ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
数日後――大和執務室
光近は、大和の執務室で何人かの艦娘と共に海上安全整備局と海上安全委員会に向けての書類の作成に勤しんでいた。ちなみに現在は、艦隊の規模は大和に空母飛龍、護衛の駆逐艦だけというこじんまりとした艦隊編成にしていた。
カリカリカリ・・・
執務室に光近や艦娘たちのペンの音が響いている。そんな中、
コンコンコン
「どうぞ」
「失礼します」
大和がやってきた。彼女が来るということは、とあることが決まったということだ。
「提督、艦隊名と艦隊旗の審査が通りました」
「…結果は?」
「申請通り、太平洋艦隊としてということが決まりました」
思わずペンを握りしめてガッツポーズを取る光近。
「決まったのです!やったのです!」
光近の隣で喜んでいる電。
「また一歩、我々は前進できたわけだな」
「えぇ、それと一点報告があります」
少し大和の声のトーンが変わる。
「…どうした?」
「提督に横須賀に来いとの依頼が出ました」
それは突発的な事だった。
横須賀――海上安全整備局横須賀基地
「(ここが・・・こちらでいう横須賀基地か)」
光近は、ブルーマーメイドの平賀三等監察官にエスコートされ、この基地に出向いていた。
「(確かに、女性が多い職場だな)」
ちなみに、光近の隣には、霧島と不知火がいる。それから、桟橋を歩いていき、少し桟橋から離れた横須賀基地庁舎に向かう。
「(こちらの世界でも赤レンガ造りは変わらんか・・・)」
と眺めながら彼女にエスコートされ、中に入っていく。中は思いのほかしっかりした作りだ。
「(さて、鬼が出るのやら蛇がでるのやら・・・)」
「ご足労、感謝します」
ブルーマーメイドの士官たちに敬礼されるので、それに返礼し、前の階段の方を向くと
「よくおいでくださった、米内提督」
帝国海軍の黒い軍服を身にまとった威厳ある人物。彼こそ、海上安全整備委員会事実上のトップ 山元五十六だ。
「はじめてお目にかかります、山元委員長」
お互い敬礼をし合う。
「委員長、紹介します、戦艦霧島艦長の"霧島"と駆逐艦不知火の艦長"不知火"です」
「御目にかかれて光栄です、委員長」
「不知火です」
「山元です、よろしく」
慣れた様子で挨拶していく二人。
「(名前に字は違えど、あの山本五十六と同じ名前・・・どうなっているんだ、この世界は?)」
それから山元委員長とブルーマーメイドの士官に案内され、大広間の会議室に案内された。
部屋にいたのは、まさに歴史上の人物と大差ない名前の面々だった。
「(一体、どういうことだよ・・・)」
海上安全委員会の委員は、山元五十六委員長以下、黒島鹿目人、南雲宙一専務理事。宇垣纒目、井上重義、有賀工作、政務官。三河群一、豊下副武、古賀峰一、大野武二、常任委員と、その名を知っている者としては、このめぐりあわせにただ驚くしかなかった。
「・・・さて始めようか、まず君達に関しての報告書を読ませてもらった」
「恐れ入ります」
「それでなのだが、我々は君達からの提案を受領しよう」
「ありがとうございます」
光近の言葉の直後、山元は少し顔を曇らせる。
「但し、こちらからも君達に要請することがある」
「(要請だと・・・無理難題でなければいいがな)」
そういうと、山元は一枚の紙を差し出してくる。
「君達が、我々の活動に協賛し、活動してくれるのは多いに結構、それに対し我々は出来る限りのサポートを行う、だが、この条件はのんでほしい」
「・・・失礼します」
光近はその黒いファイルの中身を見る。
「(・・・連合艦隊編成の禁止だと!?)」
そこに書かれていたのは、海上安全委員会の連名での連合艦隊の編成の禁止についてであった。
「山元委員長、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「単純に言うとすれば、君達を脅威と認識している一派がいるということだ」
「我々を脅威ですか・・・」
「そうだ、我々は海上安全整備委員会という非軍事主体の中にいる、しかし、そこに君達のようなものが現れてしまっては、その存在意義を問われる、それだけはあってもならないのだ」
「・・・つまり、我々に日蔭者になれと?」
「いや、そういうことではない、時が来れば君達のその存在は世間から認められる、だが、今はその時ではないのだ」
山元の意思のこもったその言葉に、光近は納得する
「わかりました、連合艦隊編成に関しては飲み込みましょう」
「うむ、決定のようだな」
そういうと、一通りの事が決定し、晴れて光近はこの世界での役割を得た。
「(ふぃ~なんとか終わったな・・・)」
会議室を出て、胸に溜まっていた息を吐き出す光近。ふと、後ろを見ると霧島も不知火もなれないものか少し安堵の表情を浮かべていた。
「お疲れ、二人とも」
「いえ、提督の気疲れに比べればなんともないですよ」
「えぇ、さすが提督です」
思わず二人に抱きつきたくなる。それから、艦に戻ろうとした時だった。
「あら、終わったようね」
聞きなれた声に光近はその声のした方向を見る。そこには、宗谷真霜三等監察官がいた。
「どうも、宗谷さん、おひさしぶりです」
「お久しぶりね、光近君、それでどうだった?」
「まぁ、予想通りってところですかね?」
手振りでそんなことをいうが、彼女の方が年上だ。
「ふぅーん、さて、それでなんだけど、ちょっと二人で話をしたいの?いいかしら?」
「話?えぇ、かまいませんが」
霧島と不知火が警戒する。
「二人とも問題ない、先に戻っていてくれ」
「わかりました」
それを言ったのは不知火だった。
「悪いな」
そういうと、その場を去る二人。
「さてと、ちょっと執務室にいきましょ」
「はい」
二人を見送り、彼女に連れられ彼女の執務室に向かった。執務室に入ってみるが、特にこれといったものはなく、中はいたって普通の執務室だった。
「さてと、どこから話せばいいのかしらね~?」
光近は出されたお茶に口をつける。
「・・・なんかあったんですか?」
「ちょっとね~ねぇ~光近~」
彼女の口調が変わる。こう呼ぶ時は今がプライベートだという事だ。
「なんですか、真霜さん」
「これから家族だよ、っていったら驚く?」
ブフゥ!!
思わずお茶を噴き出しそうになる光近。
「ま、真霜さん、どういうことですか!?」
「アッハハハ~まぁ、半分ホントに近いんだけどね~」
「詳細を教えてくださいよ」
「いやね~実は、委員会からね光近の事について話が来てね~それで上がったのが戸籍どうするのかという事だったのよ」
「・・・戸籍、できないんですか?」
「艦娘ちゃんたちはね~けど、問題は光近でね、そんでどうなったと思う?
いきなり腰を折ってくる真霜。
「・・・人質として、俺がどこかの家族に入ることになったと?」
「Yes,そういうこと、そんで何処の家族になったと思う~?」
両肘を執務室の机について、ニマニマとした顔でこちらを見る真霜。どう考えても、いいたいことはわかっているのであえて
「もしかして、平賀さんのところとか?」
「・・・・・・本気で言っている?」
「すいません、もしかして真霜さんのところですか?」
「もっちろーん!」
似た感じで何処存の一番艦と全力でネタをかぶせてくる真霜。そして、彼女は執務室の椅子から立ちあがり
「光近~家族だよ~家族ぅ~」
思いっきり抱きついて抱きしめてくる。どうやらよほどうれしいらしい。
「ちょ、真霜さん!?こんなところ見られたらどうするんですか!?」
「大丈夫よ~その時は口封じに沖縄に飛ばすから」
「エグッ!?」
「そんなもんよ~というわけで、行くわよ~」
「え、ちょ、え・・・どこに?」
まさに問答無用といわん顔。そして光近はとあるところに連れて行かれることになったのである。
「・・・Oh」
目の前にある表札は、ブルーマーメイド安全監督室の表札ではなく、宗谷家という表札だ。
「(にしても、屋敷デカ!?)」
どこぞの家族の比じゃないくらい広い屋敷だった。