザーカノンを上へと弾き、射撃体勢をキャンセルさせた。

 

『―――――――!』

(それも想定済みなんだっての!)

 

 よろけた瞬間に変形して飛び去ろうとするだろうとは思っていたが、まさにその通りだった。私は上下逆さのまま、急いでバードゴーレムの脚部を掴んでおいたのだ。脚部は特別収納するような変形姿勢ではないため、脚を掴んだままだとまるでリード紐に引っ張られてるようだ。

 

(よ~し、どうどう―――大人しくしような!)

『――――――――』

(新必殺―――刹那・飯綱落とし!)

 

 スラスターの出力では、どうやったって刹那が勝る。OIB発動と同時に一瞬だけ手を離してバードゴーレムの背面まで回れば、そのまま抱き着くようにして飛行の主導権を握った。そのまま急上昇し、頭を逆さにして急落下。あわや地面に激突というところで腕の力をほどけば、バードゴーレムのみが勢いそのまま地表へ真っ逆さまに落ちていく。

 

(よし、今だ!神翼招雷!)

 

 これほどまでのチャンスが2度あるか解ったものではない。ズドンと地鳴りが響くと同時に、神翼招雷を発動させた。もはや遠慮なんて考える隙も無く、暴発しない程度のエネルギー量には抑えてシーケンスをクリアしていく。予告はしたが、放つのはライザーソード一択!

 

 雷の翼として放出した倍加エネルギーを倍加させつつ刹那へ!刹那から腕部へ供給!掌部、鳴神との連結を確認!エネルギーを倍加させつつ鳴神へ供給!雷の翼、再放出!機体の安定を確認!エネルギーを倍加させつつ―――鳴神より放出!

 

 どこまでも青い空を赤黒く染め上げるかのように、巨大な雷の柱が天を貫いた。実際に使用するのは2回目になるが、やはりこいつは殺意に満ち満ちている。本来なら控えるべきなのだろう。けど―――やっぱり私を脅したクソ野郎は許さん。テメェもすぐにこうなるって意味を込めて、このレーザーブレード―――振らさせてもらう!

 

『――――――――』

(命名―――絶天雷皇剣!いっけええええええ!)

 

 人型形態のバードゴーレムが土煙の中から飛び出してきたが、ここまでくれば私の方が早い。ライザーソード改め、かおるん風のネーミングを借りた―――絶天雷皇剣を真っ直ぐ振り下ろした。バードゴーレムは白銀の翼を目の前で交差させガードを図っているようだが、そんなものに防がれては―――て……は……?

 

(そん……な……!?なんで、どうして!?)

『!!!!!!!!』

 

 バードゴーレムの頭上から絶天雷皇剣が触れた瞬間、まるでホースから勢いよく出る水を遮るが如く―――赤黒いエネルギーの奔流が弾かれていく。弾かれたエネルギーはといえば、暴れる流星群といった様子であちらこちらへ飛び散り、降り注いでいく。

 

 これならばまだ真っ直ぐ振り切った方が被害は少なかったろう。赤黒く輝く死の流星群となった絶天雷皇剣は、学園中へ巨大なクレーターを無数に作っていく。バードゴーレムの頭を飛び越えていった物も、巨大な水柱が次々に立つことで着水したことがみてとれた。そしてなにより―――

 

『――――――――』

(無傷……!)

 

 絶天雷皇剣として放ったエネルギーが尽きると、そこにはやはり悠然とバードゴーレムが立っていた。シュー……と各所から白煙を発しているものの、銀色の装甲はどこへも傷1つ見当たらない。絶天雷皇剣は確実に相手を仕留めると思っていただけに、私には大きな精神的ダメージのしかかってくる。

 

 レーザーを反射する特殊なコーティングでも施されていたか?いや、円形手裏剣がレーザーを屈折させる特性があると解っていた時点で警戒すべきだったのだろう。もっと早く疾雷と迅雷で攻撃を仕掛けていればレーザーが効かないということは簡単に解っていたのに……!

 

(けど、それでも!)

 

 そうだ、私はそれでもやらねばならない。命に代えてでもコイツだけは確実に潰さなくてはならない!でなきゃ、さもないと、イッチーが……愛する人が傷つけられてしまうかもしれないんだ!―――そう、心から覚悟を決めているはずなのに、私は怖い時の笑みが出るのを抑えられないでいた……。

 

 

 




約50話ぶりの最強必殺だというのに防がれるという。
最強なだけに早期決着を狙って使うと当たらないというのがお約束。
……と思うのは私が特撮脳だから?要するに「やったか!?」的な。

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